高校デビューは難しい

作者:木乃

●西園寺・姫華の憂鬱
 その少女はごく普通の家庭の、ごく普通の両親の元に生まれた、どこにでもいる女の子。
 生活に目立った悩みはない。学校生活も不満はない――ある『一点』を除けば。
「……はぁぁ、もう嫌になるなぁ」
 少女の名は西園寺・姫華。
 華やかな名前に反し、三つ編みに眼鏡をかけた大人しそうな文学少女だった。
 ――放課後の閑散とした図書室で、大きな溜め息を吐く少女に、女の影が迫る。
「なにかお悩みでも? よければ聞かせて欲しいわ」
 突然、声をかけられ慌てる姫華だが、真面目そうな銀髪少女の優しげな微笑みは彼女の心を解きほぐした。
「……今日、友達に『姫華ちゃんって名前の割に地味だよね』って……『名前は派手なのに』とか、名前負けしてるとか。悪気がないのは解るけど、自分でも解ってるのにっ!!」
 心ない指摘を受けたことが姫華の心を傷つけていた。
 憤慨する姫華の心は無防備。謎の少女は言葉巧みに姫華の思いを誘導していく。
「あなたはどんな風になりたいの?」
「美咲ちゃんみたいにギャルっぽかったら言われないと思うけど……全然似合わないし」
 お金持ちのお嬢様は無理でも、ギャルっぽい感じなら出来そう――と。実践したが見事失敗したようだ。
 何度目かの溜め息を吐く姫華に、微笑む少女の目つきが変わる。
「だったら……奪えば良いわ。こんな風に」
 その一瞬、姫華の胸を鍵が貫く……溢れる虹色の煙は次第に人の姿を成していく。
 つけまつげと濃厚なアイシャドウ。だらしなく着崩した制服と、校則通りのハイソックス。お下げ頭と色黒のチグハグ姿のドリームイーター。
 奇抜な姿のドリームイーターは、銀髪の――フューチャーに見向きもせず、図書室を後にする。
 廊下の先には、マスコットだらけのスクールバッグを提げたギャル3人……その中には美咲の姿もあった。
「…………ヨ、コ、セエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
 獣じみた雄叫びをあげ、ドリームイーターは理想の自分を求めて襲いかかる――。

「日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたようです。ターゲットは多感な年頃の高校生達。ドリームイーター達にとっても『強力なドリームイーターを生み出す素材』として、着目したのでしょうね」
 新たな動きを見せるドリームイーターについて、オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は自身の見解を述べる。
「今回狙われたのは『西園寺・姫華』という少女です。理想と現実のギャップに悩んでいるところを狙われたようですわね。被害者から生まれたドリームイーターは、非常に強力な能力を有しますが、この悩みの源泉たる『理想の自分への夢』が弱まるような説得が出来れば、弱体させることが可能でしてよ」
 『今のままでも魅力がある』だとか、『あなたの魅力を活かさなければ意味がない』など、励ましたり諭すような説得が有効だろう。
「うまく弱体化させる事が出来れば、戦闘を有利に進められますわ。被害が出る前にドリームイーターを倒してくださいませ」

 事件は学校内で発生し、姫華から生まれたドリームイーターは1体で行動する。
 予知によると、図書室前の廊下に居合わせた、少女達3人が襲われてしまうのだという。
「西園寺様は『名前負けしないくらい、派手でオシャレになりたい』という悩みがありましたわ。襲われる少女達もいわゆる『ギャル風』の明るく目立つタイプの少女達、特に『美咲』という少女がターゲットにされていますわよ」
 だが、ドリームイーターは真面目な姫華の性質も受け継いだのか。
 三つ編みヘアや靴下の丈はそのままでありながら、濃いメイクと制服を着崩した統一感の欠片もない。
「派手であればオシャレと言う訳ではありません。メイクや服だって、カラーバランスやテクニックなどが必須、つまり勉強が必要です。それに可愛らしいお名前に引け目を感じる必要もないでしょう? 説得する予知はこの辺りにあると思いますわ」
 さすが美貌を追求するサキュバス、重みが違う。『オシャレは一日して成らず』と断言する。
「ケルベロスが割り込めば、ドリームイーターはケルベロスを優先して攻撃しますわよ。ドリームイーターはつけまつげを直すと何故か命中率が向上するようで、さらに伸びきったフレンチネイルで切り裂いたり、スクールバッグからコスメやファッション雑誌を投げつけて耐性状態を解除しますわ」
 ただしドリームエナジーで作った模造品なので、バッグの中身の持ち帰りは厳しいだろう。
 ケルベロスが気を引いている間に、少女達も逃げだすことが予想されるので十分に引きつけたほうが良さそうだ。
「説得すれば弱体化させられますが、あまり説得の言葉が強すぎると『理想の自分にならなくていい』と自分を変える努力はしなくなる可能性があります。ですが『無理する必要はない』と思うのでしたら、いっそ断ち切って差し上げるのも優しさですわ」
 ケルベロス達の説得次第で姫華の感情も変わるだろう、と言ってオリヴィアは締めくくった。


参加者
アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
鳳・火鈴(暴走爆走すちゃらか娘・e40571)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)

■リプレイ

●理想、夢想、思想
「な、なにあれ……特殊メイク?」
 美咲達の顔が引き攣るのも無理はない。
 夕暮れ時の図書室から現れたのはあまりに奇抜。あまりに珍妙な生徒らしき姿。
 現実離れしたクリーチャーの出現に、頭が追いつかないのは一般的な反応だ。
「――……ヨ、コ、セエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
 故に。『襲われる』と理解しても、身体はすぐに動かなかった。

 ――――振り下ろされる凶刃の前に飛び込んだのは、柴犬ほどの小さな影。
「ギルティラ、そのまま前衛で援護を――美咲さん達は早く離れて!」
 自身のボクスドラゴンに指示を送り、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)は凜とした風を吹かし、得物を構える。
 空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)とアリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)のビハインド、リトヴァも壁を作るようにして立ち塞がった。
「……行こう。華空」
 残霊の少女を伴い、愛槍を突き、凪ぎ、振り下ろす連撃に弾幕の嵐が加勢し、暴れ狂う激情の化け物をさらに奥へと押しやっていく。
 隙ができるとバリケードのようにケルベロス達が美咲とドリームイーターの間を埋めていく。
「ケルベロスライブ、出張ゲリラデス! イェーイ!」
「ここは戦場になるぞ。さっさと帰ったほうがいいぜ」
 高らかに名乗りをあげるシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)と真逆に、鈴木・犬太郎(超人・e05685)は簡潔に要件だけ述べ、鉄剣に獄炎を纏う。
 ソラネの防具効果を受ける美咲らは顔を見合わせると、急いで反対方向に走りだす。
「あとは、これを設置して……!」
 アリッサがキープアウトテープで封鎖する間、シィカが残霊の少女達と高らかに歌いだす。
「レッツ、ドラゴンライブ……スタート!!」
 校内中に響くほどの絶唱――ガールズロックによる鼓舞に名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)の戦意も高揚していく。
「鬼テンアゲじゃん? いっちょ気合いれてくっしょ!」
(「今度は学校を狙うとは、どういう了見ですかしら……?」)
 ガジェットを展開させる玲衣亜を援護するように、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)は砲撃で動きを阻害にかかった。
 ドリームイーターの目論見に疑問を抱くが、西園寺・姫華から生まれ落ちたドリームイーターはお下げ髪を振り乱し、蜘蛛じみた動きで狭い廊下を這いずり回る。
「今日はコーデ勝負……じゃないけど、オシャレでも負けないよ!!」
 ナチュラルメイクで活発な印象のコーデでキメた鳳・火鈴(暴走爆走すちゃらか娘・e40571)も、ドリームイーターに負けじと、壁や天井を足場にインラインスケートで滑走する。
 炎を纏う大鎌でスカートを切り裂くと、お返しとばかりに伸びきったネイルで頬に引っ掻き傷をつけられ、追撃の二撃目をギルティラが体当たりで強引に阻んだ。

 ドリームイーターは人間性も理性も感じさせない、生真面目な少女の抱える激情そのものだった。
 ソラネの飛ばすドローンが所狭しと散開し、それを払い落とすようにバッグの中身がぶちまけられる。
「ウウウウゥゥウゥゥゥウウウゥゥゥ……!!」
「見た目通りの怪物ぶりだな――なりたかった姿を良く見てみろよ、その姿が嬉しいか?」
 懐から取り出した鏡を犬太郎は羨望の化身に向けるが、目を向けられることなく、投げつけられた雑誌や化粧道具に粉砕される。
 このドリームイーターは『理想と現実の悩み』を露悪的に実体化させたもの。
 悪意ある顕現体。それだけに欲を満たすことが最優先だろう。
 必要とされるのは『姫華の悩める心を慰める要素』だ。
「理想を胸に秘めることは大切だけれど、夢や理想は、一歩ずつ努力して叶えるから意味があるのではないかしら?」
 他人から奪った美貌で自らを誇れるのか? ――アリッサはルーンを描きながら問うた。
 ミルフィの呪詛を纏う太刀をいなし、猿のような挙動で手足で着地する有様は瀟洒とは言い難い。
「誰かの真似をして、背伸びして、無理に今すぐ理想を手にする必要はないわ。オシャレになりたいならば道はひとつではないと思うの……『華やかさだけが女の魅力ではない』ものよ」
 十人十色というように、全く同じ魅力をもつ人間はそういない。
 アリッサと近しい結論にシィカも達していた。
「本当に大切なのは『今の自分の魅力』を活かして『高めること』デス! それがなければ名前勝ちしても意味ないデス!――目指せ、真のロックデス!」
 飛び出す雑誌の数々を竜爪で切り裂く勢いのまま、シィカは遠慮無しに攻め込んだ。
 スカーフを引き千切られながらドリームイーターはミルフィに飛びかかり、振りかぶった鋭利な爪を無月が星天槍の柄で受け流す。
「まず言わせてもらうとね、『地味が派手を目指す』のは、難しいよ」
 頬を濡らす血を払い、無月は体勢を立て直す少女の化生に断言する。
「外見は……もっと練習すればなれるかも、だけど。 派手さって、外見だけじゃなくて、性格面の適正もあるよね」
 無理して自分を偽ったところで、余計に苦しいだけ。
 淡々と言葉を並べ立てる傍ら、ギャル代表格の玲衣亜も手投げ弾で凍結させながら唸り声を漏らす。
「ま、アンタがどこ目指すのも正直自由だよねー……でもでも、何となーくで目指せるほどギャルも甘くないと思うかなー」
 流行りモノは要チェック。ファッションやメイクも研究不足じゃ、チンチクリンの変な奴だし?
「あと、普通に先生にも怒られるかんね!」とも付け加える。
 玲衣亜の杭打ちガジェットを力任せに払い、再びバッグの中からマニキュアの小瓶やらファンデーションのケースが飛び出す。
 額にぶつけられ眉を寄せるが、玲衣亜はそれでも言葉を続けてみせた。
「ぶっちゃけ『なりたい自分になる以外の努力』って苦痛だと思うし、名前と中身がどうとか気にしなくて良いんじゃね? マジでギャルやりたいなら手伝うけど、別に控えめでも良いと思うけどなー」
 その辺りはどうなのか。気になるところだが、やるなら『自信が持てるスタイルがいい』
 それが玲衣亜なりの答えだ。
「姫華ちゃんなら解るよね、『輝くためにはどんな素材でも磨かなければ光らない』って!」
 火鈴は叫ぶ。
 ダイヤモンドの原石だって、研磨しなければ見た目は石ころ同然だと。
 つけまつげを直しだす夢喰らいに、火鈴が炎弾を放ちながら背面に飛び越える。
 掠めて三つ編みがほどけるのも構わず、返り血まみれの爪を絶え間なく振り抜いた。
「シンデレラの前に魔女が現れたのは、それまでどんな苦難でもくじけなかったから。卑屈にならなかったから報われたんだよ! 姫華ちゃんだってシンデレラになる権利はあるんだから!」
 爪撃から逃れようと火鈴は後退するが、動きに合わせて追撃するドリームイーターに、犬太郎が横槍代わりの一撃で壁に叩きつける。

 衝撃で窓ガラスは騒音と共に、生じた破片で廊下中を埋めていく。
(「チッ、中身は女だからって手は抜いちゃいねぇが……!!」)
 傷はいくつも増やせれど、弱まったようにあまり感じられない。
 ――解を導き出そうとする犬太郎の疑問は羨望の怪物に妨げられ、割って入るリトヴァが大きく引き裂かれながら消失していく。
「フウウゥゥ――アアアアアアアアアアァァァァアアアアア!!!」
 虹色の靄を噴き出すドリームイーターは裂傷をモノともせず、伸びきった爪を激しく振り回す。
 滅多斬りする爪先にギルティラの外殻も削がれ、ミルフィが追って飛び蹴りを食らわす続け様に七つの妖刀を顕現させる。
「忌まわしきこの七振りの凶刃にて――咬み千切り、斬り裂く……!」
 瘴気を纏う七太刀が着崩した制服を、きっちり揃えた三つ編みやソックスを斬り捨てる。
 その間に、姿の揺らぐサーヴァントに向けてアリッサが詠う。
「Hen le ariet, cus Ren le ariet――奏で、詠い、響き、廻れ」
 舞い散る淡紫の薔薇。花びらの幻影の中を突っ切るようにソラネが駆る。
(「なんでしょう? あのドリームイーター……怒っているようにも感じますが」)
 吼え猛る中に『なにか』を感じるが、考えるより先に一太刀入れることをソラネは優先する。
「王には冠を、剣には牙を、この王剣に――迷いなし」
 視界を補正するつけまつげを落とそうと、西日を受ける剣閃が右目ごと斬り飛ばした。
 痛烈な叫び声をあげ、右目を押さえる苦悩の獣にソラネは語りかける。
「一人ひとり、似合う服が違うように、『派手が絶対とは限りません』 想像の範囲で申し上げますが、西園寺さんに美咲さんのような派手な服装は少々違和感がありますね」
 元に戻ったら似合う召し物を繕うことも出来る――と提案するが、拒絶するように振り下ろした一撃をギルティラが身代わりに受け止め、姿を消していく。
「姫華様、悪夢に呑まれてしまっては……いけませんわ……!」
 ミルフィが彷彿としたのは怒り狂った獣。
 縄張りを荒らす不届き者を容赦なく始末しようとする、孤独なケダモノ。
「派手さばかりにこだわっているようだけど、清楚系とか、クールビューティーとかをお勧めするよ。髪をポニーテールにするだけでも、そんな雰囲気になると思うし」
 長槍と星龍砲を巧みに手繰り、ドリームイーターの猛攻を凌ぐ無月は説得を続け――ミルフィはハッとする。
「姫華様は名前の『華やかさ』に反し『見た目は地味だ』と言われ、傷ついていらっしゃるのでしたわね」
「……あーね、そーいう無神経な奴とかアタシだってMK5だわ」
「気にしてた部分を指摘されて悩みが肥大化した、ってことか……年頃の女心は解んねぇな!」
 想像してげんなりする玲衣亜も、犬太郎も説得への反応が薄いことにようやく合点がいった。
 悪意なき言葉。無自覚の失言――現状を理解する姫華を苦悩させた根源にして、最大の要因。
 複雑かつ繊細な乙女心は『現実的過ぎる言葉』を受け入れられなかった……裏をかえせば、姫華本人は自身の持ちうる魅力に気付いていない。
 ミルフィは一呼吸置いて、
「華やかさに目移りするお気持ちは同意します……しかし、『姫華様の清楚さ』は少なくともわたくしにはないもの。派手さとは相反するものですが、魅力的に存在するものですわ……!」
 今ある魅力を自覚して欲しいと訴える。
 ――そこで初めて、ドリームイーターが一瞬止まった。
「只、違う自分を見つけようというお気持ちも宜しいと思います。その為に努力をする事もまた大切……」
「思い詰める必要はないわ、もう一度自分と向き合ってみて」
 アリッサの振りまく花の舞が一面を彩り、再び動きだすドリームイーターが火鈴に飛びかかる。
(「悩める思春期の女の子をそそのかして、力だけ与えて終わりなんて……そんな無責任なやり方――」)
「許せないんだから!!」
 オシャレ着をボロボロにされながらも火鈴はオーバーヘッド気味に蹴り飛ばし、歪んだ窓枠にぶつけていく。
 離脱するすれ違いざま。無月が矢のように飛び出し、シィカがブラックスライムを腕に纏う。
「つけまのし過ぎは目の毒デース!!」
 シィカの射出したカプセルは炸裂と同時に対デウスエクス用ウイルスを散布、立ちこめる細菌の煙に無月が刺突の乱れ突きで追い込んでいく。
 もはや洒落っ気のしゃの字もないほど、虹の靄にまみれるドリームイーターだが、殺気立つ眼差しは衰えていない。
「パクったって納得できなきゃ意味ないっしょ? 分からず屋には……ひっさーつ、マジ卍パーンチ!」
 ゆらりと動く影に、パイルバンカーへ変形させたガジェットで玲衣亜が渾身の一撃を鳩尾に叩きこむ。そしてミルフィとソラネの援護射撃がさらなる妨害をかけた。
「ウゥ……ギィィィ…………!!」
「理想の自分への夢は持ってもいい、だが道を踏み外すのは大人として見逃せねぇ」
 鬼の形相を浮かべる苦悩の化身に犬太郎が拳を構える。
 全神経にグラビティ・チェインを巡らせ、脳細胞を限界点まで活性化していく――。
「こいつぁケジメの一撃だ、俺のたった一撃を全力で完璧にお前にブチ込む――!」
 爆発的なまでに高めた地獄の炎と、降魔の力を拳ひとつに融合させる。
 ――――踏み込む所作に合わせ、衝撃が走った。
 散らばるガラスは正拳突きが直撃した瞬間、目標物と共に吹き飛ぶ――極彩色の靄を放つドリームイーターも衝撃波と共に夕闇の中へ消えていた。

●幻想、感想、無想
 シィカ達は協力して周囲を修復し、図書室を覗き込むと机に突っ伏す姿がひとつある。
 火鈴達が入ってきた気配を察したように起きた姫華は、寝ぼけ眼で辺りを見回す。
「――具合、悪くないですか?」
「…………派手さは合わないって言われる夢を、少し……自覚しなさいって啓示なんでしょうか」
 事情説明するソラネに、姫華は浮かない表情をしていた。
 単に『合わない』とだけ伝えては、真っ向からの反論に近しい。
 魅力向上の手伝いを申し出るのは、かえって落ち込ませてしまいそうだ。
(「他人の悩みを理解するって、難しいですね……」)
 高校生活の記憶。正しく着こなされた制服と黒髪は少女特有の清純さを感じさせるが、それすら覚えがないもの。
「……別に今すぐキレイにならなくてもいいんじゃないか」
 ボソっと呟いた犬太郎は気恥ずかしいのか、視線が集まる前にそっぽを向く。
「若い内は派手さに目が眩むってことよ、貴方の魅力はこれから見つけていけばいいの」
 照れる青年に代わってアリッサが補足するが、その心中は複雑なもの。
(「なんて……夢なきわたしが、夢を語るのも少々滑稽かしら」)
 それでも野に咲く白百合も、庭園に綻ぶ赤薔薇も魅力はそれぞれ。
 せめてそれを忘れないで欲しいと願う。
「ねーねー!?姫華ちゃんならガーリーとか、プレッピー?な感じも似合うと思うんだけどどう――」
「はいそこストーップ!」
 ファッション雑誌を片手に飛び込む火鈴を玲衣亜がチョップで制止、そんなやりとりに姫華もクスと頬を綻ばせた。
「もう下校時間じゃないの? 暗くなる前に帰ったほうがいいと思うけど」
 無月の言葉に姫華は時計を見ると慌てて飛び出していった。
 そんな背中を見送りながら、ミルフィは彼女の心情を案じる。
(「……後は、彼女のお心次第ですかしら……」)
 このひとときは理想と現実の狭間から解放された――――彼女がそう感じてくれていたら、と。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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