いちご農園。
それは、いちごの楽園。いちごを愛で、いちごを収穫し、いちごを食す。いちご好きならずとも、幸せを感じる空間であろう。
その日、大阪のとあるいちご農園を、オープン時間前に訪れたのは、一風変わった女の子……甘菓子兎・フレジエだった。
2体のストロングベリーをバックダンサーに、謎のダンスを披露しつつやってきたフレジエは、手近ないちごをもぎ取ると、ぱくりと口に運んだ。
「っ」
フレジエが、顔をしかめた。
興味を失ったように、ぷいっ、といちごに背を向けると、
「このいちごは、私にふさわしくない出来栄えですぅ。必要ないから、めちゃくちゃにしちゃってくださぁい」
フレジエから下されたわがまま命令に従い、ストロングベリー達は破壊活動を開始したのだった……!
「事件はいちご農園で起こります!」
集まったケルベロス達を相手に、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が力説した。
「爆殖核爆砕戦のあと、攻性植物達は大阪城周辺に抑え込まれていました。ですけど、大阪市内への攻撃を重点的に行おうと、動き出しているみたいなんです」
大阪市内で事件を同時多発させる事で、一般人を退避させ、大阪市内を中心とした拠点を拡大させる計画だと想定される。
「このままだとゲート破壊成功率もちょっとずつ下がっていってしまいます。それを防ぐ為には、敵の侵攻を防がないとダメです!」
今回現れるのは、甘菓子兎・フレジエ。配下のストロングベリーを連れ、大阪府近郊のいちご農園へと何らかの目的でやってくるようだ。
ケルベロスが接触できるタイミングは、フレジエが帰ってしまった後、ストロングベリーが、いちご農家に襲い掛かる直前となる。
ねむによれば、敵となるストロングベリーは2体。頭部が苺型で、体はそれなりにムキムキという、ちょっとアレなビジュアルだが、その辺りは気にせず対処して欲しい。
片方がクラッシャーで、片方がスナイパーだ。
攻撃手段は、2体とも共通。自慢のストロングな肉体を、捕食、埋葬、光花の3形態に変化させ、毒や催眠、炎でケルベロス達を痛めつけてくる。
現場となるいちご農園は、営業開始時間前であるため、いちご狩りの客などはいないが、スタッフには気を配るべきだろう。
「結局フレジエは、おいしいいちごを探しに来ただけなんでしょうか? わからない事もありますけど、事件を放って置くわけにはいきません。阻止しちゃってください!」
参加者 | |
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篁・悠(暁光の騎士・e00141) |
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386) |
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843) |
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154) |
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920) |
朧・遊鬼(火車・e36891) |
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330) |
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) |
●いちご畑のマッチョ植物
フレジエの命令に従い、2体の筋肉植物……もとい、ストロングベリーがいちご畑の破壊に取り掛かろうとしていた。
「ちょっといいですか? 営業時間前に勝手に入ってこられると困るんですけど……って」
農園のスタッフだろう、いちご柄のエプロンを着けたお姉さんが、2人組に声をかけた。
だが、同時に振り返ったベリー達の顔を見て、お姉さんは硬直した。
「化けいちご……!」
見つかったら仕方ねえ、と言わんばかりに、ストロングベリー達はお姉さんに迫った。ピンチ!
「待ていッ!!」
ストロングベリーの前に現れたのは、人々に救いをもたらすもの……そう、ヒーローだった。登場から最高潮、最終決戦モードとなった篁・悠(暁光の騎士・e00141)である。
「ケルベロス到着ですー畑から逃げてー!」
ダッシュしてきた熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)が、お姉さんに声を投じた。
「畑荒らしとは感心せぬなぁ? 苺頭の癖に苺嫌いか?」
朧・遊鬼(火車・e36891)の挑発を受けたストロングベリー達は、ムキー! と怒り、そちらへと向かった。
まんまといちご畑から引き離されていくストロングベリーを見て、「助かった……!」と安堵するお姉さんを、泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)が保護した。既に、他のスタッフには事情を説明済みだ。
仲間が敵を牽制してくれている今がチャンス。ダイナミックモードでナース治療アーマー姿になった蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)が、他のスタッフ共々、お姉さんを避難させる。
「後は私達に任せてね!」
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)が、送り出したお姉さんやスタッフに安心するよう促した。
おい待て、と身を乗り出したストロングベリー達だったが。
「どこ、行くの。あなた達の、相手は、じゅーぞー達、だ、よ」
お姉さん達が安全圏に逃れたのを確認して、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)が大太刀を抜くと、抑えていた殺気を解放した。人々を、危険に巻き込まないように。
「イチゴ美味しいのに……自分が気に入らないだけで廃棄とは許せませんわ」
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)のフレジエへの怒りと、命令を邪魔されたストロングベリー達の怒りが、虚空で見えない火花を散らす。
そしてベリー達は、
「フンッ!」
「ハッ!」
ボディビルダーよろしくポージングを決めた。
●物騒ないちご狩り
「首から下が逞しすぎるだろう」
見ろやこの肉体美、と己を誇示するストロングベリー達に、遊鬼は正直な感想を口にした。
「ともあれ、せっかく実った苺畑を荒らすとは……フレジエとやらは相当の我儘だな」
「その配下が人型のイチゴとは、これまた奇抜かつ面白いデウスエクスじゃないカ。じっくり観察したいところだが」
にい、と笑ったアルタが、ガジェットを構えた。
「それは戦いながらやるとしよう」
そっちがその気なら。ストロングベリー達も、大胸筋をぴくぴくと動かして臨戦態勢。
「……残念だが貴様達の望みが叶うことはない。鉄の木が花を咲かせる事はない。我々が今ここでそれを阻むからだ。……ありえざる可能性、人それを、『鉄樹開花』と言う!」
悠が、ばちりと音を立て、雷をまとう。
「イチゴ、とっても美味しそうじゃない? それに好みの味じゃないからめちゃくちゃにする、なんて。農園の人達にそんな酷い事、させないよ」
強い視線を向ける涼香とウイングキャットのねーさんへと、どすどすと襲い掛かるストロングベリー。その注意を逸らしたのは、まりるである。
「ヘイヘイ、そのマッチョな肉体でこっちを狙いたまえー、避けるけど!」
……ただし、絶妙に相手から距離を取りつつ。
まずは涼香が、ケルベロスチェインを振るった。ねーさんの羽ばたきと、鎖で描かれた紋様からの加護が、仲間達の抵抗力を高めていく。
突撃してくるベリー達に備え、怜奈が杖を振るった。ほとばしる雷撃で、味方の前に防壁を構築する。
「催眠とか厄介ですし、保険ですわ」
「怜奈! 牽制は任せる……」
「任されましたわ♪」
背後で怜奈がうなずいたのを了解し、壬蔭が前に出る。
「まずは、前に、いるの、からだ、ね」
眠たげな表情の十三が刀を構え、駆けた。皆の狙いは、クラッシャーを務めるベリーだ。
「その首、もらう、よ」
宣言と同時、閃く刃。クラッシャーベリーの首筋から、体液が噴き出す。
傷口を押さえよろけたクラッシャーを、スナイパーが支えた。
「これ初めて使うから、当たり所が悪くても泣くなよ!」
敵の麗しい友情をスルーして、まりるがバスターライフルのトリガーを引いた。光弾はまさに容赦なくクラッシャーを貫くと、グラビティの力を減衰させた。
するとクラッシャーが、ぱああ、と己の筋肉を輝かせた。ギザギザ口から放射された光が、まりるを焼き払う。
「炎を使ってくるとはなんて奴だ。植物のくせに」
ビームと筋肉に因果関係もなかったし。
何にせよ、食べ物を粗末にはさせない。壬蔭が敵の死角から、技を繰り出す。神速の蹴りをクラッシャーのみぞおちに食らわせた。頑健な筋肉も、その威力には、防壁としての役目を為さない。
ケルベロスの攻勢に対し、スナイパーも反撃した。腕を食虫植物のように変えると、十三の腕に噛みつかせた。食い込んだ歯から毒が注入される。
だが、遊鬼のナノナノ・ルーナのバリアが、ダメージを軽減させてくれた。刀を突き立て、相手がひるんだ隙に、十三は離脱した。
つかず離れずの距離から戦況を把握しつつ、アルタは、ストロングベリーの生態についても観察していた。自分の力が必要とあれば、自らを包むオーラを回復力に転化させ、仲間達の傷の治療にあてる。
味方が攻めたてている間に、遊鬼が敵の視界から外れ、後方に回り込んだ。そのたくましい背中に傷を刻む。その複雑な太刀筋は、ベリーにかかる重圧を増し、火勢を強めた。
クラッシャーが次の攻撃に移ろうとした時、上方から飛び込んできた悠が抜剣。その斬撃が、敵を薔薇型の氷へと閉じ込める。
「幽冥の果てで散れ! 受けよ! 闇を貫く氷晶の薔薇――ッ!!!」
返す刀で、打ち砕く。舞い散る氷が、きらめきに変わる。
「成敗!」
氷と共に破砕されたクラッシャーが、爆散した。
●物騒ないちご狩り、2粒目
同朋を失った悲しみをポージングで表現していたスナイパーへ、まりるが疾駆した。
未来に向かってハイジャンプ! 可能性を無限に秘めた突撃が、スナイパーを空へと舞い上げた。
敵が空中でもがいている今がチャンス!
「ジャスティーンGO!」
『もきゅーッ!!』
悠の合図に従い、額にVマークがついたモルモット風の小動物が射出された。弾き飛ばされ、墜落したベリーだったが、地面を踏みしめ、何とかとどまる。
「辛そうだな……ご主人様はもう居ないし、終わりだな」
肩を上下させ余裕のないスナイパーに、壬蔭が拳を振りかぶった。
来い、と待ち構えるスナイパーベリーの眼前で、拳が超加速による衝撃の輪を生んだ。同時に、摩擦で発せられた炎にひるむ敵。だが、容赦はせず、灼炎の拳が緑の体を打ち付けた。
壬蔭の視線を受け、怜奈の長い銀髪がふわり、逆立った。能力解放により増幅された静電気によるものだ。それは突風と共に周囲の大気をかき乱すと、スナイパーを巻き込む嵐となった。
地面に叩きつけられるスナイパー。しかし悠が仲間に警告を飛ばした。スナイパーがそのまま地面と融合し始めたからだ。
ベリーの一部となった地面が隆起し、中衛のケルベロス達を巻き込み暴れ回った。
融合を解いたスナイパーは、攻撃に満足げ。だが。
「えっえーっ、今のが本気の攻撃? 歯応えなさ過ぎですわ」
「…………」
怜奈に一笑に付されたスナイパーがうなだれている間に、アルタが負傷者を手招きした。
「さ、この注射器で混沌水ぶっかけるからこっちきてー。ついでに暴走特徴見せてー。大丈夫変なことしないから」
いやそれ怖い。
などと言っているうちに、混沌なる水はモザイクとして負傷者の体を覆った。ほーほー、と目を凝らして観察するアルタ。その目には幻像の向こうに何やら見えているらしい……。しかし、治癒効果はバツグンだ。
一方、前線では、涼香とねーさんがスナイパーを追い込んでいた。幻竜と肉球パンチの二重奏が、左右から炸裂する。
「!?」
引火部分を手で払っていたスナイパーが、びくんとけいれんした。
見れば、ルーナの尻尾が、スナイパーの首筋に刺さっていた。それを引き抜こうとしたスナイパーは、見た。青い鬼火が、遊鬼の周りに現出するのを。
鉄塊剣『刹鬼』に宿ったそれは、切り裂くと同時にスナイパーを凍結させた。
戦いを経た十三の口元には、いつしか小さな笑みが浮かんでいた。内に秘めた殺りく衝動がにじみ出てきている証だ。
高まった殺意を研ぎ澄ませ、刀に宿る力を解き放った十三は、氷かけのスナイパーと交錯する。
命脈を断たれたスナイパーは、ぐらり、前のめりに倒れると、爆発四散。灰と化したのであった。
●ベリータイム!
それから一同は、戦闘区域の修復や後片付けを済ませた。ストロングベリー達の灰では、畑の肥やしにもなるまい。
幸いにも、いちご畑には被害はないようだ。お姉さん達スタッフを呼び戻し、一件落着を確かめた壬蔭は、ふと振り返り、緊張気味に言った。
「ええと、涼香さん、ねーさん、イチゴ狩りでも一緒にどうだろうか?」
「ん、一緒にいこう。ねーさんおやつだって!」
涼香が嬉しそうに答えると、ねーさんも尻尾を振って応えた。
そして、皆もまた、いちご狩りを始めた。お姉さん達が、摘み方や良いいちごの見分け方などをアドバイスしてくれる。
しげしげといちごを見つめつつ、アルタはよきところを、そっ、ともいで口に運ぶ。
「ほうほう、これは」
「なんだこの苺、甘くて旨いな!」
ちょこん、と肩にルーナを乗せた遊鬼が、笑顔をこぼした。
「やはり苺頭を狩るより、此方の苺狩りの方が良いな」
『いちご狩り』というワードの力強さとは裏腹の、和やかな時間が流れていく。
「うーん……甘酸っぱくて美味しい。練乳付きも良いけど、そのままでもすっごく美味しい」
舌鼓を打つ涼香。その傍らに寄り添った壬蔭が、赤々と生ったいちごを示した。
「このイチゴ……色も形もとてもいい感じだと思うんだけど」
「わ、中々の美人さん。あっ、こっちも赤くて美味しそう……食べてみます?」
涼香からのお返しを頬張る壬蔭。
「うん、イチゴとても美味しいな……」
殺りく衝動が鎮まるまで皆から離れていた十三も、いちごを頬張っている。
「おいしい……スイーツ、とかも、あるんだ、ね」
十三が視線を向けたのは、いちごカフェだ。
いちごの味見を終えた怜奈は、カフェの一角に設けられた販売スペースへ足を運んだ。御土産のイチゴジャムを探しに。
早速、ジャムの試食をいただく。
「あっ、苺の食感が良い感じ。この間のイチゴジャムと味比べとか……いいかも♪」
ひとしきりいちご狩りを堪能した皆は、カフェに場所を移し、いちごスイーツを楽しむ。
まりるは、和スイーツメニューの豊富さに目移り中。いちご大福、いちご水饅頭、いちご団子、いちご&生クリームどら焼きに、いちごクリームあんみつ……まさに桃源郷。いちごだけど。
とりあえず、いちごと抹茶のパフェから攻略開始。
パフェを口に運ぶ悠。先ほどのもぎたてのいちごもいいが、こうして料理されたものも良い。スイーツピザもいいかもしれない。
そして、いちごを堪能したケルベロス達は、スタッフ達に見送られ、農園を後にした。
助けたお姉さんから、お礼のいちごをお土産にもらいつつ。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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