風の如き刃に狂い

作者:幾夜緋琉

●風の如き刃に狂い
 ゴールデンウィークも終わり、平穏を取り戻しつつある名古屋、栄。
 名古屋地域の一大繁華街であり、出歩く人の数も多い。
 そして朝と夜の顔が切り替わり始める、空が夕陽に包まれた頃。
『……ヘヘヘ。いやがるぜいやがるぜ、屑共がなぁ……!!』
 汚い言葉で吐き捨てる、巨躯の男……エインヘリアル。
 そして突如繁華街に姿を現わすと共に……薄い刃の巨大剣を掲げる。
『に、にげろぉおおお!!』
 と、恐怖に叫び惑う市民の方達に対し、ニタア、と薄ら笑いを浮かべたエインヘリアルが。
『逃げろ逃げろ、そしてブザマに死にさらせやぁ!!』
 と、その剣を大きく振り薙ぎ、周りの人を次々に殺戮していった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂きありがとうございます」
 と一礼するセリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに対し。
「エインヘリアルが、また暴れ出している様なのです。どうやら名古屋は栄にエインヘリアルが現れ、人々を虐殺する……というのが予知出来たのです」
「どうもこのエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪な犯罪者の様で、放置すれば多くの人々の命は無惨にも奪われてしまいます。それに加え、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせる……という事も考えられるでしょう」
「そこでケルベロスの皆さんには、急ぎ現場へと向かって頂き、このエインヘリアルの撃破をお願いしたいのです」
 そしてセリカは、詳しい状況について説明する。
「今回現れたエインヘリアルは一体のみの様です。しかしながら、エインヘリアルが現れるところは、名古屋の繁華街ですし、時刻も夕方で、人数はかなり多い状態の様です」
「一般人の避難誘導と合せて、エインヘリアルは放置していれば勝手に暴れて逃げ遅れた一般人を殺害しようとしてしまいますので、エインヘリアルを足止めしつつ、一般人の避難誘導を行う必要があるでしょう」
「又、このエインヘリアルは巨大な剣を扱う様ですが、その剣は薄刃の剣で、エインヘリアルの筋力からすれば軽く取り回せる事が出来る様です。そしてその剣を力一杯薙ぐことで、風を斬る様な音と共に、風の刃を範囲に及ぼす範囲攻撃を持つ様です」
「当然ながら、その剣を力任せに叩きつけていますので、その攻撃力はかなり高いと言えます。直撃を受けない様に、ご注意下さい」
 そして、セリカは。
「どのような理由があったとしても、一般市民を恐怖に陥れ殺戮を楽しむこの様なエインヘリアルを放置しておく訳にはなりません。皆さんの力を貸して頂きたく、宜しくお願い致します」
 と、深く頭を下げた。


参加者
夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)
カエデ・スカイ(デウスエクススレイヤー・e10221)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)
クライン・ベルブレッド(導く光・e53250)
白岡・黒葉(顔文字で彩るポンコツ傭兵・e53436)
ヘルト・フォールクヴァング(忘失の騎士・e56553)

■リプレイ

●血の涙に
 ゴールデンウィークも終わり、平穏を取り戻しつつある平日のとある一日。
 ショッピングや外食と、訪れる人の目的は様々ながらも……それは日常を回す一輪となり、栄の繁華街を彩る。
 そんな日常を妨げる闇の刃……巨躯を誇るエインヘリアル。
 次第に空が、夕闇に包まれ始める夕刻、その者は現れ、人々を殺戮の宴へと誘うという……。
「全く、夕方から一般の方々はお楽しみタイムだってのに。日々の癒しを邪魔する輩は、馬に何とやらだよな」
 と、何処か飄々とした白岡・黒葉(顔文字で彩るポンコツ傭兵・e53436)が肩を竦めると、クライン・ベルブレッド(導く光・e53250)が。
「馬に……馬に蹴られて、でしょうか? 確かに無粋な真似をする者なのは間違いありませんね」
 真面目に言葉を紡ぐと、黒葉が。
「そうそうーってな。まぁ奴らはどうせそんな事お構いなしなんだろ? 自分の私欲を満たす事しか考えてねーんだしよ」
 不敵に笑……っている様だが、ひらり額に貼り付けられた紙に実際の所は良く分からない。
 まぁ、そんなエインヘリアルを倒してきて欲しい、というのが、セリカからの依頼。
 勿論、周りを見渡せば多くの人が居る、この栄の大通り。
 ここが東海地区の一大繁華街なのは間違い無いだろう。
「本当、街中のド真ん中にとは、また迷惑な所に出て来てくれたもんだな」
 と、往来する人々を眺めてのティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)の溜息に、ヘルト・フォールクヴァング(忘失の騎士・e56553)とエイル・フォールクヴァング(語り手・e56554)が。
「彼らも手段を選んではいられないという事なのでしょうが……しかし、罪なき人々に刃を剥けたその罪は償って頂かないといけませんね」
「ええ。無辜の民を殺さんとする悪人を英雄が討ち倒す……ありふれた筋書きですが、悪くありません。せめて、物語が悲劇にならぬよう、微力を尽くしましょう、ヘルトもいいですね?」
「勿論でございます、主」
 仰々しく、エイルに頭を下げるヘルト。
 そしてカエデ・スカイ(デウスエクススレイヤー・e10221)がぐっ、と拳を握りしめながら。
「人様に迷惑を掛ける奴は痛い目見て貰わないとね!」
 力強く叫ぶと、ティリルもニヤリと笑みを浮かべて。
「ああ。やらせはしねぇ。ちゃっちゃと倒させて貰うぜ」
 と、炎を拳に纏わせて握りしめる。
 ……そして、夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)も。
「ま……暇潰しにはなるかも知れないな……だからと言って、手加減はしないさ……」
 と言うと、あ、そーだ、と言う感じでカエデが。
「それにしても、未だに犯罪者のエインヘリアルが次々と送り込まれてくるんだねぇ。アスガルドはどれだけの重罪人を抱え込んでるんだろ?」
 小首を傾げるカエデ、それにハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が。
「母数が多ければ、それだけ数は多くなるのだろうが……果たして、どうだろうな。しかし……人殺しを厭わない罪という事は、それ以上の罪なのだろうか……」
 無論、アスガルドから地球へと送り込まれているという事は、最早戻る事は出来ない訳で。
 故郷に帰る事を禁止されたのだから、破れかぶれである……という考えも出来なくは無いだろう。
 ……と、何にせよ、周りの一般人を殺させる事は、絶対に防がねばならない。
 そんな不退転の覚悟と共に、ケルベロス達は、セリカより指示された、エインヘリアルの出没地域へと足を踏み入れた。

●風の如く、力を纏い
 そして……栄市街地。
 周りの人々は、エインヘリアルが現れる等と思う訳もなく……極々普通な日常を過ごしている。
 そんな市街地で……。
「我々はケルベロスだ。ここからここは戦場になる。突然の事で理解出来て居ないかもしれないが、落ち着いて我々の誘導に従って避難してくれ。安心して欲しい、あなた達に危害を加えさせたりはしない」
 と、と、力強く、落ち着いた声をあげて、回りの一般人の注目を集める。
 ……そうしていると、程なく。
『ヘヘヘ……うじゃうじゃといやがるぜ、屑共めが。さぁて、俺の剣の錆にしてやろうかねぇ……!」
 剣を構え、ニヤリと笑うエインヘリアル……そんなエインヘリアルの声に市民の方達は悲鳴を上げる。
 そんな市民の方達に、手を上げ大きく振りながら。
「はーい、皆さんこちらに避難だぜー! おはしの『は』は守らないで全力ダッシュよろしくー!!」
 黒葉が避難方向を指示し、扇動する。
 ……勿論、そんな二人の避難誘導に、エインヘリアルは。
『おい、テメェら何邪魔してんだよ! 邪魔すんじゃねーよ!!』
 と怒りに鋭く睨み付けて剣を掲げる。
 が、そんなエインヘリアルの怒りに付き合う事も無く、ハルと黒葉は一般人の避難誘導を継続、併せてエイルも。
「……この声が聞こえた方は、近くの避難誘導を行っているケルベロスの指示に従い、この場から離れてください。ここは危険になります」
 と、割り込みヴォイスを使い、市民の方達の心の中に、避難する様に指示を与える。
 一方、ヘルトは、そんなエインヘリアルの真っ正面に立ちはだかると、一瞥して。
「ふむ……エインヘリアルは古強者の魂から産まれた者だと聞いていたが……貴様は弱者を虐げ、自身の事を強者だと錯覚して悦には入る愚か者の様だな」
 と、大仰な口ぶりで、その自尊心を刺激すると、それにエイルが。
「ヘルト、本当の事とは言え言ってはいけないこともあるでしょう。古強者も千差万別、中にはちゃんと英傑と呼ばれるような者もいます。アレと一緒にしてはそういった方々に失礼でしょう?」
「おお、そうでしたな。主の言う通り、アレはダメな方の特殊な例でしょうな」
 そんな二人の言葉に対し、エインヘリアルは。
『何だとぉ、てめぇら、ふざけた事抜かすんじゃねぇ!!』
 剣を大きく振り回し、怒りを露わにするエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルに、ヘルト、カエデが。
「おやおや……どうやらその様子では図星の様だな。これは失礼な事を言った」
「でもさ、屈強な存在として名を知られているエインヘリアル様ともあろうお方が、無抵抗な人を虐殺するだけしか脳が無いだなんて、一族の中でも相当な腰抜けなんだろうねー? あ、いやいやゴメン。アンタをエインヘリアルと一緒にしたら、エインヘリアルに失礼だわ。プランクトン、いや、単細胞生物? 怒るだけしか出来なさそうだもんねー、受けるー」
 手を叩いて苦笑するカエデに、更に顔を真っ赤にさせたエインヘリアルが。
『チッ、ふざけやがって……てめぇら、ブッ殺す!!』
 と、怒りのままに、その剣を振り回す。
 そんなエインヘリアルの剣戟を、すっ、と躱しながら罪剱が。
「……お前は正直言ってつまらない、面白く無い。見逃してやるから、大人しく何処かに消えろ」
 赤い瞳で、一瞥しながら溜息を吐く。
『アァン!? うるせえ!!』
 更に怒るエインヘリアルだが、罪剱は更に重ねて。
「ただ殺したいからとか、グラビティ・チェインを奪う為とか、そんなくだらない理由はもう聞き飽きた。もっと戦うに相応しい理由を持ってこい」
 と、切り返しに、達人の一撃を叩き込むと、同時にティリルもスターゲイザーの蹴撃を加え、敵を足止めする。
 ……更にディフェンダーのカエデが。
「忍法、我見の術!」
 と『我視の術』で自分への注目を惹きつけると、その横からクラインのマルチプルミサイルと、ヘルトの溜め斬りの一閃を加えて行く。
 そして、エイルはディフェンダー陣に対し。
「ウィリアム・テルの矢は外れない」
 と『英雄譚「ウィリアム・テル」』で、仲間達の命中率を引き上げていくと……丁度、避難させていた黒葉、ハルが合流。
「皆、待たせたな。これより戦線に復帰する」
「バーリトゥードで制限時間無し。敵かこっちかが力尽きるまで勝負ってな!」
 ニヤリと笑い、ルーンアックスをゴング代わりに勢い付く黒葉。
 そしてハルが。
「受け継ぎし刃、その身に刻め。雷神――双滅天光衝ッ!」
 『鏡刃・雷神双滅天光衝』の一閃を流れる様に放ち、黒葉も敵の方へ高くジャンプし、旋刃脚を叩き込む。
 その攻撃を喰らい、グゥォ、っと呻き、跪くエインヘリアル。
 ……すぐに立ち上がり直し、剣を構えて。
『許さねえ……絶対、許さねぇ!!」
 と、怒りに絶叫し、剣をぶんぶんと振り回すエインヘリアル。
 その薄刃の剣を視て、黒葉が。
「へぇー、それが微妙に噂の武器か。中々かっこいいじゃん……が!」
 次の刻に映るなり、即座に黒葉が至近距離へと接近。
「でもよ、俺の方が強えよ!」
 と、ルーンアックスを全力で振り回し、ダブルディバイドの一撃を喰らわせる。
 クラッシャー効果もあり、その一閃に多くの体力が削られる……が、決して降参はしない。
 でも、ケルベロス達の猛攻も、決して緩むことは無く……罪剱がサイコフォース、ティリルが月光斬による連続攻撃を重ねる一方、エイルは「想捧」を奏で、前衛列に対して狙アップの効果を付与。
 そして、ハルは。
「しかし君達は、皆単独で送り込まれるな。一人で出来る事などたかが知れているだろうに。それとも我々は処刑台代わりなのだろうか?」
 と、挑発の意思は無いながらも、傍から聞けば煽る様な言葉を放つハルが、斬霊斬で攻撃。
 そして、カエデは魔人降臨で己に術アップを付与する一方で、クラインは創世衝並、ヘルトがトラウマボールで攻撃。
 無論、エインヘリアルはその薄刃の剣戟で、ケルベロス達に華麗な一撃を食らわせていく。
 しかし……充分なケルベロス達の挑発の結果、頭に血が上って仕舞っている様で、太刀筋はかなり荒々しい。
 当たればかなりのダメージだろうが……。
「ほらほら、隙だらけだよー!」
 と、ひょいひょいとその攻撃を躱しまくるカエデ。
 敢て嘲笑う事で、更なる怒りへと誘い……エインヘリアルは最早憤怒の塊。
「全く、どうもこすいて重罪を重ねたエインヘリアルは、こうも血気盛んなのだろうな?」
 とヘルトの言葉に対し。
『うっせえ!!』
 挑発の言葉に理性的な否定もせず、最早感情任せに攻撃し続けるエインヘリアル。
「全く、しゃーねぇ奴だ。ほらほら、こっちだぜ!」
 と、その脇から黒葉が旋刃脚を繰り出し、カエデが連携してのサイコフォース。
 更にハルの雷刃突に、罪剱が更に『鏡刃・雷神双滅天光衝』、ティリルも。
「喰らいやがれッ!」
 と『獄魔刃』で斬り付け、更にハイペースでその体力を削り行く。
 そして……戦闘開始から十分程で。
『はぁ、ハァ……!!』
 既にその身体は血だらけで、苦しみに手を突くエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルに近づいた罪剱。
「……貴方の葬送に花は無く、貴方の墓石に名は不要……まぁ、安らかに眠ってくれ」
 と、宣告と共に『零刻弔』の一閃。
 その一閃は、エインヘリアルの時を僅かに止め、そこに穿つは黒葉。
『喰らい尽くす!」
 その『命喰らい』の拳が、エインヘリアルの身体の正中を突き抜けると……エインヘリアルは、悲鳴と共に、その場へ崩れ墜ちた。

●風は折れし
 そして……エインヘリアルの影が、消え行く中。
「さようならだ。どれほど優れた剣技を持とうと、君の様な下衆には相応しい末路だろう」
「そうだね。次はもうちょっとマシなのに産まれて来なよ」
 ハルとカエデが、その消え行く影に言い捨てると……エインヘリアルの全てが、失われる。
 そして後に残るのは、エインヘリアルの剣戟によって遺された、多くの傷跡。
「さて……それでは、いつもの通りではありますが、周囲の被害を回復しなければなりませんね」
 とクラインの提案に、ティリルが。
「ああ。面倒臭い所だけど、出歩いていた人には本来は関係無い話だもんな。日常を取り戻す為にも、ちゃっちゃと後片付けだ!」
 仲間達を促しながら、早々にエインヘリアルの傷付けた傷跡を一つずつ、ヒールグラビティを使い、回復していく。
 ……程なくして、避難していた一般人も栄へと戻り始め、空は暮れてしまったものの、夜の繁華街はまた、煌びやかな雰囲気を演出してくれる。
 そんな、変わらぬ日常を取り戻した事を、改めてその耳、目、鼻で感じつつ……。
「さて……と、もう夕食時ですね。皆さんがよろしければ、食事でも如何でしょうか?」
 と、ヘルトが提案すると、エイルは。
「皆さんが宜しければ、どうぞ。私は余り減っていないからいいわ、ヘルト」
 そんなエイルの言葉に、ちょっと困った顔をしたヘルト。
「主……」
「……続きを読みたい本があるのよ」
 といいながら、傍らから英雄譚の書かれた本を取り出し、目を落とすエイル。
「そう言って、主はいつも食事を摂られないではないですか……少しでも構いませんので、食べて頂ければと思います」
 真摯なヘルトの言葉に、エイルは。
「……仕方ないのう」
 と呟く。
 ……まぁ、何はともあれ、重罪人エインヘリアルを倒したケルベロス達は、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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