クラブ・クラブ・クラブ

作者:baron

 カキョーン。
 シャカシャカシャカ。
 ナニカが海辺より丘に上がって来た。
『ブクブクブク』
 そいつは泡を吹いて邪魔なガードレールや船を融かすと、鋏になった右腕で建物を破壊し始める。
 そして棍棒になった左手でトレーラーを粉砕するのであった。
 ジャキーン! バキーン! そんな音を立てながら駐車場を台無しにした後、人々が居る町の中心部へと向かって行った。


「京都府の漁港に巨大ダモクレスが現れます」
「あそっか。京都にもあるよね」
 セリカ・リュミエールの言葉に、地図を思い出しながらケルベロス達は頷いた。
 どうしても近畿の中央と言うイメージがあるが、ちゃんと海だってあるのである。
「幸いにも漁港を上陸地点に選びましたので被害は抑えられますが、そのまま街へと向かうようです。そうなれば人々を虐殺し、グラビティ・チェインを補給してしまうでしょう」
 それでなくとも、最初に殺される港の人々を見殺しにはできない。
 だが補給してしまうと、内部に有る工場を利用してもっと被害が増えてしまうのだと言うう。
「敵の形状は大きな蟹と言った感じです。右手が鋏ですが、左手が棍棒。後は泡を吹いて範囲攻撃を行って来ます」
 鋏はダモクレスやレプリカントの使う格闘、泡はマイクロミサイルのような効果があるらしい。
 やはり外見こそ蟹だが、中はダモクレスということなのだろう。
 能力は低下しているが全力攻撃が一度行えるなど、いつもの巨大ダモクレスと同じであるようだ。
「避難勧告は出して居ますし、港ゆえに場所は広いので問題無く戦えます。場合によっては建物の上を足場に戦う事も出来るでしょう」
 巨大でレーダーも強力とのことで、死角を突いても意味は無いとか。
 しかし建物の上に乗ればサインは出し易いだろうし、建物そのものはヒールで直せば良いので問題は無い。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。撃破をよろしくお願いしますね」
 セリカはそう言って出発の準備を整えるのであった。


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)
香月・渚(群青聖女・e35380)
和銅・恭子(地球人のブラックウィザード・e44919)
不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)

■リプレイ


「準備は終わったよ」
「こっちもだ。いつでも行けるぜ」
 時計の合わせを終えて、香月・渚(群青聖女・e35380)とグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)は仲間に合図を送る。
 それに合わせてケルベロス達は移動を開始し、あるいは準備だけはしておいた時計をしまう。
「正に煮ても焼いても食えぬ、蟹。分解して粗大ゴミに出してしまいましょう」
「カニ……ロボ、いやカニ? そもそもなんでカニ」
 八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)は不要になったアラームを解除しつつナイフを引き抜いた。
 その言葉に楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)は首を傾げつつ先行し始める。
 市場の駐車場側から港の沿岸部へ。
「まぁなんでもいいんだけど。どっちでも倒さないといけないもんね。しかしあれだよね、ロボットって考えるとロボットが泡吹いて迫ってくるのってなんか不思議な光景だよね」
 磯の香りが薫る海を眺めていると、何者かが上陸を開始。
 ブクブクと吹きだす泡が落下保護用のガードレールを融かす様子を見て、牡丹は肩をすくめた。
「本物のカニなら美味しく食べられたかもしれないけど、メカじゃ食べられないよねぇ。というか大きいカニは大味であんまりおいしくないんだっけ? それじゃあブローラ、やってくよ」
 牡丹はテレビウムのブローラに声を掛けつつ、黄金の輝きを放った。

 鮮烈な光が敵を照らしだし、巨大なカニの姿を露わにする。
「貴艦は日本の領海を侵犯している。直ちに領海より立ち去れ!若しくは停船し我々の指示に従え! さもなくば発砲する。繰り返す。貴艦は日本の領海を侵犯している。直ちに領海より立ち去れ!若しくは停船し我々の指示に従え!さもなくば発砲する」
 黄金の光をサーチライト代わりに、不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)は警告を発する。
 その姿は海上保安官……いや、自衛官の姿だ!
 当然ながら警告を無視して上陸する巨大蟹に対して、迎撃行動に移った。
「どうあっても戦いは避けられないようね。日本を脅かす驚異は徹底的に排除する! まずは……艦載機発艦! 準備でき次第発艦せよ!」
 相手は流された漁船を自称して居る訳でもない、遠慮は不要。
 それはそれとして、あさひはひとまず防御から入った。ドローンを発進させて防壁を展開する。
「おっしゃー、一番乗り!」
 グラハは全力で疾走。
 己の体を槍に変えて突進し、強烈な蹴りを放った。
 横っ面(?)を蹴り飛ばされた形のダモクレrスは彼の方を向き直り、そこへ入れ替わるように仲間達がガードを行う。
「さぁ、行くよドラちゃん。サポートは任せたからね」
「星々の加護を、此処に」
 渚は箱竜のドラちゃんに指示を出しつつ、我身を盾にして巨大な鋏を受け止める。
 そこへ鎮紅が両手のナイフに天秤座の加護を映し出し、加護を祈って防壁を強化。
 箱竜のドラちゃんが行う治療と共に傷を癒し、体を蝕む不可に対抗する。
「さぁ、皆。元気を出すんだよ! ボクたちの戦いはこれからだ!」
 渚は歌を唄いながら鋏を跳ね除け、千切れそうになる掌をギュっと握って筋肉を再生。
 このくらいの痛みでくじけはしない、ケルベロスは必ず勝つんだ!


「確かにトランプノアレに見えるね。ええと……」
「クラブですね。しかし……蟹で棍棒でスートですか」
 和銅・恭子(地球人のブラックウィザード・e44919)の楽しそうな言葉に倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)は頷いた。
 上から見れば確かにトランプのクラブに見えなくもない。しかし納得がいかないものもある。
「名前に少々センスを感じますが、ダモクレスの機能的にはどうなのでしょう」
「さてな。毎度ながら手を変え品を変え……生物をモデルにするのは何の意図があるのやら。真似たのならば面白いのだがな」
 柚子の疑念にウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)は苦笑し、何かの実験か他に面白いことでもあったのだろうと告げた。
「真似? 小さな……いえ、当時に巨大生物が居たら……ですか。たしかにそれならば妙ではありませんね」
 柚子はそう言いながら爆風を吹かせて援護を貸しい。
「そういうことだ。ドラゴン級のバケモノ出も居れば……。まあいい。では、趣旨に応えて真っ赤になるまで直火焼きといくか!」
 他の人間ならば強い敵は居て欲しくないと思う恩のだが彼は違う。
 ウォリアから見ればむしろ強敵が居て欲しいのだ。
 敵の敵は味方に成ることもあるし、お互いに切磋琢磨しながら血沸き肉踊る戦いがしたいと咆える。
 そして熱い思いと共に飛び蹴りを叩きつけるのであった。
「えーっと確か、今回は回り込んだり立ち塞がったりしてもよいのよね。じゃ、遠慮なしに行きましょうか」
「了解した。全艦近接戦闘用意! 敵の出鼻をくじけ!」
 敵個体によってはいきなり全力攻撃を行うモノも居るが、こいつはそんなことはないとか。
 牡丹は甲羅の継ぎ目に攻撃を叩き込み、あさひは目と目の間を回転する拳で殴りつける。
 そして攻撃役の仲間を真っ盛りつつ、V字状に包囲してそれ以上の進軍を阻むことにした。
「解体作業と行こうかな。……別に食材じゃないけど」
「本物の蟹だったらそうねえ……。邪道だけど御味噌汁に入れても美味しいわよ、呑んだ次の朝とかに最高っ」
 鎮紅が深紅のダガーを巧みに操って、紅の炎と青い水の力を宿して切り刻んで行く。
 力を奪って凍りつかせているとなんだか食材を処理して居る気分だ、牡丹が妙な事を言っているがあまり気にしないでおこう。
「だってよ。とっとと終わらせて何か食いに行くか?」
「悪ク無イ。しかし……ニンゲンは蟹をよく食うからな。案外、奴等なりに祟りを騙っているつもりかも知れんゾ」
 グラハは既に勝つ気でいるが、ウォリアはソレを否定しなかった。
 もとより負ける気など無い。グラハは弧を描く軌道で下から、ウォリアは斧を振り降ろして上下から挟み討ちにする。
 大胆不敵で傲岸不遜、男達の行く手に阻む者など無し!
 そんな彼らを倒そうと、巨大蟹型ダモクレスは棍棒どころか重機のような腕を振り降ろして叩きつぶしに掛った。
「やらせませんよっ……どんなに強力であっても」
「っ痛ー! そうそう、ボクらは負けたりしないんだ!」
 柚子と渚は勇気を振るい、仲間達への攻撃を防ごうと立ち塞がった。
 結果として渚が受け止めたが、足元のアスファルトが割れるほどの威力。それでも痛みに耐えて歌を唄い続け……。
「治療しますね。不要かもしれませんが、念の為」
 あるいはサキュバスミストを散布して傷を癒し、柚子は暴力に立ち向かっていった。


「反撃、行っくよー!」
「おうよ! 地球の果てまでふっ飛ばしちまおうぜ!」
 反撃の反撃は即ち、何時もの様に攻撃すると言うことである。
 渚は羽を広げて滑空しながら蹴りを放ち、グラハは猛ダッシュから浴びせ蹴りを食らわせる。
 そんな中で小さい方の電子音が三度目の響きを立てた。
「おっと三分経過だぜ!」
「……予定通り? ならばこのまま突き進むのみです」
 グラハが蹴り飛ばしながら仲間に告げると、鎮紅は魔力を深紅のナイフに込めた。
「其の歪み、断ち切ります」
 深紅の刃の先から赤い地獄の炎と、混沌の如き水の力が溢れて行く。
 二本一組の刃はそれぞれの色に傾向き、斬撃と共に迸る光が交錯するたびに魔力が花の様に散っていく。
 赤と青、二色の力に翻弄されて花弁はまるで紫の花弁が風に舞うかのようであった。
「ぬうっ! すまんな!」
「これも仕事です! 気にしないでください」
 技を出す為に集中して居たウォリアが危ういところで捕まり描けるが、あさひが飛び出してカットイン。
『ジャキーン!』
「ぐぐ……。しかし、この程度ならば。目標CIC指示の方向! 主砲、撃ち方始め!」
 あさひは大鋏に捕えられたまま、ライフルを構えて直接昇順で狙い撃った。
 負荷やダメージを負ったものの、鋏が凍り付いた間に脱出する。
「借りは力で返そう!! ……来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ……神魔霊獣、聖邪主眷!!! 総て纏めて……いざ尽く絶滅するが好いッ!」
 溢れかえるウォリアの闘気と魔力は炎と成り、唱えられら呪文によって分かたれる。
 それぞれに長巻きや槍を手に、蟹型ダモクレスの背に刃を突き立てる。
 そして大槌を頭に打ち付け、あるいは腹を太刀で抉り取って行った。
「傷は私とカイロちゃん・ドラちゃんで見るね。……牡丹特製、元気の出る一杯を振る舞ってあげるよ」
 牡丹は過剰な治癒を避ける為に声を掛け、翼猫のカイロや箱竜のドラちゃんと共にあさひの治療に当たった。
 自身の魔力をベースに魔力同士をシェイキング、あさひが元から持って居た魔力と合わせて傷を一気に治療したのだ。
「それではこちらは攻撃と行きましょう。それっ」
 手の空いた柚子は流体金属を拳に変えて、傷付いたダモクレスの装甲に鉄拳を突き込んだ。
 そして傷口からオウガメタルを偲び込ませると、装甲を引き裂いて行ったのである。

 それから何度かの攻防が過ぎ、グラビティが戦場となった港を飛び交って行く。
「あーもう! この炎に包まれなさい! そろそろ五分目っ終わり」
 渚は先ほど挟まれたあさひの様に捕まり、彼女を真似して蹴りを挟みに放った。
 捕まって居たせいで告知が遅れたが、まあグラハも居るし問題無いだろう。
 それよりも……。
「フラフラな気がする。……もしかして7分目までに倒せるかも」
「そいつは景気が良いことを聞いたぜ。まだまだ6分目だ! さぁ、蟹さんよ。死にたくなければ頑張りなあ!」
 鎮紅がダガーナイフを甲羅の隙間に突き立てて、深く抉りながらグラビティを導いて行く。
 そこへグラハは愉しそうに突っ込んで、拳から出した角を刺したまま膝にも角を出現させた。
 連続で抉りながら攻撃し、怒涛の攻めで追い込みに掛る。


「どりゃあ!!」
 ウォリアは勢い良く斧を振り降ろして装甲を割断する。
 フラフラになったダモクレスに構う事無く、激しく攻撃を加えて行った。
 彼に容赦など存在せず、むしろ楽にしてやったほうが良いとでも言わんばかりだ。
「やはり、防御や攻撃の得意な個体では無いことが影響しているのでしょうか」
「なるほど。ではこのままの体勢を維持しないといけませんね。攻撃役だけは守りつつ、バランスの良い攻撃を……」
 一同は連携で回復を交代しあっているが、余裕があれば攻撃して居るので回転が良い。
 あさひと柚子は顔を見合わせてその事を確認しつつ、敵の攻撃に立ち塞がった。
『ブクブクブク!』
「これをしのぎ切れば、後は逃がさない様に倒すだけです。カイロ、ドラちゃんさん。お願いしますね」
 柚子は泡状の爆弾に向けて立ち向かい、先ほどとは逆にサーヴァント達と共に治療を担当する。
 盾役達は距離を詰めつつも前進し、包囲体勢に移る。
「そんな火傷、恐れることは有りません。こちらをどうぞ!」
 柚子は濃縮したサキュバスミストを拡散させ、仲間を守るために傷付いた盾役達を癒して行く。
「可能ならば全力攻撃前に倒したいものです。遠慮は無用!」
「遠慮してるつもりは無いんだけどなー。というか最初からしてないから、今追い込んでるのかもね。間にあうか怪しいけれど、最後まで諦めずにいくよ! ふぁいと、おー!」
 あさひがライフルを構えて凍結光交線を放つと、牡丹は忍び込ませておいたスライムを固めて槍にする。
 合図と同時に内側から刃が伸び、激しくダモクレスを傷つけるのだ。
「んと。ゴメン、ちょっと倒すのは無理だね」
「気ニスルナ! カカカ、間ニ合ウカ? 間ニ合ワネバ強撃! ナントモ愉シイデハナイカ!」
 渚のダイミナミックな蹴りが突き刺さるが、残念ながら六分目で倒す事は出来なかった。
 最終アラームが鳴り響いた時、ウォリアは振りあげられた大鋏の前で呪文を唱える。
「天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我……。生まれる時を違えた強者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
『ジャキーンー!』
 ハハハハ!!
 己を両断しそうな攻撃の前でウォリアは笑う。
 その前に倒す。あるいは仲間を信じて居るのか? あるいはその両方かもしれない。
「……さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す…終焉の時は、来たれり」
 降り降ろされる鋏、そして分かたれる炎が交錯する。
 四方八方より現れた武者が、斧や槍を手に殲滅を始めた。
 それが終わった時に、ダモクレスはただの残骸と化して居たのだ。

「任務完了! これにて戦闘行動を終了し、修復作業に取り掛かります」
「そうですね。避難解除のアナウンスをしておきますが、場所的にも建物やインフラにもダメージがあると思うので丹念に修復しましょう」
 あさひの言葉に柚子が頷いて携帯を取り出した。
「流石にミソは詰まってないな。詰まっていても困るのだが」
「あったらドラちゃんとかが食べてくれるよっ。コギト珠だったら捕虜にしてレプリカントになるかチャレンジだろうけど」
「それは卵じゃね? まあ本物なら喰いたいが、先ずは建物直すとこからかね」
 ウォリアが残骸を持ち上げると、渚はヒールを開始。
 同じ様にグラハも残骸を持ち上げて移動させ始めた。
「こんなところでしょうか?」
「そうね。手分けしたし、そんなもんじゃない?」
 鎮紅が星の輝きで天秤座を映し出すと、牡丹も黄金の輝きで修復を終える。
 そして仲間達の方を向き直り、ニコリと笑うのであった。
「呑みに行くならお姉さんがカクテル造ってあげるわよ」
 未成年が居るので本当に呑み会をしたかは別にして、ダモクレスの脅威は去ったのである。
 港からも……食卓からも。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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