紅蓮の炎はより紅く

作者:白鳥美鳥

●紅蓮の炎はより紅く
 クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)は、のんびりと森を歩いていた。
 彼女は森が好きだ。深い森の奥で育って来た事もある。
 ……森には色々な思い出がある。良い事も……悪い事も。
 そんなクリュティアの元に、真紅の髪の女性が現れた。
「ふふっ、上手く出会えたわね」
 にっこりと笑う女性に、クリュティアは見覚えがあった。
「……お主……!」
「残念。あなたはここで死ぬのよ?」
 クリュティアが構える前に、真紅の炎が襲ったのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、緊急事態だよ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、切羽詰まった表情で、ケルベロス達に声をかける。
「クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が宿敵であるデウスエクスの襲撃を受ける事が予知されたんだ。勿論、急いで連絡を取ろうとしたんだけど……連絡を取る事が出来ないんだよ。だから、一刻の猶予もない。みんな、クリュティアが無事なうちに何とか救援に向かってほしい!」
 デュアルは状況を説明する。
「場所は静かな森の中だ。一人、散策をしている所を狙われたらしい。彼女の宿敵は螺旋忍軍の様だよ。紅い炎の様な髪をした女性で、割と忍みたいな服装をしているし、全体的に赤系で統一されているね。森の中なら、彼女を見つける事は容易なんじゃないかと思う」
 デュアルは必死で訴えた。
「みんなにはクリュティアを救い出して欲しいんだ。そして、彼女の宿敵を倒して欲しい。相手は彼女にとって因縁のある相手。そして、その彼女が相手にやられてしまうなんて事はあってはならないんだ。お願いだ、彼女を助けて欲しい。みんなの力が頼りなんだ!」


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)

■リプレイ

●紅蓮の炎はより紅く
 それは紅蓮の炎の様な女性だった。そう、森の中には相応しくない……紅い色。
「ドーモ。サラマンドラ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
 クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)は、そんな相手に構えながらそう言うが、相手の女性はくすりと微笑んだ。
「あら、私に対抗しようというの? ふふ、可愛がってあげる」
 クリュティアに向かって紅い女性……サラマンドラは真紅の炎を放つ。その炎がクリュティアに届く前に、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が飛び出して庇った。
「くっ……。クリュさん! 間に合ったかしら……?」
「……! リリー殿! スケダチ、感謝するでござる」
 後輩忍者でもあるリリーの登場に、クリュティアは感謝の言葉を伝える。
「クリュティアお姉さん、心配で助けに来ました……!」
「大丈夫か、クリュティア? 依頼での縁で、助太刀に来たぞ」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)、雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)の声と共に、アルトゥーロ・リゲルトーラス(蠍・e00937)、コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)、ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)と応援に駆け付けてくれたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、次々と現れる。
「……皆! ありがとうでござる!」
 自分を案じてきてくれた仲間達に、クリュティアの胸は熱くなる。そう、目の前にいる因縁の相手、サラマンドラは憎しみを抱く強敵でもあるが、自らには、こんなにも大切に想ってくれる人達がいる事が嬉しかった。
 だが、サラマンドラの方は、余裕の表情を浮かべる。
「くすっ、何人来ても構わないわよ? どうせ、あなた達はここで死ぬ運命なのだから!」
 続けざまに真紅の炎を次々と繰り出し、クリュティアやリリー達へと襲い掛かってきたのだった。

●螺旋忍軍・サラマンドラ
「お姉さん達……今すぐ癒しますね」
 直ぐに夏雪が、炎に包まれた人達の上に粉雪が舞う如く癒していく。
「テメエを倒しても過去は変わらねえ、ンなことは百も承知だ。それでも俺は……俺はクリュのために! クリュと共に! クリュの『笑顔』を! 『未来』を! 取り戻すッ!!」
 クリュティアへの想いを込めて、ランドルフは輝きを伴う重い蹴りをサラマンドラに向かって叩き込まれる。それには素早いサラマンドラも避けきれなかったようだ。しかし、続けて真也の愛刀の誠義兼定から放たれる突き攻撃に対しては、サラマンドラは素早く綺麗なステップを踏みながらかわしていく。
「……速え。忍者ってもう少し足が遅くてもいいと思うんだ」
 ラズェはそう言いながら、真也達に向かいオウガ粒子を放ち神経を研ぎ澄ませていく。
「BON! BON! BON!」
 コンスタンツァは右手に召喚した天使の羽付きリボルバーのトリガーを引き、サラマンドラの頭上に丸いダイナマイトを生み出し爆発させた。
「炎遣いか。そのなりといい、シャイターンの方が似合ってるぜ?」
 アルトゥーロは、サラマンドラの死角を突いて銃撃を加える。当たってはいるが、動きはかなり速い。簡単には傷を負わす事は出来ないだろう。
「クリュティアちゃん、頑張るの!」
 ミーミアは、クリュティア達にオウガ粒子を放っていく。ウイングキャットのシフォンもそれに重ねて清らかな風を送って行った。イッパイアッテナもバラカズのルーンを使って癒しと打ち破る力を与えていく。
「ふぅん、面倒そうね。先手を打っておきましょうか?」
 サラマンドラの全身が炎で覆われていく。そう、彼女を護るかの如く。その隙を狙い、クリュティアがケルベロスチェインを放つが、サラマンドラは素早くそれをかわしていった。
「皆さんに力を……」
 夏雪の降らす粉雪はアルトゥーロ達に護りを砕く力を与えていく。
「まだまだ速い……。クリュさん達に力を……!」
 リリーはクリュティア達にオウガ粒子を放って集中力を高めていった。
「女を殴る趣味はねえが……テメエに遠慮はいらねえな!」
 ランドルフはオウガメタルを全身に纏わせると鋼の拳をサラマンドラに向かって繰り出す。続けて真也が急所を狙い斬りつけるが、それを殴られた反動の中、サラマンドラは体勢を整え直し回避した。
「器用な奴だ……。しかし、いつまで逃げ続けていられるかな」
「そうっす! 本番はまだまだこれからっす!」
「そうそう。これからだ、これから」
 コンスタンツァはグラビティ・チェインをリボルバー銃に籠めてサラマンドラに撃ち放つ。続きラズェが真也達にオウガ粒子を放ち集中力を高めていった。
「さあ、ガンパーティーといこうじゃないか」
 アルトゥーロの精神集中した毒を持つ弾丸がサラマンドラを撃ち貫く。
「頑張れ頑張れなのー!」
 ミーミアはオウガ粒子を放ち、シフォンは清らかなる風で護りを高めていく。少しずつ、でも確実にサラマンドラの素早さに対抗出来る状態になってきた。

●反撃開始
「小賢しい連中ね……。これでも喰らうと良いわ!」
 サラマンドラの周囲が燃え上がる。真紅の炎は舞い上がり渦を巻いていった。
「いくわよ、インフェルノ竜巻の術!」
 紅蓮の炎は竜巻となり、クリュティア目掛けて放たれる。それを、ラズェが庇った。
「ラズェ殿、かたじけない」
「美女を守るたぁ、なんだか騎士にでもなった気分だぜ。気分だけな」
 とはいえ、相手の必殺攻撃を喰らったラズェは、かなりの傷を負っている。直ぐに夏雪が回復に入った。
「大丈夫……。痛くない、です……」
 夏雪の泡雪状のグラビティが融け込み、ラズェの傷を癒していく。リリーもクリュティア達が攻撃に専念できるように、もう一度オウガ粒子を放って集中力を高めた。
「あの時と同じ小娘のままと思うなでござる! 今の拙者には頼れる仲間達が居るのでござる」
 クリュティアはサラマンドラに向かって飛び込むと、急所を狙って斬りつける。確実に当たった手ごたえがあった。これも、傍で一緒に戦ってくれる皆のお陰だとクリュティアは思う。
「クリュはやらせねえッ!!」
 ランドルフはグラビティ・チェインと気を練り合わせた特殊弾を生成すると、サラマンドラに向かって撃ち放つ。それは着弾と共に爆発を引き起こした。その爆炎に紛れ、真也はサラマンドラに近づくと雷の霊気を帯びた強烈な突きを繰り出し、強烈な一撃を与える。
「ウチの団員を襲おうだなんて100年早えわ!」
 ラズェの指輪を中心に光の弓と複雑な数式が浮かび上がる。その強い閃光と共に弾丸がサラマンドラの脚部を狙って撃ち放たれた。更にコンスタンツァの死角を突く弾丸が、アルトゥーロによる高速の弾丸が次々に撃ち貫いていった。
「……全く、どこまでも面倒な奴等ね!」
 サラマンドラの紅蓮の炎が今度はアルトゥーロ達を狙って踊り舞う。確実に当てに来る彼等が面倒だと思ったのだろう。
 しかし、直ぐに夏雪の粉雪混じる風が彼等を癒していった。ミーミアやシフォン、イッパイアッテナ達も回復や護りを高めてフォローしていく。
 クリュティアも攻撃に移る。サラマンドラに向かって、強烈な拳を放った。
「クリュさん、続きます!」
 リリーの紡ぐ妖精伝承歌は荒れ狂う磁気嵐を生み出す。それをサラマンドラへ雷状に解き放った。
「テメエが奪ったクリュの笑顔、その代償の大きさを思い知れ!」
 ランドルフは再び鋼鉄の拳でサラマンドラを殴りつける。
「これが俺の辿り着いた究極の剣技の1つ、剛の剣技。これを防ぐ盾などなし。秘剣・建御雷神!」
 真也は居合いの構えを取ると、渾身の力を籠めた居合斬りをサラマンドラに向かって放つ。
「クリュはアタシの大事な友達っす。マブダチに手を出すヤツは半殺しっす!」
 コンスタンツァが召還したリボルバーから丸いダイナマイトを生み出し爆発させた所にラズェの重い蹴りが叩き込まれ、アルトゥーロによるグラビティによる強烈な一撃が放たれた。
「……っ、これでも喰らいなさい!」
 かなりの重傷だが、サラマンドラは再び紅蓮の炎で竜巻を生み出すとクリュティアに向かって放つ。それをリリーが庇った。
「……クリュさん!」
 リリーの言葉に、クリュティアは黙って頷く。リリーの気持ちを無駄にはしない。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 クリュティアはグラビティから大量のクナイを錬成すると、マシンガンの様にクナイをサラマンドラに放った。

●幕が一つ降りて……
「……この私が……こんな所で……」
 強烈な攻撃を喰らって、サラマンドラは跪く。瀕死に近い状態の彼女に、クリュティアが近づいて行った。それを周囲は見守る。もし、クリュティアに何かが起きても彼女を守れる様に。
「答えるでござる。あの時……」
 話しかけてくるクリュティアの言葉を遮る様にサラマンドラは何故か笑った。
「ふふふっ、あははっ。……ねえ、あなた、忍者なんでしょう?」
 それは暗に言っていた。忍は決して何も喋らないと。自分が何であろうと、彼女は忍なのだと言っていた。
「……そうでござるか。カイシャクしてやるハイクを詠めでござる」
「……命は有限。あなたも私も……ね」
 サラマンドラが、クリュティアに攻撃しようとしたのか自害しようとしたのかは分からない。ただ、彼女が動いた。その時にクリュティアの刀身が彼女を貫いていた。
 ……貫いて命を散らす彼女は笑っている様だった。何故、死を前に笑ったのか理由は分からない。しかし、その表情がクリュティアに焼きついたのは確かだった。

 サラマンドラが動かなくなって……クリュティアは一人の宿敵を倒した事を実感する。でも、これは仲間達がいてくれたからだ。
 クリュティアは共に戦ってくれた仲間達を改めて一人一人見ていく。皆のお陰だ。皆が居たから出来たのだ。心からそう思った。
「改めて皆にはスケダチ感謝致すでござる」
 感謝の言葉を伝える。クリュティアに温かい笑顔が浮かんでいた。サラマンドラが浮かべたものとは違う笑顔。……大切な仲間だからこそ無意識のうちに浮かんだ笑顔だった。
「クリュティアお姉さんが無事で、本当に良かったです……!」
「気にするな。多くの人々を救う。それだけが俺の存在意義だからな。縁のある仲間を救うのは当然のことだ」
 本当に嬉しそうに微笑む夏雪に、クールにそう答える真也。
「ま、トコトン付き合う覚悟はできてるぜ」
 クリュティアの肩を掴み微笑むランドルフ。
「一件落着、か。これでドロウエントも無事ということで、これからもバリバリ事務所でも働いて貰うぞー」
 そう言って微笑むラズェの言葉に、思わず皆に笑みが浮かぶ。
 誰もが思う。クリュティアが無事で良かったと。
「ところで、ミーミアちゃん」
「なあに、リリーちゃん?」
 リリーに声をかけられたミーミアは不思議そうに返したが、彼女の表情を見て得心したように頷く。
「みんな、お疲れ様なのー! 疲れを取るには甘い物が一番なのよ! お菓子は一杯あるから、みんなもどうぞなの!」
 どこからともなく、ミーミアは洋菓子やら和菓子やらを色々と取り出す。そして、皆にお菓子を薦めはじめた。
 いつの間にか穏やかな空気が流れている。クリュティアも笑顔になっている様だ。そんな様子を見て、コンスタンツァも笑顔になる。故郷に家族がいる彼女には帰る所がある。でも、クリュティアにはもう家族はいない。
(「クリュ……アタシにできることがあれば協力は惜しまねっす。クリュが失ったモノのかわりにはなれなくても、待っててくれる人がいる場所がホームになるって、そう信じるっす」)
 きっとクリュティアは大丈夫だろう。だって、彼女を想ってくれる人がこんなにも居るのだから。そして……自分も。
 そう願うコンスタンツァ。きっと、みんなもそう思っているだろう、その事を心から――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。