巨躯は襲いし街並みを

作者:幾夜緋琉

●巨躯は襲いし街並みを
 大阪府は道頓堀。
 多くの人が往来する、有名な橋に差し掛かる……巨躯の浮遊せし攻性植物、サキュレント・エンブリオ。
 全長7m程の巨大な姿形をしたそれは、魔空回廊を経て移動してくる。
『な……何なんだ、何なんだあれは!!』
『し、知るかよっ!! う、うわああああっ、いいから、逃げるぞっ!!』
 と、半ばの恐怖と共に逃げ惑う一般人達。
 そんな彼らを嘲笑うかの様に、周りの建造物を浮遊する巨躯で、無差別に破壊し尽くして行くのであった。

「ケルベロスのみんな、集まってくれたね? それじゃ、早速だけど説明するね!」
 と、笹島・ねむは、集まったケルベロス達に元気よく挨拶すると、早速。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に押さえ込まれていた攻性植物が次々と動き出したみたいなんだ! どうやら攻性植物達は、大阪市内への攻撃を重点に置いてるみたいだね?」
「大阪市内に重点的に多数事件を発生させることで、一般人を避難させて、大阪市内を中心に拠点拡大を狙っているみたいなんだ!」
「今の所は大規模な侵攻ではないけど、これをこのまま放置するとゲートの破壊成功率も『じわりじわりと下がる』と思うんだよ。それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に隙を見つけてそこに反攻を加えないといけないんだ!」
「今回、みんなに対処為て貰うのがサキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物なんだ。これは魔空回廊を通じて大阪市内に出現する事を予知出来たんだ。だから、大阪市民と、その市街地に被害が生じる前に、このサキュレント・エンブリオの撃破を頼みたいんだよ!」
 更にねむは、詳しく話す。
「サキュレント・エンブリオは一体のみで、周りに配下生物の様なものはいないみたい。それに出現するのは道頓堀なのが事前に確認されているから、出現次第、周りの市民の方達の避難などを、警察官や消防の方達の協力で行える筈だよ!」
「ただ、市街地での戦闘になるから、市街地の被害はどうしても出てしまうと思うんだ。だから、その被害を少しでも減らす為に、短期決戦での撃破が望ましいね」
「ちなみに、サキュレント・エンブリオ出現地域の周囲には、中高層の建物も多いから、攻撃時にそこを移動経路として使うといいかもしれないね?」
「それに電柱とかを利用し、戦場である市街地を立体的に使う事で、少しでも有利に戦う事は出来ると思うんだ!」
「市街地自体の被害は最終的にヒールで回復する事が出来るから、確実に、素早く撃破出来るような戦い方をして欲しいんだ!」
「ちなみに、この攻性植物の攻撃手段は、本体のような袋から黄色の粉を大量に吹き出し、視界を奪いつつ自分の回復効果を持つ攻撃と、違った袋から燃焼性の花粉を噴き出して、その触手の様な所で着火して炎に包む攻撃があるみたい」
「後、触手を突き刺すことで、毒を注入する攻撃もあるから、それにも注意してね?」
 そして、ねむは。
「みんなのケルベロスの皆が警戒していた、大阪城周辺を占拠する攻性植物の軍勢……その侵攻を止める為の戦いになるし、今回敵の動きが事前に察知出来たのも皆の警戒のおかげだよ! この頑張りを無駄にしない為にも、皆の力を貸して欲しいんだよ!」
 と、拳を強く振り上げるのであった。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
尾守・夜野(ドミノ始めました・e02885)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
湊弐・響(ヴァルキュリアの巫術士・e37129)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●夢の橋は
 大阪府は道頓堀。
 街中に掛かる橋の一つは、ナンパする人もちらほらとはいるけれども、実際の所は正しく町の中心地であり、大層賑わいを誇るところ。
 ……でも、そんな橋の上に、突如姿を現わす、とねむから告げられた攻性植物『サキュレント・エンブリオ』。
 遥かに巨大な姿形をしたその攻性植物は、魔空回廊から突如現れ、浮遊し、橋の周りの建造物や、逃げ惑う一般人を次々と殺戮する……との事。
「……んー。なんとなくサキュバスっぽい名前でなんかムカつくんだよね。だから絶対倒す! ……なんて、ね」
 くすっ、と笑みを浮かべる喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)だが……その視線は上空を真っ直ぐに見据えており、一分の隙も無い。
 そんな波琉那に続き、九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)やラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)、湊弐・響(ヴァルキュリアの巫術士・e37129)らも。
「全くだ。またまたデカブツの登場とはな……」
「攻性植物も最近になって、新たな動きを見せた、といった所か? 全く、面倒事を立て続けに起こしてくれる物だ」
「ええ。ただでさえ最近の立て続けの攻性植物事件に、大阪の方々は不便を強いられているというのに、更にこんな事件だなんて……絶対に、勢力拡大を阻止してみせますわ」
「そうだな。大阪で暮らす者が安心して過ごせるように必ず護り抜かないとな!」
 そんな仲間達の決意に対し、波琉那も静かに頷いて。
「うん。大型の敵って、攻撃範囲と威力は侮れないんだよね。でも……一般の人への被害はキッチリ防ぎたいね」
「大きな敵だから、頭上からの一斉掃射みたいな攻撃なのかな? ……そうだとしたら、避けるのは難しいかも。だからこそ、一般人の避難誘導を優先的に済ませる必要があるかな?」
 と明空・護朗(二匹狼・e11656)が周りを見渡しながら一言。
 ……平日の昼間というのに、人の流れは相応に多い。
 当然、彼らは今からここが襲われるとなど、夢にも思っていない事だろう。
「ま、何だ。ボク達がヘマすれば、それはそれで攻性植物の思うつぼ、って事だよねぇ」
「ええ……だから、万が一にも負けられません。誰一人としての犠牲を出さず、この攻性植物を仕留めて見せます!」
 尾守・夜野(ドミノ始めました・e02885)にウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)が拳を突き上げ、覚悟を決める。
 そして、幻が。
「まぁ空中戦となれば楽しいが、一般人の安全を優先しなければね。なるべく被害を出さない様に頑張るとしようか」
 と言うと、ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)が。
「そうじゃな! 厳しい戦いにはなるやもしれぬが、気合い入れて行くとするかのう!」
 気合いを籠めると、それとほぼ同時に、空に魔空回廊が開き……その中より、攻性植物『サキュレント・エンブリオ』が姿を現わすのであった。

●安らがぬ風に
『え……な、何だ、何なんだあれは!!』
『し、知るかっ!!』
 と、現れつつある巨大攻性植物。
 全長は7m程の巨躯。それが突如現れるというのは……かなりの威圧感を与えてくる。
「くひひ……現れたね現れた。本当図体はデッカイねぇ」
 何処かわくわく、といった感じがにじみ出ている幻。
 直ぐに対峙し、戦闘したい所ではあるが……回りには多くの一般人が逃げ惑い、混乱に陥っている。
 ……彼らを逃さなければ、頭上からの攻撃に、不意に当たってしまうかもしれない。
「みなさん、私たちはケルベロス。大丈夫、あのサキュレント・エンブリオは私達が倒すから、皆さんは落ち着いて、此処から避難して」
 言葉尻を柔らかく、凛とした風を纏い、回りの一般人に声を掛ける波琉那。
 更にウォーグは旗を掲げ。
「こっちです。皆さん、一刻も早く、あのサキュレント・エンブリオとは逆方向に逃げてください」
 コッチが逃げる方向だ、と旗をはためかせる。
 でも、逃げる最中において、恐怖に転んでしまって、足を挫いてしまう人もちらほらと居る訳で……。
「大丈夫? ……ほら、簡単な治療でごめんね。後で、ちゃんと治すから、ちょっと痛いかもしれないけど、頑張って逃げてね」
 と、護朗が簡単な治療を施しつつ、速攻で逃げて貰う様に指示を与える。
 その一方、夜野や響は、周囲に委合わせた警察官や消防署の方達へ手分けして向かい。
「ねえ、お願いするけど、一般市民が逃げてくるから、避難誘導を頼むよ」
「あの攻性植物は、私達が必ず討ち倒しますわ。でも、無用な被害を出さない為にも、市民の方達の避難をお願い致します」
 と話を付けて、逃げる様に指示を与える。
 ……そんなケルベロス達の避難誘導に対し、ラジュラム、ソルヴィンの二人は、現れつつある攻性植物の真っ正面に対峙。
「うーむ、中々でかいのう。しかしクジラよりは小さく……余裕じゃな!」
 顎髭をさすりながら、ニヤリと笑うソルヴィン、そしてラジュラム。
「ああ……取りあえず、行くぞ!」
 と威勢良く攻性植物の下へと駆け寄り、建物の壁を蹴り上げながら、殆ど時空回廊からはみ出した身に乗りかかり、そして。
「お前さんの相手はこっちだ! さぁ掛かってこい!」
 と、ファナティックレインボウの一撃を叩き込む。
『……』
 攻撃を受けても、攻性植物は何か言葉を発するという事は無い。
 ただ、手の先の触手の様な物をビタンビタンと地面に叩きつけ、怒りを露わにする。
「ほう、一応感情はある様じゃな。ほれ、続けてこれでも喰らえ!」
 とドラゴニックミラージュを、遠距離攻撃に放つと、それに対し触手をバシッ、と叩きつけて回避。
 そして次の刻……回りの一般人は、半分程度がやっと逃げた程。
 順次避難をさせているが、多少混乱に陥っている一般人達なので、逃げるのに時間は掛かる。
 ……勿論、その間はラジュラムとソルヴィンが、身を呈して攻性植物の進軍を妨害し、動きを止める。
 そして、2分、3分……と経過。
 どうにか周囲の一般人達を、遠くまで避難完了した所で……ケルベロス達は集結。
「さぁ、雷光団第一級戦鬼、九十九屋・幻だ。手合わせ願うよ!」
 と幻がニッ、と獰猛な笑みを浮かべて宣戦布告、そして流れる様にグラインドファイアを飛ばし、炎を付与する。
 燃え上がる攻性植物……焔に包まれ、触手がバタバタ。
 すぐに炎は消え去るが、多少は効果を及ぼしている様である。
 ……そして、更にソルヴィンも。
「これだけデカいと当てるのも簡単簡単。ほれ、燃えるがよい!」
 とダブルジャンプで飛び跳ね、ドラゴニックミラージュの一撃。
 どちらもクラッシャーポジション効果を持ち、強烈な一閃による大ダメージ。
 それに続き、ジャマーに立つ夜野がプラズムキャノンを放ち、遠距離からの足止め攻撃を付与する一方、スナイパーの波琉那がバスタービームで、プレッシャー。
 そして護朗も、スターゲイザーにより足止め効果で、彼のオルトロスの妹、タマはソードスラッシュに続く。
 立て続けに仕掛ける事で、一気にバッドステータスを大量に付加し、その動きを大幅に鈍らせる。
 対し、攻性植物は、ケルベロスの攻撃に対し、反撃。
 触手……ではなく、頭部の本体のごとき袋をプシュッ、と弾けさせ、黄色の粉を大量に吹き出していく。
 視界一面、黄色の花粉で覆い隠されて視界不良……当然ながら命中率も大幅に低下する。
 が、すぐに響が。
「さあ行きなさい。踊りなさい。私の奏でるワルツと共に!」
 と【妖精砲手の飛翔】で、視界を晴らす。
 そして、ウォーグと彼女のボクスドラゴン、メルゥガ。
「仕掛けます。メルゥガも共に!」
 と声を掛け合い、息を合わせて近接。
 翼飛行で飛翔すると共に、スターゲイザーとボクスブレスの連携攻撃を放ち、炎に包まれたところに更にラジュラムが。
「ほらほら、鬼さんこちらってな! 楽しもうじゃないか!」
 と言い放ちながら、月光斬で着りつけていく。
 1刻の内で、みるみる体力が削られていく攻性植物。
 ただ、その巨躯が誇る体力はかなり多い様で、中々目に見えて弱っている様には見えない。
「中々、強敵の様ですね……」
 ウォーグの言葉、それに夜野が。
「だな……ま、ちょっとずつちょっとずつ削らない事にはしょーがないか」
「ええ。確実に削りましょう」
 相互に頷き合いながら、攻撃の手を緩めずに進める。
 勿論、攻性植物は少し浮遊している為、攻撃する際にも少々手間がかかるのだが……回りの建物の壁を利用したり、ダブルジャンプで飛び上がったりする事で、どうにか攻撃を上手く喰らわせていく。
 ……そして、攻性植物が魔空回廊から出て来て、十数分。
 蠢く攻性植物の頭部の袋は、半数以上が潰れており、触手も数本が残るのみ。
「ふむ……もっと自由に動きたいのう……そうじゃ! 響くん、手伝ってくれんかの?」
 とソルヴィンの言葉に響が。
「ええ。わたくしの手に掴まってくださいまし」
 と、ソルヴィンの手を掴み、一瞬のみだが高く飛翔。
 手を離すと共に、空から落ちる勢いと共に……ソルヴィンは『Harrow Hollow』の一閃を、その頭上から叩き込む。
 そして、コンビネーションで響が『氷結の槍騎兵』を放ち……触手を一刀両断。
 更に、それに併せた幻が。
『全身全霊の一撃、受けてくれるよねッ!?』
 と『紅の一撃』を叩き込むと……攻性植物は、まるで爆発するように、弾け飛ぶのであった。

●影は映りし橋の影
 そして……攻性植物を倒した後。
 巨躯は弾け飛び、その頭部の様な部分からは……何か胞子の様な物が、辺り一面に飛び散っていく。
「……これって……何かしらね?」
 と、波琉那が手を掲げ、その胞子を掬う。
「……ん、何かの胞子……みたいだけど」
 と、波琉那の手の中に付いたのを見て、護朗がぽつりと呟くが……それは、まるで粉雪のように、手の上からは瞬く間に消失して行く。
「んー……攻性植物が繁殖するのも、これが何かの引きがねだったりしてねぇ……」
 と夜野の言葉に、ウォーグは。
「植物と胞子……確かに、切っても切れない関係ですね。ただ、流石に……ここまで飛び散ってしまったら、全てを回収というのは、難しいですね」
 空を見上げると……爆散したサキュレント・エンブリオから飛び散った胞子は、風に乗って既に流れて行ってしまっている。
 ……勿論、これが今、大阪周辺の攻性植物事件に直接繋がる原因かは分からないが……。
「……ま、全ての回収は難しそうですわね……ならば、今できる部分をやるしかありませんわ」
 と言いながら、響は橋の欄干や、オブジェ等、戦闘の結果壊れた構造物の修復を始める。
「そうね……ちょっと後ろ髪惹かれる所だけど」
 と波琉那は頷き、他の仲間達も手分けをして、建造物の修理と、逃げた一般人らの手当を行う。
 そして、一通り修理と手当を終わる頃には、空はうっすら夕闇の頃に。
「さて、と。無事に終わったの。それでは大阪のたこ焼きで一杯やって帰るとするかの!」
 ソルヴィンの言葉にラジュラムは。
「おう、それはいいねぇ。まぁ、景気づけに一杯やってくとするか! ほら、皆も行くならおじさんがおごってやるぞ!」
 ガハハと笑い、威勢良く。
 勿論、この大阪周辺に対する不安、懸念は未だ尾を引いている。
 それら一つ一つの事態を確実に対処する事が、事態の終わりに近づく一歩と信じながら……ケルベロスは道頓堀を後にした。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。