躍るストロベリーマッスルズ

作者:そらばる

●甘菓子兎・フレジエのこだわり
 歌唱とダンスの節操なき特訓に励む甘菓子兎・フレジエの本日のお題は、オタ芸である。
「ふんっふん、るるるんるんるる、ハッハッ、オー! オー!」
 その一挙手一投足には、オタ芸の命であるはずのキレが、からっきし見当たらない。
 緑まばゆい田舎道を、盆踊りのなりそこないじみた動きで練り歩くフリフリエプロンドレスの少女と、黙々と付き従う三体のムキムキいちご頭。その異様な光景に、ツッコミを入れてくれる親切な第三者は存在しなかった。
 やがて甘酸っぱい香り溢れる農園に辿り着くと、フレジエはちょこんと座り込み、露地栽培のいちごを無断で一粒味見した。咀嚼ののち、なんとも渋い表情に顔を歪める。
「んんー、このイチゴもいまいちですぅ。私にふさわしくないイチゴなんか、いらないんですぅ。あなた達、めちゃくちゃにしてあげちゃってくださぁい」
 冗談みたいに酷い指示を下すと、フレジエはあっさりと踵を返し、踊りながらその場を後にするのだった。

●筋肉いちご猛襲
 爆殖核爆砕戦により、攻性植物たちはひとまず大阪城周辺に抑え込まれていた。
 その攻性植物勢力がまたぞろ動き出し始めたらしいと、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)はケルベロス達に告げた。
「すでに起こっている、あるいは予知されている関連事例は、大阪市近郊での事件ばかり。敵は大阪市内にて事件を多発させることで、周辺の一般人を避難させ、大阪市内を中心として拠点を拡大させようと画策しているのでございましょう」
 大規模な侵攻ではないが、戦況に対する影響は皆無ではない。放置すれば、ゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』しまうだろう。
 それを防ぐには、一つ一つの敵の侵攻を完全に阻止し、さらに隙を見つけて反攻に転じねばならないという。
「こたびもそれらの事例に連なる事件でございます。大阪市内のいちご農家が襲撃されることが予知されました」
 現れるのは、『甘菓子兎・フレジエ』という女性型の攻性植物。配下の『ストロングベリー』を従えていちご農家に現れ、配下たちに襲撃命令を下すと、自らは立ち去ってしまう。
「フレジエは即時撤退し、残念ながら彼女と対峙することは叶いませぬ。が、残される配下は農家の方々にとっては脅威そのもの。必ずや撃破せねばなりますまい」

 敵はストロングベリー3体。
 いちご頭のムキムキ攻性植物である。頭部に口のような切れ込みはあるが、会話はできない。
 拳を未熟な白いちごに変化させて殴る、筋肉から毒の蒸気を立ち昇らせる、キレキレのオタ芸で精神的ダメージを与える、といった攻撃を行ってくる。
「敵が現れるのは農家の隅にある、露地栽培のいちご畑。中央に存在するビニールハウスではいちご狩りが開催されておりますが、幸いにして、ストロングベリーの出現位置からは距離がございます」
 ケルベロスはフリジエが立ち去って間もない頃に駆け付けることになる。周辺に人はおらず、ビニールハウスも戦闘に巻き込まれる距離ではない。存分に戦いに集中することができるだろう。
「攻性植物勢力の目論見、甘菓子兎・フレジエ自身の行動の目的など、気がかりは尽きませぬが、まずはいちご農家の無事が第一」
 敵は数は多いが、強敵というほどではない。気を抜かず、普段通りの実力を発揮すれば、負ける敵ではないだろう。
「いちご農家を守ったのち、余裕があるようでしたら、少々の時間をとっていちご狩りを楽しむのも一興でございましょう」
 鬼灯は晴れやかに微笑むと、ケルベロス達をヘリオンへと誘った。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
アカツキ・イェーガー(木漏れ日を宿す黒狼・e02344)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
狼森・朔夜(迷い狗・e06190)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)

■リプレイ

●いちご頭のマッチョメン
 青空の下に広がる苺畑の真ん中で、マッチョないちご頭が三体、怪しい動きを繰り広げている。腰を深く落とし、腕をキレキレに振り回し、頭を激しく動かし、上半身を大きく捻りながら、じりじりと前進していく奇怪な一団。
 攻性植物『ストロングベリー』。へっぽこ盆踊りモドキだった主のそれとは比べ物にならない、キレと気色悪さであった。
 予知を聞いた直後には、
「オタ芸……そういうダンスもあるんですね!」
 と興味津々瞳を輝かせていたラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)は、今は実物を目撃して、
「……ダンスなんでしょうか?」
 と呆然とするばかり。馴染みのあるボールルームダンスとはあまりにかけ離れた未知の文化に、困惑気味である。
「攻性植物のオタ芸ってどんなのかと思ったけど、想像以上に出来がいい……これは、引くなぁ……」
 アカツキ・イェーガー(木漏れ日を宿す黒狼・e02344)はなんとも形容しがたい顔つきで、サカサカ動くいちご頭たちを眺めやる。
「……あの見た目のイチゴを引き連れてオタクさんの踊りとか、なんか芸人さんみたいなのですね」
 ビニールハウスとの位置関係などを改めて確かめながら、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はちらちら視界に入るシュールな物体に無表情に呟いた。
「なんつーか、自然に対して真っ向から喧嘩売ってる奴らだな……あんなのギャグ漫画でも見たことねぇよ」
 また変なのが暴れ出したものだとぼやく村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)。しかしふざけた外見とはいえ、攻性植物が力をつけてきているのは確か。邪魔な植物ならさっさと刈るに限るのだ。
「いちごの化け物がオタ芸する姿って……なんていうかすごく不気味……!」
 感情豊かに表情を歪めるヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)。その傍らに、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が寄り添った。
「農家の人達の努力を、口に合わないってだけで無駄にするってのは気に入らないな。被害が大きくならない内に、片をつけるぜ」
 恋人たちに行く手を遮られたストロングベリー一行が、ピタリと動きを止めた。
「食べ物を粗末にすることは許されない。けど苺が私にとって食べ物であるかどうかは、専門家の間でも意見の分かれるところ」
 後方に陣取る板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)は、いつものてきとーな口調ながらに、その表情は若干渋い。
「農家の皆さんが丹精こめたイチゴを盗った挙句、畑をめちゃめちゃにするだと。案山子のなりそこないみてぇなナリしてるくせに、良い根性じゃねぇか」
 敵を睨み据える狼森・朔夜(迷い狗・e06190)の声は低く、激しい苛立ちがにじみ出ている。
「まとめて刈ってやるからそこに並べ」
 サイリウムを四本挿しにした拳をきっかり斜め四十五度に掲げた姿勢のまま静止していたストロングベリーたちは、頭部の切れ込みを大きく歪めた。
 殺意を秘めた、邪悪な笑みの形に。

●怪しい踊りとムレる汗
 カッ!と、眩い光がどこからともなく三体のストロングベリーを照らし出した。
 ぎょっとして身構えるケルベロス達の眼前で、ストロングベリーたちは静止した状態から、滑らかにオタ芸を再開した。下半身をどっしりと構え、激しく、大きく、しなやかに、腕を振るい手首を回し頭を振る。
 波打つ筋肉、盛り上がる筋肉、輝く筋肉。ただでさえ直視に厳しい光景なのに、これにグラビティが乗ってくるからさあ大変。三連続のオタ芸グラビティに、前衛に陣取るケルベロス達から精神的苦痛を訴える声が相次いだ。
 攻撃を免れた中衛で、真理はヘッドライトを警戒色の黄色に光らせるライドキャリバーに跨り、エンジンを全開にした。
「最初、息合わせるですよ――行くです!」
 キメポーズで静止して余韻にひたるいちご頭の一団に、人馬一体となって突っ込む真理とプライド・ワン。超加速突撃とスピンに蹴散らされた三体の中、より大きなダメージを被った個体を、ケルベロス達は見逃さない。
「そっちがオタ芸するのなら、あたしは歌。最後に立ってるのはあたしたちなんだからね!」
 ヴィヴィアンは持ち歌を歌い上げながら、踊るようにエアシューズを駆り、右端の一体に狙いを定めた。煌びやかな流星の輝きを散らしながら、美しい蹴撃が敵の胸部に吸い込まれていく。
「オタ芸をかます筋肉苺、か。シュールって言うかなんていうか……が、まだまだだな!」
 鬼人は催眠の誘惑を払いのけ、アイドルとして戦うヴィヴィアンの動きに合わせて死角から斬り込む。オタ芸経験者として一家言あり、桜吹雪を散らしながらの斬撃も、張り合うかのようにキレが半端ない。
 チッ、と吐き捨てるような舌打ちをするのは朔夜。彼女の実家は農家、他人事ではない。ストロングベリーの頭部のよく出来たイチゴ感や、妙にクオリティの高いオタ芸も火に油。高まったイライラを籠めたドラゴニックハンマーが火を噴き、右端のいちご頭の足回りに荒々しく着弾する。
「形はホント苺だな……」
 エアシューズで駆けこんだ柚月は、まじまじと頭のいちご部分を思いっきり蹴飛ばした。筋骨隆々とした体をしなやかに反らしながら吹っ飛んでいく姿に、改めてドン引きするケルベロス一同。
「まあ見た目はともあれ……気に入らないってだけで農家の人が丹精込めたイチゴを台無しにする連中を、見過ごすわけにはいかないな」
 治癒を預かるアカツキは、しっかりもののボクスドラゴンに攻撃を任せ、花びらのオーラでそつなく催眠を祓っていく。
「……世の中にはやっていいことと悪いことがあってですね」
 同じく雷の壁で治癒と耐性を付与しながら、えにかは低く呟いた。
「この私を苺の香り漂う畑に呼びやがって! ヤローただじゃおかねー!」
 ……怒りのベクトルは、他の面々とだいぶ異なるご様子である。
「できるだけ畑の被害は抑えないと……いずれ故郷の農場を継ぐ身として、看過はできません!」
 対照的に、ラリーは真っ当な正義感を発露させ、稲妻帯びた超高速の突きで攻撃した。
 陣形を乱されたストロングベリーたちだったが、ケルベロスの攻撃の隙を縫って素早く整列し直すと、今度は一斉にボディビルを思わせるマッスルポーズを取り始めた。盛り上がる筋肉、ムレムレに立ち昇る蒸気。
「うわぁっ!」
「最悪……っ」
 体によろしくない臭気と毒と、視覚的・精神的ダメージとが、ケルベロス達を苦しめるのであった。

●いちご三連撃沈
 ストロングベリー達の攻撃はとかく厄介なものが多かった。多重に積み重ねられる催眠、痺れ、毒。それ以上に見た目で精神を削られないでもなかったが、いちごのために奮起するケルベロス達は決してうち崩れない。
「輝く刃をもって……正義に祝福を、邪悪に裁きを!」
 仲間を庇った傷をSacred Energy Shooterで治癒するラリー。空中に作り出された白く輝く短剣が、肉体を活性化させていく。
「しっかり支えるからな。安心して戦ってくれ」
 回復でサポートに回るのも重要な役目。アカツキは仲間の体力や状態異常に目を光らせ、コミュニケーションを怠らずに的確な治癒を振り撒いていく。
「取りこぼしあるかも。ヒダリギさん、任せた!」
 列回復に勤しみながらも、率直にぶっちゃけるえにか。
 頼られた近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)は淡く微笑み返し、腕に巻きついた攻性植物を黄金に輝かせた。
「うん。みんなといちごを、守ろう」
 連続して振り撒かれる治癒と耐性に、盤石に固まっていく陣営。
 ケルベロス達の攻撃は右端の一体に集中的に降り注ぐ。徹底して狙われた一体は、動きが如実に鈍り始めていた。他の二体と揃った動きをしようとしてもワンテンポ遅れる。オタ芸のキレも微妙に曇り、シュールな絵面に間抜けさも加味され始めた。
 目に見えて敵を追い詰めていることを実感し、ケルベロス達は勢いづく。
「苺に体が生えてるのも気持ち悪いが、動きがつくとなお気持ち悪いな」
 物理的なダメージより視覚的な衝撃に眉を顰めつつ、柚月は日本刀を抜き放ち素早く斬り込む。
「お前らはぶつ切りカットがお似合いだ!」
 緩やかな弧を描く刃が、右端のストロングベリーの腱を見事に斬り裂いた。
 追い込まれた一体目は膝を震わせながらも、固めた拳を膨張させた。ジャキ、ジャキジャキンッ! ストロングベリーたちの拳が、次々と未熟な白いちごへと変じていく。
 三体は助走なしに地を蹴った。陸上選手の如く見事なフォームで膝を上げて中衛へと瞬く間に距離を詰める。矢継ぎ早に振りかぶられるいちご拳。咄嗟に盾役たちが一撃目と二撃目を肩代わりするも、最後の一撃までは防げない。
「く……っ!」
 三撃目をもろに頭部にもらい、額から血を流しながら吹き飛ばされる真理。衝撃と共に砕けた白いちごのまき散らす果汁が、膨大な痺れを催していく。
 頭から浴びてしまったすっぱ渋い果汁を拭い取り、ヴィヴィアンは鬼人と頷き合うと、共に月と華の輪舞を踊り始めた。紅華歌舞。歌い続け、踊るように戦い続けてなお、ライブで鍛えたアイドルの胆力は、凛とした歌声と神秘的な舞いを華麗に表現していく。
「これがあたしたちの芸術の高み、だよ……!」
 恋人たちの周囲を花びらが舞い散り始める。二人のパフォーマンスを彩りながら振り撒かれる、治癒の花吹雪。フェアリーブーツでこっそりと、しかし野性的に舞い踊る朔夜の仕業であった。
 歌声と花吹雪に促されるように、鬼人は朗々と詠じる。
「天に昇る青い月、華の赤と交わり、その破邪の光、刀に宿して敵を討つ。――共に舞うぞ、愛しき人よ!」
 蒼月刀舞。三日月を思わせる白刃に華の紅を纏わせ、闇夜を揺蕩う青い月の如く、静か斬り結ぶ。恋人の輪舞に押し上げられた力を載せて。
 逃すことを許さぬ斬撃。ストロングベリーの全身が、熟れる前のいちごのように脆く砕け散った。
 一体目を撃破し、ますます波に乗るケルベロス達。残る二体を瞬く間に追い詰めていく。
「美味しく食べられてこその農業です! ムダにはさせません!」
 ラリーは宝剣「God save the Queen」を騎士らしく掲げ、空の霊力で包み込んだ。幼く見える体から繰り出される剣技が、二体目のストロングベリーに積み上げた弱体化を夥しく増殖させる。
「こういうイチゴは遠慮しとくよ!」
 治癒の手を止める余裕を得て、アカツキは魔力を秘めた色鮮やかな蝶を呼び出した。夢現を舞う蝶が舞う。放出されていく魔力が、敵の認識を眩惑していく。
「お化け苺はこの畑から消えろ!」
 柚月は大いなる奇術の力を秘めたカードを投げつけた。斬符嵐旋。素早く回転しながら周囲を取り巻くカードが、自在な速度と軌道で敵を切り刻む。
 全身に夥しい傷を負った二体目は、握りつぶされたいちごのように、赤く透ける果汁を飛び散らして四散した。
「残り一体! 皆さん! 懲らしめてやりなさい!」
 えにかは威勢よく仲間を鼓舞しながらも、ひたすら治癒にかかりきり。得意技の夜鳥の叫びもおあずけで、自分の手で攻撃する気がまるでない。
 ここに至ればもはや押し切るのみ。ケルベロスの攻勢はとどまるところを知らず、懲りずにオタ芸を披露する三体目はあっけなく瀕死へと追い込まれていった。
「私だって、ただ盾になるだけじゃないのですよ……!」
 呟きながら、高速演算で敵武装の構造弱点を割り出す真理。破剣衝。あらゆるデータを駆使した、痛烈な一撃が敵の武装を分解する。
 苛立ちを秘めた眼差しのまま、三体目を睨み据える朔夜の傍らに、厳冬の野山で荒れ狂う地吹雪の如き、真っ白な雪狼が現れる。
「凍りつけ」
 雪狼眼。狼の蒼白い眼が、三体目のストロングベリーを厳寒の内に閉ざした。
 全身を霜に覆われた最後の一体は、食べ時を逃して枯れていくいちごのようにしおしおと干からび、最後は粉微塵に消えていった。

●おしかったり苦かったり
 ビニールハウスの中は、たくさんの人々で盛況だった。皆、戦闘があったことにも気づかなかったようで、実に平和な光景である。
「やっぱりイチゴ狩りはしていかないと。な、アイヴィー」
 アカツキの言葉に、いちご大好きなボクスドラゴンは大喜び。主従連れ添って意気揚々とハウス内を散策していく。
「ああ、良い匂い。……土産、持って行ったら喜ぶかな」
 ありがたくいちご狩りに参加した朔夜も、すっかり機嫌を直した様子。こんな時にも思い浮かぶのは、旅団仲間の顔だ。
「自然が生んだ甘み。疲れがとれるな」
 柚月もイチゴの味を堪能し、ほっと一息。皆に加わってひたすらイチゴを咀嚼するヒダリギも、言葉もない様子でしきりに頷き同意している。
「土は弱酸性で、肥料は……へえ、そうなんですか、そんな裏技が……!」
 同じく舌鼓を打っていたはずのラリーは、いつの間にやら農家の人のアドバイスに熱心に聞き入っている。
 一口食べて、真理は少し物思いにふける。
「……美味しいのです。そもそもフレジエは、何が不満で農園を襲っているのでしょうか……?」
 それはもはや本人のみぞ知るところ。そのために調査を進めてみるのも、また一興かもしれない。
 恋人たちも大手を振るってイチゴ狩りを楽しんでいる。ボクスドラゴンのアネリーと一緒になってはしゃいでいたヴィヴィアンは、赤い大粒を摘まむと、不意に傍らを振り返った。
「はい、あ~ん♪」
 イチゴの色が相まって本当に綺麗だよなぁ……などと彼女の赤い髪に見惚れていた鬼人は、突如水を向けられ心臓を跳ね上げた。
「食べさせあう、の、か? お、おう、解った、ほい、あーん、てな……んじゃ、お返しに」
 目を閉じ、口を開けて待つ彼女の口に、おいしそうな一粒を優しく差し入れる。
 口いっぱいに広がるいちごを味わい、ヴィヴィアンは嬉しそうにはにかんだ。
「……ふふ、いつもより甘く感じるね♪」
 とっさに答えが返せない鬼人の顔が赤く見えるのも、イチゴのせいなのだろう、きっと。
 そんな幸福な時間が過ぎていくビニールハウスから遠く離れた露地栽培の畑には、未だにヒールに勤しむえにかの姿があった。
 もちろん置いてきぼりにあったのではない。むしろ自ら畑の修復役を買って出て、気持ちよく皆を送り出したのである。決していちご狩りに遅れようとしているとか、そんなわけでは……。
「わざわざありがとうねぇ。お礼といっちゃなんだけど、これ、食べてねぇ」
 すっかり綺麗になった畑に、空気を読まずにやってきた農家のおばあちゃんが差し出したのは、大きなザルいっぱいに盛られた、イチゴの山。
「……アリガト、ゴザイマス」
(「生の苺は食べないぞ! お持ち帰りして砂糖と一緒に煮込んでやる! ジャムになるがいいサ! 加熱してあればワンチャン……!」)
 涙目気味にカタコトで感謝を述べながら、果物嫌いのえにかは心に誓うのであった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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