子々孫々まで祟るぞえ~

作者:秋津透

「……モザイクがないということは、ワイルドスペース関係ではないみたいですね」
 長野県東筑摩郡麻績村。山深いこの地に、いつ誰がどうやって建てたのかわからないヨーロッパ風の古城がいきなり現れたという情報……というか噂を聞きつけやってきたシアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)は、少し離れた木の上から城を見やって呟いた。
「でも、やっぱりデウスエクス絡みなんでしょうね……」
 そうでなければ、我が先祖の『呪われた城』そっくりな建物がいきなりこんな場所に現れるなんて、ふざけた話はないでしょう、と、既に滅んだヨーロッパの某小国の王族の末裔であるシアライラは、複雑な表情で続ける。
「さて、敢えて『呪われた城』へ踏み込んでみますか、それとも今日は……」
 いったん引き上げましょうか、と、言いかかったシアライラは、不意に背後に氷のように冷たく、同時に火炎のように熱い視線を感じて振り返った。
「……やはりあなたでしたか。我が国を単身で滅ぼした黒の王女クリュタイムネストラの亡魂……いえ、その残霊の姿と怨念を写したデウスエクス、死神」
「やはり来おったのう、ヘレネー……の子孫なのかえ? そなたは」
 古風で高貴……が過ぎてどうにも芝居じみた口調で、黒髪、黒い四枚翼、全身に黒装束をまとい、雪白の肌に瞳だけが禍々しく紅いオラトリオの貴婦人が、シアライラに告げる。
 直接会うのは初めてだが、その容姿はシアライラにとっては馴染み深いものだ。彼女の先祖、王女ヘレネーの双子の姉として生まれながら、忌まれた漆黒の翼により王位継承権を剥奪された黒の王女。
「あの城を再現して人目に晒せば、関わりある者の血縁者が生き残っておれば必ず確かめに来る、と妾が見通した通りであったな」
 ククク、と、オラトリオの姿をした死神は、表情をまったく動かさずに満足げな嗤い声を発する。その繊手に携えられた禍々しい漆黒の大鎌の切っ先が、シアライラと彼女のサーヴァント、姿を現わして身構えるボクスドラゴン『シグナス』の方へ向けられる。

「緊急事態です! シアライラ・ミゼリコルディアさんが、ご先祖様と深い因縁のある強力な死神に襲われるという予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「シアライラさんは、長野県東筑摩郡麻績村に俄かに出現した古城の近くにいるので、今すぐ全力急行します! 一刻の猶予もありません!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。死神は『クリュタイムネストラ・ジェミニ』という名で、小なりとはいえ一国を滅ぼした実力の持ち主として畏怖されています。使うグラビティは簒奪者の鎌の武器グラビティと、オラトリオの種族グラビティです。ポジションは、おそらくキャスター。一対一……いえ、サーヴァントを含め二対一で戦っても、シアライラさんたちに勝ち目は薄いでしょう」
 そして康は、一同を見回して続ける。
「幸いというか何というか、敵は単体で、増援は呼ばず、撤退もしません。相手を斃すか、シアライラさん……と、救援に入った皆さんが全員斃れるか、どちらかになります。どうかシアライラさんを助けて、死神を斃し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 よろしくお願いします、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
加藤・光廣(焔色・e34936)
ヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)

■リプレイ

●黒の王女は沸点低い?
(「……迂闊でした。一人で来るべきではありませんでしたね」)
 長野県東筑摩郡麻績村。一族の怨敵である死神『クリュタイムネストラ・ジェミニ』と対峙するシアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)は、表情や態度に出さないよう最大限の努力を払ってはいたが、実のところ心底後悔していた。
 何しろ、相手の気迫というか憎悪の念が、理屈抜きに凄まじい。流浪の亡命王家とはいえ一国の世継王女として育てられ、ケルベロスとして経験も積んできたシアライラは、はかなげな外見からは想像もつかない気迫、胆力の持ち主だが、それでもこの相手には圧倒的な恐怖と戦慄を覚えざるを得ない。
(「……向き合っているだけで……きついですね」)
 悲鳴をあげて背を向け逃げ出したくなる衝動を、シアライラは懸命に抑える。たとえ斃されるにしても、ケレスティス王家の誇りに懸けて、無様な真似だけは晒したくない。
 すると、そこへ。
「嬢ちゃん、無事か?」
 死神とシアライラの間に割って入るように降下してきた不知火・梓(酔虎・e00528)が、銜えた長楊枝をぷっと吐き飛ばす。
 普段は飄々と軽口を叩くことの多い梓だが、相手の殺気と憎悪を瞬時に感じ、真剣な表情で唸る。
「……嬢ちゃんもまた、えれぇのに目ぇつけられたもんだなぁ」
「これが、そなたの近衛かえ? ヘレネーの末裔よ」
 死神が、冷然とした声で訊ねる。
「見栄えは少々悪いが、腕はそれなり立つようじゃな。しょせん、妾の敵ではないが」
「お生憎さま。貴方の敵は、ここにもいる」
 言い放ちながら、四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)が降下してくる。
「シリュー嬢の危機、友人として見過ごせませんね。そして死神は、存在そのものが許せない」
 淡々と告げると、沙雪は刀印を結んだ指で愛用の斬霊刀『神霊剣・天』の刀身をなぞる。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
「何を小癪な!」
 言い捨てながらも、死神は手にした大鎌を油断なく構えなおす。
 そこへ降下してきた喪服姿のファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)が、ものも言わず、体勢を整えもせず、いきなり鉄塊剣を叩き付ける。
「ぐおっ! ……おのれ、無礼者が!」
 重い一撃を受けて吠える死神を、ファルゼンは冷徹な目で見据える。
「……元が王女だろうが何だろうが、亡者の皮をかぶる下賤な死神ごときに礼を示すつもりはない」
「ほざきよる! ならば死ね!」
 悪鬼のごとき形相となり、死神はファルゼンに向け大鎌を振るう。その嫋やかな身体のいったいどこにそんな力があるのか、凄まじい速度と力が籠められた一撃がファルゼンを襲うが、間一髪、彼女のサーヴァント、ボクスドラゴン『フレイア』が飛び込んで攻撃を肩代わりする。
「お、おのれ、動物を盾にするとは……!」
 ぎっ、と奥歯を噛む死神に、梓と沙雪がそれぞれ手にした斬霊刀、梓は『Gelegenheit』沙雪は『神霊剣・天』に、雷の霊力を纏わせ神速の突きを入れる。
「ぐあっ! がっ!」
 痛手を受け、死神はどす黒い血を吐く。その間に、危うく両断されかけた『フレイア』は自分自身に属性をインストールして治癒、続いて降下した空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)も、『フレイア』に光の盾を付与して治癒と防御力上昇を図る。
(「予想されたことだが、敵の攻撃は凄まじく強大、一つ間違えば一撃で致命的になりかねん。ディフェンダーに入っているサーヴァントたちが、どこまで庇えるかが、鍵だな」)
 ボクスドラゴン諸子の健闘に期待する、と、モカは言葉には出さずに呟く。
 そして、次に降下してきた羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)は、エクトプラズムの塊を死神に叩き付ける。彼女のサーヴァント、シャーマンズゴースト『まんごうちゃん』は、祈りを捧げて『フレイア』の傷を癒す。
(「シリューさんを必ず助けるわよ。良く分からない色違いなんかに負けないわ!」)
 言葉には出さずに、結衣菜は呟く。本当は、敵に向かって堂々と宣言したいが、挑発とみなされて標的にされたら、冗談抜きで命が危ない。
(「シリューさんがどんなひとかはよく知っている。だから、絶対に……失わせたりはしない」)
 言葉に出さない方が、想いが強くなることもある、と、結衣菜はぐっと拳を握る。
 一方、シアライラはゾディアックソードから光を放ち、前衛全体に状態異常に対する耐性を付与。加えて、まだ治癒しきれていない『フレイア』のダメージを癒す。
 そこへ死神が、噛みつくような口調で訊ねる。
「ヘレネーの末裔よ。貴様を守らんとするこの者たちは、ケレスティスの近衛ではないのかえ? 腕は立つようじゃが、礼儀がなっとらん……よもや、金で傭兵を集めたのではあるまいな?」
「近衛でも、傭兵でもありません。この方々は、私の友、かけがえのない仲間。……そして、デウスエクスを討つ者、ケルベロスです!」
 敢えて死神の目をまともに見返し、シアライラは言い放つ。
「王家に生まれ、それ以外の生活を知らないあなたからは、無礼で野卑に見えるのかもしれませんが……そもそも私以外のケルベロスにとっては、あなたは単なる敵。敬意を払うような存在ではないのです」
「まぁ、そういうことだぁな」
 降下してきた加藤・光廣(焔色・e34936)が、にやりと笑って死神に告げる。
「どんな因縁があろうが、シアライラをやらせるわけにはいかんなあ。やりたきゃこの俺、加藤光廣様を倒してからだ。器用さはないが、簡単には倒れてやれんぞ?」
「くっ……累代の家臣でもあるまいに、無駄に格好をつけおって!」
 下郎め、生意気な口を塞いでくれる、と、死神は再び鎌を振り上げるが、そこへ光廣が刃のような回し蹴りを打ち込む。
「ぐっ!」
「お、当たったか。いや、やってみるもんだなぁ」
 わっはっはと笑うと、光廣はスキットルを傾けウイスキーをぐびっと呷る。
「あ、あの、加藤さん……?」
「心配するな、俺は酔ってる方が心身ともに強いんだ」
 心配そうなシアライラに、光廣は無雑作な口調で応じる。おいおい待て待て、俺だってさすがに戦闘中は飲まんぞ、と、同様にスキットルで酒持参の梓が言葉には出さずに突っ込む。
「……おのれ、馬鹿にしおって、酔いどれが」
 ますます憤慨した表情で、死神が唸る。
 そして、最後に降下してきたヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)は、シアライラに光の盾を付与して防御力を上げた。

●妄執果てて
「おのれ、無礼者どもが……!」
 ケルベロスたちとの攻防で、満身創痍の血みどろ状態と化した『クリュタイムネストラ・ジェミニ』は、怨念の籠った視線で敵対者たちを睨み回す。
「もはや許さぬ! 一国の軍を消し飛ばした、妾の怒りを受けるがよいわ!」
 宣告とともに、死神は黒い四枚の翼を広げる。
「天誅! シャイニングレイ!」
「うわっ!」
 翼から放たれた強烈な破壊光線が、後衛を襲う。『シグナス』がシアライラを、『フレイヤ』が結衣菜を、光廣がヤクモを庇い、狙われた者にダメージはなかったが、その分、庇いに入った者が肩代わりして受ける。
「確かにキツい攻撃だが、一国を滅ぼすってのは、少々オーバーじゃねーか?」
 呟いた梓に、シアライラが応じる。
「ケルベロスではない一般人の軍隊にとっては、充分に致命的です。我が国が滅びた際の記録によれば、王と王城を守ろうとした近衛軍精鋭五百余名が、彼女一人に壊滅させられました」
「なるほどねぇ……」
 確かに、どんなに人数がいようが重武装しようが訓練された精鋭だろうが、一般人がデウスエクスに敵うわきゃなかったな、と、梓は軽く肩をすくめる。
「だが、そいつは……昔の話だ!」
 言い捨てると、梓はオリジナルグラビティ『試製・桜霞一閃(シセイ・オウカイッセン)』を発動させる。
「我が剣気の全て、その身で味わえ」
 斬霊刀から打ち出された剣気はやや遅いスピードで飛ぶが、重なるダメージのせいか、あるいは渾身の列攻撃を撃ち終えた直後のせいか、躱そうとする死神の足がゆらっとよろめく。
「あっ……ぐひいっ!」
 躱し損ねた剣気に直撃されてしまい、死神は苦しげに胸を抑えて両膝をつく。
「……押し時だね」
 呟くと、沙雪は二本の斬霊刀『神霊剣・天』と『神霊剣・空』を両手に構え、強烈な衝撃波を撃ち出す。これも躱せず、死神はまともに受ける。
「ぐ……あ……」
 呻く死神の口から、血ではなく白い煙のようなものが吐かれ、全身の傷からも何かが白く漂う。
「貴様の狂った妄執も、これまでだな。とっとと、行くべきところへ行け」
 冷徹に指摘し、ファルゼンが地獄の炎をまとわせた鉄塊剣を容赦なく叩き付ける。
 ばき、と破壊音があがり、死神の傷から漏れ出ている白い煙に火が付く。
「お、おのれ……おのれぇ……」
(「よろしい、間違いなく押し時だ」)
 ある種レプリカントならではの徹底性というか、この場に及んでも言葉は出さず、モカがオリジナルグラビティ『剃刃龍巻(カミソリトルネード)』を放つ。
(「私の前に立ち塞がるならば、全力で斬り刻む……そもそも、私の朝は虹喫茶の朝食で始まる。シリューさんにもしもの事が有れば、私はこれからどこで朝食を食べればいいのだ?」)
 想いと言葉は胸に秘め、モカは無言のまま攻撃を放つ。……うん、確かにこの言葉は出さなくて良かったかもしれない。
 そして結衣菜も無言を貫き、全身炎に覆われていく死神に、強力な重力蹴りを打ち込む。
「……髪や目の色から、私はヘレネー様の再来と呼ばれました」
 ヘレネー様はあなたと二人で王位につこうと、最後まで剥奪には反対していたと記録されていますが、それを伝えてもあなたの耳には入らないでしょうね、と、シアライラは首を横に振り、時空凍結弾を放つ。
「あなたを討ったところで、失われた命も国も歴史も、元には戻らない……でも、これで我が一族の危機は、一つ減ったと言えるのでしょう」
 呟くシアライラに、炎と氷に覆われていく死神が、ぞっとするような声で告げる。
「マダダ……マダ、消エテナルモノカ……怨ミヲ……我ガ怨ミヲ子々孫々マデ……」
「いつまでも昔のことをグズグズと、しつけえったらねえなあ」
 呆れた口調で告げながら、光廣はオリジナルグラビティ『予想屋の直観(キョウノネライメ)』で自分自身を治癒回復する。
「シアライラを手にかけたところで何になる? 今更手遅れだぞ」
「貴様ナドニ……何ガワカル……」
 錆びた金属を擦り合わせるような耳障りな声で、死神が呻く。その身体は火に包まれ、もはや目鼻立ちもさだかではなく、四枚の黒翼は重たげに貼りついた氷に覆われている。
「あとは……シアライラ様に?」
 ヤクモが『キグナス』に光の盾を付与しながら、誰にともなく訊ねる。すると沙雪が眉を寄せて応じる。
「会話をするということは、見かけより力が残っているようです。反撃されても厄介ですから、一撃入れましょう。とどめになってしまったら、申し訳ないですが……」
「いえ、構いません。四乃森さんに送っていただければ、私がやるより完璧に浄化できるでしょうし」
 シアライラが応じると、死神が呻き声をあげる。
「何ヲ、好キ勝手ニ……我ガ深キ怨ミ、貴様ラナドニ浄化ナドデキルト言ウナラ、ヤッテミセヨ!」
「では……」
 礼儀正しいのか慇懃無礼なのか、沙雪は死神に深く一礼し、オリジナルグラビティ『破邪聖剣・建御雷(ハジャセイケンタケミカヅチ)』を発動させる。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 刀印を結び、九字を唱えつつ刀印を結んだ手で印を四縦五横に切る。指先に力を集め光の刀身を形成させ、沙雪は死神を両断する。
 しかし、死神は崩れない。炎の勢いが増し、凍りついた翼も炎に飲まれ、もはや全身の形も朧になっているが、しかし、それでも、そこにはまだ何かがいる。
「マダダ……マダダ……怨ミ……マダ……」
「わかりました。この技でないと、あなたを送ることはできないのですね」
 言い放つと、シアライラはオリジナルグラビティ『Lumen de Purificatione(ジョウカノヒカリ)』……ケレスティス家のケルベロスにのみ伝わるグラビティを発動させる。
「燃え盛る太陽よ、煌々と輝く月よ、夜空に瞬く無数の星よ。大いなる力を与えたまえ!」
「アアアアアア……オオオオオオ……」
 シアライラが天空に祈りを捧げることにより、敵を浄化し自らを癒す光が降り注ぐ。光を浴びた炎は急速に縮まり、そして消えた。
「……やった」
「でも、本当に消えたの……かしら?」
 光廣が唸り、結衣菜が不安げに呟く中、シアライラは歩を進め、死神が立っていたあたりから何かを拾い上げる。
「それは?」
「おそらく……ケレスティス王家の「失われていた」王冠です」
 ラテン語で『Noctem Pacis Caelestis(夜なくして安らぎなし)』と刻まれた文字を見やって、シアライラは呟いた。
 すると。
 空中に、シアライラによく似た金髪翠眼、純白の翼を持つ美しいオラトリオが現れる。その姿の向こうに半ば空が透けて見えるのは、幻影か、あるいは残霊か。しかし彼女からは、寸毫の禍々しさも感じられない。
「姉上様……姉上様。お迎えに参りました」
 鈴を鳴らすような声で、オラトリオの幻影は告げる。すると、寸前に倒したばかりの黒の王女『クリュタイムネストラ・ジェミニ』が、半分透き通った姿で現れる。黒髪紅眼、漆黒の翼に変わりはないが、大鎌は持っていない。
「ヘレネー……そなたが、妾を迎えに来てくれたのか? 妾は……そなたとともに行けるのか?」
「もちろんです、姉上様。もはや、私たちを隔てるものは、何もありません。王位も、王国も、すべてはうたかたの夢。生も、死も、愛も、憎しみも……。まして翼の色が何色だろうと、咎める者などおりません」
 歌うように告げ、オラトリオの幻影……白の王女ヘレネーは輝くような笑みを浮かべ、双子の姉、黒の王女クリュタイムネストラへと手を差し伸べる。
 最初はおずおずと妹の差し伸べる手を取ったクリュタイムネストラは、すぐに漆黒の翼を広げ、純白の翼を広げたヘレネーとともに、空の彼方へと舞い上がる。漆黒と純白、半透明の二人のオラトリオが飛び去って行く姿を、ケルベロスたちは声もなく見送る。
「あれは……何だったんだ?」
 オラトリオたちが消えて間もなく、光廣がシアライラに訊ねる。するとシアライラは、深く吐息をついてから、微笑して答えた。
「わかりません。霊魂なのか、残霊なのか、もしかするとサークレットから映された、ただの立体映像かもしれません。でも、私としては見た通り、黒の王女様の魂が、白の王女様とともに天に昇って行ったと信じたいです」

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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