白の巫女

作者:紫村雪乃


 大阪の下町。
 狭い路地であるが光と声が溢れている。飲み屋が立ち並んでいるのだ。
 そこに一人の男が足を踏み入れた。背が低く、小太り。鼻は上をむいている。女性には縁のなさそうな男性であった。いや、事実縁はなかった。名を岡林栄一という。すでに酒に酔っているのか、足取りはふらついていた。
「ねえ」
 声がした。優しい女性の声だ。栄一は足をとめた。
 別の路地に続く角。女の姿があった。声と同じく優しげな美少女だ。
 かっと栄一は目をむいた。少女の美しさにではない。いや、それもないではないが、それよりも少女の姿に。少女はほとんど裸同然であったのである。輝く裸身に蔓のようなものがからみつき、乳首や股の局部のみを隠していた。
「こっちに来て」
 少女がいった。すると栄一はふらふらと少女にむかって歩み寄っていった。少女の姿を訝しく思うこともなく。すでにこの時、栄一は少女の魔力に魅了されていたのかもしれない。
 二人は歩き出した。行き着いたのは広い空間である。
「私と一緒になりましょう?」
 少女はいった。すると栄一はうなずいた。彼は少女と性的な関係をもてると思ったのであるが、事実は違った。
 少女が栄一にだきついた。そして口づけした。そして濡れた舌が栄一の口腔内を這い回った。
 ごくり。
 甘い花の香りのする少女の唾を栄一は飲み込んだ。そこに攻性植物の種が含まれていることも知らずに。


「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したわ」
 ほとんど裸といっていい姿態の女がいった。艶やかな美女。和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)であった。
「攻性植物たちは大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているわ。おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心に拠点を拡大させようという計画なんでしょうね」
 大規模な侵攻ではない。が、このまま放置すればゲート破壊成功率もじわじわと下がっていってしまうだろう。それを防ぐ為には敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければならなかった。
「今回現れるのは女性型の攻性植物よ。深夜の大阪の繁華街に現れ、酔っぱらった男性を誘惑し、攻性植物化させようとしているようね」
 被害者の男性は女性に縁が無いタイプであった。故にあからさまに怪しい姿の攻性植物であっても魅了されてしまうようだ。
「この被害者を避難させてしまうと、攻性植物は別の場所に現れてしまうため、被害を防ぐことができなくなる。けれど、直前に少しだけ接触して攻性植物の誘惑を断るように仕向ける事ができれば、男性が攻性植物から離れていくわ。そうなれば男性の安全が確保できる」
 香蓮はいった。誘惑に乗ってしまう理由は女性と縁遠い事なので、そこを短時間でフォローできれば有利に戦えるだろう。
 戦場は路地裏奥の広場。人気はない。広いので戦闘に支障もなかった。
「攻性植物の武器は蔓。それを鞭のように使うわ。威力は絶大よ。さらにある任意の範囲の地を爆裂させることができる。注意が必要よ」
 香蓮はあらためてケルベロスたちを見回した。そして艶やかに口元をほころばせた。
「敵は裸といっていい姿。見蕩れて攻撃されないように気をつけてね。それから男性のことだけれど、助けるには誘惑に乗らないようにさせるしかないわ。難しい場合は攻性植物の撃破を優先してちょうだいね」


参加者
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ


 大阪の下町。
 夜だ。歩く二人の女の姿があった。
 一人は二十歳ほど。金髪青瞳。陽光をあびて輝く端麗な花のような娘だ。名を写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)という。
 もう一人はリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)という名の少女であった。
 十七歳。透けるような白い肌の玲瓏たる美少女であった。
「随分とまあ……色んな手段を使って来るわね」
 呆れたようにリリーは肩をすくめてみせた。
「えっちなのはいけなくはないけど今回はいけないと思います! ま、それはおいといて、バナナイーターの時もそうだったけど、意外と色仕掛けとか使うんだね攻性植物。植物のくせにー」
 麗春がいうと、リリーは皮肉っぽく笑った。
「手段を選んでられなくなったっというところかしら……?」

 別の夜道。ここにもふたつの人影があった。
 ひとつは十六歳の少女だ。ピンクの髪をツインテールにし、ぱっちりと開いた大きな目が魅力的な可愛い顔立ちの美少女である。
 もうひとつは男であった。浅黒い肌で三十歳ほど。少年めいて見えるのはドワーフであるからかもしれない。
「普通いきなり全裸っぽい人とか出てきましたら、けっこうな確率で引いちゃいますですよね。これが男性の悲しい性なのでしょうか? それとも栄一さんが、かなりストライクゾーンが広いだけなのでしょうか?」
 美少女――白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)は首を傾げた。すると男――コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が不機嫌そうにぼそりといった。
「栄一という男が特別なのではない。少なくともワシはこういう娘ならほいほいついていく自信がある」
「どんな自信ですか」
 まゆは叫んだ。

 また別の道。
 二人の男が歩いていた。一人は十六歳の少年だ。ぼさぼさの髪でとこかぼんやりとしている。整った顔立ちであのだが、雰囲気のせいでそうは見えなかった。
 名は蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)。ニホンノウサギの人型ウェアライダーであった。
「いくら美人でも、街中に突然全裸は怪しすぎでしょ。おっさんの目を覚まさせるのもケルベロスのお仕事なんすねぇ……」
 ため息まじりに蒲はつぶやいた。すると傍らを歩いていた男が顔をあげた。九歳の少年である。が、綺麗な顔立ちで少女にしか見えなかった。
「攻性植物は恥ずかしい恰好をしているというのは解りますが、それは何も身に着けずにいる事で同情を誘っているのでしょうか?」
 少年――ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)が問うた。
「同情?」
 蒲はやや目を丸くした。しかしすぐに気だるげに笑うと、
「同情というか欲情というか……。しかし、ほいほいついてって路地裏なんてところで殺されるようなことがあったら、流石におっさんの人生に対して涙を禁じ得ないっすよ。ああ、これは男性の敵っすねぇ。早く倒さないと」

 ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)は一人で戦場にむかっていた。
 夜目にも鮮やかな白い肌。気品にみちた秀麗な美貌。モデル並みのプロポーション。美少女といっていい。
「植物は美しく芳しい花で虫やらの生き物を誘い、子孫を残すために利用してるので理にはかなってますが……人を食い物にするのは見過ごせませんね。となれば、更に芳しい花で誘惑を断ち切るのがよいでしょうか」
 ぽつりとベルローズはつぶやいた。その美麗な顔にうかんだのは困惑の色だ。
「お仕事とはいえ、初見の殿方に密着するのは抵抗が……これも仕事のためで、最も効果的と判断されること。でも彼が抑えられず接吻とかされたら大変」
 その時、ベルローズの脳裏に先日の戦いの光景が蘇った。彼女はオークの魔力に負け、自ら尻を振り、愛し合ってしまったのである。今でも熱くて太くて硬い触手の感触を肉体は覚えていた。
「いけないこと……忘れないと」
 首を横に振ったると、ベルローズは足を速めた。


 狭い路地であるが光と声が溢れている。飲み屋が立ち並んでいるのだ。
 そこに一人の男が足を踏み入れた。岡林栄一だ。
「あれか」
 スマホを手に、蒲はちらりと視線を投げた。その横を栄一が通り過ぎていく。
「あ、おじさんおじさん! 運が良いデスね!」
 突然、声があがった。底抜けに明るい声が。驚いたように栄一が立ち止まる。
 ギターをひいている女の姿があった。躍動的な美少女である。が、どこか挑みかかるような雰囲気があった。
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)。【神裏切りし13竜騎が一人、病喰いの【白金の竜騎】に連なる一族の少女であるが、無論、そのことを栄一は知らなかった。ただシィカから吹き付ける熱情に激しく惹かれた。
「今度ボクのライブがあるのデスが、おじさんみたいな人に是非聴いてもらいたいのデスよー!」
「えっ」
 栄一は足をとめた。するとシィカは走り寄った。ライブチケットを手渡して、手を握る。
「あっ」
 栄一は赤面した。が、かまわずウインクしながら、シィカは手を振って去っていった。
 呆然として栄一はシィカを見送った。と――。
「そこのお兄さーん!」
 声がした。ふりむいた栄一は手を振る美しい娘の姿を見出した。麗春だ。
「お、俺?」
「そう。ちょっと後で付き合ってくれない?」
「付き合う? い、いいけど」
 どぎまぎしながら栄一はこたえた。麗春は美しい娘だ。嬉しくないはずがなかった。
「アタシもお付き合いしてもらおうかな」
「はあ?」
 振り向いて栄一は驚いた。闇に白くけぶるような美少女が立っている。リリーであった。
「は、はい。お、俺……いや、僕でいいなら」
 こたえ、栄一はしばらくして歩き出した。夢見心地で。
 さっきまで彼は世界に嫌われていると思っていた。が、今は違う。世界が微笑みかけてくれているような気が栄一にはしていた。
 その時だ。
「ねえ」
 声がした。優しい女性の声だ。栄一は足をとめた。
 別の路地に続く角。女の姿があった。声と同じく優しげな美少女だ。
 かっと栄一は目をむいた。少女の美しさにではない。いや、それもないではないが、それよりも少女の姿に。少女はほとんど裸同然であったのである。
「こっちに来て」
 少女がいった。すると栄一はふらふらと少女にむかって歩み寄っていきかけ――足をとめた。少女の魔力に抗する何かが栄一の中に生まれていたのだ。
「お兄ちゃん!」
 大きな声ともに栄一の腕に何かがからまった。柔らかな細い腕だ。
「お兄ちゃん、えっちなのは、めっ、なのですよ?」
 腕の主が可憐な微笑みを栄一にむけた。まゆである。
「あっ」
 栄一は我に返ったかのように目を見開いた。よくよく見れば少女は全裸に近い格好である。どう考えてもおかしかった。
 と、一人の男が栄一の前に飛び出した。無論、栄一は知らないことであるが、コクマである。
「お前…お前っ…ワシとは遊びだったのかっ!? キスした時に睡眠薬飲ませて金銭含めみぐるみ剥いで…しかもワシのその姿写真とってネットに流すとかぁ…悪魔かぁ!? しかも結局殆ど触れてないし!」
 少女を指差し、コクマは叫んだ。何かの記憶と重なっているのか、コクマの目には涙さえ滲んでいる。
「だ、騙されるなっ…そいつは…全てをっ全てを奪うぞっ…!」
「ひっ」
 栄一は小さな悲鳴のような声をあげた。
 危なかった。綺麗だが、そんな女だったなんて。よく考えてみれば裸同然の格好をしているなんて、おかしすぎる。
 栄一は逃げるように去っていった。


「邪魔してくれましたね」
 少女がいった。静かな、しかし恐い声音で。
「誰、貴方たち?」
「ケルベロスだ」
 コクマがこたえた。そしてじろじろと無遠慮に少女を見た。
「ドリームイーターよな。実に眼福よ。堪能できぬのが残念だがな。特にそういう罠は実に腹立たしい!」
 コクマは叫んだ。すると闇に人影がわいた。他のケルベロスたちだ。
 その瞬間、少女の繊手が動いた。疾ったのは蔓である。
 咄嗟にコクマは跳び退った。が、蔓はコクマの動きよりもさらに速い。
 蔓がしなり、コクマを打った。まるで鋼の鞭に打たれたようにコクマの身が爆ぜる。
「コクマさん」
 まゆはドローンを放った。彼女のグラビティで操るもので、仲間たちの側に滞空し、盾となる。
 と、人語ではない呪が流れた。竜語である。
 ユリスの掌からドラゴンの幻影が躍り出た。少女の身が炎に包まれる。
「きゃあ」
 悲鳴をあげて少女は苦悶した。が、それは一瞬だ。少女の目が憎悪に光った。
 刹那、地が爆発した。爆炎にのまれ、数人のケルベロスが吹き飛ぶ。いや――。
 爆炎から逃れ、爆煙をからみつかせ、空に舞い上がった影がひとつあった。麗春だ。
 少女が気づいた時、すでに麗春は砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーをかまえていた。
 竜の咆哮を思わせる轟音を響かせ、ハンマーの砲口が火を噴いた。
 爆発。今度は少女が爆炎に飲み込まれた。
 と、爆炎の中から黒蛇のごときものが飛び出した。蔓だ。それは空を疾り、麗春の足にからみついた。
「あっ」
 愕然たる声を空に残し、麗春は地に引きずり下ろされた。地に叩きつけられる。
「今日もロックにケルベロスライブ、スタートデース! イェーイ!」
 ギターをかき鳴らすと、シィカは躍りかかった。その手のヌンチャク型如意棒を旋風のように舞わせ、少女にぶち込む。
 ギンッ。
 如意棒がはじかれた。蔓によって。空で如意棒と蔓がからみあう。
「しゃあ」
 少女の右手の蔓が唸った。瞬間、動いたのはリリーである。
「ヒトだったら速攻でもしもしポリスメンよ、アンタみたいなのは」
 叫び、リリーは立ちはだかった。蔓がその端麗な顔をうつ。
 声もあげえずリリーは吹き飛んだ。頬がぱっくりと裂け、鮮血に満面がまみれている。激痛に息もできなかった。
「女の顔に何をする!」
 憤怒の声を上げてコクマが襲った。自身の背丈よりなお巨大な鉄塊のごとき無骨な剣を薙ぎ下ろす。
 炎をまとわせた刃が少女の身を裂いた。傷口が一瞬にして炭化する。
 怒りと苦痛に可愛らしい顔をゆがめ、少女が跳び退った。
「番犬のくせに、やってくれましたね」
 少女は傷口に細い指を這わせた。いかなる物理攻撃も通じない不死身無敵の身体が傷ついている。
「それはこっちの台詞だよ」
 蒲の身体から銀光が噴出した。武装から光り輝くオウガ粒子が放出されているのだ。光に包まれたケルベロスたちの傷が完全ではないものの癒されていく。
「そんなものが追いつかないほど壊してあげます」
 少女の目がぎらりと光った。咄嗟にケルベロスたちが跳ぶ。が、遅い。数人爆発に巻き込まれた。
「今度は私が壊す番です」
 静かな声は夜色の美影から流れ出た。ベルローズだ。そして一息――。
 危険を察知し、少女は身を翻らせようとした。が、一瞬早く少女の身を凍てつく炎が切り刻んだ。少女の局部を隠していたわずかばかりの武装がちぎれ飛ぶ。
 珠のような乳房の中心で震えるピンク色の乳首が露わとなった。股間の薄い翳りと、その奥で息づく亀裂も。
「その格好の方が貴方にはお似合いです」
 冷たくベルローズはいった。


 少女の顔が憎悪にゆがんだ。悪鬼の形相だ。
「番犬め」
 少女の目が光った。一斉にケルベロスたちが跳ぶ。が、それは少女の牽制であった。
 乳房をゆらせ、亀裂から唇をはみださせ、少女は腕を振った。蔓が鞭のようにしなる。
 それは空に舞ったベルローズとシィカの足にからみついた。
「お礼をするわ」
 少女の口調が変った。ベルローズとシィカを地に叩きつける。衝撃に二人は一瞬気を失った。
「ふふふ」
 笑うと少女は蔓を舞わせた。
 刹那だ。まゆが飛び出した。ベルローズをかばう。
 次の瞬間、蔓が二人の衣服を切り刻んだ。たちまち輝く裸身が露わとなった。
 シィカもまゆもガラス細工のように繊細な肉体だ。翳りは髪と同じでシィカは金色、まゆはピンク色であった。
「いやっ」
「だめです」
 乳房と股間を隠して二人は蹲った。ケルベロスといえど、やはり二人は少女。花も恥じらう乙女である。裸をさらしてまで戦うのは不可能であった。
「ちっ」
 少女は舌打ちした。彼女の一番狙いは自身を裸にしたベルローズであったからだ。
 ごくりとコクマは唾を飲み込んだ。
「貴様、やくやった――いや、よくもやったな」
 笑崩れそうになる顔を引き締め、コクマは地を蹴った。同時に身を旋転。旋風と化して少女を襲った。加速度のついた巨刃で斬りつける。
 凄まじい斬撃に少女は吹き飛ばされた。ビルの壁面に叩きつけられる。砕かれたコンクリート片が舞い散った。
「よくも」
 鮮血を口から噴きつつ、少女はそれでも身を起こした。恐るべき不死身性。さすがは神の眷属といえた。
 が、この世には――地球には神を殺すことのできる者たちがいた。ケルベロスが。
 ベルローズの目から血涙が溢れ出た。この地に遺された死者達の怨念のこもった惨劇の記憶から魔力を抽出しているのだ。
 少女の動きがとまった。死者達の怨念が具象化した無数の漆黒の腕が少女の身を掴んでいるのである。
「動けなくても」
 少女の目が殺意に光った。すると、またもや地が爆裂した。数人のケルベロスたちが爆風に薙ぎ倒される。
「本当にやってくれるね。でも俺がいる限り、そうはさせないよ」
 面倒そうにぼさぼさの髪を手で掻くと、蒲は再び銀光を迸らせた。癒しのオウガ粒子である。
「ええい。またしても」
 歯噛みすると、漆黒の腕を蔓で薙ぎ払い、少女が壁面から飛び出た。
 その眼前、迫る影があった。銀の光流をひいて空を翔ける麗春だ。
 少女の手から蔓が飛んだ。が、それは空でちぎれとんだ。手刀の旋風によって。
「いってください」
 ユリスが叫ぶ。その傍らを麗春が飛びすぎた。
「任せて」
 麗春の指輪から白光が噴いた。剣の形に収束させると、麗春は少女に薙ぎつけた。白光が空間ごと少女を切断する。
「とどめよ。完殺するわ」
 金髪をなびかせて疾走。一陣の風と変じてリリーは肉薄した。反射的に少女が放った蔓を躱し、リリーは神速の刺突を放った。
 避けも躱しもならず、少女は槍に貫かれた。のみならず、槍は少女の背後に衝撃波をはしらせ、ビルすら穿った。
 立ち込める粉塵が晴れた時、すでに少女の姿は霧散していた。


 戦いは終わった。が、ケルベロスたちにはまだ仕事が残っていた。周辺の修復だ。
 ベルローズはシィカとまゆの衣服を買いにむかった。まだ泣きじゃくっているまゆにシィカが食い倒れしようと慰めている。今回、コクマの機嫌は少しよかった。
「手伝ってくたさいよ」
 ユリスがいうと、蒲は欠伸をもらした。そろそろ眠くなってきているのである。
 少しして、歌が流れた。麗春が路上で歌っているのだ。
 賑やかな浪速の夜はさらに更けていく。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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