血塗られたカーネーション

作者:坂本ピエロギ

 大阪市内のとある駅前広場で、一面のカーネーションが色鮮やかに咲き誇っていた。
 生垣を埋め尽くすように咲き乱れる白と桃の花々は、太陽の光を浴びて瑞々しい生命の輝きを放っている。
 折しも時期は連休のシーズンが終わり、もうじき母の日を迎えようという頃。通りを行き交う人々は皆、咲き乱れるカーネーションに母親の顔を思い浮かべた。
 だが、その時。
 妙に生ぬるい風がサッと吹いたかと思うと、青い空から花粉のようなものが降り注いだ。
 それは美しいカーネーションを瞬く間に攻性植物へと変貌させ、通行人を襲い始めた。
「えっ……? なにあれ!?」
「た、助けてくれ!!」
 植物の蔓は頑丈な刃となり、根は強靭な鞭となり、逃げ惑う人々を肉塊へと変えてゆく。
 ビルの谷間に響き渡る悲鳴と絶叫、そして断末魔。
 後にはただ、鮮血で染まった怪物の蠢く姿だけが残された。

「明日は母の日だというのにな……つくづく面倒な事件を起こしてくれる」
 ヘリポートに佇む櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)の顔は普段通りの気怠げなものだった。彼がザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)に依頼した調査の結果、大阪で頻発している攻性植物が起こす事件が新たに予知されたのだ。
「爆殖核爆砕戦の勝利によって動き出した大阪城周辺の攻性植物は、大阪市の一帯を広範囲に渡って侵攻している。市内の地球人を駆逐し、自身の生息域を拡大するのが狙いだろう」
 ザイフリート王子は、集合したケルベロス達に依頼の概要を説明し始めた。
「現状では敵の攻撃は散発的な規模に留まっている。だが、このまま奴らの活動を許せば、大阪城の地下に存在するという攻性植物のゲート破壊は困難になってしまう」
 ゆえに我々としては、何とかして敵の行動を阻止したい――。
 王子はそう言って、敵の説明へと移った。
「今回現れるのはカーネーションの攻性植物だ。その数は5体。一般人を見つければ即座に殺しにかかるため、非常に危険な状態だ」
 攻性植物は別行動せず固まって動き、一旦戦闘が始まれば逃走することはない。従って、対処そのものは容易な部類に入る。ただし、頭数が多いことに加え、同じ植物から生まれた存在ゆえか、連携も密に取ってくるため油断は禁物だ。
「敵はいずれも非常に攻撃的だ。3体が前衛で攻撃、2体がそれをサポートする布陣だな」
 前衛役の白いカーネーション型の攻性植物はバランスの整った能力で、多彩な状態異常を付与してくる。いっぽうサポート役の桃色の攻性植物はパワーこそ前衛に劣るものの、味方の回復能力を持っている。放置を許せば相応の脅威となるだろう。
「現場に到着するのは攻性植物が発生した直後だ。市民の避難については、私が警察と消防を手配しておくから心配しなくていい。お前たちは敵との戦闘に専念してくれ。以上だ」
 質問がないことを確認すると、王子はヘリオンの発信準備に取り掛かった。
「カーネーションは、地球人が母への感謝を表すために捧げる花だと聞く。これ以上被害が拡大せぬよう、どうか平和を守り抜いてほしい。武運を祈る!」


参加者
ロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
井関・十蔵(羅刹・e22748)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)
天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ


 駅前交差点の広場へと続く商店街の花屋は、どこも客で賑わっていた。店先は色鮮やかなカーネーションで一杯で、花とは縁のなさそうな男達が店員に品物を選んでもらっている。
「花はいいね。僕の大好きな、春の香りがする」
 カーネーションの花束を大事そうに抱える子供を見て、ロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)がそっと微笑んだ。
「今日はカーネーションの化けモンが相手か。それじゃ一丁、世の奥様方に良いとこ見せるとしようか。カッカッカッ!」
 シャーマンズゴーストの竹光を連れて、太陽を背に呵々大笑するのは井関・十蔵(羅刹・e22748)。酒と女と土弄りを愛するこの男は、すでにやる気満々のようだ。
「カーネーション、綺麗だな! 母の日といわず、毎日でも飾りたいぞ!」
 鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)は目を輝かせながら、隣を歩く櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)を見上げて言った。
「千梨。仕事場に飾るのはどうだ!? 水は俺が毎日やるから!」
「そうだな。依頼が終わったら考えてみる」
 小さな助手のお願いをさらりと受け流し、千梨はふと気づく。
(「そういえば俺、母の日にカーネーション渡した事が無かったわ」)
 今年からでも良いだろうか――そんなことを考える千梨をよそに、ラグナは天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)と母の日の話題で盛り上がり始めた。
「天ヶ崎はカーネーション贈ったこと、あるのか?」
「はい。カーネーションはママにありがとうを伝えるきっかけを作るお花なのです」
「やっぱりそうなんだな! 本で読んだ通りだ!」
 屈託のない芽依の笑顔からは、彼女が家族思いな少女であることがよく伝わってくる。
 愛する母親に、感謝を伝える日――。
 その言葉を、夜殻・睡(氷葬・e14891)はどこか他人事のように聞いていた。
(「母親への贈り物……か。感謝を伝える日が血で赤くなる、なんて縁起でもないな」)
 母親という言葉を耳にして、睡の瞳に暗い陰が走った。女性恐怖症の彼には、母に対して色々複雑な感情があるようだ。
 そうこうするうち、一行は現地に着いた。既に避難は完了しているらしく、周辺には数人の警察官が残っているだけだ。
「捧ぐ感謝の日に、奪われる生命があるのなら――防ぐため、先へと繋ぐために、わたしは剣となるの」
 銀十字のネックレスを握りしめ、囁くように呟くアウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)。その声に誘われるように生ぬるい風が吹いたかと思うと、5体の攻性植物が次々と姿を現した。
 人の体など楽々飲み込めそうな、巨大な魔の花。緑色の組織液を垂らしながら、ギシギシと音を立てて蠢くその姿に、もはや美しいカーネーションの面影はない。
「何よこれ、折角の花壇が台無しじゃない」
 遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は怒りに眉を吊り上げて、ネクロオーブを掲げた。死の色を湛えた呪いの宝珠が、怨嗟の光を帯びて輝く。
「困った子にはお仕置きが必要よね。全部刈り取ってあげるから覚悟しなさい!」
 武器を構えて陣形を組むケルベロス。戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。


 退避する警察官には目もくれず、ケルベロスを標的に定める5体の攻性植物たち。触手と破壊光線が飛び交う駅前広場は、瞬く間に戦場と化した。
「アチチ! 火ィ吹くなんざ、とんでもねえ花だなおい!」
 芽依へ放たれた破壊光線を、十蔵が庇って受けた。即座に竹光が祈りを捧げるも、負った傷は完全には癒えていない。前列の白いカーネーションの火力は、かなりのものだ。
「焼き払え、『雪桜』」
 千梨が掲げた古木の枝先で音もなく桜が花開き、高熱の火球を形成した。サッカーボールほどに膨れ上がった球が放物線を描いて、右端の攻性植物へと飛んで行く。
 攻性植物は蕾を閉じて防御態勢。そこへアウレリアが精神を集中させて、サイコフォースで蕾を爆破する。ガードをこじ開けられたところを、千梨の火球が容赦なく吹き飛ばした。
「油断するな。こいつら、手強い」
 睡は紙兵の群れを散布しながら、仲間に注意を促した。
 1体1体に飛びぬけた強さはない。しかし頭数の多さと統率された動きが、その力を何倍にも上げている。足し算ではなく、掛け算の強さだ。
「……贈るには少しやんちゃが過ぎるな。おとなしくしてもらおう」
 傷ついた個体に狙いを定めて、助走をつけたロストークがスターゲイザーを繰り出した。流星のきらめきを宿した飛び蹴りが攻性植物の体を大きく切り裂き、プラーミァが放つ追撃のボクスブレスが、開いた傷口を焼き払う。
 集中砲火を浴びた攻性植物の体が、しわしわと萎れはじめた。効いている。
「よくもやってくれたなオイ? 俺の炎は一味違うぜ、カカカッ!」
「お前達……皆、救ってやるからな!」
 敵の前列を撫で斬りにする、十蔵とラグナの紅蓮大車輪。集中攻撃を浴びた1体は、花柄から体液を噴出させてのたうち回り、やがて動かなくなった。
 まず1体。ケルベロスの出だしは順調だ。優勢を盤石なものにすべく、篠葉の殺戮衝動、芽依の百選百識陣が前衛の味方を強化してゆく。
 いっぽう仲間を失った攻性植物は、狙いを前衛に絞って執拗な攻撃を浴びせ始めた。毒に炎に催眠、雨あられと状態異常を付与しつつ、黄色いカーネーションの1体が実から取り出したグラビティで仲間の傷を治療してゆく。
 強く、そして厭らしい敵だった。あたかも4体で1つの生き物の如く見事な連携でこちらを襲ってくる。真綿で首を絞める、そんな言葉通りの消耗戦がじわじわと続いた。
「ふむ……なかなかに、しぶといな……」
 シャウトを飛ばし、自らの催眠を解く千梨。一方アウレリアは次なるカーネーションに向かって、日本刀『花月姫』の切先を向けた。守ってばかりではジリ貧は必至。何とかして敵を防戦に追い込まねばならない。
 棘を纏う蔦が白いカーネーションにまとわりつき、小さな花をあちこちに咲かせてゆく。見る者の目を奪う花弁が、一瞬で不吉な紅に染まったかと思うと、
「――夢も視ずに、眠って」
 アウレリアの言葉に従うように、白と紅の花びらが青空に鮮やかな模様を描いて散った。怒りに燃え、反撃する攻性植物。強靭な鞭を思わせる蔦がしなり、毒蛇のように不気味な動きでアウレリアの体を捕縛する。
「やれやれ、面倒な敵だ。当分花の匂いをかぐ気にはなれないな」
 睡は分身の術でアウレリアを癒しながら、苦笑を浮かべた。
 見た目に反して、この攻性植物は動きが素早い。烈風のごとき十蔵の回し蹴りを回避し、ロストークのスカルブレイカーも紙一重で致命傷を避けている。しかし、その悪あがきも長くは続かなかった。
「そこだ! いけ、ロク!」
 如意棒を手にしたラグナが、矢のように鋭い突きを放つ。態勢を崩した攻性植物の体を、ボクスドラゴン『ロク』のボクスタックルがへし折った。地面に倒れた攻性植物はなおも反撃を試みるも、
「今日の貴方の運勢は……あーっと残念、末吉です!」
 篠葉のオーブが発射した虚無球体が、その命を無慈悲に刈り取った。
 残る敵は、3体。


 心を焦らせる戦いの趨勢は、次第にケルベロス側へと傾き始めた。
 攻性植物側は攻撃寄りのバランスの取れた布陣だったが、ケルベロスは敵のアタッカーに対し序盤から火力を集中。3分の2を排除出来たことが奏功した。
 一方ケルベロス側は、重傷に至るレベルのダメージを受けた者はゼロ。むやみに攻め急ぐようなことはせず、慎重に態勢を整えて攻性植物を追い込んでいった。
「その動き、封じさせてもらうよ」
 絡みつく蔓を振り解き、エアシューズを装着したロストークがスターゲイザーを放った。反撃の跳び蹴りが白いカーネーションを捉え、機敏な身のこなしを縫い留める。
「此の華は香らず。只、白く舞い散るのみ」
 黄色いカーネーションの援護射撃をガードしながら、睡が追撃を加える。冷気を帯びた刃が振るう逆袈裟の一閃。氷に覆われた攻性植物が、声にならない悲鳴を上げた。
「さあ、とどめだ」
「……終わりよ……」
 千梨との血襖斬り、アウレリアの居合い斬りの剣閃が交錯。凍った攻性植物の体がぐらりと傾ぎ、地面に落ちて砕け散った。残るは2体、黄色いカーネーションのみだ。
「カカッ! こいつを受けてみな?」
 十蔵はゲシュタルトグレイブを振りかぶると、高速回転しながら斬撃の嵐を繰り出した。続けて放たれるラグナの紅蓮大車輪が、2体の体を炎で嘗め尽くす。
 敵は大きな葉で体を覆い、これをガード。ダメージは通っているものの、撃破にはもう一押しが必要のようだ。
「なかなかしぶといわね……」
 篠葉は大地の記憶から抽出した魔力で仲間を癒やしてゆく。黄色いカーネーションの方は攻撃力こそ劣るものの、状態異常の付与が厄介極まりない。ケルベロスの身を冒す毒は、放置すれば命取りになりかねない。
「聖なるかな聖なるかな……いと気高き聖王女様、全てを見通すその瞳を持って我らをお導きください……」
 芽依は必死に勇気を振り絞り、『慧眼の賛美』を前衛に浴びせた。清澄な天使の歌声が、傷ついたケルベロスを包み、癒やしてゆく。
(「怖いけど、がんばる。わたしを助けてくれた、あの人のようになりたいから……!」)
 挫けそうになる気持ちを必死に奮い立たせ、歌声を紡ぐ芽依。そのとき、攻性植物の蔓が彼女を捕らえた。毒に冒され膝をつく芽依に、十蔵がそっと手を触れる。
「こいつぁ大変だ。チクリとするが、ま、我慢しておくれや」
 毒を吸い出した小さなトゲが、少女の細い首筋で紫色の小さな花を咲かせて、散った。
 攻撃が無為に終わり、なおも抵抗を続けんとする攻性植物。
 そこへアウレリアの居合い斬りが、ロストークのスカルブレイカーが、睡の螺旋掌が立て続けに降り注ぎ、攻性植物は成す術なく斃れた。残すは最後の1体だ。
「さーて貴方の運勢は……あーっと残念、大凶です! 観念なさい!」
 篠葉のディスインテグレートに茎を削られ、転倒する攻性植物。
 ラグナが握りしめる如意棒の、僅かに震える石突が、開いた花の中心に狙いを定める。
「こんなこと、きっとしたくなかったよな。止めることしかできないけど……悲しいのは、ここでお終いだ!」
 とどめの一撃が、放たれた。
 しかし――。
 心に躊躇があったのだろうか、如意棒の突きは狙いを逸れた。茎を折られ、悲鳴をあげる攻性植物。呆然とする表情のラグナの肩に、千梨はそっと手を添える。
(「ラグナ。お前は優しいな」)
 その言葉を胸の奥に秘め、雪桜を天へと掲げる。
「せめて、最後は花として散らしてやろう」
 黄色いカーネーションを、結界が包み込んだ。咲き誇るグラビティの桜を風水が散らし、嵐となって攻性植物の体を弄び、ちぎり取ってゆく。
「散ればぞ誘う、誘えばぞ散る――散幻仕奉『落花』」
 嵐が晴れた後には、攻性植物だったものの破片だけが残っていた。


「……ああ、デウスエクスは排除した。封鎖は解除して構わない」
 睡は関係機関への連絡を終えると、ヒールで修復を行っている仲間の元へ合流した。
 ヒビ割れたアスファルト、支柱から倒れた信号機、めくれ上がった広場の煉瓦道……。
 攻性植物が暴れた後の駅前広場の荒れようは凄まじく、知らない人間が見たならば、怪獣でも暴れたのかと勘違いしそうな光景だ。破壊され倒壊した建造物を、ケルベロスは丁寧に直してゆき、程なくして駅前は元の姿をおおよそ取り戻した。
 だが、たったひとつだけ、元に戻らなかったものがある。
「そちらも……やはり……?」
「うん。残念だけど……」
 倒れたカーネーションに手を添えて、アウレリアとロストークは悲しげに首を振った。
 花壇の植物は建造物ではないため、ヒールでは修復できないのだ。
 このままでは、痛んだ花はすぐに枯れてしまうだろう。どうしたものか――。
 そんな思案に暮れる二人の背中を、ぽんと叩く者がいた。芽依だった。
「ドレヴァンツさん、ヴィスナーさん、聞いて下さい! 凄く良いニュースです!」
 芽依は広場を管理する駅員に、傷ついた花を譲ってもらえないか頼みに行っていたのだ。
 結果はOK。
 ケルベロスたちは早速、花を丁寧に切って纏めはじめた。
「良かったわ。素敵なプレゼントになりそう」
 猫のお腹のようにふくよかなカーネーションの手触りに、篠葉の頬が思わず緩んだ。丁寧に飾った花束をスマホのフレームに収めると、花籠を抱えたアウレリアに手渡してゆく。
「折角ですから、街の人々にもお配りしましょう」
「いいね。ほらプラーミァ、いい匂いだろう」
「任せときな! どこかに俺好みの人妻は~っと」
 ケルベロスたちの配る花束を、駅前に戻ってきた人々は感謝の言葉と共に受け取った。
 ロストークが組んだ花束は、二本の白い花に色違いが一本という組み合わせだ。彼の故郷の風習に従った作り方で、首に巻き付いたプラーミァが、じっと花を眺めている。
 十蔵は、人妻と思しき女性を見つけては果敢にアタックしていた。その結果は、彼のみぞ知るところだ。
「おめでとうございます! 大吉です!」
 いっぽう、篠葉は呪いと一緒に花を手渡していた。景気のいい運勢に、受け取った人々も皆嬉しそうだ。
 花をあらかた配り終えると、芽依がアウレリアを見上げて飛び跳ねるように言った。
「1本、持って帰っていいですか? ママにプレゼントしたいの!」
「もちろんよ。わたしも2本、持って行こうかしら」
 瑞々しい美しさを湛えたカーネーションを、アウレリアは愛おしそうに見つめた。
 1本は亡き母へ。もう1本は父への贈り物に。果たして父は、喜んでくれるだろうか。
 いっぽう籠に残った僅かな花束を見て、睡はやんわりと受け取りを辞退する。
「ん? あぁ……俺は良いかな。渡す相手も居ないしさ」
「じゃあ、俺が貰ってもいいか!?」
 異論のある者はいなかった。
 ラグナは両手で花束を受け取ると、目を輝かせて千梨を振り返る。
「この子達、連れて帰ってもいいかな?」
「ああ、良いぞ。帰って飾ろうか」
「やった! あ、ロクにも飾ってやろう!」
 相棒のボクスドラゴンを抱きかかえて、頭の脇に純白のカーネーションを添えるラグナ。目を細めて甘えるロクについた一輪の花を、千梨はそっと手に取った。
「……俺の母親にも、届くだろうか」
「……? 千梨が届けたいなら、届くに決まってるじゃないか」
 ラグナは不思議そうな顔をする。
「きっと、すごく喜んでくれるぞ!」
「……そうか」
 ラグナの天真爛漫な微笑みに、千梨の頬が綻ぶ。
(「お前のおかげで決心がついた。ありがとう」)
 こうして戦いを終えたケルベロスたちは、駅前の広場を後にした。
 ある者は母への花を手に、またある者は母への想いを胸に。
 日常へと帰ってゆく8人の背中を、花壇のカーネーションたちが静かに見送っていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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