ミッション破壊作戦~龍の巣を穿て

作者:坂本ピエロギ

「累乗会反攻作戦の参加、お疲れさまでした。先ほど、作戦に使用したグラディウスの充填が完了し、再使用の許可が下りました」
 ヘリポートに集合したケルベロス達に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が依頼の解説を始めた。
 グラディウスの使用許可。それは今回の依頼が、デウスエクスの拠点『強襲型魔空回廊』を攻撃する重要な作戦であることを意味している。
「今回の目標はドラゴンの魔空回廊となります。現在確認されている回廊は3つですが、首魁のドラゴンはいずれも強敵です。油断することなく臨んでください」
 グラディウスの長さは70cmほど。刀剣としてはやや小ぶりのサイズだが、その刀身から放出されるグラビティの輝きは、グラディウスの圧倒的な力を示して余りある。
「通常兵器としては使えませんがグラディウスの力は強大です。デウスエクスの魔空回廊は、この剣でしか破壊できません」
 セリカはグラディウスを丁寧に抱きかかえ、一本ずつケルベロスに配っていく。
「グラディウスは、一度使用すれば全てのグラビティを使い果たします。再充填の完了には、ひと月ほどの時間が必要です」
 乱発のきかない必殺兵器。故に、攻撃地点の選択は皆さんに任せます、そう言ってセリカは説明を続ける。
「魔空回廊はミッション地域の中枢に位置します。強力なドラゴンが防衛する地上ルートを通常の方法で突破するのは困難です。最悪、グラディウスを奪取されるリスクもあります」
 諸々のリスクを解消するため、この作戦では高空降下による強襲を行う。魔空回廊の周囲を覆う半径30mほどのドーム状のバリアをグラディウスで破壊し、グラビティを極限まで高めた状態で回廊の本陣を攻撃するというものだ。
 グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させる機能を持っていて、持ち主の魂の叫びが強いほど、その威力は上昇する。この攻撃で与えたダメージは回廊に蓄積されてゆき、最大でも10回程度の降下作戦を行えば、回廊を破壊することが出来る。
「雷光や爆炎が着弾すると、かく乱効果のあるスモークが発生し、しばらくは敵を無力化できます。グラディウス所持者が雷光や爆炎で負傷する事はありませんので、ご安心下さい」
 攻撃に成功した後は、スモークに身を隠して速やかに撤退すること。無論、グラディウスを持ち帰る事も忘れてはならない。
「スモークが完全に晴れるまで、敵は散発的な抵抗しか行えません。退路を確保しつつ速やかに撤退すれば、障害になるものは殆ど存在しないでしょう」
 もっとも、全ての敵を無力化する事は不可能なので、強力な敵との戦闘は免れない。無茶な戦いを続けるなどして時間を浪費すれば、態勢を整えた敵に包囲される恐れもある。そうなれば作戦は失敗、降伏か暴走して撤退するしか方法はない。
「デウスエクスの侵略は今この瞬間も続いています。魔空回廊を破壊すれば、僅かでもそれをくい止めることが出来ます」
 作戦の説明を終えると、セリカはすぐにヘリオンの操縦席へと乗り込んだ。
「過酷な戦いが予想されます。どうか皆様、ご武運を!」


参加者
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
オルガ・ヴィヴァルディ(誠の愛はいつも傍にある・e26910)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
御手塚・秋子(日長石一族の眷属・e33779)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)

■リプレイ

●ミッション17-5『焼津地竜窟攻略戦』
 風が吹いた。
 少し気の早い黒南風が、ヘリオンのデッキをじっとり通り過ぎてゆく。
 空気を切り裂くローター音に混じって、鮮烈な潮の香りが飛んでくる。
「あの回廊に、地底潜航竜がいる……」
 御手塚・秋子(日長石一族の眷属・e33779)は潮風から顔を背けるように、焼津の地に穿たれた一際大きい空洞を見下ろした。
 ドラゴン『地底潜航竜』が守護する強襲型魔空回廊『焼津地竜窟』はケルベロスの強襲を6度に渡り退けた難攻不落の要塞だ。待ち受けるであろう熾烈な戦いを思い、秋子は小さく身を震わせた。
「竜と人、互いの未来をかけた戦いです。焼津を私たちの手に取り戻しましょう」
「ええ。必ず果たしましょう」
 罪咎・憂女(刻む者・e03355)とティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)は焼津の作戦に参加した経験を持つケルベロスだ。少ない言葉で着々と準備をし、降下指示を待っている。
「今回は作戦前から変身しておこう……」
 ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)はプリズムファクターに鎖鍵を差し込み、静かにフォームチェンジを果たす。窓から見下ろす先に広がるのは、一面の廃墟と大穴ばかり。左腕が、無性にうずいた。
「作戦地域をざっと撮影した。念のため、複数の撤退ルートを想定しておこう」
「そうね。選択肢は多いほど楽しいもの。ふふふっ」
「けっこう新しい穴が出来てるね。後で地図を修正しないと……」
 今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)とオルガ・ヴィヴァルディ(誠の愛はいつも傍にある・e26910)、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)の3人は回廊周辺の地形を必死に頭に叩き込んでいた。
 敵は地下に棲息する竜であり、彼らに食い荒らされた焼津の地は日毎に姿を変えている。リアルタイムの地形情報は、撤退時に大きく物を言うに違いない。
 ハッチが開き、降下ポイントの到達がアナウンスされる。
 いよいよ作戦の始まりだ。
「それじゃ、いっちょ飛び込んでやりますか……地底にね!」
 先陣を切って出る雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)に、憂女が、ライゼルが、次々と降下を開始した。
「さあて、鬼が出るか蛇が出るか」
「行ってくるね。……どうか、力を貸して」
 グラディウスの輝きが、流星となって焼津の大穴に降り注いでゆく。

●願い
「これまで戦ってきた、沢山の仲間の思いも! チャンスも! 私は絶対無駄にしない!」
 一番槍の利香がグラディウスを叩きつけると、回廊のバリアが衝撃に震えた。
「地上は私達の物よ! ドラゴンたちは……地面にそのまま潜ってなさい! 永遠に!」
 大穴の奥を見据え、魂の叫びを解き放つ利香の声に応じるように、グラディウスから雷光と炎弾が次々と回廊に降り注ぎ始めた。
 次に降下したのは憂女だ。強敵と認めた潜航竜に賞賛の言葉を送り、一撃を叩きつける。
「幾度も戦い矜持を示す姿は見事。互いの同胞と未来をかけ、この地は返して頂こう!」
 迸るグラビティの光が穴底の回廊をおぼろげに照らした。回廊を守護する精鋭ドラゴン達の哭く声は、未だ聞こえない。ならばとライゼルが、全力でグラディウスを突き刺した。
「許せない。許せない……」
 ライゼルの口から、震える声が漏れる。
 見下ろす暗闇に彼の脳裏が描き出したのは、かつてデウスエクスに食い尽くされた故郷。蹂躙されていく土地を、何も出来ずに眺めるしかなかった過去の自分。
 もう、あんな悲劇は沢山だ。
「だから今度こそ、止める。このライダーチェインが!」
 次第に強まっていく雷光と炎弾。次に斬りかかったのは、姶玖亜だ。
「この瞬間もドラゴンは戦いの準備を進めている。いつ侵攻が始まってもおかしくない」
 いつも気楽な笑みを絶やさない青髪のヴァルキュリア。
 だが、そんな彼女の両眼に灯る意思の光は鋭く、紡ぐ言葉に込めた想いは熱い。
「もう犠牲者は出したくないんだ。焼津の人達にも、他の仲間にも顔向けできないしさ」
 姶玖亜には、内緒にしている秘密がある。
 彼女がこれまで参加してきたミッション破壊作戦は、全て失敗に終わっているのだ。
 だからまた失敗するかもしれない。そんな不安を、姶玖亜は意思の力で拭い去る。
(「ジンクスは、今日で終わらせる」)
 次はない。
 これ以上、誰も死なせない。
「地の底に眠ってるのは、地球の恵みと古代のロマンで充分だ!」
 魂の叫びを力に変えて、姶玖亜が凛々しく吼えた。
「竜共の決意を今こそ凌駕する! 願いに……命に応えろグラディウス!」
 降り注ぐグラビティの雨。スモークに混じって、穴のあちこちからドラゴンの悲鳴が漏れ始めた。折り重なる断末魔の叫びを聞いて、秋子は反射的に身を竦める。
「……っ」
 秋子はプレッシャーをはねのけるように、必死に呼吸を整えて、歯を食いしばった。
 萎えそうになる戦意を奮い立たせ、グラディウスを突き立てる。
「ここだけは……ここだけは、壊してみせる」
 柄を握る手が、小さく震えた。
 かつてドラゴンに刻まれた恐怖の爪痕は、今も秋子の魂を捉えて離そうとしない。そんな彼女が、この魔空回廊の強襲作戦に参加した理由は、たった1つ。
 自分の心の支え、かけがえのない存在のため。
 かつてこの回廊の戦いに参加し、無念の涙を呑んだケルベロスのためだ。
「私達の故郷を返して!」
 だからここだけは、絶対に破壊する。
 そんな魂の叫びに応えるように、雷光と炎弾が濁流となって回廊を破壊してゆく。
「ふふっ。娘の成長を見るのは、嬉しいものね」
 秋子の横顔をにっこり見つめて、オルガがバリアを斬りつけた。
「聖地を暴くだなんて……背徳的でゾクゾクしちゃう。そういうのに興奮する年頃なのね、若いっていいわ」
 でも、とオルガは続ける。
「破壊してお終い、っていうのはダメね。そんなの、背く愉しみがなくなっちゃうわ」
 故にオルガは思う。この回廊を守護するドラゴンとは決して相容れないと。
 彼女にとって、大地は敬意を捧げる対象。それを傷つける竜を許すわけにはいかない。
「この場所は、ちょっとあなた達には早すぎるわね――出てってちょうだい」
 グラビティの奔流は川から大河へと膨らみ、魔空回廊を破壊してゆく。回廊のあちこちに刻まれた無数の爪痕、それはそのまま、焼津のために戦ったケルベロスたちの魂の叫びだ。
「前に来た時は、焼津の皆さんが不安そうに生活していたっけ……」
 日和はグラディウスを構え、バリアの亀裂にねじ込んだ。
 回廊の破壊に失敗し、自分の弱さを痛感させられた、あの日。
 焼津のみんなを救えるくらい強くなろう、そう誓った日。
 僅か数ヶ月前の出来事が、ずいぶん遠く感じられる。
「ボクは強くなってここに帰ってきたぞ! この一撃を受けてみろ!」
 もうこの場所をドラゴン達の勝手にはさせない。日和のグラディウスが眩く輝き、バリアの亀裂を押し広げていく。
 最後に降下してきたのはティとサーヴァントのプリンケプスだった。
「今度こそ、本当の最後にしてみせます」
 焼津の人々の落胆した表情。
 肩を並べ、ともに戦った戦友たちの勇姿。
 ティが見てきた焼津の記憶が、脳裏に浮かんでは消えてゆく。
(「私が背負えるものなんて、たかが知れているけど――」)
 それでも、とティは思う。これ以上、誰にも悲しい思いをさせたくない。
 だから。
 だから――。
「絶対に潰してやる!」
 ティがそう叫んだ次の瞬間。
 グラディウスが一際眩しく輝き、グラビティの洪水が回廊を飲み込んだ。
 魔空回廊が火を噴いて、ドラゴンたちの悲鳴と共に崩れてゆく。
 波に浚われた砂城のように、ゆっくりゆっくり崩れ落ちてゆく――。
 この日、難攻不落を誇った焼津地竜窟は陥落した。

●最期
 着地と同時に、8人は駆けた。
 彼らの道程は未だ半ば。作戦領域の離脱までは一瞬たりとも気を抜けない。
 ナビを務めるのは日和とオルガ、そして姶玖亜。
 敵の散発的な抵抗は、利香とライゼルが瞬時に沈黙させる。
 それから全力で走ること暫し、一行は両脇にビルが林立する開けた車道に出た。
「ヘリオンの合流ポイントまでもうすぐです! 頑張りましょう!」
 仲間を激励しつつ、秋子が敵を撃ち落とした、その直後。
「……皆さん。真南の方角です」
 ティの大きな耳が音を拾う。
 後方から迫る、大岩が転がるような地響きを。
「おでましか」
 武器を構える憂女。
 怒りと憎しみを孕む咆哮が、穴という穴から幾重にも反響して響いてくる。
「陣形を整えて! 来ます!」
 車道のアスファルトを突き破り、巨大な竜が太陽を食らうようにその姿を現した。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「あれが、地底潜航竜……!!!」
 後列の姶玖亜は、その偉容に言葉を失う。
 デカい。まるで竜巻のようだ。
 殺気で膨らんだその体躯は、あまりに大きく禍々しかった。
「皆、絶対に勝つよ!」
 利香が言い終えるのを待たず、潜航竜は襲い掛かってきた。
 アスファルトを引き裂き、ビルを薙ぎ倒しながら、破壊の化身がケルベロスへと迫る。
「行くぞ潜航竜! 今日が貴様の最期だ!」
『ゴオオオオオオオオオオオオオ!!』
 ライゼルの振り下ろすスカルブレイカーを躱し、潜航竜の削岩牙が憂女を襲う。
 派手な音がして、憂女の体が玩具のように吹き飛び、コンクリートに叩きつけられた。
「罪咎!」
「大丈夫、かすり傷だ」
 かすれる声で口元の血を拭うと、憂女は一息で飛び起き、跳躍。
 潜航竜の体に取り付いて、惨殺ナイフ『憂』を振るう。
「…………疾ッ!」
 嵐のような連撃に皮膚を切り裂かれても、潜航竜は応えた様子もない。
 敵は正真正銘の化物だ。スモークの残り時間も多くない。守りに回れば確実に負ける。
 全てのケルベロスが、火花を立てて潜航竜と切り結び始めた。
「……視えた!」
 妖刀『供羅夢』の柄に手をかける利香。己の筋肉に流し込む魔力の電流が、意思の速さを凌駕して数本の触手を切断した。
 崩れたビルを足場にティがスターゲイザーを見舞う。向かいからプリンケプスのブレス。左右同時の攻撃が潜航竜を捉え、その動きをわずかに鈍らせた。
「行け、null。ボク達を守れ!」
 日和のサークリットチェインが前衛の守りを強化する。敵の火力は強力だ。僅かな効果も無駄には出来ない。
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
 動線を先読みして放たれる姶玖亜の銃弾。潜航竜は被弾をものともせずに、有毒の触手を雨あられと飛ばしてくる。
「あら触手♪ ドラゴンにしては良い趣味してるのね」
「Hey、Freeze !」
 利香にエレキブーストを施しながら、艶然と微笑むオルガ。秋子が魔力で生成した無数の赤いレイピアが潜航竜のぬめる皮を切り裂く。
 戦闘は苛烈を極めた。雑魚ならばとうに消し炭となっている集中砲火をものともせずに、潜航竜は雪崩のごとき猛攻を浴びせてくる。
 岩をも砕く硬い牙。毒を帯びた触手の嵐。直撃すればオルガと憂女、日和の支援をもっても回復が追いつかない。俊敏な動きだけは辛うじて縫い止めたものの、攻撃の激しさは全く衰える気配がない。
「負けて……たまるか……!」
 ライゼルが全体重を乗せ、ルーンアックス『ワイルドバーン』を振り下ろす。ぱっくりと袈裟に裂けた傷口めがけて叩き込まれる、利香の絶空斬。
 味方への攻撃を庇い、ヒールドローンを飛ばした後、憂女が冷静な声で告げた。
「状況が悪い。万一の時はグラディウスを頼む」
 劣勢は、誰もが理解していた。オルガで回復しきれないダメージを周囲でサポートして、辛うじて決壊を防いでいる状態なのだ。周囲の煙幕も、次第に晴れてきた。ぐずぐずしていたら敵の増援がやって来る。
「受けてみよ、恒輝猛襲撃!」
「お願い、倒れて!」
 日和のヴァルキュリアブラスト、秋子の氷を纏う斬撃を受け、潜航竜の体がぐらりと傾ぐ。明らかに潜航竜は弱ってきていた。
(「勝利か、敗北か。この1分が天王山になる」)
 ライゼルが炎と水の翼を顕現させて跳躍姿勢に入ったのと、潜航竜の削岩牙がライゼルを捉えたのは、ほぼ同時だった。
 刹那、憂女がライゼルの前に躍り出る。
 みしり。
 削岩牙の直撃が憂女を捉えた。脇腹に穴を空けて、憂女がゆっくり崩れおちていく。
「必ずや、勝利を――」
「……ああ。必ず!」
 ライゼルは憂女からグラディウスを受け取ると、そのままの勢いで傾いたビルの外壁を駆け上がった。頂上から跳躍し、潜航竜の首に狙いを定め、背中のグラビティを爆発させる。
「ライダー……キィィィィィック!!」
 全身全霊の一撃が命中し、潜航竜の首がおかしな方向に捻じ曲がった。蜘蛛の巣状に拡散するグラビティの鎖が潜航竜の巨体を捉え、地面に縫い留める。
「全員で勝って帰る。必ず!」
「この剣で……勝利を掴む!」
 秋子の月光斬と、利香の雷迅月翔斬。二筋の剣閃が鞘走り、潜航竜の体から花火のように血液が噴き出した。
『ゴオオオオオオオオオオオオ!』
 致命傷を受けてもなお、潜航竜は生の執着を手放さない。絶叫し、のたうち回り、血液と粘液をまき散らしながら無茶苦茶にもがき続ける。
「こいつは丁度いいね。フィニッシュといこうか!」
「さ、行ってらっしゃい」
 オルガのエレキブーストに背中を押され、姶玖亜の銃弾が前方の空間に撒き散らされる。ビルの壁面、宙を舞うコンクリート破片、あらゆる障害物に跳ね返った銃弾が潜航竜の頭に集中し、頭蓋骨を粉々に砕いた。
「これで、終わりにする!」
「……行くよ、プリンケプス」
 小さな2匹の猟犬が、同時に跳ぶ。
「キミにしか使ったコトがナイ技だよ。光栄に思いなさい!」
 右目で睨んだ標的を自壊させる、日和の『阿遮一睨』が、
「バン!」
 魔銀の銃弾を握りしめたティの『零距離』が、潜航竜の脳を滅茶苦茶に掻き回した。
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!』

 耳をつんざく断末魔。地響きをたてて倒れる巨体。
 のたうち、もがき、周囲のビルを残らず瓦礫に変え、ついに潜航竜は息絶えた。

●終焉
 戦闘領域を離脱すると、8人はその場に座り込んだ。
 肩で息をしながら、そっと憂女を横たえるライゼル。
 幸い命に別状はない。しばらくの間安静にすれば、彼女は再び戦えるようになるだろう。
「終わった。終わったんだ……」
 胸の中にため込んだものを一息で吐き出すように呟くと、日和は焼津の街を眺めた。
 魔空回廊も、主たる潜航竜も、そして、無力を嘆いたかつての自分も、今はもういない。
 廃墟と化したこの土地も、いずれ人々の賑わいを取り戻すに違いなかった。
「みんな、帰ろう。この勝利を伝えに!」
 日和の言葉に笑顔で頷くケルベロスたち。
 青空の向こうから、ヘリオンがゆっくりと降下してきた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:罪咎・憂女(刻む者・e03355) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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