白い私を染め上げて

作者:秋月きり

「あー、酔った。酔ったわー」
 深夜。大阪の繁華街に男が一人、歩いていた。
 へべれけになる程深酒をした男は千鳥足で街を練り歩いている。
 空腹は満たした。酒の力で凄く気分も良い。さて次は……。
 ぐへへと程よく頬を上気させた男の視線に白い物が飛んでくる。それは、半裸――否、局所のみを花弁で覆った女性の姿をしていた。
「え? あ? お?」
 口笛を吹くべきか。それとも「大丈夫なん?」と駆け寄り上着でも差し出すべきか。酔いによる幻覚すら疑った男は、しかし、女性が微笑みを浮かべ、男に身体を絡ませた事でその思考を全て吹き飛ばす事になる。
 柔らかな感触といい匂いが男の思考を染め上げる。女の身体を蔦草の様な何かが覆っていた事が気になったが、それも直ぐにどうでも良くなった。
「私と一緒になりましょう?」
「え、こんなトコやに?!」
 男は女に誘われるまま、ひょいひょいと路地裏へと歩みを進める。
 数度角を曲がり、そして足を止めた女は男の頬を両手で挟み込み、男の唇に自身の唇を重ね合わせる。絡みつく舌はまるで別の生き物のように男の舌を、口腔を、そして喉すら蹂躙して来る。
「ーーっ?!」
 喉をずるりと滑り落ちる何かに男は声にならない悲鳴を上げる。唾液と共に攻性植物の種子を飲まされ、臓腑から寄生されていく事に気付かないまま、男の意識はゆるりと途絶えて行った。

「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようなの。で、現在、攻性植物達は大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようね」
 ヘリポートに集ったケルベロス達へ、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の視た予知が告げられる。
「これはおそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人への避難を促進。結果、空白地帯となった大阪市を中心とした拠点拡大を目論んでいると思われるわ」
 事件が多く発生すれば大阪の街から人々は自主的避難を行うだろう。それを止める為に犠牲を強いる事はケルベロス達に出来る筈も無い。
 この侵略は大規模なものでは無いが、放置すればゲート破壊成功率もじわじわと下がっていく事も考えられる為、早急な対応が必要だ。
「それで、今回現れる攻性植物は女性型ね。深夜の大阪の繁華街に出現の後、酔っぱらった男性を誘惑して、攻性植物化させようとしている様なの」
 被害となる男性は女性に縁がないタイプと言う共通点があるようだ。リーシャの未来予知の男性も、所謂そう言うお店に行こうとしていたようなので、お察しと言う事だろう。
「予知と異なる状況は作れないから、事前に男性を避難させることは出来ないけど、攻性植物と男性が接触する迄の間、少しの時間だけ、男性と接触する事は可能よ」
 その僅かな時間で攻性植物の誘惑を断るように仕向ける事が出来れば、男性は攻性植物から離れていくので、安全を確保する事が出来るようだ。
「ただまぁ、命の危険を説く正攻法は攻性植物の誘惑の前に霧散しちゃいそうなのよね」
 女性に縁遠い事が誘惑に乗る原因なので、そのフォローをした方が建設的だと言うのがリーシャのアドバイスだった。
「攻性植物の能力は触腕による縛り付け、あとフェロモンの様な匂いを発するのもあるわ。種子による狙撃も気を付けてね」
 配下などはいない様だが、万が一、男性への寄生を許してしまうと、同じ能力を持つ攻性植物がもう1体増える事になるので、危険な状況になってしまう。
「男性を助ける為には、誘惑に乗らないように仕向けるしかないのだけど、困難な場合は、攻性植物の撃破を優先してね」
 そしてリーシャはケルベロス達を送り出すのであった。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
天谷・砂太郎(は日々を生きている・e00661)
雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)
瀬部・燐太郎(戦場の健啖家・e23218)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)
カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)
霜憑・みい(滄海一粟・e46584)

■リプレイ

●あなた色に染めて
「あー、酔った。酔ったわー」
 深夜。大阪の繁華街に男が一人、歩いていた。
 その足取りはとても千鳥足で、何処からどう見ても彼が立派な酔っ払いである事を示していた。
(「さて、腹も膨れたし、帰って寝るだけなんやけど、それじゃ面白ないよなぁ……」)
 次のお店はげっへっへ、とにやけ面を隠そうともしない男は突如、その足を止めざる得ない事態に陥る事となる。
 理由は簡単だった。呼び止められたのだ。
「あれー? おにーさん、おにーさん。こんなとこで会うなんて奇遇やねぇ」
 それは男女の集団だった。飲み会帰りなのだろう。賑やかに談笑する6人ばかりの男女のグループの内、しなやかな体躯の女性が男に声を掛けてきたのだ。
「……え、えーっと?」
 ん? と男は首を傾げる。アルコールの酩酊感もあってか、名前がぱっと出て来ない。こんな美人、何処で会ってたっけ?
 男の浮かべた疑問は、彼女と共にいた男性の言葉で氷解する。
「あ、この前店に来たおっちゃんじゃないの」
 白スーツの彼は、おそらく呼び込みか水商売の女性の世話役なのだろう。見れば先の女性だけでない。集団の内の4人の女性はケバイ、否、夜の蝶と言った風体だ。要するにちょっと露出過多なドレス姿だったのだ。
「えー。お兄さん、もしかして今、お店探しているんですかー?」
 ぷにっ。
 推定Bカップの柔らかさが右腕を圧迫する。視線を送ると、猫を思わせる獣耳がコケティッシュな女性が絡みついていた。
「あれー、お客さん? こんなとこでどうしたのー?」
 ふにゅ。
 推定Lカップの豊満さが左腕をがっちりとホールドする。視線を送ると、小悪魔な笑顔を見せる女性が絡みついていた。彼女から漂う香水とも異なる芳香は、彼の胸を強くざわつかせた。
「そう言えば、この辺りで悪質なぼったくり……なんか、美人局みたいな被害があったって聞いたっすけど、お兄さん、大丈夫?」
「ええ? そうなん?!」
 心配そうに声を掛けてきたガタイの良い男は、おそらくキャッチ――呼び込み役なのか。スマホで健全な夜遊びサイトを提示しようとして、周囲からジト目を向けられている。
「ですよぅ。どうせならちゃんとしたお店で遊びましょう。……私の事、指名してくれたら、たっくさんサービスしちゃうんですけどね。うふふふ」
 金髪碧眼の女性の営業スマイルに、しかし、そうと判っていてもどきりと胸を躍らせてしまう。他の女性に比べてガードの堅く見える服装の彼女は、肉感的な女性が趣味だった男の好みからはちょっと外れていたが、『たっくさんのサービス』を想像し、ごくりと喉を鳴らしてしまう。

「皆さん、ターゲットと接触しました」
 ビルの上から眼下の様子を伺う雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)の第一声に、光の翼を広げ、宙に浮くリノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)が「ですね」と同意を示す。
 おそらく今は男に攻性植物――正確には、疑似餌の如く誘惑する攻性植物の危険性を説いているところだろう。八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)は大仰にボディーランゲージで示し、カレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)と霜憑・みい(滄海一粟・e46584)の肉体的接触は、酔った男の思考を彼女達の色に染め上げていく。そのフォローを行う天谷・砂太郎(は日々を生きている・e00661)や瀬部・燐太郎(戦場の健啖家・e23218)の親身な警告はきっと男に届くだろう。
 それに。
「……凄いですね」
 ぽつりと零したリノンの言葉に、時雨も同じ性別の者として頷かざる得ない。
 エイティーンのグラビティを用いた上で女装したアシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)の誘惑は、他の3人の女性陣に負けじと劣らずと、男性を捉えて離さない。その食いつき様から、おそらく彼が男の娘――否、同性であると気付いていないようだ。
「さて、上手く行くと良いのですが」
 リノンの視線は男の周囲に注がれている。
 キープアウトテープで塞いだ路地裏は、他に侵入者が現れる様子もない。いるとすれば、それはデウスエクス、即ち、標的である攻性植物だけだろう。

●純白の巫女
「ユリカちゃーん達―。また、後でなー」
「はーい。浮気しちゃだめよ?」
 上機嫌で去っていく男の後ろ姿に、笑顔を浮かべたカレンの言葉が重なっていた。その様子を見送った砂太郎は、ぽつりと呟く。
「後で、か」
 果たしてその時は来るのだろうか。男がこのまま攻性植物の毒牙に掛かってしまえば、それは来る筈も無いのに。
「その為に打てる手立ては打った。人事を尽くして天命を待つ、って奴だな」
 先ほどまでの下っ端演技は何処へやら。鋭い眼光の燐太郎が鷹揚に頷く。その表情はむしろ、大丈夫だと信頼の色を強く浮かべていた。
「にしても、みいの機転には恐れ入ったわ」
 男を尾行する為、気配を消しているからだろうか。瀬理の呟きにみいが頬を染める。
「いえ。多分、カレンさんや瀬理さん、アシュリーさんの誘惑の成果が、一番大きいです。それに……」
 男性を無事に帰してあげたい。例え虚言を弄する事になっても、その想いは貫くつもりだった。故にみいはこう提案したのだ。
『男性の為にお店を開くよう、店長を説得して欲しい』、と。
「……確かに、次にみんなが待っていると思えば、攻性植物の誘惑を振り切りますよね」
 ぽつりと零れるアシュリーの評価に、ますますみいの表情が朱に染まっていく。
 二人のボディタッチや思わせぶりなアシュリーの台詞と瀬理の胸チラ、さらにはカレンのラブフェロモンによって『その気』になった男は、後日と言っても収まりがつかなかっただろう。ならば少し時間を空けた後ならば……と言う提案を行ったが、それはかなり魅力的だったようだ。鼻歌混じりで去って行った様子はそれを如実に表していた。
「それにしても、そう言うものなのでしょうか」
 妙齢の美女、という外見のアシュリーの独白に、砂太郎と燐太郎が愛想笑いを浮かべる。いずれ、この少年もそんな衝動を味わう日が来るかもしれない。
(「来んでもええのに」)
 瀬理が浮かべた苦い思いは幸い、誰にも伝わる事は無かった。

「いや。ねーちゃん美人やし誘惑辛いんやけど、もっとええとこ行くんやし、時間ないんやわ。また今度なー」
 路地裏に響く声は先程の男の声だった。半裸の美女の誘惑を男らしくきっぱりと断った男は後顧の憂いを断つよう、振り返りもせず一目散に駆け抜けていく。
「あ……」
 その逃げ足に、攻性植物は止める暇すら与えられなかった。両の腕で押さえるよりも、触腕で束縛するよりも早く、男の姿は夜の繁華街に消えていく。
 そして、追跡すべく歩を進めた攻性植物の前にざっと人影が広がった。
 得物を構え、殺気を放つ集団に攻性植物の身体がびくりと震える。
「地獄の番犬ケルベロスだ。俺らがここに来た理由は言わなくてもいいよな?」
 砂太郎の言葉に返事はない。代わりに返って来たのは触腕による無数の刺突だった。雨霰と降る蔦槍を鋼色の錫杖で受け捌いた彼はしかし、その重さにむっと呻き声を零す。
「いくら夜の商売の人らでも、これはやりすぎ言うやろなぁ」
 体勢を崩す砂太郎への追撃を防ぐべく、瀬理が呆れの声と共に飛ぶ。局所を花でしか覆われていない少女へ吸い込まれる蹴りは、流星の輝きを纏っていた。
 その暇に砂太郎は得物を構え直し、自身へ薬液の雨を降らせる事で、纏わりつく触手をぷつりぷつりと引き千切っていく。
「目前に全裸の美女ときたら、自分のコートを掛けてやるのが紳士の嗜みだが……」
 燐太郎が構えるのは、戦艦の砲手を思わせる銃身をした巨大な奇銃だった。
 そこにグラビティで形成した暗黒の弾丸を装填。攻性植物へ、照星と照門を合わせる。
「今日この日まで生きてこられた褒美に、俺から『虚無』をくれてやろう」
 轟音が迸った。光すら遮る弾道は猛る怒りを攻撃力に変換した魔弾の証。破壊にのみ洗練化された重力塊が攻性植物の蔦草を切り裂き、攻性植物の身体を梳っていく。
 ぽろりと零れる女の証にぴゅうと口笛が零れたのは愛嬌か。
「Get Ready! Get Set! ――Go!!」
 勇ましき掛け声は、夜纏いのドレスのまま、愛機ラムレイに跨ったアシュリーから発せられる。彼がばら撒いた光源は攻性植物の白い肌と共にスリットから覗く彼の白い足すら浮かび上がらせ、そして輝くランスチャージの一撃は攻性植物の身体を遥か上空へと弾き飛ばした。
(「少し狭いか」)
 騎乗攻撃を仕掛けるには、二人程度がすれ違える路地裏は確かに狭い戦場だった。だが、道は地面にしかない訳でも無い。
「……カレンさん!」
 壁を足場として旋回し、炎を纏った体当たりを敢行したアシュリーは自身に続く仲間へ声を掛ける。
「任せてっ。……それにしても、攻性植物、恐るべしだね」
 あんな『如何にも』な格好なのに引っ掛ける事の出来るデウスエクスの能力に戦慄しつつ、カレンがエクトプラズムを散布する。損傷を防ぐ疑似肉体は、上手い事作用したようだ。瀬理や砂太郎と言った前衛に魔除けの力を付与していく。
「止まって頂けますか? そこからは通せません!」
 続くみいの斬撃は赤く鋭い霜柱と共に。攻性植物の足を貫き、地面を朱に染める棘撃と共に紡がれる斬撃は、袈裟懸けの傷を白い裸身に刻んだ。
「兄さんっ!」
 主の声に応え、ビハインドの念動力が砕けたアスファルトを射出する。石礫に後退する攻性植物へ、天からの強襲が突き刺さる。
「影の内から出でよ分身」
 それは、無数の分身と共に水銀色の刃を煌かせる時雨の斬撃であった。触腕と伸びた蔦草を、そして漆黒の髪を切り裂き、肩口に刃を突き立てる。返り血の如く迸った赤い輝きは生暖かく、時雨の身体を斑色に染め上げた。
 続くリノンの補助は一歩遅れて。散布される紙兵たちは夜の空気に溶け、アシュリーやカレン、みいと兄さんに魔除けの力を纏わせて行った。

●攻性植物の散華
「私と一緒になりましょう?」
 それは蠱惑的な声だった。脳髄すら蕩けさせそうな嬌声はしかし、ケルベロス達に届く事は無い。
 幾重にも張り巡らされたエンチャントが、それの被害を最小限度までに押し留めていた。
「――っ」
 燐太郎を庇った時雨の零す吐息は艶やかな色に染まっていた。流石はジャマーの加護を纏う攻性植物の感応攻撃だった。視界が朱色に染まり、敵味方の区別があいまいになっていく。
 だが。
「はい。回復だよ!」
 カレンの放出した桃色の霧が曖昧に崩れる認識を正常な物へと引き上げていく。
 如何に攻性植物がまき散らす毒や呪いが強くても、備えさえ万全ならば怖れる事は無いのだ。
 故に。
「ねぇ。同化し、一緒に繁茂しましょう」
「……いいからちょっと黙ってろ」
 誘惑の言葉を紡ぐ攻性植物の腹部へ、零距離で放たれた砂太郎のボディーブローが炸裂した。悶絶物の衝撃を覚える筈の一撃を受けた攻性植物はしかし、それでも誘惑を行おうと両手を広げる。
 相手はあくまで植物なのだ。そして植物は痛覚を有さない。それが、如何に人間に近い外見を持っていたとしても。
 砂太郎の攻撃を皮切りに、ケルベロス達の猛攻撃が開始される。
「魅力的かもしれませんけど、僕には好みじゃない。……あの人に比べたら全然、ですね」
 電光を纏った時雨の刺突は、軽蔑の言葉と共に紡がれていた。蔦草が焼かれ、生じる臭気は焦げの臭いとして、周囲に充満する。
「影よ、狩って来い」
 リノンの呼び掛けに応じ、光によって生じた攻性植物の影が、本体――攻性植物自身を襲撃する。彼の紡ぐ影撃は、攻性植物の身体を切り裂いていた。
「確かにそれは繁殖の手立てかもしれない。でも、人を弄ぶのは見過ごせないわ」
 みいの斬撃は三毛猫の気を纏って。獣人の膂力によって切り裂かれた攻性植物に錆びた鉄の臭いを沸き立たせる。
 そこに怯みの影が見えるのは、自身のを危ぶむが故か。
「今です!」
 ビハインドの斬撃を見送るみいの呼び声に応えたのは轟と響くモーター音、そして、重き神突きの牙だった。
 アシュリーとラムレイによる吶喊が、燐太郎による鉄棘の大剣が、攻性植物の身体を傷つけ、その力を奪っていく。
 植物は痛みを訴えない。だが、死を前にすれば、その動きが鈍くなるのは道理だった。
「私と……」
「ごめんね。それは叶わないの。――ガジェットは常識に捕われていてはいけないのよ」
 今までと変わらず指を伸ばす攻性植物へ叩き付けられたのは、カレンによる無慈悲な殴打だった。ケルベロスの膂力、そしてブースターによって加速された一撃は、攻性植物の身体を吹き飛ばし、宙に舞わせる。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から!」
 蔦草を緩衝材とし、地面に降り立つ攻性植物へ、瀬理が肉薄する。その身体が帯びるオーラも、その腕が纏う籠手も、そして、矢を番える弓も、全てが同じ力を纏っていた。
 それは爪で牙だった。虎の爪牙と化した得物を次々と攻性植物に突き立て、彼女は笑う。嗤う。哄笑う。
「あはっ、丸見えやわアンタ」
 無数の牙に突き立てられたそれが、攻性植物の最後だった。
 疑似餌に浸透する根は砕け、白い体ごと消失していく。
 悲鳴すら残さず、その身体は無数の粒子に変換され、そして、夜の闇に溶けて行った。

●夜の街は危険がいっぱい
「あっ!」
 派手に砕けた路地裏へヒールを施すケルベロス達の中で、突如、アシュリーが奇声を発っした。
「どした?」
 砂太郎の問い掛けへの返答は、泣きそうな表情で紡がれていた。
「あの男性、今頃、僕達の言ったお店、探していますよね……」
「……大事の前の小事、と言う事にしておこう」
 カレンの愛想笑いに、そうですか……と項垂れる声は少し、小さく響いていた。
「命あっての物種です」
 慰めの言葉はリノンから。ぽそりと呟いた彼は再び、ヒールを施す作業に戻ってしまう。
「今頃、適当なお店に入っている、と思う」
 とは時雨談。まぁ、滾る情熱を何処かで発散しているかもしれないが、それは預かり知らぬことだ。そこまでケアする理由もない、と断言した。
「あははは。災難やなー。あの人。『サービス満点、花びら大回てーん』とか喜んでたしなぁ」
 色々適当扱いてしまったもんなぁ、と瀬理が微苦笑を浮かべる。4人の可愛い子が選り取り見取り、何なら全員で! とか色々言い切った気がするが、それは忘れよう。
「お酒に酔っても『口車』にだけは載せられないよう。ゆめゆめ忘れんことだ」
 アルコールで判断力を鈍らせればこうなると頷く燐太郎の言葉は何処か、実感がこもっているように響く。恐ろしきは人の業、そしてそこに付け込む侵略者の影である。
「……もうすぐ、迎え、来るかな?」
 姦しい仲間達の声が響く中、みいは夜闇に染まる空を見上げるのだった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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