イチョウ染めやらず

作者:柊透胡

「な、何や、あれ!」
 正午を過ぎて、お昼休みのビジネスマンがイチョウ並木の御堂筋に出てくる頃合。
 突如、上空に巨大な影が差し、見上げた1人の眼が恐怖で見開かれた。
 喩えるならば、花クラゲ。幾重にも重なる肉厚の花弁は、よくよく見れば胎児のような影が透けて見え、蠢く触手の如き無数の根の先に鋭利な刃を具える。
 ――――!!
 その根っこそれぞれが徐に、そして無雑作に振るわれるや、周囲のビルの表面に無数の亀裂が入る。
 キャァァァッ!
 次々と砕けたビルの窓ガラスの破片が、凶器となって、御堂筋に降り注いだ。
 ――――!!
 悲鳴があちこちで響く。手近のビルへ逃げ込もうとする人々を、今度は幾重もの花弁の先に収束した光がビームと化して貫いていく。
 全長7mにも及ぶ巨大な花クラゲは、悠然と御堂筋を浮遊する。時に、イチョウ並木を根に引っ掛けては薙ぎ倒し、ビームで延焼させても構う様子も無く、殺戮と破壊を振り撒いていった。

「爆殖核爆砕戦以降、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物が、再侵攻を図っている模様です」
 定刻となり、集まったケルベロス達を前に、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに口を開いた。
「攻性植物の標的は、大阪市内に集中しています。事件を多数発生で一般人を避難させ、その間に大阪市内の拠点拡大するのが狙いでしょう」
 大規模な侵攻とは言い難いが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下降』していく事となる。最小限の被害に留めた爆殖核爆砕戦の奮闘を無にしない為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更には反攻に転じねばなるまい。
「今回の敵は、サキュレント・エンブリオ。全長7mにも及ぶ巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内、御堂筋への出現がヘリオンの演算により予測されています。丁度、人の往来も増えるお昼時です。大阪市民と市街に被害が出る前に、サキュレント・エンブリオの撃破をお願いします」
 出現するサキュレント・エンブリオは単体で、配下の類はいないようだ。
「無数の根をクラゲの触手のように蠢かせており、根の先に刃で広範囲を切り刻むようです。また、頭部は肉厚の花弁が幾重にも重なっており、花弁よりビーム光線を放射して周辺を焼き払います」
 ビーム攻撃も広範囲に及ぶが、更に収束させて単体を狙う事も出来るようだ。その威力は相当に高い。
「出現位置は確認出来ておりますので、出現後の市民の避難等は警察と消防が行ってくれます。皆さんは、サキュレント・エンブリオの撃破に専念して下さい」
 イチョウ並木美しい御堂筋のある本町は、古くから大阪のビジネスの中心地として知られる。市街地での戦闘故に、ある程度の被害は免れない。その被害軽減の為にも、短期決戦が望ましい。
「御堂筋には多くにビルが建ち並んでいますので、攻撃時の移動経路としての使用が可能でしょう。又、イチョウ並木や街灯など、市街地を立体的に使う事が出来れば、有利に運べるかもしれませんね」
 御堂筋の象徴とも言えるイチョウ並木を朱に染める訳にはいかないが、市街の被害自体は最終的にヒールで回復出来る。早急の撃破を目指すべきだろう。
「多くのケルベロスの皆さんが警戒していたお陰で、こうして今回の敵の動きも事前に察知出来ました。この頑張りを無駄にしない為にも、サキュレント・エンブリオの確実な撃破を。皆さんの武運を、ヘリオンよりお祈り致します」


参加者
福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
常祇内・紗重(白紗黒鉄・e40800)
レシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184)

■リプレイ

●胚樹出現
 正午――御堂筋に直接降下したケルベロス達は、時間を惜しんでサキュレント・エンブリオ出現地点に走る。
「5月は新緑の季節……攻性植物が動くのも道理ではある、か」
「少し暖かくなったと思ったら遠慮なくわらわら出てきやがって。俺らは造園業者じゃないってのにな」
 志藤・巌(壊し屋・e10136)の呟きに、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)は皮肉を吐き捨てる。
「ああ、花クラゲに好き放題やらせる気は微塵もねェ。全力でブチのめそうぜ」
 頷き返した巌は、目に付いた非常階段からビルの屋上へと駆け上がる。
(「青々と見事なイチョウ並木でござるな……仕事の傍ら、この風景に癒される方も多いでござろうに」)
 新緑の季節に相応しい光景に、シトリンの双眸を細めるのも束の間。空を見上げる福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)の表情が険しくなる。
「不気味な風貌で、我が物顔で闊歩するのはやめてもらおうか」
 果たして魔空回廊は開き、異様なる巨躯が現れる。幾重にも重なる肉厚の花弁から生える無数の根は触手の如き。根の先の鋭刃が物騒に蠢く。
「さぁ、惨めに死にさらせ、蛆虫め」
 レシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184)は、もっと不遜に言い放つ。幼げな容貌と華奢な体躯に違う冷ややかな碧眼は、その異様を射抜かんばかり。上から叩き落とすように立ち回るべく、光の翼を広げてアスファルトを蹴る。
「高所での機動戦か、望むところだ」
 この界隈のビル群の高さは約50m。体長7mのサキュレント・エンブリオの上空を抑えるのも、十分可能だろう。ビルの屋上から攻性植物を見下ろし、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は楽しそうだ。
「バカと煙と俺ぁ高い所が好き……ハックション!」
 シリアスな雰囲気が、派手なくしゃみで残念になった。実は花粉症の双吉。花粉対策の眼鏡は掛けているが、不審者と誤認されるのを怖れてのマスク未着用が仇になった模様。
「最初から撃破されてもいい存在とは、なぁ……質が悪いというか、植物らしいやり方というか」
 サキュレント・エンブリオ――引いては、攻性植物の狙いは見当が付いてきている。真顔のまま、リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)は、街路樹やビルの壁等、利用出来そうな足場を確認する。その挙措は軍人めいて精確だ。
「胞子の影響については私も耳にした。ここのイチョウに被害が出ないか気になるが」
 些か心配そうに眉を顰める常祇内・紗重(白紗黒鉄・e40800)だが、それでも尚、市街地の破壊は見過ごせない。
「今は戦いに集中しよう……行こうか、小鉄丸」
「キュー」
 子ワニのような鳴き声で応じて、鋼のボクスドラゴンは硬質の翼を羽ばたかせる。
 既に地上は、警察・消防車両が目立つ。或いは、到着の時点でヘリライダーが連絡したのかもしれない。
「避難誘導はお任せしますな。その代わり、こいつの相手はケルベロスが任された」
「そうですわねー。私も、斬るしか出来ませんけれどもー」
 ユタカにおっとり微笑むフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)。コンクリートジャングルを跳びながら、空飛ぶ胚樹を仰ぐ眼が見開かれると同時。サークレットが隠していた額の弾痕から地獄が迸る。
 サa沙、壱切劫切喰ライ尽クSaン――。

●天翔ける
 ニィと歯を剥き、紙兵を撒くフラッタリー。数多の白はサキュレント・エンブリオを取巻き、前衛の厄を引き受けるだろう。
(「地面近くで倒せば……胞子は遠くまで飛散しない筈」)
 新たな足場にするべくケルベロスチェインを巡らせながら、巌は猟犬縛鎖を奔らせる。敵が高度を上げるのを、徹底的に阻む心算だ。
 ――――!!
 周囲の敵性を認めたか。サキュレント・エンブリオの花弁に光が集中するや拡散。光線が一斉に前衛を舐める。
「っ!」
 防具特徴との兼ね合いもありケルベロス達は大凡、光線に対策している。ディフェンダーともなれば、その威力は更に半減する筈。だが、ユタカは予想以上の痛みに思わず息を呑む。範囲攻撃とて油断出来ない火力となれば。
「クラッシャー、でござるか!?」
 気を引き締める思いで、ケルベロスチェインを手繰るユタカ。鎖で以って可憐な花を描き、守護の陣を敷く。
「オレはあんな気持ち悪いの、花とは認めねぇからなっ」
 心の叫びに内心で同意しながら、リカルドも沈着にケルベロスチェインを振るう。ダブルジャンプで巨躯の頭上を取るや、投網のように鎖を伸ばして抑えに掛かる。
「っ!?」
 猟犬縛鎖の瞬間、リカルドが顔を顰めたのを見逃さず、ビルの壁に立つ双吉はゾディアックソードを掲げた。壁に描いた守護星座は、仲間の厄を掃わんと輝く。
「サポートは必要か?」
「いや、今は良い……燃えろ、燃え続けろ」
 レシタティフの言葉に頭を振るキルロイ。その足元より奔る赤黒い劫火は攻性植物の根を焼いたが、然したる痛痒を与えず封殺にも至らなかったようだ。単体の敵に対して、列攻撃は色々と勿体無い。
 忌々しげな背中を一瞥して肩を竦めたレシタティフは、攻性植物を見やると顔を顰めた。
「でかい図体の癖に!」
 吐き捨て銃を構える。目にも止まらぬ速撃ちは、確かにその巨躯を捕らえたかに見えた。
「……チッ」
 手応えで判る。着弾の瞬間の身動ぎで、少女の初撃は花弁の表面を掠るに留まった。命中率を報せる眼力の正確さを実感し、思わず舌打ちする。
「小鉄丸、ディフェンダーに属性インストールを」
「キュー」
 肯き飛び立ったボクスドラゴンを見送り、紗重は愛鎚「鬼神太夫」を握り締める。
 単体であっても、8人のケルベロスが対峙して漸く対等の敵だ。同胞に歴戦の兵が多い中、それでも、仲間の攻撃が万全に命中しているとは言い難い。
 躊躇い無く、身を躍らせる紗重。刹那、竜翼を広げて滑空の暇こそあれ、宙を蹴ってダブルジャンプ。丁度、レシタティフと対面する方向で、得物を砲撃形態に変形させる。
 ――――!!
 挟撃の呈で、竜砲弾をぶっ放す。小鉄丸と魂分かつ身で、厄付けが些か不得手なのは自覚している。なれば、足止めの砲撃を繰り返すまで――攻性植物の根が道路を擦り、単なる的に落とすまで。

●堕天
 戦いは続く。オウガ粒子が振り撒かれる中、常に敵の上空を抑えるように、ケルベロス達は跳躍を絶やさず攻撃を続ける。鮮やかな空中戦の応酬に、時に光線が根刃が、周囲のビル群を巻き込んだ。
「地獄ノ黒炎、断ツ事能wAズ」
 焼かれ刻まれても構わず、フラッタリーは怨霊滾らせた縛霊手を振るう。底光る金色の眼は、正に戦に狂う獣のそれ。
「貴様も、大炎上してもらおうか」
「因果は平等に巡るのさ」
 イチョウ並木を巻き込まない高度を見計らい、ドラゴニックミラージュを叩き付けるリカルド。キルロイも軽口を叩きながら、バスターフレイムで追撃する。リカルドの重火力と対照的に、キルロイの炎は執拗に延焼する。
「観念することだ、コイツは少々執念深い」
 迸る竜閃砲――足止めに奮闘する紗重の努力は、確かに実りつつあった。
「くっ……そろそろヒールを頼む」
 花光に炙られた肌がジクリと痛み、レシタティフは声を上げる。クラッシャーは攻撃の要だ。未だ命中率に不安があろうとも、倒れる訳にも攻撃の手を緩める訳にもいかない。
「気安く言うなよ、こっちも痛いんだから」
 そう返しながらも、双吉は己の腕に刃を滑らせる。母から継いだ咎人の血を癒しに替えて。
 メディックのヒールは確かで、レシタティフの傷は忽ち癒えた。だが、少女の表情は険しい。次なる根刃乱舞はやはり前衛を席巻する。時にディフェンダーが庇うも、全ての攻撃の盾と成せる訳ではない。
 サキュレント・エンブリオの攻撃は遠方にも届く。にも拘らず、その攻撃は全て前衛に向けられた。
 その理由は、誰もが察している。敵も眼力を具える。命中率からある程度の実戦経験も知れよう。今年になって戦い始めたレシタティフは、サーヴァント伴う紗重より打たれ弱い。
 ――――!!
 根の斬撃を、少女のロングコートはよく護った。代わりに千切りとなった紙兵も数知れず。
「痛いの痛いのとんでいけ」
 それは、甘美な日輪――ただただ優しい、おまじないの金平糖。ユタカの声が柔らかく耳朶を打てば、口中の甘味に痛みは確かに和らいだ。
 だからこそ、レシタティフは悟る。ヒールを受けるにも限りがある。ディフェンダーのヒールで癒えてしまった身が、次に敵の集中打を被れば。
(「腹を、括るか」)
 果たして、サキュレント・エンブリオの花弁1枚に、光線が収束していく。
 その直前に動けた重畳。光翼が燃え上がり、少女の全身が光の粒子に変じていく。
「ジュブワ!」
 巌の叫びにニヤリと応じ、レシタティフは光速を帯びて突撃する。花と根の境目に突き刺さる光矢――次の瞬間、至近距離で爆ぜた光が少女の視界を白く灼いた。

「レシタティフ殿!」
 人の姿に戻りながら、小柄が力なく墜ちていく。咄嗟に追い掛けようとするユタカを、リカルドが沈着に止めた。
「命懸けで拓いた血路、無駄にするな」
 クラッシャー渾身の一撃は、攻性植物の花と根を半ばまで抉っていた。
「……あ?」
 巌生来の鋭い眼光が、グラビティ・チェインを宿してサキュレント・エンブリオを睨め付ける。
「押し切れ!」
 敵がビクリと竦んだその隙を逃さず、巌の号令と同時に、ケルベロスの攻撃が殺到する!
「ワタシノ黒腕ha、卓越ニシテ冷徹」
 冷ややかに笑み零れ、フラッタリーの「蝶之掌」は樹の根を凍て付かせ、その花肉を蝕む。
 紗重が握るエクスカリバールに鋭い釘が生えるや、思い切りよく飛び出し振りかぶる。
「小鉄丸! 来い!」
 鋼の小竜のブレスも又、紗重の撲殺釘打法と寸分違わぬ軌跡を辿る。
「嗚呼、考える事は一緒のようだな」
 紗重と同じくエクスカリバールを構え、キルロイは全身のバネを使ってダブルジャンプ。地に落とさんと頭頂目掛けてフルスイングする。
「バッサリ、伐採してやるぜ!」
 気炎を吐いたユタカのチェーンソー剣が、唸りを上げて敵の傷口を抉った。
 ――――!!
 怒涛の連撃に身を震わせ、穿たれた傷口を凍らせ破砕しながら、攻性植物は根刃を振り回す。最期の足掻きに吹っ飛ばされた仲間を、巌の鎖網が受け止めた。
「投影、大量受苦悩処。串刺し地獄だぜッ!」
 巌が丁寧に重ねてきたサイコフォースは、クラッシャーの武威をも鈍らせていた。ダメージの程に回復の不要を見て取り、双吉は初めて攻撃に転じる。
「なーんてなぁのハッタリだ。まっ、マジモンの地獄行きにならねぇように祈って死にな」
 回転の勢いに乗って放たれた虚実入り混じる8本の槍に惑い、フェイクをかわした巨躯を本命のケイオスランサーが刺し貫く。
「渦巻け叡智、示し導き、風よ絶て」
 やはり初めて構えたリカルドの銃口に、風が集約していく。豪快さと正確さの共存をギリギリまで見極めんと、青年はその様をじっと凝視する。
「――吼えよ、絶風の『咎凪』よ」
 爆ぜるように放出した圧縮弾は、完膚なきまでに、花と根の継ぎ目を破壊した。

●イチョウ染めやらず
 道路に墜ちながら、ブワリ、とサキュレント・エンブリオの肉厚の花弁が膨らみ爆ぜる。
 溢れるのは、透かし見えていた胎児の類では無く――花粉のような、胞子のような、数多の粒子。
「落としたのはこれで2度目ですがー、やっぱり大きいだけではないようでー」
 過去の1戦に於いて、フラッタリーは倒して終わりでないと知っている。手を伸ばして粒子の採取を試みる巌だが……その時、ゴオと熱風に煽られた。
 攻性植物の巨躯を燃やす炎が描いた上昇気流に乗るように、或いは、ケルベロス達の手から逃れるように、数多の粒子は忽ち空へと舞い上がり、翼も届かぬ高度で拡散する。
「風圧の影響を受けるのか……否」
 粒子の動きを観察していたリカルドは、藍の双眸を細める。
 グラビティが起こす物理的影響は極一時的なもの。粒子の拡散は、まるでそれ自体が意思を持つかのように迅速だった。拡散を阻止する方法は、恐らく現時点ではない。
「胞子を分析出来れば、今後の対処法も判るかもしれんが……兎に角、次なる悲惨の引き金とならないよう警戒しねぇと……のわぁぁっ!」
 空っぽのままの保存容器を一瞥し、溜息を吐いた双吉は翼を一打ち……する前に足を滑らせ転げ落ちた。ビル10階はちょっと洒落にならない高さだが、ケルベロスなら大丈夫。
 涙を滲ませながらもメディックとしての心配が先立ち、双吉はレシタティフの落下地点へ向かう。
「お、おう。調子はどうだ?」
「死ぬ程痛かったが、死んではいないぞ」
 片膝立てて座り込むレシタティフは、イチョウの木に背中を預けている。真っ向からビーム砲を浴びながら重傷に至らずに済んだのは、相撃ちを覚悟した思い切り良い特攻と小柄故に僅かに急所が逸れたお陰だ。そぐわぬ防具耐性を鑑みれば、幸運とも言えよう。
「小柄な事はいい事だな」
 不敵に嘯き、少女は首を巡らせる。
 既にサキュレント・エンブリオは跡形も無く失せ、御堂筋は元の平穏に戻りつつある。それでも、イチョウ並木を傷め、アスファルトを抉り、ビル群を刻んだ戦闘の痕はまだ色濃い。
 ケルベロス達は手分けして復旧作業に当たる。
 改めて壁歩きで高所まで上り、スターサンクチュアリを展開する双吉。小鉄丸には属性インストールを頼み、紗重自身はオウガ粒子を振り撒く。
「この一帯の植物が危険な事はー、周知せねばなりませんわねぇー」
「こいつに胞子が付着していれば、儲けものなんだがな」
 フラッタリーが紙兵を撒く一方、キルロイは専ら、街路のイチョウの枝や根元の雑草を採取している。後で、検査に回す心算だ。
 あちこちでヒールが掛けられる中、ユタカは可能な限り、自身の手で修繕を試みている。
「可能なら数日間、近辺を封鎖して様子を見たいところでござるが……」
 今の所、イチョウ等に変容は見られない。飛散した粒子の影響を心配するユタカだが、御堂筋は大阪市の経済の中心だ。先の見えない長時間の封鎖は難しいだろう。
「飛散した胞子はきっと他の植物へ取り憑くのであろうな……現時点、我々ではどうしようもない」
「続報はヘリオライダー頼り、だろうな」
 漸く動けるようになったレシタティフの言葉に、苦笑を浮かべるリカルド。サキュレント・エンブリオの置き土産は上空にて飛散した。後の影響は、御堂筋に留まるまい。
「ああ、我々は出来る限りの事を行い、ここの平和は保たれた。今は、それでいいのではないだろうか」
「……よし。折角大阪に来たんだ。何か美味いもの食って帰らないか?」
 レシタティフの言葉に否やは無い。故に巌の誘いに頷いて、ケルベロス達は若葉眩いイチョウ並木を歩き出す。そろそろ、会社の昼休みも終わる時間。遅めの昼食の頃合だった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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