眠れぬ夜に死の香り

作者:麻香水娜

●静かな夜
 どうにも寝付けなく、何があってもいいようにと一応武器を持った進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)が外に出る。
 夜風を心地よく感じながら、無心でジョギングをしていると、いつの間にか自然公園にたどり着いていた。
(「静かな夜だ……」)
 夜空を見上げて一息吐く。

 その瞬間――、

「!?」
 背後から空を切る銃弾を察知して咄嗟に横に跳躍した。
「誰だ!」
 隆治が振り返ると、そこには1人の少女。手にした銃から硝煙が揺らめいている。
「次は外さない」
 少女──佐久間・祐美が再び銃を構えると、隆治も即座に臨戦態勢をとった。

●救援要請
「まずい予知が見えました」
 眉間に皺を刻んだ祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
「進藤・隆治さんがデウスエクスの襲撃を受けてしまうのです。急いで進藤さんに連絡を取ろうとしたのですが、繋がらなく……」
 隆治を襲撃するのは佐久間・祐美という名の螺旋忍軍。螺旋忍軍のゲートは破壊されているが、他のデウスエクスに仕えているらしい。
 襲撃の目的までは不明であるが、このままでは隆治が危険だ。
「一刻の猶予もありません。急いで進藤さんの救援に向かって下さい」
 蒼梧は、常にないほど切迫した顔で集まったケルベロス達に見渡す。
「時刻は深夜1時すぎ。町外れにある自然公園で進藤さんは襲撃されます」
 幸いな事に周囲に人影はなく、一般人を巻き込む事はないようだ。
「この螺旋忍軍は、銃を装備していますが、これが螺旋手裏剣と同じような効果を持つ銃弾を発砲できるようです」
 螺旋忍軍なので螺旋忍者同等のグラビティも使える。
 見た目は少女であるが、手練れの螺旋忍軍であり、非常に俊敏な動きをするようだ。
「この螺旋忍軍の指揮をしているデウスエクスは分かっていません。進藤さんを狙うのが指示であるのか、個人的な何かなのかも不明ではありますが、まずは進藤さんの命が最優先です。どうか、螺旋忍軍を撃破し、進藤さんを救って下さい」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
天照・葵依(護剣の神薙・e15383)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)
ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)

■リプレイ

●駆けつける仲間達
(「……ドラゴンの配下として行動しているはずだが、なんだって我輩なんぞを襲ってきたんだかな」)
 進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)が武器を構えて佐久間・祐美を見据える。
 その時、周囲にライティングボールとサイリウムがばら撒かれて視界が明るくなった。
「疾ッ!」
 更に、一之瀬・白(八極龍拳・e31651)の声が響いたかと思うと、隆治と祐美の間に呪符が投げ込まれて光が炸裂する。
「隆治殿、無事か?」
 すかさず白が隆治を庇うように武器を構えて祐美に視線を向けたまま口を開いた。
「戦えるなら問題無さそうだな」
 ライティングボールをばら撒いたアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)も隆治庇うように前に出て武器を構える。
「今度は私が『誰か』の為にその恩を返す番です」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)もばら撒いたサイリウムより強い意志の光を隆治の右側で光らせた。自分も多くの協力を得て宿敵を屠る事が叶ったゆえに。
「必ず救出してみせる」
 隆治の左側からは天照・葵依(護剣の神薙・e15383)の強い言葉。
『!?』
 祐美が何かに気付いて咄嗟に後ろに跳躍する。その場所には無数の黒鎖が突き刺さっていた。
「まだ五体満足よね。悪いけど先輩としてケルベロスの戦い方を見せて頂けるかしら?」
 威嚇に暗黒縛鎖を使ったゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)が隆治のすぐ後ろから声をかける。
「こういう光源は良いな。こんなクソダサいヘルメットなぞ被っていとうない」
 ヘルメット型ライトを外して邪魔にならないように地面に転がした山内・源三郎(姜子牙・e24606)が隆治の後ろから飄々と言いながら、しかし鋭い眼光で祐美を睨みつけた。
「アタシのこれもなくて大丈夫ですかね」
 源三郎の隣では、点灯していないヘッドライトを装着していたチャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)も銃で軽くコツコツと叩いて点灯はさせない。一応万が一地面に散らばる光源たちが消えた場合の為に装着したままにして。
 駆けつけた7人は狙われた隆治の全方向を守るように布陣する。
「……皆、感謝する」
 隆治は仲間達の救援に心底感謝し、武器を握る手に力を込めた。

●1人じゃない
「邪魔な……」
 祐美は小さく呟いき、瞬時に動くと、邪魔なアジサイの腹に螺旋掌を撃ち込む。
「く……なかなか……しかしっ」
 アジサイがチャンスとばかりに近距離から殺神ウイルスを投射した。
『遅い』
 しかし、祐美はひらりと右側に跳躍してかわしてまう。
『な……!?』
 が、いきなり右側から強い衝撃を受けてよろめいた。
 アジサイの攻撃を察し、祐美の動きを予測した隆治の轟竜砲が直撃したのである。更に、絶奈からブラックスライムが放たれ、祐美の体を丸呑みにし、テレビウムが凶器で殴りかかった。
「こう言う襲撃は群れで狩りをする獣である私達にとっては確かに効果的でしょう。ですが残念でしたね。面識の有無に関わらず、こうして獣は危急に馳せ参じ群れと成るのですから」
 仲間の動きを注意深く観察し、見事な連携攻撃を決めた絶奈が微笑む。
「個人を狙う敵とは珍しい。とりあえず全力で排除させてもらうとするが……」
 バサッと光の翼を出した源三郎が、その翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えて突撃した。
「アタシなら女の子に比喩的な意味でハートを狙われたら喜んでホイホイ差し出しちゃいますけれど。ま、物理的な意味となれば話は別ですね」
 チャールストンは飄々と軽口をたたきながら、目にも止まらぬ速さで祐美の腕に弾丸を撃ち込む。
「まぁ仮に本当の女の子でも……銃口を向ける事をやめるような性格じゃないんですよね、おじさんは」
 銃口から硝煙を昇らせながら口元を歪めた。
「月詠、進藤は勿論、誰も倒れさせないぞ」
 己のサーヴァントであるボクスドラゴンに声をかけた葵依は前衛に紙兵をばら撒き、アジサイの傷を癒しながら不調を取り除く。頷いた月詠もアジサイに属性をインストールして傷を癒した。
「外見は女子供じゃが……仲間を守る為じゃ、加減はせぬ!」
 白は後衛に護法覚醒陣を使い、光の翼を生やさせる。すると、ビハインドの一之瀬・百火がポルターガイストで石やライティングボール、サイリウム等、地面に転がっているものををぶつけた。
「あんたの動きを封じればやりやすくなるでしょ。この時間誰も来ないからいいけど。正直何時だと思ってるのよ」
 不機嫌さを滲ませたゲンティアナがブラックスライムをけしかける。
『……っ!!』
 しかし、祐美は動きの悪くなってしまった体を無理やり動かして、襲いくるブラックスライムから寸でのところで逃れた。

●光
『……』
 忌々しげにケルベロス達を睨む祐美は、己の分身を自らに纏わせる。その視線は隆治を見据えて。
(「我輩を殺しても、奴が復活するわけでなし。何を考えている」)
 隆治はその強い視線を正面から受け止め、考えを巡らせた。しかし、答えなど出る筈もなく、まずは撃破する事に集中しようと武器を握る手に力を込める。
「これがこうなってこうじゃ!」
 源三郎が、祐美が分身を出したように高速で動いて残像を出しながら移動し、力いっぱい殴りかかった。
「いくぞ!」
「百火、動きを止めろ!」
 アジサイが声を上げて攻撃のタイミングを仲間達に示してエクスカリバールをフルスイングすると、頷いた白が百火をけしかけて、その両腕に纏う鎖で拘束させる。
『!?』
 四つん這いにさせられた祐美が鎖を振りほどこうともがいた。
 白は手刀の構えを取り、魂魄を集束。それを巨大な戦斧の形状にして手刀に纏わせる。
「噛み砕け、咬龍の牙! 隆治殿!」
 瞬時に祐美に肉薄してその首に振り下ろし、叫んだ。
「あぁ!」
 白の護法覚醒陣で光の翼を生やした隆治がバスターライフルを肩に担ぎ上げてバスタービームを放ち分身を消す。
「そんなに動くと疲れるでしょう。ですから少しは、休んでみるのも悪くないと思いますよ」
 チャールストンは祐美の右膝に銃弾を撃ち込んだ。
『……ッ』
 祐美は膝に受けた衝撃によろめき、思わず片膝をついてしまう。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 これは好機だと、絶奈が多重展開した魔方陣から輝ける巨大な槍のような物体を召喚。狂的な笑みを浮かべ、祐美を貫いた。同時にテレビウムが顔から閃光を放ち、祐美の注意を自分に向けさせる。
 葵依は後衛にも紙兵をばら撒き、月詠はゲンティアナに属性をインストールした。
「感謝するわ。ったく、いつもなら寝てる時間なのよ。イラつくわね」
 月詠に短く礼を述べ、先程攻撃を回避された事も重なり、更に不機嫌さを滲ませたゲンティアナが、すっと神経を集中させて狙いを定める。かなり動きの悪くなっている祐美に、無数の黒鎖が放出されて捕縛した。
 祐美は眉を顰めつつ鎖を振り払って銃を構える。テレビウムに意識を向けつつも、頭を振って本来の自分の目的である隆治に狙いを定め──瞬間、隆治の視界から消えた。
「隆治殿!!」
 背後から白の声が聞こえたかと思うと、無音で射出された銃弾に肩口を射抜かれながらも、銃を掴む白の姿が隆治の目に入る。
「アジサイ殿! 頼む!」
「承知、――次!」
 白の声を受けてアジサイがエクスカリバールを投げつけ、隆治に顔を向けた。
「どれほどの絶望の中でも、どんな深い闇の中でも、必ず掴める光がある」
 アジサイの視線を受け頷いた隆治が、グラビティで呼び出した小さな光を突撃槍の形状にする。
「仲間が居るから、出来ることだ」
 槍を構え、全力で祐美の体を貫いた。
『─────ッ!!』
 体を貫かれた祐美が息を詰まらせて硬直する。
「これで終わりだ」
 隆治が槍を引き抜くと、祐美は崩れ落ち、動かなくなった。

●眠れぬ夜は終わる
 祐美が倒れた後も、動き出すかもしれない、とケルベロス達は警戒を解かぬまま様子を見る。

 ──バァン!!

 しかし、祐美の体が内側から破裂すると、跡形もなく消えてしまった。
「……決して情報を漏らさない為に肉体すら消し飛ばしたか」
 隆治がぼそりと呟く。諜報活動をして情報を集める螺旋忍軍らしい最後に。
「大事がなくて良かった」
「無事で何よりじゃ」
 アジサイが柔らかく微笑みかけると、白もにこやかに笑いかけた。
「ありがとう。皆も……感謝する」
 隆治はアジサイと白の言葉に口元を緩め、改めて救援に来てくれた仲間達全員に深々と頭を下げる。
「こんな時間に出歩いて狙ってくれって言ってるようなもんじゃない」
 ゲンティアナは、礼を言われて少し照れくさそうにしながら、息を吐く。
「そうだな。だが、皆のお陰で助かった。この手で因縁も絶てたしな」
 素直な隆治の言葉に、ゲンティアナは言い過ぎたと思いつつも、顔を逸らしてしまった。うっすら赤くなった頬を隠すために。
「にしても進藤さん、この子と何があったんです?」
 チャールストンが純粋な興味から軽く首を傾げる。
「いや、色々とな。何か期待しているなら申し訳ないが、男女の甘い何かがあったわけではない」
 隆治は、チャールストンの言動の端々を思い浮かべて軽く鼻を鳴らした。
「一之瀬、傷を見せてみろ」
 葵依が隆治を庇った白の傷を癒す。
「ん……感謝致すのじゃ」
 白は嬉しそうな笑みを広げた。
「ふむ。ここを傷ついたままにしておくわけにもいくまい」
 隆治が周辺にヒールをかけだす。それを見てそれぞれがヒールをかけたり破片やゴミを拾い出した。

「所詮アタシは一時の助っ人。役が終わればこの煙のように消えるのみです」
 ヒールや片付けがひと段落して、少し離れたところで携帯灰皿を取り出したチャールストンが紫煙を揺らす。
「誰かの助っ人、というのも燃えるものですね」
 ふいにかけられた声の方を向くと絶奈が笑みを浮べていた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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