アブセント・フロム・スィー・ハート

作者:鹿崎シーカー

「くっ……」
 滝めいて汗を流しつつ、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は厳しい顔で片膝を突いた。誰もいない昼間の広場、芝生に照り付ける太陽の下でジューンの全身から煙じみた光が昇り、彼女がにらむ先へ吸い込まれていく。広場の中央に、太陽より輝く金の曼荼羅を背負った小柄な影あり!
「どうした。もう終わりかね?」
 渋い声で影が問う。全長、成人男性の腰程度。シルクハットにモノクルをかけ、木製のステッキを握る手は指の無いペンギンの翼。曼荼羅の前にたたずんでいるのは、紳士めいた服装をしたコウテイペンギンである。肯定片吟菩薩はモノクルの位置を直しつつ、泰然とした態度で告げた。
「私は今だ五体満足。こうして地に足つけている。戦意が萎えていないなら、立ち上がりかかって来るといい」
 ジューンはペンギンから目を逸らさぬまま、肩で息をしながら流れ落ちる汗をぬぐう。自身から湧き立つ光を絶えず吸いこむ曼荼羅を見、皮肉じみて言う。
「じゃあそのぴかぴかしてるやつ、消してもらっていい? 正直キツいんだけど」
「残念だが、出来ない相談だ」
「じゃあ、負けてくれたりは?」
「それも出来ない」
 シルクハット、スカーフを整えたペンギンはステッキを芝生に突き刺す。
「いいかね? 私は光の使徒として、より多くの人々を導き救わねばならぬ。本来は君とて例外ではない……が、君達ケルベロスは我々の救済を阻む者。加えて、無辜の人々よりその総数はやや少ない。であれば……救済のため、遅かれ早かれ君達を倒す必要がある。君達だけのために多くを犠牲には出来ないのだよ」
「ご高説をどうも」
 ふらつきながら立ち上がったジューンが萎えかけた足をぐっと踏みしめ身構えた。
「要するに、自分の思い通りにならないなら死ねって言いたいわけだよね。そうはさせるもんか。……その野望、今ここで打ち砕くッ!」
「そうか。残念だ」
 菩薩の背後で曼荼羅模様がより強く大きく光を放つ。まばゆい閃光に向けて、ジューンは意を決して駆けだした。


「むう、菩薩……」
 資料の束から顔を上げ、穫は難しく喉を鳴らした。
 今回、ケルベロスの一人であるジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)がデウスエクスの襲撃を受けるとの予知が入った。
 襲撃を敢行したのは、菩薩級ビルシャナの一角である肯定片吟菩薩。自己肯定を教義に掲げ、誰もが世界に只一つのかけがえのない自分を肯定しその行いは全て善きものであると説く。
 彼本来のスタイルは一般人に説法を授けて欲望を暴走させ、ビルシャナと化させること。しかし、いかなる心境によってか今回はジューンにタイマンでの勝負を挑んだようだ。
 菩薩級ビルシャナは強敵であり、彼女一人では倒されてしまう。皆には今すぐ救援に向かい、肯定片吟菩薩の撃破をお願いしたいのだ。
 さて、強力な菩薩級ビルシャナと言っても、身体能力だけを見れば肯定片吟菩薩はデウスエクスの中でも弱い方。厄介なのはその能力にある。具体的にはグラビティ・チェインの吸収であり、彼が背負った曼荼羅を始め、彼のステッキや戦場にも同様の効果を付加できる上、グラビティを含む攻撃をも取り込むことができるというもの。つまり、肯定片吟菩薩と対峙している限り、ケルベロスは常に自身の力を奪われ続けるという状態に置かれてしまう。
 幸い、肯定片吟菩薩自身はあまり積極的に攻撃はせず、ケルベロス側のグラビティ・チェイン枯渇によって勝ちを拾う算段のようだ。戦場となる広場にもグラビティ・チェイン吸収のエンチャントが為されている以外に変哲は無く、障害物や一般人などもいない。肯定片吟菩薩の配下もいないため、グラビティ・チェインの吸収さえどうにか出来れば菩薩と言えど十分に勝機はあるだろう。
「グラビティ・チェインを確保して何するのかはわからないけど、どっちにしたって放っておけない! 急いで助けに向かってあげて!」


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
安曇・柊(天騎士・e00166)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
信田・御幸(真白の葛の葉・e43055)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)

■リプレイ

「ふうー……」
 大きく息を吐き、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は頬に垂れた汗をぬぐった。ビキニアーマーをまとった体からは煙めいた光が絶えず立ち上り続け、巨大な曼荼羅に吸い込まれていた。
「孤軍奮闘とか、ボクのキャラじゃないんだけどね……」
「奇遇だね。私もだよ」
 悠然とした姿勢で、菩薩が真っ直ぐジューンを見据える。
「本来、私も戦闘は得意でなくてね。出来ればこれも、避けたかった」
「あ、そう? じゃあさ……イワシとか買ってあげたら帰ってくれる?」
「残念だが」
 一蹴した菩薩は胸を張り、ステッキ持たぬ方の手を背中に回す。
「今日に至るまで、いくらかの同胞が散っていった。……教義として、相容れない者も多かいだろう。だが、我々は光の使徒だ。先日の大規模攻勢もまた彼らなりの救済の一手だったと理解している。敗北したとはいえ、彼らの姿に触発されてね。こうして望まぬ戦線に出てきたわけだ」
 菩薩の瞳がモノクル越しに細くなる。真摯な視線を、ジューンは揺るがず受け止めた。
「だから、ここで退くわけにはいかない。私には同胞達の想いを受け継ぎ、救いを完遂する義務がある」
「うん、よくわかったよ。逃げられそうも無いし、これは覚悟決めるしかないみたいだね……」
 頭をかいたジューンは戦斧じみた大鎌を構えた。刃に蒼く輝くルーン文字!
「キャラじゃないけど頑張りますか! 外装天使エーデルワイス、突貫しまーすっ!」
 地を蹴り急加速したジューンが真っ直ぐ突撃! 対する菩薩が余裕の態度で光に包まれた杖を掲げたその瞬間、光の曼荼羅が壁めいて出現。煌びやかに輝くそれに回転を乗せたジューンの鎌が激突し激しい閃光をまき散らした。断続的なフラッシュに片目を閉じたジューンは刃を引きかけ……目を見開いた。手元を見下ろす彼女の大鎌全体から煙じみた光が噴出!
「攻撃は最大の防御。ならば防御こそ最大の攻撃だ。私にとってはね」
「くっ……うおおおおおおおっ!」
 片目を閉じたジューンは一層光を強める曼荼羅に負けじと咆哮! 刃の付け根をつかんで両脚を突っ張り大鎌を引くも、金の紋様は一切揺るがぬ!
「君の力は全て、人々の救済に捧げると誓おう。君は我が巡礼を寝物語に眠るがいい!」
 宣言した菩薩はステッキを両手で握りこむ。ジューンを阻む三枚のみならず背負った曼荼羅までもが閃光を放ち始めたその時、ジューン背後の天空に星めいた光が灯った。白い翼に刺草をあしらった大弓を構えて羽ばたく安曇・柊(天騎士・e00166)の手の中で、尾長鳥じみた翡翠色の子竜がくるりと回り光の矢と化し装填された!
「天花!」
 放たれた矢が空を切り裂いて滑空! 竜矢はジューンをかすめ三重曼荼羅を一度に貫通、菩薩の頬を裂いて再び空へ。後ろにふらついた菩薩に被さる四角い影!
「むっ!?」
 真上を仰いだ菩薩の目に四角い物体が飛び込んだ。両脚を踏みしめた菩薩はとっさにステッキを掲げて頭上に別の曼荼羅を召喚、落ちてきたタンスを受け止め衝撃波をまき散らす! 接地面から無数の亀裂を走らせるタンスの上から跳躍したフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)は肩にしがみつく白い毛並みに子猫に指示を下す。
「テラ、やれ!」
 フィストから飛んだテラは尻尾をしならせリングを投擲! 崩壊したタンスを曼荼羅に食わせた菩薩は飛来する光輪にステッキを向け直し新たな曼荼羅を盾めいて呼び出した。衝突、爆発して曼荼羅に吸収される光の輪。それらを後ろ目に見たフィストは天に叫ぶ。
「今だ、来い!」
 直後、尻餅をついたジューンの前に錆色の戦車が落下し地面を揺るがす。一方の菩薩が光輝くステッキを回しながら掲げ、勢いよく芝生に突き刺すと同時に大地に光の曼荼羅が展開! 巨大化する曼荼羅陣に向かって飛び出した戦車の後方、空中で後転した妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)は合掌し両手の平に光を溜めた。
「障害物がないとは聞いたが……あるじゃないか、地面という名の障害が! はッ!」
 落下の勢いを乗せ芝生に掌底! 凹んだ地面を起点に広がる阿頼耶識は戦車を飲み込み、菩薩の曼荼羅結界とぶつかりせめぎ合う。そこへ突っ込んだ戦車は曼荼羅を蹴散らし金粒に変えて菩薩へ走行! 車体上部にへばりついたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)は白い糸玉を空中に放って青いホロパネルを忙しくタイピング。彼の腰部についた砲が狙いを定める!
「狙いよーし! 行くっすよーッ!」
 砲撃! 飛来する砲弾は、菩薩が芝生から抜いて掲げたステッキにぶつかり爆発ごと吸収された。空中ではセットの投げた糸玉が弾け、四方八方に糸を飛ばすが全て杖や菩薩背後の曼荼羅に吸い込まれていく。戦車内部、葉巻をくわえたヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)はアクセルを踏む!
「Chaaaaaargeッ!」
 さらなる加速を遂げた戦車が菩薩を轢殺しにいく。だが一度曼荼羅を消した菩薩はステッキをジャベリンめいて投擲! 杖が刺さった戦車は車体全体を激しくうごめかせ煙じみた光を噴いて減速。すぐさま戦車の上蓋を跳ね上げたヴィクトルはセットの首根っこをつかみ後ろに跳躍! グラビティを吸われグシャグシャと縮小する戦車に見つつ葉巻を潰すと、戦車は一気に大量の煙を噴いてハードカバーの本型に収縮変形。そのまま吸い寄せられるように戻ったガジェットをつかみ取り、ヴィクトルは小脇の見下ろした。
「即効性か。セット、なんかわかったか」
「解析中っす!」
 新たなホロパネルを操るセットの前に柊が割り込み、徒手で大弓の弦を引いた。彼の目には投げ槍の如く飛来する菩薩のステッキ!
「プロメテウスの炎を掲げよ!」
 弦を引いた柊の手から爆炎が伸び矢を形成! ステッキめがけて放たれた炎の矢は狙い違わず直撃し竜巻じみて渦巻くが、一気に吸い込まれ消滅! ビデオ逆再生めいて戻って来たステッキをつかんだ菩薩へテラと天花を連れた叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が納めた刀をつかんで引き抜く。
「イアイ!」
 抜刀した刃から飛ぶ雷の斬撃が三度出現した曼荼羅に止められ消えた。菩薩はステッキを芝生に突き刺し、代わりにシルクハットを投げる! フリスビーめいて飛んだ帽子は防御曼荼羅を貫通し、金色の光を灯して蓮に迫った。そこに割り込む子猫と子竜。テラが起こした風と天花の体当たりが帽子と正面衝突した瞬間、蓮の背中を鳳月の声が叩いた。
「下がれ蓮!」
「!」
 素早く連続バク転を打つ蓮を拡大する地面の曼荼羅が追いかける! だが菩薩の陣反対から鳳月の阿頼耶識が広がり蓮をいち早く保護。曼荼羅とぶつかり火花を散らした。鳳月の腕を逆流した光が焦がす。彼女は顔をしかめつつ、腕を隠すようにしてジューンに振り向く。
「っ……ジューン! 大丈夫か?」
 眉間にしわを寄せた鳳月にジューンは何か言いかけ、言葉を飲み込む。代わり明るい笑顔を見せた。
「もっちろん! 待ってました、騎兵隊のご到着だね!」
 そのやり取りを薄い微笑みを浮かべて見守る信田・御幸(真白の葛の葉・e43055)が手にした注射器を白衣のポケットにしまう。少し伏せた顔をやや複雑そうなものに変えた彼は、前に立つ仲間達の背中に尋ねる。
「間に合ったようで何よりだ。で、君達は無事かい」
「心配には及ばねえよ、医者殿」
 返事したヴィクトルはフィストと共に両手を合わせ菩薩にアイサツ。菩薩もまた反らした胸に片手を当ててこれに応える。
「ドーモ初めまして。ドラゴンメイドです」
「ドーモ、ジェリーラットです」
「ドーモ、ケルベロスの皆さん。肯定片吟菩薩です。……伏兵がいたとは」
「まあね」
 手にした大鎌を一回転させ、ジューンが挑戦的に菩薩を見やる。
「タイマン張ったところ悪いんだけど、やっぱりこっちの方がしっくりくるかな。仕切り直してもいいよね?」
「良いだろう。仲間共々、かかって来たまえ!」
「お言葉に甘えましてぇッ!」
 両手でつかんだ鎌を全力で振り上げ、振り下ろす! 刃が割った芝生から大量の霧が噴き出しあっという間に広場全体を覆い尽くした。垂直に飛び出した御幸の扇子が勝手に開き黒い風を巻き起こし、遅れて飛び出したフィストとヴィクトルを包む。飛行したままの柊は光の矢を連射して曼荼羅の輪郭を描き出した。
「ここです!」
「イヤーッ!」
 瞳に鯉の紋様を浮かべたフィストが連続斬撃! 雨の如く降り注ぐ斬撃が曼荼羅の輪郭内部をまんべんなく攻撃し、そこかしこから光の粒子を巻き上げる。そこへ縦に一回転したヴィクトルが黒い暴風をまといかかと落としだ!
「イヤーッ!」
 霧を穿ち地面を打った蹴り足が暴風を膨らませ周囲の霧と粒子を吹き散らす。霧から黒の暴風域に出た鳳月は合掌し、セットと蓮に発破をかける。
「行けッ!」
「はいなのだ! ゴーゴーゴー!」
 スタートした二人の背後で突き出した鳳月の両手が真空の刃を凄まじい数ばらまいた! 間にカマイタチの激流を挟んだセットと蓮は霧晴れぬ地点に走る。霧を吸わせて現れた菩薩は軽く上げた杖先に曼荼羅を呼んで真空刃の嵐を防御! 激しく明滅する壁に、赤黒い二刀を構えた蓮がコマ回転、剣戟を仕掛けた!
「イイヤアアアアアアアアアアッ!」
 禍々しい斬り斬り舞が光の壁にぶつかり甲高い悲鳴を上げさせる。しかし曼荼羅は超高速で点滅しつつも彼からグラビティを強制徴収。そして曼荼羅奥の菩薩は余裕!
「どうしたのかね! もっと本気で来るがいい!」
「んじゃあそうするっすよ! うりゃあああああああああッ!」
 跳躍したセットが振り上げた腕に黒い風をまとわせ爪を振りおろした。蒼い爪で曼荼羅を頂点から引き裂き真っ直ぐ降下したセットは光輝くステッキにつかむ! 彼から吸い出されていくグラビティ。セットは構わずステッキを引く!
「ぬうッ!?」
「ぐおおおおおおおっ……これもらうッ、すよ!」
 セット腰部の砲が火を噴く! 一瞬光った菩薩の杖を奪ったセットは空いた片手で崩れかけのホロパネルを手早く操作。続いて斬りかかる蓮と光に包まれる菩薩をフレームに収めたパネルは、菩薩背後の曼荼羅に集中線めいて集まっていく数多の鎖を表示する。セットの目が瞬いた。
「解析完了ッ! ジューンさん! 背中っす! 背中の曼荼羅を壊すっすよーッ!」
「オッケイありがとセットさん!」
 空中で返事したジューンは前方回転して急降下パンチ! 狙いは光のクロスガードで蓮の連続居合を防ぐ菩薩の背後、霧を急襲して輝く曼荼羅だ!
「でやあああああッ!」
 ジューンの拳が曼荼羅を貫くと同時、菩薩のまとう光が消えた。蓮の斬撃が胴に食い込み、切り傷が血を吐き出す。
「ぐむッ……!?」
 目を見開く菩薩を前後に挟み、蓮とジューンはそれぞれの刃を振りかぶる!
「これでも……くらええええええッ!」
「イヤーッ!」
 挟撃一閃! 菩薩の背中と腹が裂け、大量の血がぶちまけられた。草を濡らす血潮を見下ろし菩薩が絶叫!
「ぐむぉぉぉぉぉぉッ! おおおおおおおおおおッ!」
「なるほど、それが手品の種ってわけかい」
 叫ぶ菩薩を遠目に見つつ、御幸はあごに手を当てる。
「ちょくちょく出しているのは端末で、本体はやはり背負った曼荼羅。そうだな……例えるなら、端末が働き蜂で背中のものが蜜蜂の巣、菩薩自体は女王蜂……と、言ったところか。……では、種明かしも済んだし合わせるとしよう」
 御幸の足元に真紅の結界が開く。下から赤い光に照らされた彼は閉じた扇子を菩薩へ走るヴィクトルとフィストに突き出した!
「六根清浄、急々如律令!」
 赤の結界から数多の白狐が飛び出し、長大な機械鞭となったヴィクトルのガジェットと滑走するフィストの足に憑依! 高速で迫る二人を背後にした蓮とジューンが追撃を見舞う直前、菩薩の目がまばゆい閃光を繰り出した。次いで全身が光輝き、近い四人の目を潰す!
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
 裂けた菩薩の背中に曼荼羅が再度開いた。強烈な光の中で、エクトプラズムじみた光を抜かれたジューンと蓮が地に伏せる!
「わぅっ!」
「つっ!?」
 倒れた二人と急停止をかけたヴィクトル・フィストの体が光の煙を吸い取られていく。とめどなく流血しつつも菩薩は力を吸収し続け、まばゆく光る!
「まだまだだ……まだまだだ! 私はまだ生きているぞォッ!」
「うひゃあああああっ!」
 直後セットが奪ったステッキごと菩薩へすっ飛ぶ! その青い竜鱗からも光煙があふれ菩薩の光に伸びていた。
「は、離れるっす! 力がっ……!」
 もがき、しかし徐々に脱力するセットの手に光の矢が命中! ステッキの光を弾き、解放されたセットの真上を突破した柊は天花と一緒に炎に包まれながら飛翔、光の中にダイブし菩薩に組みついた!
「天花、炎を! 僕達の全部……燃やす、くらいにっ……!」
 きつく目をつぶった柊と天花が巨大な火柱を生み出した。菩薩ごと曼荼羅の光を閉じ込めたそれは風前の灯めいて不確かに揺れ収縮していく。炎を取り込みながら菩薩は光をさらに強める!
「仲間を守り我が身を燃やす、その意気や良し! だがそれで止まる私ではないッ!」
「……ッ!」
 柊の汗が蒸発し、苦しげな吐息が炎に溶ける。火柱が縮み、消えかけたその時、ヴィクトルは機械の鞭を横薙ぎに振った。
「イヤーッ!」
 鞭が火柱ごと曼荼羅をかっさばき、柊が力なく芝生に突っ伏す。組みつきから解放され曼荼羅を開こうとする菩薩の頭部を、フィストの白く燃える両脚が挟み捕らえた。背を弓なりに曲げた彼女はサマーソルトじみて菩薩を後ろの空に投げる!
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 投げ出される菩薩。空飛ぶその姿を目にしたセットは仰向けに倒れたまま震える腕でホロパネルを操作する。
「同調生体制御開始! ジューンさん! やってくれっすーッ!」
 叫びキーを押すとジューンの真上に展開した盾型ドローンが彼女を青い光で照らし出す。振り絞って起き上がったジューンはクラウチングスタートめいた姿勢で空中の菩薩を見据え、力いっぱい地を蹴った! 空に飛び出した彼女の前で、菩薩は宙をくるくる回りながらも手足を振り回して体勢復帰! 再度曼荼羅を背中に顕現!
「私は負けるわけにはいかんのだ! 全ては救済のために……かけがいのない全人類一人一人を肯定し、救うッ!」
「そうは行くもんか! 全人類ビルシャナ化なんて絶対させない! 人間誰もがかけがいのない自分だって!? そんなこと……」
 合掌した鳳月がジューンに向かって手をかざす。神々しい光を宿したジューンは前方回転し、飛び蹴りを繰り出した!
「言われなくても、わかってるんだよッ!」
 流星じみた蹴り足が曼荼羅もろとも菩薩を貫く。菩薩は大量吐血しつつも、しかし悟ったように両目を細め……光と共に爆発四散した。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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