ミッション破壊作戦~春の陽の下に生きて

作者:ほむらもやし

●戦いは続く
「菩薩累乗会の阻止、お疲れさまでした。で、5月になって、またグラディウスが使えるようになっていたから、僕らも、ミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、丁寧に会釈をすると、依頼の話をはじめた。
「行き先によって敵の強さは変わるけれど、基本的な考え方は前と同じ。先輩たちも居るし、だいたいやることは分かっているよね? ——では、繰り返すけれど。まず、これがグラディウスだ。見た目は小剣だけど『強襲型魔空回廊』を攻撃できる戦略兵器だ。魔空回廊を守るバリアに刃を接触させるだけで兵器としての機能を発揮する。攻撃後は撤退。立ちはだかる強敵を倒し、ミッション地域中枢から離脱する、以上だ」
 作戦は魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。
 前者は思いの強さ。後者は素早い行動と仲間との連携が、重要とされる。
 既に判明している知見をどのように生かすかもポイントになる。
「撤退作戦は苦戦する方が多いみたいだけど、手書き案内図を作るやり方で考えれば良いだろう。何を目印にして、どの方向に進めば良いかということだよね。他、予想可能な障害に対してどう注意するか、時間を掛けない対応なら、有効な手立てになると思う」
 今から向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。
 具体的な行き先はパーティで相談して決められる。

「気をつけることは、なんじゃろうか?」
「スピード感を持つことと、仲間との協調だね。もし戦いが長引き、敵を倒し突破する前で新手の来援を許せば全滅は必至だ。敵中枢付近での戦いである以上、集まってくる敵戦力はあなた方の対応能力を大幅に上回る」
 但し、敵はグラディウスの攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)に視界を奪われて大混乱に陥っているから、大胆な行動でも通ることがある。
 それが、少人数の奇襲でも、僅か1回の遭遇戦で撤退可能と見込める最大の根拠である。
「スモークが有効な時間はグラディウス攻撃を終えてから十数分程度。向かった場所やその日の状況で違いはあるようだけど、何十分も持つものでは無いイメージは持って欲しい」
 時間に限りがあることを強調したが、今までミッション破壊作戦中に、ケルベロスが死亡した事例は無い。
「あと、グラディウスは使う時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がると言われる。君の熱い叫びがミッション地域を人類の手に取り戻す力になるのだから、恥ずかしいとか言わずに頑張って!」
 攻撃目標はミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊。
 中枢であるが故にヘリオン以外の手段で、そこを目指せば、遭遇戦の連続となり、消耗による撤退が不可避となる。敵にとってもグラディウスは重要なアイテムである。
 グラディウスを奪取される危険を考えれば、陸路による攻勢は現実的で無い。

「叫びはグラビティを高める為の手段だけど、何をもって強い叫びとされるかは解明されていない。叫びの内容によってグラディウスが暴走する仕様も無いから、どんな気持ちをぶつけて大丈夫だよ」
 ミッション破壊作戦では、何度も攻撃を繰り返して、ダメージの蓄積による強襲型魔空回廊の破壊を目指している。ただの一度での制圧を狙うなら、先に実施した累乗会反攻作戦の様な大規模な作戦が必要だろう。
 過去に1回、2回の攻撃で破壊に至った事例もあるが、幸運なレアケースだ。
 だから1回の攻撃で過大な戦果は要求していない。そんなことよりも無事の帰還を最重視して欲しい。
 ミッション地域は、日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 日々ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かない。
 敵の傾向は、既に明らかになっている情報を参考にできる。だから速やかに撤退できるようプランを描き、皆で理解した上で、実行しよう。

「デウスエクスは、あなたが人生の重要な節目に勝負を懸けていても、お構いなしに攻め込んで来る。大切な人と愛を語り合っている間にも、納品直前の仕事を手がけている最中でも、人生を懸けた試験の最中でも……」
 襲われる土地は見知らぬ街かも知れないし、あなたの故郷かも知れない。
 今、目の前に見える世界が、平和に見えても、侵略を受けている日常は危機だ。
 なぜならその危機は次の瞬間にもあなたの元にやってくる可能性がある。
 そして、この危機に立ち向かえる力を持つのは、あなた方ケルベロスだけだ。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)
ステイン・カツオ(剛拳・e04948)
ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)

■リプレイ

●二回目の降下攻撃
「果実も不味いし人襲うしで、碌なことしねーもん、こいつら。だから、そろそろ決着をつけねーとな」
 ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)は2ヶ月前のことを思い出しながら呟いた。
 この日、大阪の天気は下り坂で、空気は肌寒さを感じさせる程。
 府内に於ける行方不明者のリストを読み上げるラジオ放送の声は、それが日常であることを示すように、天気予報と変わった。同じ声は寒気の南下により、今日の気温は三月初旬と同じ水準まで下がると告げた。
「こんな理不尽は、これっきりにして欲しいですわ……」
 床に広げた地図を、何度も指でなぞって居るのは、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)だった。その脇で、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が、皆で共有すべき情報は何だろうかと、思い悩んでいる。
 岸和田への攻撃は、これで最後にしたい。それが此処にいる8人の正直な気持ちだ。
 やがて岸和田市の上空に進入したヘリオンの機内に降下準備を促すブザー音が鳴り響く。
 魔空回廊はそれと分かって見ていれば、恐らく見過ごすことは無いが、そこにあると知らない者にとっては、自然の風景の一部のように見える。
 高空から見る岸和田市街は、強襲型魔空回廊を中心にした半径2キロメートルほどが壊滅していた。
「到着だな」
 ランプの色が変わりロックが外れる音が響く、機を合わせるように、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は、扉を開け広げると、外に飛び出して行った。
 地表までの距離は2000メートルほどだろうか、高度は低すぎても高すぎても都合が悪い。
 翼を持たないケルベロスがパラシュートを着けずに、空気中を自由落下すれば、バリアーに衝突するまでの時間は1分程度。突入時の秒速は50mぐらいになる。かなりの速さに感じるかも知れないが、ヴォルフのように訓練されたケルベロスならば勿論、大した問題では無い。
 急速に迫り来る、地表の景色、そして魔空回廊を防護するバリアーは普通の人間が見れば、肉体が四散して死ぬ恐怖から絶叫するものだが、ヴォルフは何ら関心も感想も無いと言った様子で、おもむろにグラディウスを構え、無言のまま、進行方向に突き出した。
 直後、腕の先が砕け散るような衝撃と共に刃先から、蓄えられたグラビティチェインが放出されて爆ぜるのをヴォルフは感じた。身体は弾き飛んで、空中に投げ出される。一瞬遅れて衝撃波と共に広がる轟音が風景を揺さぶり、それが魔空回廊への第二次攻撃を告げる号砲となった。
 膨れあがる爆炎。その炎に熱せられた空気が猛烈な上昇気流を作りだし、変わり地上のありとあらゆる物を吸い上げるような風が渦巻く。
「人間は、……否、人間ではなくとも欲には弱い。以前と変わらずそこに付け込み続けて、未だこの地に根を張る所業、いつまでも許されると思ったら大間違いだ!」
 木の葉の様に舞い上げられたヴォルフの身体が勢いを失い、上昇気流のとは反対方向、地表に向かって溢れ落ちる煙の中に混ざるように落下してゆく様を見遣りながら、ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)は背中の羽根を輝かせて落下速度を緩める。
 わざわざ痛い思いをしなくても、飛行能力のある者は上手くやることもできる。普通に思いを巡らせて感情を高め、叫びと共にグラディウスをぶつければ、満点とはいかずとも、良い結果には繋がる。それはダリルが過去の経験から学んだ流儀かも知れない。
「今度こそ、枝葉もまとめて、もう生えぬように全て根こそぎ刈り取ってくれるッ……!」
 次の瞬間、叩きつけた刃の先から光が爆ぜて風景が真白に変わる、樹状に伸びた雷光が地表から巻き上げられた敵を焼き払って行く。
「これも因縁だな。今度こそぶっ潰すんだ!」
 その小さな身体を弾丸として、重力の加速に身を任せて、巻き上がる煙の渦を裂くようにして、ヒビスクムが突っ込んで来る。覚悟を孕んだ表情にはヘリオンの中で見せたような気安さは無い。
「人の欲望に根をはる金のなる木は、この刃で伐採してやんよ!! っつーわけで、ぶった切られていなくなれええええ!!」
 グラディウスと共に突入した瞬間、一切の音が無くなった。刃先がバリアーに食い込んでいる。このまま割れてしまえと、表情を動かさぬままにヒビスクムは叫ぶ。閃光が噴き上がり、一瞬遅れて、衝撃波が廃墟と化した街並みを揺さぶる。そして閃光の中から生み出された雷光が豪雨の如くに地上に降り注いだ。
「なにがお金のなる木だぁ!! 全部偽物じゃねえか、ボケがぁ!! 本物作れるようになってから出直してこいや!! どのみち全部駆除するけどな!!」
 ステイン・カツオ(剛拳・e04948)は叫ぶ。ボーナスをはたいてスイートルームを予約したクリスマスの夜、そこにゴールする前に「ごめんなさい」されてしまったか如き憤りを込めて。
「てめぇらの魔空回廊はぶっ壊す。ふざけたナリでも、人間消してんだ。報復は受けてもらう!!」
 怒りと悲しみと無念、決して『本物』を得られぬエンディングを打ち砕かんと、叩きつけた刃がもたらす無慈悲な破壊が吹き荒れる。火炎を孕んだ爆煙が低く垂れ込めて、火竜の如き稲妻が次々と地上に落ちて行く。
 放出されたグラビティは魔空回廊を覆うバリアーを貫通、魔空回廊に直接ダメージを与える。内部における爆発、誘爆、炎上が生み出す破壊力がバリアーを伝播して橙色に輝く無数の網目模様の筋が走った。
 そして炎と雷光、渦巻く煙に蹂躙される岸和田の市街は地獄草紙に描写された修羅道の如きだった。
「誰しもが思ったことがあるはず『もしも宝くじが当たったら』と……財への欲とは、人の心の弱い部分の一つ」
 そこに、弱々しいけれど、良く通る和の声が響き渡る。
 人の心を弄ぶ。その気も無いのに期待だけを抱かせて、梯子を外すような最悪の攻性植物、お金のなる木。
 その卑劣な企てを討つのは、今日だ。
 間近では巨大な壁にしか見えないバリアーだが、無数の亀裂が繋がりあい、砕けるような音を立てる様を目にすれば、それが崩壊に向かっているのは明らか、だから怯まず、和は叫びと共に刃を突き出す。
「それを巧みに駆り立て、自身を惑わせるとはなんと卑劣な奴め! 人々の心の安寧を守るため、ここでお前を討つ!」
 いくら見た目が少女の様に可愛らしくても、身に受ける衝撃が和らぐことは無い。あるのはグラディウスを所持する者に付与される加護だけだ。一度火の点いた破壊の力をコントロールすることなど出来ない。蓄えたグラビティを使い果たすまでグラディウスは暴虐の炎と雷光をまき散らした。
 白翼を広げ巻き上がる風の中旋回する、クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)の目には、ひび割れ広げた半球状のバリアーが、赤黒く怒張した亀の頭の如くに映っている。
「使えもしない偽物で人々を惑わす妖樹め。これ以上増える前に岸和田市から駆逐し、人々に平穏を取り戻す!」
 クリームヒルデは翼を窄め、緩降下攻撃の姿勢を取る。
「これまでお前に惑わされ、犠牲になった人々のためにも、今日こそ、人の心の弱みに付け込む奸計に終止符を!」
 ラジオで読み上げられた行方不明者のリスト、恐らくはもう生きてはいない。それを思うとクリームヒルデの薄い胸に形容しがたき万感が満ちる。
「犠牲になった者の無念、遺された者の嘆きと怒り、その全て叩き込めグラディウス!」
 澄んだ音を立てながら傾き、内部の魔空回廊を巻き込むようにして、バリアーは沈降を始める。
 悪趣味です。
 それが、クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)の抱く、率直な印象だった。
「多少知恵を持ったようですが、正直そのあり方は不愉快です……容赦する必要一切無し……解放と、決着を……!」
 行く手を阻む壁にしか見えなかったバリアーは揺れている。二連の銀髪をジェット噴射の如くに靡かせて、クーデリカは垂直降下の軌跡を描くように、突っ込んで行く。
 クーデリカの構えたグラディウスがバリアーと接触する瞬間、刃は白い炎の如き気配を纏い、刹那、風が止まったように見えた。
 直後膨れあがった火球はこの日7度目破壊をもたらし、炎を孕んだ赤黒い茸雲は熱対流を繰り返しながら成長し、低空にあった自然の雲を突き破り、成層圏にまで達していた。
 音速を超えるほどの爆風が石をも溶かす高温と共に吹き抜けて、瓦礫の街に潜む敵に追い打ちを掛ける。
「ここ大阪では多数の攻性植物達が動き出しておりますわ……、しかし、大阪を……いえ、この地球を好き勝手にはさせませんわ……!」
 破壊された構造物の破片や傷ついた敵を巻き込んだ上昇気流の中を縫うように飛びながら、崩壊の進むバリアーを睨み据える。もはや何もしなくとも自壊しそうに見えたが、一刻も早く魔空回廊を破壊し、日常を取り戻す。
 そこはブレてはいけないと、ミルフィは思う。
 なぜなら此処は人間の街で、
「美しき地球の生態系を……貴方達攻性植物一色に塗り潰させませんわ!!」
 赤黒い雲を映すグラディウスを構え、ミルフィは渾身の力と叫びを込めて、その刃を叩きつける。
 雲を押しのけるような火球が再び爆ぜた。直後、澄んだ音を轟かせて、魔空回廊は跡形も無く爆散した。

●最後の撤退戦
 空高く巻き上げられた瓦礫がそこかしこに落ちて来る中、魔空回廊の消滅を視認した一行は撤退を開始する。
 茸雲は孕んだ炎の輝きを失って、漆黒と変わる。そして上空の寒気に触れて、通常ではあり得ない速度で冷却されたそれは超巨大な積乱雲となる。
 スモークに覆われた風景は、空からの光を完全に遮断されて、火災の炎が照らす光を除けば、墨を溶かした水の中に潜っていると錯覚する程の闇。
「大丈夫だ、任せろ。無事に帰るまでが、依頼だからな!」
 しかし、土地勘もあり、夜目も利く、ヒビスクムが先導すればこそ、無駄のない動きで瓦礫の街を駆けられる。
 大量の煤を含んだ熱気は、急速な冷却によりたちまち飽和に達し、上空で石炭の如き黒い雹を作り出していた。撤退を始めて数分で拳ほどもある黒い雹がドカドカと降り始めた。
「空が怒っているみたいだ……」
「成仏できなかった魂が帰って来たようにも見えますね」
 最後尾を駆ける和の呟きに、クリームヒルデはお金のなる木が跋扈を許した1年余の犠牲者に思いを巡らせる。
「この道を真っ直ぐ進めば——とは行かないみたいだねッ!」
 出来れば敵には遭いたくなかったが、そうはさせないと言わんばかりに立ち塞がる大きな金のなる木に気がついた、ヒビスクムは立ち止まり、ルーンアックスを横に構えながら、雹の積もった地面を踏みしめる。
「ぶった切る!!」
 叫びと共に呪力の光を帯びた斧刃を振るい、先制の一撃を叩き込んだ。
 次いで、気持ちだけで跳び上がり、前に出たクーデリカの輝く蹴りの一撃が、足止めの効果を刻みつける。
 連続攻撃に枝を揺さぶられたのだろうか。
 たわわに実っていた、金や宝石、札束が、雹が積もった地面に落ちて前衛の足元あたりまで転がってくる。
「偽物と分かってはいますが、見ればみるほど本物のようでございます……」
「ホントだな、こりゃあ、引っかかるのも無理はないぜ」
「確かによく出来ていますね」
「バカバカしいが、これは認めざるを得ないな」
 それを思わず手にとってしまった、ステインの呟きに続いて、ヒビスクム、ダリル、ヴォルフが次々と同意を示す。普通に考えれば、戦いの最中に何をやっているのだと怒鳴りたくなるところだが、ミルフィは前衛が強力な催眠に墜ちたと気付いて戦慄する。
「なんと恐ろしい……、欲を食い物にして育つ攻性植物など……斬り倒してくれますわ……!」
 刹那にクリームヒルデの動きを見遣り、ならばと、ミルフィはアームドフォートの照準をお金のなる木に定める。
「祈りましょう、明日のために。願いましょう、人の子等の安寧を。唱いましょう、天上に響く高らかな凱歌を」
 次の瞬間、撃ち放たれた主砲弾が炸裂するのに機を合わせて、クリームヒルデは歌声に癒しの祈りを乗せる。清らかな響きは催眠に陥った4人を正気に戻した。
 戦場を覆うスモークは、まだ充分な濃度を保っている。
 例え魔空回廊を破壊しても、未だ敵は戦力を保有していてここが敵の占領地である事実も変更されていない。
「燃やし尽くしてやらー!」
 身長に比べて不釣り合いなほどに、巨大なドラゴニックハンマーを砲撃形態と変え、和は竜砲弾を撃ち出す。
 ハンマーから放たれた巨弾は、強い放物線を描きながら落下して大爆発を起こす。
 爆炎に包まれたお金のなる木は大量の財貨をまき散らすが、それに関心を抱く者は居ない。
 もはや遅れが取るまいと、ダリルは一度目を細めると、光の翼を暴走させ、我が身を『光の粒子』と変えて、突っ込んで行く。衝突と同時に新たな財貨を実らせた木の幹は大きく揺さぶられて、未熟な果実を落下させた。
「だいぶ弱ってきたようだな」
「いつまでも時間は掛けられんがな」
 ダリルとヴォルフは頷き合うも、互いに顔を向けることは無かった。直後、雷光の余韻を残して、黒い刃に竜の紋様が刻まれた偃月刀がお金のなる木の幹に突き刺さる。
 スパークする青白い輝きが、破裂音を轟かせる。そして木の周りを巡る稲妻が爆ぜて緑の葉を散らせた。
(「ただでさえ攻性植物が活動を再開してきている状況。こちらからも仕掛けていくべきでございましょう。人を騙す詐欺野郎は特に。念入りに。跡形も残さず」)
 大阪における対攻性植物の状況は、ステインにとって、停滞と言うよりはむしろ悪化しているように感じられた。
「まずは、やれる所からだぜ——使い古されたセリフかも知れないがな!」
 ステインは憂いを払うように言うと決意を込めて、小さな身体を高速回転させる。エンドミルの如くに高速回転するステインの身体は凄まじい勢いでお金のなる木を抉りバラバラの砕片へと変えた。
「っつーわけで、木っ端みじんになったようだな! グッジョブだぜ!!」
 ヒビスクムは身を屈めるようにして、ステインにハイタッチを求めて、喜びを表し、だが休みもせず、疲れた身体に鞭打つようにして、駆け始める。
 ミッション地域の外を目指して、走り続けた、あなた方は無事に中枢部を抜けた。
 その後、出会ったミッション攻略中の有志のケルベロスたちに、魔空回廊の破壊成功を告げた。
 果たして、封鎖地域の外側には、昔と変わらぬ日常があった。
 だが、後ろを振り向けば、空を貫く程に伸びた黒雲が海側に流れてゆく様子が見える。
 これは反撃の狼煙だ。ヒビスクムは信じる。
 大阪は焼け野原から何度も立ち上がって来た。何時までも、被害者のままで、泣き寝入っているはずがない。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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