冷風ドライヤー

作者:baron

『ドドド、ドライヤー?』
 倉庫の片隅で何かがブルブルと震えだした。
 そいつは周辺を破壊すると、倉庫を破壊して飛び出して行く。
『冷風、ドライヤー!』
 ひゅーっと冷たい風が通り抜け、倉庫があった周辺を凍らせてしまった。
 その場所が郊外であることを察したのか、単に人間が近くに居ないと判断したのか、町の中心部へと向かったのである。


「とある県の蔵に眠っていた家電製品がダモクレス化します」
 セリカ・リュミエールがカタログと地図を手に説明を始めた。
 郊外ゆえに幸いにも被害は出ていないが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
 その前に現場に向かいダモクレスを撃破して欲しいとのことだ。
「今回のダモクレスは、冷風専用ドライヤーを元にして居ます」
「……専用?」
「機能が付いてるんじゃなくて?」
 セリカの声に男性陣は首を傾げ、女性陣は微妙な顔をした。
 ドライヤーには冷風を送る機能があるものもあり、兼用というのは判るのである。
「確かに微調整するのに専門のが欲しい時もあるけど……」
「滅多に使わないだろうし、要らないよね」
「そういう訳で専門のドライヤーとしては使われず、放置されていたようですね。これがダモクレス化したことにより、バスターライフル使いのレプリカントの方のような能力を持って居る様です」
 あーと言う声が上がって、何人かは納得したようだった。
 一部の職業や化粧などで微調整できる冷風機能が欲しい人も少なからずいるのだろうが、結局使わない人も多い。普通は兼用で使う波、男性陣などは不要と言う者も居るくらいだ。
 それが忘れられたとしても仕方無いかもしれない。
「その機械も元は悪意など無かったのでしょう。ですが罪もない人々を虐殺するデウスエクスを放置できません。被害が出る前に対処をお願いします」
 セリカはそういうと、資料や地図を皆に渡して出発の準備を整えるのであった。


参加者
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)
名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)

■リプレイ


「予定通り、誰も居ない様ですわね」
「見掛けたら何とかするとして、そろそろいいかな」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)と赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)は周囲を確認して問題無かったと仲間に告げた。
 二人を始めとして周辺を回って来た者の報告が集まった事もあり、早速行動が開始される。
「今回はすぐ人を巻き込まぬ場所に現れただけよかったのじゃろうか。っと、そっちは向こうに張っておくれ」
「復唱。任務、敵勢の殲滅。一時主人、存在不明。任務了解、私は奴隷(どうぐ)を容認する。……問題ありません」
 片手にテープを持ってララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)は走りながらダイナミックにペタペタ。
 名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)は御手伝いをしながら、ぎこちなく歩いて小路を封鎖して行く。時折転んだりもするが『……戦闘に支障ありません』と、なんとかやり遂げる。
 他の仲間達も手伝い、たちまちのうちに郊外から町へと続く道は封鎖された。
「冷風専用のドライヤーがあるとは、初めて耳にしましたわね。ドライヤーって、てっきり温風を送るものかと思ってましたわ」
「それはカトレアちゃんが我慢強い子供時代を過ごしたからだと思うわよ。もしくは回りの人たちが大切に育ててくれたのね」
 カトレアの何気ない呟きを拾って、心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が答えた。
 小首を傾げる仕草に微笑み返す。
「熱風だと子供達が熱くて嫌がるから、冷風って意外と便利なのよー。まあ、普通は一体型になってるから片方だけっていうのは珍しいかもだけど」
「あー、そんな感じがするする。うん、冷たい風だけのドライヤーって出番ないよね」
 括の言葉に思い至ったのか、うんうんと緋色の方が頷いた。
 まあカトレアの小さい頃に思い至ったと言うよりは、ドライヤーの方を思い付いてひとまずうんうんと言ったのかもしれない。
「そんな事はさておいて、敵の位置は判りますか? そう時間を掛けずにやって来る筈ですけれど」
「敵勢、冷風ドライヤーを確認しました。本日は皆さまよろしくお願いします」
 照隠しなのかカトレアが話を元に戻すと、九八一は高い場所までジャンプして確認する。
 そして場違いな礼を言った後、一直線に飛び出して行った。
 そのまま二度目のジャンプを敢行して、敵の元に降り注ぎながら炎と化した右手を叩きつけたのだ。
「見掛けに寄らず気の早い奴なのじゃ。では、わらわは抑えておくとしようかのぅ」
「二人とも待って~。ソウちゃん、行くわよー」
 その様子を見てララは手近な電柱に駆け昇って、飛び蹴りを繰り出し重力で抑えつけに掛る。
 括は翼猫のソウを降ろしながら、走ることで右に左に揺らしながら包帯を……そう、揺れているのは包帯! を結界として張り巡らせたのである。
「ふははははー、見つけたよダモクレス! 被害が出る前に小江戸の緋色が破壊してやるのだー」
 続いて緋色はドワーフも真っ青な回転を掛けると、くるくる前転しながら大回転。
 斧を鮮やかに突き立てるのだが、先にって言っておくと彼女はドワーフではない。小江戸の小粋な少女なのである。
 フリーダムな気もするが、気にしてはいけない。
「……えーどえーどと東京の……。あ、小江戸は埼玉でしたね」
 何かをバグらせたらしい九八一が妙な事を言うのだが、やはり気にしないでおこう。
「ゴホン。尋ねたのは渡しなのですけどね……まあ良いでしょう。この一撃で、その身を凍えさせてあげますわ!」
 置いて行かれた様な気もするが、小さい頃の話題から逃れたことでカトレアは元のペースを取り戻す。
 そして顔前に細剣を掲げると鋭い切っ先に凍気を宿して、冷風のダモクレスと相対したのである。


『ブロロ~』
「アカツキありがとう。そのまま皆のサポートよろしくね!」
 月島・彩希(未熟な拳士・e30745)は箱竜のアカツキに防御を任せて両手に一杯、紙片を掴み取った。
 冷凍光線に対し盾役の仲間やサーヴァントが割って入り、ことなきを得る。
「冷風専用のドライヤーもあるんだね。家電用品は本当にいろんな種類があるね。アカツキはお願い~」
「はい。でも、お風呂上がりに使うと、ひんやりとしていて気持ちが良さそうですよね……。でも、悪さをするダモクレスさんを見過ごすわけにはいきません……!」
 指と指の間に一枚ずつ、合計八枚。彩希は四方に飛ばして結界を補強し仲間達を守る。
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は小さく頷くと、冷凍光線で凍りつき始めるアカツキを融かすのではなく、優しい回復用の雪に置き換えた。
「冷風……これからの時期に欲しくなるね……」
 カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)は二人の話を聞きながら、相手の動きを見て槍を上空に投げる。
 高空から槍が落ちて来る前に、変形させておいたハンマーで轟音の弾を打ち出した。
「無暗に大きくになるんだから……さぁ、遊ぼうか――」
 発射と同時にカタリーナはダッシュを掛けて、落ちて来る白い槍をキャッチ。
 そのまま雷光の様に突き刺し、バックダッシュを掛けながら撃ったばかりのハンマーにグラビティを込めた。
「先に行くねっ」
「任せる……というか確認しなくても良いよ」
 連続攻撃はそこまでと判断したのか、彩希は元気よく体ごと飛び込んで浴びせ蹴りを喰らわせた。
 カタリーナは気にしなくても良いのだが、なんとなく気にしてしまうのが彩希なのかもしれない。
「これからの時期、暑くなってくるし君みたいなのは是非ともほしいんだけど、寒すぎるのもごめんだから。ここで倒れるといい」
 そんな事を考えつつ、思い出したように砲撃のトリガーを引いた。
 その姿には先ほど連続攻撃を掛けたせわしない様子は無く、ただの気まぐれであると思わせるのだ。

 早い段階に連続で鳴り響く轟音と共に、ケルベロス達はダモクレスの進路を塞いだ。
 まずはお皿の様に平面、そして盾役が仲間を守る様に一歩出ることで緩やかなV字に変化して行く。
『ドドド、ドライヤー?』
「あらあら。せっかちさんなのはこちらだけではないのかしら」
 急激に冷たくなったり暖かくなったせいか周辺が爆風に煽られる、迫り来る風をポヨンポヨンと括はガード。
 奥ゆかしい元気系わんこなどは、いつか私も成れるかな……。と言う感じの頼もしさ(ボリューム)である。
 同じ様にカトレアやアカツキ達も爆風をガードしていたのだけどね。なんという脅威だろうか。
「え、援護しますね。ち……治療ですけど」
「はーい」
 夏雪はとある部分から目を反らしながら、粉雪を風に載せてみんなを癒すのでした。


「今度は威力重視だよ!」
 さっきのは弱かったのかと思うくらいの勢いで、緋色はガードレールをコーナーポスト代わりに飛んだ。
 そしてフライングボディプレスならぬ、大上段からの斧を脳天(?)へと食らわせる。
「冷風専用ですから、熱には弱そうですわね。炎よ、高く立ち昇りなさい!」
「わらわも真似っこさせてもらうのじゃ。火と火が合わさって炎と読むのじゃよ」
 カトレアが炎をまとって蹴りを浴びせると、ララも見習って炎をまとう。
 そして軽く翼を広げると、滑空しながら上の方を蹴りつけてに火を灯した(意味は無いが気分は良い)。
「僕は地道に行かせてもらいます。……そういえば、氷を使う敵が凍らないとかはなかったですよね」
「ええ、その筈よ」
 九八一はカトレアの言葉を聞いて頷くと、おもむろに気合いを入れ直した。
 そして掛けた言葉は……。
「冷風ドライヤー、どないもんやー」
 何を思ったのか、突如寒いギャグを入れる。
 するとどうだろう、ワイルドウェポンが変形して九八一にツッコミを入れるのであった。
「さて、御次はこれで行きましょう。……あっ寒、アッサム飲む?」
 そのツッコミでバランスの良くない九八一は転んでしまうのだが……。
 マイペースに置きあがると、気にせずに炎に燃える右手を固めて裏拳で殴りつけた。
 その姿はさきほど喰らったツッコミを反復練習して居るように見た者も居たかもしれない。

「……流石にお茶を呑みながら闘うのは難しいかな」
「多分、そういう事じゃないと思うわー。これからの季節は出番が増えてくるかも知れなかったのに、このタイミングでダモクレス化しちゃったのはもったいないわよねー」
 周囲が凍りつく中でカタリーナはのんびりと槍を突き刺し、括は年の功で何も聞かなかったことにする。
 判っているのよーという顔を浮かべはするが、特に何も言う訳ではない。
 そして今なら余裕があるのを見て取ると、闘気を固めて『てやー』と叩きつけるのであった。
「しかし機械を自由に操れるというのはちょっと気になるのぅ。ダモクレスは機械にくっついて悪さしすぎじゃと思うのぅ」
「そうなのよねー。大々的にヒールして回ることもあるけど、御片付けとかもしなきゃならないのかしら」
 ララは括の言葉に反応しつつ、フルフルと首を振って答える。
「今の世の中不要になっておる。家電などは大量にあるじゃろうし、こちら側からの働きかけではなくならんじゃろうなぁ。ダモクレスのほうを止める手立てがほしいのじゃ」
 こんな風に止めれれば良いのじゃがの。
 そう言いながらララは砲撃モードでハンマーを放つ。
 轟音で動きを止められたダモクレスは、強烈な凍りの息吹で反撃に出た。
『ドドド! ド、ライヤー!』
「その様な攻撃、やらせるわけにはいきませんわ。逆に、その傷口。更に広げてあげますわね!」
 カトレアはララの前に進み出ると、美しい刃を振るって空間を割く。
 彼女を貫く筈の冷凍光線は半減し、元に戻ろうとする作用でダモクレスの周囲でグラビティが逆巻いて行く。
「いま治療しますね。傷は……大丈夫ですけど……」
 すかさず夏雪が癒すのだが、氷の全てを雪に変える事は出来なかった。
 流石にジャマーの本領を発揮されたら一筋縄ではいかない。
「それにしても冷風というには寒すぎるの……。風邪を引かないうちに倒しちゃうよ!」
「なんかもう攻撃方法がドライヤーって感じじゃないよね」
 彩希と顔を合わせた緋色は、ちょっとした事を思い付いた。
 自分が持っている斧を彩希の持つバールに軽く合わせ、チーンと音を鳴らしてから飛び出して行く。
 そしてちょっとだけ驚いた彩希も、慌てて追いかけていったのである。


『ブロロ~』
 それから何手かの攻防が巡り冷凍光線のほか、強烈な重力波や爆風が周囲をめくり上げて行く。
 ケルベロス達はそれらを防ぎ、可能な限り人々の生活を守ろうとした。
「大丈夫……。痛くない、です……寒くないです」
「助かりましたわ。火力はともかく、動き難くなるのは困りますから」
 夏雪が寒風吹きすさぶ空を見上げると、次第に柔らかな涼しさに変化。
 吹雪から粉雪に変わる様な優しさが、カトレアを縛る束縛と痛みを和らげて行く。
「こんなものかしらねえ。まだ痛かったら言ってね」
 累積して受けたダメージも、連携によって癒されて行くのだ。
 括が気力を分け与え残りの傷を癒して、全てでは無いが元の力を取り戻して行った。
「それでは締めと参りましょう。最後まで油断は禁物ですけどね」
 カトレアは鮮やかな剣閃で敵が持つ冷気の力を押し籠めに掛る。
 反射させるように巻き込み、そのまま敵の動きを牽制し始めた。
「うむ。周りは田畑しかないとはいえ荒らすのはよくないからの。ここからどこにも移動させず逃げる事も許さず倒させてもらうのじゃ」
 ここからは逃がさない為の戦いであり、被害を抑える為の戦いだ。
 ララは炎をまとった蹴りを浴びせつつ、僅かに盾役の陰から出た。万が一にでも逃げ出したら追える様に。
「もっと速く……ッ!もっと鋭く……ッ!この一撃を!」
 魂を喰らう冷気が手刀と成ってダモクレスに迫る。
 彩希が放った手刀は狼の牙の如き鋭さで貫き、込められた冷気が内側から体力を奪い去っていく。
「ごめんね、動きづらいかな? そう、それならいい。苦しまずに止めてあげるよ。流星きたり、我らは闇夜に願いを謳う。誓り結びて黒穹を裂け」
 カタリーナが封ルウ白い槍が、なお白く輝いて行く。
 女神の名前に由来する槍は、戦場を裂いて白く染め上げた。
 流星のような一撃が過ぎ去った後には、風前の灯火が残るのみだ。
「あと少し……でしょうか。トドメを要請します」
「おっけー。あんま苦しませるもんじゃないしねー」
 最後に九八一が殴りつけ、倒しきれなかった所で緋色がトドメを刺す。
「いちげきひっさーつ! せいばい!!」
(もし外したら……とか考えなくても良いかな」)
 川越市の力を束ねたグラビティチェインを宿し、大ジャンプから渾身の力で斧を投げつける。
 あまりの力に夏雪は考えるのを止め、強大な小江戸の力の前に冷風ドライヤーは見る影も無く砕け散ったのであった。

「敵勢の沈黙を確認。哨戒を継続後、任務完了を宣言します。お疲れ様でした」
 九八一は礼をし哨戒に向かい始めた。
 途中でカバーが間にあわずに癒された傷は直り切っていないだろうがきにした風も無い。何もないところでずっこけるのは、本人にとってはいつものことである。
「ヒールをかけて帰ろう。夏が来ると言えど夜は寒い。そして眠い」
「そうですわね。蔵とこの周辺で済むでしょうし、手分けすれば直ぐですわ」
「不要な機械も処分できれば良いんじゃがのう。持ち主がおれば聞いてみるか」
 カタリーナとカトレアは早速、周辺の修復を始めた。
 その言葉にララも頷きながら、残骸を整理して運び易くしていく。
「冷風ドライヤーさん成仏してね。次生まれてくるときはちゃんと使ってくれる専門家さん? だといいね」
「そ……そうだ。温かい物でも呑んで、体を暖めていきませんか?」
「いいわねえ。みんなで御茶でもしましょうか」
 全て終わったところで緋色がダモクレスを弔うと、彩希はみんなを御茶に誘う。
 括が居てくれて良かった……と思いつつ、理由なしに皆を誘えるようにならなくちゃなーとか思う彩希であったが……。
 恐るべきことに彼女は天然さんでもある。見習って良いのか少し考えるべきでかもしれない。
「あ、そうだ。久しぶりにドライヤーで頭わしゃわしゃしてあげたいから帰ったら一緒にお風呂入るー?」
「くくく括さん。僕はもう、立派な男なので……!」
(「そこは、もう大人なので。じゃないかな」)
(それはそれで幼稚園のころに『大人になったら結婚して』とか言ってたら問題にならんかのう」)
 真っ赤になって治癒に専念しようとする夏雪に対し、ホッコリする女性陣である。
 こうしてダモクレスとの戦いは無事に終わった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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