兎耳シャルフリヒター

作者:天枷由良

●ぴょんとバッサリ
 春の陽気麗らかな山中に、ウサ耳が生えていた。
 何をバカなことを思うかも知れないが、しかし浜辺に猫耳が生えるご時世。
 おかしくはないのだ。考えるな、感じろ。とにかくウサ耳が、生えている。
 そして、それは単なるウサ耳でなかった。
 よく見れば、ウサギ型のペットロボットだ。また心ない誰かが捨てていったのだ。
 ここいらで聡明なケルベロス諸君には先が読めたかもしれない。
 けれども状況は順を追って、正確に表していこう。
 拳ほどのコギトエルゴスムに機械の脚を生やしたダモクレスが、ウサギ型ロボットに取り付いた。ヒールした。同化した。あっという間にバニーガールになった。
 何をバカなことを思うかも知れないが、しかし猫耳が猫娘に変わるご時世。
 おかしくはないのだ。もしおかしなところがあるとすれば……バニーガールが身の丈ほどにまで伸びたウサギの如き歯を、いきなり取り外してしまったことだ。
 その歯は、歯というよりも刀のようであった。
 とても切れ味鋭く、人を惑わせるような妖しい輝きを放っていた。
 バニーガールの持ち物としては何とも相応しくない。
 だが、聡明なケルベロス諸君なら合点がいくかもしれない。
 そうだ。ウサギは、首を刎ねる生き物だ。
 首を刎ねるに相応しいアイテムと言えば、やはり刀ではないだろうか。
「ぴょーん、ぴょん♪」
 ともあれ、バニーガールは途中で出会った野兎と戯れたりしながら、山道を跳ねるように降りていく。
 やがて出会ったのは、一人の青年だ。
 メガネでチェックのシャツで大きなリュックを背負った登山部所属のような青年には、メカメカしさと艶めかしさの同居したバニーガールがとても刺激的に見えただろう。
 しかしうっかり足を止めてしまったのが、運の尽きであった。
「ぴょーん、ぴょん♪」
「……えっ?」
 疑問符を吐き出した時、青年の首は身体に別れを告げていた。
 呆然と目を見開いたままの肉塊は、先程までウサギ型ロボットが埋まっていたところへと、転がり落ちていく。
 それをバニーガールは笑いながら見送って、また跳ねるように山道を降りるのだった。

●ヘリポートにて
「――ちょっと待って!」
 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)は、ぐっと両掌を突き出した。
「この間のネコ娘ちゃんと比べて物騒すぎないかしら!?」
「……アレが稀なケースだったというか……とにかく予知しちゃったから、ね?」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は少し困惑した表情で答えた後、集ったケルベロス達を見回して手帳を開き、努めて平常運転で話を進める。
「このバニーガール型ダモクレスが人命を奪う前に、撃破をお願いするわね」

 ダモクレスが出現する山には、既に立入禁止の措置が取られている。
 本来なら首を刎ねられて死ぬはずの青年も、麓で回れ右。そのため人払いなどをする必要はなく、ケルベロス達は戦闘に集中できるはずだ。
「敵は長尺の刃を武器として、ぴょんぴょん可愛らしい声や仕草とは裏腹に、鋭く狙い澄ました攻撃を繰り出してくるわ。防具で整えて――と単純に勧めておきたいところなのだけれど、どうやら斬るだけじゃなく殴りつけても来るようだし、此方の防御力を上げるなりダモクレスの攻撃力を削ぐなり、出来る限り色々な対策を講じておくべきでしょう」
 淡々と話し終えて、ミィルはケルベロス達に準備を促し――。
「……あ! 大事なことを忘れていたわ!」
 ぽんと手を打つと、その両掌を頭の上に運んだ。
「ダモクレスには心なんてないけれど、取り込んだウサギ型ロボットの残留思念のようなものでも受け継いだのか、同じウサギらしき相手には手を出しにくいようなの。それこそ大きな耳でも付けて、ぴょんぴょんとウサギの真似でもしてみれば、攻撃対象として狙われにくくなるかもしれないわ。ケルベロス以外には見られることもないのだから、抵抗がない人は作戦の一つとして考えてみるといいかもしれないわね」
 ミィルは何処となく生暖かい目でケルベロス達に言い終えると、改めて用意を整えるように促すのだった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
シエラ・ヒース(旅人・e28490)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863)

■リプレイ


 人気のない山をバニーガールとバニーボーイが歩いていた。
 通報案件である。しかし先に言った通り人気のない山であるから誰も咎めない。
 むしろ一行の中には、手配書の顔にピンときたなんて連絡を受け取る側が居たりする。
 なんとまあ、官憲の風紀も乱れに乱れたものである。ああ嘆かわし。

 ……というのは冗談にしてもだ。
 山の中をバニーズが闊歩していくのは尋常ならざる事案、もとい事態であった。
 では、なぜ彼らは珍妙な格好で此処に来たのか。
 答えは一つ。バニーガール退治である。
 これは冗談ではない。
 ケルベロス達は、バニーガールに変じたダモクレスを退治するために来たのだ。
 どうやらダモクレスの元になったのはヒールされたウサギ型ペットロボットで、その名残からか敵はウサギらしさのある相手に手を出しにくいという。
 言い換えれば、ウサギらしさゼロの奴を全力で殺しにかかるということ。ただ一人普段どおりの格好をしている海乃宮・玉櫛(海神の衛士・e44863)が攻撃を引きつけて、残る七人のバニーが玉櫛を支えながらダモクレス撃破を目指す……と、彼らはそういう手はずでいるらしい。
 つまりバニーばかりなのは極めて高度な戦術的理由によるのだ!
 例えばクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)。シャドウエルフである彼女は黒バニースーツを着込み、特徴的な尖り耳をウサ耳付きフードケープで隠していた。
 相棒の白いもふもふオルトロス・お師匠にもウサ耳カチューシャを付けて、自分をウサギと信じるように言い聞かせてある。準備は万全――いやいや、どう見てもそれはウサ耳を生やした犬だったが、しかし山にウサ耳が生えるご時世。ウサギか犬か判断に困るような奴がいたって不思議じゃない。
 何より大事なのは“考えるな、感じろ”の精神。
 それを象徴するのがシエラ・ヒース(旅人・e28490)の装いである。シエラはシニヨンに纏めた金の長髪を“尾”に見立ててふわふわネットで飾り、ウサ耳のついた帽子を被って赤のカラーコンタクトを入れると、仕上げに色白と呼んで不自然でない程度の化粧を施していた。
 つまりシエラはバニーガールじゃなかった。
 彼女は、頭に、ウサギを、作り上げていた。
 バニーの群れで唯一のリアル系うさぴょんである。このアプローチの結果は、まだ神のみぞ知るところ。
 それはさておき。女子ばかりでは不公平だから男子にも触れておこう。
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)はスーツにジャケットを着た上で、ウサ耳ウサ尻尾を完備。さらにはいつでも一緒のお人形を、ふわふわウサギの着ぐるみパジャマですっぽりと覆って――。
「……はあ……可愛い……もう……あの……」
 歩きながら一人、悶えていた。
 ああ、ケルベロス以外に誰も居ないことが心底もどかしい。ウサ耳シルクハットとタキシードで着飾ったエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)、シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)の二人には醸し出すことのできない怪しさを纏う彼が、ハイキングに来た親子連れにでも出くわした時にどんな供述をするのか、大層興味深いものだったのだが。
 とはいえ、いないものはいない。元よりそういう話である上に、山道の入口には七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)がキープアウトテープを貼り付け、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が殺界形成を行っている。足元に蟻の行列が見えたが、比喩的には蟻の子一匹紛れ込む余地もない。
 だからどんなに恥ずかしくても、今日の出来事は八人の内にだけ留めておける。
 何を憚ることもなく全力で――そう、全力でぴょんぴょんできるわけだ!


「ぴょーん、ぴょん♪」
「ほ、ほんとに刀もったバニーさんだ……」
 エンカウントしたダモクレスが跳ねる姿を見やって、シルは呟く。
「ふふっ、可愛らしい装いのダモクレスですね」
「可愛いといえばボクのお人形もね、耳にリボンを結んであげてね、あのね」
 和やかに笑って言うシトラスの視界に割り込んだアンセルムは、自慢したいんだか布教したいんだか、もう常人には理解の及ばないレベルで静かに取り乱す。
 だが、それすらも混沌を構築する一片に過ぎない。
「可愛いだけの存在でいられる内に、消し去ってあげましょう」
 シトラスはアンセルムを華麗にスルーすると、特に恥じることもなく「ぴょーん、ぴょん♪」と跳ねだした。
「さあ、皆さんも」
「そ、そうだね。ウサギの気持ちにならないと……!」
 シルが続いて、ぴょーんぴょん♪
「わーい。たーのしーっ」
 さくらが棒読みで、ぴょーんぴょん♪
「頑張る……ぴょん」
 クローネも恥じらいつつ、ぴょーんぴょん♪
「なんで皆さんそんなにノリノリなんですか……!?」
 エリオットは驚きながら、ぴょーんぴょん♪
 ぴょーんぴょん、ぴょーんぴょん♪
 ぴょーんぴょんぴょーんぴょんぴょんぴょんぴょん♪

(「……なんだ、これ」)
 眼前で繰り広げられる奇妙奇天烈奇々怪々な儀式に、玉櫛は息を呑んだ。
 戦術的理由からバニーコスを断念した玉櫛だが、それで良かったとすら思う。バニーメカとバニーガールとバニーボーイが声を合わせてぴょんぴょんしている光景は可愛いを越えて禍々しく、まるで悪魔を崇拝する新興宗教のようだった。
 そしてバニー教団の輪には、いつの間にやらお人形とキャッキャウフフしてたはずのアンセルムも加わっていた。
 落ち着いているのは玉櫛とシエラだけ。
 しかし、シエラは――。
「ねぇ、それらしく見える?」
 ぴょんぴょん夢中なバニーメカには尋ねられない質問を、玉櫛に投げてくる。
 それ自体に問題はない。
 問題はシエラの頭部がウサギ化していることだ。そんな状態で先の問いかけをしてくる様は、ちょっと怪談じみている。
 だが玉櫛は、齢十六にして中々出来る男だった。
「……見えるぜ! 可愛いウサギだな!」
 NOと言わない。否定しない。例え相手が想像の範疇を超えていても、事実を好意的に消化して褒め言葉を生み出す。
 まあ、実際のところシエラは十分に可愛くて、頭のウサギもホラーテイストではない。それこそ軽い仮装くらいの風貌だから、玉櫛の評価も間違ってはいなかった。

 しかし、この世は善良な者が報われるとも限らないのである。
「ぴょーん――ぴょんっ♪」
「ぐはあっ!」
 突如として跳躍方向を変えたバニーガールダモクレスが、儀式に混ざらない玉櫛の首を刀で思いっきり吹っ飛ばす。
 運良く峰打ちであったから、玉櫛の頭はドロップアイテムにならなかった。けれど万物を刈り取る勢いで振るわれた刀によるダメージは、盾役でも無視できないほど大きい。
「玉櫛っ、すぐに回復するぴょんっ」
 律儀な語尾を添えつつ、クローネが暖かい微風と優しい花の香りを吹かせる。
 シエラも祖霊を降ろす唄を歌って、共に玉櫛の回復を図る。
「助かる、ぜ……っ……げほっ、ちくしょう、いきなりぶちかましがって」
 喉元を押さえながら答えると、玉櫛は何とか起き上がって息を整えた。
 そして血文字の記された包帯を操るべく、祝詞を唱える。
「羽織る白雲、箱より出でて、我常世へに、海神の衛士!」
 包帯は文字を赤く光らせて、玉櫛を中心として球状に回る。
 それを切欠に、ぴょんぴょんしていた集団も本気の戦闘モードへと移った。
「此処から先には行かせられないっぴょん!」
 シルがぴょんぴょんしながら敵に肉薄して反転、ブーツタイプのエアシューズで両足ウサキックを見舞う。
 本物に引けを取らない強烈な蹴撃は本物と似ても似つかぬ冷たさのバニーガールを突き飛ばして、態勢を崩すことで仲間の攻撃へと繋げた。
「ぴょんぴょん。ふふ、ふふふ」
 飛び跳ねながら、揺れるお人形に微笑を湛えて酔いしれるアンセルムも蹴りを打つ。彼の視線はあくまでお人形のおめめと見つめ合っていたが、そんなことは日常茶飯事なので蹴りの命中率に影響を与えたりなどしない。
 さらに続けざま、高く跳び上がった玉櫛が美しい虹を描きながら急降下蹴りを浴びせる。
「ぴょ、ぴょん……」
 気の合う仲間だと思っていた連中が一斉に牙向いたからか、ダモクレスは呻きつつ両耳を垂らす。
「ふふ、こんな装いで騙されるとは可愛らしいダモクレスですね。……そのまま永遠の眠りにつかせてあげましょう」
 笑顔と余裕は保ったまま言ったシトラスも、ヌンチャク型にした如意棒で思い切り殴りつけた。
 えげつない。あんなにぴょんぴょんしてたのに、寄って集って蹴り蹴り蹴り殴り。えげつない。
 だがしかし。そうするために恥を忍んでバニーチャレンジしたのである。
(「この姿を見知った顔に見られてるの超恥ずかしいけど! でも、皆も一生懸命頑張ってくれてるんだし、わたしも頑張る!」)
 暖かな春の扉を開く金の鍵を握って、さくらは一段と気合を入れた。
「キャハッ☆ さくら、永遠のじゅうななさい♪ バニーガール姿で頑張るぴょん♪」
 うわキツ。
「キツいとか言わないでよ!」
「さくらさん落ち着いてください!」
 エリオットが黒い鎖を操りながら、天に向かって反論するさくらを宥める。
「誰も何も言ってませんし、何か破ってはいけない壁を破っている気がします!」
「そうだぜ! それに、さくらさん凄い可愛いじゃん!」
「かわいいだけじゃなくてキレイだよ!」
「だから恥ずかしがらずに……ぴょ、ぴょんぴょんしようよ」
「み、皆……」
 玉櫛にシル、さらにクローネからも慰められると、さくらは頬に手を当て身を捩らせ、安寧を取り戻した。
(「いける、まだいけるわよ、わたしっ! そもそも、恥ずかしさなんて燃えるゴミと一緒に捨ててきたでしょ!」)
 こういう時は中途半端が一番惨めになるのだ。
 突き抜けろ限界まで。駆け抜けろピリオドの向こうへ。
 滾れパッション。迸れウサギ魂。
 兎だ、兎だ、お前は兎になるのだ!
「うさうさ、ぴょんぴょん♪ うーさぴょん♪」
 跳んで踊って可愛く鳴いて。尻尾ふりふり、世界に媚びて。
 さくらは――鍵の先端からウサギ成分ゼロの電撃を放ち、バニーガールに命中させた。
「ひ゛ょお゛お゛お゛ん゛っ」
「いいですよ、さくらさん! その調子でいきましょう!」
 痺れる敵を見やり、エリオットは鎖で陣を描きながら言葉でのメンタルサポートも行う。自身は羞恥心を捨て切れないからこそ、色々な意味で攻めてる旅団の先輩には何とか頑張って貰いたいのだろう。

 そして世間体をぶっ千切ったさくらを筆頭に、ケルベロス達はぴょんぴょんぴょん。
 ウサギの気持ちになるですよの心意気でダモクレスと戦い続けた。
 しかし争いに犠牲はつきもの。
「ひ゛ょお゛お゛ん゛っ!」
「ぐぼあぁっ!!」
 キュートさを失った声で鳴くダモクレスから、会心の一太刀を喰らった玉櫛が目を剥いて倒れ、何だかヤバそうな痙攣を起こす。攻防両面で手は打っていたが、さすがに一人で引き付けるのは厳しかったようだ。
「なんてことを……やはり可愛らしく振舞っていても、本性は命を狩る凶暴なダモクレスですね!」
 ひたすら地面に黒鎖を這わせつつ言って、エリオットは今一度、気を引き締め直した。
 惨劇の拡大を防ぐには、一刻も早く撃破せねばなるまい。その為にも何とか長く戦場に立ち続けようと、盾役を引き継いだエリオットはクローネのお師匠と一緒に身構える。
 と、そこで一歩進み出たのはシエラ。
「ねえ、あなたは、人間になりたかったのかしら」
「な゛ん゛か゛お゛ま゛え゛た゛け゛ち゛か゛う゛ひ゛ょ゛お゛ん゛!」
 ウサギ頭がお気に召さなかったらしい。
「シエラ、下がってぴょん」
 ふんわり佇むシエラをダブルジャンプで飛び越えて、クローネが星型のオーラを敵に蹴り込んだ。
 戦闘再開だ。
「さくら、いっくぴょーん☆」
 全力でキャピキャピ(死語)するさくらが、ヤケクソじみた太さのビームを撃つ。
「ククク、来たれ悪魔よ! 敵を燃やし尽くせ!」
 シトラスはバニー教団とは何ら関わりない異形の悪魔を召喚して、黒き腐敗の炎を撒き散らす。
「ぴょーんぴょん。ふふ、ふふふ」
 アンセルムは変わらず人形と夢の世界に浸っていたが、その人形は蔦を纏ってみるみるうちに兎の姿を象ると、虚空より現れた剣を手にして――バニーダモクレスの首を、刎ねた。
「ひ゛ょお゛お゛お゛ん゛!」
「く、くびちょんぱっていうのはそういうことなんですよっ!」
 どれほど恐ろしいことをしようとしていたか分かったか、と言わんばかりの態度を示してから、シルは己の最大火力を放つため力を溜める。
「うさうさバニーは仮の姿、全力全開で決めますっ!」
 そして放たれた『六芒精霊収束砲』はバニーダモクレスを丸呑みにすると、一対の青白い魔力の翼を広げたシルにさらなる力を注ぎ込まれて、捉えた獲物を塵一つ残さないほどに消滅させたのだった。


「もうこんな恥ずかしい格好、二度としないからな!」
 普段のクールさを見失ったクローネが言って、脱兎の如く山を駆け下りていく。
 お師匠もそれを追った。おかげで傍目には愛犬との戯れにしか見えない。
「がんばった。わたしがんばった」
 ぺたりと力なく座り込んださくらは、目から光を失って呟く。
 そんな彼女に、シエラが何処からかペットボトル入りの栄養ドリンクを取り出して、そっと手渡した。
 それを横目に、アンセルムは粛々と自らのウサ耳尻尾を外して。
 お人形にはパジャマを着せたまま、にへらと笑いつつ戦場の後始末を始める。
 他にはやり残したこともない。片付けを終えたケルベロス達は――。
『うさうさ、ぴょんぴょん♪ うーさぴょん♪』
 信じられない台詞を耳にして、さくらの方を見やった。
「……え、わたしじゃない! わたしじゃないよ!?」
「でも、今のは確かにさくらさんの……」
 シルは周囲をきょろきょろと見回す。
 そしてすぐに犯人を見つけた。
「いやあ、よく撮れてるぜ」
 復活した玉櫛がビデオカメラを手に、収録内容を確かめて一人頷いていた。
 どうやら戦場の片隅に、こっそりとセットしてあったらしい。
「――ちょ、やぁっ、だめぇええっ! 恥ずかしぬぅううう!」
 さくらの悲鳴が雷鳴に変わる。
「ああっ! 俺のカメラが!」
 壊れた。
「えーっと、じゃあ普通のカメラで記念撮影とかどうかなーって」
 シルが提案してみるも、さくらの錯乱っぷりは収まらない。
 しかしエリオットは慌てるばかりで、シエラはぼーっと佇んでいて、シトラスは微笑みながら見ているだけ。……アンセルム? はは、言うまでもなかろう。
「もー! いやー!」
「ああ……カメラ……」
 さくらは叫びっぱなしで玉櫛は落ち込みっぱなし。
 収集がつかなくなってきた。
 だがダモクレスは撃破したし、マル秘映像が世に流出する危機も去った。
 任務完遂。これで、おしまいだぴょん。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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