異端裁きしダモクレス

作者:七尾マサムネ

 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、いつの間にか、ビルの中へと迷い込んでいた。
 建物内に人気はない。廃ビルのようだ。
 確か自分は、街で素敵な眼鏡メイドさんを見かけ、無意識にその後を追っていたと認識している。
「これは、何者かの意志が介在していると推測すべきでしょうか。……っ!?」
「レプリカント、発見」
 無感情な声をとらえた瞬間、テレサが地を蹴った。
 直後、テレサがいた場所を、刃が薙ぎ払う。
 間一髪、体が別れ別れになる事態を回避したテレサは、刃の主を視認した。
 特徴的な円すい形の頭部と、巨大な包丁のような武器が目を引く。そして、太ももには『EXE-02』の刻印。
「ダモクレスですか」
「異端なる存在は排除する。これより抹殺任務を開始、ターミネートモードに移行」
「レプリカントを狙うダモクレス……まさか、噂のレプリカント抹殺部隊『エグゼフォース』の?」
 テレサの問いに、ダモクレスは斬撃をもって回答とした。

 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の緊急招集を受け、ケルベロス達が集結した。
「テレサ・コールさんが襲撃される予知があったんす。本人にも連絡したんすけど応答がなくて……なので、皆さんに急いでテレサさんの元に向かってもらいたいんす!」
 ダンテによれば、敵は1体のダモクレス。『EXE-02ルーアン』と呼称される個体で、その目的はレプリカントの抹殺だという。
 『EXE-02ルーアン』は、近接戦闘を得意とするタイプのダモクレスだ。
 機械の膂力を反映した斬撃は、相手の装甲をたやすく破砕する。
 その武器は、巨大包丁。刃を微細かつ高速振動させる事で、傷をより複雑に、より深く刻みつける。
 また、複数を同時に相手取る戦闘にも対応しているようで、広範囲に刃を届かせる事も可能。ポジションはクラッシャーだ。
 なお、レプリカントの抹殺を使命としているため、テレサだけでなくレプリカントも狙われやすいと想定される。そのため、該当する皆さんは気を付けて欲しいと、ダンテはアドバイスした。
「今から向かえば、ダモクレスの襲撃には十分間に合うっす。皆さんの力で、テレサさんを窮地から救ってあげて欲しいっす!」


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
古海・公子(化学の高校教師・e03253)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
幽舟・雪(騒人墨客・e44343)

■リプレイ

●機刃強襲
 廃ビルの一室。対峙するは、ダモクレスとレプリカント。
 『EXE-02ルーアン』と、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)だ。
 あの眼鏡メイドさんはどうしたのかとそちらの心配が先に立つテレサだったが、ルーアンの戦闘力を察し、それどころではないと悟る。
 これは、強敵だ。
「異端は排除する」
 ルーアンの巨大包丁が閃いた時だった。
 轟、と風が吹いた。
 突如、間に割って入った黒き風から、距離を取るルーアン。
「我が嘴を以て……貴様を破断する!」
 黒き風……ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、ルーアンに斧を突き付け、宣戦布告した。
「新たなレプリカントを確認、速やかに排」
 ルーアンの言葉を、金属音が掻き消した。館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)のドラゴニックハンマーと、ルーアンの巨大包丁が激突した音だ。
「レプリカント、及びケルベロス反応、増大」
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)や槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)……次々と現れるケルベロス達に、ルーアンはいったんテレサから距離を取らざるをえなかった。
 救援に駆け付けてくれたのは、テレサもよく見知った顔ばかり。頼もしい。
 幽舟・雪(騒人墨客・e44343)も、テレサの危機とあっては放っておけない。実戦経験の少なさは、己の武器でもある絵心を振るって、カバーしてみせる。
「なるほど、確かに『円すい形の頭部と、巨大な包丁』ですね~」
 実際のルーアンを見て納得した古海・公子(化学の高校教師・e03253)は、早速テレサの負傷の確認に取り掛かった。
「め、メガネひとつかけられない人がテレサさんに触れようなんて!」
 メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス美大生・e03824)の声は震えていた。異形かつ理不尽なほどのパワーを誇る敵を前に、恐怖を感じているのだ。
 だが、大切な友人のため。くじけそうになる足に喝を入れ、メガネをくぃっ、と上げると、
「メガネは大切な眼球を保護し、その機能を補完するもの……メガネたる私をほうっておいてテレサさんに手を出せるなどと思わないように!!」
「……理解不能。レプリカントは異端。異端は抹殺する」
 言って、巨大包丁を握り直すルーアン。
「複数のレプリカントを抹殺対象と認定。任務を続行する」
 そしてルーアンは、実力を測るようにケルベロス達を注視した後、攻撃を再開した。

●その殺意、機械仕掛けにつき
「来いよトンガリ野郎! 俺を壊してみろ! レプリカントであるこの俺を!」
 ジョルディがルーアンを挑発しつつ、大盾型のドローンを紫織の前に出現させた。女性陣には傷などつけさせぬ。
 ボクスドラゴンのドラヒムから属性力の注入を受けたレーンが、仲間達と共にルーアンに仕掛けた。軽やかに壁を蹴って自らの軌道を変えると、炎をまとった脚を、ルーアンの胴に叩きつける。
「任務を妨害するものもまた排除する」
 態勢を立て直したルーアンの宣言直後、咆哮が響いた。
 咆哮の主は、詩月に降りた龍神の御業だ。発射された光弾が、ルーアンの体躯を喰らう。直撃と同時、光弾を構成する粒子……龍詞が圧縮から解放され、破壊をまき散らす。
 だが、ルーアンの頑健な機体は、それに耐えた。
 装甲から煙をなびかせ、床を蹴るルーアン目がけ、ライドキャリバーのテレーゼの助力を受け、テレサが跳躍した。その身を星の流れと化し、ルーアンの進撃に抗ってみせる。
「我が任務、完遂は絶対」
 剛腕を振るい、ケルベロス達を蹴散らすルーアン。角を思わせる特徴的な頭部は、その戦いぶりと相まって、時に鬼神を思わせる。
 だがメロウは、しっかと床を踏みしめて、砲を放つ。迫る奔流に、ルーアンは回避をあきらめ、防御を選択した。砲と装甲がぶつかり、爆破の花が咲く。
 すぐに来るであろう反撃に備え、ウイングキャットのリムが翼をはばたかせ、ケルベロス達を保護する。
「抹殺する」
 ルーアンが、レプリカントである詩月を薙ぎ払う。斬撃と同時、全身をさいなむ微細な震動を、表面装甲で受け流していく詩月。
「貴方の『抹殺対象』は、こちらにも居ますよ」
 紫織の声に、振り返るルーアン。
 戦闘開始直後に浴びせた蹴撃は、記録・学習されているはずだ。敵意をむき出しにした敵を待ち構えつつ、紫織は雪の元にドローンを向かわせた。
 ドローンによる索敵補助を受け、狙いの精度を上げた雪が、虚空に描いた道を駆け、ルーアンに突撃した。ワイルド化された尻尾が、水風船のように揺れる。
 しかし、度重なる攻撃にも、ルーアンの攻勢の手は緩まない。
「テレサさん、そして皆さん! エクゼフォースの討伐は、思い切ってやっちゃってください! 『背中』は私にお任せを!」
 後方から、公子が声を飛ばす。損傷した詩月へと電気ショックを浴びせ、修復を行う。
 ケルベロス達にとっても、ルーアンにとっても、戦いのフェーズはまだ第一段階だった。

●己が使命のために
 ケルベロスを切り裂くたび、血やオイルにまみれ、禍々しさを増していく巨大包丁。
 ルーアンが、ケルベロス達を精査するように頭部を動かした。近距離、中距離、遠距離。抹殺すべきレプリカントは、上手くばらけている。
 刻一刻と変化する戦況の中、最も効率よく被害を与えられる範囲を判断。ルーアンが巨大包丁を床に突き立てた。
 後衛のケルベロス達の足元が隆起したかと思うと、幾本もの氷柱がそそり立ち、その身を貫き、氷結させた。冷気の余波が、廃ビルのくすんだ壁面を白く染め上げていく。
 地球人である公子が巻き込まれるのもお構いなし。
「本当に、レプリカントの抹殺以外は眼中にないみたいですね……」
 三角頭の下の目は、どんな形をしている事やら。
 猛威を振るう敵を阻むべく、ジョルディが前進した。自らは盾となりつつ、仲間達に小型ドローンを向かわせ、回復任務にあたらせる。
「まだまだ、やられませんわ」
 氷結からいち早く抜け出したレーンが、ルーアンを飛び越え、頭上に舞った。星のたなびきを伴い、ルーアンの頭部を蹴り飛ばすと、壁面に埋没させた。
 だが、頑強なるダモクレスは、平然と立ち上がる。
 必死に攻撃を継続するメロウ達。そんな中、雪は相手を攻めあぐねていた。性能差というより経験の差によるものか。さすがはテレサ曰く、『エグゼフォース』の斬り込み隊長、というところだ。
 音や衝撃を伴う激しい攻防の中、公子が攻性植物を放った。たわわに実った黄金の果実が仲間達に光を浴びせ、ルーアンへの攻撃耐性を構築していく。
「これ以上、その包丁に血を吸わせるわけにはいかない。叩き折らせてもらうよ」
 宣告と同時、詩月が戦槌を振り下ろした。ルーアンの持つ巨大包丁は、自分が管理している喰霊刀にどこか似ている。呪いと化す前に、叩き折らなければ。
 切り結ぶ敵と味方、しかして、狙いは正確に。テレサのジャイロフラフープ・オルトロスからの射撃は正確にルーアンのみを射抜くと、その回路に干渉、ノイズを走らせた。
「損傷レベル2、行動に支障はないと判断、任務を続行する」
 ルーアンは、四肢の動きを微調整すると、包丁を大振りした。
 一撃を辛くもかわしたメロウが、チェーンソー剣を繰り出した。その太刀筋に、ルーアンは既視感を覚えたはず。よく似た武器によるメロウの反撃は、まるで己の技をコピーしたものだったからだ。しかも、より強力に。
「これが眼鏡の力か」
 敵が怯んだ隙を、雪が上手くとらえた。アライグマの膂力とオウガメタルの破壊力を重ね合わせ、敵の装甲を打撃。その身を吹き飛ばす事に成功したのである。
 空中で錐もみしたルーアンは、巨大包丁を床に突き立て、勢いを殺さんとする。
 だが、支えとなる刀身へと、紫織のライフルが着弾した。バランスを崩すルーアン。光弾に内包された中和効果により、巨大包丁に蓄えられたグラビティが減衰していく。
「レプリカントは抹殺、する」
 ゆらり、立ち上がるルーアンの。
 機械でありながら、その様子は、あたかも幽鬼。

●決着の時
 詩月が、戦槌の柄でもって、敵の包丁を持つ手を打った。自身はその場で一回転、遠心力を加算した打撃がルーアンを揺るがした瞬間、全身が凍結した。
 かと思えば、ドラヒムのブレスが、ルーアンの装甲を焼き焦がし、劣化させていく。
 ケルベロスの攻勢は止まらない。リムが爪でえぐった部分を、メロウのチェーンソー剣が、更に削り落としていく。
「……熱源感知」
 ルーアンが感じた熱源の正体は、レーンの両手に生成された、巨大エネルギー球だった。
 レーンの手を離れたそれは、回避を試みるルーアンを立体的な機動で追尾、爆砕せしめる。
 飛散する装甲の破片。それを黒き外装で弾き、テレーゼが突撃した。ルーアンと火花を散らす中、テレサは二輪一対のアームドフォートを構え、弾丸を射出した。反動で我が身が後退するのも顧みず、敵を穿つ。
 皆が、攻撃に専念してくれている事に安堵しつつ、公子はエクトプラズムを負傷者に重ねた。肉体の損傷箇所を回復していく。
 そして雪は、絵心を存分に発揮した。画材は混沌なる水。描きあげられた漆黒の一本桜は、中心にいるルーアンを養分として、雄々しく咲き誇る。禍々しさと美しさを同居させて。
 もはや装甲は剥離し、各駆動部はショートしている。それでも、ルーアンは包丁を振り上げた。武器のリーチが短くなったのなら、踏み込み方でそれを補う。
 不屈ともいえる刃の前に滑り込んだのは、ジョルディだった。
 敵の殺意を、盾と斧で受ける。その破壊力に、床が陥没し、落下していく二者。
 階下に向け、紫織がライフルを放つ。氷結光線が落下中のルーアンに降り注ぐ。それを包丁ではじいた瞬間、肘が弾けた。これまでのダメージの蓄積により、耐久限界を超過したのだ。
 紫織の光線は遂に、その体躯を白く染めた。直後、巨体が床に受け止められ、煙を舞い上げる。
「に……にんむヲ……すいこう、スル……」
 氷像と化したルーアンは、静かにその体を砕け散らせたのだった。
「心持つレプリカントが……心無きダモクレスに負けるわけが無い!」
 血の如くオイルを滴らせたジョルディが、勝ち鬨の声を上げた。
「努力、友情、団結、勝利! レプリフォースの勝利の方程式ですわ!」
 そしてレーンも軽やかにガッツポーズを決めるのを見て、敵の恐怖から解放されたメロウは、ぺたん、と座り込んだ。
「……どうにか間に合いましたね~。無事でよかったです……」
 テレサの無事を確かめ、にっこりと、公子が笑みをこぼした。
 駆け付けてくれた皆に、心からの感謝を告げるテレサ。アンニュイ無表情だが、皆にはちゃんと伝わっている。はずだ。
「もう、これで何体目でしょうか……エグゼフォース、いい加減にして頂きたいものです」
 こうしたタイプのダモクレスと幾度も交戦してきた紫緒が、ふう、とため息をついた。
「にしても、テレサ嬢の見たというメイドは何処へ……」
「まさか素敵な眼鏡メイドさんの正体は、ルーアンの変装?」
 同じ結論にたどりついたジョルディとレーンは、顔を見合わせた。
 だとするならば、まさに任務のためなら手段を選ばない、という事になる。
 なるのだが……。
「そんなことはない、と思いたい……とにかく、無事でよかった」
「これからは、知らないメイドさんについていかないでね……?」
 詩月や雪に諭され、テレサがうなずいた。
 たとえ相手が、素敵な眼鏡メイドさんであっても、ダメ絶対。
 その教訓は、9歳の心の奥底に、深く刻まれたという。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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