●一緒になりましょう
深夜の繁華街、くたびれたスーツに身を包む一人の男性が、泥酔した様子でフラフラと家路についていた。
「明日は休みだって言っても、なんの予定もないしなぁ!」
チクショウ、と落ちていた缶を蹴り飛ばす。
「いたぁい」
誰も居ないと思っていた路地裏に続く道。
「す、すいませんっ」
「大丈夫、それより……少し、お話しません? こっちで」
女性は、ほぼ全裸と言っていい姿をしている。
それに、服と言って良いのかわからないが植物のようなものを巻き付けているが、手の先でパクパク植物のようなものが口を開けて動いている、ような気もする。
しかし、そんな怪しさなどこの男性にとってはどうでもいいこと。
「ぜ・是非お話をっ! 付いていきます!!!」
完全に色気に目を奪われ、男性は誘われるまま路地の奥へ付いていく。
足を止めた女性は、微笑みながら近づくと。
「ねぇ、一緒になりましょう?」
手を伸ばし、両手で男性の頬を包み込むと唇を重ねる。
「?!!!」
安易な歓びから一転、何かを口移しで食べさせられた、と思った途端。
男性は、攻性植物に寄生され意識を失った。
●ヘリオンにて
「本日は、集まってくれたこと、感謝します」
ヘリオラダーの皇・基(en0229)は、そう言うと今回の作戦の概要を話し始める。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです。 攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようです。 おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのでしょう。 大規模な侵攻ではありませんが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまいます。それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じる必要があります」
そして、今回現れるのは、女性型の攻性植物で、深夜の大阪の繁華街に現れて、酔っぱらった男性を誘惑して、攻性植物化させようとしているという。
「こう言うのはなんですが、被害者の男性は女性に縁が無いタイプである為、あからさまに怪しい姿の攻性植物が相手でも、簡単に付いていき魅了されてしまうようです。この被害者をあらかじめ避難させてしまうと、攻性植物は別の場所に現れてしまうため、被害を防ぐことができません。 ですが、直前に少しだけ接触して、攻性植物の誘惑を断るように仕向ける事ができれば、男性が攻性植物から離れていくので、男性の身の安全が確保できると思われます。 誘惑に乗ってしまう理由は女性と縁遠い事が原因なので、そこを短時間でフォローできれば、有利に戦えるでしょう」
敵である女性型攻性植物は、素肌に蔦草を巻き付けただけの、ほぼ裸に近い格好をしてるようだ。
身体の一部を形態変化させることで攻撃し、回復の手段も持ち合わせている。
「繁華街とはいえ深夜であるため、人通りは少なめですが、皆無とはいいきれません。 路地裏は、街灯が無いため少し暗めですが、まったく何も見えないというほどではないでしょう。 それと、この男性の対処に失敗した場合、彼は攻性植物に寄生され配下として戦闘に加わってしまうでしょう」
これほど見え透いた罠にかかるのはどうかとも私は思いますが……ため息混じりに基は言葉を続ける。
「自業自得というわけにもいきません。 男性を助けるためには誘惑に乗らないようにしていただくしかありませんが、もしそれが難しいのであれば最悪攻性植物の撃破を優先させて下さい。それと、深夜の繁華街の事件とは言え飲酒喫煙は控えて下さい。よろしくおねがいします」
参加者 | |
---|---|
モモ・ライジング(神薙画竜・e01721) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
ユヴィ・ミランジェ(暗闇の底に眠る・e04661) |
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
真田・結城(弱者の白狼・e36342) |
星川・薫子(トレースマニア・e41263) |
黒崎・宇佐美(極道黒兎・e45410) |
●悪質な勧誘にご用心
くたびれたスーツを着たその男は、店を出るとフラフラとあるき出す。
もう1軒、別の店に行こうか?
それとも、家に帰ろうか?
とくに決まった予定もない。
「おにいさん」
18歳の姿に変わった峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が、声を掛ける。
思わず生唾をのむほど発達した胸が目に入り、男はたちまち誘惑される。
「すごく疲れてるみたいだし、何があってもまっすぐ繁華街を抜けられたら特別にイイことしてあげる♪ 路地裏とか絶対に入らないようにね」
「イイこと? って、なに?」
「はーい、悪質な勧誘にご注意をー! ご協力をお願いしまーす!」
モモ・ライジング(神薙画竜・e01721)が唐突に男の間に割って入りチラシを渡す。
「貴方の様な方は特に狙われる傾向が高いんです。お気を付けてくださいね」
チラシには『美人局撲滅キャンペーン』と書かれている。
「へ、あ、はい……あれ?」
男は我に返った様子で周囲を見回したが、すでに恵の姿は無い。
通りの向こう側でも、オンディーナ・リシュリュー(希求のウィッチドクター・en0228)が、同じようにチラシを配っていた。
「こんなのに、俺がひっかかるわけないだろー」
まったくもって根拠のない自信。
未だ自覚が足りないのか、男はそのまま先に進む。
「おにーさん、暇だったらふわりと遊んで欲しいの。サービス一杯するのー♪」
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は、そう言って男の前にそっと寄り添うように近づいた。
「サービス? え、どんなサービスかなぁ」
簡単に引っかかり、簡単に舞い上がる辺りが、哀しい男。
鼻の下が、完全に伸び切っている。
「酒は飲んでも飲まれるなというが、この場合本当にただの酔っ払いであるから、それはそれで何じゃなあ……」
その様子を影で見守っていた服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が、そう言った。
横では、ユヴィ・ミランジェ(暗闇の底に眠る・e04661)が様子を見守りながらニコニコ微笑んでいる。
だらしない笑顔で、男がふわりの身体に触ろうとしたときだった。
「何を勝手なことをしようとしてるんです?」
現れた真田・結城(弱者の白狼・e36342)が男を睨みつける。
「困りますね、サービスには相応の対価が必要ですよ。分かってますよね?」
「なんでもタダでサービスなんて、うまい話あるわけねーだろうが、あぁ?!」
何処から見てもガラが悪いチンピラといった格好の相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)も加わり、男の顔色が急転直下真っ青に変わる。
「ひぃいい、その、コレはですね! なにかの間違いと言うかっ!!」
慌てふためく男。
「んー……この人、お金持って無さそうなの」
ふわりが言うと、男はブンブンと頭を何度も縦に振りながら、
「スイマセン、無いんです! すいませんっ」
と、連呼した。
「またお金ある時に遊びたいのー!」
「今回だけ、特別に見逃してあげましょう」
「次はねーぞ!!」
「は・はいー!!!」
その様子を影で見守っていた黒崎・宇佐美(極道黒兎・e45410)。
「私がワザワザでしゃばるまでもない、といった感じだね」
その頃、星川・薫子(トレースマニア・e41263)はキープアウトテープを手に、男以外の一般人が中に入り込まないよう彼が通り過ぎた後ろの道を封鎖した。
「デウスエクス出現の予兆があるので、暫くの間封鎖させてもらいますね」
自らがケルベロスだと告げると、まばらに居た人達は、素直に要求に応じる。
●お誘い
ヨタヨタ多少フラつきながら、男はその路地裏へとやってきた。
「ねぇ、今一人かしら?」
そう声をかけられた男、路地裏へ目を向けると、ほぼ全裸に近い格好の女が手招いている。
「よかったら、少し、お話しません? こっちで……」
魅力的な女性だ、しかも裸同然の格好で! これはチャンス到来……どころか、また酷い目に合わされる前兆じゃないのか?!
「け・結構です! もう勘弁してくださいっ、お金なんて持ってませんー!!」
慌てて男は走り出す。
ポケットから、先程無意識に押し込んだチラシを取り出し大きく書かれた『美人局にご用心』の文字を改めて読み返すと、必死で逃げ出す。
「上手くいったみたいね」
走り去る後ろ姿を見送り、モモが言った。
「あれだけ脅されたら、流石に凝りた様子ですね」
オンディーナが言った。
「ふわりがお相手してあげたいけど~、今はだめなの」
残念そうに、そう言ったふわり。
「はい、しばらくここから先も立ち入り禁止ね」
男が通り過ぎると同時に、すかさずキープアウトのテープを貼り、道を封鎖する薫子。
これで、何も知らない一般人が迷い込んで巻き込まれることはないだろう。
「美人局で手駒増やしなんて、するもんじゃないね。攻性植物」
恵が言った。
「ここより先へは一歩たりとも進ませぬ! 一歩たりとも退かせもせぬ! ここが終点と心得い!!」
路地裏に佇む攻性植物に、無明丸がそう言い放つ。
「成る程、あなた達はケルベロス、というわけですか」
攻性植物が、そう口を開く。
「初依頼の相手が、何の因果か美人局の攻性植物とはね。 それにしても、その格好……」
ターゲットに狙いを絞った格好とはいえ、宇佐美は眉をひそめる。
「う、うわぁ……、本当にほとんど裸だ……」
テープを貼り終え合流した薫子も、思わずそう言った。
「せっかくのチャンスを邪魔する者、許さない」
攻性植物がそう言うと、身体に巻き付いていた蔦のような植物が、活発にゾゾゾと動き始める。
攻撃に転じる様子を見せる攻性植物を前にして、ふんわり穏やかに微笑んでいたユヴィの口元に、別人のような冷めた笑みが浮かぶ。
敵の動きに応じるように、覚悟を決めて結城は静かに刀を引き抜いた。
●交戦
「さぁ!いざ尋常に勝負いたせ!!」
無明丸は敵の懐に駆け込むと、顔面めがけ拳を振り下ろす。
「ぬぁああああああああああーーーーーッ!!」
小細工なしの鉄拳が顔面をとらえるも、攻性植物は表情を変えない。
「渦巻け、グラビティ・チェイン。私の中を駆け巡れ!」
呼吸と耐性を整えるモモ。
身体の周囲を溢れるグラビティチェインが金色の光となって渦巻き包み込む。
ニタリと微笑みを浮かべた攻性植物、ザワリと巻き付いた蔦が動き大きな白い花が開くと熱線が集まり、一気に放たれる。
すかさず放たれた光線の射線上に割って入る結城。
恵は、すぐに攻撃を受け止めた結城の傷を癒やした。
酔った男を仲間に引き込めなかった事で、単独での戦闘となった攻性植物。
回復の手段があるとはいえ、確実に追い込まれていく。
敵を斬りつけるふわり。
確実に敵の体力を削っていく。
(「今ならいけるな」)
艶やかな黒い着物の袖が翻る。
宇佐美の握る二振りの喰霊刀が、暴走し強烈な一撃となって敵の身体に叩き込まれた。
「紅蓮の翼よ! 我が牙となりて敵を貫け!」
武器を手に構える薫子。
「ファイアバードストライク!」
一閃、炎が羽ばたく鳥となり敵の体を突き抜ける。
膝をつく攻性植物。
それでもなお、攻撃の姿勢を見せる敵に、戦闘前とは別人のような冷めた笑みを浮かべるユヴィが、突き放すように言った。
「誰が動いていいと言った?」
その御業により捕縛される攻性植物。
「お前は、動くな。 行動を禁ずる!」
抵抗し、藻掻く敵を前に純白の美しい6枚の羽を生やしたユヴィは、圧倒的な威圧感をもって宣言する。
「お前は、ユヴィの美しさには敵わない」
もうひと押し、弱る敵にとどめを刺すべく追撃する無明丸。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
体から断ち切られた蔦が中空に舞った。
続け様に繰り出される、研ぎ澄まされた達人の一撃。
モモが手にする『白影』が、敵の急所をとらえた。
「あぁああああ」
最期に吐き出された悲鳴が途絶えると、攻性植物は前のめりに倒れ息絶える。
●完勝
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
拳を高く突き上げ、高らかにそう言って笑う無明丸。
実に清々しく豪快な笑顔。
それを見た仲間たちも、いっきに戦闘モードから開放される。
「上手く酔っ払いの男も逃げてくれたし、被害もなくなによりね」
そう言って、モモはポケットから取り出した飴をポンと口に放り込む。
隣に居た結城と目が合うと、食べる? とチョコを手渡すモモ。
「恫喝役、などと慣れない真似をしたが、上手くいってなによりです」
笑顔で御菓子を受け取ると、結城が言う。
「泰地様のその格好も、大いに役立ちましたね。 酔っぱらいの方は、怖い思いをしたかもしれませんが、命を救うことができたのは何よりです。 考えた作戦がすべてうまくいったおかげで、一般の方々が巻き込まれる事もなく本当に嬉しい限りです」
オンディーナもそう言って微笑む。
泰地も、ガラの悪いスーツにはまったく似合わない、気持ちのいい笑顔で頷いた。
「でも、あんなに脅されて女性恐怖症になったりしないかな? フォローに行ってあげようかな?」
恵が言うと、
「怖い思いさせちゃったからー、ふわりが慰めてあげたいなーって思うの」
まだ近くに居るかなぁ? と、小首をかしげるふわり。
「そういえば、前にも男性を狙った攻性植物がいたってきいたけど……まだまだ油断できないってことなのかな? 今日は、自分達に出来ることをちゃんとできてよかったよね」
薫子が言う。
そんななか、ぐぅ、と大きな空腹を訴える大きなお腹の音が……。
「えへへ……おなか……ペコペコ? ……みたい……」
ほわ~っと、掴みどころのない柔らかな口調でそう言うと、ユヴィはふんわりと穏やかに微笑えむ。
「さて、片付けるか。 いつまでも草だかなんだかわからないものを転がしておくわけにもいかないし、良い知らせをまってる奴もいるだろうしな」
凛とした微笑みを浮かべ、そう言った宇佐美。
こうして、ケルベロスの仲間たちの事前の作戦が功を奏し、今回は誰一人犠牲者を出すこともなく作戦依頼は大成功を収めたのだった。
作者:stera |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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