婚活滅ぶべし

作者:八幡

●婚活パーティ
 とある地方の公民館。
 大通りから離れた場所に在り、若干目立たないその公民館のホールは、それなりに広く……何かのイベントをやるにはそれなりに適しているように見えた。
 そんな、それなりに広いホールにはテーブルと椅子が並べられ、それなりに年齢でそれなりの身なりをした男女が数名、そわそわした様子で何かを待っているようだった。
 まだかまだかとその時を待つ男女の期待に応えるべく、満を持して登場した視界風の男がマイクを手にして、
「それでは――」
「ちょっとまてぃ!」
 いよいよ婚活のマッチング結果などを発表しようとした男の声は唐突に空いた扉のバーン! 音に遮られ、ふわふわした鳥のような物体ビルシャナがずかずかと会場に乱入してきた。
「何が婚活だばかばかしい! 自由に生きろよ、自由によぉ!」
 それから、ビルシャナがそれなりの男女たちへクワッと吠えると、10人ほどのやたらマッチョな男たちも入ってきて「そうだそうだ!」とビルシャナの言葉に賛同する。
「大体2、3分話しただけで何が分かると言うのだ! なんとかカードを使う余裕もねぇだろうが!」
 男たちの賛同の声に大きく頷いたビルシャナは更に婚活について否定的な意見を吠え、参加経験があるのか男たちも涙ながらに頷いた。きっと彼らも何とかカードを使う暇すらなかったのだろう。
「もっと己を鍛えて相手を惚れさせる……それだけでいいのだ。故に婚活など不要!」
「「やっはぁ!」」
 それから事態が呑み込めずに茫然としている男女にビルシャナが羽毛で覆われた腕を突き付けると、信者たちは婚活パーティ参加者へ向かって襲い掛かったのだった。

●滅ぶべし
「婚活パーティ会場にビルシャナが出るんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に立つと大変だよと両手を上げた。
「このビルシャナは婚活なんて要らないって主張してて、婚活してる人を絶対許さないって言ってるんだよ!」
 婚活している人を絶対許さない……所謂絶対許さない明王と言うビルシャナだろう。
 このビルシャナの特性は、自分の主張に賛同する一般人の部下を引き連れて、自分が許せない対象を襲撃するところだ。
 一般人の部下はビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして無力化できる可能性もある。
 また、ビルシャナ本体が撃破されれば元に戻るので救出も可能……ただ、戦闘が始まってしまうとビルシャナのサーヴァントのようなものとなり、ケルベロスにも傷をつけうる存在となる。
「ビルシャナが襲撃するのは公民館を使ったパーティ会場なんだよ。そこには10名前後の男女が居るんだよ」
 ビルシャナについてのあれこれを思い返しているケルベロスたちの様子に透子は頷き、ビルシャナが襲撃する場所についての情報の説明を始める。
「ビルシャナが来るまで隠れて待つか……先にその人たちを逃がす場合は、みんなが代わりに婚活パーティを開かないといけないんだよ」
 そうしないと予知が変わってしまうんだよと透子は悩まし気にケルベロスたちを見つめる。
 素直に隠れて待つか、婚活パーティの真似事をしてみるか……その判断は任せると透子は言いたいのだろう。ちなみに婚活パーティをやっていると言うところが重要なので男女比は気にしないでも良いらしい。
「ビルシャナの主張に賛同している男の人たちは、かつて婚活で失敗した人たちだよ。それで自分の体を鍛え上げて魅力的になったから婚活なんて不要って思ってるみたい」
 それから透子は悩まし気な表情のまま、どういうことなんだろうね? と小首を傾げる。首を傾げられても良く分からない……良く分からないがつまりは筋肉つけとけば何とかなると言うことだろう。そう、大体のことは筋肉が解決してくれるのだから。
 後、一度婚活に手を出しているということは結婚したいとは思っているようだ。そこらへんに何か説得の糸口があるかもしれない。
 一通りの説明を終えた透子は、コホンと咳ばらいをしてからケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「とにかくだよ! 人に会う機会が多ければそれだけ白馬の王子様に出会える可能性もあるんだよ! だから人の幸せを邪魔するようなビルシャナは絶対倒してきてね!」
 白馬の王子様が見つかるかもしれないんだよ! と力強く両手を握り締め、
「ふっ、見せてやろうじゃないか白馬の王子様ってやつをよぉ」
 やたらと白馬の王子様を強調しつつ、藤守・大樹(灰狼・en0071)が不敵に笑って見せたのだった。


参加者
深月・雨音(小熊猫・e00887)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)
絡・丁(天蓋花・e21729)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
紅・姫(真紅の剛剣・e36394)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
斬崎・冬重(天眼通・e43391)

■リプレイ


 それなりに広い会場は、それなりに装飾され、それなりに良い感じに婚活パーティが開かれていた……のだが、
「ビルシャナが来るから、避難して頂戴ね」
 唐突にパーティ会場に現れた、絡・丁(天蓋花・e21729)達が事情を説明すると、それなりの恰好をした男女達と運営陣はそそくさと引き上げていく。去り際に「やぁ、びるしゃな、こわぁい」とか「僕が守ってあげるよ」なんて良い感じになってる男女も居たりしたが、パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)が深く……とても深くため息をつくと慌てて去っていった。
「普通に婚活パーティやるよりカップリング率上がったかもな」
 琥珀色の液体が入った瓶に口をつけて何処か虚ろな表情で去り行く男女を見つめるパトリシアの視線を追いつつ、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は肩を竦める。危機的な状況や非日常こそが、心の垣根を取っ払う良い刺激に違いない。そういう意味で鳥の乱入は、良い感じのスパイスになるだろう。もっとも、日々刺激に溢れる嫁との生活に身を震わせる泰孝としては、この程度のできごとに刺激を感じないかもしれないが……兎も角、一般人の避難が事前に済んだのだ。あとはケルベロス達で婚活パーティの真似事をすれば良いだけだ。
「婚活パーティーに乱入するマッスルビルシャナでござるか。最近暖かくなったでござるから、こういうのが増えてきて困りものでござるな」
 それなりに準備を整えて各々席に着いた仲間達を確認し、学生さんでヤングであるためメイド服を着てスタッフ的に働いていた、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)はうぬぬと唸る。そして変なのと言えば……とカテリーナが、フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵・e15511)へ視線を向ければ、
「ねぇねぇ、年収とかどうなのよ?」
 フリードリッヒは馬の被り物を被り、そんな馬のフリードリッヒにうきうきした様子でパトリシアが絡んでいた。普通、唐突に年収を聞かれても困るものだがフリードリッヒはキリッと格好いいポーズを決めてパトリシアの質問をいなし、
「いななかずにいなすのね! 馬なのに!」
 軽くいなされたパトリシアはけらけら笑いながらフリードリッヒの背中をバンバン叩いた。完全にできあがってるパトリシアと叩かれながらもビシッとこれまた格好いいポーズを決めるフリードリッヒを横目に、丁は隣に座った泰孝へと口を開こうとするが、
「趣味はギャンブル。年収はない。あと嫁も居る」
「くっ、ケルベロスでも何でもいいから、誰かとワンチャンあればと思ったのに……!」
 丁が何かを言う前に泰孝はニヒルに笑い、出鼻をくじかれた丁は机に突っ伏した。婚活と聞いてもしかしたらと思った丁だったのだが、現実はそんなに甘く無いようだ。
「こんなにいい男だぞ?」
 あまりにも落胆している丁を気の毒に思ったのか泰孝は冗談交じりに口の端を釣り上げると、丁は突っ伏したまま横を向いて泰孝の顔を見上げ、
「そうね、でもお金の無い男には興味が無いわ」
 あなたこそ、こんなにいい女を逃して残念だったわねと笑い返した。
 フフフと笑い合う泰孝と丁の様子を見ていた、紅・姫(真紅の剛剣・e36394)は自分の横に居た、斬崎・冬重(天眼通・e43391)へ視線を向ける。婚活パーティを装うと言う事で何となく男性の横に座った姫だが、昔から鍛錬ばかりで色気のある話が無い……そんな訳なので困ったぞと、冬重を見つめたのだ。見つめたのだが、冬重にしても高校からの同級生である嫁さんと娘を持つ身だ。若者に交じって婚活の演技など恥ずかしくて仕方がないし、特に相手が姫だと娘を相手にしているような気分になるので娘にあわせる顔も無い。そんなこんなで姫と冬重はお互いに特に話す事も無く、沈黙の時間が続き……、
「まいったな……」
「まいったわね……」
 2人同時に同じような事をため息交じりに呟き、えっ? と顔を見合わせた。困っているのは自分だけではない。相手も困っているのであればお互いに助け合えばよいのだ。姫と冬重はこれまた2人揃って困ったような笑みを浮かべて、ぽつぽつとお互いの事を話し始めた。
「聞いてるのにゃ?」
 ご趣味は? とか話し始めた冬重達の様子を見て、正しくお見合いしてるなぁなんて思っていた、藤守・大樹(灰狼・en0071)が不満そうな声が発せられた方へ向き直れば、そこには少女……いや女性となった、深月・雨音(小熊猫・e00887)の姿があった。本来少女の歳である雨音はエイティーンによって18歳の姿になったのだ。そしてエイティーンでナイスバディで尻尾も綺麗になった雨音は確かに美人であり、初対面であったらドキドキしてしまいそうだが、
「それでね、おさかなさんをがぶーってしたのにゃ」
 楽しそうに話しながらフォークで突き刺した魚を言葉通りにがぶーと喰らい付く様は、普段の子供らしい雨音のままだった。そんな訳なので大樹もいつも通りに、孫がキャッキャしている姿を見守る好々爺のような表情で雨音の話を聞いて、
「それは大変だったな。タヌキグマの嬢ち――」
 やっぱりいつも通りにレッサーパンダのウェアライダーである事を誇りに思っている雨音の地雷を踏んだのだった。

 シャーッ! と尻尾を膨らませる雨音の前で正座する大樹を他所に、それなりの恰好をした比嘉・アガサは料理やら飲み物をぱくついていた。そんなアガサの横に、セレブっぽいジャケットでシャツのボタンを豪快に外してあまつさえサングラスを胸ポケットに刺した玉榮・陣内が座って、
「そう、先日も仕事で海外に行って来ましたよ。他人に任せられない仕事が多すぎて、いつもあちこち飛び回っているんです。でも現地の食事はイマイチだったな。僕は舌が肥えてしまって、食事する店を探すのも一苦労なんだ……そろそろ、暖かい家で僕のためにディナーを用意して待ってくれる人が欲しいなって。そう思っているんですよ」
 やたら長い台詞をぶるぁぁしそうな口調と声で言い切ってアガサの瞳を見つめる。そんな陣内にアガサはにっこりするが猫のような眼は全く笑っておらず……陣内が座る椅子の脚をガンと蹴とばして陣内を仰向けに倒すと、
「こういう似非セレブ気取ってる奴ほど実際の中身はダメな奴ばっかりなのよね」
 何か似非セレブに恨みでもあるのか20センチのヒールで陣内の眉間をぐりぐりと踏んだ。


 姫達が何やかんやで婚活パーティをしていると、鳥と筋骨隆々な男達が会場のドアを開けて踏み込んできた。
「ちょっとま……婚活会場は此処で良いのかね?」
 来たのだが、背中をバンバン叩かれている馬面の男や、レッサーパンダの尻尾で顔面を殴打される男や、痛いって……と小声でつぶやきながらも素直に眉間を踏まれる男やらを見て、鳥は会場を間違えたかな? と首を傾げ、後ろの男達も不安そうに顔を見合わせていた。
「間違いないでござるよ」
「おお、そうか。何やら怪しい別のパーティ会場に来てしまったと思ったわ!」
 そんな鳥達に給仕よろしくメイドの服のままドア付近に佇んでいたカテリーナが答え、鳥は意気揚々と婚活滅ぶべしと訴え、後ろの男達もそうだそうだ! と厳つい拳を頭上へ振り上げる。
「婚活の何がだめかにゃ? 繁殖の季節にみんな集まって相手探すのは至極普通にゃ?」
 そんな鳥と信者達だったが……雨音はピュアな面持ちで小首を傾げた。動物的に考えれば、繁殖の相手を効率的に探すために一か所に集まるのは当然。それを批判するのは雨音としては理解に苦しむようだ。雨音の意見に同調するように、フリードリッヒが両手を前にビシィと格好いいポーズで信者達を指さし、さらにゆらりと立ち上がった丁が信者の前までつかつかと歩いていく。
「あぁん? あんた達判ってる? 多少年食ってくると、独り身には後がないのよ、後が!」
 それから信者達の顔を見上げて、もう後が無いのだと主張を始めた。見た目はとても良い丁に近寄られた信者はどぎまぎした様子であるが、
「孤独死まであるわよ! わかってんの? 人生舐めてんの? なりふり構ってる場合じゃないわよ!」
 その見た目の良い丁ですら、この焦りっぷりなのだ。その現実を突き付けられた数人の信者達の背中に冷たい汗が流れる。
「自ら出会いを求めていかなきゃ、運命なんて甘い話はもう無いのよ! 故に婚活は必要! 以上よ!」
「そうだにゃ、そもそもこんなに相手がたくさんいる場でも、誰かに惚れさせる事もできない人は、全然魅力がない敗者にゃ? 偉そうに主張してもただの敗者にゃ?」
 そして丁の言葉に乗るように、雨音が相手が沢山いる状況でも惚れさせる事ができないなら只の敗者である現実を突きつけ、
「ここでもダメなら、外で異性を惚れさせるのはまず無理にゃん?」
「「ぐはぁ」」
 純粋無垢な感じで首を傾げると……数人の信者達と丁が口から何やら赤いものを吐きながらガックリと地面に膝をついた。相手が居る場所で見つからないならもうダメだと言うのは、ごもっとも過ぎて心を抉りすぎたのだろう。
「おっと。それ以上はイケナイでござる」
 だが基本的に繁殖についてはピュアな雨音である。分かったのにゃ? とさらに突っ込みを入れようとするも、カテリーナがその肩を掴んで首を横に振り、フリードリッヒを馬面に手を当てて天を仰ぎ、もう止めてあげてと主張した。

 帰ろう……とドアを開けてふらふらと帰って行く数人の信者達を見送りながら、大丈夫にゃ? と不安そうに自分を見る雨音に、
「ふふふ、ダイジョウブよ」
 丁は虚ろな目でそう答えた。


「くっ、軟弱者め! まだまだ鍛え方が足りな……」
「自分の魅力を高めるのはいいけれど。盛大に方向性が違うね」
 帰って行った信者達の背に鳥が言い捨てるが、それを聞いたフリードリッヒがやれやれと首を振る。
「考えてみたまえ。自分が女性だとして、君達を――隣のその男を好きになれるかい?」
 そんな挑発的な態度に信者は何だと?! と食い掛ろうとするも、フリードリッヒは構わずに続ける。
「婚活に失敗した挙句、『体を鍛えれば女性の方から寄ってくる』と嘯いて、婚活パーティを潰そうとするような男を?」
 失敗するのは良いだろう。失敗は大きな経験だ。だが、それを自分に非があると認めず、他責にした上に人の邪魔までしようなどとは言語道断である。そしてそんな男に惚れる女は居ない。
「ぐぅ……馬面の男にそんな事を言われるとは」
 フリードリッヒの言っている事はごもっともなのだが……信者からしたら馬面でふざけているだけの男に何やら説教されるのは心外のようだが、
「そうさ、わかっているじゃないか。自己満足の格好良さを追求してコミュニケーションをとろうとしない、さっきまでのボクらの姿は君達の鏡像さ、だからね」
 信者のツッコミを待ってましたとばかりにフリードリッヒは馬面を脱ぎ捨てると素顔を見せてパーフェクトボディによりきらきら光って美しくなった。
「君らもさっさと仮面を脱いで自分の魅力で勝負したまえ」
 それからきらきらとしたまま流し目で信者達を見つめる……自己満足と言う殻にこもってないで一皮むけろよとかそんな事を言いたいのだろう。
「なるほど、このための馬面だったのか」
「ふざけているわけでは無かったのね」
 そんなフリードリッヒを見て信者達は悔しそうに唇を噛み、冬重と姫は感心したように手を叩くとフリードリッヒはよせやいと格好いいポーズを決めた。
「どっちにしても体を鍛えるだけじゃダメにゃ」
「筋肉って適度についてるのがいいのよ? ダルマになったらむさくるしいだけじゃない」
 フリードリッヒの恰好良いポーズはさておき、筋肉ばかりを鍛えていた信者達には雨音とパトリシアも言いたい事があるようだ。
「年収はいくらにゃ? ちゃんと家族を養えるかにゃ?」
「いい男ってのはね、3高よ! 高身長! 高収入! 高攻撃力!」
 雨音は実利的でありパトリシアは付加価値を求めているようだが、いずれにしても筋肉だけで解決できる範囲を超えている。そう筋肉だけではどうにもならない事が世の中にはあるのだ。
「守ってくれる人って、とっても素敵よね。その点だけは褒めてあげるわ? でもね! 何事にもバランスってのが大事なの!」
 ハッと自分の腕を、筋肉を見つめる数人の信者達へパトリシアは切実に訴えると……信者達は我に返ったように項垂れた。


「いい? 3高こそ至高なのよ!」
 分かりました姐さん、もっと攻撃力上げてきます! と言って去り行く信者に収入も高めてきなさい! と言う意味でそんな言葉をかけていたパトリシアが残りの信者達へと視線を向ければ、
「鶏肉はたんぱく質たっぷりでマッスルの味方でござるよ」
 そこにはトレイを片手にくるくる回ってメイド服の絶対領域をチラ見せしているカテリーナの姿があった。
「おにーさん、力こぶ作ってみるでござる」
 それからカテリーナはチラ見せに鼻の下を伸ばす信者の前で、あざとくお願いのポーズでそんなお願いをする。お願いされた信者は戸惑いながらも力こぶを作って見せると、
「びくともしないマッスルのみなさんが、ボディービル大会に出たら熱い視線独占で、きっとモテモテでござるよ!」
 カテリーナはその力こぶにぶら下がってもてもてでござるよ! なんて信者を持ち上げた。女の子に触れられた上に、鍛え上げた筋肉を褒められたら悪い気はしない。
「流石忍者、あざとい」
 興奮気味に顔を蒸気させる信者と、HAHAHA女性ばかりとは言ってないでござるがなと笑うカテリーナを見てパトリシアがぼそっと呟いていたけれども。
「せっかく筋肉を鍛えたのなら、それをちゃんと活かせば結婚できると思うけど」
 カテリーナをぶら下げたまま上機嫌な信者に姫が真面目に語りかける。
「あなた達は鍛えられた筋肉を身につけていて、確かにそれ自体はとても魅力的だと思うわよ」
 今まで鍛錬ばかりしてきた姫にとって、その言葉は本心だろう。実際、筋肉をつけるには相当の訓練と、それに耐える精神力が必要なのだから。
「そうであろう、やはり筋肉こそが――」
「でも、こういうマイナスイメージの付くような事をしては、その魅力にも気付いてもらえなくなってしまうわ」
 そんな姫の言葉にさらに上機嫌になった信者が何かを語ろうとするも、姫はその言葉を遮って信者のやっている事の愚かさを指摘した。
「そもそもあんた達身体は鍛えたわけでしょ? 婚活してそれアピールすりゃいいじゃねーの。マッチョ好き女は沢山いるわよ。自分らの武器活かしなさいよ……」
 姫の言葉で高揚した気分に冷や水をかけられた信者はぐっと言葉を飲み込み、丁はそんな信者に呆れたように溜息を吐く。本当の魅力、鍛え上げた筋肉の本当の使い道、それをちゃんと考えて婚活をすれば振り向いてくれる女性もいるだろう。
「筋肉を活かして前向きに婚活していきましょう。そうすれば、筋肉が運命の女性との出会いへと導いてくれるわ」
 姫は丁の言葉に大きく頷いてから信者達へ優しい眼差しを向けると、
「「筋肉の女神様!」」
 信者達はあっさり寝返った。

「視線独占でござるよー」
 違うわ。と言って足元に縋りついてくる信者達を姫は蹴り飛ばして外に出し、カテリーナはボディビル大会でモテモテになってくるでござるよと信者達の背中を見送る。それから会場の中へ振り返れば鳥と数人の信者が残っていた。残った信者はあとわずかだが……ここまでの説得で正気に戻せないとなると別の切り口が必要そうだ。
「結婚に求める条件とは顔より心の綺麗さだ。それに道徳観と価値観の一致な」
 そんな信者達へ冬重が真面目に、話しかけていた。それは心も見た目も美しい妻を持つ冬重らしい説得と言えるが……、
「口だけ番長の鳥頭と違い、既に妻がいる先達としてお前らに問おう。教義に従い惚れさせた相手がどんな者でも愛し、結婚できるのか!?」
 冬重の肩をポンポンと叩いて、それまで沈黙を守っていた泰孝がここは任せろとばかりに一歩前に出ると、そんな事を話し始めた。
「知らぬ間に合鍵作られ部屋に入り浸るストーカーの所業を超える行動……鍛えたケルベロスのオレですら大型犬の犬小屋に鎖と首輪のセットで縛られ管理され、時折暴行もありうる状況。そんな重い愛を持相手でもお断りせずしっかり愛せるんだろうな?」
 どんな者でも愛せるのか? その意味を信者達が問うよりも先に泰孝は自分が置かれている立場を語る。
 数々の愛ゆえの行為。愛があるから許せるのか。はたまた愛ゆえにそのような行為に出るのか……そこは不明だが、いずれにしても惚れさせた相手。責任をもって自分もその愛を受け止める自信があるのかと泰孝は問いかける。
「婚活はその後交際し本性見抜く事もできるが、その手を捨てて重い相手を引くリスクを背負えるんだろうな!?」
 それは――血を吐くような言葉だった。結婚はゴールではないとはよく言うがそれをここまでまざまざと見せつけられると、
「「モウケッコンハイイデス」」
 冷や汗を浮かべながら残った信者達も正気に戻り、冬重達は泰孝から視線を逸らした。

 その後、ケルベロス達はなんやかんやで鳥を倒し帰路へ着いた。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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