紅の宝石

作者:小鳥遊彩羽

「ルルルン♪ ルルラ♪ ラララ、ラ~♪」
 軽やかに弾むようなステップに、甘い歌声を乗せて。フリルと苺で彩られたドレスに身を包んだ少女が、くるりとターンをして目的地と思しきビニールハウスの前で止まる。
「私にかかればこれくらい、何ということはないのですぅ。今日の私も完璧ですぅ」
 頭の兎耳を機嫌よく揺らしながら、少女――甘菓子兎・フレジエは、自らが従えてきた苺の頭を持つ攻性植物――ストロングベリーへと振り返った。
 フレジエの言葉に、ストロングベリー達は黙したまま。おそらく、会話そのものが出来ないのだろう。しかしフレジエはそれを気にする様子もなく、ビニールハウスに足を踏み入れると、その中で収穫の時を待っていたであろう鈴生りの苺を摘み、口に放り込んだ。
「……むぅ」
 途端に、フレジエの顔が不機嫌そうになる。ろくに咀嚼せず苺を呑み込み、フレジエは小さく頬を膨らませた。
「この苺は美味しくないですぅ。私にふさわしくないですぅ」
 そうして、フレジエはストロングベリー達へと振り返った。
「こんなイチゴは必要ないから、めちゃくちゃにしちゃってくださぁい」
 フレジエはそれ以上、ハウス内の苺に興味を示すことなく、外へ。そうして、ぽっかり空いた魔空回廊を潜り、どこかへと消えていった。

●紅の宝石
 爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようだと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はその場に集ったケルベロス達へ説明を始める。
「攻性植物達は、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているみたいなんだ」
 おそらくは大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させることで、大阪市内を中心として拠点を拡大させようという計画なのだろうと推測される。これは大規模な侵攻ではないものの、このまま放置すればゲート破壊成功率も少しずつ下がっていってしまうとトキサは続けた。
 それを防ぐ為には敵の侵攻を完全に防ぎ、更に反攻に転じなければならない。

「今回現れるのは、『甘菓子兎・フレジエ』という名の攻性植物だ。配下を引き連れて、大阪府近郊の苺農家に現れるようだよ」
 フレジエは現れてもすぐに撤退するため、本人と戦うことは出来ないが、配下のストロングベリーが農家の苺を破壊する前に駆けつけることは出来る。
「美味しい苺を守るために、頑張らないといけませんね……!」
 フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)がぐっと表情を引き締めて言うと、トキサはしっかりと頷いた。
 現場に残されたストロングベリーは三体。いずれもその屈強な体躯を生かした戦法を取ってくるようだとトキサは言った。
「少し一撃が重いかもしれないけど、皆が力を合わせればそう簡単に負けるような相手ではないと思うから、苺農家の方達のためにもさくっと倒してあげて欲しい。そして、無事に倒せたら、そこの苺を使ったデザートを提供しているカフェが道路の向かい側にあるから、お邪魔してみると良いんじゃないかな」
 カフェでは定番の苺パフェや苺をたっぷり添えたワッフル、苺タルトなどの他、苺のジェラートやシェイクなども楽しめるのだという。勿論、カフェなので、他のご飯やデザートなどのメニューも一通り揃っている。
「産地直送も直送だ、フレジエの口には合わなかったようだけれど、美味しいのは間違いないから」
 だから、ご褒美を楽しむためにも、しっかりと敵を倒してきて欲しい。そんな風にトキサは締め括り、皆をヘリオンへ誘うのだった。


参加者
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
クレス・ヴァレリー(緋閃・e02333)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
御影・有理(灯影・e14635)
咲宮・春乃(星芒・e22063)
鉄・冬真(雪狼・e23499)

■リプレイ

 ヘリオンから降り立ち、早速現場へと向かうケルベロス達。
「とても甘くて美味しそうな苺ですのに。……あら? あそこに大きな苺が見えますの!」
 敵を探してきょろきょろと辺りを見やるシエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)の空色の瞳が、『大きな苺』を捉えた直後。
 大きな苺――もとい、敵のストロングベリー達もケルベロスの存在に気づいたらしく、これ見よがしにポーズを決めて番犬達を出迎えた。
「うわぁ……マッスルだなぁ」
 朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)は思わず零し、目の前の敵からそっと目を逸らすものの、すぐに戻して、
「そんな体躯で暴れられたら堪らないね。だから、一気に方を付けてしまおう」
 農家の人が大切に育ててきた苺だ、楽しみにしている人は沢山いる。
(「……俺も楽しみだし」)
「では、僭越ながら――殺界形成を発動いたしますわ!」
 言葉と同時に、シエルの内から膨れ上がった『気』が広がって。
 これで、不用意に近づいてくる者はいなくなるはずだ。
「シエルさん、ありがとっ。これで、あたしたちは遠慮なく戦えるね!」
 翼猫のみーちゃんと共に礼を告げ、咲宮・春乃(星芒・e22063)は敵へと向き直る。
「苺さん達のためにも、農家の皆さんのためにも、頑張らないと、ですねっ」
 フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)がほっとしたように零すのに、春乃はうんと頷き、笑みを深めた。
「だいじょうぶ、フィーちゃん。なんとかなるよ! だって、頼もしい仲間が一緒なんだから。――無事に敵を倒し終わったら、みんなでカフェにも行こうね!」
 そう続けた春乃に、仲間達は勿論と言わんばかりに頷く。
 赤の容貌に緑の体躯。
 それは、色と顔の形を見れば何となく苺と呼べるものではあるけれど。
「……なんだが逞しすぎるな? あの子が見たら泣いてしまいそうだし……農家の人達の為にも必ず仕留めるぜ」
 カフェを楽しみにしている少女を想い、一刻も早く倒さなければとクレス・ヴァレリー(緋閃・e02333)は空を翔けた。
 煌めく流星が重力の尾を引いて、手近にいた一体へと突き刺さる。そこに、斑鳩が物質の時間を凍結する弾丸を銀のリボルバー銃を介して撃ち込み、さらに蓮水・志苑(六出花・e14436)が真白の刀を手に迫る。
 近頃大阪市内で急速に多発している攻性植物の事件――今回の一件も、その一つだ。
 攻性植物の拠点拡大という目的こそ推測されるものの、ならば何故苺に狙いを定めたのかと志苑は疑念を拭えずにいるけれど。
「何れにしても、丹精込めて作られた苺を荒らす行為は見過ごせません」
 シエルの殺界形成により、自分達と敵以外の気配は周囲にはない。改めてそれを確かめてから、志苑は三日月のような緩やかな弧を描く斬撃を見舞う。
「リム、敵への攻撃だけを考えて」
 箱竜のリムにそう指示を与え、御影・有理(灯影・e14635)は盾として戦場に立つ夫――鉄・冬真(雪狼・e23499)を見やる。
「――冬真」
「どうした、有理」
 普段は表情に変化の見られない冬真も、最愛の妻である有理の前では柔らかな笑みを覗かせる。
「大丈夫。……冬真の背中も、仲間の皆も、しっかり守るよ。もちろん、苺もね」
 有理の言葉に、冬真は確りと頷いて。
「ああ、僕も。有理と仲間を、そして苺を守る為に力を尽くそう」
 二人は顔を見合わせて頷き、同時に地を蹴った。息を合わせて見舞うは流星の煌めきと重力を宿した蹴りの一撃。ただし、狙いは別々に。
 大幅に機動力を削られたストロングベリーの狙いを引き付けるべく、ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は、代々受け継がれてきた刀を手に距離を詰めた。
「大阪城もいい加減返してもらわねばですし、その悪行、ひとつずつ潰していきましょう!」
 七天抜刀術・壱の太刀【血桜】――抜き放たれた刃は一瞬の内に敵の全身を切り刻み、鮮血の桜花を舞わせた。刀が再び鞘に収まった時、攻撃を受けたストロングベリーは、狙い通りにギルボーク目掛けて鮮やかな緑色の拳を振るった。
「花よ、華よ、天高く、舞い上がって――みんなを癒して!」
 そこに朗らかに響く声は春乃のものだ。みーちゃんが尾を飾る星の環を飛ばすのに合わせてふわりと躍るように大きく振られた両手から、色とりどりの花びらが舞い上がっては穏やかな風に乗って降り注ぐ。あたたかな想いに込められた確かな力は前衛の元へ。そこにフィエルテが避雷の杖を掲げて守りの雷壁を編み上げると、交えた視線の先で頷いたシエルが、光の盾の癒しと守りをギルボークへと送った。

 植物的な肉体美を披露しながら破壊力のある攻撃で攻めてくるストロングベリー達に対し、ケルベロス達は一体ずつ攻撃を集中させて素早く倒していくという、短期決戦を念頭に置いた作戦で臨んでいた。
 一体へ集中攻撃をしている間は、春乃とみーちゃん、冬真が残る個体を牽制する形で。そこに支援の陣内の麻痺や武器封じによる援護も加わり、翼猫がストロングベリーの苺頭をがじがじする場面も見られたという(美味しくなさそうにぺっ! としていた)。
 あかりは本隊が攻撃に専念出来るよう守りを固めることに重点を置き。アラドファルやヒメノも後方から前線で戦う皆を支えていた。
 宿利と蓮も盾役として皆を庇いつつ、回復支援を。そしてとりあえずあれは一発殴っておかないと気が済まないと、正面から殴りに行く蓮の姿があったとか。
 集中攻撃を受けたストロングベリーは、激しい傷を負っても戦意を失うことはなく。繰り出された回し蹴りが旋風の如くギルボークを薙いだ直後、抑えられていた一体が冬真を強かに殴り、もう一体が盾の庇いが入るより早くみーちゃんを蹴り上げた。
「フィエルテ様、前衛のお二人はわたくしが!」
「はいっ、シエルさん、私はみーちゃんを!」
 シエルの舞が癒しの花弁のオーラを降らせ、その間にフィエルテはみーちゃんへと魔術切開による手術を施して。
「フィーちゃん、ありがとうっ! よーし、いっくよー!」
 元気いっぱいになったみーちゃんがお返しとばかりに鋭い爪を光らせる姿に目を細めつつ、春乃は鮮やかに灯る翼から聖なる光を放ち、ストロングベリー達に与えた戒めを一気に増やした。
 ギルボークの竜の炎が、ストロングベリー達を纏めて焼き払う。とうとう限界が近くなった様子の一体をクレスは確りと見据え、冴ゆる刃を閃かせた。
「心に誓った、自らの矜持を貫く為に……!」
 重く、疾く、漆黒の軌跡を描いて宵闇を断つ一閃が散らすのは、赤く、紅く、赫い――彼岸の花。瞬く間に枯れ果て、塵となって消えた一体目から、クレスはすぐに残る二体へと視線を移す。
「……俺も負けてられないな」
「続きますよ、朽葉さん」
 銃を構える斑鳩に、志苑が柔らかな笑みと共に応える。
 素早く身を翻した斑鳩が狙いを定めた先は敵――ではなく背後の地面。銃口が火を噴いた直後、跳ね返った弾丸が死角からストロングベリーに突き刺さり、その隙をついて懐へ飛び込んだ志苑が、非物質化させた氷のように青白い刃で、肉体ではなく霊体を斬る一撃を放った。
 残る二体に対しても、同様に。ギルボークが怒りを付与して敵の攻撃を引きつけつつ、ケルベロス達は一気に攻め込んでいく。
 巡る戦いのさなか、冬真は時折案じるように有理を見て、無事でいることに内心安堵しつつ。視線に気づいた有理もまた、大丈夫だと言うように笑って。
 そこに迫るストロングベリーの拳を真正面から受け止めつつ、冬真は敵へそっと手を触れさせた。
「この鋼渦の糧となれ」
 触れたことでストロングベリーの体内に発生させた螺旋を、逆方向に回転させることで生体エネルギーを絡め取り、無理やり引き摺り出して冬真は己の体内に取り込んでいく。血も肉も骨も、――命までも。全てを糧として食らい付くした後に残った抜け殻のような一体へ、有理は凛と紡いだ。
「己の成したいように成し、守りたいものを守る。それが御影の一族の……私の在り方だ!」
 それは有理の祖が立てた守護の誓い。彼女の身に、魂に、確かに刻まれ――今も生きているもの。
 自身の遺伝子を魔術回路に見立て魔力を流すことで、有理の姿が祖先であるドラゴニアンを模した姿へと一時的に変化した。
 闇色の翼を広げ、鋭い爪で貫き、引き裂いて、散らしてゆく。
「あと一体! やっちゃえー!」
 最後の一体に春乃が時空凍結弾を放ち、みーちゃんも再び星の環を飛ばす。ギルボークの壱の太刀は同様に、これまで回復に専念していたシエルとフィエルテも、最後は攻撃へと移った。
「妖精さん、妖精さん。どうか、わたくしに教えてくださいませ」
 シエルは魔導書に綴られた詩を読み上げ、召喚された小さな妖精から答えを得る。打ち砕かれた迷いは確かな力となって、フィエルテが古代語の詠唱に乗せて放った魔法の光線と共に敵に突き刺さった。
「その口が何か喋ればもっと賑やかになったかもしれないが……ここで終わりだぜ。じゃあな」
 クレスの刀が緩やかな弧を描いて最後の一体を斬る。攻撃を終えたクレスがちらりと振り返れば、斑鳩と志苑が頷いて応え。
「高貴なる天空よりの力よ、無比なる炎と雷撃にて全てを焼き尽せ――」
 斑鳩は天空の力たる炎と雷を纏い、矛のように狙いを定めた拳撃をストロングベリーへと打ち込む。
「散り行く命の花、刹那の終焉へお連れします。逝く先は安らかであれ」
 高温の炎と電撃に溶けてゆくストロングベリーの身体。そこに残された軌跡は、虚空より舞い落ちる雪花と清浄なる白き世界に咲き誇る氷雪の花が舞う一刀。
 斬撃の氷は散りゆく花弁を朱に染め上げ、ただ静謐なる終焉を齎して――。
 こうしてストロングベリー達は跡形もなく消え去り、戦いは無事に終わりを迎えたのだった。

「――有理、怪我はない?」
 戦いが終わってすぐ、冬真は有理を抱き寄せて怪我の有無を確かめる。
「私は平気。冬真のほうが……」
 盾として奮闘していた冬真へ、有理は労いの言葉と共に治療を施した。
 後からやって来た苺農家の老夫婦に、ケルベロス達は事情を説明する。戦いの場となった田んぼも田植えには問題ないとのことらしく、彼らの気遣いと、何より苺を守ってくれたことに、たくさんの感謝とくしゃりとした満面の笑顔が返された。
 そして、老夫婦に見送られながら、一行は連れ立ってカフェへと向かう。

 苺の香りがふわりと広がるカフェの席の一つで、クレスと小町は鮮やかな色と文字が連なるメニューを広げる。
 全部はお腹に入り切らないからと、にらめっこの様に視線を移す小町を微笑ましく見つめながら、クレスは深く艶めく苺のタルトを選び。悩み抜いた末に、小町は色々と味が楽しめそうなパフェを頼んで。
 真紅の宝石をフォークに一口分。小町の口元に差し出せば、窺うような眼差しが向く。
「いいの?」
「勿論」
 微笑むクレスが頷くのを見て、小町はそのままタルトを口に。
「……酸味と甘さが調和して、美味しい」
 柔らかく咲く彼女の笑みを見れば、クレスの心にも嬉しさが満ち、自然と口元が綻ぶ心地がして。
 お返しにと小町が拵えるのは、苺とアイスにベリーソースを重ねたミニサイズのパフェ。
 差し出された匙を口に含めば瑞々しい苺の甘酸っぱさにクレスは心を擽られる。
「君と味わう甘さだからより一層美味しいんだろうな」
「それって、相手が私だから特別ってこと?」
 いつもからかってくる彼への仕返しのつもりで聞いたのに。
「ああ、そうだな。共に過ごすのが君だから特別になるんだ」
 返された言葉に、小町は頬が熱を帯びていくのを感じた。

 冬真と有理は並んで座り、苺のパフェを半分こ。
「……すごいね、名前に違わぬ苺尽くしだ」
 添えられた苺と、バニラのアイスと生クリーム。それ以外は真っ赤な苺がぎっしりの贅沢な一品を前に、有理は少しだけびっくりしたりもしていたけれど。
 二人の想い出が詰まった大好きな果物を前に、心も笑みも綻ぶばかり。
 バニラアイスと苺を掬い、有理は召し上がれと冬真の口へ。勧められるまま苺とアイスを口に運ぶ冬真も、お返しにと苺アイスと苺を掬って有理の口元へ。
 美味しそうに食べる互いの姿を眺める、そんなささやかなひとときが、何よりも幸せで愛おしい。
 パフェを食べる有理を微笑んで見つめていた冬真は、ふと彼女の唇の端についたアイスを指先で拭ってから、惹き寄せられるようにそっと唇を重ねる。
「――ごめんね? どうしても触れたくて、つい」
「もう、冬真ったら……私からも、触れていい?」
「うん、君からも触れて欲しいな」
 有理の愛らしいお願いに、冬真は笑顔で頷いて。
 お返しに触れる、甘いもの。
 また一つ二人で重ねた想い出に、有理は微笑む。
「もっと大好きになっていくんだろうな」
 ――苺も、貴方も。

 ワッフルもタルトも捨てがたいけれど、春乃が選んだのは定番の苺パフェ。そして、アラドファルは冷たくて甘い苺のジェラートを。
「綺麗な赤色、赤くなった春乃の頬色に似ているな。新発見だ」
「も~っ、そんな照れるようなこと言わないで」
 微笑むアラドファルを、春乃は両手で頬を覆いながらじっと見つめて。その愛らしい反応に、アラドファルはつい言葉を重ねてしまう。
「あの時は林檎だと思ったが、実際のお味はどうなのかな」
「アルさんだって赤くなることあるのに。それに……」
 ――ほっぺの味は、君だけが知ってるでしょ?
 彼にだけ届く小さな声で囁けば、頬から耳まで真っ赤に染まる。
 それから改めて堪能する、甘酸っぱい苺の味。
「この味が守られて良かった。春乃、お疲れ様だ」
 こちらもあげるからパフェを一口とねだる灰の眼差しがじっと狙うのは、クリームがかかったつやつやの苺。
「うん、いいよ。はい、アルさん、あーん」
 何気ない『あーん』に途端に込み上げてくる照れくささを何とか押し込め、アラドファルは差し出されたスプーンを受け入れる。
「代わりに、ジェラートちょうだいね」
 そうして目を瞑り、口を開けて待つ春乃を見れば、ふと芽生えた悪戯心が一度冷えた器を頬につけさせる。
「ひゃっ! ……っ、もう!」
「ふふ、あまりにも無防備だったから。……はい、あーん」

 メニューを広げれば、ずらりと並ぶ赤い宝石のような果実達。
「どれも美味しそうで迷ってしまいますの。フィエルテ様は何になさいます?」
 揃ってメニューとにらめっこ。ちらりと顔を上げれば、互いに楽しげな笑みが綻ぶ。
「パフェもショートケーキも気になります、が、タルトにしようかなって。シエルさんは、どうされますか?」
「わたくしは、やはりワッフルにしますわ! 苺たっぷりでとても贅沢ですの♪」
 二人で違うものを頼んで、その後はいつものように交換こ。
 二つの味が楽しめて、幸せも二倍――それ以上に増えていく。

「ヒメちゃん、ボクたちが守った苺だと思うと期待もひとしおだね!」
「はい、素敵なカフェに誘っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
 メニューの中で思わず目を引いた、苺を練り込んだ苺うどん――への冒険はまたの機会にして、ギルボークとヒメノはオーソドックスな苺たっぷりのパフェをチョイス。
「……おっ、ヒメちゃんは苺好きなのかな?」
 いつもよりも早く進むヒメノのスプーンにギルボークが首を傾げると、はい、とヒメノは控え目に頷いて。
「やっぱり苺は甘い物との相性も抜群なので、どんどん食べられますね……美味しいです」
「うんうん、喜んでもらえてよかった!」
 共に過ごす時間の中、共に苺を満喫する幸せ。
「機会があればまだ食べたいメニューもありましたし、食べに来たいですね……!」
 と、早くも次を楽しみにするヒメノに、ギルボークも満面の笑みで頷いた。
「苺もそうだし、別のものもまた、ね!」

 斑鳩と志苑は宿利と蓮と連れ立ってテーブルへ。
「なんとも言い難い苺頭男(ストロングベリー)だったな」
 一発殴りたかったのはまず名前にイラッとしたからと蓮が言えば、
「いやぁ、マッチョは手強かったよね」
 斑鳩は頷いて笑いながらメニューを広げる。
 苺大福にシャルロット、ロールケーキ等々、メニューをさらっと眺めるだけでもでも色々な種類の苺スイーツが目に入る。
「どれも全部お洒落だな、勿論皆でシェアして食べよう」
「是非皆で分けましょう」
 斑鳩の提案に、宿利は目を輝かせて微笑み。
「美味しいものは皆で一緒に楽しみましょう」
 志苑も同意するように頷けば、蓮はそれなら皆と違うものをとメニューを広げた。
「私達、いつも美味しいものをシェアしてるね」
 その方がもっと素敵な時間になることを、知っているからこそ。
 王道の苺ショートに決めた斑鳩の傍らで、蓮は苺の粒とクリームが包まれた抹茶のロールケーキを。
 志苑は苺のシャルロットを選び、宿利は苺大福が食べたいと手を挙げて。
「シオンとシュクリは苺が好きなんだね?」
 幸せそうに食べる様子を見て何気なく問う斑鳩に、志苑も宿利も大好きと揃いの笑みを浮かべてみせる。
 皆で分け合う幸せの味に舌鼓。これも苺に合うのだという発見から、友と語らい楽しむ美味しい時間。
 それはとても贅沢で幸せで、先の戦闘の疲れも知らぬ間に癒えるほど。
 外の気温も、纏う空気もあたたかくて――四人は心ゆくまで春の幸せを噛み締めた。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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