立体交差『東船場ジャンクション』

作者:荒雲ニンザ

 大阪城を遠巻きに、謎の花粉のようなものが風に流されていく。
 それらは街の片隅に植えられた街路樹に漂着する。
 すると今まで静かであった木々は突然体をうねらせ、土に深くはっていた根を外に出して歩き始めたのである。
 同時に、身の丈にあった体のサイズはみるみる膨れ上がり、異様と呼べる大きさにまでなると、狂気となった葉や枝を振り回し始めた。
 当然町には人々が生活しているわけで、巨大化した植物たちを前に悲鳴をあげて逃げ惑う。
 その場で命を奪われた市民の鮮やかな血が、乾いたアスファルトに染み込んでいった。

 集まった皆を前に、言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が詳細を読み始める。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようでございます」
 攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしている様子だ。
「おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのでしょう。大規模な侵攻ではないようですが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまう可能性が高いようです。それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければなりません」

 今回現れる敵はケヤキの攻性植物で、謎の胞子によって複数の攻性植物が一度に誕生し、市街地で暴れだそうとしているという。
「この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとするため、とても危険な状態となっております」
 敵の数は多いが、幸いにも別行動すること無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないので対処は難しくないという。
「しかし数の多さは脅威でございます。同じ植物から生まれた攻性植物であるからなのか、互いに連携もしっかりしているので、油断をしていては痛い目にあいますぞ」

 敵はケヤキの攻性植物5体。
 個体差はなく、リーダーも存在しない。
 サイズは細い枝まで含めても7メートル程度のものだが、その長さから繰り出される強いしなりはかなり危険だという。
「戦闘場所なのですが、東船場ジャンクションの入り組んだややこしい所でして……」
 東船場ジャンクションとは、大阪府大阪市中央区にある、立体交差したジャンクションのことで、阪神高速道路1号環状線の南行きと、13号東大阪線が交差するポイントとなっている。
 三つ編みのように織り込まれた高速は上下左右に分岐しており、敵は高身長でそのジャンクションを渡り歩くことができるという。
「高低差が激しい戦いになるかとは思いますが、逆を言えば、地の利を活かして攻撃すれば、華麗に技を決められるかもしれませんぞ」
 7本に別れた立体高速、下には一般道が2本。臨機応変に立ち回り、戦いに活かして欲しい。

 万寿は資料を閉じる。
「一般人の方々は事前に避難させることができますので、戦闘に集中して下さいませ。周辺にビルはございますが、高速道路7本分の幅はかなり広いので、思い切り戦って頂いて大丈夫でございます」
 さあ、攻性植物のもくろみを阻止するべく、がんばろう。
「では、いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」


参加者
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
クルーアル・フローラル(其の掌は何を攫む・e25724)
カザハ・ストームブリンガー(嵐を齋す者・e31733)

■リプレイ

●7本の道
 東船場ジャンクション上空。
 ヘリオンから7本の高速、2本の一般道を見下ろし、そこに群がる5体の攻性植物がしなやかに動き回っているのを確認した鏡月・空(蜃気楼だけが見えている・e04902)は深く唸った。
「今回は場所が場所だけにややこしいですね」
 ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)もそれを受けて一言。
「高低差がすごいな……。そういった足場には慣れてないが。さて、どう出ようか」
 長く延びる高速、大きく動き回れる移動手段があればさぞかし便利であったろうが、いかんせん相手は攻性植物、ケルベロス以外の力でどうこうできるものではない。キュッとヒップをあげたスタイル抜群のバイクをここに置いていくしかないカザハ・ストームブリンガー(嵐を齋す者・e31733)は、残念そうにそのボディを撫でてやった。
「あうう、やっぱライドキャリバーじゃないと耐えられないか……」
 天下の有名バイク様。サーヴァントじゃない良さというものはあるが、ここはグッと涙を呑んで戦いに向かうこととなった。
 上から直に見ると、その構造がよく分かる。潮風の方向や、ビルからの強風、曲がる方向やどこに柱があるか、それらも含めた地形の構造を嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)が把握しながら合理的なポイントをすりあわせた。
「被害は勿論だが、これ以上勢力圏を拡げさせるわけにはいかねえな」
 ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)がヘリオンの扉に手をかける。
「邪魔なモンは無いっつー点じゃァ、連中がココに現れたのはありがたい話だぜ。それじゃ、気兼ねなくやらせて貰うとしますかね!」
 言うや敵の群れ目がけて奇襲で落下を始めると、皆もそれに続いて飛び降りた。
 クロスした高速道路の上下に、絡みつくようにして仲間同士を繋ぎあっていたケヤキのそのつなぎ目を狙い、針を刺すように蹴りを入れると、奴らはバラバラと落下した後、根を忙しなく動かしてこちらに意識を向けてきた。
 どちらが顔かは分からない。樹洞が口のようにも見えたが、それが前かは定かではない。ポッカリ空いたウロを見て、鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)が釣られてあくびをする。
「あんたたちも、春の陽気に誘われて元気になっちゃったのかしらね? 生憎とわたしは五月病で眠たくって仕方がなくって……」
 構えることもなく、眠そうにぼんやりしている彼女にケヤキの枝だがしなりを向ける。その瞬間、纏の身がその場から消えるように跳躍し、めまぐるしいほどの混戦が始まった。
「目が覚める様なスリルを頂戴!」

●5体のケヤキ
 リーチの長い腕はまるで太いムチのようで、地面にたたきつけられればその振動が風にも伝わってくる。
 敵は5体。各々が幹をうねらせ、お互いを枝で拘束し、こちらの退路を塞ごうと強引に攻撃をしかけてきた。
 とにもかくにも、数は厄介だ。まずは1体ずつ確実に仕留めなければ。
 纏が目の前にからまる枝と枝をレガリアスサイクロンで振り払い、放れたその片方目がけてギルフォードが雷刃突を叩き入れる。ふらついた足下を空のスターゲイザーがすくい上げ、ダレンが間髪入れずに雷刃突を重ねると、ボコンと大きな音と共にケヤキの幹が陥没したのが見えた。
 次に見えたのは、その穴の中から沸いて出た太い木の枝。近距離にいたダレンが体勢を整えられずに食らいそうになる直前、九十九折・かだん(スプリガン・e18614)がそれを受け止めて大きく横へとなぎ倒した。
 その背後からヒュウと口笛が一つ。
「危ね」
 かだんに礼を言おうとした時だ、4本のケヤキは倒れた1本に呼応するように、大木を叩いたようなコーンという妙な音を立て始め、地面に接する体の一部を大地に融合しはじめると、その場を浸食しながら広い範囲に向けて攻撃を放ってきたのである。
「まずいぞおおお……!?」
 かだんの悲鳴にも似た声で、クルーアル・フローラル(其の掌は何を攫む・e25724)も皆の前へと飛び出して構えた。
「耐えてみせますわ……!」
 アスファルトをめくりながら猛突進してくる4体分の根がケルベロス達の周辺を取り囲み、そのまま上へと突き上げる。
「キャアア!」
「くっ……!!」
 砂煙が立ちこめるのを利用して、各々が隣の高速道路へと飛び退いた。
「お…………ぉ……」
「大丈夫か!?」
 痛みを耐えて両腕をさすりながら飛び跳ねるかだんに陽治が駆け寄ると、同じく肩を押さえているクルーアルが言った。
「……個体の能力は然程でもないようですわ……ただ、連携されると……」
 今は前にいたかだんめがけて攻撃をしかけてきたようだが、この根の範囲は恐ろしくある。体力の少ない者がターゲットにされれば、一気にもっていかれてしまうだろう。ついでに、足場が崩れて土煙が上がり、お互いの場所が分からなくなれば、仲間を攻撃して命をとってしまうこともあり得る。その最悪だけは避けなくては。
 陽治が口を開く。
「出来るだけ仲間の姿や全体を見渡せる位置取りを意識した方がいいな……。サポートは徹底してやる。思い切り行ってくれて構わないからな」
 かだんも憤慨した様子でヘラジカさながら鼻から大きく息を吐き出した。
「そうくるなら、こっちだって考えがあんぜ……!」
 自らに宿した攻性植物が聖なる輝きを放ち始め、仲間と共に黄金の果実の恩恵を受けると彼女は満足したように歯を見せた。
 続いて陽治も紙兵を大量散布し、その時がこないようにと備えに入る。
 その後ドーンと振動が5回続き、目に鮮やかな緑がざわざわと葉を落しながらこちらに歩いてくるのが見えた。
 カザハは小気味よくフンと鼻を鳴らすして頭上を指差す。
「今愛車は空の上でお留守番だけどね、私にはコイツもあんだぜ?」
 それからその指を下に向け、コツンとフェアリーブーツのかかとを鳴らした。

●連携崩し
 ケヤキが歩く度に高速道路が軋んでいるのが分かる。隣の道路は先ほどの攻撃で崩れている部分があり、うかつに移動するのは危険だ。落ちたところで一般道があるが、その上からたたみかけられるのはちと痛い。できればこちらが上から封をしてしまいたいというのが本音。
 2本のケヤキが枝を振り回してやってきたのをカザハはくぐり抜けて避け、車道ギリギリで滑るバイクを立て直すような姿勢で身を起こし、一言を吐き出した。
「どこ見てんだ、こっちだよ!」
 その彼女の細い身体を追って枝を横に払うが、もう1本のケヤキの分かれた枝にジャマされる。その枝にカザハは着地すると、フェアリーブーツを大きく天に向けた。
「纏めてかかって来い、木偶の坊ども!」
 その鋭い一撃を食らい、2本はお互いぶつかり合ってからぐるぐると回って方向を見失う。
「……逃げんじゃねーよ! くたばるまで遊ぼうぜ!」
 その声に意識を向けたが、ドラゴニアンの張りのある羽根を広げたクルーアルが、手を伸ばしたカザハの身をさらって一つ上の高速へと飛び移った。
「さあ、おいでなさいな」
 クスクスと耳障りな嘲笑をもう1本のケヤキに向け、小指から静かに手を握って呼び寄せる。
 意識を離した2本を視野の端にいれ、纏が他の1本の間合いに飛び込んだ。そのケヤキは中心を軸に回転をし、纏を近づけまいと枝を伸ばす。咄嗟にオラトリオの羽根を広げて急ブレーキをかけ、旋回しながらそれを避けた。
 そしてケヤキが彼女を見失った瞬間、高速の柱を蹴って角度を変えると、その範囲にいるケヤキ目がけてレガリアスサイクロンをたたき込んだ。
 1体は幹を中心から砕いてアスファルトに沈み、強烈な一撃を食らった2本は大きくしなりを作って衝撃に耐えている。
 その隙を見逃すわけがもなく、間髪入れずにギルフォードが片方のケヤキの傷を広げようと絶空斬を繰り出した。
 ケヤキは一太刀を食らった後、ギ、ギギと動きが止まったように見えたが、次の瞬間に足場を激しく根で崩し始めた。
 その場にいたギルフォードは咄嗟に飛び退いたが、敵の間合いからは逃れられない。
「危ない!!」
 空が飛び込んでシュトルムスラッシャーを横一文字に振り切ったが、それは目の前に現れたもう1本のケヤキの太い枝を切り落として終わった。彼自身ここにとどまることは出来ず、舌打ちを一つ置いてから崩れる足場を飛び退く。柱を蹴り上げて距離を置くと、視線の先には、伸びる根に追われるギルフォードが。
 ギルフォードは目に入った鉄のガードレールに鞘を立てて体勢を変える。だがそのまま根は止まることなく、ガードレールごと彼を高速下に流れる川へと突き落とした。
「ギルフォード!!」
 とは言え、攻撃の手を止める訳にもいかない。敵の意識は落下したギルフォードに向いたまま。チャンスは確実にモノにしなければ。
「チッ……!」
 ダレンが一気に間合いを詰め、根を蹴り上げて敵の頭上をとった。重力が彼を引き寄せて地にキスをねだる間、リボルバーが幾度とケヤキの脳天を撃ち砕き、その1体を川へ落下させた。
「フッ……今のは決まり過ぎたぜ……!」
 自画自賛をしているダレンの視界に、ケヤキと入れ違いに現れたギルフォードの姿が映る。
 ギルフォードは何もない場所で空気を蹴って飛躍し、ギリギリのところで壊れたガードレールに手をかけた。
 気心知れた友人からのプレゼントを見つめ、ダブルジャンプの恩恵を与えてくれた戦闘靴に礼を言う。
「……とんだお節介な奴だな。まあ、悪い気はしないが」
「無事か? ったく、一瞬マジで焦ったぜ」
 頭上からダレンの乾いた笑い声が聞こえた時だ、陽治の叫びがそれをかき消した。
「後ろだ!!」
 振り返ろうとした視線の端、まだ1本残ったケヤキが根を張ってこちらに突撃しようと構えているのが見えた。
 咄嗟にかだんが身構える。
「お願い」
 陽治に視線で合図すると、隣向こうにある高速に向けた。足場の悪い割れた道路を飛び越えて対岸にいこうというのだろう、陽治は察すると両手を組んで身を低くする。
 かだんの足がその中心にかかり、力を下に向けてためはじめたと同時、陽治はめいっぱい腕を振り上げた。
「いけえええ!」
 大きくかだんが宙を舞い、そのまま勢いよく着地すると共に道路にめり込み、角でアスファルトをめくり上げながら身を起こす。
「ああああ!!」
 巨大な王者が雪の中を走るすさまじい勢いのごとく、周囲を巻き込んだ猛烈なタックルはケヤキを砕いてその場で真っ二つに引き裂いた。

●破壊停止
「あと2体……!」
 数が少なくなれば個体の脅威も然程ではない。陽治はウィッチオペレーションでギルフォードを回復した後、一つ上の高速で敵の意識を惹いている二人に視線を向けた。
 一区切りつけた6人がこちらに向かっているのを確認し、カザハが攻撃の手を変える。グラビティブレイクで力技に入り、敵の間合いを詰め始めた。
 ケヤキは身を引いて一撃を飛び退いたが、その隙にクルーアルが入り込む。彼女がアイスエイジインパクトを放つと、敵は更に後方に移動した。
 そこで追いついた纏が背後から三鎧流纏をたたき込む。
「こう見えて、噛むし刺すのよ、わたし」
 その強烈な一撃で片方のケヤキの幹に穴を開けたところを、先ほどのお返しとばかりにギルフォードが雷刃突で終わりにした。
 残った最後の1本を空が見つめる。相手はすでに体力を削られて細っていたが、こちらへの敵意はむき出しであった。
「慈悲は要らないようで」
 その言葉のすぐ後、蹴り飛ばされ、吹き飛んだところをまた蹴落とされ、業滅覇龍撃がケヤキを加工し終わると、ふうと一息ついた空とすれ違ったダレンが、人差し指で廃材となったケヤキを地面に横わらせた。

 陽治が清々しいといった顔で壊れた高速道路を眺めている。
「しかし、ハデに暴れたもんだ」
 ヒールで修復できるとはいえ、一部が破損して川へ落下するほど激しい戦闘だったのだ。よく倒壊しなかったものだと、日本の道路建築技術に拍手をおくりたい気分であった。
 そのあたりを重点的にギルフォードがヒールをかけていると、横でカザハが跳び回る。
「中々いいジャンクションだったぜ! 今度ウチの子つれてこよっと」
 ケヤキの死骸を確認しているクルーアルに気がつき、陽治が声をかけた。
「どうした?」
「……何か情報が得られないか探ってみたのですが、手がかりなし……といったところですわね」
 二人が風で飛んでいく消し炭を見つめていると、ダレンが話に入り込んできた。
「しっかしまァ……連中、最近は大人しくしててくれると思ってたンだがなぁ……」
 陽治も静かに頷く。
「此処に来て突然攻勢に出るとは、向こうも何かしら水面下で動いてたって事かねえ」
「鳥野郎が一旦片付いたと思ったら、また忙しくなりそーだぜ……」
「ま何であれ、好き勝手にさせるわけにはいかないよな」
「早く元を断たねばなりませんわね」
 クルーアルの一言に、皆が顔を上げる。
 この戦いには勝ったが、まだまだ争いは続いていくのだ。
 複雑に重なって7本に分かれた道の先が、それぞれの未来に続いているようで、かすんで見えない先に各々が視線を置いていた。
 だが全ての道は繋がっている。
 繋げてみせると、彼らは思っていた。

作者:荒雲ニンザ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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