「鎌倉奪還戦と同時にドラゴン勢力が、三浦半島南部の城ヶ島を制圧し拠点を作っていたのは知られていたことだけど」
和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)が自慢のしっぽを一振りした。
「ボクの調査によれば、城ヶ島の外にでてきたドラゴンは、ケルベロスによって撃退された為、現在は守りを固めながら、配下のオークや竜牙兵、ドラグナー達による事件を引き起こしているみたいだよ」
傍らにいた黒瀬・ダンテが頷く。
「城ヶ島は多数のドラゴンが生息する拠点だったんで、今まで攻略ができなかったんすが……ケルベロスの皆さんの作戦提案によって強行調査が行われることになったっす」
ごくり、と誰かが息を呑んだ。
「城ヶ島を正面から攻略するのは、ぶっちゃけ無理っす。なんで、小規模の舞台を多方面から侵入させて、その中の1部隊でもいいんで状況を調査してくることが必要になるっす」
城ヶ島のドラゴンたちの戦力や拠点の情報が判明すれば、攻略作戦を立案することがかのうになるという。そのための布石だ。
「城ヶ島への潜入方法は皆さんにお任せっすが、さすがに空からヘリオンを飛ばして潜入するのは一発でドラゴンにバレるんで不可能っす。三浦半島南部まで移動した後は、皆さんが立てた作戦に従って潜入して欲しいっす」
ヘリオンは無理だが、小型の船や潜水服、水陸両用車程度なら用意できるから必要なら申請して欲しい、とダンテは付け足した。
「敵に発見された場合は、十中八九、ドラゴンとの戦闘になるっす。1回は勝てるかもしれないっすが、なんせ敵の拠点っすから、すぐ他のドラゴンがやってきて、それ以上の調査はできなくなるっす」
もし戦闘になった場合には、できるだけ敵の目を引き付けるように戦い、他の調査班が見付からないようにするというような援護も重要になるだろう。
「場合によってはドラゴンと戦うことになるんで、危険な任務になるっす。万が一戦闘になる場合には、避けて撤退したほうがいい局面もあると思うんで、余力があるうちに安全圏まで逃げ延びて撤退して欲しいっす。……引き際をまちがえば、最悪の事態にもなりかねないっすから」
神妙な面持ちで言うダンテの表情からは、ケルベロスたちを気遣う色が見て取れた。
参加者 | |
---|---|
和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041) |
ユーリー・マニャーキン(風籟のアナスタシア・e00062) |
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
早門瀬・リカ(星影のイリュージョニスト・e00339) |
アーシェス・スプリングフィール(よんじゅうきゅうさいじの司祭・e00799) |
燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184) |
不忍・辛(螺旋忍者・e04642) |
アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528) |
●緊張感
小さなボートに乗り込んだケルベロスたちが目指すのは城ヶ島の南東、安房崎付近だ。
ドラゴンたちの巣窟となっている城ヶ島への侵入、偵察が今回の任務。船内では緊張感に包まれている。
8人のうちの何人かは、慌ただしく通信を行っていた。
今回の作戦は1隊だけで行われるのではない。1つの目的のために多くの部隊が出動し、部隊同士の連携による成果が問われる。
大掛かりな作戦だ。失敗は許されない、と各自気負っていた。
「……橋のほうは正面にいるドラゴンを引きつけるってよ」
城ヶ島大橋方面の攻略を買って出た他の部隊とのアイズフォンでの通信を切ったのは燦射院・亞狼(日輪の魔壊機士・e02184)。
「工場方面は陽動作戦開始だそうです」
「西側にいくべつの部隊も、展開をはじめました」
アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)も、それぞれ別働隊との連絡を切ると仲間たちに伝える。
「ボクたちも気合いを入れないとね」
今回の城ヶ島攻略への提案者のひとりである和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)の言葉に、早門瀬・リカ(星影のイリュージョニスト・e00339)とユーリー・マニャーキン(風籟のアナスタシア・e00062)、アーシェス・スプリングフィール(よんじゅうきゅうさいじの司祭・e00799)が頷く。
ボートの端から航跡のように紫煙が伸びてゆく。紫煙の消える端を目を眇めて見つめて、風下で煙草を吸っている不忍・辛(螺旋忍者・e04642)は気を落ち着かせようとしているようだった。
ボートに身を低くして体を寄せ合っているのは、少しでも敵の目をかいくぐろうとしてのこと。海竜たちは別部隊の者たちが引きつけてくれるからと、ボートを選んだ。途中で海に潜ることも考えて、全員が潜水服を身につけている。
足並みを揃えた作戦の展開。先の鎌倉の大戦とはまた違う緊張感。
(「ドラゴンたちは城ヶ島を拠点に、何をしようとしているのかな」)
流麗の問いに答えるものは、今はいない。この調査によって判明するかもしれない。できれば交戦せずに城ヶ島へ到着できるのが一番だが、誰にもどうなるのかは予測ができなかった。
「あれは、鳥か?」
ボートから身を乗り出したアーシェスの問いに、亞狼と辛がそれぞれが双眼鏡を覗きこみ、首を横に振る。
「いや……違うな」
「ありゃあ、ドラゴンだ」
ユーリーが目を丸くした。
「ドラゴン? 鳥に見えるよ」
「距離があるからそう見える」
「鳥とはデカさが違う。……それに尻尾もあるしな」
とはいえ、遠くからは島にたかる多数の鳥のように見えないこともない。
鳥、もといドラゴンたちは島から離れようとせず、島の周囲を旋回している。交代で飛んでいるのかどうかはわからないが、今見えているだけでも結構な数に見えた。
そうしてドラゴンたちを観察していた辛が呟く。
「……島の東側に飛んでるドラゴンの数が多いな」
「ありゃあ……白龍神社か、安房崎のあたりか?」
亞狼の言葉を受けて、流麗が目をこらす。双眼鏡がないからはっきりとは見えないが、黒い塊が飛んでいるのは見えた。
「それに比べれば、橋のほうはあまりいないように見えるね」
「ということは……」
リカが一同をぐるりと見回した。
「島の東側に、やつらにとって重要なものがあるということじゃな?」
「ぼくもそうおもう」
アーシェスと勇名が頷き合う。異を唱える者はいない。何しろ旋回しているドラゴンの数が圧倒的に違うのだ。アゼルとユーリーも頷く。
ボートが島へ少しずつ近付くたび、島から目が離せず、釘付けになる。
「……潜ったほうがいいかもしれないね」
リカの呟きの語尾を奪うように勇名が口を開いた。
「まずい」
「どうしたの?」
「きづかれた、危ない」
ちっとも焦ったようには見えないから一同の間に一瞬の間が空いたが、すぐさま全員が一斉に正面を見る。雁行陣を敷いているように飛んでくるのが鳥ではないと、その大きさから理解した。
潜ろうとするよりドラゴンの襲来のほうが早いのは明らかだ。
辛の指先が冷える。だが今はひとりではない。
「4、5……8、9……まずいな、10以上いるぞ」
亞狼が吐き捨てるように言う。流麗が勇名を振り返った。離れたところに別の部隊もぽつんと見える。どちらかの部隊へ、というよりはどちらにもドラゴンは襲いかかってくるように見えた。
「今飛び込んだら、海底を進んでる部隊も見つかっちゃうよ!」
流麗の言葉に素早く反応したのはユーリーだ。
「ボート、転回させるよ。捕まって!」
アーシェスがボートの遠心力に負けないよう、へりに捕まりながら背後を振り返る。
「作戦を陽動に変更じゃな!」
「てったいですね」
推進力があるボートをすぐに方向転換させるのは難しい。その間にも海上を同じように進む別の部隊とは離れた場所へ向かうことを決める。同じ場所へ向かっても分があるとは思えないからだ。それに、分散したほうが城ヶ島からドラゴンを多く引き離せるはず。
全員が武器を手に取っていた。
●戦闘開始
「……ずいぶんたくさんおいでなすったもんだ」
戦闘態勢に入った亞狼の呟きは剣呑だ。
こちらを取り巻くドラゴンの数は5体以上はいる。7、いや8体だ。
おまけにドラゴンたちが飛行している以上、至近距離用の攻撃方法は使えない。攻撃方法が狭められてしまったが、手だてがないわけではなかった。
考えている暇はない。ドラゴンがその大きな口を開いた。来る!
毒のブレスは前衛を狙うかと思ったのに、狙われたのは後衛だった。
「きゃあああっ」
「くっ……!」
「ああっ」
後衛の3人、流麗、ユーリー、アーシェスにダメージ。回復役を狙うとはいい度胸だ。
それを横目に、辛が苦い顔でドラゴンの1体にサイコフォースで攻撃。
「喰らえっ!」
同時に先ほどまでとは違い、表情を削ぎ落とした亞狼の背後に黒い日輪が浮かび──ドラゴンに熱波が襲いかかる。
「ガアアアッ!」
「ぁ? 文句あんのかよ」
続けざまの攻撃をするタイミングを計っていると、今度は前衛がドラゴンのブレスを受ける。
「くっ、今度はこっちか?!」
背後から襲いかかろうとするドラゴンに、アーシェスが『【隠者】の足音』を咄嗟に繰り出し、不可視の神霊によりドラゴンの足や腹を切り裂く。
先に使おうと思っていた【黄金の融合竜】だと、これ以上のドラゴンを招きかねない。さすがにそこまでやってしまうとこちらの身が危ないと判断して切り替えたのだ。
「我が呼び出すは虚なる雷の獣」
ドラゴンのブレスをかろうじて避けたリカが雷をまとった巨大な獣を呼び出そうと詠唱する。
「目の前の敵を噛み砕け!」
動き回るドラゴンの1体──先ほど亞狼が攻撃した個体──に幻獣の牙が突き立つ!
さらに同じドラゴンへ、ユーリーがリカの攻撃にかぶせるように攻撃を与えようと口を開いた。
「純真無垢な弾丸はアナタの胸に一直線! 届け、私のドキドキ!」
アームドフォートから放たれるのは真紅の弾丸。真っ直ぐとドラゴンの下腹に命中した。
「ゴアアアアアッ」
別のドラゴンが割って入り、またブレスを吐き出して列ごと焼いてくる。
「回復が追いつかないよ……!」
苦しい表情で流麗がヒールドローンで前衛の者たちを癒す。ドラゴンの烈火のごとき攻撃の前では焼け石に水のように思えたが、かといって癒しの手を止めるわけにはいかない。
各自の回復にも期待しつつ、アゼルがガトリングガンからバレットストームを放つ。
真っ向から勝負して、8体のドラゴンに勝てる見込みは薄い。せめてバッドステータスをばらまき、ドラゴンたちの動きを鈍らせることができれば、突破の糸口も掴めるかもしれない。
勇名がフォーレストキヤノンを放つ。ヒット。ドラゴンへダメージ。
だがその間にも、仲間たちへドラゴンの攻撃が緩むことはない。
膠着状態、より事態は重い。なにしろ力の差が歴然だからだ。
●作戦終了
暴走することも厭わず、今がその時かと考えていた者もいたが、この狭いボートの上で暴走するとなると、敵の1体は倒せるだろうが8体もいるドラゴンのすべてを打ち倒すことは難しい。
そうなると、ひたすら『逃げる』以外の手段は見つからない。そして小さなボートがいつまでもつかもわからない。
悩んでいる暇はない──!
「飛び込んで!」
流麗が大声で言うや、海の中へと素早く飛び込んだ。翼で飛行すればドラゴンのいい的になる。わずかの間にそこまで考えてのことだ。
仲間たちも次々と海中へ飛び込んでいく。全員が潜水服を着込んでいたのが奏功し、溺れる者はいないはずだ。
深く、深く、ドラゴンの爪やブレスが届かないところまで。
城ヶ島からはすでにかなり離れている。海竜がいたとしても、こんな離れた場所まで回遊しているはずはない、などと考えている余裕もなかった。
無我夢中で潜り、潜る前に咄嗟でゴーグルをつけていた亞狼が海面を見上げる。ボートが木っ端微塵に砕けているのが見えた。
もし、あの場にとどまっていたら。ボートと命運をともにしたかもしれない。
せめて地上の勝負だったら暴走できたのに、とリカやアーシェス、勇名、ユーリー、流麗がくちびるを噛む。とはいえ、そこまでしても無事に勝利できたかどうかは誰にもわからない。
おそらく、安房崎のあたりは敵の要所だった。
そのため敵の主力がそこに集結していて、安房崎を直接海上から目指していた部隊に攻撃が集中したのだろう。かといって海中から、といっても、目的地が安房崎である以上、そこも同様だった可能性は充分ある。
だが、引きつけられたドラゴンの数は8。充分な数を島から離し、囮の陽動作戦としては充分な成功だ。
後は、他の部隊が巧く潜入調査を達成してくれていればいい──。
できれば1体くらいは倒しておきたかったが、今は命があることに感謝するしかない。命さえあれば、次の機会に今日の借りをドラゴンへ返すこともできるだろう。
ドラゴンたちとの戦闘場所から離れた場所に浮上すると漁船が見えた。城ヶ島のほうが騒がしいと様子を見に来たのかもしれない。
「ついでに助けてもらっちゃおう!」
ユーリーの言葉に頷くと、ケルベロスたちは今だけはと城ヶ島から目を離し、漁船に手を振った──。
作者:緒方蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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