潜入工作機『ミゴ』は静かに忍び寄る

作者:青葉桂都

●途切れた音色
 倉庫が立ち並ぶ一角で、静かな曲が響いていた。
 廃材に座り、眠たそうな顔をしてハーモニカを吹いているのは、小柄なレプリカントだ。
 ゆったりとした白い服には様々な色をしたリボンがたくさん巻き付いていて、時折吹き抜ける風でかすかに揺れていた。
 規則正しいリズムで響くハーモニカの音色はどこか機械の駆動音を想起させるが、もし聞く者がいたならばその規則性を心地よいと感じたたことだろう。
 もっとも、残念ながらその場にいたのはアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058) だけで、誰も聞いている様子はなかったが。
 強い風が吹いた。
 くせっ毛が大きく揺れる。
 ふと、顔を上げたアトは近くの建物の陰から誰かが出てくるのに気づいた。
「あなたは……?」
 伸縮性の高そうなワンピースの上から、白衣を着ている女性。
 眠たげな瞳が、どこかアトと似た雰囲気をたたえていたかもしれない。
 彼女がただの人間でないことは、一目で見て取れた。
 左手首についている金属製の腕輪からアームが伸びており、それぞれの手には工具や手術道具らしきものがつながっているようだ。
 さらにその手には鋭いメスも握られていた。
「わざわざ音を発して自分の居場所を知らせる……理解できない行動です。こちらにとっては都合のいいことですが」
 空いているほうの手で、彼女は胸元にあるチャックを下ろしながら近づいてくる。
 体の中はがらんどうになっていて……まるで、ダモクレスの心を示しているかのようだ。
「さあ、解体して、回収させてもらいますよ……」
 アームが一気に伸び、アトへと襲いかかってきた。

●救援要請
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はデウスエクスによるケルベロス襲撃を予知したと伝えた。
「襲われるのはアト・タウィルさんです。1人で演奏していたところを、潜入工作機:コードネーム『ミゴ』と呼称されるダモクレスに狙われてしまうようです」
 急いで連絡を取ろうとしたが、残念ながらアトとは連絡が取れなかった。
「一刻の猶予もない状態です。皆さん、すぐにタウィルさんの救援に向かってください」
 よろしくお願いしますと、へリオライダーは言った。
 ミゴがアトを襲撃するのは、倉庫が立ち並ぶ一角らしい。
 周囲に人影はまったくない状態だ。
 潜入工作機と呼ばれているだけあって敵は人間と変わらない外見をしているようだが、敵が人に紛れるといったこともできないので安心していい。
「敵は、腕から伸びるアームについた手術道具を用いて攻撃してきます」
 アームは遠距離まで伸ばすことができるようだ。また、その攻撃によって体組織を奪い、自身を治癒することもできるという。
 攻撃を伴わなくとも、自分自身に手術をほどこし不利な状態を回復することもできる。
 鋭いメスによる攻撃を行うこともできる。急所を的確に狙って繰り出されるメスは強力で、しかも治りにくい傷を負わされてしまうらしい。
「ミゴは殺した相手を解体して持ち去るようです。もっとも、タウィルさんの体が目当てだとしても、その目的はわかりませんが……」
 少なくとも、放置しておけないのは、間違いのないことだ。


参加者
隠・キカ(輝る翳・e03014)
皇・絶華(影月・e04491)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)

■リプレイ

●対峙する者たち
 倉庫の片隅で、どこか似た姿を持つ2人の女性が対峙していた。
「ふむ……私の後継機、ということですか。人を攫うには、優秀そうな姿ですね」
 アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)の言葉に、ミゴは淡々とした声で応じる。
「機能面において、私が貴女より勝っていることは事実です。おとなしく、回収されていただきますよ」
「そのつもりはありません。……ここに出てきたのなら好都合です、きっちり倒しておきましょう」
 ミゴがメスを手に接近してくる。
 だが、手術用としては切れすぎるほどの切れ味を持つ刃が切り裂いたのは、機械の体を持つ大柄なレプリカントだった。
 ほぼ全身が機械そのものといった姿を持つ男の体を、メスが深々と切り裂く。
「アトは殺らせん。SYSTEM COMBAT MODE」
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は自らの傷にひるむことなく、ミゴへと宣言してみせる。
「ENGAGE.対象、ロッキング。全センサ、戦闘出力……」
 放熱用のフィンを背に広げた櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)がマークの隣に並ぶ。
 殺風景な倉庫街を他の仲間たちが駆けてきた。
「アト、だいじょうぶ? みんなで助けに来たよ。アトが、あの子とさよならするために」
 たどたどしい口調で語りかけてくるのは、隠・キカ(輝る翳・e03014)だった。
 白金の髪を持つレプリカントの少女は、玩具のロボットを抱えてアトに駆け寄る。
「まだ無事なようだな。間に合ったようでなによりだ」
 暗色のドレスに身を包んだ天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)は、負傷していないことを確かめると、敵のほうへと視線を向けた。
 ケルベロスが増えたことに対して、ミゴはなんらの感情も見せていない。
「人を回収し攫うとは良い趣味をしている。データ解析か? それとも地球人を知りたいという探求か?」
 皇・絶華(影月・e04491)の問いにも、ただ虚ろな目を向けるのみ。
「――答える筈もないか。……兄弟同士の殺し合いは……少しだけ悲しいな」
 黄金の柄を持つ宝剣を背から抜き、絶華は油断なく身構えた。
「潜入工作機っすか。ってことは何かを探っているんすかね」
 撫子柄の千早を身にまとって、神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)が疑問符を口にする。
「アトさんの後継機っすか。潜入工作機ならアトさんに起きた変化を調べに来たのかもしれないっすね」
 応じたのは、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)だ。
「以前、レプリカントに化けて潜伏していたのをもっと精度を上げようとしているかもしれないっす。あるいはケルベロスとしての?」
 黒革のジャンパーを着た青年の予想が果たして当たっているのかどうか。
「まぁ、そんなことは今はどうでも良いっすね。緋色蜂として、同胞に危害を加える相手にぶっとい針を刺しにきたっすよ」
「そうっすね。何が目的かは知らないっすけど、情報をくれてやる必要はないっす。きっちりとここで仕留めないといけないっすね」
 ミゴとアトの間に割り込みながら、結里花と佐久弥は言葉を交わす。
 そして、手術道具がくっついたアームをうごめかせる敵へと、ケルベロスたちはいっせいに攻撃をしかけた。

●襲いかかる敵影
 ミゴが飛びのいて、無数のアームを動かし始めた。
 もっとも、最初の攻撃をマークに防がれて、まずは体勢を立て直そうとしている。
 その間にケルベロスたちはまず、アトから敵の注意を引きはがそうとした。
 絶華が敵とアトの間に飛び込む形で、手製のエアシューズによる飛び蹴りを仕掛ける。
「隙だらけです」
 結里花も気弾を放って攻撃している。
 だが、敵の攻撃を積極的に引き付けるのは防衛役の役目だ。
 叔牙は防衛役の3人のうち、最初に敵に攻撃をしかけた。
 フェアリーブーツで高々と跳躍すると、彼の背中から広がるフィンが、あたかも翼のように見えた。
「姉妹機との、邂逅。ですか……。ケルベロスに、なっていたなら。むしろ、歓迎なのですが……」
 ミゴの視線はアトに向けられているように見えた。
「悪いですが……そう、簡単には……抜かせません」
 虹の輝きをまとって叔牙はミゴへと降下する。
 打撃を与えるとともに、輝きが敵の注意を引く。
 ミゴの目が叔牙を追って上に向けられたところに、佐久弥が巨大な剣を手に接近する。
「アトさんも、それ以外の人も、回収なんてさせないっす」
 家電や屑鉄を鋳溶かして再構成した剣を、彼は豪快に薙ぎ払う。
 二度の打撃を受けたミゴへマークが視線を向けた。
「RED EYE ON」
 機械的な声が告げると、カメラアイの放つ色が、白から赤へと変化する。
 その光は心を持たぬダモクレスの精神にすら作用し、攻撃衝動を増加させていた。
 また、水凪がエクトプラズムで疑似肉体を作り出してアトを強化している。守られているアト本人は、前衛を守る仲間たちを鼓舞する曲を響かせていた。
 キカの狙いすました石化の魔法も、敵を確実にとらえていた。
 3人がかりで挑発され、ミゴの手術道具が前衛へ伸びる。
 その攻撃をしのぎながら、ケルベロスたちは攻撃、あるいは回復を続ける。
 アトは愛用のハーモニカを手にした。
「今の皆さんでいられるよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 吹き鳴らす曲は暗く、どこか単調な響きを持っていた。
 打ち捨てられた機械を表現する調べは、仲間の状態を平常のまま維持する力を持つ。
 ただ、仲間たち以上に、アトはミゴへと意識を向けていた。
 仲間とともに曲を奏でることを楽しんでいる様を、きっとミゴは理解できないだろう。
 ダモクレスとして命令に忠実に動く彼女は、アトのように命令なしで楽しく生きられるなど想像したこともないはずだ。
「それにしても、あなたの方が優秀そうなのに、私をわざわざ狙うとは……何か、理由があるのですか?」
「あなたがそれを知る必要はありません」
 返ってきたのは冷たいだけの言葉だった。
 回収する以上は、なにかの材料に使うつもりだろう。
 パーツ取りのためか、ダモクレスとして改造しなおすつもりなのか。
 仮にミゴが誰かの命令で動いているとしたら、彼女も目的を知らない可能性すらある。 いずれにせよ、確認することはできそうもない。
「お前は音楽は好きか? 私は嫌いではない。時に音には心が宿る事もある」
 絶華の更なる問いかけにも、ミゴは応じることはなかった。
 想いを込めて、アトはまたハーモニカを吹き続けた。
 こちらを傷つけるとともに自身を回復しながら戦うミゴを倒しきるのは容易でない。
 しかも、時に自ら手術を施して回復もしてみせる。
「あなたも、おねえさんみたいに心を持てたかもしれないね。きっとその力も、だれかをきずつけるだけじゃなくて、だれかを助けることができたんだよ」
 自らを癒す様を見て、キカが逆に悲しそうな顔をした。
「敵はおそらくジャマーだな。こちらの回復を阻害し、自分を回復することに注力しているようだ」
 氷結の螺旋を放ちながら、敵を観察していた絶華が仲間たちに告げる。
「……姉妹のようなもの、か。たとえどんな者であろうと害を為すのであれば止めるまでだ」
 回復を試みた隙に、水凪がアンクを叩きつけて敵の体を削り取った。
 結里花は前線でそんな敵の体力を削り続けていた。
 彼女の仕事は打撃役としてとにかく敵をガンガン殴っていくことだ。
「デウスエクスの討滅は神宮寺の巫女としての仕事。きっちりと潰して。巫女としての務めを果たします」
 戦闘が始まってからの彼女は、普段とはしゃべり方が変わっている。
 身にまとう霊力は、雷の羽衣となってはためいていた。
「迅きこと、雷の如く!! はためけ! 雷装天女よ!!」
 オーラはその主に雷速を与えてくれた。
 一瞬にして間近に現れた結里花に、ミゴは反応することができなかった。
 羽衣をまとい、舞うように、しかし激しい連撃が敵へ幾度も命中する。
 大ダメージを受けているはずなのに、敵は無表情なまま戦闘を続けていた。
 3人がかりで敵の注意を引き付けても、すべての攻撃が防衛役へ向かうわけではない。
 時折アトへとそのアームが伸び、小さな体をえぐり取ろうとする。
 佐久弥は銀に輝く鋼球を変化させて、アームについたノコギリを受け止めた。
 さらに伸びてきた注射器を、今度は体で受け止める。肉を吸い上げられる嫌な感覚が、彼の体内を駆け抜ける。
「ちょっときついっすね。けど、誰も倒れさせないっすよ」
 敵の攻撃力は低くはない……が、守りを固めていればまだ耐えきれる。
「俺は捨てられたモノども率いる敗者達の王。この背を見つめるモノがある限り――再起を誓い、不屈を約さん!!」
 ネット越しの関係ではあれど、背後にいるのは大切な友だ。
 守ろうとする気迫が、佐久弥の体を強靭にしてくれる。
 アトが奏でていたハーモニカの記憶も後押ししてくれた。
 陰から飛び出してきた友人が、腕を回転させてミゴの体を削り取る。アトを守れるように、強い意志を込めて佐久弥は彼女を追った。

●砕ける機械
 倉庫での戦いは長く続いていた。
 敵は簡単には倒せなかったが、しかし回復できないダメージは確実にミゴへと蓄積していっている。
 傷だらけになりながら、敵は無表情にケルベロスたちを攻撃し続ける。
「おねえさんをこわすの? あなたには、それしかないのかな」
 キカの問いかけにもミゴは何も答えない。
「ならきぃ達があなたをこわすよ。もうあなたが、だれもきずつけないように」
 自らの遺伝子に眠る母の記憶、破壊の記憶を呼び起こす。
「こわくない、見てて、キキ」
 迷うことなく一気に接近すると、キカは小さな掌を敵に触れさせた。
 ただ、それだけで致命的なほどの衝撃がミゴを貫く。
 ダメージが蓄積しているのはもちろんケルベロス側も同じだ。
 回復が阻害されている上、こちらが与えた効果を解除してくることもある。とはいえ、解除されたならもう一度攻撃をかけるだけだ。
 挑発する3人のうち、マークへとメスが振るわれる。
 マークは断ち切られながらも、手にしたライフルを敵へと突きつける。絶華や結里花の攻撃でずれる敵を追って、銃口を動かした。
 狙いに気づき、避けようとした敵へ叔牙が接近した。
「端子展開、放電開始……Ready Impact!」
 拳の中に電撃を生み出し、彼はそれを敵へと叩きつける。
 金色の瞳が一瞬、マークのカメラアイへと向けられた。
 視線だけで応じると、彼はミゴの動きが止まった瞬間にライフルを微調整し、敵を照星に捉える。
「TARGET IN SIGHT」
 ダモクレスの技術を使用したライフルから放つエネルギー光弾が、ミゴのグラビティを中和し、弱体化させた。
「回復はお願いするっす!」
 佐久弥が叫んだ。両腕をそろえ、2振りの鉄塊剣を1つに合わせる。その腕が激しく回転し、修復された敵の装甲をまた貫き、破った。
「了解した」
 短く応じた水凪が、オーラを溜めてマークを回復してくれた。
「諦める気はないのですね?」
 複雑な響きを帯びてアトが問いかける言葉に、ミゴは答えなかった。彼女はロッドをファミリアに変えて、敵の傷をさらに引き裂かせる。
 攻防はさらに続いた。
「伸びろ、如意御祓棒!」
 結里花の手にした御幣が一気に伸びてミゴを激しく突いた。
「……あと少しだな」
 水凪は敵の負傷状況を確かめ、呟いた。
「できるならば、アト自身に決着をつけてもらいたいところだが」
「うん。きぃもそう思うのよ」
 近くにいたキカが水凪の言葉に同意する。
 少しくらい無理をしてもかまわないと彼女は考えていた。もっとも、その余裕があるかどうかは微妙なところかもしれない。
 癒しの風を巻き起こして、前衛の仲間たちを回復する。
 キカが敵へと飛び込み、重力を込めた蹴りでその足を止めた。
 体力を奪い取り、あるいは回復を試みて、ミゴは猛攻を生き延びていた。
 しかし、長引く戦いの中で一瞬、痺れたようにその動きが止まる。
 絶華はアトへ視線を向けた。
「かまいません。どうか、彼女を倒してください」
 うなづいて、皇家に伝わるカタールを構えた。
 かつて戦った弟の姿が一瞬だけ敵に重なって見えた。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……「窮奇」……開門…! ……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 古代の魔獣の力を身に宿し、狂戦士と化して敵へと襲いかかる。
 強化された身体能力を発揮して、絶華はカタールで爪のごとくミゴを薙ぎ切る。
 鋭さ、強度、そして持ち主……3つの臨界を超えるとされる刃は神速で幾度もダモクレスを切り裂き、彼女を残骸へと変えていた。

●響く鎮魂の調べ
 狂戦士から元に戻った絶華の横に、アトが並んだ。
「……ありがとうございます。自分で倒すのは……少し、気が引けるので」
「そうか」
「心を持たなければ、私も彼女と同じようになっていたでしょうから」
 黙ってうなづき、絶華は宝剣とカタールを収めた。
「無事か?」
 アトのそばに近づいてきたマークが問いかける。
「はい。マークさん、ありがとうございます」
 いつも通りの眠たげな眼を向け、彼女は頭を下げた。
「気にするな。仲間は必ず連れ帰ることにしている。それだけだ」
 告げて、危険がもうないことを確かめる。
 ミゴの体はもう動かない。
「アトさんも、他のみんなも、無事に片付いてよかったっすよ」
 下っ端口調に戻った結里花が言う。
 キカと叔牙は静かにダモクレスへと視線を向けていた。
「……だいじょうぶだよ、キキ。きぃはまだ、こわれたりしない、から」
 少女はしっかりと玩具のロボットを抱きしめる。
 レプリカントの2人には、ダモクレスの死に様に思うところがあるのだろう。
「同系型の、後継機か……僕も。明日は我が身かも、知れない……けれど。今の、僕には……ひとつだけ。生きる理由が……ある」
 誕生日にもらった、大切なお守りのメダリオンをしっかりと握りしめる。
「それが、在り続ける限り。僕は……生き残って、みせる」
 ここにいないその人へ、叔牙は誓う。
「ミゴの遺体は、地獄の炎で焼いておくっすよ」
 インゴットにできれば、アトへ渡してもいいかもしれない。佐久弥はそう考えながら死体へと近づいた。
「遺体の処理以外でも、なにかして欲しいことがあるなら手伝うが」
「いえ……ただ、少しだけ、彼女のために鎮魂の曲を、奏でさせてください」
 水凪の問いに首を横に振ると、アトは愛用のハーモニカを取り出した。
 倉庫街の一角にアトの曲が流れ出す。
 応急処置を終え、戦場を去ろうとしていた絶華は、物悲しい旋律に足を止めた。
(「――この音に宿る心を己は理解できるのだろうか」)
 アトの想いに立ち入ることはできないが……そのことが、少しだけ気になった。
 ダモクレスとして死んだ者が得られなかった心は、風に乗ってどこまでも響き続けた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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