此処は大阪にある繁華街、京橋。近くには大阪城。大阪城は現在爆殖核爆砕戦の結果により、周辺地域に抑え込まれていた。
「いやあ今日も……うぃっく。ごきげんなあっ。おさけぇ、を……。飲みましたぁ、なあぁぁ……うぃっく」
そんな場所にあっても、大阪のおっちゃんの毎日は変わらない。日々飲み、楽しく暮らす。そんな地域だ。
「そんじゃ、僕は此処から歩きで帰ります。お疲れ様でしたー」
「おお……また来週なぁ。運ちゃん、わし関目。はよかえらなぁ、かあちゃんが泣くからなあぁってな」
一人の中年の男性を、タクシーに乗せる若い男性。今日は金曜日。どうやら仕事帰りに、二人で飲んでいたようだ。
この若い男性、蔵田・高徳(くらた・たかのり)は、へべれけな上司の言葉に、奥さんを泣かせんといてくださいよ。と言いつつ、心の中では怒られるの間違いやろなと突っ込みを入れていた。
バタン。
タクシーのドアが閉まる。すると、窓が開いておっちゃんが顔をだした。
「ほな蔵ちゃんも、……はよ彼女見つけて、童貞そつぎょお、せんななあ」
思わずギクリとする高徳。その表情をみてニヤリと笑う顔を残し、おっちゃんはタクシーに揺られてご機嫌に去って行った。
「僕も……彼女欲しない、わけ……ちゃうで」
おっちゃんと別れたあと、高徳は再び京橋に戻り、一人飲んだ。なんとなくやるせなくなったから、というぼやけた理由だった。
かなりの酒量に、懐も寂しくなった。
彼を客観的に一言で言うと、不器用。近くの工業大学を卒業し、大きくは無いがしっかりとした会社に就職もしている。話術もあれば、彼女くらい作れただろう。二十歳を過ぎた健全な男性である。興味がない訳がない。寧ろ、つながりたいという想いは日に日に増していく。
ただ、致命的な所がある。女性の前に出ると極度に緊張が走るのだ。
店をでて一人千鳥足で自宅マンションに向かい歩く。はたから見ると、あぶなっかしい程酔っ払っていた。
「ねえ……」
車が行き交う通りを逸れた頃、可愛らしい女性の声が聞こえてきた。
「はい……。って、ええ!?」
硬直する高徳。それもそのはずである。彼の視線の先にいたのは、ほぼ全裸の若い女性の姿だった。その身体には、うねうねと動く植物を纏わせている。
「なななな、なんでしょおかあ!?」
緊張の余り固まる高徳。その植物の動きには気付きもしない。
「私と一緒になりましょう?」
「は、はい!」
そして、路地裏に消える彼女。ふらふらと付いていく高徳。辺りが暗くなった時、彼女は突然振り向き、口付ける。
「あ……」
高鳴る鼓動。もうこの衝動を抑えることが出来ない。
「ん!」
すると、高徳の喉に何かが飛び込んでくる。その喉に絡みついて離れないモノは、攻性植物の種だった。
「皆ええか。大阪城周辺に抑え込んでいた攻性植物が動き出した」
宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まってくれたケルベロス達に状況の説明をしていた。絹の話では、攻性植物はどうやら大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているとのことだった。
「恐らくやねんけど、大阪市内のそこら中で起こす事によって、一般人を避難させていってじわじわと拠点を拡大させていこうっていう計画なんちゃうかって考えられてる。
大規模ちゃうねんけど、放っといたらゲートの破壊成功確率も下がってまうやろ。せやからまずはこの侵略を防いで、そいで反攻に転じなあかん。せやから、その第一歩。しっかり頼むな」
そう言って絹は話を続ける。そして、少ししゃあないなあという顔をする。
「何かあったのですか?」
その表情を読み取る一人のケルベロス。
「いやまあ、今回の皆に行ってもらう敵やねんけど、女性型の攻性植物でな、深夜の大阪の繁華街に現れて、酔っぱらった男の人を誘惑して、攻性植物化させるっちゅう事やねんな。で、まあ作戦が狡猾っちゅうか、なんちゅうか、困った事に女性に縁が無い人を襲うみたいや。
酔っ払ってる上に、女性に縁がない男の人が誘惑される。これはなあ……ちゅうことや」
その話を聞き、あー、と頷くケルベロスもいる。
「見るからに怪しい姿もしとる。ほぼ全裸で、身体に植物。おかしいやろ? でもまあ、付いて行って、まうんやなあ……」
流れる空気が、同情のそれになる。
「まあええ。被害者は被害者。助けなあかんで。まず事件を起こさせないとあかんから、残念やけどこの男の人には事件にあってもらう。で、うちらが止める。簡単に言えばこういうこっちゃ。直前にちょっと被害者に接触して、攻性植物の誘惑を断るように仕向けるんや。そうしたら、彼は攻性植物に気がついて逃げる事ができるわけや。せやから、酔っ払いは酔っ払いのまま、彼を泳がす工夫がいるで。その辺の作戦も考えてな」
絹はそう言った後、状況の説明を行う。
今回被害に合うのは蔵田・高徳さんという建築技師。とは言ってもまだ若く、25歳との事だった。彼女いない暦歳の数との情報も付け加えられた。
「敵は捕縛と催眠、毒を使ってくるで。その辺りの備えもしっかりな。場所は人気の無い路地になるから、あんまり一般人の備えもいらんかもやけど、万が一に備えておくのも有効かもしれん。何が起こるかはわからんもんやからな。
あ、それと大事な事。もしこの蔵田さんの対処に失敗してしもたら、攻性植物になってしまうで。どうやって泳がすか。彼をその気にさせつつ、誘惑にも引っかからせない工夫。意外と難しいかもしれんから、しっかり考えるんやで」
絹はそう言って、手持ちのタブレットで敵の姿を映し出し、ケルベロス達に見せながら言う。
「ポイントは、彼は可哀想やねんけど、決して可哀想やないって事や。そんな事実と心のあいまいな所がポイントちゃうかなって、うちは思う。抽象的になってしもて申し訳ないけど、彼の気持ちになって考えてあげたら、ちょっとつかめると思う。頑張ってな」
参加者 | |
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喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313) |
クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052) |
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196) |
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245) |
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871) |
セルティ・ジーヴェン(デウスエクスデストロイヤー・e09786) |
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305) |
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873) |
●京橋にて、その壱
「あの方……ですね」
クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)は京橋の飲み屋から出てきた蔵田・高徳を、電柱に隠れながらそっと様子をうかがいながら頷く。そのままマンションがある方向へと足を向ける彼に、そっとついていく。この先では仲間達がスタンバイしているはずだ。
ひらり。
暫く歩き、繁華街の喧騒が薄れてきたころ、上空から紙が木の葉のように落ちてきた。クノーヴレットはそれを拾い、街灯に照らしながら紙を確認する。
『女人の甘言、裸体の痴女に注意』
そう書かれてあった。
クノーヴレットはその書面を見て少しクスリと笑い、上空を見た。その書面を落としたスノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)と、黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)が慌てた様子で、翼で浮かびながら此方を見ている。どうやら、用意していた紙をスノーが落としたようであった。
スノーはクノーヴレットが拾った事を確認した後、すいっと先に進んだ。
高徳が進むであろう道の先に、スノーと舞彩は降り立った。
「スノー、その紙あと何枚あるのかしら?」
「実は、この1枚ですの。奥の手として用意したまでは良かったのですが……」
スノーは舞彩の言葉にそう答えながら、何処から持ってきたのか、『この先通行禁止』との看板を一つの路地に置いた。
二人は隠密気流を使いながら、万が一の為に備えていたのだ。先ほどの紙もその一つ。
「これもう痴女の部類じゃない? いくら女性に免疫無いとしても……これはもうありえないでしょう?」
スノーが絹に見せてもらった敵の姿を思い出し、思わずの言葉に舞彩に同意を求める。
「そうね、でも、バナナイーターといい今回のといい、攻性植物はどうしてこう……こういう方向に進んだのか、ね。
それでも、厄介なのよね。厄介だからかしら?」
舞彩も頷きながら返す。すると、突然スノーがびくりと身を固める。
「どうしたの? 敵!?」
スノーの顔は青ざめている。ただならない様子である。
「い、いえ。その、こんなので成功するなら……絹も未だに独り身じゃ、とか考えたのですが、空のほうからとてつもない殺気を感じまして……」
その言葉に舞彩は夜空を見ながら、何かを思い出し、自らも少し青ざめる。
「スノー……。それは本当に、宮元の殺気、かも? なんてね、そんな訳……ねぇ……」
「でも絹ってまだ若いでしょう……? あっ」
絹が三十路と気がついたスノーが、また身を固め、青ざめる。
「と、兎に角。様子を見守るわよっ」
舞彩がそう言ってまた上空に飛び立ち、スノーも続いた。
そんな彼女達を見つめているカメラがあったかどうかは定かではない。
●京橋にて、その弐
高徳は自らのマンションへと向かう路地へとフラフラと入っていった。酔いはまだまだ醒めない様で、置かれていた猫避けである、水の入ったペットボトルに引っかかっては、よろける。
そのペットボトルを律儀に元に戻し、顔を上げた時、高徳の目の前が暗くなり、とても信じられない柔らかいものが、顔面に飛び込んできた。
ぽふん。
「え……」
驚愕の表情を浮かべながら、そのまま後ろ向きに倒れこむ。
「わっ、わわっ!? ごめんね!」
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)は、彼との第一接触をする為に近づいたのだが、彼がいきなりペットボトルに躓くなど考えもしていなかった。結果、こんな形で接触する事になってしまったのだ。
「おととっ。……大丈夫?」
不可抗力とは言え、思わぬ刺激を与えてしまった波琉那は、倒れこむ高徳を慌てて支え、聞く。
「あ、ああっ。ははは、はいいい!!」
波琉那は旅行者の格好で、いつもより大人しい格好をしているが、どうしてもそのバストが目立ってしまう。当然の如く固まる高徳。
(「こう……なるよねえ……。でも、兎に角作戦継続よね」)
気を取り直し、波琉那は目的の為に口を開く。
「えっと。ホテルの場所を聞きたいんだけど。京橋の駅って、この辺り、かな? その近くみたいなのね……」
「あ、あのっ。ぼ、ぼくが来た方向、でしゅっ!」
(「……噛んだ。これは、免疫がない人だね」)
そう言って指を指しながら、此方を見てはまた目を逸らす高徳を見て、つくづくそう思った。その視線は彼女の顔ではなく、もう少し下であったことは付け加えておこう。
「良い人っぽいから安心して道を聞いちゃった……。もしかして……期待とかさせちゃったかな?」
「あっ、はい! い、いいえ!」
恥ずかしそうに答える高徳。
「じゃあこれ、お礼ね。じゃあね! ありがと!」
そう言って持っていた飴を取り出して、その手に無理矢理握らせる。そして、京橋の駅の方面へと足を向け、曲がり角を曲がった所で波琉那は隠密気流を纏ったのだった。
(「ふむ、流石はサキュバスといった所でしょうか……。滲み出る何かがあるのでしょう。……私には、あの雰囲気は出せませんね」)
隠密気流を纏い、遠目に様子を見ていたセルティ・ジーヴェン(デウスエクスデストロイヤー・e09786)は、冷静に考えながら、更に観察を続けていた。
(「このところ動き始めた攻性植物……狙いは何なのでしょうね……」)
セルティがそう思いながら、近くにある大阪城の事を考えていると、上空で飛行している空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が確認できた。作戦は続行中である。
(「まぁ、今は今回の被害者を守ることに集中しましょう」)
(「波琉那の接触完了……。この先にはライゼル。……今」)
無月はそう言って、高い煙突のある家の屋根に降り立った。どうやら銭湯の様であった。その煙突からの熱を感じながら、声にグラビティを集める。
『そういえば、少し前に。……おっぱいで誘惑してくるデウスエクスが居たらしいよ』
何処からとも無くはっきり聞こえる声に、高徳は後ろを振り向く。だが、誰も居ない。どうやら相当酔っ払っているようだと自覚したのか、少し頭を振り、近くの自動販売機で、ペットボトルのお茶を購入し、ゴクリと飲み干した。
『最近この辺りで、体に植物を巻きつけた痴女が出るらしいよ……』
また聞こえた無月の声に、吃驚してそのお茶を飲み干す高徳。そのまま備え付けのゴミ箱に空のペットボトルを入れ、少し急ぎ目に歩き出した。
●京橋にて、その参
「今度は……メイド?」
急いで歩いていたからなのか、少し息が荒い高徳。すると目の前に座り込んだ黒髪のメイドが現れたのだ。
「あーらら。失敗しちゃったねー」
高徳が近くに来た事が分かったのか、そのメイドは少し笑いながら柔らかな声で話しかけた。
「ど、どうしたの……で、ですか?」
この辺りにはメイド喫茶もある。少し土地勘の無い人なら、迷い込むこともあるのかもしれない。
高徳はそんな事を思ったのか、はたまたそれを考えられない程酔いがまわっているのか、それとも先ほどから起こる不思議なことに混乱しているのか、少し冷静な声でそのメイドに話しかけた。
「ねぇねぇ、ボクも酔っぱらって立てないんだぁ。手を貸してくれる?」
そう言って手を差し出すメイド。
「ああ、うん……」
少し内心ドキドキしているのか、それでも酒の力もあってか、思い切って手を伸ばし、メイドの手を握り、ゆっくりと引き起こした。
「え……。ええ……!」
思わず声が出る高徳。そのメイドが起き上がると、自らの身長を超えた所に顔が存在したのだ。
メイド、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)は、首のチョーカーに手をやり、男の声に戻る。
「ま、ボクは男だけどね。相手はよく見る事だね。じゃ」
高徳は、去っていくライゼルの後をぽかんと見ていた。暫くすると、帰ろう……。と呟き、また歩き始めた。
「ねえ……」
高徳はもう驚かなかった。その姿を見るまでは。
「はい、なんでしょうか……。って、ええ!? あかん。これは、相当酔ってるな……帰ろう」
そこに居たのは、白の純潔の巫女。絹が説明していた攻性植物である。その姿は、植物で大事な所だけを隠してはいるが、ほぼ裸である。
「私と一緒になりましょう?」
白の純潔の巫女は高徳の様子に構わず、声をかける。
「ああっ! もう、煩い煩い! 僕は帰るんや!」
その言葉、高徳の意志が発せられた時、彼の後ろから不思議な雰囲気を纏った声が響き渡った。
『おっと、蔵田さん大丈夫ですかー? ささ、あっちに逃げましょうか』
その声は、彼を一瞬にして魅了する。そしてぐるぐる眼鏡の彼女、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)は、一瞬にしてメタモルフォーゼする。その姿は、プリンセスだ。
「はっ、はい!」
「腰抜けたなら、手を引いてでも連れていきますよ!」
「大丈夫です!」
菫はその手を引き、白の純潔の巫女とは反対の方向に、高徳を連れ出したのだった。
●京橋にて、終章
「……貴女は、巨大攻性植物が放出する胞子に関して、何か知っていますか?」
セルティが白の純潔の巫女の誘惑の言霊を避けつつ、尋ねる。
「……胞子? 胞子は……んー、なんでしょう?」
しかし白の純潔の巫女はセルティの質問には首をかしげて答えない。
「答えない、それとも答えられないのでしょうか? ただ、その反応も想定内です。それだけで一つの情報となり得るのですから」
セルティはそう言い、白の純潔の巫女の懐に潜り込み、蹴り上げる。
『回りなさい!ミラージュ!!』
宙に浮いた白の純潔の巫女を、その勢いのまま、自らが回転しながら、連続で蹴りを放つ。
「菫さん。彼は?」
クノーヴレットが、帰ってきた菫に気が付き、尋ねる。
「ふふ、彼は素直でしたよ……。それにしても、今日は肌色成分多めかな?」
少し意味深な台詞を言いながら、戦場を見る菫。
白の純潔の巫女との戦闘は、さほど労する事は無かった。相手の誘惑よりも、此方の火力が勝つ。力押しといえばそうなるが、それは確実に相手の体力を奪うのだ。
そして、波琉那と無月が白の純潔の巫女よりも先に足止めさせ、更に石化の効果を持ってその動きを制限する。
それらの傷を、舞彩のファミリア達が切り刻み、スノーが追撃する。
「メイドさんから変身! 仮面ライダーチェイン! ……キラキラ演出は元から無いよ!」
そして、『プリズムファクター』にチェーンキーをかざし、メイド姿から変身するライゼル。その様子を見た菫はプリンセスの姿のまま、どこからともなく濡れ雑巾を取りだす。
『さあ、お掃除の時間です! 雑巾拭きたて足元注意ですよ!』
そして、その雑巾を投げつけると、白の純潔の巫女の足元に雑巾がそのまま滑り込み、よろめかせた。
『足元…注意…。……もう遅いけど』
さらに、無月が彼女の足元に数本の槍を召喚し、その動きを阻害する。
クノーヴレットが火の玉を投げつけ、炎を上げさせ、それを波琉那のファミリアがまた切り刻む。
『わらわのモノにならないならいいわ…消えなさい』
スノーの破壊の力が、に追撃をする。その攻撃に吹き飛ばされ、ガクリと膝を付く白の純潔の巫女。
『内に秘められた獣を今、解放しよう』
ライゼルの地獄と混沌の涙で作り出された鎖が、白の純潔の巫女を縛る。
「この仮面ライダーチェインは男を弄ぶ敵を許さない」
そしてその脚に地獄化した炎の鎖と、ワイルド化した鎖を纏わせ、一気に距離を詰める。
『ライダー……キック!』
唸りを上げながら放たれた回し蹴りが白の純潔の巫女を吹き飛ばすと、彼女は霧のように消え去って行ったのだった。
「今回の相手は、少し燃えたわ……。なんとなくだけど、なんてね」
舞彩はそう言いながら、スノーを見る。
「どうしたの?」
「ど、どうしたも、こうしたも……。ねえ舞彩。これからヘリオンに戻りますのよね?」
「そりゃあ、宮元に迎えに来てもらう手筈になってるもの……」
スノーはそう言って、少し青ざめた表情をする。
「絹さんが、どうしたのでしょう?」
その様子を見ていたクノーヴレットが、思わず聞く。
「い、いえ。何でもありませんわ。そう、そんなはずはありませんもの。ええ……」
ケルベロス達はこうして、待ち合わせのヘリオンの場所まで移動して行っていた。
「でも、何にも残ってなかったのは残念なのよね……」
「そうですね。そういえば遺留品も何も、彼女はほとんど何も身に着けていなかったのですから、当然といえば当然でしょうか?」
波琉那とセルティは、彼女の消滅した周りを確認したのだが、攻性植物の欠片の一つも残っていなかったのだった。
「もう少し、調べてみる必要はあるのかも、しれないですかね」
その話に、菫も頷く。幸い此処は大阪城の近くである。もう少し何かを調べれば、少しの情報でも掴むことが出来るかもしれない。
「そう言えば、高徳くんは大丈夫だった?」
ライゼルが菫に尋ねる。
「大丈夫ですよ。無事に家まで送ってきましたから……。それにしても、我々サキュバスには、気を使う依頼でした」
そう言いながら、彼女は自らのプリンセス姿を思い出した。
「あー。ちょっと、戻し忘れていましたね……」
そう言って菫はプリンセスモードを解除した。
「あ、……戻しちゃうんだ?」
無月が少し突っ込みを入れる。
「そりゃこのままだと、如何わしいお店の客引きみたいですからね」
「……羞恥プレイ」
「まさに」
無月の確信を得た言葉に、ぐるぐる眼鏡をキラリと光らせた菫だった。
ケルベロス達は、そんな他愛の無い話をしながら京橋の街まで戻っていった。
幾らか静かな時間にはなっていたが、まだオープンしている店はあり、街はまだ眠らないようだった。
その光景を見る度に、ケルベロス達は大阪の人々の逞しさを感じるだろう。
そして、ヘリオンに乗れば、近くの大阪城が見える筈だ。
此処に突入するのはいつの日か。そんな事を思いながら、その光景を見るのであろうか。
絹のヘリオンの姿が夜空に浮かび上がった。
我々の日常は、この地域の人々とは違う。ヘリオンに乗り、またデウスエクスを倒すのだ。
そんな事を感じながら、ケルベロス達は歩いた。この地域の人々を護る為にも。そう、決意を新たにするだろう。
余談だが、唯一人、青ざめたケルベロスを除いて、なのだが。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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