白き影に誘われ

作者:幾夜緋琉

●白き影に誘われ
 大阪は新世界。
 大阪地方の繁華街の一つであり……昼から夜まで、酒を目一杯飲んで、とっても良い気分になっている人達が多く居る場所。
 60歳位のオジサンが、酒の匂いをプンプンとさせながら、ふらりふらりと歩いている。
 ……女っ気の無い雰囲気の通り、結婚指輪もしていない。
 ……そんなオジサンの所に、白い清楚な雰囲気の服を着た女性が……クスリ、と笑いながら近づいてくる。
 そして。
『ねぇ……あなた?』
『んぅー……あなたぁ? ……俺にぁ妻なんていねぇ……っ……』
 人目振り返り、完全に見惚れてしまう男。
 彼女は優しい笑みを浮かべながら。
「こっちに、来て? 私と、一緒になりましょう?」
 妖艶な笑みを浮かべた彼女。
 スケベ心丸出しで、オジサンは女と共に、裏路地へ。
 ……壁に押さえつけ、キスをしようとすると……寧ろ貪るように、口づけする彼女。
 積極的……かと思われたが、次の瞬間。
 彼女が口移しで、彼に植え付けたのは……攻性植物。
 瞬く間に、攻性植物は彼の身体へと寄生していってしまうのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速になりますが、説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに会釈すると、早速。
「先日の爆殖核爆砕戦、皆さんお疲れ様でした……ですが、この結果、大阪城周辺に押さえ込まれていた攻性植物達がどうやら動き出してしまった様なのです」
「この攻性植物達は、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしています。恐らく……大阪市内で事件を多数発生させ、一般人を避難させた上で大阪市内を中心に、拠点を拡大させよう……という計画なのでしょう」
「まだ、大規模な侵攻にまでは至っていませんが……このまま放置すれば、ゲート破壊成功率もじわじわと下がってしまう事でしょう。それを防ぐ為に、敵の進行を完全に防ぎ、更に隙を見つけ、反攻に点じなければなりません」
「どうやら、今回現れるのは、女性型の攻性植物の様で……深夜の大阪の繁華街に現れるなり、酔っ払った男性を誘惑し、攻性植物化させよう、としている様なのです」
「どうもこの被害男性は、女性に縁の無いタイプの様で……あからさまに怪しい姿の攻性植物でも魅了されてしまう様なのです」
「ただ、この被害者を事前に避難させてしまうと、攻性植物は別の場所に現れてしまいますので、被害を防ぐことが出来ません。しかし、直前に少しだけ接触し、攻性植物の誘惑を断るように仕向ける事が出来れば、男性は攻性植物から離れますので、男性の安全は確保出来る筈です」
「この被害者男性は、女性に対し今迄縁遠い存在だった様なので、そこを短時間でフォロー出来る様ならば、有利に戦う事が出来る筈です」
 そして、更にセリカは詳しい状況を説明する。
「今回現れる攻性植物は、女性の人型攻性植物の様です。そして……攻撃方法は、主に男性を誘惑するような声を上げて、近づき、抱きつきながら蔦を手足に絡め付けて拘束……そして、その拘束を一気に締め上げて、握りつぶすが如く殺す……というものの様です」
「場所は大阪は新世界、通りから一本入った所にある裏路地の様です。裏路地ですから戦闘場所としては狭く暗い……そして、回りには一般人も通りがかる可能性がありますので、その対処も重要になるでしょう」
「又、男性に対する対処を失敗すると、男性は攻性植物に寄生され、配下として戦闘に加わってしまいます。当然、倒す難易度も上がりますので……出来る限り救出して頂ける様お願いします」
 そして、成果はもう一度皆を見渡し。
「男性を助けるには誘惑に乗らないようにするしかありませんが……難しければ、攻性植物の撃破を優先して頂くしかないでしょう。どうか皆さんの力で、これ以上攻性植物が勢力を広げるのを止めて下さい。宜しくお願い致します」
 と、深く頭を下げた。


参加者
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
坂口・獅郎(烈焔獅・e09062)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
カーラ・バハル(ビギナーガジェッティア・e52477)

■リプレイ

●誘惑の声音
 大阪府は新世界……大阪地域を代表する繁華街が一つで、昼も夜も関わらず、酒飲みの人達もかなり多く歩いている様な場所。
「全く……植物の癖に小賢しい知恵をつけたものだな……関心はしなくもないが、結局は我たちに面倒な事が増えただけか。世知辛いな、ケルベロス業は。鬱憤は晴らさせて貰いたいものだ……ククク……」
 不敵にフードの下で笑うはペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)。
 それにフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が。
「また新たな攻性植物か……杞憂で済めばいいのだが……」
 と瞑目すると、それにカーラ・バハル(ビギナーガジェッティア・e52477)は。
「モテなさそうだから狙う攻性植物!? うわ、腹立つわ! 60越えたオジサンだからと関係ねェ! 騙す方が悪いに決まってンだろ! 男の純情をなンだと思ってやがるンだ!」
 強く強く憤るカーラにフィストが。
「そうだな……以前同じようなのがいたな……バナナイーターだったか?」
 と軽く首を傾げると、それにヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が。
「ふむ……こいつは随分と羨ましいハニートラップだな」
 と言うと、フィストがきっ、と睨みを利かし。
「ヴィクトル……さすがにそれは聞き捨てならんぞ」
「ああ……冗談だ、フィスト。さすがに甘んじるにはリスクが高いのは重々承知だとも」
 と、ヴィクトルとフィストの会話を聞きつつ、坂口・獅郎(烈焔獅・e09062)が。
「……なぁ、フィスト」
 と問いかけてくると、フィストは何だ、と問い直す。
 獅郎は軽く額に汗を浮かべつつ。
「……女の誘惑って、怖ぇんだな」
「そうか? まぁ……そうかもしれないな」
 そんな獅郎、ヴィクトル、フィストの会話に目を細めつつ、ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)が。
「……まぁ酒に酔っていたとは言え、判断がつかなくなる時ほど怖い物はないよな」
 と言うと、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が。
「まァ、そういうのも面倒を見るのガケルベロスの仕事、って事かしらネ? 単純に遭わない様に、事前に引き離すダケなら楽なのに、一端攻性植物のところに解き放たなければいけないのハ歯痒いワ」
 と肩を竦めると、それにリュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)も。
「そうだね。でも……ここで攻性植物を止めないと、この大阪が大変な事になる。だから、頑張ろうね、クゥ」
 傍らを歩くボクスドラゴンのクゥを抱き上げ、軽く抱きしめると、クゥは小さく啼く。
 ……そしてケルベロス達は、新世界の繁華街へと辿りつくのであった。

●心を映す
 そして、繁華街に到着したケルベロス達。
 濃密な大阪の雰囲気を強く感じる新世界……夜ともなれば、濃密な酒の匂いが。
「……」
 思わず、その匂いに鼻を覆うリュートニア。
 しかし、酒の匂いに負けていては、今回の攻性植物を倒す事は無理だろう。
「負けないように、しないと……」
 と、傍らを歩いていたクゥを前に抱きしめるリュートニア。
「むぅ……凄い匂いだけど、仕方ねェ。何にせよ、ターゲットにされるオジサンをサッサと探さねエとな!」
「ああ、仕方ないが、な」
 カーラに頷くペル。
 そして、繁華街を歩くケルベロス達……だが、そんなケルベロス達に。
『おぉーい、おねーちゃんたちぃ、そんなところでなーにやってるんやぁ? おにーさんがいろいろとおしえてやるでぇ~』
 と……酒に酔った兄貴……というよりは、間違い無くオジサン達が絡んでくる。
(「……やれやれ、酒というのはどうも厄介だな。ここまで判断力をにぶらせるものなのか……」)
 と、いつの間にか動物変身していたライは内心溜息を吐きつつも……ちょっかいを掛けてくる男共に突然横から吠え掛かったり、腕に噛みつくフリをして、其処から引き剥がす。
 ……と、そんな男連中を其処から引き剥がしつつ、市街地を歩いていると……一際酔って、陽気に口ずさんでいるオジサンが……。
「……ん、と……あれ? ……あの人……」
 と、リュートニアが、セリカから借りていた写真とその顔を見比べる。
 ……確かに、顔立ちは写真通り。酔いつぶれ度合いも、かなりのもの。
「……それじゃ、始めるぞ」
 とフィストはヴィクトル、パトリシアに目配せをすると共に……フィストは彼の元へとふらふらと近寄っていく。
 酒瓶を手に、ちょっと口を付けた上で……酒気帯び特有の、ちょっとトロンとした目でしなだれかかる。
『ぉぉう? どーしたんやねーちゃん? わいに惚れたかぁ?』
 とニヒヒと笑う彼に、フィストは。
「にぇへへへへ……おじひゃま、いっしょにあそばにゃぁい?」
 顔を染めて、笑うフィスト。
 そんなフィストを追いかける様にして、ヴィクトル、パトリシア、獅郎が。
「ほら、ちょっと離れろって……すまんな、これからこっちは梯子で遊びに行く連中だったんだ。おい、フィスト。ったく、おっさんに迷惑を掛けるんじゃない。だから飲み過ぎるなって言ったんだ」
「全く、フィストは飲むと見境なくなるデスね! ああ、そうそう、こんな噂聞いたことありマスカ? オジサマみたいなダンディを騙して食べちゃう悪い女がいるらしいっテ」
「そうだな……最近この辺りで……確か美人局かなんかの反抗だったか。その常習犯だって女がこの辺りをぶらついてるって話だ。おっさんも用心した方が良いぞ? なぁ、獅郎」
「いや、俺が聞いたのは殺人犯、だったか? まぁ美人局にしろ、殺人犯にしろ、どちらも人生を破壊してくれる事には変わりないか」
「そうね。もーし見つけたら、焦らずゆっくり離れて、教えて欲しいのヨネ。ワタシなら、安全に遊べるから、サ」
 くすくすっ、と笑うパトリシア。己にラブフェロモンを纏いつつ、ケルベロスカードをちらり。
 ……でも、それに対してフィストは全く聞いていない風を装い、まだしなだれかかっている。
 そんなフィストを力尽くで引き離すヴィクトル。
「え-、ヴィクトルのいじわるぅ!!」
 と口をとがらせ不満を叫ぶフィスト。
 背中にひょいっと背負うヴィクトルは、頭をぽかぽかと叩かれながらも。
「ま……一緒になりましょうって路地裏に誘い込む女には気をつけろよ」
 とヴィクトルはそう言い残しつつ、他の仲間達と共に彼の元から離脱した。

 そして……ケルベロス達が一端離脱し、離れた所から追跡して数分。
 ……先ほどまでのケルベロスの言葉は、あんまり耳に入っていない様で……まだ、ふらふらと繁華街を歩き回る。
 程なくして、暗い繁華街の中には異質な、白い服と、清楚な雰囲気の女が……。
『……ふふ、あなた……こっち、来て? 私と、一緒になりましょう?』
 清楚だけど、妖艶な声音で誘い、裏路地へと誘う彼女。
 一方、彼は……一瞬怪訝とした顔をしたのだが……彼女は胸元を少し緩めて、胸元を見せつけると。
『フフフ……ほら、いいのよ?』
 と、更なる誘惑の声と、態度で……魅了する。
 そして、彼が裏路地に引き込まれたのを見て。
「さぁ、始めるか」
 とペルの言葉に、ケルベロスらは一気に展開。
 取りあえず、先陣切って向かうは、動物のままのライ。
 繁華街を一気に駆け抜け……裏路地へ曲がる。
 ちょうど、女にキスをされようとしているタイミング……。
「っ!」
 動物変身を解除しながら、体当たりを男にして、男を強制的に攻性植物から引き離す。
『……っ』
 得物を直前で取られた攻性植物は、ライを睨み付ける……が、その間に、残るケルベロス達も裏路地を挟撃。
「オジサン、逃げろ!」
 とカーラが強い口調で指示を与え、更にパトリシアが。
「ほら、植物ノ擬態になんて負けナイデ! ワタシのプライドの為ニ!」
 といいながら、オジサンを抱きかかえ、裏路地から排除。
 その後ろ姿にフィストが。
「飲み過ぎも程ほどにな! ……頼んだぞ、リュートニア!」
 と言うと、リュートニアはこくりと頷き、前衛陣へメタリックバーストを付与し、狙アップ。
 そして、パッとライがキープアウトテープを背後に張ると、同時にヴィクトルは逆側を封鎖し、一般人を強制排除。
 対し女は、その手とおぼしき木の枝を伸ばし、拘束を仕掛ける。
 が、それにカーラが。
「させねえ!」
 と、スターゲイザーの蹴りで木の枝を砕く。
 枝を折られ、明かな怒りを露わにする攻性植物……だが、そんな攻性植物の怒りに取り合うこともなく、ペルが。
「くだらない植物人間め。ストレスのはけ口となるがいい」
 と、肩を竦めると共に、呪怨斬月の一閃、獅郎もスターゲイザーで追撃していく。
 そして、更にフィストと、彼女のウイングキャットのテラは。
「其は焼き払われ、其は過去へ葬られし美しき我が故郷の思い出のひと欠片……幼き我が記憶を以てここに顕現せよ! グリューン……サルヴ!!」
 と『黄金の葦原』による盾アップと、清浄の翼によるBS耐性の付与。
 同時にライがメタリックバーストで強化し、更にヴィクトルは轟竜砲、クゥはボクスブレスで攻撃為ていく。
 ……そして、最後にオジサンを避難させていたパトリシアが合流すると。
「さァ、行くワヨ!」
 と魔人降臨を纏い、術アップ。
 次の刻、攻性植物は、というと……。
『……』
 明かな怒りを、その美しい顔の中に浮かべながら、ケルベロスを拘束しようと木の枝を伸ばす。
 隙を狙い澄ましたその一閃は、ディフェンダーのパトリシアにぐるりぐるり、と巻き付いてしまう。
「ッ……!」
 唇を噛みしめ、引き寄せられない様に抵抗するパトリシア。
 すぐにリュートニアが『萌葱の弾丸・改』を撃ち、木の枝を砕こうとするが……砕けない。
「中々固い様だな。集中攻撃で、切り刻むとするか」
 とヴィクトルの言葉に皆頷き、先陣切ってアイスエイジインパクト。
 更にライの戦術超鋼拳に、カーラのバスターフレイム、フィストの星天十字撃、テラの猫ひっかき。
 そしてパトリシア自身は。
「ッ!!」
 唇を噛みしめ、木の枝へ降魔真拳の一撃を放つ。
 ……その一撃に、木の枝はもう一つ崩壊。
 どうにか敵の攻撃を切り抜けたところで、獅郎、ペルは。
「何とか引き離せた様だな。なら、俺達は本体へ仕掛けるぞ」
「ああ」
 短く声を掛け合い、獅郎が至近距離に接近。
「行けッ!!」
 と叫ぶと共に、『モミジ・ミサイル』が攻性植物に集中被弾。
 そしてペルも。
「間引くように斬り裂くまで。草刈りというヤツだ」
 と月光斬で、文字通り枝を切り刻んでいく。
 ……その後も、攻性植物はまずは捉えることを目的に攻撃を重ね、一方のケルベロスはその攻撃を力尽くで引き剥がす事を繰り返す。
 勿論、引き剥がす際のダメージは、攻性植物本体にまで及ぶ訳で……刻一刻と、攻性植物の体力は削られて行く。
 そして、ケルベロス達の突撃から十数分した所で。
「もう、何度目か分からないぜ!!」
 と、木の枝をスターゲイザーで蹴り落としたカーラ。
 ……いつもならば、更なる追撃が続くはずなのだが……攻性植物は続かない。
「ん……どうしたんだ?」
 と獅郎の言葉にペルが。
「雑草のように生命力ばかりはたくましいようだ。だが……それももう終わりの様だな」
 と言い捨てる。
 そして、ペルは攻性植物の至近距離まで歩いて接近すると。
「視界を灼き、白き光景を刻み、瞬間に砕けろ」
 短い宣告と共に、その顔に向けて放つ『白く眩い雷光の災拳』。
 その痛撃は、攻性植物を断末魔の悲鳴と共に、撃ち砕くのであった。

●誘惑に騙され
 そして……無事、攻性植物を撃ち砕いたケルベロス達。
「ふぅ……終わった、かな……お疲れ様、ありがとうね、クゥ」
 と、リュートニアは息を吐くなり、傍らで頑張ったクゥを再度抱き上げ、その身体を撫でて労う。
 クゥは嬉しそうな啼き声を上げて、リュートニアの懐にすり寄る……そんな二人を見ていると、どこか微笑ましくも思える。
 ……ともあれ、攻性植物の影は最早無く、ひとまずは、安心だろうか。
「さて、ト。それじゃァワタシは、オジサマとアフター行ってくるワネ♪」
 と、早々に其の場から帰ってくパトリシア。
 他の仲間達は呆気にとられつつも。
「ま、まぁ……これでいいのカナ?」
 と苦笑するカーラに、すっかりしらふに戻ったフィストが。
「ああ、そうだな。ま、納得する意外に無いだろうが」
 ……何はともあれ、攻性植物を倒し、オジサンも攻性植物に狩られる事は無かった訳で。
 依頼成功に安堵の一息を零しつつ、ケルベロス達はささっと後片付けをした後、其の場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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