不気味なる浮遊樹

■リプレイ

●勢力を広げる攻性植物
　大阪府大阪市を強襲してくる巨大攻性植物。
　その姿を遠くから確認し、ヘリオンから降下したケルベロス達は現地へと急ぐ。
　攻性植物から逃れようと、人々が必死に逃げ惑う。
　間もなく戦場になる街だが、そこには不釣合いにも思える豪華なドレスで身を包む、ベルベット・ソルスタイン（身勝手な正義・e44622）。
「花は愛でる対象であってこそ、美しいもの」
　――友情、愛情、信念、外見。
　美しい物をこよなく好むベルベットは、視界の向こうに見える攻性植物の姿には辟易としてしまって。
「それが勝手に動き回って人を害するなんて、悪い冗談だわ」
「前に戦った巨大ダモクレスと一緒の大きさか。最近はでかい物が流行ってるんかねー」
　街中に現われた巨大な物体を白岡・黒葉（顔文字で彩るポンコツ傭兵・e53436）は顔に貼る紙を捲って見据え、やや適当な口調で語る。
「バクショクホニャララの時にも、こんなのが出てきたのかな？」
　ということは、コレは爆殖核爆砕戦を生き延びたのだろうか。
　愛用の大きなリボンの髪飾りが目を引く金髪ボーイッシュの少女、今・日和（形象拳猫之形皆伝者・e44484）がそう推察する。
「油断できないね。ボクもがんばらないと！」
　日和の言葉に、皆同意して。
「人々が攻性植物の襲来で苦しむ様子なんて、ボクは見たくないからね」
　狼のウェアライダーであるミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）が耳としっぽをピンと立てて本音を語る。
「思い出の場所を、帰る場所を、失ってしまった時の辛さを誰にもさせたくない」
　武器を握りしめた白い竜派ドラゴニアンのラギア・ファルクス（諸刃の盾・e12691）も、この地の人々を絶対に守ると誓っていた。
「うん、大阪の拠点を広げさせはしないよ！　被害が出る前に倒してしまおう！」
　旅団『武装飲食ギルド・ベオウルフ』の団員ラギアの言葉に、その店長であるミリムが大きく頷く。
「さ、私達は私達の仕事をしないとね！」
　大きな胸が目を引く雨宮・利香（黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140）が仲間達にそう促す。
　一行は侵攻する巨大攻性植物へと攻め込むべく、大阪の街に散開して敵の元へと向かうのである。

●攻性植物、サキュレント・エンブリオ
　全長７ｍもある攻性植物。
　胎児のような者を内包する花びらに、先がナイフ状触手を無数持っている巨大攻性植物、サキュレント・エンブリオ。
　ビルに挟まれた道路を悠然と移動するこの巨大な浮遊樹を前に、接近するケルベロス達は散開して攻め込むことになる。
　最初に仕掛けていくのは、ビルの屋上から飛び降りながら、黒い妖刀『供羅夢』で相手に切りかかる利香だ。
　浮いている相手を、地面に叩き落とす勢いで仕掛けた一撃。
　確かに攻性植物の体を切りつけたが、相手はすぐ臨戦態勢に入って利香へと触手を絡め、きつく締め上げようとしてきた。
「街を、人を苦しめるデウスエクスは許さないぞ、グルルッ！」
　敵を含めて見下ろす事のできる建物の上に立つミリムは、ゾディアックソードで屋上の床に守護星座を描いていき、その光でこの場に駆けつける仲間達を包み込む。
　それによって、利香は拘束から逃れていたようだ。
　同じく光を受けた１人、黒葉はケルベロスコートを纏って。
「やるか」
　自身の胸を手で叩いて呟いた彼は、全身からミサイルポッドを出現させる。
「挨拶がわりっと！」
　目の前の巨大生物へと、黒葉は大量のミサイルを浴びせかけていく。
　浮遊樹の侵攻経路をビルの上から見ていた日和。
　しかしながら、周囲にまだ一般人の姿があることを彼女は見つけて。
「皆さん、ここは危ないよ。早く逃げてくださーい！」
　やや驚きも見せながら、日和は避難を呼びかけていたようだ。
　ただ、すでに周囲に駆けつけた警察、消防が避難誘導を進めてくれている。
「私達がやるべきは……」
　敵の動きを封じ、街の被害を最小に抑えること。
　ベルベットはそう考え、周囲に病院、駅といった重要な施設がないことを確認する。
　その上で相手のかく乱の為に宙を舞うように２段ジャンプし、彼女は鉤爪付きのフックロープでビルからビルへと飛びつつ、意識を相手の中心に集中させて。
「紅き奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け！」
　熱量を操るベルベットは空気を急激に膨張させ、浮遊樹を中心に大爆発を起こす。
　高い場所から攻める者ばかりではない。ラギアなどは地上から、敵の正面より接近していく。
「大きい敵だなあ」
　チーム最年少、赤髪の鷹崎・愛奈（死の紅色カブト虫・e44629）は相手の姿を見上げつつ、赤い翼を羽ばたかせる。
「不気味な見た目で、大きい姿なのによく浮いてるもんだね」
「あんな大きいの相手なんて……ワクワクするよね！」
　地面近くを浮く相手の生態にミリムが疑問を抱いていると、相手に一太刀浴びせた利香がそう声をかけてくる。どうやら、彼女は根っからの戦闘狂らしい。
「でも、ドラゴンやダモクレスにはもっと大きいのもいたって言うし、このくらいでひるんでちゃダメだね」
　超弩級ダモクレスが来ても、大丈夫なくらいにならないと。
　愛奈はそう呟いて気合を入れ、宙へと元気に飛び立っていた。
　そんな仲間達を後方から１人で見る人相の悪いオウガ、グラハ・ラジャシック（我濁濫悪・e50382）。
「被害は別にどーでもいいが……。こんな気色悪ぃのを長々と野放しになんざ出来るか」
　この攻性植物に不快感を覚える彼は手頃な高さの建物が見当たらず、地上から戦おうと考えていたようだ。
　再び、無数の触手を振り上げる敵に、ビルの上に立つ日和が身構えて。
「何しに出てきたのか知らないけど、退治しないと危険だから。覚悟！」
　周囲の人々の避難が進んだことで、日和もまた改めて襲撃してくる巨大攻性植物へと立ち向かっていくのである。

●侵攻を止めろ！
　街に現われた巨大な浮遊樹。
　地面すれすれの場所を浮かびながら進むそいつは、広げた触手を使って周囲を破壊していく。
「皆さん、触手に気をつけてください！」
　電線を伝い、相手を追いかけるミリムの声が戦場に響く。
　その直後、敵はその触手で近場の全てを薙ぎ払い、さらに大きく広げてグラビティ・チェインを電気として周囲に放ってくる。
　ラギアは太陽の大盾を構えてそれを防ごうとするが、さすがに全てのダメージを防ぐとは至らない。
　後方の仲間達が前衛陣を気がけるが、振り返ったラギアが叫ぶ。
「かまわず、戦え！」
「……損傷軽微、まだ行けるな」
　仲間を鼓舞するラギアの声を聞き、黒葉もさほどダメージを意に介する様子を見せず、すぐその場から敵を追うべく移動する。
「先、行くよ！」
　電柱に捕まる利香も電気ショックを浴びながら、散開する仲間に呼びかけつつ仕掛けていく。
「この剣で……勝利を掴む！」
　己の筋肉に、魔力の電流を流し込む利香。
　身体能力を高めた彼女は宙へと飛び出し、妖刀『供羅夢』で相手の身体上部の花びらを切り刻む。
（「あの胎児みたいなやつ、中は一体どんなやつだったのか一応見ておいた方がいいのかな……」）
　気にはなるが、仲間達が続いて攻撃を仕掛ける状況。彼女は仲間との挟撃に意識を集中し、相手を攻め立てる。
　ミリムも回復役ではあるが、仲間の被害がさほど大きくない状況を見て、ゾディアックソードをくるりと回してから虚無魔法を発動させた。
　発生した虚無球体は敵の体を削り取っていく。
　触れた花びら、触手が消滅していくが、それでも相手の巨体全てを消し飛ばせるには至らない。
「喰らっときな！」
　いつの間にか、破壊されたビルの中層に立っていた黒葉は荒々しく、必殺のエネルギー光線を発射する。
　ただ、サキュレント・エンブリオは多少の攻撃で止まる気配を見せない。
「ほらっ、ここでストップ！」
　戦場を駆け回っていた日和が、いつの間にか周囲にばら撒いていた見えない地雷を起爆させた。
「地面班の方ばっかり攻撃されないように、がんばらないとね！」
　突如起こる爆発に、動きを僅かに止めた攻性植物。
　そいつへ、フックロープで空中を優雅に移動するベルベットがビルに着地し、バスターライフルで凍結光線を発射していく。
「……！？」
　自身の身体の異変に、違和感を覚えたらしい攻性植物。
「こちらからもゆくぞ」
　そいつ目掛け、飛び出したラギアが如意棒『伏雷』を振るって相手の体の前後から殴打を見舞っていく。
「どうやって、こちらの動きを把握してるのかな」
　できるだけ仲間との距離を意識しつつ飛ぶ愛奈はそんな疑問を抱きつつ、相手を観察する。
　どうやら、触手などで感知しているようだが、それを分析する間にも、相手は街を破壊している。ぼやぼやしてもいられない。
「さあ、お前の罪を数えろ！　数えられないなら、あたしが数えてあげるよ！」
　愛奈が広げた赤い翼から発する聖なる光は、オラトリオとして発するもの。
「街を脅かした罪は重いよ！」
　ただ、彼女はそれをアレンジし、収束させつつ相手の体を撃ち抜いていく。
　そして、グラハも１人やや低めの建物を見つけ、その屋上へと上がっていた。
「とにかく、倒せばそれでいいんだよ」
　手段は問わず、勝利するのがグラハのスタイル。
　砲撃形態とした竜鎚より砲弾を叩き込む。
　しかしながら、定命化した状態では、威力が激減していることもグラハは十分に理解をしている。この戦いにおいて、ケルベロスとしての連携した戦いを彼は学ぼうと考えていた。
　あちらこちらから飛ぶケルベロスのグラビティ。
　巨大攻性植物は侵攻を止めないものの、その身体には徐々に傷が増えてきていた。

　移動を続ける浮遊樹……攻性植物は、破壊活動を続けている。
　阻止しようとするケルベロスごと、敵は触手で薙ぎ払い、電気ショックを行う。
　広範囲に浴びせかけてくるその攻撃は、決して威力は小さくはない。
　メイン回復役となるミリムは、とりわけ相手の電気ショックを懸念していて。
「大丈夫？　ボクに任せて！」
　相手のグラビティ飛んでくると彼女はすぐ地面から惨劇の記憶を引き出し、その魔力によって仲間に癒しをもたらしていく。
　電気ショックに耐え切ったラギアは地上から飛びあがり、百郡色の剛斧『ドラゴンバスター』で相手を両断しようとする。
「行け、Null。アイツを捕まえろ！」
　黒き鉄鎖、羂索【Null】を伸ばす日和。
　足りない長さは一時的にグラビティの力で伸ばし、日和は相手の体を縛りつけようとする。
「行くわ」
　利香はその隙を逃さず、別方向から空の霊力を付与した妖刀で相手の体を切り裂いていく。
　相手は浮遊していても、攻撃が近場でも届くのが幸いと言うべきか。
　ただ、短期決戦に臨むべく利香は幾度も斬撃を見舞うが、なかなか浮遊樹が地面へと落ちる気配はない。
　相手がまたも触手を広げたタイミング、真上から愛奈が飛び込む。
「これで、どうだああああああああ！」
　二つのマインドリングを光らせ、光の巨人へと変貌した愛奈は光の剣で攻性植物の巨体を真上から串刺しにしていく。
　さらに愛奈は剣の柄を蹴り込み、刃をより深く相手に突き入れるが、敵を地面へと落とすには至らない。
　しかしながら、攻性植物は触手を滅茶苦茶に動いてもがいていた。
　相手が弱ってきているのは間違いないと、ベルベットは確信して。
「その足掻きは美しくないわ」
　ベルベットが伸ばすのは、真紅の包帯。
　己の血を硬化させることで、伸ばした包帯は槍のように相手の身体を穿つ。
　身体の所々から、樹液のようなものを流す攻性植物。
　建物から飛び降りたラギアもそいつの触手を抑えつつ『ドラゴンバスター』を振り下ろし、相手を花びらごと断ち切ろうとする。
　そのタイミング、下からはグラハが敵の姿を見上げていた。
「ドーシャ・アグニ・ヴァーユ。病素より、火大と風大をここに崩さん」
　発動させるは、『悪霊化』と呼ぶグラビティ。
　己から発した黒い靄を、グラハはその身に纏っていく。
　そして、彼はその靄の多くを右腕へと集め、相手の核となる部分を見定めて。
「さっさと潰れて消えろや、クラゲもどきが」
　飛び込むグラハはその核を狙って、強く殴りかかった。
　生命活動を行う敵なら、心不全をも起こす強力なグラビティ。
　ただ、敵はしぶとく暴れ狂い、抵抗してみせる。
「損傷甚大、か。けど、やるしかないよな！」
　相手の触手による薙ぎ払いを受けた黒葉は気合を入れ直す。
　トドメとばかりに彼は高所から飛び降り、胸部からエネルギー光線を発射した。
「喰らっときな！」
　核を光線に撃ち抜かれて完全に破壊された浮遊樹は、ついに地面へと落下してしまう。
　同時に、花びらから胞子のようなものが舞い出したが、直後にサキュレント・エンブリオはその身を急激に枯らしていく。
「胎児のようなものはどうなった？」
　ラギアは花びらの中身も全て退治すべきと考えていたが、それらも含めて敵の全身は少しずつ塵と化していったのだった。

●大阪の街を修復しながら
　襲い来る攻性植物を撃破し、ケルベロス達は皆一息つく。
「ふぇーっ、疲れた」
「お疲れ様だよ！」
　地面に座り込む日和だが、利香が回復役となって快楽エネルギーで展開する桃色の霧で癒してくれる。
　それもあって、戦闘の影響で破壊された部分を、日和は拳で抑えつつグラビティで活力を与えて修復を始めていく。
　周囲に視線を向ければ、ベルベットが自らの傷から溢れる血を飛ばして癒しを街にもたらし、愛奈はそんなベルベットにも気力で傷を塞ぎに当たる。
　ミリムは大地より魔力を抽出して損壊した建物へと振り撒き、ラギアが気力で補填する形でひび割れ、穴の開いた場所を幻想で埋めていった。
「何でも殴りゃ、直る直る」
　グラハは思いっきり拳を振るう。その拳圧で破壊された箇所を殴り飛ばし、瞬く間に幻想交じりに修復を完了させる。
　黒葉もヒールドローンを展開し、作業に当たっていたのだが。
「あの花びらに胎児ってことは……」
　空に舞った胞子に、黒葉は一抹の不安を覚えてしまうのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年5月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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