ストロベリーカルテット!

作者:秋月諒

●甘菓子兎・フレジエ
 とん、と下りた一歩は可愛らしく。くるり、と回ってピンク色の髪を揺らした少女は完璧な笑みを浮かべる。
「そうそう。これが完璧なレディの登場方法なのですぅ」
 くるり、と回る時にはウサギの耳をぴん、とたてて。ピンクの傘もくるり、と回して。
「さぁさぁ歌って。わたしの小鳥たち……ん、やっぱり小鳥よりウサギが良いですぅ」
 脚本は変えて、さぁ歌は最初から。
 ととん、と踏み込む足は軽く、くるっとターンをして傘もまわして。
「さあ歌って」
 とろけるような笑みを浮かべて少女ーー甘菓子兎・フレジエはいう。広げられた両の手は彼女の背後に立つものに向けられたのことか。頭の部分に苺を持ち、頭蓋を腹に埋めた攻性植物たちに答える口はなく、上機嫌に先を行く甘菓子兎・フレジエはひょい、と農園の苺に手を伸ばす。
「いちご、いちご、ら、ラ? このイチゴはいまいちですぅ、私にふさわしくないですぅ」
 ひょい、とひと口。味見した苺に、むぅと頬を膨らませた甘菓子兎・フレジエはくるり、と攻性植物・ストロングベリーに見て言った。
「こんなイチゴは必要ないから、めちゃくちゃにしちゃってくださぁい」
 これでもう興味はないとばかりに少女はその場を去る。
 来た時と同じように、とん、と一歩は軽やかに。魔空回廊の中へと消えた。
●なんだか……とっても苺なのです
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は集まったケルベロスを見ると、状況に変化が起きたのだと言った。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです」
 攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようだ。
「恐らく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として拠点を拡大させよう……という計画なのでしょう」
 大規模な信仰ではないが、このまま放置すればゲートの破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまうだろう。
「防ぎましょう。なにせ、状況を掴めたのですから」
 敵の侵攻を完全に防ぎ、反攻に転じる。
 これを、武器とするのだ。
「今回現れるのは、甘菓子兎・フレジエという名の攻性植物です。配下を引き連れて、大阪府近郊のいちご農家に現れるようです」
「苺……?」
 眉を寄せたのは三芝・千鷲(ラディウス・en0113)だ。
 苦笑ひとつ、レイリはこくり、と頷いた。
「はい。苺です。ストロベリーなんです」
 むー、として見せたのは一瞬、この辺りです、とレイリが指差したのは大阪府の近隣だ。
「こちらが到着する頃には甘菓子兎・フレジエはすぐに撤退するため戦うことはできません」
 だが、配下のストロングベリーがいちご農家に襲いかかる所には駆けつけることができる。
「甘菓子兎・フレジエは勝手に苺を食べて、その上、配下のストロングベリーに農園を襲撃するように命じるようで」
 農園には、幸いお客はいないようだが農家の人々がいる。
 三代で運営されている農家で、ビニールハウスが複数ある。今の時期は家族総出で苺を見ているらしく、学校から帰って来た子供たちも手伝いに入っているらしい。
「対策を取る必要はあるかと思います。大切に育てた苺ですから、無茶をされる可能性もあります」
 敵から一番近いハウスにいるのはおじいさんだ。
「その昔、クマと戦ったことがあるとかないとかそんな感じの方でえっと……少々、勝気な方なので……」
「説得か、丁重に避難……撤退していただくかしないとだめってことか」
「はい」
 千鷲の言葉にレイリは頷いた。
「敵はストロングベリー2体。高い攻撃力を持ち、攻撃では近距離、遠距離を使い分けて連携を行って来ます。反面、防御力はさほど高くないようです」
 近距離では、拳による攻撃。
 遠距離では、苺の形をした爆弾を召喚するという攻撃を行ってくる。
「戦場となるのはビニールハウスの前、この芝生になります。普段はいちご摘みのお客さんたちが車を止めたり、集まったりする場所なので戦うには十分な広さがあります」
 今から行けばビニールハウスの中に敵が入る前、入り口におじいさんが出て来た所に駆けつけることができるだろう。
「甘菓子兎・フレジエの目的は分かりませんが、放置はできません」
 それと、とレイリはケルベロスたちを見た。
「無事に終わったら、農園に併設されているカフェに行くのはいかがですか? 今回の件で、周辺には避難指示を出してしまうのでカフェ用に用意した苺が勿体無いことになってしまうと思いますので……」
「あぁ、パフェが美味しい所か」
「千さんはお口にチャックです!」
「あれ。レイリちゃん厳しい」
 ぱち、と瞬いて笑った見せた千鷲を横目に、コホン、とひとつ咳をしてレイリは集まったケルベロスたちを見た。
「撃破をお願いいたします。たくさん育った苺のためにも、何を考えているにしても敵の好き勝手にされるわけにはいきませんので」
 では行きましょう、とレイリは言った。
「皆様に幸運を」


参加者
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
リヒト・セレーネ(玉兎・e07921)
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)
ブランシュ・エマイユ(春闇・e21769)

■リプレイ

●ストロングベリー
 ドン、と何かが崩れる音がした。風一つない青空の下、響くにはあまりにーー異常だ。
「何があ……!? お前ら、何をしている!」
 転がるように外に出てきた老人に、破壊者たちーー2体の長躯が見えた。
「!」
 それは、人ではなかった。蔦で編み上げたかのような体に、頭部は苺のそれだ。体にもある淡い色彩も苺なのか。なら、あの腕から出ているものは。細く、変色したそれはーー。
「……ッ」
 動かなければ、とそう強く思ったその時ーー音がした。
「今日もロックにケルベロスライブ、スタートデース! イェーイ!」
 盛大にかき鳴らされるギター。
 こちらを向いていた長駆たちが、一瞬その動きを止めていた。
「あ、あんた……、あんた達は!?」
 突然、目の前に割り込んで来た者に驚いているのだろう。目を白黒させる老人に、 七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)は言った。
「ケルベロスです」
 事情と共にここは危険なのだと告げるさくらに、だが、と返る声が跳ねる。
「大事な苺達を置いては……っ」
「大丈夫! おじいさんが大事に育てた苺は、わたし達が守るから!」
「!」
 なぞるように、守る、と響いたおじいさんの声に「勿論デース」と声を響かせたのはギターと共に登場したシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)だ。
「畑を荒らす奴は絶許ですよ」
 自身も農家である大粟・還(クッキーの人・e02487)の声が静かに響く。
「おじいちゃま」
 一度だけ振り返って、ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)は言った。
「クマとも対峙できちゃうおじいちゃまの男らしさで、苺を育てるご家族や苺を楽しみに来たお客さんを支えてあげてネ」
「いきましょう、おじいさん。千鷲くん、避難を手伝ってもらえると嬉しいわ」
「仰せのままに。何でもいいつけて」
 三芝・千鷲(ラディウス・en0113)はそう言って頷いた。
 おじいさんの手を取り、さくらは歩き出す。敵には背を晒しーーけれど、そこに不安は無い。
「一度、宜しくね」
「うん。避難誘導はお任せするね!」
 リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)はそう言って、息を吸う。た、と駆け出した3人を追うように緑の長駆ーーストロングベリー達が動き出した。しゅ、と腕を構え、足をあげーーダッシュで。

●ストロングらしい
「いやーんっ、苺なのに、苺なのに可愛くない~っ!」
 思わずムズカが声を上げる。
 シュタタタタ、と走りだしたストロングベリーは何というか、やたらめったらポーズが決まっているわけで。
(「僕も苺は大好きだから余計に許せない。ところでストロングベリーって、あの緑の? ……苺、なのに……」)
 軽いショックを受けながら、く、とリヒト・セレーネ(玉兎・e07921)は顔を上げる。瞬間、先を行くストロングベリーがパチン、と指を鳴らした。
「来ます!」
 警戒の声と同時に、苺型ボムが召喚される。場所はーー前衛だ。ぶわり、と爆発したボムからぶわりと甘い毒が前衛へと吐き出された。
「大丈夫ですか?」
「うん、これくらい全然大丈夫!」
 ブランシュ・エマイユ(春闇・e21769)の声にリィンハルトはそう言って顔をあげーー行く。
「農家さんがたんせい込めて作った苺をどうにかなんてさせないよ! 苺な敵さんでもだめ!」
 攻撃の対象はーー正面。先の一発を打ち込んで来た方では無い、一撃を残す相手。伸ばす手よりも踏み込みはリィンハルトの方が、早い。細身の体に、きらと白髪を靡かせ構えたのはルーンの刻まれた斧。
「!」
「勝手に食べた上にめちゃくちゃにしようとかぜったいゆるせないんだから~!」
 ガウン、と振り下ろす一撃が、ストロングベリーの肩に沈んだ。暴れるように身を捩る敵に、リィンハルトはとん、と身を横に飛ばす。続く、仲間がいると分かっていたから。
「無断で食べていく、うえに……壊そうと、するなんて」
 ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)の突き出した一撃が、ストロングベリーを貫いていた。ゴウ、と衝撃が空に抜け、爆ぜた力は麻痺を敵の体に刻む。僅かに鑪を踏んだ長駆がその身を揺らし、身を前に出す。来る、と迫る感覚にハンナは身を逸らす。空を切ったのは足。蹴り……、と思った次の瞬間、風が、生まれた。
「竜巻……」
 呟き落とす娘の前、甘く香る竜巻が叩きつけられた。
「回復しますね」
 ブランシュのその声に、ストロングベリー達の視線が、殺意がこちらを向く。
(「それでも……」)
 紡ぎ落とされるのは癒しを生む風。あの竜巻とは違う、癒しと祓いの力を持つ風。
「美味しい苺も、それを育てた農家の方達の思いも両方守れるように」
 少女はーー癒す。
「ギィ!」
「行かせないデス!」
 ギュイン、とシィカはギターをかき鳴らす。高く響く音と共に歌い上げるのは前に進む者の歌だ。ブランシュへと向いていた敵の視線が、分かりやすくこちらに向いた。ギ、と響いたのはあの体の蔦が蠢いたのか。叩きつけられる殺意は変わらず、だが一瞬、その顔が左を見た。
「!」
「遅いワ」
 踏み込み揺れるは緋紅の髪。新緑の瞳は一点、仲間の攻撃が重なる敵を見据える。
「Change before you have to」
 謳うようにムジカは紡ぎ、敵を過たず、光波を伴い翔け穿つ。それは螺旋を描き咲く淡紅色の小花にも似た、鋭い一蹴。
「ギ!?」
 衝撃に、敵の蔦が弾け飛ぶ。落ちた白い苺は青白い光と共に消え、かわりにぐわり、と苺の口が開いた。
「ギィ」
 蔦が蠢く。地を踏むストロングベリー達に震えるように砂が飛ぶ。
「おじいさん達が一生懸命育てた苺を必要ない、だなんて」
 前衛へと、癒しと守りの陣を描き、リヒトは言った。
「台無しにするようなことそんなひどいこと、させない」
 溢れる光と共に癒しは満ちる。
「一般の方に被害が出ないのはもちろん、畑も絶対に荒らさせませんよ!」
 タン、とネットにひとつ心暖まるエピソードを投稿すると、ふわりと還の手元から盾役のシィカへと癒しと加護が届く。
「るーさんもディフェンダーで」
 頷きの代わりにウイングキャットのるーさんが翼を広げる。溢れる草の匂いに、ほんの僅かに眉を寄せ、息をつく。
「じゃぁ、次も行きましょうか」
 スマホをポケットに。握る拳に、シュタン、とストロングベリー達が動いた。

●甘風
 戦場は加速する。剣戟の音は大きく、草と甘い果実の香りの中ーーケルベロス達は駆ける。シィカとリィンハルトの一撃がストロングベリーを撃ち抜けばぐらり、と長駆は崩れ落ちる。地に着くより先に、残る一体が接近を狙う。ーーだが。
「……どこにもいっちゃ、だめよ」
 ひとつの力が、それを押しとどめた。
 それは鮮やかな紅い糸。踏み込み、加速する筈のストロングベリーがその腕を振り下ろせぬままに締め上げられる。絡みつき、離さない。
「ずーっと、ここにいて? ね?」
 それはーーさくらの紅絆。
 ギ、と軋み、威嚇を紡ぐ敵にさくらは微笑んでみせた。
「うまく、いったの、ね。よかった……おつかれさま」
「うん。手伝いに来てくれた人たちもいたし、大丈夫。キープアウトテープも念のため仕掛けておいたから」
 安全圏までの誘導は完了した。おじいさんの説得が先に済んでいたお陰だ。駆けつけてくれた仲間も手伝ってくれた。泰地の呼びかけに最後の人々も安全圏への避難を終えた。
「みんなも、無事でっておじいさんから」
「勿論、だね」
 リィンハルトはそう言って笑った。ひとつ息を吸い、シャドウエルフ特有の場を形成する。殺界に一般人は近づいては来ないだろう。
「残りは一体だし、あとひと頑張りだね」
「えぇ。行きましょう」
 リヒトの言葉に頷いて、ブランシュは癒しを紡ぐ。駆け出す為の力を、倒す為の癒しを。相手の攻撃は強力ではあるがーー対策はしてきた。盾役のシィカ、還、そしてサーヴァント達が上手く立ち回っているお陰で全体の傷は少ない。
(「その分、ディフェンダーの二人の傷はある……」)
 けれど、癒せる。届く。高い回復力で支えられた戦線は、時に、敵の攻撃を真正面から受けようとも、そのまま前に出るのだ。爆風の中、前へ。甘い風を振り払い、一撃をーー叩き込む。
「ここだっ! ハンナちゃん行くよー!」
「えぇ……」
 間合いへと踏み込んで、リィンハルトが紡ぐのは檻の術式。紡ぎ上げられた言の葉と共にリィンハルトの力は解放される。
「刺し注げ、檻の熾雨」
「!?」
 逃れるようにストロングベリーは身を捩りーーだが、熾雨は敵を逃さない。
「ギ!?」
 蔦が砕け、草と古い骨の匂いを零しながらストロングベリーは身を揺らす。逃げられぬならば、と地を蹴り、狙うは突破か。だが、その足がーー貫かれていた。
「!」
「外さない……わ」
 それは鋭き水剣。
 聖寵カタリナの名のもとに、水龍に力を乞い顕現した細剣は敵を深く、深く刺し貫いていた。
「ギ、ギィイ」
「ひとつ、追加だよ」
 戦場は熱を帯びて行く。
 千鷲の一刀が、雷光と共に制約を深く刻む。爆ぜた光に、リヒトは選ぶ。次の一撃、重ねる制約を。
「ギィイ!」
「美しいターンですか」
 ストロングベリーのポーズに咄嗟に還はスマホを構える。短いシャッター音は聞こえた気がしたがーー衝撃も一緒だ。
「っと。まぁ、そうですね」
 前衛を巻き込む竜巻に、毒が滲む。は、と吐き出した息にるーさんの回復が届く。そのまま距離を詰めようとする敵に、還は拳を握った。
「回復を……! あと、少しです」
 た、と前に行く還を見送りながらブランシュは回復を紡ぐ。敵の攻撃、先の一撃も最初ほどの威力を有してはいない。癒し手であれば分かる。その感覚に、だからこそ最後の瞬間を駆け抜ける為に癒しの風をーー紡いだ。
 ガウン、と還の拳が落ちる。敵の踏み込みに、その蔦を砕き貫くほどの勢いで拳が沈みーーぐらり、と大きく傾いだそこにリヒトは踏み込んだ。
「ここから先には、行かせない」
「!」
 接近に、気がついたストロングベリーが動く。パチン、と指を鳴らそうと伸ばした手はーーだが、リヒトに払われた。腕ごと、上へと、一撃。その勢いのまま如意棒を回し開いた胴へと叩き込んだ。
「!」
「続けていくデス」
 シィカは空を蹴る。踏み出した摩擦で炎を纏い、叩き込むのは強烈なーー蹴りだ。ガウン、と一撃が蔦に沈む。跳躍から着地したのは軸線を開ける為。そこを駆けるのは、雷光。
「いくよ」
 さくらの一撃が、ゴン、とストロングベリーに沈んだ。次の瞬間、莫大な雷が流し込まれる。光に、衝撃に揺れる最後の一体に、ムジカは飛んだ。
「蹴りならアタシも負けないんだからっ!」
「!」
 接近に、ストロングベリーは身を飛ばす。逃げるように動く足は、だが制約によって地面に縫い付けられた。一瞬。だが、それだけあればムジカには十分だ。ヒュン、と鋭い蹴りが蔦に沈みーー、大きくその身を揺らしたストロングベリーは崩れ落ちていった。

●とりぷるすとろべりー!
 心地よい風が、戦いの終わりをケルベロス達に伝えていた。
 ストロングベリーが腹に収めていた頭蓋骨は、倒れた彼らと共に完璧に消えてしまった。悠乃が撮った写真だけが、あの頭蓋骨を記録していた。
 無事に討伐は完了した。と、なれば。次はそれはすぺしゃるな苺と幸せなデザートたちが待っているわけで。
「お楽しみのパフェですね!」
 還の言葉に、誰もが笑みを見せた。
 カフェは吹き抜けを利用した広い空間だった。まるでそこだけ別世界のようだ。室内で休む苺をくわえた風見鶏がくるりと回る頃にはやってくるのはお店自慢の三色苺パフェ。大粒の真っ赤な苺に、ふんわりピンク色の苺にーー真っ白な苺だ。三色の苺をトップに飾るパフェのグラスには苺のホランボワーズが姿を見せる。
「食べる前に写メ撮って『姉妹で苺パフェなう!』って呟いておこうっと」
「私もとって送ろー」
 さくらの言葉に頷いて、二人一緒に写真をとる。乗せるコメントは『お姉ちゃんと苺デート!』だ。ピコン、と完了の音が二つ重なって思わず、笑みが溢れた。
 しかし見れば見るほど確かにパフェにいるのは白い苺だった。
(「苺は赤いのしか知らなかったから、白い苺はとても不思議」)
 なんだか不思議と零したベラドンナが、ひょい、と一口パフェをすくう。
「あーん。たべてたべてー」
「あーん」
 ぱく、と食べれば甘酸っぱい苺とえへへーと笑う妹の姿。ふ、と笑みを零してさくらも一口すくったスプーンを差し出した。
「お返しに。あーん」
 甘えて、甘やかして。
 今日は甘い苺と可愛い妹を独り占めだ。

「すごいわ……苺が、白い」
 感動してパシャり、とハンナは三色苺パフェをスマホに収めた。
「フォルティカロ嬢に……見せてあげようと、思って」
「喜ぶんじゃないかな。いつかは食べに行きたいんだーとか言ってたからね」
 レイリの姿を思い出して千鷲は笑った。甘いもの好きの男の前にも苺のパフェがちょこん、と乗っていた。
「いただきます」
 ぱくり、と一口、口にすればぎゅっと詰まった甘さに抜ける酸味の後味。
「ちいさなしあわせ……」
 思わずハンナは顔を綻ばせた。あっという間に食べ切ってしまいそうなのを我慢して、ゆっくりと味わっていればカウンターにいくつかリボンのかかった菓子が見えた。何か持ち帰れるものはあるだろうか。真面目な彼女だけれど女の子だもの。
「おみやげ 差し上げたいの」
 よろこんでくれるかしら? とおずおずと尋ねるハンナに、勿論、と千鷲は笑った。

「三色苺パフェ!」
 贅沢にひとりで二つ注文したシィカは満面の笑みを見せた。
「平和な一時にはおいしいスイーツがぴったりなのデス!」
 頬張る娘の笑みはとろけるように。あのね、と姿を見せたのは農園の子供。ギターのお姉ちゃんに、と苺をひとつプレゼントだと差し出した。
「るーさんの分のパフェもお願いします」
「!」
 畑の見学を終えて戻ってきた還の言葉に、ぴん、とるーさんも耳を立てる。三色苺のパフェには、大粒の苺がキラキラと輝いていた。


 目移りしてそわそわするアザリアに、ふふ、とブランシュは笑みを浮かべた。
「いいですよ。私もタルトとケーキ、気になってました。ちょっとずつお裾分けし合いましょ」
「ど、どっちも…食べちゃって良いかしら」
 勿論、と返る笑みに顔を綻ばせて、それじゃぁととびっきりの苺の時間を。タルトにケーキ、パフェに大粒の苺が顔を見せる。
「ブランシュちゃん、リアのタルトとケーキ分けてあげるから……、パフェ、ちょっとだけ貰っても良い?」
 フォークを握りしめてじーっと見れば、返るのは優しい笑み。ぱくりと二人分け合えば、広がるのは苺の程よい甘さと酸っぱさ。
「ふわふわ幸せな気持ちです」
「えへへ。リアはね、甘いものをブランシュちゃんと一緒に食べられて、ほわほわ幸せな気持ちよっ」

 メニューを片手に、ひょいと熾月はリィンハルトを見た。
「あのね、あのね。一個をみんなで一緒に食べてまたその後にもう一個追加で頼まない?」
 ひとりずつ頼むより皆で分けあう感じがいいなって、とへらりと笑えば、ぱぁとリィンハルトも笑みを見せた。
「みんなでいっしょにたべるのもだいすき。足りなかったらまた頼めばいいもんね♪」
 ひょい、とファミリアのぴよはメニューに腰掛け、熾月の横、ロティは椅子に座ってパフェを待つ。さぁ、後はコン、と置かれた三色パフェひとつ。ふたつのスプーンで、みんなで楽しんで。
「あ、ぴよちゃんまって~今とるからっみんなでいっしょにパフェ、いただきます♪」
「しあわせのパフェいただきま~す」

「そういえば、熊と戦ったことあるんですか? 僕の爺ちゃんも強いけど、熊と戦えるのは凄いなぁ」
「ほうお前の爺さんもか。ふ、なにせあれは俺がまだ腰を一発やってない頃で……」
「おじいちゃん。もう、話し出すと長くなっちゃうんだから……」
 立ち上がって語り出した父親にため息交じりにそう言って、店長はリヒトにパフェを出した。三色の苺にひとつ目を引くのは、小さく赤い苺たち。
「おじいちゃんのお話を聞いてくれたお礼に」
 ふふと笑った店主にスプーンを受け取れば、リヒトの前には苺のパフェ。
「層になってるんだ。綺麗だなぁ」
 何だか僕だけじゃ勿体ない、とリヒトは思った。宝石みたいな苺を見つめながら、次は双子の兄も連れて来よう、と。

 二人の前、やってきたのは三色苺のパフェに、真っ赤なストロベリータルトと苺ミルク。
「ムゥ、はい、あーん」
 パフェを一口差し出して。ぱくり、と食べたムジカの幸せそうな姿をじーっと見つめ、市邨は幸せそうに顔を綻ばせた。
「苺、綺麗な紅だね、ムゥの色。食べるのが勿体ないくらい」
「綺麗でつやつや苺ちゃんは食べちゃうのがしあわせヨ?」
 そう言って、あーんにはお返しのあーん、を贈りムジカはやわい笑みを浮かべた。
「あのネ、おじいちゃん達の想い詰まったとっても美味しい苺だケド、市邨ちゃんと一緒だからしあわせの味なの」
 瞬きはひとつ、吐息を零すように笑みを紡いで、ねぇ、と市邨は囁き告げる。
「帰る時に苺を買って帰ろうか」
 ジャムとか、お菓子とか、そのまま喰べても屹度美味しい。
「家でも一緒に苺を喰べよ。もう少し、ムゥの倖せそうな顔を眺めて居たいから」
 幸せな時間はあと少し。とびっきりの苺と共に続きそうだ。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。