悪しき胞子の流落

作者:澤見夜行

●巨大植物の進撃
 それは突然現れた。
 春風舞う四月下旬、大阪。柔らかな陽光が降り注ぎ春を謳歌する人々が、今日と言う平和な日常を営んでいた。
 来るゴールデンウィークの予定を考えながら心を弾ませる人々は、不意に陰った空を見上げる。
 歪にねじ曲がる空間。音も無く、何もない空間から巨大な影が現れる。
「な、なんだ、あれは……」
 唖然と見上げる人々をよそに影が実態化する。
 胎児のようなものが透ける肉厚の花びらが沢山連なり華のように形づくり、その根元から触手のようなナイフの根が伸びる。
 そう、それはまるで植物の海月。空中に浮遊し、宙を泳ぐ植物の海月だ。
 そして何より目を惹くのはその巨大さだ。
 三階建ての家にも及びそうなその巨体が乱れる触手根を動かしながら、宙に浮いているのだ。
 現れた巨大植物は止まることを知らず、立ち並ぶ電柱や信号機をなぎ倒し、進路場の建物を粉砕して進む。
 飛び交う怒号、逃げ惑う人々の悲鳴。
 春の平和を謳歌していた大阪の市街地は、巨大植物の出現によって一瞬にして地獄と化したのだった――。


 集まった番犬達を前にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を始める。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようなのです」
 資料を見れば、動き出した攻性植物達は、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようだ。
「おそらく、大阪市内で事件を多数発生させることで一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだと思うのです。
 大規模な侵攻ではないのですが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまうのです。
 それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければならないのです」
 クーリャは一度そこで区切ると、モニターに敵の情報を表示し続ける。
「今回現れる敵は、サキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内へ出現することが予測されているのです。
 大阪市民と市街地に被害が出る前に、サキュレント・エンブリオの撃破をお願いするのです」
 続けて周辺状況と敵の詳細情報をクーリャは伝える。
「サキュレント・エンブリオは一体のみで、配下はいないのです。
 出現位置は確認されているので、出現後の市民の避難などは、警察と消防の協力で行えることになっているので心配いらないのです」
 市民の避難はあまり考えなくてもよさそうだが、その分市街地での戦闘になる為、市街の被害は少なからず出てしまうことがわかる。
 被害を少しでも減らす為には、短期決戦での撃破が必要になってくるだろう。
「サキュレント・エンブリオの出現地域周辺は、中高層の建物も多いので、攻撃時の移動経路として使用することができると思うのです。
 また、電柱などを利用して、戦場である市街地を立体的に使う事ができれば、有利に戦えるかもしれないのです」
 クーリャのいうように、相手は浮遊する巨大植物だ。攻撃を当てるためにも立体的な機動が必要になってくるだろう。
 それに市街の被害は、最終的にヒールで回復することができる。今回の戦いは確実に、素早く撃破できるような戦い方が必要となるだろう。
「サキュレント・エンブリオはそのナイフのような触手根で切り裂く攻撃や、周囲を薙ぎ払う攻撃、触手根を全て動員した全力攻撃を行ってくるのです。
 巨大さゆえにその攻撃もダイナミックになりそうなので、注意してくださいなのです」
 説明を終え、資料を置いたクーリャは番犬達に向き直る。
「多くのケルベロスの皆さんが警戒していた、大阪城周辺を占拠する攻性植物の軍勢との戦いになるのです」
 今回、敵の動きが事前に察知できたのも、番犬達の警戒のおかげだとクーリャは手を握る。
「この頑張りを無駄にしない為にも、確実に敵を打ち倒して欲しいのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げて、クーリャは巨大攻性植物に挑む番犬達を送り出した。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●出現
 春の陽光が降り注ぐ大阪市街地。
 予知された現場へと番犬達が降り立つ。周辺はすでに蛻の殻だ。警察や消防による事前の避難誘導がしっかりと機能しているようだった。
「高所が舞台とは。
 今回はいつもと一風変わった戦いになりそうだね。くひひ、楽しみだ」
 出現ポイントは地上で待ち構える九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が独特の笑い声を上げながら楽しげに口を開いた。
 番犬達はそれぞれが考えた接敵ポイントに移動している。
 それはたとえば、立ち並ぶビルの上だったり、或いはそのビルの内部に潜む。
 幻やルーク・アルカード(白麗・e04248)、そして死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)のように地上で待機する者もいる。
 各々が、油断なく準備を終え、攻性植物の出現を待っていた。
 強くなってきた陽射しが、無音の市街地を焼き付けていく。
 そして幾許かの時の後、虫の声が止まった。
「現れたな」
 ルークが武器を構え、何もない空間を睨めつける。
 すると、突如市街地に影が伸び、陽光を塞いでしまう。何もない空間が、一瞬震動したかと思えば、歪を持って周囲の空間をねじ曲げる。
 刹那の間を持って、魔空回廊を通った巨大攻性植物サキュレント・エンブリオがその姿を現した。
 無数に蠢く触手はナイフのような刃物が伸びていて、あらゆる物を切り裂く輝きを反射させる。
 その上部には何かの種子のような物が詰め込まれており、中には胎児を思わせる影像が浮かんでいるのがわかる。
「……プラブータで見たオグン・ソード・ミリシャ並みにグロテスクね」
 高層ビルの屋上から攻性植物を見下ろす円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)がオウガの母星でみた狂気のデウスエクスを思いだし感想を漏らす。
「花弁の中の胎児みたいな奴……這い出てこないわよね?」
 想像して、瞬間背筋が震えるのがわかる。そうならないように祈るのみだ。
「なんか何処かで見たことあるような……。
 大きい個体敵は何度か相対したことあったけど、ここまでは流石になかったような気も……。とりあえず、被害が大きくなる前にさっさと倒さないとね」
 同じように高所のビルの上から見下ろすのは、園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)だ。記憶を辿るもそれがなんだったかは思い出せずにいた。
「現れましたね――攻性植物……!」
 攻性植物と因縁を持つ煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)が現れたサキュレント・エンブリオを睨めつける。
 少しずつ、一歩ずつ成長してきたのだ。今日という日の戦いにおいても、ケルベロスとしての力を発揮してみせると意気込んだ。
「でけぇナリして、ふわふわ浮かびやがって」
 高所から見下ろす陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)が攻性植物に毒づく。その見た目のグロテスクさに嫌悪感と共に目を細めた。
「さて、時間もねぇ。……早いとこ片付けるか」
 一度大きく武器を振るって構え、身体に力を入れ仕掛けるタイミングを待った。
「遮蔽物の多い地形なのは僥倖。さて、皆、狩りの時間だ」
 視界を確保できるビルの中で新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)が言葉を走らせれば、それが戦闘開始の合図となる。
 地上にいる刃蓙理がスーッと人差し指を攻性植物に突きつける。
(「ん? まぁ、そうですね……まぁ、ぶっちゃけると苦手分野なんですが……」)
 クイッ、クイッと人差し指を上下に動かして、
「……来なさい」
 と、攻性植物を挑発する。それを見た幻がやっぱり独特に笑って、
「くひひ、いいね。それじゃ私も名乗らせて貰おうか。
 ――雷光団第一級戦鬼、九十九屋幻だ。手合わせ願うよ!」
 グロテスクな海月を思わせる巨大な攻性植物。中空に浮かぶ七メートルにも及ぶ巨体がゆっくりと進撃を開始した。

●立体機動戦闘
 戦闘開始と同時、蠢く触手根が番犬達を襲う。
 その悉くを躱せば、叩きつけられ斬りつけられたビル群が倒壊し、瓦礫を落下させる。
 番犬達は備え持つ防具特徴を駆使しながらビル群を移動し、攻性植物を迎え撃つ。
「いくぞ――!」
 戦場を疾駆し自身の分身の幻影を纏うルークが、一足飛びにビルの壁面を駆け上る。そのまま攻性植物の側面を取るように登れば、力強く壁を蹴り、崩れ落ちる瓦礫を活用しながら攻性植物の死角を狙う。
「――ッ!」
 確かな死角を突いたかと思ったそれは、しかし攻性植物の触手根の対応範囲だ、狙い澄ました鋭き一撃がルークを襲う。しかし――。
(「そこだ! アサシネイト!!」)
 ルークを狙う一撃は分身を直撃し、刹那の呼吸でルーク自身は攻性植物の背後を取っていた。『影遁・暗夜之攻(ファントムレイド) 』――ルークの生み出した必殺の一撃は獲物を逃すことはない。渾身、強烈な一撃が攻性植物の体組織を破壊せしめる。
 落下する中、ルークは地面へと吸い寄せられる瓦礫に飛び移りながら、追加の一撃を加えようとするが、攻性植物が隠し潜めていた触手根を繰り出した。
「ぐっ――!」
 伸びる触手根があっという間にルークを雁字搦めに捕らえる。続く別の触手根が身動きの取れないルークを切り裂く。十分な耐性をもたないルークの肌が鮮血に染まる。
「ルークさん、いま助けるよ……!」
 触手根目がけて藍励が空中を疾走する。落ちる瓦礫を足場にしながら三角錐を描き出せば各頂点から収束した黒い光が触手根ごと破砕する。
 右腕の自由を得たルークは牙とナイフを持って触手根から脱出する。
 それを見届けた藍励が、再度空中を蹴り上げ上空に上がれば、呪詛を載せた美しい斬撃を放つ。
「これは、おまけだよ――!」
 攻性植物の上を取り、放つ霊体を憑依させた一撃は、攻性植物を汚染していく。種子のような物を殴った手応えに藍励は、
「なんだろうこれ、すっごいブヨブヨしてるけど……」
 感触に微妙な嫌悪感を覚えていた。
 攻性植物はゆっくりと進行しながらビル群を薙ぎ払う。その巨大な触手根は鋭く、硬い。慣れない立体機動戦闘の中直撃を貰い肌を切り裂かれる者や、薙ぎ払われる触手根の直撃を受け、グラビティの奔流と共にビルに叩きつけられる者もいた。
 そんな番犬達を支えるのは恭平だ。
「黒き氷壁よ、我らが前の不破の盾となれ!」
 呪句を刻んだ極低温の石壁を生み出せば、仲間達を癒やし、悪しき力への耐性を与える。
 ――感覚を研ぎ澄ませ。オウガ粒子を周囲に広げて番犬達の集中力を高める。
 恭平を厄介と判断した攻性植物が触手根を振るうと、拠点とするビルが破壊される。だが――。
「ふむ、だが予備拠点はあるぞ?」
 瞬時に飛び出し、空へと身を投げれば、中空を踏み込み大きく飛び上がる。次の拠点となるビルに入り込んでは、続けて仲間を守り触手根に切り裂かれた刃蓙理へとグラビティを迸らせる。
「貴殿の未来はまだ途絶えていないぞ」
 占う結果は明るいものか。刃蓙理の傷が癒やされると同時に妨害能力を高めた。
 崩れ落ちるビル群の瓦礫の中を幻が疾駆する。
 信号機を足場にさらなる上空へと舞い上がれば、足場となるビルへと着地する。
 幻は敵が上空へと昇りすぎないように、仲間達より低い位置から攻撃することを選択した。この判断は攻性植物の標的を分散する意味でも効果的で、番犬達に有利をもたらす結果となった。
「そらっ、凍てつけ――!」
 幻の放つ凍結光線が攻性植物を凍結させ蝕んでいく。続けてナイフを取り出せば、ビルから攻性植物へと飛びかかり、傷害増やす一撃を持って凍結を増やしていった。
 一度地上に降り立った幻は、再度跳躍する。攻性植物の側面を取るように飛び上がれば、電柱を足場に二度目の跳躍。
「全身全霊の一撃、受けてくれるよねッ!?」
 紅の雷光が幻の拳を包み込む。攻性植物へと捨て身にも思える吶喊を行いその『気』を渾身の一撃を持って叩きつけた。衝撃に攻性植物が揺れ紅き雷光が攻性植物の神経を侵食した。
「恭平は……大丈夫そうね。藍励――も、大丈夫そう。良かったわ」
 同じ旅団の関係者である恭平と藍励を気に掛けるキアリは、一段と高いビルに陣取り、グラビティを迸らせる。
 理力を籠めた星形のオーラを蹴り出せば、間髪入れずに両手に構えたガトリングガンを唸らせる。
 完全なる破壊をもたらす暴力的なグラビティの弾丸が星屑の様な軌跡を描き攻性植物に飲まれていく。
 継続される攻撃に、攻性植物が嫌がるそぶりを見せれば、引き時だ。すぐに次のビルへと移る。同時に、今までいたビルが音を立てて崩れていく。触手根が襲ったのだ。
「アロンも無事ね。続けて攻撃して頂戴」
 サーヴァントのアロンに指示をだせば、キアリもまた攻撃を再開するのだった。
 地上にいる刃蓙理は激闘の直中にいた。
 降りしきる瓦礫と共に、無数の触手根が縦横無尽に薙ぎ払いを行ってくる。その逃げることすらままならない戦場で、刃蓙理は仲間を守り、有利になるように動いていた。
「刃蓙理さん……お願い!」
「――どうぞ」
 落下してくる藍励の足を刃蓙理がその手でキャッチする。そのまま力を籠めて上空へと投げ飛ばす。ニヤリと刃蓙理が口の端を釣り上げる。
 こうして足場のない場所における立体機動を行わせていた。
 続けて落ちてくる瓦礫を仲間へ向けて投げつければ、それを足場として使わせていた。
 仲間が被害を被れば、刃蓙理はメディックである恭平を手伝うように、治癒のグラビティを迸らせる。
 当然、自分の体力管理も怠らない。仲間を庇い自ら傷つけば、地面に掌をあてグラビティを巡らせる。
「二度と……振り向かない……!」
 大地の恩恵をこれでもかと授かるその力こそ、死道刃蓙理と名乗るケルベロスの本来の能力だ。
 そうして、番犬達が有利に働くように動き回りながら、時に回復し、時にローラーダッシュで駆けながら攻撃を加える刃蓙理の活躍は十分なものだった。
 煉司は素早い身のこなしで、縦横無尽に空間を飛び回る。
 上空から放たれる竜砲弾の雨が攻性植物を釘付けにする。そのまま落下しながら呪詛を一斉解放すれば、手にした簒奪者の鎌が妖気で覆い尽くされ、『妖刀』を形成する。
 引き替えに心身を蝕む多大な苦痛を一蹴すれば、詠唱を紡ぐ。
「……こんなんに飲まれる程、ヤワじゃねぇんだよ……!」
 空中で体勢を変えて落ちる瓦礫を足場にすれば、一足飛びに攻性植物に肉薄し、妖気纏う斬撃を放つ。放たれる瘴気を纏い、切り口から呪詛が攻性植物を蝕んだ。
 触手根が蠢きながら煉司を狙う。その一撃を受けながらも、煉司は攻撃を繰り出す。
「目ぇ付いてるかどうかは知らねぇが……余所見はしねぇ事だ」
 放たれる簒奪者の鎌が円弧を描きながら攻性植物を切り刻む。戻ってくる鎌を手にすれば、刃蓙理の投げた瓦礫を足場に、上空へと再度上昇する。
 伸びる触手根を受け流しながら、再度攻撃を加えにいく。
「凍り付け――ッ!」
 生命の『進化可能性』を奪う事で凍結させる超重の一撃が攻性植物に叩きつけられる。同時に攻性植物全体が凍てつきその身体を蝕んだ。
(「申し訳ありません……ですが、必ずこの敵は倒します!」)
 建物を利用して攻撃を回避するカナ。悲痛そうな表情を浮かべながら心の中で呟いた。
 建物が持たなくなるまで、身を隠しながら攻撃を繰り返し、建物が持たなくなれば中空を飛びながら別の建物へと移る。
「心の痛みを知りなさい!」
 『混沌なる緑色の粘菌』を招来し、攻性植物の肉体を侵食すれば、それは悪夢となって攻性植物を襲う。
 続けて、自由になどさせない――と、半透明の『御業』を生み出せば、攻性植物を鷲掴みにし動きを止める。
「苦しみを知りなさい!」
 鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムが攻性植物を貫いていく。傷口から汚染していく毒が、攻性植物を苦しめる。
 触手根が建物を破壊する。カナは窓から飛び出して空中に身を投げ出した。中空を踏みしめれば更なる跳躍で空を舞う。
「さあ、朱雀! あの敵を焼き払え!」
 空を舞いながら、炎の聖獣・朱雀を具現化し、敵の周囲を飛び回らせる。その様はまさに、朱雀が舞うが如く。立ち上る朱雀の炎が攻性植物を焼き尽くしていった。
 番犬達のコンビネーションが攻性植物を追い詰めていく。
 無数の触手根を全力で振るい、目に映る全てを破壊し尽くさんとする。降りしきる瓦礫の中、番犬達が止めへ向け駆け出した。
 刃蓙理が触手根をその身を盾に防ぎながら、瓦礫を投げ飛ばす。
 煉司と幻が、グラビティを放ち、カナが援護を加える。メディックである恭平も攻撃に加わり敵の防御を打ち破る。
 藍励とルーク、そしてキアリが、ビルの壁面を疾走し、攻性植物の遙か高みへと昇りきれば、重力に従うまま、その身を投げ出した。
 触手根が、三人を狙い伸びる。その悉くを仲間達が打ち払っていく。
 残った触手根がルークを狙うも、それは分身を貫くに留まった。瞬間ルークの身体が消え去って、現れるは攻性植物の裏だ。渾身の一撃が大気を震動させる。
「こいつの金的は――ええいっ、多分この辺り!!」
 攻性植物の上に降り立ったキアリが、勢いを付け、スピードを乗せ、破壊力を補助する感じで蹴り抜けば、それは大きなダメージに変わる。
「時解、弐之型『三攻』――――トライアングル・ストライク」
 障害物を使って中空を駆ける藍励が全身のグラビティを放出しながら三角錐を描き出す。頂点より発する黒き光が、三角錐ごと破砕し全てを飲み込んでいく。
「それじゃ、おやすみなさいだね」
 その一撃は、巨大な攻性植物を仕留めるに至る致命打となった。
 大気を震動させ怨嗟の悲鳴を上げる攻性植物が、地上に落下する。
 番犬達が勝利を確信した――しかしその時、異変が起こった。

●撒かれ広がる胞子達
 地上へと落下した攻性植物が、突如胞子を思わせる何かをばら撒いた。
 次々とばらまかれる胞子達。番犬達が攻撃を加えようとすれば、胞子達は逃れるように空へと昇っていく。
 空へと撒かれる胞子を止める術はない。呆然としながら番犬達がその様子を眺める。
「なに、あれは――」
「これ……あの攻性植物の種なのかな……?」
 カナと藍励が言葉を漏らす。
 空へと昇る胞子達が風に流され飛んでいく。
 見送るしか出来ない番犬達は、意外な戦いの終わりに緊張を解けないで居た――。

 その後。
 番犬達は胞子への対処は後回しにし、周辺の建物をヒールすることにした。対処のしようがない以上、後手になるが異変が起きるのを待つしか無かった。
 崩れ落ちたビル群を一つずつヒールしていく。その胸中は空を飛ぶ胞子に占められていた。
 胞子が、空を舞う。
 建物をヒールする番犬達は、空を漂う胞子達を睨めつけながら、次なる戦いの予感を感じ取っていた。
 空へと広がる胞子が、地上に落ちる時――それが新たな戦いの始まりとなるのだ――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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