●浮游クラゲの川登り
大阪市内……大阪城から見て北のほうに位置する、とある川。
川にかかる橋の一本から少し上流に向かったあたりに、デウスエクスは突然現れた。
全高7mにも及ぶデウスエクスは、一見すると巨大なクラゲのように見えた。
実際のところ、それは攻性植物だった。
上部には半透明の花びらが無数に集まっている。その1つ1つの内部には、まるで胎児のように体を丸めた奇妙な影があった。
そして、下部にはナイフのように鋭い根が無数に生えている。
泣き声とも、咆哮ともとれる異様な声が花びらの部分から轟いた。
両岸に存在する建物の窓が砕け、壁にヒビが入る。
どうやら繁華街になっているらしい川辺の街で、人々が悲鳴を上げ始めた。
無事だった人々が建物の中で逃げ始める。
デウスエクスは浮遊しながら北側の岸に上陸した。
巨体をさらに上回る高さを持つビルの窓から、スーツを着た1人の女性が助けを求めて叫んでいた。
「助けてっ! 誰か……!」
その声が聞こえているのか、いないのか。
攻性植物は彼女がいる建物のそばで、根を振り上げる。
鋭い根が素早くうごめいたかと思うと、建物は一瞬にして中にいた彼女ごと断ち切られ、崩れ落ちていく。
容赦なく人々を抹殺しながら、デウスエクスは近くにある大きな建物……駅へと向かって進んでいった。
●ヘリオライダーの依頼
爆殖核爆砕戦で大阪城周辺に押さえ込まれていた攻性植物がまた動き出したと石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「敵はどうやら大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようです」
大阪市内から一般人たちを避難させ、中心部から徐々に支配領域を拡大していく作戦だと予測される。
「大規模な侵攻ではありませんが、放置しているとゲート破壊の成功率も徐々に低下してしまいます」
まずは敵の攻撃を防がなければならない。
いずれは隙を見つけて反攻に転じる必要もあるだろうと芹架は言った。もちろん、そのための調査なりなんなりをするのは後日の話になるのだろうが。
「私が今回出現を予知したのは、サキュレント・エンブリオという巨大な攻性植物です」
魔空回廊を通じて大阪市内に出現し、浮游して移動しながら破壊活動を行うらしい。
市民に被害が出る前に撃退して欲しいと芹架は告げた。
それから、彼女は今回の敵について説明を始めた。
敵は巨体攻性植物のサキュレント・エンブリオ。7m近いサイズを持つ大型の敵が1体。配下などは存在しない。
「私が予知した個体は、大阪市内にある川に出現し、街を破壊し人を殺しながら、付近の駅にある繁華街に向けて移動していきます」
出現位置は確認されているので、市民の避難は警察や消防の協力で行われるという。
「市街地で巨大な敵と戦うため被害は避けられません。ただ、なるべく被害を抑えるために短期決戦を挑むのが望ましいでしょう」
敵の攻撃手段だが、まずは上部の花びらから泣き声のような音を放つ音波攻撃。これは範囲に有効な攻撃で、プレッシャーを与える効果もある。
それからナイフのように鋭い根で切り裂く近接攻撃が2種。
体を回転させて範囲を薙払う攻撃は、防具を破損させる効果がある。
範囲攻撃でも強力なその根を単体に集中した場合はさらに強力だ。追撃を行うこともあり、体力で劣る者なら一撃で倒される可能性すらある。
「敵は浮遊していますが、その高度は戦闘に影響があるほどではないので気にしなくていいでしょう」
また、繁華街が近いこともあり、そこそこ高い建物が川辺には多くあるし、道路には街灯や電柱なども並んでいるので、足場としてうまく利用すると有利に戦えるかもしれない。
市街の被害は後でヒールできるので、確実に素早く撃破できるような戦い方が望ましいと芹架は言った。
特に余計なことをしなければ、敵が魔空回廊から出現するのと同じくらいのタイミングで現場に到着できるだろう。
大阪城については多くのケルベロスが動きを警戒していた。
「敵の動きを事前に予知できたのも、そのおかげと言っていいでしょう」
機会を無駄にすることなく、確実に敵を倒して欲しいと彼女は頭を下げた。
参加者 | |
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巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677) |
ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320) |
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) |
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004) |
コスモス・ベンジャミン(かけだし魔導士・e45562) |
●降り立った番犬たち
大阪市内にある河川に近い一角、ビルの上や道路にヘリオンから飛び降りたケルベロスたちが次々と着地する。
「ケルベロス参上だ! 窓からは離れてろよ!」
ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)が、声を張り上げる。
翼を羽ばたかせ、あるいはビルの上を飛び移りながら、ケルベロスたちは移動する。
降下の勢いでそのまま攻撃したいと考えていた者もいたが、高空を飛ぶヘリオンからピンポイントで狙った場所に着地するのは、さすがにケルベロスといえども至難の業だ。
「ビルシャナが戦争で敗北したと見るや攻性植物が動くか。ロキの動向になんか関係あんのか?」
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は手にした如意棒、蒼星狼牙棍に問いかけるが、残念ながら反応はなかった。
「……ま、そんな考察、今はいいか。大事なのは、こいつらは俺の姉ちゃんを悲しませやがった野郎の仲間だって事だしよ!」
少年にしても別に期待していたわけではない。
不敵に笑って電柱から電柱へと飛び移る少年の近くでは、彼と同じ色の髪と瞳を持つ少女が飛行している。
「うん……絵梨佳ちゃんのことは、忘れられないよ。だから、攻性植物は絶対許さない」
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は決意を込めて、かすかに青みがかった翼を羽ばたかせた。
わずかな時間ののち、ケルベロスたちは市内を流れる川の上に巨大な攻性植物の姿を発見した。
「ん、ふわふわ、くらげさん……はいいけど……大阪を壊しちゃ、だめ」
聞いていたとおり、まるでクラゲのようなその外見を微睡んでいるかのような目で見て、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は呟いた。
「最近どうも調子付いてんな、攻性植物サイド」
壁を走りながら、巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)の茶色い瞳が敵を見据えた。
「詳しいことは分からんが、気色悪りィ奴だな。とっとと潰しちまおうぜ。外来種は殖える前に刈り取らねェと、なァ!」
ドールイが一声吠え、地獄化した両脚で街灯の上へと跳んだ。
「ああ。まあイイさ。ここはコレ以上進ませねーぜ」
真紀も壁の上へと駆け上っていく。
「大ボスぽいの出てきたし、敵戦力を削ぐには丁度いい」
あまり変わらない表情の裏で、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)は反撃の狼煙にしてやろうと考えていた。
敵に近い場所にあるビルの上にたどり着き、その上に魔法陣を描いているのは、柔和な表情をしたメガネの青年。
「後で怒られないかちょっと心配ですが……」
コスモス・ベンジャミン(かけだし魔導士・e45562)は呟いて、それから怒られるも怒られないも、まずこの建物が無事であってからの話だということを思い出した。
「ここで食い止めないと、大勢の人の命が奪われる! 絶対に阻止しないと!」
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)は叫びながら、まだ動き出していないビルの屋上を蹴ろうとした。
だが、敵の動きはケルベロスたちの誰よりも早かった。
花弁の中から異様な叫び声が響く。
それは物理的な衝撃を伴って建物をガラスのようにひび割れさせ、そして翔たちをビルのコンクリートへと押さえつける。
「ふざけるな! こんなもんでオレたちを止められるか!」
強い圧力に抵抗しながら、翔は改めて跳躍する。
他のケルベロスたちも動き出しており、戦いが始まった。
●猛攻を防げ
オウガメタル粒子が戦場へと広がった。
叫びから煉をかばった後で、オリヴンが放ったものだ。
「地デジも……みんなを守ってあげてね」
戦闘が始まっても、どこかのんびりした調子で彼は自身のテレビウムへと声をかける。
「サンキュー、オリヴン!」
粒子を浴びながら電柱を蹴った煉の前に、氷の壁が現れる。鈴が生み出した氷壁も足場にして跳躍しながら、少年は重力を操る。
飛び出そうとしているノーザンライトの姿が見えた。
「そんじゃ同じウェアライダー同士、合わせてやるとしようぜ、ノーザン! 落ちるんじゃねぇぞ!」
「……ん、了解ぞな」
もう聞き慣れた声が、巨体の向こうから届いた。
斜め下から蹴り上げたところを、飛び降りてきた魔女がさらに蹴り飛ばす。
浮遊する敵は、衝撃を受けるたびに大きく揺れた。
建物の壁を蹴ったドールィが、両脚から地獄の炎を吹き出しながら力をためてまた蹴り飛ばす。
「攻性植物は攻性植物でもこっちのコイツはよーく言うコト訊くいいコだぜ、ってな」
真紀が掌を差し出す。そこには黄金色をした果実が載っていた。光が仲間たちを守る。
コスモスは魔法陣の上で、自身にロッドを向けた。
電撃の衝撃が彼自身の戦闘能力を向上させてくれた。
「てめぇなんてお呼びじゃねーんだよ! すぐにぶっ殺してやらぁ!」
目の前を、翔の体が通過した。
ワイルドの輝きを後に引きながら、少年が華麗に着地する。
回転する敵の根が、ケルベロスたちごと沿岸の建物をいくつか切り裂いた。
フック付きロープで残骸の上を飛び越えながら、オリヴンの押したスイッチが爆発を起こして仲間を鼓舞する。
コスモスは煙に紛れて、ビルの屋上を飛び出した。
オラトリオの翼で、滑空するように敵へと接近する。
普通の敵が相手なら、空を飛ぶことは隙を生む結果にしかならないが、今回は敵の巨大さゆえに多少ならば飛んでも問題ない。
巨体が眼前に迫ってくる。
「何としてでもここで進攻を止めましょう。荒れ狂う雷よ、豪雨の如く降りかかれ!」
魔術書を開くと、敵の頭上に巨大な魔法陣を出現させる。
逆の手に持ったライトニングロッドを掲げると、断続的な雷が植物へと降り注いだ。
自身の起こした雷に当たらぬよう注意しながら、コスモスはそのまま敵の横を通過して地面に降り立った。
ケルベロスたちの攻撃がどれだけダメージを与えているのか、無機質な攻性植物の外見からはよくわからない。
ただ、効いていないはずはない。
「ノーザンさん!」
鈴はノーザンライトを背後から抱きかかえ、素早くビルの上まで飛んだ。
「空を飛ぶのは初めて。記念撮影しなきゃ」
「そんなヒマないですよ。すぐ下ろしますから……あっ!」
呆れ顔をしそうになって、しかし鈴は敵が攻撃態勢に入ったことに気づいて身構える。
金切り声が響いて、近くにあったビルの窓が割れた。
「耳障り」
魔女が吹き飛びそうな帽子を抑える……と、彼女の手元からもガラスが割れる音がした。
ビルの上に着地した鈴は、ノーザンライトを下ろす間も惜しんで回復を……しようとして、魔女が肩を落としていることに気づいた。
「買い換えたばかり……。攻性植物……皆殺す」
「ノーザンさん、落ち着いてください……」
機械弓を魔力で巻き上げている魔女をなだめながら、鈴は空間を操る。
そろそろ付き合いも長い彼女は、ふざけているように見えても頼りになることを鈴は知っている。
狼狽するコスモスの叫びが下のほうから聞こえてきた。
「空間に咲く氷の花盾……皆を守ってっ!」
攻撃を凍結させる空間が、まるで花開くように攻撃を受けた仲間たちに展開する。
鈴自身とノーザンライトと、それにコスモスを氷の花は守っていた。
集中し続ける攻撃を浴びながら、しかし攻性植物はただ飽くことなくケルベロスへ、そして町へと攻撃を加え続けた。
鋭い無数の根が、翔1人へと集中攻撃をかけようとする。
ドールィは、空中を蹴って無理やりその攻撃の前に、己の体を割り込ませた。
強靭なドラゴニアンの肉体が、まるで紙のように切り裂かれる。空中でおびただしい血が飛び散った。
「すまねえ、ガモウ!」
「気にすんな。無理はするんじゃねえぞ!」
楽ではないが、彼の身を包む義骸装甲はよく攻撃を防いでくれている。
「ブチ落としてやんよ!」
真紀の声が聞こえた。ビルから降下しながらの飛び蹴りが、また敵の動きを鈍らせる。
一瞬だけ翼を広げて位置を調整しつつ、ドールィは両脚を補う地獄の火力を上げた。
「歯ァ喰いしばれェ!」
宙返りをしながら、猛然と蹴り上げる。
回転するドラゴニアンの前で表皮が砕ける。衝撃は敵の巨体を開けた空間へと飛ばした。
「デカい上ドールィたちが足止めしてくれているし、祭りの屋台の射的より楽勝」
ビルの上に伏せた魔女は、隙を逃さず2つ束ねた弓から矢を放ち、敵を貫いた。
「串刺しになりやがれ!」
槍のごとく固めた包帯で、翔も敵を貫いている。
真紀は敵から距離を取りつつ、ビルの壁へと着地する。
攻性植物の攻撃は、中距離を移動する彼女には届かない。
踊るようにリズミカルな動きで壁の亀裂を避け、少女は傾いた建物を駆け昇る。
足止めはそろそろ十分。
敵を見下ろせる高さから、真紀はライフルを構えた。
「逝かせてやるよ、大紅蓮!」
練り上げた氷結の螺旋をライフルから放つ。
ただの螺旋ではない。
通常の氷縛波と使い分けられるよう、独自に開発したその技は、エンブリオの巨体に氷の棘となって突き刺さった。
●空から落ちるクラゲ
攻防は続き、ケルベロスたちの攻撃は巨大な花弁や根を少しずつ削っていっていた。
なるべく建物を壊さないよう気をつけている者もいたが、攻撃の余波は少なくないビルを残骸に変えている。
翔はそんな建物の間を駆け抜けて、敵の下へと接近する。
「植物に命を刈られるわけにはいかないんですよね!」
コスモスの叫びが上方から聞こえた。
撃ち込まれた弾丸によって敵が凍結し始める。
その、凍った場所へと翔は腕を向けた。
「捉えたぜ……! ……肉片も残さねぇ……跡形もなく消えやがれ!」
混沌で構成している腕が、まるで機械仕掛けであるかのように砲へと変化していく。
「このまま消し飛ばしてやるぜぇ!」
叫びとともに放った混沌のエネルギーは、避けようとする敵を追いかけ、貫いていた。
ゆらゆらと揺れながら、敵が煉に近づいていく。
無数の鋭い根が彼に向かってうごめく。
オリヴンは地デジが差し出した手を足場に跳躍し、煉をかばった。
巨大な敵の攻撃力は高かったけれど、彼と地デジ、そしてドールィはその攻撃からよく仲間たちを守っていた。
「ゆら、ゆら。揺らいで」
翡翠の色をしたゆらめく光がオリヴンの周囲に集まってくる。
根に切り裂かれた体の傷が、暖かな光の中でゆっくりふさがっていく。
「レンちゃんを守ってくれてありがとうございます」
「ううん……気にしないで」
鈴が盾をオリヴンの前に展開してくれた。さらに、ボクスドラゴンのリュガも属性をインストールして守ってくれる。
まだまだ、戦うことができそうだった。
煉はかばってくれた彼に一瞬だけ手を挙げ、蒼星狼牙棍をビルに向けた。
一気に伸ばした棍を窓に引っかけたまま縮めて、煉は自分の体を持ち上げる。
「だいぶ壊されちまったな……ちっ、急がねぇと」
地獄の炎をフリントストライカーにまとわせ、少年は痛烈に蹴りを叩き込む。
巨体に見合う敵の体力も無限ではない。
真紀やコスモスが氷漬けにして、さらに体力を削る速度をあげている。
幾度めか、真紀が放つライフルの冷凍光線と、コスモスの時空凍結弾が、サキュレント・エンブリオの体を凍らせる。
「その気持ちわりぃ身体をバラバラにしてやらぁ!」
翔が混沌をまとわせた武器で攻性植物を切り裂いた。
敵はひるむことなく体を回転させ、ケルベロスたちを断ち切ろうとする。それが、最後のあがきだった。
だが、前衛を仲間たちを切り裂こうと迫る根を、ドールィとオリヴンが体で止めた。
「いい加減、倒れてもらうぜ!」
オリヴンのオウガメタルが鋼の鬼と化して敵の装甲を貫くのと、ほとんど同時にドールィは叫びながら地獄の炎で蹴り上げる。
「絵梨佳ちゃんを助けられなかった無念の炎は、まだわたしの中で燻り続けてる……」
吹き飛んだ先で、待っていたのは天使と狼の姉弟だった。
「あなた達を地球から追い出す日まで、わたし達は負けません。絶対に」
鈴の右腕に白い光が宿っていた。
「人の心を、尊厳を汚す緑の悪魔共。てめぇらに真の絆って奴を教えてやる!」
呼応する煉の右腕には、蒼き炎が燃え上がる。
「いくぜ姉ちゃん!」
翼を羽ばたかせてビルから降下する鈴と、まったく同じタイミングで煉は壁を蹴って敵へと迫る。
「これが俺(わたし)達の絆っ!」
2人の声が合わさって、そして白と蒼が交差した。
ノーザンライトは、2人の拳が同じ場所にヒットするのを、機械弓の先に見た。
「花弁が剥げてきた……本体は、そこ」
魔力でなければ巻き上げられない張力を持った弓は、とうにひとりでに巻き上がっている。
「外さない……。受けろ、心蝕む呪いの矢」
漆黒の矢が飛び出した。
2人の叩き込んだ輝きが交差する、ちょうどその場所へ呪いの矢は突き刺さる。
刺さった瞬間、粒子と化した矢が崩れて敵の内部へと吸い込まれていく。
そして、攻撃のためではなく、苦痛のため……断末魔の悲鳴を攻性植物が響かせる。
無表情に手を振ってみせるノーザンライトに、鈴と煉は手を挙げて応じた。
●降り注ぐ胞子
サキュレント・エンブリオが動かなくなった。
ノーザンライトが覗き込む。
「ぅぇ……本当に、植物ぞな?」
嫌そうな顔をしたその時、敵が爆発した。
吹き出した胞子に魔女の姿が覆い隠されたかと思うと、止める間もなく街にそれが降り注いでいく。
「なんだぁ、今の?」
真紀が自分のところにも飛んできた胞子をながめて首を傾げる。
「わからんな。おい、無事か、ノーザン」
「……たぶん」
ドールィの問いに、ノーザンライトが応じた。
表情が変わらないのでよくわからないが、どうやらダメージはなさそうだ。
「敵の正体につながるなにか……なのかな。少しでも回収できたらいいんだけど」
穏やかな調子に戻った翔は降り注ぐ胞子を見上げる。
「防ぎようもありませんから、今はこのままにしておくしかないでしょうね。まずは、壊れた建物を直しましょう」
コスモスの言葉に、仲間たちが頷いた。
できる限り修復しようと、ケルベロスたちはそれぞれにヒールの技を使い始める。
オラトリオの翼を広げて、鈴は建物をヴェールで覆った。
修復しながら、彼女は敵の拠点である大阪城を見上げる。
「大丈夫か、姉ちゃん?」
問いかけられ、弟へと振り向いた少女の表情が少しだけ和らぐ。
「うん……大丈夫。ただ、改めて……許せない、って思っただけ」
直っていく建物を背に、鈴は煉へと答えた。
できる範囲で修復を終えると、ドールィは物陰で一服し始めた。
「次に動くのは攻性植物か。やれやれ、何を始める気なんだか……」
「わからないけど……早く全部とりもどせると、いいね」
呟きを聞きつけて、オリヴンが告げる。
それは、たぶん誰もが思っていることだ。
大阪城は、ただ静かにケルベロスたちを見下ろしていた。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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