誰が為にイチゴはなる

作者:柊透胡

 初夏の気配さえ感じる陽気。長閑なお昼時の陽射しを浴びて、ひらひらふわふわの小柄が、スキップスキップらんらんらん♪
「タイカンとリズムカンのトックンですぅ♪ みんなでイッショにガンバるですぅ♪」
 スキップスキップらんらんらん♪
 一見は愛らしい兎ウェアライダーの少女に続く、2体の大柄は所々に人骨を埋めた全身緑。やはりスキップらしい足取りはのたのたとぎこちないが、文字通りのイチゴ頭の所為か、文句が出る様子もない。
 スキップスキップらんらんらん♪
「うふふっ、イイニオイですぅ♪」
 やって来たのは、郊外のイチゴ農園。居並ぶビニルハウスには、どれも紅色の果実が鈴生りだ。
 勝手に手を伸ばした少女は、イチゴを一粒パクリ。忽ち、その顔が顰められる。
「……すっぱい、ですぅ。イイニオイの癖に、全然甘くないですぅ。実はちっさいし、グズグズにやわらかいし!」
 むぅっと頬を膨らませ、少女はビシィッと、閉じた日傘を鈴生りのイチゴに突き付ける。
「こんなイチゴ、絶対、私にふさわしくないですぅ。だから、さっさとめちゃくちゃにしちゃってくださぁい!」

「まあまあ。ジャムにすると美味しいイチゴだってあるでしょうに」
「その通りです。こちらは、正にそのイチゴジャムが評判の農園ですので」
 老淑女の困惑の表情に慇懃に頷き返し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は集まったケルベロス達に向き直る。
「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 爆殖核爆砕戦より1年と数ヶ月。大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したという。
「重点的に大阪市内を狙ってきています。恐らく、事件を多数発生させる事で一般人を避難させ、その間に拠点を拡大しようという計画と推測されます」
 大規模な侵攻とは言い難いが、このまま放置すれば、ゲート破壊成功率も『じわじわと下降』の一途となってしまう。
「これを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を突いて反攻に転じなければなりません」
 今回現れるのは、「甘菓子兎・フレジエ」という名の攻性植物。「ストロングベリー」なる配下を引き連れて、大阪府近郊のイチゴ農園に現れる。
「甘菓子兎・フレジエは配下に農園の破壊を命じてすぐ立ち去る為、本件で戦う事は出来ませんが……ストロングベリーが破壊行動を起こす直前に、駆け付ける事は可能です」
 ストロングベリーの数は2体。最初はイチゴを栽培しているビニルハウスの入口にいるが、ケルベロス達が攻撃すれば敵の排除を優先する。ビニルハウスから少し距離をおいた農道に誘導すれば戦い易いだろう。
「ストロングベリーは、イチゴ頭の植物人間、という風貌です。見た目に違わず、肉弾戦を得意としています」
 存外に硬いイチゴの頭突きで敵の守りを崩し、或いは力強い飛び蹴りは後方まで届く。
「又、ポージングする事で自身の力を高める事も出来るようですね」
 イチゴ頭の所為か、残念ながら意味のある会話は成立しない。心置きなく、叩き潰してしまえば良い。
「中々厳つい外見ですが……油断さえしなければ、大丈夫と思います」
 現状、甘菓子兎・フレジエの目的は判然としていない。企みを探るのは事後に頼るとして、取り急ぎ、イチゴ農園の破壊を阻止するのが先だろう。
「そうねぇ。農園の方が一生懸命育てたイチゴだもの。粗末にしてはいけないわ……あらあら。こちらの農園、ジャム作りを体験出来るの? 素敵ねぇ」
 創のタブレットを覗き込み、件のイチゴ農園のホームページ画面に目を輝かせる貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)。
「ジャムにぴったりのイチゴなのでしょう? その摘み立てでジャムを作るなんて、きっと美味しいに違いないわ」
「カフェも併設しているようですね。農園特製のジャムを使ったスイーツや、紅茶も楽しめるそうです」
 イチゴジャムたっぷりのマフィンやブラマンジェ、パンナコッタ、ヨーグルトムースにレアチーズケーキ、とメニューも豊富。紅茶にもジャムをご自由に。
「では、一仕事の後に宜しければ。帰還の時刻は、融通致します」


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
帰月・蓮(水花の焔・e04564)
立花・吹雪(ウラガーン・e13677)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
常春・日和(春彩ドロップス・e46611)

■リプレイ

●イチゴは誰が為に
「あ、あそこに変なイチゴが……!」
 その日。ケルベロス達が駆け付けたのは、大阪市郊外のイチゴ農園――常春・日和(春彩ドロップス・e46611)が指差すその先に、屈強にして奇怪な人影が2つ。
 ヘリオライダー曰く、ストロングベリーなる攻性植物らしい。今しも、破壊活動を始めんばかりの連中に命令したのも又、攻性植物だとか。
「『甘菓子兎・フレジエ』という名前だったか。思う通りに行かねば、感情に任せ破壊、とは……」
「美味しいジャムを作る為の大切なイチゴです。勝手につまみ食いして勝手に怒って勝手に荒らされるのは困りますね」
 既に姿を消した黒幕に大概にしろと言いたくなった帰月・蓮(水花の焔・e04564)だが、先ずはあの苺頭の掃討からだ。こっくり頷いてライトニングロッドを掲げた日和を肩越しに見やり、自らも薙刀にも似た愛槍「月彩護」を構える。
(「しかし……何という風体。甘さと苦さと濃さの混合で、意外とフレッシュな……いや違う、落ち着け私」)
「んー、妙なのが出てきたなぁ」
 奇怪なイチゴ人間を遠目に、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は思わず頬を掻く。
「見た目だけならおとぎ話にでもでてきそうなんだけど、ねー」
 秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)も、ポニーテールを傾げて苦笑を浮かべている。イチゴ頭の植物人間からの肉弾戦とか、子供のトラウマにもなりかねない。
「取り敢えず、美味しいジャムの為にもさくっと倒しちゃわないとねっ」
 結乃の言葉は、メリルディも否やはない。
(「甘いものはみんなを笑顔にしてくれるわ。美味しいイチゴは皆のものだし、荒らされたくないよね」)
 特に今回は、仕事の後のお楽しみがある。まずはしっかり働くとしよう。
「大阪城をこんがりふっくら焼けば片付く話なら楽なんだが、そうもいかねぇだろうな」
 物騒を呟き、陶・流石(撃鉄歯・e00001)は肩を竦める。
 大阪城を埋め尽くす攻性植物――城攻めは、きっちり包囲するのが定石だ。今回のように這い出て来られては、余計な事件が増えるばかり。
「つう事で、何企んでるかは知らねぇが、潰させてもらうぜ」
「その通りです。敵の侵攻を許す訳にはいきません!」
 身に纏う霊気と剣気が剣呑に揺らめく。立花・吹雪(ウラガーン・e13677)は生真面目な表情で大いに気炎を上げている。
「折角農園の方達が育てたイチゴに、手出しはさせません!」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)自身は辛党ながら。喫茶店を営む身としては、美味しい苺スイーツも堪能したい所。その為にも、イチゴのビニルハウスを戦闘の巻添えで損なわぬよう、まずは農道に誘き出す算段だ。
 漸くヤル気となったか、ビニルハウスの前でポージングするストロングベリー共。顔を顰めたジェミがパイルバンカーを握り締めれば、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)はドラゴニックハンマーを担ぎ上げる。
「苺……綺麗な赤デス。食べ方1つデ、多彩な魅力を放つもの……食べ物を無下にしては駄目ですヨ」
「ええ。壊してしまえば、ヒール出来たとして、もう戻らないものは沢山あるわ……綺麗な赤も、失われた愛しい想いも」
 伏目がちに独り呟いて。貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)が歌い出した「想捧」が開戦の合図。結乃のフロストレーザーと日和のサイコフォース、スナイパーの攻撃が相次いで爆ぜる。
 ――――!!
 グルンとこちらを向いたストロングベリー共が、揃って咆哮を上げる。すぐさま踵を返して農道へと急ぐケルベロス達を追い掛け、ドシドシと地響きめいた足音が轟いた。

●ストロングなイチゴ怪人
 農道に辿り着くや、再度身を翻した流石は、勢いよく地を蹴った。
「おう、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
 衝突せんばかりに敵に接近、至近距離から鋼のように冷たく鋭い眼差しが睨め付ける。イチゴ頭に見返す瞳らしきは見られないが、屈強の体躯がビクリと震えたように見えたのは、気の所為ではあるまい。その一瞬の隙を突くように、ジェミは雪さえも退く凍気を纏わせた杭で以って突撃を敢行する。
「皆、頑張ろうね!」
 メリルディが掲げた黄金の果実が前衛に加護を齎す間に、吹雪のエアシューズが唸りを上げて疾駆。ローラーダッシュが熾す炎纏った蹴りを放つ。
「くっ!」
 元より、早々には外さぬ技。だが、流石とジェミが対峙する1体を越えてもう1体を強襲したグラインドファイアは、寸での所でかわされた。続くエトヴァの轟竜砲も弾かれ、有効打に至らない。
 ――――!!
 ムンッとポージングするストロングベリー。屈強の体躯が更に膨張し、霜に覆われた傷口が塞がれる。同時に後方の1体が身をたわめるや、弾丸の勢いで跳躍した。
 ガキィッ!
 辛うじて射線を遮り、その一撃の鋭さに思わず唇を噛む蓮。眼力はデウスエクスも具え、命中率から実戦経験もある程度量られよう。ストロングベリーの飛び蹴りは後衛にまで届く。狙い澄ました一撃を日和や梓織が喰らえば、ただでは済むまい。
「早速だけど、とっておきを……あげるっ」
 主たるディフェンダーはエトヴァと蓮の2人。全ての攻撃が庇えるとは限らない。短期決戦を念頭に、結乃は早々から「Armor Piercing Snipe」を敢行する。
「……かったいなぁ」
 一射の後、超集中で極端に絞られた結乃の瞳孔がじわりと広がる。密度を高めた特殊なグラビティ弾は初速と貫通性を高め、正確かつ高破壊力を叩き出す。だが、スナイパーの射撃をして、ストロングベリーは小さくたたらを踏むに留まる。
 2体のストロングベリーの立ち位置が違うのは、一連の攻防で見当が付いた。
 梓織のステルスリーフを纏いながら蓮の稲妻突きが突進すれば、同時に春の強風が薄紅の桜の花びらを舞い上げストロングベリーへ一気に雪崩れる。
「舞い散る花びらの美しさに見とれていたら、足元がおろそかになりますよ!」
 日和の春嵐に揉まれながら、そのストロングベリーはエトヴァのゼログラビトンの射線を遮る。
「前衛はディフェンダーでしょうか」
「もう1体はキャスター、だよね」
 日和の見立てに肯きながら、眼力が報せる命中率の差に眉を顰める吹雪。盾に庇われながら遊撃されるのも厄介だ。
「駆ける風の様に速く! 雷鳴の様に激しく! 疾風迅雷の勢いで駆け抜ける!」
 吹雪は魂の赴くままに歌い上げ、風と雷の霊力を前衛に纏わせた。刀剣士の霊力は感覚を増幅させ、鋭敏な知覚を齎すだろう。
「ジェミ、急いで下さいネ……それにしても、苺と戦うとハ」
 微苦笑を浮かべ、エトヴァは人差し指を唇に当てる。
「………und Sie?」
 私は斯く在る、そしてあなたは――心を探し続けたレプリカントの眼差しが伝える波紋は、果たしてイチゴの怪人にも伝播するのか。
「了解!」
 明るく応じたジェミのパイルバンカーが唸りを上げる。雷気を纏い、膨張した敵の体勢を崩さんと。
「歪みし間合いに、偏る方位、時空の守護を今ここに」
 そして、エトヴァに時空の防壁を施して後、彼方・悠乃は武器に替ってカメラを構える。ファインダー越しに追うのは、緑の体躯に埋もれた頭蓋骨だ。
「私も、お手伝いします!」
 悠乃に替り支援に入ったロゼ・アウランジェは、ハロウィンの夜の物語を歌い始める。
 ――歌い出すは明けの頃。宵に酔いしれ、弾いて奏でて化猫賛歌! まだまだ宴は終わらない!
 敵のポジションが明確となれば、牽制に回る吹雪とエトヴァ以外の攻撃は、全てディフェンダーに集中した。寧ろ接近戦を好む流石は至近距離からクイックドロウを浴びせ、結乃は対照的にフロストレーザーとバスタービームを織り交ぜて狙撃。蓮は少しでも倒し易いよう、パラライズの稲妻突きと服破りのフォーチュンスターを繰り返す。
 流石に自身を自身で庇い立て出来ぬが、それでもディフェンダーの打たれ強さは脅威だ。頻繁にポージングで回復を図れば、自然と力も蓄えられていく。一撃の威力が大きくなるのも困る。それで、メリルディはスナイパーを優先して護殻装殻術を編んだ。梓織も木の葉を撒いてヒールに専念しており、いざとなれば、複数が回復に回れるのも心強い。
 戦線は比較的安定して推移する。力任せのイチゴの頭突きが繰り出される一方で、時に後衛に緑の飛び蹴りが飛ぶが、時に蓮とエトヴァが庇い、攻撃が畳み掛けられる前にヒールが集中した。
「餮べてしまいます、よ?」
 ジェミの影の中から漆黒の矢が迸る。尾を引いて、変幻自在な軌道を描き、緑の屈強を射抜いて生命を奪い去る。それは、彼が捕食者だった頃の能力の名残――一瞬、ストロングベリーも踏ん張ったかに見えたが、忽ちその足元から瓦解して砂のように崩れ去る。
「よし!」
 快哉を上げる流石。残り1体、遊撃の武威は盾あってこそ。
「こちらモ、ソロソロ、でしょうカ」
 盾が潰えるまでキャスターを相手取り、見切りも考慮しながら轟竜砲を重ねてきたエトヴァ。
「皆さん、やってしまいましょう!」
 これに吹雪の斉天截拳撃と絶空斬も加え、地道に弱体化を図ってきた2人の牽制は、今ここで活きる。
「もう一息よッ、メリル! 一気に押し込んでいきましょう!」
 ユスティーナ・ローゼのブレイブマインが爆炎を上げる中、梓織が「想捧」を丁寧に歌い上げれば、ケルベロスの攻撃が殺到する。
 ――――!!
 堪え切れずポージングするストロングベリー。、回復に一手を回したこのタイミングこそ好機。
「旋風斬鉄脚!」
 相馬・泰地の蹴打は眩い光の弧を描き、吹雪のハウリングフィストに合わせた四方・千里の旋刃脚は相次いで緑の巨躯に突き刺さった。のみならず、流石のハウリングフィスト、ジェミのドリルパニッシャー、蓮のゾディアックブレイク、日和のグラビティブレイクと、 一手の回復に対して、ブレイク技をこれでもかと浴びせ掛ける。
「動かないでっ!」
 初めて攻撃に転じたメリルディが目晦ましの粉砂糖をぶち撒けた次の瞬間。
「『兎』をジビエにした時の為に、イチゴソースにしてあげるっ」
 足止めに惑うその一瞬を突き、結乃の狙撃がキャスターに回避の暇も与えず引導を渡した。

●ジャムが為にイチゴなる
「イチゴ農園なら、見た目メルヘンでもセールスポイント……だよね?」
 斯くて、ストロングベリーがイチゴを損なう事態は防がれた。幾許かの農道の損傷は早速、結乃がメディカルレインを降らせる。
(「死者の尊厳を守りたかったのですが」)
 ストロングベリーの骸は、忽ち霧散した。緑に埋もれた人骨諸共に。思わず悠乃は溜息を吐く。
 ともあれ、攻性植物の掃討は成った。イチゴ農園の被害も軽微。流石が興味津々でビニルハウスを覗けば、鼻腔を擽る甘い香り。折角だからと鈴生りのイチゴを一粒、口に入れる。
「……うわ、酸っぱいな、これ!」
 元より甘さ控えめを好む流石も顔を顰めた。店で見掛けるイチゴより小粒のそれは、柔らかい果肉と裏腹に酸味が相当に強い。
「そう言えば、流通の都合で、硬めの果肉が主流なのですって」
 クスリと笑んだ梓織が言うには、酸味が強く柔らかな果肉、そして、香り豊かな品種がジャム作りに良いらしい。
「正にイチゴジャムの為の農園なのね!」
「尚の事、ジャム作りをさせて頂きたいのぅ」
 結乃と蓮はワクワクと目を輝かせる。2人とも、旅団の友人のお土産作りに挑戦する心算だ。
「イチゴを守って下さりありがとうございました」
 管理棟に向かったケルベロス達は、農園の人々の感謝で以って迎えられた。いよいよお楽しみの時間。各々笑顔でカフェスペース、或いは調理室に向かう。
「お疲れ様……お茶に致しまショウ」
 エトヴァの言葉に、ジェミはいそいそとテーブルに着く。イチゴの香りにお腹の虫もクゥと鳴く。
「エトヴァもイチゴ好き?」
「ええ、俺も好きですネ」
「何にしようかな……じゃあ、焼き立てのマフィン。それと、イチゴジャムたっぷりレアチーズケーキ!」
 砕けた口調は、親しみ込めた気安さ。少年の嬉々とした空気に、青年も思わず目尻を和ませる。
「では俺ハ、ブラマンジェとヨーグルトムースに致しまショウ」
 そうして、紅茶にもジャムを一匙。
「ロシア紅茶っていうのかな。ふふ、豪勢なティータイムだね」
「ええ……香りが良いですネ」
 生食とは又違った甘酸っぱさを堪能して、ジェミはジャム付きの笑顔をエトヴァに向ける。屈託ない笑顔に、戦闘の疲れも解けるよう。
「付いてますヨ」
 スイーツのシェアは、仲良し家族ならでは。ジェミの口の端のジャムを指先で拭い、エトヴァは衒い無く口に運ぶ。
「ジャムはこの前買ったから今日はスイーツ、楽しみたいな」
 という訳で、メリルディはユスティーナとお茶の時間。メニューを眺めて悩む事暫し。スコーンとブラマンジェを注文する。
「ほら、いっぱい運動した後だからたくさん食べても大丈夫……だよね?」
「そこでひとつ我慢すると体重のグレード、下がるかもしれないわよ?」
 ウッと詰まったメリルディの表情に、ユスティーナはクスクスと。
「なーんてね。メリルの細さで気にする必要もないと思うわよ」
 イチゴ怪人なんて記憶は、美味しいイチゴで上書きしておきたい所だし。
「ユナは何頼む?」
「紅茶にイチゴジャム、入れてみようかな」
「うん、それもいいね」
「後はマフィンにレアチーズケーキも」
 テーブルに次々と並ぶ、イチゴジャムのスイーツ。
「……何? 私、食べる方なのは知ってるでしょう?」
 身体が大きいからとユスティーナが笑えば、メリルディはにこにこと頭を振る。
「身体の大きさとか関係ないし。同じ食べるなら美味しく楽しく、だよ……それから、ありがと、ユナ」
 まずは戦闘支援のお礼を改めて。さあ、楽しい女子会の始まり。
 ――一方、ジャム作りは中々時間の掛かる作業だ。
 ヘタを取ったイチゴは、お鍋で砂糖をまぶして1時間。水分が出てきたら、そのまま火に掛ける。沸騰したら、アク取り。砂糖とレモン果汁の追加はお好み次第だ。少しとろみが出たら火を止め、煮沸消毒した瓶に詰める。
「わぁ! 日和さん、ヘタとるのお上手!」
 お揃いのエプロンを着けて、日和はロゼと仲良くジャム作り……というには、どうも腕前に差がある様子。慣れた手付きの日和は、色々とロゼにアドバイスしている。
「あら、日和さん、とっても幸せそうなお顔」
「イチゴがごろっとしているジャムは美味しいですよね」
 アクを取る手は休み無くとも、立ち上る甘い湯気に思わず笑みも浮かぶ。
「このジャム、出来上がったらどうしましょう?」
「日和さんと一緒に作った苺ジャムだもの。大切に食べなきゃ」
 お菓子に使って良し、紅茶に入れても格別だろう。
「じゃあ、今度、一緒にお茶しましょう!」
「スコーンと紅茶、最高の組み合せですね! お茶会、とっても楽しみです!」
 吹雪はジャム作り初体験。最初は緊張していたが、親友の千里との作業に自然と表情も綻んでくる。
「砂糖の代わりにハチミツを入れてみたら美味しくならないだろうか……」
 最初はオーソドックスに作っていた2人だが、千里の思い付きも色々と試してみる。
「イチゴといえば練乳……合わせてみたら美味しくなるかも?」
「ハチミツに練乳のイチゴジャムですか。どんな味わいになるか気になりますね!」
 ちなみに、ジャムに使う蜂蜜は、癖の無いアカシアやクローバーが向いている。又、苺が熱い内に練乳を入れると、粒々になって上手く混ざらない。人肌くらいまで冷ますのがポイントだ。
 そうして、ユニークなイチゴジャムを添えたスコーンをお供に、2人は和気藹々のお茶の時間も過ごしたようだ。
「甘さはちょっと控えめにして……ジャムだけで食べられる感じにしたいな」
 フレッシュなジャムも手作りならではだが、結乃はじっくりじっくりと煮込んでいる。冷めるととろみが強くなる為、少しゆるめで瓶詰めするのがコツ。
「おっと……うふふふ。指ちゅぱもいいかも」
 零れ掛けたジャムをすくい取り、そのまま口に運ぶ結乃。ふと目の合った梓織からもお裾分けを貰い、ご満悦だ。
「梓織さんのジャム、キラキラして綺麗だね!」
 透明感のある鮮やかなジャムは、アクをまめに取り、出来るだけ短時間で煮るのが重要。煮詰める時間が長くなる程、色がくすんでしまう。焦げ付かないよう注意して、強火で一気に仕上げる。
「でも、これではジャムというよりコンフィチュールかしら。もう少し煮詰めれば良かったわ」
 これも、ヨーグルトに浮かべれば絶品だろうけど。ジャム作りも中々、奥が深い。
「うむ、これで良かろう」
 長期保存する場合は、ジャムを詰めた瓶を熱湯で20分間加熱して殺菌。蓋を緩めて脱気し、そのまま自然に冷ましたら完成だ。
 首尾よく完成した旅団の友への土産を眺め、蓮はホッと唇を緩める。
「ジャムを冷ます間は、カフェで休憩としようか」
 そろそろおやつの時間も過ぎる頃合だが、ヘリオライダーは帰還時刻を融通すると言っていた。
(「大丈夫……な筈!」)
 ジャム作り仲間も誘い、いそいそとテーブルに着く蓮。紅茶にマフィン、レアチーズガ並べば、うっとりと藍の双眸を細める。
「梓織殿も、紅茶にジャムは如何か?」
「ええ、ありがとう」
 甘酸っぱい口福に、誰もが笑顔になる春の昼下がり――お茶の時間は、まだまだ続く。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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