暗闇に咲くは白の華

作者:荒井真

● 
 大小のビルが色とりどりのネオンに飾り付けられ、明滅を繰り返す。
 男女の声、車のクラクションに走行音。
 そんな騒がしい繁華街の流れの中を歩む男性。
 年の頃は20代だろうか。服装は乱れのないスーツに、同様に乱れのないカットショート。
 先程までアルコールをたっぷりと飲んでいたのだろう。顔は赤く、足取りも少し怪しい。
「やらかしたかな?」
 ボソリと、不安そうにつぶやく。手には書類。その書類には見積書と書いてある。
 趣味や色恋沙汰とは無縁で仕事一筋の男性だが、元より押しに弱い性格な上、営業先との酒宴で半ば強引に掴まされた見積書である。怪しい数字が所狭しと並んでいた。
「おにーさーん?」
 その時だった。幼気な声が聞こえ、男性は足を止める。
 視線を這わすと、薄暗い路地の奥から艷やかな黒髪の少女が顔をのぞかせていた。
「おにーさん、ちょっと来てくれない?」
 そう言いながら少女は手のひらを可愛らしげに手を振る。
 言われるままに路地裏の入口まで近づくと、そこには全裸と言っていいほどの少女が可愛らしげな顔で立っていた。
 身にまとっているのは服、というより何かの植物のツタが巻き付いているだけのようだ。
 幼さが若干残っているが、腰は細く、出るところはしっかり出ている。
「……あっ、いやその」
 男性は生唾を飲み込みつつ、目を少女の身体からそらす。仕事一筋に生きてきた彼にとっては、刺激が強すぎるのだろう。
 だが、そんな男性の仕草に少女はニッコリと微笑む。
「おにーさん、かーわーいー!」
 言いながら男性に抱きつく。柔らかい二つの双丘が男性に押し付けられた。
「ねぇ。おにーさんにお願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
 男性の耳元で艶かしくささやく。香水でも付けているのだろうか、甘くやさしげな芳香が鼻孔をくすぐる。
「あ、ああ……」
「ありがとう! じゃあ、私と……一緒にならない?」
 その明らかに怪しげな言葉に、迷うこと無く男性は首を縦に振り、少女に連れられ路地裏の奥へと入っていく。彼の視線は、チラチラと少女の色々なところへと巡らせていた。
 そんな男性の様子を楽しそうに見ながら、少女は可愛らしげに微笑む。
 やがて、路地裏の狭い空間を抜ける。そこは小さなビルひとつ分はあるであろう広い空間。あちこちに鉄骨やらコンクリートの破片が散乱している。
 恐らくは最近、ここにあったビルは取り壊されたのだろう。その証拠に、まだビルの根本らしき鉄骨は淋しげにそびえ立っている。
「じゃあ……おにーさん、一緒になろっ!」
「う、うん!」
 これからの事に期待してか、ぶんぶんと男性は頭を振る。
 少女は再び男性に飛びつくと、ニッコリと微笑みながら、彼へと口づけをする。ふわっとした甘い香りと、やわらかい唇を堪能していた時だった。
「んぐ?!」
 少女からの甘い口づけを受けながら、男性がもだえ始める。
 何かが口の中に入り込んできたのだ。身体をよじらせ抵抗するが少女の身体はびくともしない。
 そして、入り込んできた『何か』は喉の奥まで入り込むと同時に、男性の意識は闇に落ちていった。


 更科・久遠(サキュバスのヘリオライダー・en0258)はケルベロスたちが揃うのを見回すと、眼鏡をくいっ、と正す。
 最近の気温にも動じること無く、彼女はトレードマークであるフードをかぶったままだ。
「ここ最近、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです。大規模な侵攻、という形ではないようですが……おそらくは市内を中心に拠点を拡大させようという計画なのでしょう」
 そう言うと久遠は人差し指一本、ピンと立てる。
「今回現れるのは、女性型の攻性植物です。深夜の繁華街に現れては、女性に縁がなく、酔っぱらった男性を誘惑して、攻性植物化させようとしているようですね」
 さらに彼女は周辺の情報をケルベロスたちに語る。
 戦闘となる場所は路地裏の奥にある、ビルの解体工事現場。深夜のため、人が近づいてくることはないだろう。
 女性型攻性植物の能力は、左手に巻き付いているハエトリグサを使い、毒を注入したり、身体に巻き付いているツタを使って締め上げるのが得意なようだ。
 また、身体の一部を変形させ、光を放つ攻撃も頻度は低いが行うらしい。
「もしもですが、男性の対処に失敗した場合には、攻性植物に寄生されて敵対してきます。そうなってくると、戦闘で後手に回る可能性が高いです。それと、からめ手が得意な敵ですので、命乞いや逃走を図るかもしれません」
 久遠は再びメガネをクイッと正す。
「ですが……どのような場合でも、攻性植物の撃破を優先してください」
 そこまで言うと、彼女はポンと手をうち、思い出したかのように付け加える。
「あ、深夜の繁華街、ということですが、ハメを外して飲酒や喫煙は絶対に駄目ですからね! それでは、皆さんどうかよろしくお願いします!」


参加者
戦場ヶ原・将(エンドカード・e00743)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
斎藤・斎(修羅・e04127)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)

■リプレイ

●雑踏のざわめきの中で
 大阪市内、繁華街。
 そこは男女がざわめき、呼び込みの声、車のクラクションが響き渡り混沌と化していた。
 そんな中をケルベロスたちは、ターゲットである男性を探しながら歩いている。
 その中のひとり、藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)は歩きながら、周囲を見渡していた。自称吸血鬼、という彼にとっては過ごしやすいのだろう。どことなく元気が良さそうである。
(「何と言うかまぁ……ハニトラと言うヤツなのじゃろうか? 綺麗な薔薇には棘がと言うように、甘い罠には十分気を付けなければならんと言う事かのぉ……」)
 教訓を得るかのように、うーむ、と思考を巡らせる。
 ふと、周りを見渡していた カノンは、自分に向けられている視線に気がつく。何人かの女性がこちらをキラキラした目で追っている。
 ルビーのような赤い瞳と黒髪、そして元アイドルという経歴から出ている雰囲気が、周囲の女性たちの視線を釘付けにしているのだ。
 それに気がついてかカノンは、アイドルよろしく爽やかに手を降ってみる。その途端に、女性たちから黄色い声が上がった。
「カノンさん、ちょっとまった。今、見つけたよ」
「おぉ、それは重畳じゃ」
 戦場ヶ原・将(エンドカード・e00743)が少し控えめにカノンに呼びかけた。
 その視線の先には、情報通り乱れのないスーツ姿にカットショートの男性が、怪しげな足取りで歩いているのが見える。
 将は静かに仲間たちにうなずくと、ケルベロスたちも作戦開始とばかりにうなずき返す。
「やらかし……うわっ」
 男性にぶつかったのは将。元々、アルコールの影響で足元が怪しかったためか、それほど力を込めずとも男性は地面に尻餅をつく。
「大丈夫かい。だいぶ酔ってんな。それじゃあ家に帰れねえだろ? 水、飲むだろ。冷静になるのさ」
 男性を気遣いつつ、手を差し伸べる。
「あ、ああ……ありがとう」
 頭を振り、将の手を取りよろつきながら男性は立ち上がると、少し冷静になったのだろう。スボンに付いたホコリを払う。
「その封筒も大丈夫か? 変なもん掴まされてんじゃねえの?」
「-ム、先程の見積書だが、少し見せてもらえるか。もしかしたら不備があったかもしれん」
 プラチナチケットの効果を発動させながらバーヴェン・ルース(復讐者・e00819)が語りかける。効果のせいか男性に特に違和感は感じてないようだ。
「やはり、この見積書はおかしいな。勢いで行動したら大変な事になるぞ」
「や、やっぱり……」
 と、そこへ機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が、男性の正面から、それこそ手を伸ばせば簡単に抱きしめられそうなほどに近づく。
「今日、契約取らないと叱られちゃうのですよ。本当は高い見積りなのですが、その分は私が……ね?」
 男性が先程まで、相手をしていた取引先の関係者を装いつつ、その赤い瞳で見つめる。
 彼女の過去がそうさせるのか、どことなく冷めたようなクールな雰囲気だが、懇願するかのような表情。それは甘く、蠱惑的で男性の表情が更にだらけたような表情になる。
「あら素敵なお兄さんね」
 と、そこにフレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が、トドメと言わんばかりに、男性の手を撮りつつ、そっと身を寄せてきた。
 更に自らの豊満な双丘を押し付けていたりする。
 アルコールの酔いもどこへやら。男性の表情はすっかり緩んで鼻の下は伸びっぱなしという有様である。
「鼓動とその立ち方で解るわ。とても真面目でしっかりした方ね。でも……少しお酒で判断力が弱まってる様ね。最近此処ら辺で物凄く悪質な美人局……ああ寧ろ強盗ね……そういうのが起きてるんだって。特に裸同然のすごぉい格好で、ね」
 フレックが怪しげに、そして男性の耳元で更につぶやく。
「それで誘惑して…キスしてる時にぶすって刺して命を奪うの。そうして……全部根こそぎ命だけでなく金目の物を奪っていくの気を付けてね?」
 とんっ、と指先でスーツの上から心臓の上を軽く叩く。その仕草は妖艶で、男性はコクコクと頷くことしか出来ない。
 さらに真里が、指先を男性の額に突きつける。
「――ふふ、冗談ですよ。でもこう言う甘い罠にかかったら大変な事になるです。要注意、ですからね」
 言葉の最初は笑顔、だが最後は冷静、かつ真面目なものだった。その赤い瞳の先にいる男性はしどろもどろになりながら、ようやく答える。が、先程まで妖艶な女性陣に迫られていたせいか、イマイチ締りのない顔のままだった。
「わ、わかったよ……き、気をつける。見積書もよく見直してみる」
 顔をひきつらせながらそう言うと、男性は再び雑踏へと歩きだしていく。その足取りは、最初の頃よりだいぶマシになっているようだ。
 ケルベロスたちはお互いうなずき合うと、男性の後ろを気付かれないように尾行を始めた。

●暗闇に咲くは白の華
 ほんのしばらく進んだところで、可愛らしげな声が男性へと向けられる。
「おにーさーん? 」
 路地の奥から一人の人影。恐らくはその人影が女性型の攻性植物だろう。男性と何やら話した後、抱き路地へと連れ込み、解体工事現場までつれていく。
 だが、男性はその手をを振り払う。驚きの表情を浮かべる攻性植物。
「い、嫌だ! み、見積もりをみ、見直さないと?!」
 先程のやり取りで、懲りたのだろう。勤勉なのか恐怖なのか。そう言い放ちながら男性はそのまま逃げ出してしまった。
 そして、ケルベロス達が、男性と入れ替わる形で戦場へと飛び込む。
 再び攻性植物は驚きの表情を浮かべ、周囲を見渡すと、すでに逃走経路はケルベロスたちによって塞がれている。
「な、何なのよー!」
 非難の声をあげる攻性植物だが、そこへバーヴェンが、斬霊刀を手に、敵の懐に飛び込む。その動きは冷静沈着な彼らしく、水のようになめらかで、だが戦闘でうっぷんを晴らすかのように激しい。
「せめて祈ろう。汝の魂に……救いアレ!!」
 手にした武器に己が宿す地獄の炎を宿らせ、一閃する。その輝きはまるで太陽。薄暗い解体工事現場の明るく照らす。
 唐竹割りに振り下ろされた一撃は、女性型攻性植物の白い肌を切り裂く。
「ぐっ……痛いわね!」
 言いながら身を翻す。
「こっちに来ました、攻撃叩きこんで」
「ーム、任せる」
 樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)が仲間たちに警告を発する。
「何が裸だ、何が出るとこ出るだ! 時代は二次元ロリだろ? 三次元の厚みに夢があるわけないだろ次元を減らして出直してくるだお!!」
 よく分からない願望を吐き出しす。なんとなく仲間たちからの視線が冷たい気がしないでもない。
 そして、向かってくる攻性植物にゾディアックソード、と言っても刃は無く殆ど鉄塊と言っても差し支えない、を構える。
「邪魔ー!」
 攻性植物はそう叫びながら、腕に絡み中いたハエトリグサを正彦へ解き放つ。その凶悪なあぎとが彼の体に傷と毒を流し込む。
「マチャヒコが裸のお姉さんにぐはぁー!」
 裸のお姉さん、とそこだけ強調し、声を上げるが、すぐさまその傷は癒やされ、体を侵していた毒素が消え去っていく。
「……攻性植物だけでなく、樫木さんも切りつけておいたほうが良いのでしょうか」
「なんで?!」
 斎藤・斎(修羅・e04127)が、正彦に冷たく言い放ちながら艷やかな黒髪を揺らし、傷を癒やす。
(以前にもこのような攻性植物が出ていたような気がしたのですが……人間を相手にする以上適切な進化の方向といえるのでしょうかねえ)
 仲間たちの傷を癒やしつつ、そう彼女は考える。
「まあ、滅ぼしますが」
 少しずれた眼鏡を直しつつ、齋は小さくつぶやく。その視線の先には、いまだ抵抗を続ける女性型攻性植物。時折、ケルベロスたちに毒を与えたり、蔦で捕縛したりしているが齋が瞬時に癒やす。
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が、ふっ、と短く息を吐き、攻性植物肉薄する。
「ああ! もうこないで!」
 攻性植物から放たれた蔦が、キアリの腕をかすめるが、そのまま勢いを殺さずに飛び上がり、フォーチュンスターを発動させる。放たれた星型のオーラが敵のほぼ衣服のない腹部に命中した。
「……考えてみると、破る服が無いわよね、こいつ……」
 冷静に自分自身にツッコミを入れると、仲間たちと攻撃を再開する。
「な、なら! これでも喰らいなさい!」
 確実に押されつつある女性型攻性植物が、手を突き出す。その手は一輪の花に変形し、その花弁に光が集中し、ケルベロスに向けられ放たれる。
 その放たれたビームは、狙い違わず正彦へと命中した。
「おおおおっ!? マチャヒコ焼豚になっちゃいますお!!」
「そんな訳ありません。しっかりしてください」
 バタバタする正彦へ冷静なツッコミを入れつつ齋が再び傷を癒やしている。そして、癒やしが終わると同時に、正彦が短く、力ある言葉をつぶやく。
「――sign(サイン)! 」
 その短い言葉にリンクするかのように正彦の背後に浮遊する11本のゾディアックソード。そして、ほんのわずかの間を置いて、一斉に女性型攻性植物に降り注いだ。鉄塊の如き剣が敵の体を打ちつけ、轟音と砂煙が舞い上がった。
 今の一撃が決め手だったのだろう、息を荒げながら、膝をつく攻性植物。
「はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい。も、もう許して……こんな事は一切しないから、ね? ね?」
 媚びるような視線をケルベロスたちに向ける。
「そう……もうこんなことはしないのね?」
「うん、うん! だからみのがして? お願い!」
  真理がそう言いながら、すこし温和な表情を浮かべ攻性植物に近づいた。
「わかったわ。さ、立って」
 手を差し出す真里、そしてその手を撮ろうとした瞬間、彼女のチェーンソー剣が攻性植物の右脇腹を切り裂き、再び敵は地面に崩れ落ちるかのように倒れる。
 それでも諦めてないのか、攻性植物は這いつくばるようにフレックの足を掴み懇願する。
「ね、ね? おねーさんは助けてくれるよね? 怖い人達から私を逃して!」
「そう。了解したわ……では……首を出して。その苦しみから解放するわ」
「えっ」
「ソラナキ……唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ……今こそその力を解放し……我が敵に示せ…時さえ刻むその刃を……!」
 フレックの愛刀『空亡 』が彼女のグラビティと共鳴し、一閃する。放たれた斬撃は攻性植物の右肩から左わきまで時空ごと切り裂いた。その一閃はまさにフレックが言う通り、時さえも刻んでいる。
「うぅ……本当にもうしないから、助けてよぅ……!」
 満身創痍になりながらも、今度はカノンに懇願する。先程、女性陣から手ひどい攻撃を浴びせられたばかりなために、今度は男性に命乞いをするようだ。
「ふむ……と、言うことらしいのじゃが……円城さん、どうじゃろうか?」
 攻性植物の見え見えの命乞いをカノンはスルーし、キアリの問いかける。
「そうね……ちょっと、考えるわね……」
 キアリが首を傾げ、考え込んだ瞬間、攻性植物が彼女のNutcrackerをくらい中に舞う。
「相手が男ではなくても火を吹くわよ。あなたみたいにはしたない輩も、女性全体の株を下げるという意味で『女の敵』だし」
「そ、そんな?!」
「一応、助けてあげようかは考えたわよ。――考えて、やはり殺すことにしただけ」
 命乞いが通用しないことをようやく悟ったのか、再び攻撃に移ろうと、触手を将に放つ。
 蔦の打撃にうたれながらも、将は不敵に笑みを浮かべる。
「ハ。冗談だろ。デウスエクスが命乞い? 面白くねえな。……死ぬか死なないかじゃねーか。バトルの相手には手加減も容赦もしねえよ。全力で叩きのめすのがカードバトラーの礼儀だからな!」
 そう言うが早いか手にしたカードを掲げる。
「フューチャーカード、ライズアップ! イルミナルセイバー・ドラゴンッ! これで……ゲームエンドだ!」
 力ある言葉とともに、カードに描かれた騎士の姿に将の姿に変化し、手にした閃光を放つ光の剣で、攻性植物を真一文字に一閃する。膨大な光のうねりが、敵を切り裂き、声を上げることもなく光の中に消えていった。
 ややあって光の奔流が収まった後には、何も残っていなかった。
 消滅した攻性植物のいた場所に向かってバーヴェンが静かに呟く。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」

●雑踏の中へ
 戦闘後、解体工事現場のヒールを済ませたケルベロスたちは、路地裏から繁華街の通りに出る。解体工事現場はほとんど取り壊しが進んでいたために、それほど損傷はなく、ヒールはすぐに終わった。
「では、帰るぞ……。オレは酒が飲めん……。タバコも苦手だ。それに女は武士道に無用……」
 一介の武人らしく、バーヴェンが言う。その意見には仲間たちも賛成らしく、変えるべき場所へとケルベロスたちは帰還していく。
 そんな仲間たちの中で正彦はキョロキョロとあたりを見回している。
「……裸のロリとかいないかなあ」
 ボソリ、と、つぶやく。隣に立っていた斎は、正彦のつぶやきが聞こえたのだろう。勝利の余韻に浸っていた笑顔のまま、数歩後ろに猛烈な勢いで下がっていく。どことなく、笑顔がひきつっていたように見えなくもなかった。

作者:荒井真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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