萌発プランテッド

作者:天枷由良

●再侵略
 未だ不気味な植物に覆われたままの城を目と鼻の先において、日々を過ごす大阪市の人々に、新たな災難が降りかかろうとしていた。
「……な、なんだあれ!?」
 街中を行き交う人の中から、一人の男が空を指さして言った。
 周囲の者が釣られて目を向ければ、何もない空間から突如として現れたのは、巨大な多肉植物らしき物体。
 ともすれば美しくも感じられそうな、透き通った青の中に気色悪い影を浮かばせたそれは、暫し揺蕩った後、最初に声を上げた男目掛けて、刃物のような根っこを伸ばす。
 僅かな、瞬くほどの間の出来事だ。
 その一瞬で、根に貫かれた男は命を吸い上げられて、息絶えた。
「――っ! に、逃げろー!」
 誰かが叫んだ途端、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
 しかし巨大な多肉植物は、大阪の街を形作る建物を切れ味鋭い根で、或いは巨体そのもので崩しながら、より人の多い方へと進んでいく。
 後に残されるのは瓦礫と、そして死だけであった。

●ヘリポートにて
 招集に応じたケルベロス達に向けて、ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は菩薩累乗会の阻止を笑顔で労った後、すぐさま厳しい表情を作った。
「どうやら、攻性植物達が動き出したようなの。彼らは皆の活躍によって大阪城周辺に抑え込まれてしまっていたから、まずは大阪市内から幾つもの事件を起こすことで、拠点を拡大していこうと考えたのでしょう」
 侵攻の規模はそれほど大きくないようだが、対策を講じなければ人や街に被害が生じ、攻性植物は目論見通りに支配領域を広げてしまうだろう。
 そうなれば、大阪城地下にある攻性植物のゲートへも手が出しにくくなり、それの破壊に対して予想されている勝率も『じわじわと下がってしまう』はずだ。
「いずれ隙を見つけて反攻に転じなくてはならないでしょうけれど、まずは敵の侵攻を完全に防がなければいけないわ。早速だけれど一つ、攻性植物の出現を予知することが出来たから、皆にはこれの対応をお願いするわね」

 今回現れるのは『サキュレント・エンブリオ』と呼ばれる巨大な攻性植物で、魔空回廊を通じて大阪市内へ侵攻すると予知されている。
「サキュレント・エンブリオの大きさは7mほど。特徴は胎児のようなものが透ける肉厚の花びらと、ナイフのような根。ふよふよと漂うように移動しながら根を振るうことで、街を破壊しつつ人々にも襲いかかるわ」
 ミィルは語りながら地図を広げて、大阪市内の一点に印をつけた。
「ここが敵の出現位置。腹立たしいことに、ばっちり市街地の中よ。付近の一般人に対する避難誘導は警察や消防に協力を要請してあるけれど、戦場一帯の建物には、どうしても被害が出てしまうでしょうね」
 戦い終わってからヒールで回復させることは出来るが、少しでも被害を減らそうとするなら、なるべく短時間での撃破が望ましいだろう。
「この辺りには商業施設やマンションなど、サキュレント・エンブリオと同等かそれ以上の高さを持つ中高層の建物が多いから、ビルの上から飛び降りつつ斬りかかったり、電柱などの上から射撃を行ったりという戦い方をすれば、浮遊している敵とも少し戦いやすくなるかもしれないわね」
「なるほど……このビルの屋上からなら、バールもぶつけやすいかな。でも、下から殴ったり出来ないほど飛んでるわけじゃないよね?」
 フィオナ・シェリオールが早速、アタリをつけながら問う。
「ええ。特定の攻撃でなければ届かない、なんてことにはならないから大丈夫よ。皆の全力を十分に発揮して、敵を撃破してちょうだいね」
 ミィルはそう言って、説明を終えた。


参加者
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)

■リプレイ


 日本有数の大都市、大阪の一角。
 避難誘導を終えた警察や消防の緊急車両が、赤光と警報音を散らして退避する様子を、多くのケルベロス達がビルの屋上などから眺めていた。
「……一息つく暇もありませんね」
「本当に、迷惑な事この上ないね」
 伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)とアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が、高所ゆえの吹き荒ぶ風に髪と服を揺らしつつ、共に苦笑を浮かべる。
 一難去ってまた一難。侵略行為には休日も祝日もない。とはいえこの国の住人は大型連休に浮つく頃なのだから、この国の一部たる大阪に根ざした攻性植物達にも少しは空気を読んでほしい――とまでは誰も言うつもりなどないが、しかしデウスエクスとは、何ともいやらしいタイミングで動き出すものである。
 むしろケルベロスが大きな戦を終えたばかりだからこそ、彼らも動いたのだろうか。
 遥は暫し思索に耽る。そして答えの出ることでないと、意識を切り替える。
 いずれ反攻に転じるためにも、まずは敵の目論見を打ち砕かなければならない。
 刀と黒鎖を携えて、遥は宙空を見やった。それに合わせて、アンセルムも蔦で繋がる人形を慈しむように抱いたまま目線を下げる。
 そこには何もなく――。
(「……いや」)
 一人、路上から空を仰いでいた罪咎・憂女(刻む者・e03355)は、己を照らす陽光に微かな歪みが生じたのを感じ取り、深い菫色の護身銃を手に取った。
 刹那、天から産み落とされるようにして“それ”は姿を現す。
「わー! なんすかあれ! キモチワルイっす!?」
 コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)の声が、すっかり遠ざかったサイレンに代わって街中に響く。
 彼女の位置からは“それ”を斜め下に置く形となり、ぶよぶよとした肉厚の花弁らしきものが左右に揺れる様は、確かに叫びを上げたくなるような気色悪さを醸し出していた。
「けどけど、アタシにかかればいちころっす!」
 第一声から一転、自信たっぷりに言ってみせるコンスタンツァは、天使の羽が付いたリボルバー銃を右手に喚び出して狙い定め、さらに言葉を継ぐ。
「正義のガンスリンガーコンスタンツァ・キルシェが、ばばーんと追っ払ってやるっす!」


 ――と、彼女が言い切るより早く、二つの影が宙に躍り出た。
「いざ……降下戦闘と参りますわ……!」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)は囁きを風に乗せると、砲兵装アームドクロックワークス・ネメシスを“それ”に向けて、直上より一斉射。反動に身を任せて宙を流れ、飛び出したところから頭二つ分は小さい建物の屋上に、ふわりと降り立つ。
 そして見上げたミルフィの視界には、直撃コースを辿る砲撃と刀を握った男――だと言い切るには少々美麗過ぎる青年、風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)の姿。
 恵は重力に従って速度を上げ、花弁の一つに触れる間際で半身を捻って刀を振るう。斬る瞬間に背を向ける変則的な剣技は、直前まで見据えていた“それ”の一部に――。
「――――!」
 打ち当たる寸前、するりと滑って宙を薙いだ。
 ミルフィの砲撃も、巨体を掠めて大地を穿つ。まるで海月にも似た“それ”は、触手の如き根でビルを蹴りつけるようにして、大きさに見合わない軽やかな動きで宙空を泳ぎ、二人の攻撃を避けてみせたのだった。
 驚き、目を見張るケルベロス達。その反応を余所に根を激しく蠢かせた“それ”は、緩やかな前進を始めながら四方八方全てを一括りにして斬り裂く。
「っ、うわぁっ!?」
 足場にしていた建物が傾くのを感じて、姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は咄嗟に白翼を翻すと空に舞い上がった。
「もー! なにアレ! だいたい植物が空を飛ぶなんて、タンポポかアルソミトラじゃあるまいし!」
「アル、ソ……?」
 ロビネッタの憤慨から聞き慣れない単語を拾ったフィオナ・シェリオールには翼などなく、彼女は疑問符を浮かべながら落ちていく。
 それこそアルソミトラの種子のように、グライダーでも背負っていたなら風になれただろうが、まさかそんなものを準備するケルベロスなどいるはずもなく。
 用意されていたと言えば、空中でもう一度跳ねる術くらいのもの。
 ああ、使えてよかったダブルジャンプ。此方も翼など生やしていないアンセルムは、落ちる最中でぴょいんと跳ねて攻性植物の蔦を伸ばすと、手近な鉄柵を掴んで乗り越え、安定した足場に一先ずの着地を果たした。
「……ま、やられに出てきたわけじゃねえもんな」
 どうにも一筋縄ではいかなさそうな相手に言い放って、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)も沈みつつある屋上の床を蹴り上げる。
 根っこがあちこちをなで斬りしているとはいえ、まだ仲間達に被害は及んでいない。
 ならば癒し手として戦いに臨むウタも、一撃ぶちかましておきたいところ。
「てめぇもその胎児も此処に居場所はないぜ。……逝っちまいな!」
 爆ぜるように燃え上がった右腕を振りかざして、ウタは凄まじい速さで突撃をかけた。
 そして――ぐらりと揺らいだ“それ”の脇を通り過ぎ、そのまま地表へと辿り着く。
 相手が巨大だからと舐めて掛かったわけでもないが、しかし現実として、ケルベロス達の視られる数値はどうにも頼りないものが多い。
 刀を掲げて己が身に宿る御業を喚び起こした遥が、その半透明の超常存在から撃ち放った炎弾も、空の彼方で弾けて消えてしまった。
「でもでも、すばしっこさならアタシも負けないっす!」
 攻撃の機会を逸していたコンスタンツァが、瓦礫と化して落ちていくビルの欠片を踏み台にして“それ”の真上に飛び降りる。
「思いっきり殺ってやるっすよー!」
 叫び声に微かな興奮を滲ませたコンスタンツァは、右手に握ったままのリボルバー銃を“それ”にしっかりと向けて、引き金を引いた。
 そこから撃ち出される――ではなく、敵の上に作り出されたのは、丸いダイナマイト。花弁の間に落ちた粒は盛大な爆発を起こし、直上より空爆を受けた“それ”からは、もうもうと煙が立ち上った。
 その煙を裂くように落ちて、アンセルムも蹴りを浴びせる。
 というか、踏む。ぐにゃりと気色悪い感触を味わってから、再び空に跳び上がって蔦を伸ばすアンセルムの動きは未開の地を往く野生児を微妙に想起させたが、幸いにも彼は野蛮さと真逆の顔立ちで、細身の身体で、首に可愛らしい人形を抱きつかせていたから、コンクリートジャングルの王者を拝命せずに済んだ。
 何より、無駄口を叩く暇はない。少し高度を下げたものの、漂う“それ”は破壊と前進を続けている。
(「これ以上、被害を広げるわけには……!」)
 無差別に振るわれる根の猛撃を真下で掻い潜って、憂女は一瞬の隙を突くと大きく息を吸い込んだ。
 そして己の存在を知らしめるような咆哮を響かせれば、ざわめく“それ”に僅かな変化が起きる。
 どうにか当てられたのだ――と、思う間もなく襲い来るのは一纏めにされた根の束。槍と呼ぶには太すぎる、柱のような塊をまともに受けて、軽々弾き飛ばされた憂女の身体はビルのガラス窓を突き破る。
「っ……さすがに、一撃が重いな」
 だが倒れるには早すぎる。腕に刺さった透明な欠片を抜いて、憂女は自らが描いただろう軌跡をなぞるように、また最前線へと戻っていく。


 その様子を遙か上空から見やり、仲間の無事に胸を撫で下ろしたロビネッタは、フローネ・グラネットが紫水晶のように輝く盾で守っていた高層マンションへと降り立った。
 正面には標的の巨体。絶好のポジショニングは命中率も向上させている。
 ならば、大口径の弾丸を込められるように改造した愛銃シェリンフォード改の出番だ。
 しかし少女の身で扱える程度の銃が、7mにも達する“それ”にどれほど通ずるものか。構える本人でも首を傾げたくなるが――ロビネッタもガンスリンガーの端くれであるからには、銃を撃って、当たれば効く。
 そして引き金を引く最良のタイミングは、天からひらりと舞い落ちた羽が教えてくれた。彼方・悠乃が前衛陣に振り撒く、その一つが銃口と標的との間を結んだ時、ロビネッタは銃弾を撃ち放ち、撃ち放ち、撃って、撃って撃って撃って、撃ち尽くす。
 弾丸は全て獲物を捉え、どことなく文字のようにも見える痕を残す。上手くいけばR.H.とイニシャルサインになるのだが……今日も今日とて、その試みは失敗に終わった。
 もっとも弾痕の並びが歪だったところで、銃撃の威力には関わりない。ロビネッタの杞憂を吹き飛ばすように“それ”は悶えて、道を根で叩き――失ったものを取り返すのだと言わんばかりに、その蠢く器官をあちこちに差し向けた。
 天と地の隔たりなく迫る凶器の暴れ具合は凄まじく、警戒しても集中しても凌ぎ切れるものでない。小太刀を振って抵抗する憂女の身体には瞬くほどの間で幾つもの傷が出来上がり、滴る雫を掬い取った“それ”の破れかけていた花弁は、無色の糸で縫い合わされるかのようにゆっくりと閉じていった。
「……厄介だな」
 少しはダメージを重ねられたかと思った矢先、今度は吸収回復。デカいばかりの独活の大木などとは到底詰れない強かな戦いぶりに、憂女はなおも刃を振るいながら呟く。
 だが、あくまで攻撃に付随する吸収能力であるならば、回復量は決して多くないはずだ。
 僅か一分前までと違って明らかに『当てられそう』な気配を醸す敵に、憂女は根を刃で打ち払いながら近づいていく。
 途中、背にはウタの歌が浴びせられた。蒼き地球で息づき歓ぶ生命を謳う声は、憂女の傷を埋めると共に心を奮い立たせて、より強い足取りで先に進ませた。
 そして一歩二歩、三歩と踏み切ったところで、憂女は倒れ込むように前方へと身を投げ、竜の翼を翻して地を舐めるくらいに低く飛ぶ。敵の下で反転しつつ、菫色の銃から撃ち出したグラビティ中和弾を触手もどきの根元部分に当てれば、そのまま潜り抜けていった赤い影を追って“それ”は進路を反転させた。
 当然ながら、そちらは通り過ぎてきた道であるから壊せるものが少ない。敵を誘導できれば被害拡大を防ぐことに繋がるだろうかと思いつつ、憂女は地に足をつけて追いすがる敵を見やった。
 徐々に、徐々に“それ”は迫って――来る最中、何処からか伸びた一条の鎖によって暫し動きを封じられる。
 巨体へと絡みつく、その黒い縄状を辿っていけば、操り主は幸運にも生き残っていたビルの上。
 遥だ。笑顔を貼り付けた優男は、念で操作する伸縮自在の鎖を巧みに用いて奮闘し、命中率という懸案事項の解決に大きく寄与してみせた。
「伊織、そのまま!」
「が、頑張ります、けど……!」
 単純な力勝負で無いとは言えども、綱引きする相手との質量差は埋めがたい。
 しかし友人たるアンセルムに応えて、そして仲間達が一撃浴びせるまではと、遥は懸命に堪えながら敵を縛って捕らえ続ける。
 その隙に再び高所から飛び降りたアンセルムは、オウガメタルを纏って一時、銀色の煌めきと化した。
 二度も三度も踏まれてたまるものか――と、思う頭があるのかはさておき、身動きの取れない“それ”も防御相殺を試みる。
 だが空に向かって伸びた何本もの根は、銀色の奥から飛んできたエネルギー弾によって撃ち落とされ、使命を果たせない。アンセルムが僅かに振り返れば、そこには鴉の如く颯爽と黒衣を翻して数少ない足場を跳び渡る、白黒二丁のライフルを構えた霧山・和希が見えた。
 さすが和希、なんて称賛は後で幾らでも送るとして。心強い存在を背に置いたアンセルムは全力で以って花弁の一つを穿ち、すっかり熟れた様子で蔦を伸ばすと遥の立つビルへと登る。
 その頃には鎖も限界を迎えていたが、締め上げられた影響は“それ”に残り続けている。漂い方にすら愚鈍さがにじみ出てきた相手に向かって、刃を携えた恵とミルフィは初手の鬱憤を晴らすかのように上から斬りかかった。
 空の霊力を帯びた日本刃が破れかけの花弁を切り開き、まだ澄んだ色を保つ一枚を喰霊刀が貫いて呪詛で汚していく。
「……まさか……こいつが、人型攻性植物を生み出しているとでも……?」
 ミルフィが、突き刺したところから中身の様子を伺って、ふと呟いた。
 だが、今この場では想像の域を出ない。ミルフィは刀を引き抜いて足元を蹴り上げると、不気味な花弁から一度離れていった。


 傷が増えるにつれて機動力を失っていく“それ”を、ケルベロス達は絶え間なく攻める。
「ヒャッハアー!」
 すっかりハイになってきたコンスタンツァは叫び、遮二無二振るわれる根を八艘飛びよろしく踏みつけ越えると、地上から一気に空高くまで上がってリボルバーを弾いた。
 それと同時に、ジェスト・エクスナージュが絶対零度の手榴弾を投下する。二種の爆薬は無残に荒らされた花畑の中に落ちて爆ぜ、大きな爪痕を残す。
 コンスタンツァは巻き起こる風に流されるまま、サムズアップを送るジェストに手を振ってからビルの残骸を蹴りつけて地表へと降り立った。
 勢い任せに辿り着いたようでいて、其処はコンスタンツァの次なる一手に最適な場所。銃口から標的までは何も遮るものなどなく――しかしコンスタンツァは、一度は“それ”に向けたリボルバーを明後日の方向に逸らして引き金を引く。
 飛び出した弾丸は舗装路を跳ね、瓦礫の合間を抜け、まるで渦巻くような軌道で街中を縦横無尽に駆け巡り、ついには最初に狙い定めたところと同じ箇所を貫いた。
 不思議の一言では済まされない奇跡的な跳弾。だが、コンスタンツァもまたガンスリンガーであるからには、軌道計算など息をするのと変わらない。
 ロビネッタも然り。グロテスクさを増すばかりの相手に接射を仕掛けるなんて考えは放り捨て、空から撃った銃弾を地面に跳ねさせる。二者の射撃が命中した後には、相馬・泰地が旋風のような身のこなしで光の弧を描きながら回し蹴りを喰らわせて、その健脚の痕に癒やす間も与えず、憂女が一太刀浴びせて根の間を飛び抜けた。
 ただでさえ自由を奪われたというのに、近場に張り付き続ける憂女はさぞ鬱陶しいことだろう。怒りに任せたような形で振るわれる根は数少ない足場を潰し、巻き込まれかけたロビネッタが慌ただしく羽ばたいていく。
 しかし憂女は間合いを離さず、最前に残って立ち回る。その奮戦に恵も加わり、二人は背を預けつつ巨体の真下で全ての根を引きつけた。
 二人を支えるため、ウタも根が及ばないギリギリまで迫ってギターを掻き鳴らす。ガンスリンガーが銃の名手なら、ミュージックファイターは音楽表現の達人。暴風の如く弦唸らせて、歌い上げるは生命の賛歌。高らかな声は傷を癒やすだけでなく、根と斬り合う二人の意志を物理的な強靭さにまで昇華させた。
 そして効果が表れたと確信できても、ウタは一歩たりとも退かずに、己の喉と指先で旋律を生み出し続ける。
 癒やすのも戦いなのだと示すような激しい演奏に、恵も内なるものを呼び覚まされたかと思うほど熱く力強い剣閃を放つことで応えた。一際太く鋭い根が斬り飛ばされて、本体から遠く離れた瓦礫の山へと突き刺さる。
 その墓標にも似た光景を見下ろしながら、遥は再び鎖を巻き付けた。
 今度は締め上げるのでなく、鎖を縮める勢いを使って雷が落ちるように“それ”を穿つ。
 直後、アンセルムも大気中の水分を凍らせて作った無数の氷槍を差し向けて貫く。
「そろそろ参りますわよ! ――ナイトオブホワイト・起動……!」
 より一層悲惨な、磔刑にでも処されたような相手の姿に終わりが近いことを感じたか、ミルフィは自身の持つ全兵装を変形合体させて――なんと巨大なロボット型の機動鎧形態に変えた。
「稼働時間の限界までぶちかましますわよ!」
 巨大兵器に搭乗したミルフィは、姫様と慕うアリス・ティアラハートが間近で歌い始めたのを聞きながら格闘戦を挑む。
 優雅ではないが力強い連打の応酬に“それ”は圧倒され、いよいよ為す術がないまま、全ケルベロスの猛攻撃を受けた。
 程なく萎みかけた“それ”は――サキュレント・エンブリオなる巨大攻性植物は、死に至って花も根も力なく垂らした後、唐突に膨らんで弾け、胞子のようなものを撒き散らしてから形を失っていった。


「建物に被害は出てしまいましたが、なんとかなりましたね」
 幻想化は各所に見られるが、そればかりは仕方ない。憂女は街を見回して言うと、残った瓦礫の除去に向かう。
 一方、ロビネッタは空を眺めて……あの攻性植物、回復魔法とか得意そうな見た目だったなぁ、などと思っていた。
 もしそんな個体が現れて、ヒゲの戦士でも連れてきたなら大層苦戦しそうではあるが。
 それはさておき。
 常人なら震えて動けなくなりそうな高所から、コンスタンツァは街を見下ろす。
 もし落ちてもケルベロスだから死なない。それが一因を担ったのかはともかく、彼女の胸中には巨大な敵を相手に戦場を駆け回った高揚感だけがあった。
 対照的に、地上のウタは少し憂いを帯びた表情でギターを鳴らしている。そこには倒した敵すら案じるような想いがあったが、ウタはそれを口にせず、代わりに美しい旋律の鎮魂曲を響かせるのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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