梅雨入り前の七変化

作者:麻香水娜

●見頃を控えて
 大阪市内のとある小学校。
 ゴールデンウィークで当然誰もいない。

 ──ふわり。

 敷地内のアジサイ周囲に謎の花粉のようなものが漂った。
 すると、突然その中の5本が巨大化し、攻性植物になってしまう。
 周囲を確認した攻性植物は、近くに人の気配がないと分かると、正門から住宅地へと向けてゾロゾロと移動を始めた。

●動き出す攻性植物
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです」
 眉間に皺を寄せた祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が静かに口を開く。
「大規模な侵攻ではありませんが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまいます」
 今回現れる敵は、アジサイの攻性植物。
 この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとするため、とても危険な状態だ。
「敵の数は多いですが、別行動する事無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないので、対処は難しくありません」
 しかし、数の多さは脅威であり、同じ植物から生まれた攻性植物であるからなのか、互いに連携もしっかりしているので、油断する事は出来ない。
「攻性植物の数は5体。発生場所は午後2時すぎの小学校で幸いな事に周囲には誰もいません」
 人のいない小学校だ。広さも充分。戦いやすいといえば戦いやすい場所だ。
 しかし、数が多い上にそれぞれ個性もあるようで得意分野も違うし、連携もしてくる。非常に厄介だ。
「攻性植物なので、皆さんもご存知のようなグラビティを使ってきます。それぞれの個性ですが――」
  攻撃力の高い個体が2体、防御力の高い個体、状態異常が厄介な個体、癒しを得意とする固体が1体ずつだと続ける。
「個性はあれど、リーダー挌がいるわけでもなし、5体とも同等の強さのようです」
 蒼梧は説明を終えると、改めてケルベロス達を見渡した。
「周辺の一般人は事前に避難させる事ができますので、戦闘に集中できるでしょう。どうぞ、被害が出る前に、攻性植物の撃破をお願い致します」


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)

■リプレイ

●鮮血に染まる前に
 ケルベロス達は現場に到着し、念のため周囲を確認する。
 事前に連絡して避難を頼んでおいたので一般人は見当たらない。
「……あ、フレア。紫陽花は齧っちゃダメですよ? 葉っぱには毒があるらしいですから」
 周囲を見渡していた夜陣・碧人(影灯篭・e05022)が、ボクスドラゴンのフレアを抱えて制止する。
「Relief……今回は宿主さんを気にしないで良い分、楽ですの」
 これから攻性植物になってしまうアジサイを見つめながら、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)が、ほっとしたように小さく口元を緩めた。
「それに、周りに一般の人がいないのは不幸中の幸いだね」
 楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)も小さく笑みを浮べる。
「それにしても……この時期に活発化かあ。何か大阪城で変化があったのでしょうか」
 ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)が考え込むようにぼそりと漏らした。
「えぇ、確かに大元の方も気になる所ですが、今は目の前にある脅威を何とかしないと」
「大規模な動きではないとはいえ、今後のためにも確実に撃破していきましょう」
 その声に、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)と玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が武器を握る手に力を込める。
「攻性植物とはいえ、一応生き物なんで無闇に殺すのは忍びないんだが……」
 花開こうと蕾をつけた──これから攻性植物になってしまうアジサイを見ながら氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)が溜め息混じりに吐き出した。
「悪い芽は、摘んでおかなくては、ね」
 その言葉を引き継ぐようにルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)がぼそりと呟く。

 ──ふわり。

 アジサイ周囲に謎の花粉のようなものが漂った。

●動き出した攻性植物
「Demander! 良い子だから大阪城に帰って!」
 動き出した攻性植物たちにシエナが叫ぶ。
 しかし、シエナの叫びなど意に介さない攻性植物たちはケルベロス達に臨戦態勢を取った。
「アメジスト・シールド、最大展開!!」
 フローネ・グラネットが前衛の前に盾を防護展開する。
「色取り取りの変化で人を楽しませる紫陽花が、人の血に染まるのは、防ぎませんとね」
 那岐が雷を纏わせた刀で、剣舞を舞うように華麗な動きでジャマー攻性植物を左から貫いた。
「悪いが……狩らせてもらうぞ」
「畳みかけましょう……!」
 ガッと髪をかきあげた緋桜の瞳が鋭くなり、ストラグルヴァインでジャマー攻性植物を締め上げると、動きをあわせたユウマが軽々と大剣を鞘から抜き、足のようになっている根に素早い連撃で斬り刻む。
「地の底に潜み、陽の光を嫌い。そして彼らは悪意へ微笑む」
 碧人が静かに言葉を紡ぐと、真っ黒な妖精がふわりとジャマー攻性植物の背後から病と災厄を楽しそうに振り撒き、フレアは妖精とは反対でユウマに駆け寄り、温かな日向の光をインストールした。
『……!』
 一番後ろにいたメディック攻性植物が花の蕾から黄金の果実を宿らせ、その光で傷付くジャマー攻性植物を進化させる。
 光に包まれたジャマー攻性植物は、葉の1枚を巨大化してハエトリグサのような形にすると、その葉で緋桜に襲いかかった。
「下がってください!」
 ユウマが緋桜の前に出て大剣を盾のように翳すと、その手を思いきり噛みつかれる。
 クラッシャー攻性植物が枝を蔓のようにして那岐に絡みつくと、もう1体のクラッシャー攻性植物は蕾を開かせて、そこから破壊光線を放った。
「旋風斬鉄脚!」
 相馬・泰地がジャマー攻性植物の死角から高速の回し蹴りを放つと、バサッと葉が舞い散る。
 ディフェンダー攻性植物は、黄金の果実を宿らせてジャマー攻性植物を進化させながらダメージを癒した。
「緊急手術をしますね」
 傷付く那岐に彼方・悠乃が駆け寄り、患部を切り開いてあっという間にその傷を癒す。
「ありがとうございます」
 那岐が感謝を込めて微笑むと、悠乃もにこりと微笑み返した。
「見た目植物なのに連携したりでいやらしいよねぇ。こっちも連携見せてあげるよ!」
 牡丹の言葉にテレビウムのブローラが走り出すと、手にした凶器でジャマー攻性植物に思い切り殴りかかる。
「えぇい邪魔くさい! さっさと倒れてよね!」
 ブローラと反対側から挟み撃ちにするように牡丹の如意棒が伸び、思い切り突いた。
『!!!!!!!』
 ジャマー攻性植物は大量の葉を撒き散らしながらドサリと倒れる。
「次いきますよ!」
 ソーヤが自分に近い方にいる破壊光線を放ったクラッシャー攻性植物に狙いを定め、軽々と飛び上がって煌く飛び蹴りを入れ、重力の錘をつけた。
「Emprunts! ラジン、眷属を借りますの! En avant! 全軍突撃なの!」
 シエナはボクスドラゴンのラジンシーガンが封印箱に住まわせている大量にいる眷族の蜂達を、ソーヤが攻撃したクラッシャー攻性植物に特攻させる。その蜂達と共に、ラジンシーガンがブレスを吐き出した。
「今、治す、わ」
 ルベウスはオウガ粒子を放出させて前衛の超感覚を覚醒させながら、ユウマの傷を癒して毒を取り除く。
「しっかり当てておくれよ!」
 ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)もオウガ粒子を放出させ、中衛の超感覚を覚醒させた。

●確実に撃破を
 傷付くクラッシャー攻性植物に、ユウマの達人の一撃と那岐の氷結の槍騎兵の連携が決まり、碧人がフルスイングして撲殺釘打法で葉を派手に散らす。メディック攻性植物が黄金の果実を実らせてクラッシャー攻性植物の傷を癒すも、フレアがボクスタックルで進化を止めた。
 緋桜がダークエネルギーを集めた拳を思い切り叩き込むと、体中に火傷のような症状が出き、全ての葉を散らして枯れてしまう。
「あと3体」
 沈黙した攻性植物を一瞥した緋桜は、すぐにもう1体のクラッシャー攻性植物を見据えた。
 ケルベロス達の視線に、次は自分が狙われると察した残るクラッシャー攻性植物は、根を大地と融合し侵食、中衛を飲み込もうとする。
「ローナさん!」
『!!』
 ユウマがソーヤの手を引いて場所を入れ替わると、ラジンシーガンがシエナを突き飛ばした。
 ディフェンダー攻性植物が蕾を開いて牡丹に向けて破壊光線を放ち、その腕を焼く。
 牡丹は痛みに眉を顰めつつも、クラッシャー攻性植物に破鎧衝を打ち込もうとするも、ディフェンダー攻性植物に間に割り込まれてしまった。
 庇われて安堵して気が緩んだクラッシャー攻性植物に、すかさずブローラが凶器で殴りつける。ソーヤがエクスカリバールをフルスイングして葉を散らせた。シエナがアイスエイジインパクトを叩き込み、ラジンシーガンが封印箱に入って体当たりした。
「気をしっかり……私たちの敵を、ちゃんと見て」
 ルベウスがメタリックバーストを前衛に使い、ユウマとラジンシーガンの傷を癒しながら意識をはっきりさせ、ファランはフレアに分身の術を使う。
 碧人が黒い妖精を呼び出し、フレアがブレスを吐いた。
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。必殺の銀色の剣閃!!』
 那岐が銀色の風と共に舞い、無数の剣閃を閃かせて、容赦なく斬り裂く。
『────!!』
 葉も枝も、蕾までもがバラバラに斬り裂かれたクラッシャー攻性植物は崩れ落ちた。
「残り2体です!」
 那岐が声を上げると、ケルベロス達は気合を入れ直す。
 緋桜がディフェンダー攻性植物に達人の一撃を叩き込むと、ユウマが大剣で根に連撃を入れて機動力を奪った。
 ディフェンダー攻性植物が黄金の果実を実らせて己の傷を回復させると、メディック攻性植物も同じく黄金の果実を実らせて更に傷を治して進化させる。
 牡丹がマジックミサイルを、ブローラが顔から閃光を同時に放ち、ソーヤはスターゲイザーで重力の錘をつけ、ソーヤの動きに合わせたルベウスが戦術超鋼拳で固い樹皮を砕いた。
 シエナは再びラジンシーガンの封印箱から蜂を特攻させ、ラジンシーガンはブレスを吐いて傷を悪化させる。ファランが手加減攻撃で進化を止めた。
 今度は那岐がハウリングフィストで吹き飛ばす。タイミングを合わせたユウマの達人の一撃が撃ち込まれると、ディフェンダー攻性植物をとうとう動かなくなった。
「最後です!」
 ユウマが声を上げると、緋桜が残るメディック攻性植物をストラグルヴァインで締め上げる。
「朝霧より前に来るもの……夜闇に融かして消えるもの……緩やかに確実に……速やかに曖昧に……戯れに纏わりつく……」
 緋桜の動きを察して詠唱を始めたルベウスは魔力を溜めた宝石を砕いた。耳長の四足獣にも似た黒いガス状の魔法生物が生み出され、メディック攻性植物に纏わりつく。そこへ碧人が撲殺釘打法で黒いガスがしみ込みやすくし、フレアが封印箱に入って突撃するとメディック攻性植物は黄金の果実を実らせ僅かに傷を塞いだ。牡丹がファミリアシュートを放ち、衝撃でよろめいたメディック攻性植物にシエナが近付いた。
 事前に試したい事があると聞いていたケルベロス達は息を飲む。
「Excusez‐moi……乱暴してごめんなさい」
 シエナはメディック攻性植物にそっと触れ、語りかけた。接触テレパスを使い、あなたを助けたい、その手段として自分に寄生し大人しくする事を願う。
『!!!!』
 しかし、その語りかけは通じなかったのか、枝を大きく振って、自分に触れるシエナを撥ね退けた。
「危ない!!」
 那岐が咄嗟に雷刃突でメディック攻性植物を突く。
『!!!!!!』
 その突きがメディック攻性植物の体を貫き、ハラハラと葉を落としながら崩れていった。

●春風に揺れて
「大丈夫ですか?」
 撥ね退けられたシエナを受け止めたユウマが苦笑する。
「……無理、でしたか……」
 シエナは哀しそうに俯いてしまった。
「……これ……もう安全だと思う、わ」
 そこへ、ルベウスが小さな蕾を差し出す。
 その蕾は、メディック攻性植物が崩れていったときに散らばった蕾の1つだった。
「Merci……」
 小さな蕾をぎゅっと握り、散っていった攻性植物たちに哀悼の思いで目を伏せる。
 その少し後方では、緋桜が黙祷を捧げると、ケルベロス達全員が静かに瞳を閉じた。

「では、出来る限り片付けておきましょう」
 那岐が穏やかに微笑む。
「そうですね。フレア、ここのヒールをお願いします」
 頷いた碧人はアジサイの生えていた花壇をフレアにヒールを頼んだ。
「あ、えっと、ホウキとかあった方がいいですよね」
 あれだけ大剣を軽々と操って、ディフェンダーとしても頼もしかったユウマが、どこか自信のなさそうな様子で口を開く。
「ですね。えっと……あそこに掃除道具とかありそうですね」
 ソーヤが周囲を見渡し、焼却炉の傍にある物置を指した。
「自分が見てきます」
「私も行きます」
 ユウマが焼却炉の方に足を向けると、ソーヤもその後を追う。
「ブローラ、私達は門の辺りをお掃除だよ! ブローラはヒールね!」
 流れ弾で傷付く門の方へ牡丹がブローラを伴って小走りに向かった。

「応援にきてくれてありがとね」
 片付けやヒールが終わると、ファランがサポートに駆けつけてくれたフローネ、悠乃、泰地に微笑みかける。
 すると、他の8人も口々に礼を述べ、笑顔と共に穏やかな春風が流れた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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