絶対正義ダイケンゴー

作者:蘇我真

「日本のオモチャ、とってもよくできてマース!」
 オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)はショッピングモールへと買い物にやってきていた。
 見ているのは合体ロボのオモチャだ。自立し、剣を持っていてポーズを取れるようになっている。
 ジャパニーズ文化を楽しみつつ一通り買い物を終え、イベント広場へ差し掛かったときに異変は起こった。
 周囲から、波が引くように買い物客たちが消えていたのだ。
 人払いの結界。こんなことができるのはケルベロス、もしくは――。
「デウスエクスデース!」
 荷物を置いて剣を抜き、臨戦態勢に入るオリビア。イベント広場の裏から、それは顔を出した。
 人間よりふたまわりは大きい、二足歩行の巨大ロボットだ。先ほど見たオモチャのように自立し、両手に大剣を握っている。
 二刀流、お互いの腕を交差するように前に突き出すその構えを見て、オリビアは思わず言葉を漏らした。
「二天一流……!」
「ケルベロス、発見。破壊スル」
 口の部分から聞こえてくる機械の合成音声。宙に浮いた胴体を繋ぐ四肢の超電磁が、興奮するようにスパークを起こした。
「正義ノ剣、受ケテ見ロ!」
 正義を唄いながら剣を振るうその瞳には、気力充分とばかりにランプが灯されていた。

「オリビア・ローガンがまたデウスエクスの襲撃を受けるようだ」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は、オリビアへの再度の襲撃を予知していた。
「今度はショッピングモールのイベント会場……普段はヒーローショーやらお笑い芸人がコントをしているステージだな。敵のダモクレスが人払いをしているため、一般人が巻き込まれることはない」
 今から急行すれば、ダモクレスの襲撃直後に間に合うだろうと瞬は言う。
「相手はダモクレス『ミヤモト・ムサシ』。二刀流の剣豪ロボットだな。図体はデカいが、その動きは洗練されていて剣豪の名に違わないものだ。武器は、当然その両手に持った大剣だろうな」
 自身の剣に絶対の自信を持ち、正義の名のもとにケルベロスを断罪するダモクレス『ミヤモト・ムサシ』。
 どうか十二分に気を付けてほしいと瞬は頭を下げ、最後にこう残すのだった。
「宮本武蔵といえば無敗伝説で有名な剣豪だ。二刀による絶え間ない連続攻撃を凌ぎ、一敗地にまみれさせてやってくれ」


参加者
烏麦・遊行(花喰らう暁竜・e00709)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)
有馬・左近(武家者・e40825)
ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)

■リプレイ

●煽り全一
 剣豪型ダモクレス、ミヤモト・ムサシによって人払いされたはずのショッピングモールイベント広場。
 しかし、そこに新たな影たちが登場する。
「術式多重起動。木星の3、水星の2……救いを齎す愛はいつでもあなたのすぐそばに」
「ナヌッ!?」
 破り取られた手帳のページ。そこから突如蓮の花の妖精が出現する。
「この技は……!」
 離れぬ愛の水芙蓉、思わず足を止めて注目してしまうその技の使い手をオリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)は知っていた。
「お節介かと思いましたが、助けに来ましたよローガン」
 烏麦・遊行(花喰らう暁竜・e00709)だ。愛用の手帳を片手に、その口元は僅かに微笑んでいる。
「猪口才ナ、ファイブロウブレードデッ!」
 ムサシが手にした二刀を振るうが、蓮の花の妖精にまでは届かない。
「夜鳴鶯、只今推参」
 樒・レン(夜鳴鶯・e05621)だ。縛霊手で二振りの刀を防ぎ切っていた。
「忍ビカ……!」
「命を護るのが我ら地獄の番犬なれば、正義を僭称するお前に負けるわけには行かぬ」
 レンは最も確度が高い螺旋射ちで、ムサシの腕、その結合部を狙おうとする。
「涅槃へ送り届けてやる。覚悟!」
「食ラウカ! 二天一流オープンゲット!」
 瞬間、ムサシの腕を連結していた超電磁が消失した。
 何もない空間を螺旋の力が通り抜けていく。
「サスガ、二天一流デース!」
 そして瞬時に再合体するムサシを見て、オリビアは敵ながらあっぱれと感嘆の声を上げる。
「どこが二天一流なんだよ、ムサシ関係ないだろ!」
 適当なネーミングに思わずツッコミを入れる八崎・伶(放浪酒人・e06365)だが、すぐにムサシの追撃がくる。
「大勝山オロシ! タイガースイング!」
 宮本武蔵の出身地とされる美作の山を冠した一刀の薙ぎ払い。横っ面をはたくように振り切られるそれはまさに虎の尾だ。
「ちっ……名前はめちゃくちゃだが、威力だけはありやがるぜ!」
 構えたゲシュタルトグレイブが押され、後方で伶のボクスドラゴンが心配そうに見守っている。
「今度は新免武蔵か、次から次へと来っな。種類が多うて飽かんのは良かこっじゃて」
 刀を掲げた蜻蛉の構え、その一撃をはじき返したのは有馬・左近(武家者・e40825)だ。
「ソノ構エ、示現流カ」
 剛剣を打ち破った左近を見て、ムサシは今一度二刀を構え直す。
「新免武蔵、五輪書では他流派ん講釈たれおったな。強者故に言葉に重みがでるが……おはんなどげんけ」
「ウインドノ巻ヲ読ンダカ、良イ心ガケヨ。サインヲヤロウ、コノ刀デ貴様ノ身体ニナ!」
 剛剣には剛剣、強く打ち返す動きを見せるムサシ。そこへ左近が斬り込んでいく。
「チェストオォッ!!」
 雄叫びと共に繰り出された剣は大上段、ではなく袈裟斬りだった。
「示現ノ祖、タイ捨流カ……!」
 上段を予想していたムサシはその剣閃に対応できない。圧倒的な威力の剣が、ムサシの装甲に斜めにヒビを作る。
「もとより実戦的な流派故、使い分けに抵抗はなか!」
「ソノ通リ、勝テバ良イ!」
 五輪の魂がムサシに宿る。目に灯ったランプがより強く光り輝いていく。
「なら、勝つためにこっちもやらせてもらうぜ!」
 後衛のレヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)とルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)はイベント会場のステージ上段に陣取っていた。
「ムサシ敗れたり!」
「こっちを向いて」
 共に人目を引く虹を作り出し、ムサシへと直撃させる。怒りを付与し、攻撃が届かない後衛を狙わせようという策略だ。怒りが付与できれば有効な作戦だろう。
「ソノ程度ノ挑発デ気ヲ引コウトハ片腹ペイン!」
 しかし、ムサシの宿した五輪の魂が、怒りを諸行無常の彼方へと消し去っていく。
「なにぃ!?」
「キュア効果の発生を確認。敵ダモクレスのポジションをメディックと断定」
 驚愕するレヴィンへ、敵のポジションを見極めるべく観察していた款冬・冰(冬の兵士・e42446)が説明する。
「煽リ方ガマダマダ甘イ! 心頭滅却スレバ火モマタ涼シ! オリンピックノ書ニモ、ソウ書イテアル!」
「グヌヌ……サスガ鞘を投げ捨てただけで相手を煽った精神攻撃のプロ……五輪の精神、恐ろしいデース!」
「一応言っておきますけど、書いてないですからね。心頭滅却は快川紹喜の言葉です」
 歯噛みするオリビアへ、補足する遊行。オリビアは特に気にした風もなく、二刀を鞘から引き抜いてクロスに構える。
「二天一流ミヤモト・ムサシ! 同じBUGEI者として『セイセイドードー』お相手致しマース!」
 そして、高らかに宣言する。その際も、鞘は投げ捨てはしないのだった。

●剣豪の最期
「二刀を自在に操るのは二天一流だけじゃありマセーン!」
 オリビアは自らの背後に巨大なチェインソウアームを2本召喚する。
「DEUS-EXでもKAIJUでもブッタ斬ってやるデース!!」
「斬レルモノナラ斬ッテミロ! 我ガ名ナハミヤモト・ムサシ! 悪ヲ断ツ剣ナリ!!」
 挑発しながら、二人のブレードで受け止める。一進一退のつばぜり合い。周囲に火花が散る。
「オン・バラダハンドメイ・ウン」
 横から、再び足の関節を狙ったレンの螺旋射ち。
 放たれた螺旋の力は変幻自在に闇夜を舞う蝙蝠に似ていた。
「フン! 剣豪ニハ、一度見タ技ハ通用シナイ!! 二天一流オープンゲット!!」
 オリビアの剣を受けながら、片足だけ外して螺旋を避ける。
「ならば、剣豪はお主一人だけではござらぬ」
「キェェェェッ!!!!」
 レンに連携して、左近が大上段から剣を振り下ろした。
 今度は示現流の二の太刀いらず、オリビアのチェインソウアーム2本に示現流の剛剣が加わった状態で、しかもムサシは片足を宙に浮かせている。これでは攻撃を受けきれるはずもない。
「グワーッ!!!」
 ムサシは剣圧に押されて背中から地面へと倒れ込んだ。もうもうと巻き起こる土煙、ケルベロスたちは攻撃を緩めない。
「一気に削ります!」
 遊行は大きく足を上げ、理力を籠めた星型のオーラを土煙の向こうへと蹴り込む。
「焔、援護を頼む!」
 ボクスドラゴンのブレスに合わせて伶が斬り込む。竜の吐息が晴らした土煙、その向こうに見えたムサシのマウントポジションを取ると、胸の装甲へ自らの腕をぶち込み、強引にドリル回転させた。
 鈍い破壊音。うめき声。反撃を予測して飛びのく伶。遅れた膝蹴りがスカされる。
「喜びな、全弾プレゼントしてやるよ!」
 露わになった股間目がけて、銃弾の雨が放たれる。
 レヴィンだ。両手にリボルバー銃を握り、二丁射ちで全弾を狙い過たずに命中させた。
「クソッ、分離デキナイ、大事ナ所ヲ……」
 追撃に手を焼きながらも、なんとか起き上がろうとするムサシ。それをルエリラは許さない。
「私に出会ったのが運の尽き」
 魔力で覆われた弓が、巨大な雷の矢を生み出していく。ダモクレスにはよく効きそうだ。
「さようなら。ここがあなたの終着点」
 嵩にかかって攻め立てるケルベロスたちを前に、ムサシは決断した。
「コノ腕、クレテヤル!!」
 放たれた幸運の矢・フュンフを前に二天一流オープンゲットで分離した左腕を投げつける。
「なんと」
 予想外の迎撃に、ルエリラの目がわずかながら見開かれる。
 雷の余波を受けて機構が麻痺するムサシだが、残った片腕で大剣を振るう。
「タイガースイング!」
 一気に決めようと近づいていた前衛を、虎の尾の一撃で薙ぎ払ってみせた。
「フン、スイートネイルヨ!」
 度重なるケルベロスたちの攻撃により胸の装甲はボロボロに剥げ、中のコアが剥きだしになっている。脚部は足止めと麻痺で絶え間なくスパークを繰り返しているが、それでもムサシは立ち上がった。
「ほんなごつ、もっこすな男でごわす!」
 左近は薩摩のお隣、肥後で頑固者を指す言葉で、ムサシの意地の強さを称賛する。
「だげん意地は熊本、気は薩摩っちゅう! オイも負けんばい!」
 左近から放たれたオウガ粒子が、外骨格となって前衛の皆を癒していく。その力はタイガースイングで負った傷を癒すだけではない。神経を高め、狙いが研ぎ澄まされてもいく。
「命中率の向上を確認。ならばこちらは、エレキブーストを選択する」
 冰はオリビアへ雷を飛ばす。生命を賦活する電気ショックが高められた反射神経を更に向上、破壊力を倍増させていく。
「オリビアどん、気張れぃ!」
「オリビア、決着を」
 左近と冰の支援を受けて、オリビアはチェーンソー剣を振りかざす。
「ヌゥ……!」
 片腕で剣を受けようとするムサシ。
「これぞケルベロス流兵法! ムサシにガンリューリベンジデース!」
 一閃。宙に残るは雷鳴が如き剣閃。チェーンソー剣は、ムサシのコアを大剣ごと両断していた。
「ム、無念ナリーッ!!!!」
 絶叫するムサシ。ワンテンポ遅れて、切断されたコアからまばゆい光が放射状にあふれ出し、轟音と共に大爆発する。
「魔械転生計画……何故オリビアを狙うのか。目的不明」
 ムサシの最期を看取りながら、思わず口をついた冰の疑問。オリビアはその疑問を一笑に付す。
「きっとワタシがベリーストロングSAMURAIだからデース! HAHAHAHA!!」
 だが、その笑顔は、どこかぎこちない。
(まさか魔械転生衆がこれ程とは…ワタシ、柳生の名にかけて戦い抜いて見せマス!)
 固く握りしめているその手からは、年季の入った眼帯が覗いているのだった。

●本当のヒーロー
 ケルベロスたちによってカラフルに修復されたショッピングモールのイベント会場。
 そこでは、ケルベロスたちによる突発ヒーローショーが行われていた。
「喜びな、全弾プレゼントしてやるよ!」
 先ほど聞いた台詞で、今度は二丁拳銃で撃つ真似だけのレヴィン。
 それに合わせて舞台裏では伶がボタンを押す。鳴り響く銃声の効果音。
「笑止! 忍法木の葉螺旋!」
 一方、銃口を向けられていたレンは印を結ぶと自身の周囲に花吹雪を舞い散らせる。
 もちろん本当のグラビティではない。遊行が後ろで作りだした花吹雪をレンが舞わせているのだ。
「じゃーん。芋煮ブルー参上」
「…………」
 ルエリラが花吹雪を撃ち抜き、左近の剣舞が花びらを両断していく。
「な、なんと!」
 大げさに驚くレンへ冰がライトニングロッドを片手に襲い掛かった。
「……芋煮シルバー」
 バトンの様に回してレンをぽかりと叩く。
「ぬわーっ!」
 そしてよろめいたところに、オリビアが登場する。
「世界の平和は柳生とケルベロスが守りマース!」
 伶による月の光をスポットライトにして、二刀で斬る仕草をする。
「ま、参った!」
 悪役のレンが倒れると、見ていた子供たちが大喜びだ。
「JUSTICE!」
 決めポーズを取るオリビア。ショッピングモールを騒がせたお詫びにとオリビアの提案したケルベロスヒーローショー。
 子供たちからは概ね好評のようだ。向こうでは伶のボクスドラゴンがマスコット的にべたべた触られている。
「芋煮亭ではいつだって美味しい芋煮を販売中」
 更に芋煮会の宣伝を始めるルエリラを見て、ちゃっかりしてますねと苦笑する遊行。
 そこには温かい旅団の姿があった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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