金瞳プリュンダラー

作者:天枷由良

●人が持つ宝石
 美しいものは欲望を掻き立てる。
 それは時に『奪う』ということすら考えさせ、人を醜く争わせたりもする。
 とはいえ概ね秩序が保たれたこの国の人間社会で、略奪など頻発するものでない。
 ゆえに繁華街は今日も平和で、その一角にある宝石店も穏やかな時間を過ごしていた。
「此方など如何でしょう?」
 品のある声で、女性店員が指輪を勧めている。
 相手はまだ瑞々しい青年だ。場の空気に不慣れなのか、それとも余程大事な人に贈る物を選んでいるのか。ともかく青年は緊張した面持ちで、宝石に引けを取らないほど綺麗な金の瞳も、胸中を表すようにゆらゆらと揺れていた。
 仔細は分からなくとも、まあ微笑ましい光景である――が。
 青年が「あの――」と口を開いた途端、店の奥から轟音が響いた。
 同時に強烈な震動も伝わって、倒れた青年と店員の前でガラスケースが粉々に割れていく。明かりも消え、よもや大災害でも起きたのかと二人が思った矢先、全てを引き起こした原因は砂埃の中からゆっくり姿を現した。
 それは白銀の鎧を着た大柄な男。大剣と盾を携えるデウスエクス・エインヘリアル。
 エインヘリアルは恐怖に竦んだままの二人へと近づき、まず女性店員を大剣で叩き潰すようにして殺した後、なお怯えて動けずにいる青年を見やり――。
「……貴様の眼は美しいな。壊すには惜しい」
 血塗れの剣を床に突き刺しながら、そう唸った。
 だが、その呟きは青年を救うものでなく。かつて同族からも重罪人と扱われたデウスエクスは、青年の頭を“ねじ切る”と、何処からか取り出したナイフで眼を抉った。
「……うむ、やはり美しい。炎の如き赤、暗く深い青、澄んだ緑……そこに混ぜたとて、この輝きは劣るまい。矮小かつ悍ましき定命の者の一部とはいえ、これは良いものだ」
 エインヘリアルは暫し佇み、二つの球体を満足気に眺める。
 そして程なくそれを収めると、新たな宝を求め、店外に向かうのだった。

●ヘリポートにて
「罪人エインヘリアルって奴は、どいつもこいつも趣味が悪ィな」
 だから犯罪者扱いだったのか? と、鷹野・慶(蝙蝠・e08354)が不貞腐れたように言うのを、彼のサーヴァントであるウイングキャット・ユキが、じっと見やっていた。
 その傍らで、ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)も同じように、慶を見つめている。
「……なんだよ? じろじろと」
「ああ、ごめんなさい。鷹野さんのような眼の人が、今回の事件では狙われやすいだろうと思って、つい」
 軽く頭を下げてから、ミィルは集ったケルベロス達へと向き直り、説明を始めた。
「敵はエインヘリアル一体。繁華街にある宝石店の裏手に出現した後、店の外壁を破壊して侵入。客と店員を殺害して、さらなる虐殺に及ぶだろう……というのが、今回の予知よ」
 幸い、まだ事件が起こる前に相手の動きを掴むことができた。
 すぐ現場に向かえば、人的被害は出さずに済むだろう。

「避難の誘導に使える時間は多くないけれど、繁華街の人々も宝石店の二人も、呼び掛けさえすれば自主的に逃げてくれるでしょう」
 現場付近に降下した後、街中に呼び掛けながら宝石店へと入った辺りで、敵も出現すると思われる。ケルベロスを前にしたエインヘリアルはその排除を優先するはずなので、接敵したらば戦闘に注力すべきだろう。
「宝石店はそれほど広くないから、物的な被害も抑えるのであれば、人々が避難した後の街中に引っ張り出した方がいいわね」
「……後からヒールしても完全に直るわけじゃねえしな。指輪だ時計だネックレスだ、なんてのが置いてある場所で、あまり派手にやらかすと面倒くせえことになるか」
「そうねえ。命には代えられないのだから、損害が出ても目を瞑ってくれるでしょうけど」
 それはそれとして気持ちの問題もあるわよねと、ミィルは吐息を漏らして説明を続ける。
「最初に鷹野さんが『趣味が悪い』と言っていたけれど、今回のエインヘリアルは……眼球を収集しているようなの。特に今は、金色のものを狙っているようね」
 つまり戦闘中、金の瞳を持つ人は狙われやすいということだ。
「対象がいなかった時には、より魅力的な眼を持つ人を狙うのでしょうけど……さすがに詳細な優先順位までは分からないわね。収集……というからには、既に持っている色には興味を持たないのかしら?」
 ミィルは少しだけ考え込む素振りを見せたが、すぐさま時間の余裕がないことを思い出し、ケルベロス達に準備を急ぐよう伝えて、説明を終えた。


参加者
木村・敬重(徴税人・e00944)
エイン・メア(ライトメア・e01402)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
鷹野・慶(蝙蝠・e08354)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
葵・敦士(風待水月・e25487)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ


 繁華街に降り立った八人のケルベロスは、程よい賑わいの中を駆けながら方々へと避難を促す。
 特に長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)の大きな声がよく響いていたが、エイン・メア(ライトメア・e01402)や、エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)、ウイングキャットのユキを伴う鷹野・慶(蝙蝠・e08354)の呼び掛けも、慌ただしい足音などで遮られることなく人々の耳に届いている。
 それは件の宝石店で熟考黙考していた金瞳の青年や、その姿を微笑ましく見守る女性店員とて例外でない。店内にも向けられたエインの呼び掛けを聞きつけて、二人はケルベロス達が辿り着くより早く、揃って外に出てきた。
「ソコのニイちゃん! 一世一代の正念場だろうがな、とっとと逃げねえとココで一生が終わっちまうぜ!」
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)の台詞に、青年は気恥ずかしさと驚愕を綯い交ぜた表情を覗かせる。
 見ず知らずの者が、いきなり胸中を見透かしたかのようなことを言ったのだから当然だろう。けれど呑気な反応を示していられたのも束の間のこと。エインヘリアルの襲撃とあっては逃げるほかなく、青年と女性店員はケルベロス達と入れ替わるようにして、その場を離れていく。
 それと同時に、店の奥から轟音が響いた。
 凄まじい震動も伝わってくる。検めるまでもなく敵の出現を確信した八人は、葵・敦士(風待水月・e25487)の殺界形成で人払いを締めくくった後、街と店の境目へと少しずつ歩み寄っていく。
「慶、エイン。気を付けろよ」
 ふと、木村・敬重(徴税人・e00944)が呟いた。
「二人とも上等なゴールドおめめだものねえ」
 馴染みの顔を見やって、テレビウムの帝釈天・梓紗を連れた片白・芙蓉(兎頂天・e02798)も口を挟む。
「芙蓉も気を引き締めていけよ。可愛いから狙われるかもしれん」
「けーちょの言うとおりですよーぅ♪ おめめよりふーちゃんが欲しーぃ! って言われちゃうかもしれませんねーぇ♪」
「フフフ、まあ可愛い私を見たらそうなっても仕方ないわねっ!」
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
 茶化すエインと投げやりな慶も交えれば、戦いを目前に控えているとは思えない空気が少し漂った。
 しかし、それも照明の落ちた宝石店を覗き込むまでの話。
 埃が立ち込めて幾らか不明瞭な店の中には、巨体の輪郭が、ぼんやりと浮かんでいる。
「こんにちはーぁ♪」
 その大きな影に向かって、エインが第一声を放つ。
「ケルベロスの金のおめめですよーぉ♪ レア物ですよーぉ♪」
 金環を幾重にも連ねたような不可思議で美しい瞳を指差して、エインは殊更に己の価値を訴える。
「欲しければ外までいらっしゃい」
「俺らの目ン玉が欲しけりゃ力ずくで持ってきな! まあ、出来たらの話だがなあ!」
 優雅かつ見下ろすようなエルモアの言い草に続けて、ランドルフも威勢よく吠えた。
 二人もまた、双眸に金色を抱く者。魅惑の輝きで釣られたかのようにして、じわりじわりと進み出る影は白銀の鎧を――そして黒い髪と瞳をケルベロス達の前に晒すと、呟く。
「……美しいな。たとえ忌まわしきケルベロスのものであろうと、お前達のその瞳は良いものだ」
「当然ですわ。けれどたとえ討つべき敵からのものであっても、賛辞はいただいておきましょう」
 エルモアが不遜な態度で答えた。
(「……あれが罪人。悪いやつ?」)
 此方も金瞳を持つ敦士は、精一杯に開いたつもりでいる垂れ気味の両眼で、敵の視線を捕らえようとしながら思う。
「黒い眼も嫌いじゃねえが、てめえのはパッとしねえな。……だから他人の眼が欲しいのか?」
 あらゆる光を吸い込んでしまいそうなエインヘリアルのそれを見据えて、慶が放った言葉に、返るものはない。
 ただ多くのケルベロスは、沈黙を肯定だと受け取った。
「不幸な事ですわね」
 ぽつりと言って、エルモアが一歩二歩と後ずさる。
 じっと敵から目を離さずに追随した敦士をはじめ、他の者達も揃って店先から退いていく。だが、その足取りは恐怖や憐憫によるものでなく、あくまでより広い街中に敵を引きずり出すためだ。
「幾ら欲しかろうと、てめえなんかにくれてやるつもりはねえぜ」
 間合いを取りながら吐き捨てて、慶は“視る”ことに意識を注ぐ。
 慶を慶たらしめる、決して綺麗なだけではないその瞳に秘められし力で射抜かれた瞬間、エインヘリアルは武器を携えた両腕に力を込めながら、勢いよく宝石店を飛び出した。


「此方ですわ!」
 瞳と同系色の縦ロールと、服の裾を揺らしながらエルモアが叫ぶ。
 だが奇しくも、この場は金瞳でない方が少数。そしてより多く分捕るつもりか、エインヘリアルは大剣を突き出すと旋風巻き起こすほどに回って、三対の金色を並べたケルベロスの後衛陣に襲いかかる。
「きゃーぁ♪ やっぱりふーちゃんも狙われてますよーぅ♪」
「フフフ。可愛い私を手に入れる為なら、また罪を犯すのも厭わないというのねっ!」
 などと軽口を叩きながら避けようとするエインと芙蓉の前には、敬重と慶がそれぞれ割り入って負傷を肩代わり。
「俺の眼は気に入らなかったか?」
 支えとなるオウガメタルを操りつつ、慶はまた言葉で煽り立てるが、エインヘリアルの回転斬りはそれに反応を示さない。
 或いは苛烈すぎて、ひとしきり荒れ狂うまで答えられないのかもしれないが。ともかく白銀の嵐は止まず、慶の傍らから尻尾の輪を飛ばしてきたユキまでも薙ぎ払うと、さらなる獲物を求めて突き進む。
「クソ野郎が!」
 己に向かってくる巨体へと吐き捨て、ランドルフは大地を蹴り上げた。
 どれほど激しかろうと、真上からならそれを作り出す巨体がよく見える。そのまま吸い寄せられるようにして落ちていけば、重力を宿した足先は鎧で覆われる肩をしっかりと踏み叩いた。
 だが、それでもエインヘリアルの進撃は終わらない。蹴り返して飛び退こうとするランドルフの脚に傷を残した巨躯は、道すがら千翠を巻き添えにして、敦士の立つ方へと流れていく。
(「……まずい、かも」)
 思う間も敦士は逃れるために動くが、しかし輝く渦は執拗に追いかけてくる。被害を抑えるために街中に出て、まさか何処かの建物にまで逃げ込むわけにもいかず。やがて追い詰められた敦士は――。
「梓紗っ!」
 斬りつけられる寸前、芙蓉の一言で飛び込んだテレビウムによって事なきを得た。
「危ないところでしたわねっ!」
「……うん、ありがとう」
「構いませんわ! それよりあちらの回復しくよろっ!」
「……うん」
 凄まじく緩急のついた会話を終えて、敦士は早速黒鎖を振るう。
 敵の攻撃は大雑把に見えて其の実、狙い澄まされたものだったが、多くを傷つけようとした分だけ一所に留まる時間が短く、一撃で与えた傷も大きくはない。端から守勢に立つ敬重や慶、動画を流して自力での回復を図っていた梓紗などにはどれも大したダメージでなく、二人と一匹は敦士が地に広げた魔法陣によって十分に態勢を立て直した。
 一方、彼らが庇いきれずに刃の餌食となったランドルフや千翠には、芙蓉が紅白に黒を差したブーツで幾度か地面を叩きつつ、くるくると舞って癒しの花弁を振り撒く。
 此方も広い範囲に向けただけ効果が薄まってしまうが、まだ一太刀浴びただけの状況ではさして問題にならず。僅かに残った傷跡を青竹色の瞳で一瞥した千翠は、とても分かりやすい敵意と苛立ちを込めてエインヘリアルに吼えた。
「てめぇの趣味嗜好に巻き込むなっての!」
 宝石に対してすら「よくわからないけど高い石」程度の認識しか持たない千翠には、金の瞳を欲しがるエインヘリアルの存在などまるで理解できない。
 そも、理解する気もない。豪腕が持ち味のオウガらしい考えをする千翠にとって、目の前に立つ大男は叩きのめすべき敵、それだけで十分だ。
 しかし、そんな脳筋思考の千翠にも――むしろ脳筋だからこそか。敵を打ち破るため、まず何をすべきかと言う判断力ならあるらしい。
 拳を鳴らして今にも殴り掛かりそうだった彼が放つのは、意外や意外、呪いの類にあたる術だった。
「歪め。蝕め……!」
 短く小さく、だが明確な“破滅への呼び声”は、すうっとエインヘリアルの頭に染み入って心を蝕む。
 それが気力を削ぎ、敵から戦う意志と金瞳への執着を失わせたのは僅かな間。だが瞬くほどであっても、その隙はケルベロス達が有効打を打ち込むに十分なもの。
「懐ががら空きですわ!」
 ふわりと飛び込んだエルモアが、振る舞いと裏腹に力強い拳を叩き入れる。唸りを上げてドリルのように回るそれは容易く鎧を貫き、その下にある肉さえも捻り穿った。
 エインヘリアルは僅かに呻き――斬りかかるでもなく突き飛ばすでもなく、最接近した輝きに手を伸ばす。
「何はさておき、瞳に目がないという訳ですわね。だからって、貴方にあげたらわたくしの目がないって、そんなのお断りですわ!」
 置き土産に洒落を放って腕を抜き、飛び退くエルモア。
 追いすがるように伸びる敵の腕。
「欲しがりですねーぇ♪ でも他人から盗るのは地球でも犯罪ですからーぁ、看過出来ませんよーぉ♪」
 ぐわりと開かれた大きな掌に、エインが竜砲弾を撃つ。
 その着弾とタイミングを合わせて、敬重が超集中による爆発を引き起こした。
 炎はエインヘリアルを飲み込み、肉や髪の焦げる異臭を微かに漂わせる。だがケルベロス達に顔をしかめさせる間もなく、熱の塊から抜け出た巨躯は大盾を振りかざし、エイン目掛けて突撃をかける。
「さすが、サキュバスの瞳は人でなくても惹き付けるんだな」
 爆発で止められないなら肉体でと、敬重が一言こぼしながら行く手を阻んだ。
「……退け」
 金瞳以外に興味など無い。エインヘリアルは鉄板じみた大盾を高々と翳して、釘でも打つかのように敬重を叩く。それは単純だが力強く、スーツを纏った細身の身体に容赦ない悲鳴を上げさせた。
 しかし一見して武闘派に見えない敬重は、足元に敷かれた陣にも頼って一撃に耐えきると、魂喰らう降魔の拳で大盾を押し返し、敵の脇腹を穿つ。
 新たに出来上がった傷から力が吸い取られていく感覚に、エインヘリアルは苦々しい表情を浮かべた。
「奪うやつは奪われる覚悟をすべきだが……」
 どうやらそんな心構えなどなかったようだ。敬重は顔色こそ変えなかったものの、内心で敵を嘲りながら奪えるだけ生命力を奪う。
 それだけで体中に残る痛み全ては消えないが、振り向きもせず敵と相対し続ける彼の背に向けて芙蓉が溜めていたオーラを放ち、敦士がもう一度黒鎖の陣を描くことで負担は十分に軽減される。
 一方で、エインヘリアルには次の苦難が襲いかかる。
 敬重に庇われたエインが鈍い光の枷を創り束ねて、巨躯に絡みつかせる。地球の重力と強制的に接続し、極めて微弱な定命化の効力を限定的に引き起こすというエイン独自の魔法は、エインヘリアルが徐々に失いつつあった攻撃力を、さらに封じていく。
 そこへ続けざま、エルモアがグラビティ中和弾を、慶は竜砲弾をそれぞれに浴びせかけると、二つの砲弾が炸裂した後をユキが引っ掻きながら飛び抜けて、ランドルフが螺旋の力を込めた掌底を打つ。
 極めつけに千翠が飛び蹴りを食らわせれば、さすがにエインヘリアルも耐えきれず、一度膝を折った。


 それでも目の前を泳ぎ回る財宝を手に入れんと、エインヘリアルは欲望に突き動かされて再び剣を取る。
 だが繰り出す攻撃は精度こそ保たれていても、既に威力の方が弱化著しい。十分な治癒力を持つ芙蓉と、黒鎖の陣で防御面を固める敦士に支えられたケルベロスを崩すには幾度刃を振るっても足りず、戦いは粛々と、ケルベロスが優勢を保ったままで進んでいく。
 そして、終わりも迫った頃。エインヘリアルは、この戦場で自らを最初に誘った慶へと、自棄を起こしたように盾を振った。
 右から力の限りに殴りつけてきたそれを辛うじて受け流すも、僅かな弾みで左半身を沈ませる慶。そこに追い打ちを掛けるべく、エインヘリアルが大盾を高々と掲げた――その瞬間。
「来れ、相容れぬ鏡像よ」
 慶は敵の大きな黒眼に映る、己自身の金色を視て囁いた。
 それが喚ぶのは、再生を司る精霊。多く不死鳥を象って現れる精霊は此度もその姿を採り、清浄の焔を一杯に広げた。
 焔は傷を癒やすものであり、エインヘリアルを害すわけではない。ただ目の前に忽然と現れたせいか、盾は振り下ろされる機会を逸して、二度とそれを得ることもなかった。
「フフフ、連携のパゥアーを思い知るがいいわっ!」
 巨躯を半透明の御業で鷲掴みにして、芙蓉が早くも勝ち誇って見せる。
 腕を下ろすことも脚を上げることもままならず、しかしどうにかして超常の存在から逃れようとするエインヘリアルだが、その左右から挟み込むようにして襲いかかったのが、仏頂面の敬重と喜色満面のエイン。
 片や聖邪併せ持つ両腕で、片や超鋼金属の塊で、繰り出した一撃は会心の当たり。衝撃に白銀の鎧も歪み破れて、その隙間を縫うように、攻勢へと転じた敦士が弧を描く斬撃で斬り抜ける。
 さらに千翠もヌンチャク型に変じた如意棒で一叩きすると、つれてランドルフが目にも留まらぬ速さで弾丸を放つ。
 それは兜を被らない敵の片目を撃ち抜き、口から苦痛による呻きを引きずり出す。
「ちっとは身に染みたかこの野郎ッ!!」
 ランドルフは口角泡を飛ばして、その後も何某か酷く罵った。
「まあ、美しくありませんわね」
 エルモアが言って、鏡のような兵装を六つ放つ。
「手向けにするつもりもありませんが……」
 どうせなら金の瞳よりも輝かしい、とびきりの一発をくれてやろう。
 エルモアは敵の周りに浮かべた六つの“カレイド”に幾つもの光線を跳ね返らせて、真後ろから巨躯を貫いた。
 自らから伸びる光を掴むような素振りを見せたエインヘリアルは、程なく全ての力を失って倒れる。
 やがて濁り始めた黒い眼を見下ろして、慶はふと、それよりも遥かに綺麗な黒の持ち主を思い起こし。
(「……やっぱり、生きて、話して、動いてる方が、綺麗だね」)
 敦士もそんなことを考えながら、眉をひそめて、エインヘリアルが滅び崩れていく様を見送った。

 その後、ケルベロス達は戦いの跡を埋めて回った。
 酷いのは敵が出現するに当たって開いた店の穴くらいで、肝心要の宝石類も大凡無事であることを確認したケルベロス達は、店員と共に舞い戻ってきた青年の未来に幸あることを祈りつつ、街を後にした。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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