ただひとつ満ち足りぬもの

作者:宮内ゆう

●足りないもの
 廃工場の奥で青年は目を覚ました。
 手足が縛られた状態で寝そべっており、頭がひどく痛む。
 そんな状態なので、自分の置かれている状況についてはすぐに理解できた。
「誘拐、か?」
「そのような生やさしいものではない。これは断罪だ」
 廃材の奥から人影が現れた。それが犯人だとすぐに察し、青年は恐怖に顔をひきつらせた。
「久しぶりだな……」
「……え?」
 まるで覚えがなかった。少なくとも青年は鳥顔の知人に思い当たる節はなかった。
「覚えていない……だと! 貴様、この私にあれほどの仕打ちをしてなお忘れたというのか!」
「え? え?」
「私はいまでも鮮明に覚えているぞ……あの定食屋での出来事を!!」
「はぁ……」
 なんだか話の程度が下がってきた。
「あの日、私と貴様は偶然となりの席に座り、から揚げ定食を注文した。そして程なくしてから揚げ定食が運ばれてきたわけなのだが……」
 そこで鳥顔の男はカッと目を見開いた。
「貴様の方がから揚げが1コ多かったのだッ!」
「は?」
「生きるにあたり、これはッゆゆしきッ死活問題ッ! 故に、貴様は罪であり、私が罪を裁くッ!」
 ヤバい。
 言ってることはよくわからないが、ヤバい。
 無茶苦茶でもなんでも、本気だと言うことだけははっきり分かってしまった。
「ひとつ足りない、それがどれほど苦しいことか直接教えてやろう。指、腕、足、目に耳に……複数あるものはいろいろとあるよなァ……」
 だが、身動きも取れない青年にその地獄から逃れる術はなかった。

●1つ
 復讐心に駆られた人間がビルシャナと化し、その相手を襲う。
 この類の事件で特徴的な点といえば、その復讐の理由が理不尽であること。
「まぁ、とりあえず文句は店に言いましょうよ……」
 ヘリオライダーの茶太は疲れたように項垂れた。
 そもそもその1個がどういうものか分からないからなんともいえないが、もし店側が個数ではなく重量でから揚げの提供を管理してるなら、完全に逆恨みである。
「どんだけ気に入らなかったんでしょうね……」
 人の沸点など分からぬもの。思いもよらないことが逆鱗に触れるというのはままある話。
 なにしろこのまま放置すれば被害者が出るし、ビルシャナ化している男性も心身ともにビルシャナとなりさらに犠牲者を出すことになるだろう。
「もう、余計なことは考えずちゃっちゃと倒しちゃって下さい」
 そんな感じの人間だ。
 更生も不可能だろう。
 場所は廃工場であり、青年以外の一般人が来ることはない。
 内部も廃材が積んであるところはあるが、十分に広い場所なので戦闘に支障はないだろう。
 ビルシャナもケルベロスが来たとなればのんびりしてはいられない。じっくり復讐を果たすためにもまずケルベロスを攻撃してくるだろう。
「とはいえ、危なくなったら分かりませんけどね」
 危機にあっては、とにかく復讐相手を殺すことを優先するかもしれない、ということ。
 そこまで説明して、あとのことはよろしくお願いしますと、茶太は頭を下げた。
「……私も、少しは気持ちが分かるんです」
 出る準備を整えながら、セティがぽつりと呟いた。
「私も、ドーナツが1個足りなかったら……何をしでかしてしまうか……!」
 もう1個買えば良いじゃん、と誰かが言った。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
シグリット・グレイス(夕闇・e01375)
八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)
シュネー・グリュクトート(ヴァイスケッツァー・e42582)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)

■リプレイ

●醜き争い
 ででどん。
 とでも言わんばかりに大皿にから揚げが盛りつけられている。
 なお、ため息をつくルシエドの前にはペット用のお椀に盛りつけられたから揚げがあり、何故かエルトベーレとリリウムのわんこ二匹が虎視眈々と狙ってる。
 準備が出来たところで、八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)が一息ついた。
「ふう、こんなところでしょうか。たぶん作りすぎということはないと思いますが」
「ツッコミ役ともぐもぐいいつつもぐもぐすっかりもぐもぐ順応してもぐもぐますよね」
「食べるか喋るかどちらかにしてください」
「もぐもぐもぐもぐ」
 セティ・フォルネウス(オラトリオの鹵獲術士・en0111)はすでにドーナツにご執心である。
「そういえば、前にもチキンカツ食べられなくてビルシャナ化したのがいたわね」
「極限状態に於いてはたった一つの食糧の差が生死を分かつこともある……ということよ」
 ひょいひょいと自分のから揚げを確保しつつルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)が言うと、すでにから揚げもりもりはじめてたアリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)が返す。
「え、でもビルシャナ化したらそれこそ定食なんて食べられなくなるじゃない」
「ランチタイムの定食屋……其れは正に都会人が血で血を洗う戦場……こんな事件が起きるのも無理からぬことなのかもしれないのだわ……」
「都会って怖ろしいわねから揚げ美味しい」
「……美味しい」
 なおここは廃工場である。目と鼻の先には件のビルシャナと被害者の男性がいる。
「まあ、一部ドーナツ食べてる奴がいる気がするんだがそれはともかく俺は揚げ定食は中華料理屋で食べるのが好きだ」
「ああ、揚げ物っていったら中華のイメージありますよね」
「わかってるじゃないか」
「ちなみに僕はコンビニに行くと無性に揚げ物ぶへあっ!」
 から揚げに手を伸ばしたカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)の顔面にシグリット・グレイス(夕闇・e01375)の絞ったレモン汁が直撃した。
「なにするんですか!」
「いや、いま会話の流れに乗って俺の分取ろうとしたろ」
「違いますよ! あなたのじゃなくてそっちのです!」
「ああこっちか。なら良い」
 といって、から揚げをパス。もぐもぐ。
「ってよくないに決まってるでしょうがああああ! 私の分何してくれちゃってるんですかあああああ!!」
 ちょっと離れたところでビルシャナの動向を窺ってたはずの華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)が一瞬で戻ってきた。
「私が青年さんを何時でも庇えるようにスタンバイしてたら1個どころか全部消え、きえええええええ!!」
「地団駄ってレベルじゃないぞ……! いやまておちつけ、誤解だ、まずはその爆破スイッチしまえ。うん」
 その頃白梟ファミリアのネレイドさんはから揚げまるのみ。ウイングキャットのアナスタシアさんは猫舌なので冷めるのを待ってる最中。
 ビルシャナも唖然と身守ってる。
「ねぇ、から揚げもらってもいい?」
「ええ、どうぞ」
「うぎゃー」
 どかーん。
 すぐそばの惨事など気にせず、シュネー・グリュクトート(ヴァイスケッツァー・e42582)が尋ねる。から揚げを小皿に盛りつけて渡す楪葉も慣れきったものである。正直揉めてるフリとか考えてたけど、もうどうでもいい。
「いただきまー……あっ」
 すかさずウイングキャットのお父様さんが真横からスチール。から揚げは奪われた。
「って、お父様!? ちょ、それ今シュネーがもらったの! 返してくださいー!」
 もちろん追いかけていく。どたばたどたばた。
「てめぇらいい加減にしろ!! 飯ぐらい静かに食えねえのか!!」
 さすがにやかましすぎたのか、廃工場にグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)の怒号が響きわたった。
 一瞬あたりが静まりかえる。ちょっと言いすぎたかもと思える雰囲気だが、実際はこの連中にこんな感じで叱る人がいままでいなかったのでちょっと新鮮なだけである。
 ひとまず場が静まったところで、ようやくビルシャナが声をかけてきた。
「で、結局おたくらなにしてんの?」
「ああ? から揚げ食ってんの見せつけてんだよ」
 ストレートすぎる挑発だった。

●から揚げに穴
 ビルシャナは不敵に笑った。
「ほう、から揚げを食うという行為が私への挑発になると? くく、くくくく、なんと愚かな!」
 ばっ、と大仰に両手と羽根を開いてみせる。
「見よ、かの少女を!! から揚げが足りずに絶望に打ちひしがれているではないか!」
「いやあれ、1個どころか全部食べられてませんよね」
 楪葉が灯を見て言った。なんか四つん這いになって拳で地面叩いてる。
「見よ、かの少女を!! から揚げを奪われ追いかけ回しているではないか!」
「お父様ー! 待ってくださいー!」
「まだ走ってたんですか」
 カルナがシュネーを見て言った。お父様さんの手元でから揚げがどんどん減ってる。
「それもこれも、平等に行き渡らない世界が悪い、多く取りすぎる者が悪なのだ! っていうか、そこまだ食ってんじゃねえ!!」
「ごめん話長くて……」
「そんな喋っているからから揚げが食べられなくなるのよ」
 もぐもぐ続行中のアリスとルリィの二人。
「くっ、バカにしくさりおって! だがそれも挑発だと分かっている。そんなものに易々と乗る私では……」
「てめぇ、まだわかってねぇのか」
「ひょ?」
 トリが素っ頓狂な声を上げた。
 理解が悪くていい加減いらいらしてきたのかもしんない。グラハの口調がけっこうキツい。
「てめぇがこうして長話してる時点で、俺らの挑発は成功してんだよ」
「なっ、まさか!」
「はーい、こっち一般人確保しましたー!」
 いつの間にやらこっそり移動してたセティが縛られた青年を抱えて資材の裏に回ろうとしていた。
「さっきからカルナさんが、ここは俺に任せて早く行け、な顔してたので完璧です!」
「なんか若干ニュアンスが違う!」
 本人の抗議は無視。
「この……ッ!」
 振り向こうとしたビルシャナの動きが止まる。頬を銃弾が掠めたからだ。
「お前の相手はこちらだ。さあ、狩りの時間といこうか」
「貴様ぁッ……ならばお望み通り血祭りに上げてやッ!?」
 撃ってきたシグリット目掛け、怒りの炎を滾らせつつ突進しようとしたビルシャナだったが、良い感じに横からお父様さんが割り込んできて狙いが逸れた。
「ぐへぇ!」
「あら、お父様がごめんなさい」
 そういうシュネーだったが、一瞬だけ誰にも見えないように悪い笑いを浮かべてた。
 役割はお父様さんが果たしてくれたので、ひとまず振り返って前衛に援護。
「そらよっ!」
 おかげさまで、良い具合にグラハ初撃の破鎧衝がビルシャナの顔面に直撃した。
「から揚げ返せええええ!」
「取ったのカルナだからな?」
 その前をシグリットと灯が通りすがる。その合間を縫って、いくつもの魔法の矢をカルナが撃ち込んだ。
「見ましたか。二人が目眩ましをして隙を作り僕が攻撃を加える。これこそが連携!」
「あの二人、本気で追いかけっこしているように見えますけども」
 異を唱えつつも、せっかく射線が通るようになったので、楪葉が距離を詰めて蹴りで牽制。
「……1個足りないあなたに、もうひとつおまけ」
 さらにアリスが跳躍からの踵落とし。スターゲイザーが重なりに重なって、ビルシャナの足が止まる。
「あ、やば……」
「また気付くの遅いわよ」
 ルリィがビルシャナの背中を蹴飛ばして転ばし、さらに踏みつけて自由を奪う。
「……」
 いつも饒舌なのになぜかここで無言。
 どるんどるん。
 代わりにチェンソー剣が唸りを上げる。
「あっぎゃああああああ!!!」
 そしてズタズタに羽毛が毟られることとなった。
 そのころ、エルトベーレはファミリアたちをドーナツで釣ろうとした。
「ハイルさーん、もふもふさせてくれたらドーナツあげますよー」
 ひどく憐れな者を見る目のハイルさん。彼女は気付いているだろうか。ドーナツがすでにないことに。
「ルシエドさん、動いちゃだめですよー。かっこいいどーなつかきますから!」
 それと、リリウムは何故かルシエドをモデルにドーナツ描いてた。どこからドーナツが出てきたのか。なんか探してたら見つかった。ふしぎ。
 なお、リヒトさんとカイさんもここぞとばかりにそのそばでドーナツぱくぱくしてた。

●選ばれし者
 ビルシャナはいいようにやられていた。
 こんな奴らに、手も足も出ない。
 怒りがわいてきた。自分の無力加減に。
「ならばもはや手段は選んでいられん……! この恨みはらさで!!」
 ビルシャナが視線を巡らす。青年を連れて行った奴を探せば、まだなんとかなるかもしれない。
 かくしてセティはいた。廃材の上でドーナツ食べながら紅茶飲んでた。
「あ、すでに安全な所に退避済みです」
「わーん、わたしもちょこどーなつたべたいですー」
「はいはい、一緒に食べましょう」
 子供あやし始めた。リリウムと一緒にドーナツタイム。
 ビルシャナの額に見るからに怒りの血管が浮かび上がる。
「く、くそがあああああ!!!」
「ああ、お前がな」
「ぐぉ!」
「うわぁ!!」
 シグリットの撃った弾がビルシャナの肩を貫通、カルナの足下に着弾した。
「危ないじゃないですか!」
「悪いな。一発だけなら誤射(うっかり)かもしれない」
「それで許され――はっ、灯さん! このから揚げ探偵、いますべてがひとつに繋がりました!」
「から揚げ探偵!」
「定食屋でビルシャナのから揚げが青年よりも1個少なかった理由、それは数える前に自分でうっかり食べてしまっていたからです!」
「な、なんだってー!」
「つまり、灯さんのから揚げもうっかりビルシャナが食べてしまったわけです!」
「まて」
 ひどい冤罪ここにあり。
 でも灯は信じてしまったようだ。すっくと立ち上がる。
「から揚げで争うなんて愚かなことです」
 そう言って、足を振り上げた。
「どんなアリバイトリックを使ったかは知りませんがおのれビルシャナ許すまじ! から揚げの罪で裁かれるのはあなたです!!」
「いやまってさっきの1行のセリフはなんだったのうぎゃー!」
 毟られたビルシャナはよく燃える。
「ああ、これ知ってるわ。照り焼きチキンね」
 良い具合に燃えたところに、ルリィが十字架の形で放たれる紅い光が照射される。
「不夜城レッドはグリルのためにあるのではないのだけど」
 くすくすと笑ってみせる。
「ぐぬ、ぬうう、まだまだあ!」
 自分の炎なのか、燃やされてる炎なのか、だんだんよくわからなくなってきた。
 それでも怒り収まらぬビルシャナは動き続ける。
 だが、鈍くなった動きはいともたやすくシュネーに見抜かれた。光線を放とうとしたところ、軽く腕をはたかれたのだ。
「鶏はどこまで行っても鶏なのね。本当に男が小さいんだから」
「え、は?」
「もう、見ていられないのよ」
 その言葉と同時に飛び込んできた楪葉が、指輪から精製した刃でビルシャナの腕を斬りつけた。これでもはや満足に攻撃することさえほぼ封じられた。
「もうこれ以上、進むことも退くことも叶いませんよ」
「くそっ、何故だ! 何故!! 間違っているのは私ではない!」
「真実というものは人それぞれで変わるもの……貴方が間違っていないというのならそれは正しい、そう言いたいところだけれど、決定的に間違っている点がある」
 羽根のようにふわりと舞って来たアリスが、ビルシャナに残された僅かな羽根をむしるようにオウガメタルから拳を繰り出す。
「いつからから揚げを選んでいると錯覚していた……? から揚げが私たちを選ぶの。つまり貴方はから揚げに選ばれなかった」
 それだけ。ただそれだけの結末。
「まて、では私は、何故、何故……!」
「四の五のうるせぇな。から揚げに選ばれなかったってんなら、追加で定食頼むくらいの気概見せろや」
 いっそ単品でから揚げ追加してもいい。その言葉に、ビルシャナがはッと目を見開く。
「さて、前口上は十分だろ。最後に言い残すことはあるか」
「そんな、そんな簡単なことだったのか、私の憎しみの炎は!」
「そりゃゴシュウショウサマ。そんじゃ――」
 ゆらりと、グラハの姿が靄に霞む。
「――死ね」
 ゴッ、と鈍い音が廃工場に響いた。

●全は一
 戦闘が終わった途端、また灯が発狂した。
「ひゃっはー! から揚げパーティーですー!」
 前言撤回、いつも通りだった。あとついでに改めてシグリットはのしておいた。わりとなすがままお兄ちゃん。
「私は学びました、殺られる前に殺る! これこそ自然の摂理!」
 でもから揚げはすっからかん。
 目の前でアリスがもぐもぐしてた。
 目が合った。アリスがおもむろにルシエドとアナスタシアさんにから揚げを与えた。共犯化。
「わ、わたしだけが悪いのではないわ……」
「シュネーもまだ食べてないのに……」
 しゅんとするシュネー。でもなんかうしろでお父様さんがちゃりちゃり手錠を鳴らしてるので警戒中。
「仕方ないわね、私が作ってあげるわ」
 ここで救世主ルリィの登場。
「準備はしてあったのよ。材料と調味料、それに器材も」
「一体どこに?」
 きょろきょろとカルナが見回す。
「アンタの荷物」
「な、なんだってー!」
 でてくるでてくる、クーラーボックスに入ったモモ、ムネ、手羽、手羽元、チューリップに砂肝もね。塩コショウにポン酢醤油。それから鍋、油、携帯ガスコンロ。ちゃっかりドーナツ用の材料まで用意してる。
「どおりで重いと……」
「いや、なんで気付かねえんだよ」
 呆れたように言うグラハ。ぐうの音も出ない。
「それにしてもー、から揚げにドーナツなんてー、お祝いですよねー」
 めっちゃルシエドもふもふしながらエルトベーレが言ってる。ちなみに、ルシエドとしては無下な対応が出来ないだけでべつにもふられるのがいやなわけではない。
 あと、シュネーがちょっと羨ましそうに見てる。遠慮なくもふってどうぞ。
「私の推理によれば、誰かのお誕生日なのでは、と! セティちゃん、おめでとうございます!」
「うふふ、ありがとうございますっ。ベーレさんもおめでとう」
「ありがとうございます! ありがとうございますっ!」
「あれ、でもセティさんの誕生日って」
「しー。ええまあ1ヶ月以上先です」
 楪葉が指摘しようとしたけど、それ以上言わせないでおいた。
「そういえばドーナツが足りないどころか食べたくても食べられないやつを俺は見た事がある気がする」
 なんかシグリットが首をかしげた。
「まあいいか」
 気がするだけだった。
「ほら、揚がったわよ」
 改めて、お皿にからあげが大量に盛りつけられた。
 さっそく灯がおもむろにかぶりつく。
「ん、なんかこりこりしてますね。なんですこれ?」
「それはハツね。獲れたての」
「え」
 ごくりと、飲み込んでしまった。
 ルリィの言葉がただただおそろしい。
「それは、まさか、その」
「……さっき良い具合に止まってたから」
「ちょ、ちょ、まって! ねぇ、私、食べ、えええ!!」
「そんなことよりほら、ちゃんと野菜もバランスよく食べるんだぞ」
 何もなかったことにしようとシグリットがごまかそうとするがそうもいかない。
「……嫌いなものがあればこっそりカルナの皿に入れておけ」
「僕!?」
 ご想像におまかせつつ、実際は近所のスーパーで買ってきたハツである。
「気にするもんかねぇ。まあ俺は目の前に肉があるなら食うってだけだが」
 そう言ったグラハはおもむろにレモン1個をわしづかみにした。
「さすがに同じ味ばかりは飽きてきたな」
 そしておもむろに握りつぶした。どばどばとから揚げの山にレモンがかかる。
 さすがにびっくりしてシュネーが声を上げる。
「ちょっ、なにして――!」
「あぁん、なんだよ?」
「あ、もしかして急にレモンかけられると気にしてしまうタイプですか」
 そっとフォローに入る楪葉。
「そういうことじゃないのよ!」
 急にレモンをかけられることを想定していたとしても、レモンが握りつぶされるなどと誰が想像したか。
「さすがにかけ過ぎということでしょうか」
「うん、もういいのよ……」
「そんなあなたにかわりもののザンギを用意したわ」
 ここでアリスが救いの手。ザンギがその手の上に。
 ネレイドさんがひょいした。ぱくした。なくなった。
「……」
「……」
「から揚げ食べましょう」
「そうするのよ」
 こうしてみんなで仲良くから揚げを食べたのだった。
 皆が被害者の男性を置き去りにしていることに気付くのはもうちょっと後の話。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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