君の彩る色彩は

作者:白鳥美鳥

●君の彩る色彩は
「優奈ちゃん……」
「……加絵ちゃん!?」
 美術の授業による片付け当番は、今日は優奈と加絵だった。2人は美術部。丁度、美術室には二人きりだった。
 しかし、優奈にとって衝撃を受けたのは加絵の姿だった。彼女には羽毛が生えていたのだ。
「……私、優奈ちゃんの色が羨ましい」
「か、加絵ちゃんの色も素敵だよ?」
 異常な姿の同じ芸術を志す友人の姿に、優奈は怯えるしかない。
「……私、優奈ちゃんみたいな色を出したいの。だから……」
 加絵は絵を描くには大切の一つ、手の指を一つずつ狙い潰していった。

●ヘリオライダーより
「絵ってさ、それぞれの個性があるよね?」
 そう言いながら、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)はケルベロス達に話を始める。
「都立高校の美術部で、デウスエクス……ビルシャナを召還した人間が事件を起こそうとしているんだよ。ビルシャナを召還した人間は、理不尽で身勝手な理由で復讐のビルシャナに願って、その願いが叶えばビルシャナのいうことを聞くという契約を結んでしまったみたいなんだ。彼女が復讐を果たして心身ともにビルシャナになってしまう前に、理不尽な復讐の犠牲者が死んでしまう前に、なんとか助けて欲しいんだよ」
 デュアルは状況を説明し始める。
「復讐を行おうとしている場所は美術室。加害者の加絵と被害者の優奈しかいない。そして、特に障害なく移動できる事が出来るよ。戦闘になった場合、ビルシャナと融合した人間は復讐を邪魔したケルベロスを排除しようと行おうとする。何故かと言うと、苦しめて復讐したいと考えているので、復讐途中の相手を攻撃する事がないんだ。だけど、自分が敗北しそうになった場合は道連れで殺す可能性があるから注意が必要だよ。ビルシャナ融合してしまった人間は、基本的にビルシャナと一緒に死んでしまうんだけど……可能性としては低いんだけど、ビルシャナと融合した人間が『復讐を諦め契約を解除する』と宣言した場合、撃破後に人間として生き残される事も出来るみたいなんだ。だけど、この契約解除は心から行わなければならない。『死にたくないなら契約しろ』みたいな利己的な説得では救出する事はむりなんだ」
「俺としては、被害者も加害者も救ってほしいんだ。説得は難しいと思う。だけど、みんななら説得できると思うんだ。みんなの思いを信じているよ。頑張ってね!」


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)
滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)

■リプレイ

●君の彩る色彩は
 空がオレンジ色に染まる時間。同じくオレンジ色に染まった美術室にて、二人の少女が対峙していた。……その一人は、鳥の羽に覆われている異形な姿をして。
 そして鳥の羽に覆われた少女が、驚愕の表情を浮かべた少女に向かって攻撃をしかけようとした、その時。ケルベロス達は美術室に飛び込み、そして二人の少女の間に割って入る。
「こ、こちら、へ。大丈夫、大丈夫。……ね?」
 ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)が、前髪で目は隠れてはいるものの、笑顔を浮かべて優奈を庇えるような位置取りをしながらビルシャナ化している加絵から距離を離していく。
「ところ、で、彼女、とはどういうご関係、で?」
「び、美術部の……と、友達で……絵が大好きで……ど、どうして加絵ちゃん、あんな姿に……」
 友人の変貌にどうしたら良いか分からず、それ以上は今、優奈が言葉を紡ぐ事は難しそうだ。でも、同じ絵が好きな友達同士で仲自体は良いのだろうという事は分かる。
「どうして私の邪魔をするの?」
 加絵は少し苛立ったような声でケルベロス達に言った。
「やめてください、加絵さん……! 優奈さんを殺めたところで何にもなりません。あなたは彼女の絵が、彼女の色が好きなのでしょう? それが失われてしまっていいんですか?」
「あなたはあなたの憧れた彼女の描く彼女の色が失われるのを寂しくは思いませんか?本当に?」
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)とウィルマの言葉に、加絵はびくりと反応する。
「……確かに私は優奈ちゃんの色が好き。そして、優奈ちゃんの様な色を出したい。……でも、優奈ちゃんがいなくても……そう、今は亡き画家達の様に、優奈ちゃんの絵も色々ある。だから……色は失われない」
 そう、加絵に返されてしまった。確かに作者が死んでしまっても作品は残る。だから、そこに今まで描いてきた優奈の色は作品が壊されでもしない限り無くならないのだ。
「でも、あなたが憧れた絵はもう二度と生み出されなくなるのですよ」
 天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)は、加絵の言葉に対してそう伝える。
「そ、それは……そう、だけど……」
「なあ、加絵嬢。君が優奈嬢の色を欲しがる様に、彼女も君の描く色を欲しがっているやも知れんぞ」
 戸惑いを見せた加絵に、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)が更に揺さぶりをかけていく。鮮やかな絵画の中に血を落とす様な無粋は心が痛むから。まだ救える目が在るのなら、それにネロは賭ける。
「!?」
 想像すらしていなかった言葉だった様だ。明らかに加絵は狼狽えている。
「そ、そんな……そんな事……ある筈が……」
 そんな加絵に、天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)が自身の話を話し出す。
「わちき、師である爺様の書かれる美しき字を羨ましく思っていた時期がありまして。それゆえ必死に筆を真似てはおりましたが、どうにも上手くいかず半ば自棄になっておりました」
 猫丸の話を加絵はじっと聞いている。そう、彼女の置かれている状況と似ているからだ。
「ある時、そんなわちきを見た爺様からながぁいお説教を頂きまして。『いくら他人を羨み真似ても、同じ物を書けるようには決してならぬ。それは各々の持つ個性が故』と話す内に、爺様は個性を色に喩えられまして。『黒では色鮮やかな花は描けぬが、黒でしか描けぬ物もある。お前はお前の持つ色を活かし、大切にしなさい』と締め括られたのでにゃんす」
「……お前はお前の持つ色を活かし、大切にしなさい……」
 加絵は猫丸の言葉を噛みしめるように繰り返す。
「ある方が言っていました。自分のような絵は自分が描く。だから貴女は貴女の絵を描けばいい、と。憧れたっていいんです。でもその憧れで自分を見失ってはダメ。自分の色、自分の絵は、自分にしか表現できないのすから」
 そんな加絵に、滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)もそう伝える。
 二人の言葉に考え込み始める加絵に、ネロと虎丸・勇(ノラビト・e09789)も言葉を重ねていく。
「君の色だって君以外の誰も持っていないものだ」
「あなたは優奈さんの色に憧れているんだね。加絵さんの目に映る色はとても素敵なんだろう。でも、同じようにあなたの色も素晴らしいんだよ。絵はそれぞれの個性なんだから。私は、加絵さんの絵も見てみたいよ」
 皆の言葉に考え込んでいる加絵の心は揺れている様に見える。そう、彼女にも分かっているのだ。同じ絵は描けない。例え贋作であろうと、同じ絵には決してならない。そう、個々の絵は……個性はどうしても出るものなのだから。
 そんな彼女にカノン、アメリー、シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)は励ましの言葉をかける。
「あなたはあなた、彼女は彼女。みんな違ってみんな良いのですから、ご自身の絵を愛してあげてくださいな」
「優奈さんの色は優奈さんのもの。自分にできるのは『自分の色を作ること』だけです。だけど、それはいくらでも変えられるのです。自分を進化させることはできるのです」
「シンシアはね、絵は描けないけれど、努力することはきっと無駄なんかじゃないんよ? もうちょっとだけ頑張ってみん?」
「そう……だね。優奈ちゃんの色は優奈ちゃんの色。……私も……私の色があるんだよね」
 加絵は呟く。一つ一つの噛みしめるように。
「……うん。私は……私の色を、絵を……もう一度見つめ直してみる。だから……契約は解除する」
 その言葉で加絵のビルシャナとの契約は解除された。後は、彼女の中のビルシャナを倒す。それで彼女を救う事が出来る。
 戦闘意欲を失いつつあるビルシャナを見逃すことなくケルベロス達は戦闘に入った。

●加絵を救い出せ!
 まずは、カノンが間髪を入れずビルシャナに凍結の弾丸を放つ。更にネロが急所を狙って蹴りを叩き込んだ。
「マー君! がんばるんよー!」
 シンシアは相棒のシャーマンズゴースト、マー君に元気良く声をかけると自らも動き出す。カラフルな爆破によってカノン達の士気を高めていった。マー君も非物質化した爪を使ってビルシャナに攻撃し、相手を挑発する。
「ああ……。本当に、本当に、人間ってめんどうくさい」
 クスリと笑うウィルマ。人の心情、特に弱さや歪みを垣間見ることを好む性格をしているウィルマだが、死ぬ生きるでは100%生きている方が良いとは思っている。だから、もう相手を倒す、それだけなのだから思いっきり戦えるのだ。ケルベロスチェインをビルシャナへと放ち締め上げる。一方で彼女のウイングキャット、ヘルキャットは清らかなる風をネロ達へと送っていった。
「エリィ、いくよ」
 勇はライドキャリバーのエリィと共にビルシャナに向かって攻撃を仕掛ける。まずは勇のエクスカリバールをビルシャナに突き立て、エリィは炎を纏いながら突っ込んだ。
 立て続けに攻撃を受けたビルシャナも反撃に移る。凍える様な冷気を纏わせると、一気にウィルマ達に放った。流石にこの攻撃には耐えるしかない。
「カノンさん、回復します」
 アメリーは攻撃の要の一人、カノンへとオーラを使って回復していく。一方で猫丸はバスターライフルを構えると凍結を誘う光線をビルシャナに向かって放った。更に弓月の空の霊気を纏った斬撃が加えられる。
「ネロちゃん、頑張るの!」
 ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、ネロに電撃を使って癒しと力を齎し、ウイングキャットのシフォンは弓月達に清らかなる風を送っていった。
 ビルシャナは不思議な言葉を紡ぎだす。それはまるでどこかに誘う様で……ネロを眠りに誘おうとするが、それをシンシアとマー君がぴょんっと跳ねる様に割って入って代わる様にして自らがそれを受ける。
「ふふっ、シンシアがいれば大丈夫だよっ……でも、ちょっと眠いん……」
「ありがとう、シンシア。君の分もネロが頑張ろう」
 赤い瞳をくるりんとさせて微笑むシンシア。だが、ちょっとふらふらしている。それに対してネロは礼を言うと、ビルシャナに向かって構えた。
「此岸に憾みし山羊に一夜の添い臥しを、彼岸に航りし仔羊に永久の朝を」
 ネロはビルシャナを捻り潰し捩じ切る様に攻撃する。そう、濁った色をした復讐心なぞ、破いて捨ててしまう様に、と。
 続き、カノンの音速を超える拳がビルシャナを吹き飛ばす。更にウィルマが精神集中による爆破攻撃を与えた。一方、ヘルキャットはシンシア達を癒していく。勇はナイフを構えるとビルシャナに向かってジグザグに斬り刻み、そこにエリィが轢き潰しにかかった。
「シンシアさん、回復しますね」
 アメリーのオーラがシンシアを包んで癒していく。猫丸は冷気を放つ凍結の杭をビルシャナに撃ち込んだ。
「これが私の楽しみです。どうぞ、御覧あれ!」
 弓月はグラビティで作り出した美術用品で楽しみながら『だまし絵』を描いてビルシャナの動きを止めていく。
 ミーミアは施術を持ってシンシアを癒し、シフォンは重ねる様に清らかなる風を送っていった。
 怒涛の攻撃を受けたビルシャナは光を以って回復に努め始める。だが、それは許さない。
「黒ヤギさんたら読まずに食べたっ」
 復活したシンシアによる傷口を喰らい続ける『黒山羊』の因子を宿した矢がビルシャナに向かって放たれ、ネロによる強烈な蹴りが叩き込まれた。
「神の小羊、世の罪を除き賜う主よ、彼らに安寧を与え賜え」
 カノンの祈りは雷撃を呼び、ビルシャナに向かって放たれる。その轟きは神の聲、罪を滅ぼす天ツ籟――。
 その攻撃を受けて加絵を纏っていた羽根は舞い散り光となって消えていった。

●和解と絵とお茶会
 シンシア、アメリー、ミーミアが中心となって加絵を回復させ、それから戦いにより壊れてしまった美術室を直していく。
「加絵ちゃん、大丈夫?」
「……優奈ちゃん。……その……」
 優奈に危害を加えようとした事もあり、加絵は俯いて言葉を濁す。しかし、優奈は、にっこりと笑った。
「加絵ちゃんに何が起こってたのかは分からないけど……加絵ちゃんが元の姿に戻ってくれて嬉しいし……私は加絵ちゃんと一緒に、もっと絵を描いていきたいから」
「……優奈ちゃん、ありがとう」
 二人の和解を見守るケルベロス達。加絵を助けられて本当に良かったと思う。二人は絵が好きで……その絆で結ばれているのだろう。
 特に、親友がビルシャナに堕ちてしまい自ら決着をつけた過去を持つ勇は、それがとても嬉しかった。同じ悲劇が繰り返されずに済んだのだから。
「じゃあ、仲直りの記念にお茶とお菓子をどうぞなの!」
「気持ちが安らぐと思いますよ」
「皆さん、こちらです」
 ミーミア、カノン、アメリーが、美術室にある机にテーブルクロスをかけ、人数分用意した紅茶とクッキーがある場所に皆を誘導する。
「わちきもお大福様を差し入れに持って来たでにゃんす!」
 猫丸も、持参した大福を机に置く。それに、ミーミアとシンシアは瞳を輝かせた。
「きゃー、大福なのー! 猫丸ちゃん、ありがとうなの! 甘いものはね、みんなを幸せにするのよ!」
「うんうん、美味しいものを一杯食べると幸せなんよ!」
 甘い物大好きオラトリオと、嬉しそうに跳びはねるハラペコウェアライダーに大喜びされて猫丸も嬉しそうな顔をする。
「喜んで貰えて何よりでにゃんす!」
「良かったね」
「はい、ぼす! 皆さんの笑顔が見たかったですゆえ!」
 嬉しそうな猫丸に、彼に慕われている勇は優しく声をかける。ちょっと紅茶と合うのか分からないとは思うのだけれど、喜んでいる人達がいるのならそれに越したことはないのだから。
「わたしの描いた絵ですが、もし宜しければ……」
 弓月は加絵と優奈に絵を手渡す。スケッチブックに水彩絵の具で描かれているものは満開の桜。
「素敵な色……」
「綺麗な桜……! 色合いも素敵だね」
 嬉しそうな二人に、弓月も嬉しくなる。絵を愛している人同士の気持ちの繋がりを感じられて可愛らしい笑顔を浮かべた。
「わたし、お二人の絵を見たいです」
「私も見たいです」
 アメリーと弓月にそう言われて、加絵と優奈は顔を見合わせる。
「そ……その……私は……」
 言葉に詰まる加絵に、優奈はにっこりと微笑む。
「私もちょっと恥ずかしいけど……弓月ちゃんが素敵な絵を見せてくれたし、加絵ちゃんの絵も、私、好きだよ?」
「……う、うん。ありがとう……」
 はにかみながら答える加絵。それから、二人もスケッチブック等を取りに出かけた。
 それから絵の事で語り合い、甘いお菓子に紅茶に包まれて……美術室は夕焼けの色以上に美しい彩りを見せる。沢山の人達の、それぞれの色を輝かせながら――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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