おにぎりサイズのコギトエルゴスム。
機械の足が生え蜘蛛の様になった其れが、山の中に不法投棄されたゴミの山を見つけ、その山の中に入り込む。
暫くすると、その山が小刻みに揺れだし、大きな音が響いてゴミがガラガラと崩れると、中から大きなラッパ状のホーンを持つ蓄音機が現れた。
蓄音機……CDより前、レコードから振動を取り出し拡大し音声を再生する。
今では博物館や古い屋敷、一部コレクターの元などでしか見かける事が少なくなった装置である。
その蓄音機がダモクレスとなり手足を生やし、ゴミを掻き分け現れた。
辺りを見回しているのかホーンの大きなラッパが左右に揺れる。
「オレはまだ音を鳴ラセル。素敵ナ音色ヲ届けるノダー!」
ラッパから鈴を転がした様な声が漏れるも、その声は音圧の衝撃波となってゴミの山を崩す。その音色を届けられた者は激しくダメージを負い、命を失う危険な音色へと変質していた。
「CDユルスマジ、イマニミテイロ……」
蓄音機ダモクレスは、過去の栄光を取り戻すべく村の灯に向って歩き始めた。
「長野県と岐阜県の県境にある山中に不法投棄されてとったゴミの山から、蓄音機がダモクレスになって現れ、近くの村を襲う事件が発生しよるみたいや」
ケルベロス達を前に杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) がそう切り出す。
「幸いにもまだ廃棄物のゴミ山から動いてへんから被害は出てへんけど、ほっとくと村に移動し殺戮と破壊を始めるやろうから、このまま放置しとく訳にはいけへんわな。
奴さんが村に出てまう前に、このダモクレスを撃破したってや」
と、千尋が説明を続ける。
「ダモクレスはさっきも言うた通り蓄音機や。ここらへんにあった不法投棄のゴミの山からこっちの村に向って移動しようとしとる。音を出す大きなラッパ状のホーンに目がついて本体から手足がはえとる。
ヘリオンかっ飛ばすから、奴さんが不法投棄の山からそう離れてない内に捕捉できると思う、村や周辺地域にはそこに続く道を通行禁止にしてもらう様に要請しといたから、今頃警察の人が動いてくれとる筈や、せやから気にせんでえぇと思う。
ついでに不法投棄の片付けと監視の強化も言うといたで。
やっぱり蓄音機らしく『音』を使って攻撃してくるで。耳栓とかしても無理やねんろなー」
「蓄音機か、確かに骨董品だな。そのまま歴史に埋もれておけばよいものを……」
千尋の話を聞いた八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が、冬の獣を討ち取った得物『玄帝』を弄びつつ応じると、
「せやな。なんにしろ被害が出る前におんのが分かったのはめっけもんや。街に出て来る前にきっちり潰したってや」
と、紫々彦に頷き、千尋は説明を締め括ったのだった。
参加者 | |
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扇華・冥(真宵・e22951) |
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788) |
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168) |
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747) |
ルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748) |
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796) |
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443) |
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601) |
●
「オレはまだ音を鳴ラセル。素敵ナ音色ヲ届けるノダー♪!」
ゴミの山を崩して現れた蓄音機ダモクレスが咆えると、ラッパ型のホーンから振動を伴った音が響き、周囲に積み上げられたゴミがガラガラと崩れる。
「やっはりCDとかより何処か優しい感じがするよね蓄音機って、衝撃波は別として流れる音色自体は嫌いじゃない」
「本当に良いものであればこんな処に捨てられはしまい。所詮はガラクタ……妾もまた定命化をし存えた過去の亡霊ゆえ、偉そうな事は言えぬがの……死死死っ」
その咆哮を扇華・冥(真宵・e22951)がそう評すると、彼のビハインドである『神楽』も雄鹿の如き角を揺らして頷き、隣に立つベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)も、独特な含み笑いを漏らす。
「まぁガラクタとはいえ、蓄音機とはまた歴史を感じる一品ですね。現役時代はもっとよい音を奏でていたのでしょう」
「人間の耳には聞こえない範囲の音もレコードには刻み込まれているから、温かな音色に聞こえると昔聞いたんだよ」
その2人の後ろでダリル・チェスロック(傍観者・e28788)が、軽口を叩きながら帽子の鍔を上げ、天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)が、蓄音機の音について知り得た知識を語る。
「あれ……カワイクないね」
「えー、上の音がでるとこは花咲いてるっぽくてカワイイか……」
レイラ・ゴルィニシチェ(双宵謡・e37747)が敵の容姿をそう評すると、双子の妹であるルナ・ゴルィニシチェ(双弓謡・e37748)が間延びした調子で反論するも、その直後に蓄音機ダモクレスが此方側に振り返った。
「うわ……目付いてんじゃん。あと手と足が生えてんのはちょいキモい」
露わになったその容姿に、ルナも前言を撤回して首を小さく左右に振ると、2人のボクスドラゴン『チェニャ』と『ヴィズ』も主達に賛同を閉める様に羽ばたいた。
「ナンダお前達は、俺の音ヲ聞きニ来たのカ?」
ホーンに付いた目がぎょろぎょろと動いてケルベロス達を睥睨し、小首を傾げる様な動きを見せる蓄音機に対し、
「いえいえ、レコードなんて時代遅れもいいところですね、デカくて邪魔で、こんな音しか出ないんじゃ捨てられても仕方ないってものです」
「ナンダトー!」
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)が、御冗談をというジェスチャーで応じると、いきり立つ蓄音機。
「お前がダモクレスで無ければ、音楽は好きな方だし、その音色に耳を傾けるのも悪くはない……。だが、ダモクレスの鳴らす音楽に傾ける耳は持ってはいない。そこに捨てられた事に関しては不憫に思うが……一先ず静かに眠ってもらおうか」
得物を振り回し風を唸らせた八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が、蓄音機に正対して腰を落とすと、蓄音機が轟音を響かせゴミの山を駆け降りて来た。
●
「これでは不協和音ですね。せっかくの音色が台無しだ」
最初に動いたのはダリル。素早くオウガメタルを展開させ、脇を抜け蓄音機へと距離を詰める冥ら前衛陣にオウガ粒子を放出し、その加護を受けた紫々彦らが、蓄音機からの音圧を浴びながらも果敢に得物を振るう中、
「さて、整備も対策も万全っと、たたらよろしく!」
ゴーグルを下ろした蛍が『独立機動砲台+6』を展開して声を掛けると、
「はいはい天羽どの。では引き付けるとしますか……」
たたらが筆で虚空に描いた怪物が、実体化して飛び蓄音機に襲い掛る。
その一撃にギョロリとたたらを睨み付ける蓄音機。
「えーっと、挑発の手招きはこうでしたっけ?」
その視線を真直ぐに見つめ返したたたらが、掌を上に向け親指を除いた4本の指を折る形で手招きする。
「ウギギ! バカにされタァーーーーー!♪」
蓄音機はホーンから湯気を出し、斬り結んでいたレイラの放ったドラゴンの幻影とベリリを押し退ける様にしてホーンを向けると、たたらと蛍の居る中衛に向かって轟音を響かせた。
「なんだこれ、耳の横で大声を上げられているみたいだね。けど、負けないよっ!」
一瞬耳を押えた蛍が歯を見せて笑うと、機動砲台が大きな音を出して対抗し、蛍自身もグラシアメガホンを手に大声を上げて抵抗する。
双方から放たれる大音声に地面が震え、煽られた形になった木々が震えて木の葉を散らす。
「及ぼされる効果が分かりづらいのが難点だな。ルナ君も回復を」
シルクハットの鍔を下げて耳を覆ったダリルは、ルナにも指示を出し、2人して回復を飛ばして中衛の2人を支える。
「祭壇座の一幕、感想は?」
蓄音機が奏でる爆音にも似た音色に合わせる様に、ステップを踏んだレイラの長い髪が踊る。
その踊蹟は陣を成し、音圧に陽炎を漂わせ焔を生ず。
「邪魔ヲするナ!」
焔に彩られた蓄音機はレイラを一瞥するもそう吐き捨て、蛍とたたらに殺意を宿した音をぶつけ続ける。
その間に飛び込んだヴィズが全身を振るわせると、チェニャが闇の属性を注入し、ヴィズは光と闇、相反する属性をその身に宿し、闇の光のブレスを蓄音機に吐き付けた。
「作戦通りだけど、フタリの疲労はハンパないっしょ。頑張って支えてあげないとネ」
2体のボクスドラゴン達の動きを視界の隅に捉えつつ、姉に倣ってステップを踏むルナは、綺麗に爪を飾られた指を立てて左右に振ると、集中攻撃を受ける中衛の2人に紙兵を散布し、先に回復を飛ばしたダリルと共に回復を図る。
「せっかく音出してくれんだから、声だしてこか。祭壇座に掲げられしovertureはー♪」
「双子座に導かれ、ミライをカタルー♪」
踊るレイラとルナの歌声が輪唱となり、巻き上がる炎は敵を灼く業火となり、蓄音機に肉薄し得物を振るう紫々彦と冥ら前衛陣の背を温めるトモシビとなる。
更に二人の歌声につられる様にベリリが紡ぐ茨骸の円舞曲に、踊る屍兵が津波の如く蓄音機を蹂躙するが、次の瞬間『音』が爆ぜ、弾き飛ばされた屍兵達の姿が掻き消え、中衛を庇ったヴィズと神楽が吹っ飛ばされ、チェニャが慌ててヴィズを追う。
次々と蓄音機から発せられる音で木々は震え、周囲は緑葉の絨毯を敷いた様になっている。
その葉を蹴り上げ、鮮血で濡らしながら剣戟の音が響き、今も跳び蹴りを見舞った冥がそのまま蓄音機を足場にして跳び退き、着地して獣耳をピクピクっと動かす。
「執拗なその性格が音の豊かさを奪っているのだと思うね?」
たたらが繰り返し重ね付けた影響もあるとは言え、執拗に蛍とたたらを狙い続ける蓄音機をそう評した冥は、それでも響く蓄音機からの轟音に遂に獣耳を畳む。
「射線を阻んでも止めきれないのがもどかしいがな」
その跳び退いた冥と入れ代わる形で、距離を詰めた神楽と歩調を合わせた紫々彦が、浴びせられる音圧に凍風のオーラを揺らしつつ、脚を刈る様に回し蹴りを叩き込む。その後ろから響くルナとレイラの歌声。
「死寂に響く双黒の旋律。奏者揮すは茨骸の円舞曲。回れ廻る屍呪の狂宴。夜冥の森に鮮血咲かせ、妾の歌と、そちの踊りで、共に静に終曲を……死ャ死ャ死ャ死ャ死ャ!」
その2人の歌声を掻き消す勢いで、蓄音機に迫るは具現化した死……落緑の森を夜冥の森に変えたベリリが、濃密な死を蓄音機に叩き付ける。
「オレが音色を奏でる邪魔ヲするナー!」
次々と浴びせられる攻撃と、重ね塗られた各種バッドステータスに苛立ちを募らせた蓄音機が咆え、生じた音圧が大地を震わせながら襲い来る。
「バカの一つ覚えだな」
「だね」
中衛の2人の前に立ち塞がった紫々彦と冥が、ダリルからの回復を受けながら、奥歯を噛みしめ骨を軋ませるその音に耐える間に、神楽が金縛りで蓄音機を縛り、
「届けるに値する音を紡がぬ故にうぬはここにいるのであろう? 心を乗せぬ音など雑踏の音と同じくBGMでしかないぞよ」
小首を傾げる仕草をして、紅の瞳で蓄音機を見据えたベリリが振るう二振りの喰霊刀が、蓄音機の体に交錯する裂傷を刻みつけ、蓄音機は仰け反る様にして蹈鞴を踏む。
●
「熱イ熱いー、オレは音楽をトドケたいダケなのに、邪魔ヲ……邪魔邪魔邪魔ー!」
燻って白煙を上げながら蓄音機が震え、起こした音が衝撃波となって冥と神楽、ヴィズに紫々彦、ベリリの体を吹っ飛ばした。
「……油断しているつもりはありませんでしたが……」
とこぼしたダリルがスイッチを押すと、カラフルな爆発が起こり、吹っ飛ばされた前衛陣達が煙の中へと消える。
ダリルの言う通り、蓄音機はそれしか手段がないかの如く、中衛に向かっての攻撃を繰り返していた為、いきなりの前衛攻撃は確かに不意を突くものだった。
「排除ハイジョはいじょー!」
滅茶苦茶に音をバラ撒きながら攻勢に出て来る蓄音機だったが、
「あらあら、やってくれるじゃない。でも代償は高くつくわよ」
「させないんだよっ」
吹っ飛ばされるヴィズからルナに視線を泳がせ、蓄音機を睨んだレイラが虚空を蹴って星形のオーラを飛ばしたのを追う形で、たたらがその体を光の粒子に変えて突っ込む。
その動きを見て回避しようとする蓄音機だったが、
「その動きは見逃さないよ」
地獄化した翼を広げて舞い上がった蛍が放つ砲撃が、その回避先を狙い撃った事で回避しきれず、光の粒子となったたらに強かに削られた蓄音機は、片膝をつく形でホーンから雑音を響かせた。
「グギギ……マダ……オレは音楽ヲ……」
その足に力を込めて立ち上がろうとするが、その足が痺れて動かない。
晴れつつあるカラフルな爆煙の中に佇む神楽が掌を向け、金縛りによって蓄音機の動きを阻害していたのだ。
「ほら、チェニャも頑張ってよね。あと一息だよ」
「禍は全て断ち切るよ」
チェニャを叱咤しながらオウガ粒子を放出するルナに合わせ、冥も秩序の光を放って回復を図る。
そもそもバッドステータスへの耐性が高められていた事もあり、チェニャとダリルの回復も合わせ完全に勢いを盛り返した紫々彦ら前衛陣達が、動きの覚束ない蓄音機に向かって吶喊する。
「死ャ死ャ死ャ。さぁ、デウスエクスに訪れる筈のない死の『かいな』がうぬを捉えたぞ」
「ヤメロ……ヤメロー!」
ヴィズの吐くブレスと共に愉悦の笑みを浮かべ突っ込んで来るベリリに、音圧の壁をぶつける蓄音機。
「ここは穂先を届かせる一手だろう」
後ろを駆けていた冥の飛ばした蒸気がベリリを包み、音を受けて霧散し爆ぜる水蒸気の中から振るわれるベリリの双刃が蓄音機の体を深く穿つその上、
「……白魔よ、吹き荒れろ」
ベリリを跳び越える形で跳躍した紫々彦の周りの霰が渦巻いて獣を象り、咆哮と共に蓄音機に襲い掛ると、その直後思いっきり振り被った『玄帝』を振り下ろしながら着地する紫々彦。
「オレの音……を……」
蓄音機から漏れる音はそこで雑音となり、ラッパ状のホーンが真っ二つに割れて、一切の音が聞えなくなる。
「音楽が限られた者のためではなく、こうして全世界全年代に広がる文化となったのは紛れもなく礎となったうぬの功績ぞ、誇れ、そして眠るがいい」
ベリリの言葉を手向けに、哀れな蓄音機はその生涯を終えたのである。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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