●ぷるぷる
空は抜けるような快晴。
溌剌と笑う太陽は眩しく、照らす肌を火照らせる。けれど木陰に移れば、爽やかな風がじわりと滲んだ汗を冷ます。
街の美化にと花壇に植えられた薔薇も、大輪を綻ばせるものがちらほらと。
つまり、なんだ。
これ以上ない程に爽やかな日和。
――な・の・に!
「や、やっと、見つけたのだわっ」
「…………あー」
緑の葉を茂らす銀杏の影からじぃっと見つめられ、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)は長い長い溜息を吐いた。
ぷるぷる、ぴるぴる。
「い、いまから、お前をこ、ころすのだわっ」
ぷるぷるっ、ぴるぴるぅっ。
物騒な事を口走っているのに、雅貴へ熱視線を投げる主は、ぴるぴるぷるぷる小刻みに震えている。ぶっちゃけ、もうそれだけで雅貴には心当たりがあった。加えて、珊瑚色の巻き角だとか、ふわんふわんな翼とか尾っぽとか。極めつけは、ぎゅっと抱き締めているぬいぐるみ。
(「どー考えても、アレの縁だよな」)
記憶に鮮明なそれは、とあるドラゴン。っていうか、ドラゴンらしくないドラゴン。ふるふるふるえていたアレ。
「チ、チコリさまの、かたきっ!」
「やっぱりソレだよなっ!」
それはかつて雅貴らが倒したドラゴン。さっきから脅してきてるコレは、さしずめチコリ絡みのドラグナーといったところだろう。ともあれなかなか襲い掛かって来ないデウスエクスに、雅貴の痺れも切れる。
「っつーか、殺るならさっさとかかって来いよっ!」
「ふ、ふるえて待つといいのだわっ」
雅貴にどやされ、敵さんだばーっと泣いた。
●ある意味、罪悪感との戦いデス
可愛らしい少女っぽい姿をしたドラグナーに雅貴が襲われるのを予知したリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、変に落ち着いていた。
雅貴と連絡が取れなかったのも予想の範囲内。ならば後は無駄に慌てず騒がず、ケルベロス達に救援を求めれば良い。
この手の件に遭遇するのはリザベッタ自身数件目。少し慣れて来ていた。あと、敵のドラグナーが妙にぷるぷるぴるぴるしちゃってたせいもある。
だが、このぷるぷるぴるぴるも侮れない。
「このドラグナー――ふるえる信者は、号泣や自らの無駄な可愛さを武器としているようなんです。あと、抱っこしているぬいぐるみを使っての腹話術」
急ぎ現場へ向かって雅貴さんを助けて下さい、と前置いてからの敵の説明に、ケルベロス達の肩からも力が抜けたかもしれない。もしくは、自分の魅力を最大限に発揮した攻撃方法に慄いたか。どちらにせよ、成すべき事は変わらない。
場所はとある緑地公園。
存分に復讐出来るよう、敵が人払いは済ませてくれている。いたれりつくせり。
「皆さんが躊躇しても、あちらは殺意で満ち溢れています。くれぐれも油断しないで下さい」
そう、油断大敵。
どんな相手へも全力で立ち向かうのがケルベロスなのだ!
参加者 | |
---|---|
月織・宿利(フラグメント・e01366) |
吉柳・泰明(青嵐・e01433) |
アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753) |
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795) |
市松・重臣(爺児・e03058) |
王生・雪(天花・e15842) |
斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026) |
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829) |
●合縁奇縁、愉快な縁
縁とは不可思議なものだ。アレこれあって結ばれたモノの果てを眺めて、鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)は面倒くさげに銀の髪をかき上げた。
――あぁアイツ、ホントとんでもねー置土産遺してくれたもんだ!
「なぁ、ふるえて待てって。笑いを堪えてって意味カナー?」
「……本当に敵なのですか……?」
五月晴れの空を思わず見上げちゃった雅貴の溜め息に、儚げな真白い竜の姿をした少女――巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)も静かなる緑の双眸に困惑を浮かべる。
「俄かに信じがたいですが、そういう事なのでしょう……?」
「すごく……ものすごく、ぷるぷるしてるよね」
月織・宿利(フラグメント・e01366)も激しく同意。だって『敵』は、相変わらず木の影に隠れてぷるぷるぴるぴる。雅貴に援軍が現れても、変わらずこの調子。
そう、さり気なく会話が成立しているけれど。
「雅貴がいたいけな少女を泣かせていると聞いて飛んで参ったぞ!」
「いや? いやいやいや!? 襲われてんの、一応俺だかんな!」
「え? ぱっと見、庇護先に迷う絵面なんじゃが!」
雅貴とどつき漫才を繰り広げるおっさんこと市松・重臣(爺児・e03058)や、
「……あらあら、これはこれは。何と申しますか――ゆるふわ系にごさいますね、雅貴様」
戸惑いをころりと鈴を転がすような微笑みに変える王生・雪(天花・e15842)とか、
「緊急事態と飛んで来たが、雅貴……お前……奇縁も此処に極まれり、といったところか」
前もってヘリオライダーから説明を受けたにも関わらず混乱を抑えきれない吉柳・泰明(青嵐・e01433)とか。親しくも愉快な縁で結ばれた【雲隠】の一同を含めた頼もしき面々は既に雅貴と合流済み。
「あぁ、某姐様からも一言――『罪な男ね雅貴ちゃん』との伝言を預かって来たぞ」
「だからなっ!?」
何とか我に返ろうとする泰明の、ばちこんウィンクまでセットになっていそうな伝言に、雅貴の蟀谷に限界が迫る。
「そもそもだな、お前が紛らわしいのがいけないんだろっ!」
「う、う、うっ」
雅貴に怒りの矛先を向けられたドラグナー少女の大きな瞳からは、今にも涙が溢れそう。そんな怯え姿に、古式ゆかしい水干着用で参じた斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)はというと。
「楽しいことは大好きですよ」
無駄に艶やかな笑みでにーっこり。
でもって。
「ねぇ、いい? もういぢめていい??」
好みどストライクを前にアリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753)の目は爛々、サキュバス魂は轟々。その謎の気迫に圧され、敵の涙腺大決壊待ったなし。
●涙の攻防
「仲間を卑怯なのですわあぁあんんっ」
黒目がちな瞳がうるっと潤み、どばっと涙が溢れた。まるで漫画みたいな光景が飲み込もうとする先は、まずは雅貴。だが同じ並びには他二人。
「こりゃいかんっ」
火蜥蜴が如き竜尾でびたんと地面を叩き、重臣が飛び出す。奇しくも庇えたのは女性である宿利。つまり男性陣は――。
「早速、濡れてしまいました」
「――ッ」
首筋に張り付いた髪を、僅かに首を傾がせ払う朝樹の所作に、雅貴は嫉妬を覚える。薄く透けた和装に、男の色香漂う仕草。あれ、これ、男の株を上げる意味では透けた方が得じゃない? どうして自分は透けにくい黒衣服なの(ただし一緒にずぶ濡れになった重臣はガンスルー)。
「ごめんね、ありがとう」
「あまり無理はされませんよう」
宿利の礼に、同じ女性としての雪(透け対策はさり気に万全)の気遣い。
「そうは言っても、な」
されど白い翼を広げた雪の剣閃が雪の花嵐を巻き起こすのを目に、泰明は男の矜持に首を振る。最初の困惑はようやく去った。後は腹を括り、(いつもと違う意味で)大怪我せぬよう尽力するのみ。
「まずは、難を排す」
雪が連れる白い翼猫の雪が清く羽ばたくのを追い、泰明も自浄の加護を宿す紙兵を撒く。籠る気合に、彼の血を現わす狼耳と狼尻尾もピンと立つ。
「応、其れが善い」
倣った重臣も後方へ泰明と同じグラビティを繰り出した。そしてここからは攻勢も入り混じる。
「――――オヤスミ」
「黄泉より還りし月の一振り、我が刃が断つは其方の刻を……!」
来ぬならば、行ってしまおう、ドラグナー。そんな勢いで、雅貴は影に溶け込ませた刃で敵を四方から襲い、宿利は縮地のように瞬間的に距離を詰めて月薙ぎの刃を振るう。そこへ重臣と宿利それぞれのオルトロス、赤柴ちゃんの八雲と、白柴ちゃんっぽい成親もわふわふソードスラッシュ!
「此方も負けず劣らず、可愛らしいですね」
サーヴァント達のぷりてぃな後ろ姿に目を細め、朝樹は自浄の加護の守りを雷の壁にて完成させた。内心、ずぶ濡れを打ち消す効果を付与するのを勿体ない、なんて思ってない。思ってないですとも。
「それにしても、本当に主さんとそっくりなのですね」
ケルベロスに襲い掛かられて尚、むしろ襲い掛かられたから一層に、ぷるぷるしてるドラグナーと報告書で読んだドラゴンの様子を照らし合わせ、癒乃は納得しきり。
「翼も髪の毛も、とてももふもふ――っ、いけません。このままでは」
知らずふるえる狂信者のペースに飲み込まれかけてた癒乃、ヴェールのような毛並をふるふる震わせ雅貴らの下へ癒しの風をそよがせた。彼女の意に寄り添い従うシャーマンズゴーストのルキノも、並ぶ重臣へと祈りを捧げて快癒を齎す。
なかなかにてんやわんやの面々。だがしかし、アリスだけは完全な毛色違い(いや、朝樹もちょっと違う気がする)。満を持しての出番に、あらぬオーラが全身から迸る。
(「ふふ、ふふ腐♪」)
素敵ないぢめてオーラにアリスの全身は泡立つよう。
(「愛とは精神の止揚にして理性の極致、そこにタブーなどありはしない」)
小難しい理を心の中で唱えているけど、とどのつまりが「さぁ、たーっぷりと可愛がってあ・げ・る♪」である。
「大丈夫大丈夫、相手がデウスエクスで、使ってるのがグラビティならそれは合法☆」
――極論にして暴論を掲げ、猛然とドラグナーへ驀進するアリス。そのあまりにもあまりな勢いに、さしものふるえる狂信者も「ぴゃつ」と肩を聳やかす。
今、デウスエクスは未知の危険を全身で察知していた。良く分からないけど、とんでもないものが来るっ。
「―――、――!!!」
己が内に潜む熱過ぎるリビドーとパトスを溢れさせた記録に残すのが憚れる妄言を口にして、アリスがいたいけな少女(っぽいもの)へ襲い掛かった。
だ・が! こんなんでも格上デウスエクス、ぎりぎりの所でアリスを躱す。
「お、おまえは、よくない予感なのだわっ」
その判断、大正解。
●ぺしょん
「ふるるん」
朝樹が呼ぶ。
「ぴるる~ちゃん」
宿利も呼ぶ。
「ふるるさん」
癒乃も呼んだ。
「ぷるるちゃんでどうじゃあ!」
重臣まで、どやぁ。
個別名称のない狂信者ちゃん。どんな呼び方がいいかしら。折角なら可愛いものを――なんて相談の果ては、各々華麗にフリーダム。
「どれかひとつに統一するぴゃ! ま、紛らわしいぷるるっ」
だもんで、不平をチコぐるみの腹話術で訴えるドラグナー娘は大混乱。お陰で、彼女の大号泣は色んな所へだばー、だばー。だばばー。
結果。
「ふはは、必殺の柴ドリルを喰らうのじゃ!」
「な、成親だって負けてないの」
重臣と宿利は愛オルトロスの水を弾く姿に歓喜を抑えきれず。
「絹、絹、大丈夫です。可愛いです」
質量が半減するしょんもりぶりにしょんぼりしてる絹を、雪は励ます。
「なんだか濡れネズミ動物の品評会みたくなってるわね」
それぞれのしっとりぶりに、アリスも嘆息。あまり変化がないルキノがちょっぴり可哀想になって、癒乃はその背をそっとさすってあげる。
複雑なずぶ濡れ模様は悲喜交交。尚、一番の被害者は……。
「泰明クン、尻尾がカワイイぞ☆」
「よし、雅貴は水を被って頭を冷やせ」
雅貴に揶揄られてる泰明で間違いない。立派な尻尾も耳も、涙を含んでしんなりしょんぼり。こういう時、ふさふさふわふわであるほどボリュームダウンは哀しいねっていう現実を、身を以て皆へ教授する羽目になった泰明。
「気に病まないで下さいませ」
絹同様に雪に労われ、泰明ちょっとだけ気を持ち直す。雪をずぶ濡れから守れているのは、泰明的に本懐とも言えるらしい。
●面白ハイライト
まさかそんな事があるなんてって、アリスが歯軋り。だって思う存分あれこれびーえる方面に腐ったあれこれ詰め込んだトラウマボールに対するふるるんの反応が、
『これ、何ですの?』
だったのだ! チコリ崇拝ようじょにとって、アリスが与えようとした悪夢は早過ぎる大人の階段。とはいえ、アリスに襲われる事がトラウマと直結しちゃってるから、ダメージはしっかり入ってはいる。
「狂信者、恐るべしね」
そんな唸るアリスも、しっかりずぶ濡れ。でも小悪魔少女は恥じらわない。存分に見ればいいのよ、この時の為のせくしーらんじぇりー(実はブラックスライム)。
対する男性陣の反応は千差万別。実は清楚系が好みな雅貴は存外平気そうだし、朝樹は相変わらず感情の読めない微笑を浮かべたまま。物理的に視界ブロックしてる泰明がむしろレア感満載。いや、癒乃が透けちゃった時は雅貴も後ろを見ないようにしてたけど。自分的には無問題な癒乃がそれに気づいて、さらーっと風乾燥させてたのに少し胸を撫で下ろしてたけどっ。
されど如何な乙女のずぶ濡れ姿も、重臣の前では華麗に霞む。
「爺は仲間に視覚攻撃止めるんだ!」
「はて、何のことかのう? なぁ、八雲」
雅貴につっこまれても、盾役な重臣めっちゃ堂々仁王立ち。六十路の比較的軽めの格好のおっさんがの、ずぶ濡れ姿なんて誰得なのか。得というより損。しかもぴるる~の可愛らしさに中てられた宿利の記憶の深い所を刺激する始末。
頗る優秀だった兄が偶然雨に降られたのは、とある夏の日。通気性の良いズボンは見事に透けて――。
(「……凄く。凄く、ファンシーな模様だったの……」)
「宿利さん……宿利さん?」
前方では泰明が『俺は犬ではない……可愛くない……』とか、重臣が『ああ、可愛い御猫様っ……そんなっ』とか身悶えていたが、宿利が一番の重症と判断して朝樹が無敵のスマイルで彼女の顔を覗き込む。
「っ! あ、ありがとう」
「いえいえ、心此処に在らずな女性の姿もまた麗しいものでしたが。今は戦闘中ですので」
「あ、朝樹くんのずぶ濡れ姿も、キラキラ素敵でしたよ」
「勿体ない評価を、ありがとうございます」
宿利が我に返ってからの朝樹との一連のやり取りに、雅貴が『やっぱりいい感じに透けるんだった』と後悔したか否かは不明だが。そろそろ茶番は終わりと、雅貴は物語を決めにかかる。
「これは使いたくなかったが――見ろ。チコリなら、俺の手元で寝てるよ」
シャドウリッパーで斬りつけつつ雅貴が見せつけたのは、チコリの抜け毛で作った手乗りぬいぐるみ。ドジゴンよ永遠に。
「チコリ様あああ!」
「うむ。チコリは実に惜しい毛玉じゃった。あ、しゃっくりも可愛かったぞ」
チコリ撃退戦に雅貴と共に参加してた重臣も、ちっこいチコぐるみをずずい。
「あ、ああ!」
「しかしその可愛さを武器にするきょうあくな所業は止めねばなるまい! 悪いが此度も阻むぞ――ぷるるちゃん!」
狂信者ちゃんが瞠目した隙にヌンチャクで一撃呉れる重臣の所業に、どちらが外道か分からなくなりかける泰明も、懸命に踏ん張る。怯え、震え、ぷるぷるする様は確かに武器にも防御にもなりうる可愛らしさ。
「しかし、今はっ。心を、鬼に……鬼にっ」
「えぇ、えぇ。このような罪悪感に苛まれる者は、我々で最後と致しましょう」
苦悩を眉間に刻み刃を振るう泰明、哀し気に目を伏せ空の霊力を薙ぐ雪。その懸命さはとってもいじらしく――朝樹にとっては美味美味。敵の泣き喚く姿にも愛を覚えるこの男、真性ドS。しかも本人が隠す気ないヤツ。
「可愛いだけでは面白みに欠けるでしょう? 手負いの獣が牙を剥く所など、純粋に愛らしいと思いませんか」
くふりと(闇深い)微笑に艶を乗算し、朝樹は掌より溢れ咲かす薄紅の混沌でデウスエクスを混迷に縛る。
「えっと、私もぬいぐるみ大好き仲間だし、ぷるぷる姿は可愛らしいけど。容赦なく、蹴り飛ばさせて貰うね!」
遂に宿利も開き直った。だって相手はドラグナーだもの。心苦しさなんて地平の彼方へぽいっ。
いよいよの終りを間近に感じて癒乃も、癒しにも成り得る生命の灯で敵の余力を削ぎにかかる。定命化を勧めたくなる相手だが、チコリの仇を討とうとする気持ちは本物。ケルベロスを害そうとするなら、終焉を与えるより他にないのだ(無常感にルキノもほろり?)。
そしてここまで来れば、アリスの必殺の一撃だって躱される心配は無い!
「行くわよ――!!!」
「やっぱり嫌あああ。チコリ様あっ、変なのがいるのだわあ」
「その台詞、この界隈ではご褒美よ!」
突撃、からの。抱き着き、ちゅっちゅ他諸々。何が行われたかは皆様のご想像にお任せするとして。アリスの標的にされた狂信者ちゃんは、やっぱり可哀想だとしか言いようがなかった。
●爽やかな日には笑顔を
仇といっても、ちゃんと平和的解決(という名のナンパ)は図った。拒んだのは頑ななそっち。あァ、またこの台詞を吐く事になるなんてっ。
『せめて今、震えも涙も止めてやるよ。そんでチコリの元へ送ってやる――安らかにな、ふるる!』
何やかんやで〆を託された雅貴が、月弧を描く太刀筋でドラグナーへチコリと揃いの眠りを呉れてやったのは少し前(ちなみに今際の際の言葉は『わたくし、ふるるでいいのかしら?』だった)。
「せめて」
「安らかに」
「お眠り下さいませ」
「じゃ!」
涙の跡を露で残す緑の芝へ、何故か4つも増えたチコぐるみを並べ冥福を祈る雅貴、泰明、雪、重臣の背中を眺め、癒乃は一つ気付く。
(「愛するものを殺され、怒りも悲しみも抱かない者はいない。彼女もまた、例外ではなかったのでしょう……」)
ふるる(確定)の気持ちは分かる。だが、ケルベロスもまた『今』を生きる無辜の人らを負うから――。
「さぁ、みんな綺麗になったよ!」
刹那の沈黙を、サーヴァント達のクリーニングを終えた宿利の明るい声が破る。成親も八雲も絹もふかふか仕上がりに満足そう。ルキノもさらさらが増して良い感じ。
「折角の日和です。ピクニックは如何でしょう」
「まぁ、豪華なお弁当!!」
朝樹がお抱えシェフに用意させたランチを広げると、アリスの瞳もキラキラ輝く。
爽やかな風が吹き抜ける緑地公園から、既に脅威は去った。ならば五月晴れを満喫するのは、生きとし生けるものの義務。
「じゃあ、遠慮なく」
祈りを終え、振り返り。雅貴は涙の余韻を振り切る。
人生は、震えて過ごすより楽しむ方が、素敵に煌くのだ!
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年5月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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