襲撃! 奴の名は偽進藤!

作者:洗井落雲

●真昼の襲撃
 進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)は、休暇を過ごそうと、とある山林に散歩に出かけていた。春の新緑が、隆治の心身をリフレッシュさせる。
(「やはり、山はいい……故郷を思い起こさせる……今はなき、懐かしき故郷よ……」)
 少し耳をすませば、鳥や動物、或いは人々の声が、耳を楽しませてくれるだろう。隆治はしばし目を閉じ……異常に気付いた。
「静かすぎる……」
 呟き、周囲を見渡す。確かに、あまり人通りのない山を選んだつもりではあったが、あまりにも。それに、動物たちの動く音すら聞こえない。これは、もしや――。
「気づいたか!」
 大音声が、静寂を切り裂いた。
「何者だ!」
 とっさに身構える隆治。その前に現れた影は――。
「なんと……その姿は、我輩か!」
 その姿は、竜派のドラゴニアンを模したような外見をしていた。だが、よくみれば、その皮膚が金属部品で構成されていることに気付くだろう。なれば、この者の正体はダモクレス。デウスエクスだ!
「我輩は偽進藤!」
 ダモクレスは言った。
「偽進藤」
 思わず、隆治が復唱した。
「この世に進藤は我輩独りで十分。お前には消えてもらうぞ、進藤!」
 言うや、偽進藤は手にした武器を振りかざす。
「ムム、状況はよくわからんが、襲ってくるというのなら返り討ちにするまで!」
 隆治もまた、武器を構え、偽進藤へと対峙したのであった。

●真偽救援
「すまない、緊急事態だ。隆治がデウスエクスに襲撃される、と言う予知がなされてな」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)が、集まったケルベロス達に向かって、そう言った。
「本人に連絡をとろうとしたが、どうしても連絡がつけられなかった……一刻の猶予もない。速やかに救援に向かってほしい」
 敵はデウスエクス、ダモクレスが一体。
 周辺は、どうやら敵により人払いがされており、一般人は寄り付かないだろうと言う。
「一人で襲撃を仕掛けてきた相手だ。その実力に、よほどの自信があると見える。くれぐれも気を付けてくれ。皆の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)
斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)

■リプレイ

●進藤と進藤!
 じり、じり、と間合いを詰める。
 手に獲物を携えて、進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)は敵を見る。
(「――確かに、強敵には違いない」)
 隆治は胸中で呟いた。敵の構えに隙はなく、身に纏った闘気とでもいうべき『空気』は、隆治の肌にピリピリと圧力がかかっている気すらする。
 なるほど、たった一人、ケルベロスを襲いに来ただけのことはある。
 だが。
(「――何故偽進藤なのか」)
 そう。敵の名は偽進藤。偽の、進藤。その外見は確かに隆治に似ている。似ているのだが、よく見れば機械じみた質感の皮膚をしているので、見間違えるという事はほぼないだろう。
 と言うか、問題は動機である。何故隆治を模倣したのか――どうにも理由が分からない。
 分からないが。偽進藤は目の前にいる。
(「まぁ、なんにせよ。やるしかないな」)
 隆治は改めて、偽進藤を睨みつける。一対一。さて、何処までやれるか――。
「おー! 凄いねぇ! 本当にそっくりだねぇ!」
 途端、戦場に声が響いた。
 男性の声である。
 どこかのんびりしたその口調の主――藤・小梢丸(カレーの人・e02656)は、草木をがさり、とかき分け、その姿を現した。
「藤か……!?」
 隆治が思わず声をあげるのへ、
「私達もいるんだよ、進藤さん!」
 答えて現れたのは、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)だ。その傍らにはボクスドラゴン、『マシュ』の姿もある。マシュはクァ、とあくびを一つし、隆治へと視線を向ける。
 そう、隆治の危機に、仲間たちが駆け付けたのだ!
「皆……来てくれたのだな!」
 思わず隆治が駆けだすのへ、
「ストップ! 待て! そこまでだ!」
 と、大声をあげたのは久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)である。
「はい?」
 隆治が思わず声をあげる。
「そこで待っていてくれ……実は俺達には重大な問題が発生している。敵の巧妙な偽装工作により、どちらが本物の進藤さんなのか分からないんだ!」
 くっ、と悔しげに拳を握りつつ、航が言った。
「そんな馬鹿な」
 思わず隆治が呟いた。
「そこで……今より真偽見極めタイムに入ろうと思う。いいか、皆?」
 航の言葉に、ケルベロス達は異議なし、頷いた。
「ふふふ……どうやら我輩の完璧な偽装に惑わされているようだな、ケルベロス達よ」
 得意げに言う偽進藤。
「いや! まて! 今のきいただろう! どう考えてもあっちが偽者ではないか!」
 おもわず偽進藤を指さしつつ隆治が抗議の声をあげるが、
「ううん、これもまた、敵の罠かもしれないからねぇ?」
 小梢丸がにこりと笑って言った。
「ない! そんな罠はない!」
 思わずジタバタする隆治である。それから、ふと何かに気付いたように顔をあげると、
「ツッコミ、ツッコミ役は他にいないのか!?」
 とあたりを見まわした。ふと、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)と目が合うが、
「進藤さん……すみません、私に偽者を見分けるすべがあれば……!」
 岳は空気を読んだ。助けを求めるように隆治は視線を滑らせ、続いて斑鳩・眠兎(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e45153)と目が合うが、
「ううん、確かに、慎重に慎重を期する事って、重要よね」
 にこりと笑う眠兎である。こっちも空気を読んだ。
「くう、なんという……これがケルベロスの連携か……!」
 頭を抱える隆治に、
「うーん、進藤さん、ちょっと付き合ってあげて?」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が微笑みつつ、そう言うのであった。
 かくして、ケルベロス達による審議判別会が突如として開かれたのである。

●真贋を見極めろ!
「ふふーん、私、こんな事もあろうかと磁石を用意していたんだよ!」
 と、スノーエルが懐から取り出したのは、小型の磁石である。
「ふむふむ、それで、どうするんですか?」
 尋ねる岳に、
「うん! これを、こう、投げる!」
 スノーエルの手を離れた磁石が飛んでいく。偽進藤の方へ。かん、と音をたてて、磁石が当たった。そのまま地面にポトリと落ちる。
 マシュがとてとてと走って行って、磁石を咥えた。そのまま踵を返すと、スノーエルの元へと走り、磁石を渡した。
「ダモクレスの金属皮膚なら、磁石がくっつくはずなんだよ! くっつかなかったから、あっちが本物の進藤さんだよ!」
「そんな馬鹿な」
 隆治が思わずつぶやいた。
「あら。でも念のため、こちらの進藤さんにも試しておいた方がよくないかしら?」
 眠兎が言うのへ、スノーエルが頷いた。
「そうだね……じゃあ、えいっ!」
 スノーエルの手を離れた磁石が飛んでいく。隆治の方へ。ぺちっ、と音をたてて、磁石が当たった。そのまま地面にポトリと落ちる。
「痛っ」
 思わず隆治が声をあげた。それを尻目に、マシュがとてとてと走って行って、磁石を咥えた。そのまま踵を返すと、スノーエルの元へと走り、磁石を渡した。
「そ、そんな……どっちにもくっつかないんだよ……!」
 スノーエルがわなわなと震える。
「これじゃ……判別がつかないんだよ! どうしよう……!」
「ふむ……これは、強敵だねぇ……!」
 悔しげに言うスノーエルに、小梢丸が深刻な顔で相槌を打った。
「いや、あっちにあたった時にカン、って言ったよな?」
 隆治が言うのへ、
「諦めるがいい、進藤よ! このまま我輩がお前に成り代わってくれるわ! そして内部からケルベロスを一人一人討ち取ってくれる!」
 得意げに偽進藤が言う。
「いや、お前も大概天然だな!?」
 隆治も思わずツッコむ。
「ふむ……こうなってはしょうがないね。いや、最初からこうするつもりだったけれど」
 ふと、小梢丸が声をあげる。
「……! カレーか!」
 航がはっとした顔で言うのへ、小梢丸が頷く。
「ふふ……本物の進藤さんなら、鼻からカレーが食べられるはず……!」
 小梢丸が言うのへ、
「ぇ? 鼻からカレーを食べるとか無理だろう? カレーは飲み物だけど普通に口から食べよう?」
 隆治が否定するが、
「な、なんだと……進藤、お前そのような特技が……!? 我輩にはそのような機能は搭載されていない……ッ!」
 と、偽進藤がわななく。
「いや、出来ないと! 言ったからな!?」
 隆治が叫ぶ。
「もう……もうやめましょう!」
 声をあげたのは、霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)だ。周囲の視線が、ユーリへと注がれる。
「仲間同士で疑い合うなんて……悲しすぎる! こんなのって、ない……!」
 ユーリは顔を覆った。肩を震わせている。たぶん、笑いをこらえてるんだろうなぁ、と隆治は思った。
「そ、それに……! 見てください、この尻尾を! あっちの進藤さんの尻尾は、すっごく金属光沢で、硬くて抱きついても気持ちよく無さそうで……どう見ても、偽者じゃないですか……!」
 その言葉に、ケルベロス達の視線が一斉に、偽進藤の尻尾へと注がれた。おお、と言うどよめきの声が上がり、
「ほ、本当だ……どう見ても、これは偽物……!」
 と、航と声をあげ、
「気づかなかったんだよ! むむ、よくも私達をだましたね!」
 と、スノーエルが怒りをあらわにし、
「ふ、君は見誤っていたんだよ……僕達ケルベロスの絆をね……!」
 小梢丸がいい顔で決めた。
「くっ……馬鹿な、我輩の偽装が……見破られるだと……!?」
 偽進藤がうめき声をあげ、後ずさる。
「お前も大概ノリがいい奴だなぁ」
 隆治がぼやいた。そんな隆治へ、
「お疲れ様、進藤さん」
 くすくすと笑いつつ、かぐらが言った。
「では、改めて」
 こほん、と岳が咳ばらいをしつつ、言った。
「仲間の危機は見過ごせません! 貴方の悪行、ここでとめて見せます!」
 言いながら、岳が武器を構える。それに応じるように、ケルベロス達も武器を構えた。
「ふっ、出来るなら止めてみろ! この我輩を! 偽進藤を!」
 偽進藤もまた、武器を構える。
「うん、まぁ……ええと」
 隆治は咳ばらいを一つ、
「人が気持ちよく散歩をしている所を邪魔しおって。無粋な機械は破壊してやるとしよう」
 隆治の言葉を合図に、戦いは始まった。

●決戦! ケルベロスVS偽進藤!
 かくして、戦いは始まった。偽進藤も、伊達にひとりで襲撃を仕掛けてきたわけではない。その戦闘能力は高く、ケルベロス達も少しずつ傷を負っていく。
 だが、ケルベロス達も決して負けてはいない。仲間たちの絆が、仲間を助けたいという思いが、ケルベロス達の士気を高めていた!
 いわば、これは友情の戦い! 絆の戦い!
 そして、ケルベロス達の絆は、友情は、決して断ち切れないのだ!
「私たちの力、見せてあげるんだよ!」
 スノーエルが魔導書を開き、無貌の従属を呼び出した。緑色の粘菌は偽進藤へと襲い掛かる。それを援護する様に、マシュがブレスを吐いて追撃した。
「インド洋に沈め!」
 小梢丸が『静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食す』(ブラックスライム)を用い、偽進藤を飲み込ませる。
「さて、そろそろ終わりにしようか!」
 隆治が光の剣で偽進藤へと斬りつける。傷口からはオイルのようなものが噴出した。
「どうやら、地獄の炎までは模倣できていないようだな……!」
「ぬぅ、おのれ、進藤!」
 偽進藤が吠えた。手にした武器を大上段に構え、一気に振り下ろす。
「危ない、進藤さん!」
 かぐらが隆治に前に立ち、その攻撃を受けた。
「ダモクレスも研究熱心ね……確かに、進藤さんに勝るとも劣らないパワーだわ」
 かぐらがぼやき、
「だが……そもそもイケメンな人派になれない時点でお前は進藤さんではない!」
 航は言いながら、『流星牙(ミーティアファング)』を繰り出した。流星の如き神速の突きが、偽進藤の装甲を貫いた!
「本当なら服が破れてイヤーン、な展開かもですけど、ダモクレスの金属ボディではそんなこともないですね!」
 ユーリが星型のオーラを生み出し、けり出した。オーラは偽進藤へと迫り、直撃。その装甲を破壊する。
「まだまだ、無力化させてもらうわね」
 かぐらが力を込めると、偽進藤の持つ武器が爆破される。
「想いの力、受け取ってください! 新緑の輝きの宝石、エメラルド……!」
 岳が高く飛びあがり、大地を殴りつけた。その個所から迸るは新緑の輝き。エメラルドの想い。その石言葉は幸福・希望。想いを乗せた輝きの一撃が、『大地の誓い(バウジュエル)』が、偽進藤を飲み込む!
「私に力を貸してちょうだい」
 眠兎が手にした刀に、無数の霊体が憑依していく。その刃以て切裂けば、その身は毒に汚染される。
「むうっ……!」
 ケルベロス達の連続攻撃に、偽進藤はたまらず片膝をついた。
「手ごたえあり、かしら? 進藤さん、トドメはお任せするわね?」
 ふわり、と笑う眠兎。その言葉に、隆治は頷いた。
「さて、では我輩の偽者には、ここで消えてもらうとしよう」
 隆治は地に片手をついた。すると、隆治の影がグネグネと動き始める。次の瞬間には、隆治の影から無数の『手』が現れた。『シャドウバインド(シャドウバインド)』と名付けられた隆治のグラビティにより生み出された無数の影の手は、偽進藤へと迫りくると、次々とその手で偽進藤に掴みかかった。
「ぬう……! なんだこれは……! これは……データにはない……!」
 偽進藤が呻く。そうしている間にも、次々と無数の手が偽進藤へと襲い掛かる。
「なんだ……これは……我輩は……どうなるのだ……!?」
 偽進藤の言葉に、
「すまないな。それは、我輩にもわからん」
 隆治が答えた。途端、影の手がぎゅっ、と縮まると、偽進藤を飲み込んだ。そのまま影の中へと引きずり込むように手が引くと、後には何も残らなかった。

●大勝利ケルベロス! そして明日へ!
「進藤さん、無事でよかったです!」
 そう言って、ユーリが隆治の尻尾へと抱き着く。隆治は一瞬、驚いたような表情を見せたが、特に辞めさせるわけでもなく、させるがままにさせていた。
 自分の危機に駆け付けてきてくれた、大切な仲間である。そのお礼と言うわけではないが、好きにさせてもいいだろう、と思った。
「倒す事でしかお救いできす御免なさい……。貴方がいた証、それは進藤さんや私達に心にしっかりと刻まれましたよ」
 岳が静かに、祈りをささげた。
「皆さん、お疲れ様でした! 進藤さん、さあ、今回もお持ち帰りされちゃってください!」
 と、ユーリが声をあげた。
「いや、今回も、って……また担がれるの?」
 隆治が言うのへ、
「はっはっは、僕達仲間じゃないか」
 小梢丸がそう言って、隆治に手をやった。
「よし、じゃあ、また担ぐぞ! わっしょいわっしょい!」
 航もまた、隆治を担ぐのに手を貸した。
 かくして、仲間のケルベロス達は、一斉に隆治を担ぎ出した。
「ふふ、なんだかこういうのも楽しいわね」
 眠兎が笑い、
「わーい、わっしょいわっしょいだね!」
 スノーエルも笑った。足元では、マシュが――手が届かないので担いではいないけど――楽しげにまとわりついている。
「ふふ、お疲れ様でした、進藤さん!」
 岳もそう言って隆治に呼びかけ、
「それじゃあ、このまま皆で帰りましょうか」
 と、かぐらが笑うと、仲間たちは、「おー!」と楽しげに返事をするのであった。
「え、本当にこのまま帰るの……? また……?」
 仲間たちに担がれながら。
 困惑した様子で……しかしどこか楽しげに、隆治が言った。
 かくして、ケルベロス達は、大切な仲間を担ぎながら、下山したのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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