命を弄ぶ者

作者:神無月シュン

「確かこっちの方だったケド」
 瀕死の人の気配を感じ、取り壊し前の廃ビルへと足を踏み入れた、クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)。
 しかし先ほど感じた気配は今は感じられない。気のせいと帰ろうとした瞬間、人影がビルの奥へと走っていく。
「待って!」
 人影を追いかけるクロエ。通路を抜け階段を上り、広間へとたどり着く。
 ――ドサリ。
 投げ捨てられた女性が、クロエの足元に転がってくる。脈はもうない。
 クロエが顔を上げるとそこには、攻性植物――イーシー・ゼリー・ピーが佇んでいた。
「アンタ……よくもっ!」
 瀕死の人間を利用する、イーシー・ゼリー・ピーのやり方に、クロエが怒りに震える。
「キシャァァアアア!」
 イーシー・ゼリー・ピーは奇声をあげながら、クロエへと襲い掛かった。

「大変です! クロエさんが宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は急いでいる為か、普段よりも少し早口になりながら状況を説明する。
「急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来ませんでした。クロエさんが無事なうちに、なんとか救援に向かってください」

「場所は廃ビルの3階、広間になっているので戦闘をするには困りません。敵は『捕縛』や『足止め』、『毒』といった攻撃が得意の様です」
 急ぎだったのでこれ以上詳しくは、とセリカは頭を下げた。

「何とかクロエさんを救い、宿敵を撃破してください」


参加者
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)
ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)
レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)
名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)

■リプレイ


 ヘリオライダーの予知を受け、一同は目的地である廃ビルの前までやってきていた。
「ここ最近ケルベロスが襲われる予知がよくあるね」
「ええ、心配です」
 最近の事件について話しているのは、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)とソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)の2人。
「復唱――任務了解、敵をぶっ飛ばします。私はどうぐを容認する――援護として敵対勢力に対し破壊行動を行います」
 落ち着いた様子で武装を確認しながら、名無・九八一(奴隷九八一号・e58316)は任務内容を復唱する。この手順を行うことで、戦闘へと気持ちを切り替えていく。
「キシャァァアアア!」
 上の階から奇声が聞こえる。
「俺は外から行く。皆は入り口から頼む」
 そう言うと御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)は、ダブルジャンプを駆使し、窓から窓へと上っていく。
 他のメンバーは急ぎ、入り口へと向かって走り出した。
 クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)が危険を感じ咄嗟に飛び退く。先程まで立っていた場所にイーシー・ゼリー・ピーの蔓が打ちつけられた。
「何で狙って来るかわかんないし!」
 襲われる理由がわからない。もしかしたら失った記憶に関係があるのかもしれない。考えを巡らせながら、クロエは距離を取る。
 イーシー・ゼリー・ピー――ゼリー状の粘膜が人の形を成しているその見た目は、人間を油断させるものだろうか。それとも、もしかしたら弱った人間を入れておくために、都合がいいからという理由なのかもしれない。
 見覚えも記憶にもないが、こいつは倒さなければいけない敵だと、心が訴えかけてくる。
「あ……これはやばいカモ」
 考え事をしていたせいか、いつの間にか後ろは壁。襲い来るだろう攻撃に、クロエが身構えた瞬間。
 ――ガシャーン!
「このおおぉ!」
 窓ガラスを割り、飛び込んできた白陽の刀が空を切る。外したかと、残念そうに舌打ちする。
「クロエさん見つけた! 予知があって心配して探してたんだよ!」
「大丈夫ですかっ?!」
 ミリムに赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)。正面から突入した他のメンバーたちもクロエの元へ駆けつける。
「……っ!」
「許せない……!」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)とミリムは女性の遺体を見つけ、怒りがこみあげてくる。
「外見もですが悪趣味な事していますね、早急に討伐しなければ」
 イーシー・ゼリー・ピーを見据える、レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)。
「弱ったものを釣り餌に利用するのは、自然の知恵としては珍しくない部類ではある。ある、が……!」
 フィストが堪らずに叫ぶ。
「これ以上の犠牲者を増やすわけにはいかない。仕留めるぞ、クロエ」
「命を弄ぶアンタは、今の……ケルベロスのアタシなら、ぶっ飛ばすヤツだ! 皆、手伝って!」
 クロエの言葉に一同頷くと、武器を構えた。


「次は外さない」
 白陽がイーシー・ゼリー・ピーへと詰め寄り、下段から上段へ向かって刀を振り上げる。
 いくつかの蔓を斬り飛ばされるも、片側の蔓を変化させ反撃に白陽へと噛みつく。
「ぐあっ!?」
 瞬く間に毒が回り、白陽は咄嗟に距離を取る。
「大丈夫ですか? 今治療します」
「守護星座よ、加護を……」
 いちごが駆け寄り回復を行っている最中、ミリムがゾディアックソードを構え、地面に守護星座を描く。
「我らの星よ、我が祈りを聞き届けよ!」
 その間にフィストが突撃。両手のゾディアックソードが十字を刻む。更にレナが砲撃形態へと変形させたドラゴニックハンマーを構え、竜砲弾を撃ち込む。爆発と共に、辺りには爆煙と埃が舞う。
 その間にフィストとソシアのウイングキャット、テラとミラが羽ばたき、ソシアがオウガ粒子を放出。仲間達を包み込む。
 そうしているうちに煙が晴れ、視界が戻る。そこには何事もなかったように、こちらへと距離を詰めてくるイーシー・ゼリー・ピーの姿。
「うそでしょう?」
 砲弾を受けてもびくともしていないイーシー・ゼリー・ピーに、レナは驚きを隠せない。
 どうやらゼリー状の粘膜が衝撃を吸収しているようだ……。
「今日はご機嫌……目からビィィーム」
「とりま、潰れろ!!」
 だからと言って、攻撃の手を緩めるわけにはいかないと、九八一のビームが、クロエの赤の弾丸が次々とイーシー・ゼリー・ピーへ襲い掛かる。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
「キィアアアァァ!」
 白陽の斬撃を受け、イーシー・ゼリー・ピーが苦痛の声をあげ、仰け反る。
 イーシー・ゼリー・ピーは体勢を戻すと、人間の頭部に当たる部分の口を開き、周囲に粘液を吐き出す。
 すぐさまソシアが舞い踊り、花びらのオーラが降り注ぎ仲間達を癒していく。
 レナがエアシューズのつま先で地面をトントンと軽く叩くと、跳躍。流星の如くイーシー・ゼリー・ピーへと飛び蹴りを喰らわせる。
 その隙に、九八一が腕をワイルドスペースで覆い大型砲台へと変形。放たれた魔法の弾丸は、避けようとしたイーシー・ゼリー・ピーを追尾し、胴体へと突き刺さった。


「本当にしぶといな!」
 もう何度目の攻撃だろうか、ミリムはうんざりしながら力を込めた剣を振り下ろす。
 効果の薄い攻撃もあるためか、どうしても手数は増えていく。しかしダメージは全くのゼロという訳でもない。その証拠にイーシー・ゼリー・ピーの至る所に傷が目立ち始めている。
「私の力を貴方に。聞いてください、この歌を」
 イーシー・ゼリー・ピーの攻撃に傷ついた仲間の為、いちごが快楽エネルギーを力に換え、歌声にのせる。いちごのボクスドラゴン、アリカも治療の為に忙しなく動き回っている。
「くらえっ!」
 フィストの剣が霊力を帯び、イーシー・ゼリー・ピーへと襲い掛かる。フィストの正確な攻撃が傷口を抉り広げる。
「燃やしてアゲル!」
 炎を纏った蹴りを見舞うクロエ。イーシー・ゼリー・ピーは一瞬で炎に包まれ、フラフラと距離を取ろうとする。
「逃がすかよっ! 喰らえっ呪怨斬月!」
 白陽が刀へと呪詛を載せ、イーシー・ゼリー・ピー目掛けて振るう。斬撃が美しい軌跡を描きながらイーシー・ゼリー・ピーを斬り刻んでいく。
「裂き咲き散れ!」
 自らの剣に緋色の闘気を纏わせ、距離を詰めるミリム。素早く放たれる斬撃が、緋色の牡丹を描く。
 続けざまに襲い掛かる斬撃に抗うかの様に、腕を捕食形態へと変え、近くにいたクロエへと襲い掛かる。
「クロエ・テニア様は私が護ります」
 身体を割り込ませ、攻撃を受け止める九八一。
「ディフェンス、アリガト!」
 反応できずにダメージを覚悟していたクロエは、庇ってくれた九八一に助かったよとお礼を告げた。
「幾千年もの時を超え 足掻き続ける 再びまた出会える時代まで――」
 いちごの歌声が辺りに響く。それは古より伝わる『戦いと継承の歌』。歌に込められた力が、破壊の力となってイーシー・ゼリー・ピーを襲う。
「左に紅葉姫、右に雪姫、共に螺旋の流れに連なる姉妹鯉……!」
 フィストが雪白の鯉と緋鯉を作りだし、放つ。放たれた二匹の鯉はイーシー・ゼリー・ピーの周りを踊りながら、水の刃でもって斬り刻んでいく。
「その命を貫き絶つ、失せろっ!!」
 拳へと朱色の呪詛を纏わせるレナ。突撃の勢いと共に突き出した拳でイーシー・ゼリー・ピーを刺し貫く。
「キィィィイイイイィ!」
 イーシー・ゼリー・ピーが叫びをあげてもがく。
「傷付き倒れ、無くし亡くし。これ以上何も失わせない為に」
 ソシアが紡ぐ死の運命を祓う希望の歌が癒しの力となって、九八一を癒し毒を打ち消す。
「目からビィィーム」
 地獄と混沌の性質を持つビームを目から放つ九八一。ビームの直撃を受け、イーシー・ゼリー・ピーが怯み動きを止める。
「トドメを」
「ケジメのつけ時だよ! ……今だ!」
「いけーっ」
 仲間達の言葉に背中を押され、クロエがトドメの一撃を繰り出すため、構える。
「ぶっ飛べ!! アタシの想いは、いつでも全開!!」
 因縁もここで終わりと、繰り出された拳がイーシー・ゼリー・ピーの頭を吹き飛ばした。


「はぁ……やっと終わった……」
 緊張の糸が切れ、クロエがその場に座り込む。
「皆、無事かな?」
「敵勢の壊滅を確認、戦闘終了。哨戒を継続後、任務の完了を確認します。皆様、お疲れ様でした」
 皆を労うように声をかけるミリムと九八一。
「ケルベロスだ。遺体の回収を頼みたい……」
 フィストは電話で事情を説明している。
 仲間達の輪から離れて傷の治療をしようとしていたレナに気づき、ソシアが近付いていく。
「レナまた身体の呪紋様の事隠してるの?」
 ソシアは不思議そうに尋ねる。
「他の人に見られたり触れられたりは慣れなくて……」
「私は別に隠す事無いかなって」
「だ、だめです」
 ローブを脱ごうとしているソシアをレナが慌てて止める。
「それじゃあそこの柱の陰で、ささっと治療済ませちゃいましょう?」
 仕方ないなと、ソシアはレナを連れ物陰へと入っていった。
 遺体へと手を合わせ、黙とうを終えたクロエが口を開く。
「皆、手伝ってくれてアリガト! それじゃあ、お礼におっぱい揉ませてア・ゲ・ル!」
 暗くなってしまった場を和ませるためか、それとも周りを困らせて楽しみたいだけなのか、クロエがとんでもないことを口走る。
「え? クロエさんの労い? 揉む? それじゃあ……ってなんでだ?!」
「何言ってるんですかっ?!」
 困惑するミリムといちご。
「え、何かオカシイ? 折角なんだしホラホラ」
 いつもの事でしょと、白陽に迫るクロエ。どう見ても困らせて楽しんでいる。
「誤解されるような事を言わないでくれないかな?」
 慌てふためく白陽。尚も詰め寄ってくるクロエ。下がろうとして足が縺れ、一緒になって転ぶことに。
 ――むにゅん。
「大胆ダネ」
 転んだ拍子に胸を鷲掴みに。突然の出来事に白陽は顔を真っ赤にして動かなくなってしまった。
 被害者がせめて明るい気持ちで成仏して欲しいと願い、精いっぱい騒ぐケルベロス達だった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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