なぁ、それコギトエルゴスムだろ、置いてけ!!

作者:質種剰


「今日の晩酌のアテは何にしようかしらね~……」
 その日、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)は、ミミックのヒガシバをお腹の前に抱えて家路を急いでいた。
 普段から主へ良いように利用されているヒガシバである。この日の彼の体の中には、一升瓶が3~4本収まって、カチャカチャと音を立てていた。
「…………」
 一升瓶の高さはミミックの体長と殆ど変わらない。その為しっかりと口を閉じられない様子がちょっと気の毒である。
「どうせならアタリメでも買っていきましょう。この辺コンビニあったかしら……?」
 酒の肴を何にしようかと思案していたソフィアは、ふと足を停めて呟く。
「ヤバっ、道間違えた……?」
 いつのまにか鬱蒼とした森の中へ迷い込んでいる事に気づいたからだ。
「なぁ」
 下から声がした。
 視線を下げると、自分より背の低い少女が円らな瞳で見上げてくる。
「コギトエルゴスムだ! コギトエルゴスムだろお前!?」
 ビッとヒガシバを指差されてソフィアが困惑する。
「……はい??」
「それコギトエルゴスムだろ、置いてけ!!」
 金髪の少女は子ども特有の高音で叫ぶなり、その小柄な体躯に似合わぬ巨大な左腕を振り回して、ソフィアへ襲いかかった。
「いいえケフィ……一升瓶です、とか冗談言ってる場合じゃ無いみたいね……!」


「皆さん、大変であります。ソフィア・フィアリス殿が妖怪コギト置いてけなるドリームイーターに襲われると、予知で判明したであります!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が焦っだ様子で言う。
「急いで連絡を取ろうとしたのでありますが、もしかして既に交戦中なのか、一向に繋がらないであります……」
 それだけ、事態は切迫しているという事になる。
「もう一刻の猶予もありません。どうか皆さん、ソフィア殿がご無事なうちに、いち早く救援に向かってくださいませ!」
 深々と頭を下げるかけら。
「妖怪コギト置いてけは、その巨大な左腕で敵の肩に掴みかかって攻撃してくるであります」
 便宜的に『宝石破砕アーム』と名づけたそれは、頑健性に優れる近距離グラビティ。
 敵単体へダメージを与えるのみならず、その凄まじい破壊力によって、装備している武器にまで影響を齎すという。
「他にも、右手に持ったモザイクの球を投げつけて、敵複数人へ威圧感を植えつけるであります」
 こちらは『宝石ピッチング』と呼ぶ敏捷に長けたグラビティで、射程を自在にコントロールしてくるそうな。
「また、時折、奇声に近い高らかな笑い声……『恐怖の哄笑』を上げて、自身の体力回復に努めるようでありますね」
 そこまで説明すると、かけらは再び頭を下げて頼み込んだ。
「どうかソフィア殿をお救いして、妖怪コギト置いてけを撃破してくださいませ。宜しくお願い致します……!」


参加者
日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
加藤・光廣(焔色・e34936)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)

■リプレイ


 森の中。
「…………」
 妖怪コギト置いてけから声をかけられて、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)は迷っていた。
(「ヒガシバを囮にすれば逃げることも出来るだろう……」)
 これが、真面目な性格のケルベロスならば、サーヴァントを囮にしている間に応援を呼ぶつもりだと解釈できるも、何分、元からダラけきった性格の為に本気で自分だけ逃げ果せかねない。
(「でも、あれから逃げてはいけないと何故だか確信できる」)
 だから、ヒガシバにとっては、妖怪コギト置いてけの容姿がどことなくソフィアと似ている事が幸いしたかもしれない。
「コギトエルゴスムなら、ここにあるわよ」
 ソフィアが自分の髪飾りを指し示して嘯くと同時に、ヒガシバを抱く手を緩めて逃がしてくれたからだ。
「そうか! お前がコギトエルゴスムなんだな、寄越せ!!」
 妖怪コギト置いてけは、果たしてソフィアの言を信じたか定かでは無いが、素直に頷いて殴りかかってきた。
 ——否、例の大きな左腕でソフィアの頭を掴まんと指先を突き出してきたのだ。
 すると。
「大丈夫か?」
 すかさず加藤・光廣(焔色・e34936)が、妖怪コギト置いてけとソフィアの間へ割って入り、彼女の代わりに肩を握り締められた。
 両脚を地獄化したブレイズキャリバーの壮年男性で、片時も手放さないほどの酒飲みである光廣。
「そうさなあ、ついでに酒も守り抜きたいところだが」
 それ故か、ソフィアやヒガシバの身を案じるのは勿論だが、意識の片隅ではヒガシバの中に入っている一升瓶達の事も気になって、出来るなら無事に救出したいと思っているようだ。
 趣味は競馬、競艇、麻雀、アナログゲームと、いかにもどこにでもいそうな声の大きい中年といった印象である。
「そう簡単にはいかんわなあ」
 光廣は傷めた肩を手で抑えつつも、脇差「坤龍丸」の刀身に映った、妖怪コギト置いてけ自身にしか判らぬトラウマを見せつけて、奴の精神をゴリゴリと削った。
 続いて、
「どこかで見たことのある大きな腕ですが、まぁそういうこともあるのです」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)が、意外にも冷静な面持ちで現場へと駆けつけた。
 その沈着冷静ぶりは、
(「後でお駄賃代わりに何か買ってもらいますもの!」)
 と、ヘリオン降下時にコンビニを探してしまう程だ。
「ヒガシバちゃんをお持ち帰りなどさせません……!」
 強い語気で言い放って、広げた翼に光を蓄えるミライ。
 そうして増幅した光を手から放ち、妖怪コギト置いてけを構成する『超ひも』の振動を停止すべく、動きを大幅に鈍らせた。
「ヒガシバちゃんが戦える状態になるまで、しっかり敵を引きつけるんだよ?」
 ポンちゃんは主の命に従ってヒガシバを庇えるように神経を尖らせつつ、妖怪コギト置いてけへ封印箱ごと体当たりをかましている。
「ところでミライちゃん、ヒガシバも良いけどおばちゃんの心配は??」
「……ソフィアさんの心配? 私なんかがソフィアさんの心配だなんて、10年早いですって!」
 ふと、友人同士という気易さで軽口を叩くミライの耳に、
「やってみたかっただけなんですー!」
 ——ドサァッ!!
 少し離れた位置から謎の悲鳴と、聞き慣れた落下音が届いた。
 しかも、落下音のした方向からすぐに足音が近づいてきた為、パッと笑顔で振り向くミライ。
「今日は早かったですね、そーま先ぱ——!?」
 言いさして思わず笑顔のまま絶句する。
 ヒガシバを手招きして、口の中から回収した一升瓶をせっせと緩衝材に包んでいるのは、ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)だったから。
「やれやれ……可愛い外見で中々凶悪な御仁だことだね」
 一升瓶の保護を恙なく終えるや、ソフィアの後ろに控えて声をかけるルクシアス。
「ソフィア様、貴女を失う訳には参りません。助太刀致します」
 彼にしては珍しく男らしい、まるでナイトのような宣誓だが。
「あら、ありがと。上でカケラちゃんにおっぱいダイブしたのがバレなければ、徹頭徹尾カッコよかったんじゃなーい?」
 落下までの経緯を察したソフィアからはツッコまれ、
(「ま、まぁ、何時も通りな彼らを見ればソフィアさんもちょっとは安心する……はずですし☆」)
 そう好意的に捉えて黙認するミライには、すすすと目を逸らされてしまった。
「ルクシアス、お前もか……なかなか大胆な事をするのう」
 ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)は一応ツッコミを入れつつ、生暖かい目で見守っている。
「あはは、気は抜けたでしょ?」
 ルクシアスは苦笑いして誤魔化しつつ、マインドリングを嵌めた手を前へと翳す。
「今すぐ癒やそう。ちょっと本気だよ」
 空中に具現化された光の盾が、光廣を防護して肩の大怪我をも癒した。
「……そういえばエインヘリアル達も滅ぼした相手のコギトエルゴスムを宝物庫グランドロンに溜め込んでいるらしいし、妖怪コギト置いてけの趣味もデウスエクスとしてはそれ程特殊でもないのかねぇ……?」
 日柳・蒼眞(無謀剣士・e00793)は、したり顔で妖怪コギト置いてけの方を見やるが、
「何真面目な顔して言ってるんですか、今の今までおっぱいダイブしてたお人が」
 冷めた目をしたルクシアスに——それはそれで自分の事を棚に上げたツッコミだが——いつもの悪癖をバラされていた。
 それと言うのも、
「……いやぁ、別にオイシイので構いませんけれど、まさかかけらさんでなく日柳さんに蹴落とされるとは思いませんでしたよ」
 どうやらルクシアスは小檻へのおっぱいダイブの最中に蒼眞の手でべりっと引き剥がされた末、流れるように地上目掛けて蹴落とされていたらしいのだ。
「……どっちがフィアリスだったかな……? ……フィアリスならどうせ殺しても死ななさそうだし、両方斬るか……」
 蒼眞はルクシアスの追及を誤魔化すように斬霊刀を構えて、妖怪コギト置いてけへ肉薄。
 流石に、ソフィアを妖怪コギト置いてけと間違えて斬りかかる——などはせず、きちんと敵へ向かって空の霊力を帯びた刃を一閃、心の傷を容赦なく斬り広げた。
「あら、ソーマくんちょうど良かった。おばちゃん休憩してる間にちゃちゃっと倒しちゃって~」
「……見た目だけならどう見てもフィアリスの関係者だろう……フィアリスも今回位はさぼってないで自分で戦えよ……」
 ソフィアと日常感溢れる遣り取りを交わしながらも、さり気なく彼女の前に立つ蒼眞。
「……いや、ほら、俺は前衛役だし団長でもあるし一応は、ね……」
 などと、大して心配していないように振る舞っているものの、もし彼がディフェンダーだったら真っ先に2人の間へ身体を割り込ませて、ソフィアを守っていただろう。
 一方。
「また恐ろしい敵が来たわね。元々コギトエルゴスムだったあたしも狙われるのかしら」
 光の翼で真っ直ぐ飛んできたフレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は、どこか楽しそうな様子で呟く。
 いつも明るい笑顔を絶やさないヴァルキュリアにして、ずっと勇者を探し放浪していたという武闘派なフレック。
 高く結ったしなやかな銀髪と円らな瞳、パッと目を引く巨乳が印象的な刀剣士の少女である。
「大戦期の英雄の化身……相手にとって不足なしね!」
 フレックは妖怪コギト置いてけの注目を引くべく、元気に啖呵を切ると、
「だけど……このあたしを宝石になんぞ出来るとは思わない事ねっ!」
「きゃぁっ!」
 半透明の『御業』を嗾けて、奴の華奢な腰をガシッと鷲掴みにさせた。
「またもガントレットを扱う敵ですね。ソフィアさんの戦闘スタイルを模倣する敵が多いのが気になります」
 以前戦ったワイルドハント——奴は浮遊するバトルガントレットを操って攻撃してきた——を思い出して目を瞬くのは、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)。
 澄んだ大きな瞳と歳より幼く見える童顔が印象的な、黒目黒髪の眼鏡女子。
 デニムっぽい色のクラシカルなジャンパースカートがよく似合う、螺旋忍者の少女である。
 雰囲気こそ大人びてはいるものの、性格はかなり弱気で感情が昂ぶると涙ぐむ事もしばしばだそうな。
「ですが、まずは襲う相手を間違えたことを教えてあげましょうか」
 紫御は妖怪コギト置いてけをキッと睨みつけてから、身軽に跳躍。
 流星の煌めき纏いし重い重い飛び蹴りを炸裂させて、奴の機動力を奪った。
「なんとか間に合いましたか? もしお怪我がありましたら、いつでも針を撃ち込むので仰ってくださいね」
 と、ソフィアへの気遣いも忘れない紫御だ。
 他方。
「おばあちゃんのピンチにあたし参上!」
 鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)は快活に宣言しながら低空飛行で登場。
 父親譲りの赤い髪と母親譲りの赤い翼が自慢で、大きく魅力的な瞳が強い印象を残す、オラトリオの少女だ。
 夢の中にて『聖王女』の天啓を得て覚醒したパラディオンでもある。
 晴れてケルベロスとして広い世界を知り始めた愛奈の夢は、聖王女様になる事。実に年相応で微笑ましい。
「なんてまがまがしい笑顔! これはかなり凶悪なデウスエクスに違いない!」
 そして、妖怪コギト置いてけの第一印象を率直に語る孫娘は、
「……おばあちゃんは何でそんなうまく言い合わせない不思議な表情してるの?」
「いや、何でもないから集中して戦いなさい、アイちゃん」
 知らない内に祖母であるソフィアへ遠い目をさせていた。
(「他人からはああいう風に見られていたんだなって思うと、精神的ダメージが半端ないわね……」)
 ともあれ、ソフィアは遠隔操作型縛霊手『イノセント・プレイ』を操り、時空凍結弾を精製。
 妖怪コギト置いてけの薄い胸を撃ち貫いて、奴の時間をじわじわと凍てつかせてみせた。
「うん! ヒガシバさんがコギトエルゴスムになるかどうかよく分からないけど、やらせはしないよ!」
 愛奈も元気いっぱいに跳び上がって、光の尾を引いたキックを見舞う。
 重力の宿った蹴りは見事に奴の頭部へ命中、その動きを鈍らせた。


「お前もお前もみんな全員コギトエルゴスムだな! 絶対に奪い取ってやる!!」
 妖怪コギト置いてけは、ケルベロスの集中攻撃を食らって血塗れになりながらも、その威勢の良さだけは相変わらずで宝石を投げつけてきた。
「見た目からして痛い攻撃じゃのう……」
 キラキラ輝く硬質なモザイク球が散弾銃の如く降り注ぐのへ耐え兼ねてか、ガイバーンが呟いた。
 今回はツッコミ以外特に何も頼まれなかった為、クラッシャーとしてスピニングドワーフとフレイムグリードを繰り返している。
「……え? や、ポンちゃんの角はコギトエルゴスムじゃない……のです。多分」
 ポンちゃんの耐える様子を後ろで見守っていたミライが、思わず首を傾げて応じる。
 確かにポンちゃんの額はユニコーンよろしく、澄んだ藍色のツノが生えていた。
「ヒガシバ! 一気に押し返すよ!」
 フレックを庇ってモザイク球の矢面に立ったシルディは、同じように蒼眞を庇っているヒガシバを励ましている。
 ヒガシバはパカっと口を直角——背中の真上へ蓋の前面が来るよう——に開けて、両手両足を懸命に広げ、宝石を上顎含めた全身で受け止めていた。
 戦いは続く。
 光廣は見切りを回避して戦うという最低限の立ち回りしかできなかったが、それでも倒れずに済んだのはディフェンダーの立ち位置と着物の耐性に救われたと言えよう。
「我が技! 我が全霊!」
 裂帛の気合いを発すると同時に、愛刀である『魔剣「空亡」』を己がグラビティと共鳴させるのはフレック。
「宝石を奪う事を狙うならば当然! 奪われ壊される事も覚悟しているわよね!!!」
 妖怪コギト置いてけの懐へ飛び込んだかと思うと、相手の時空間『ごと』切り裂く秘儀を繰り出し、奴が気づかぬ内に相当な深手を負わせた。
「何、戦いってそういうものよ」
 元々デウスエクスであったヴァルキュリアのフレックが言うだけに、含蓄のある言葉だ。
「過去とは、決別などできません、が」
 ミライは、Pinky Coatの表面を流れるクッキーちゃんを『鋼の鬼』へと変化させる。
「それでも、前に進む邪魔になるというのなら、今日は私が打ち砕きます……!」
 鬼の拳を固めて撲りつけ、妖怪コギト置いてけの肋を何本もイカれさせると共に、真っ赤なワンピースへ容赦なく穴を開けた。
 ポンちゃんも健気にボクスブレスを吐き出して、妖怪コギト置いてけの悪寒を倍加させんと奮闘している。
「それにしてもワイルドハントの時も然り、ソフィアさんの面影が残っているということは……?」
 妖怪コギト置いてけの容姿をしげしげと眺めて、きょとりと首を傾げるのは紫御。
「使う武器が分かりやすいのは救いですね。それを使えなくすれば良いのですから」
 すぐに精神を極限まで集中させると、奴の左腕へ触れる事なく遠隔爆破を起こして多くのダメージを与えた。
「あたしもいつかあのくらいにまで強くなりたい」
 ソフィアが戦う様を間近で見ていた愛奈は、ますます祖母への尊敬を深めたらしく、キラキラと瞳を輝かせて呟く。
 そして、秘めたる大いなる力を一時的に解放しては、時空間へと干渉。
「やっぱりおばあちゃんの言う通りだ。あたしが望みさえすれば、運命は絶えずあたしに味方する」
 自分自身の時間の流れを加速させた状態で、ルーンアックスによる連撃を妖怪コギト置いてけの胴体に叩き込んだ。
「その刃を、その痛みを、その尊さを……私は愛します」
 苦境に立たされた者の持つ強さを刃へ例えて声高らかに歌い上げるのはルクシアス。
 鼓舞し愛を謳う調べにグラビティが乗って、地味に負傷が蓄積していた光廣の痛みを取り除いた。
「ランディの意志と力を今ここに! ……全てを斬れ……雷光烈斬牙……!」
 蒼眞は、理不尽な終焉を破壊する力を有した冒険者の意志と能力の一端を借り受けて、静かに瞳を閉じる。
 次第に暁の輝き宿した刀身が眩いばかりに煌めいて、妖怪コギト置いてけの頭蓋をかち割った。
「調停期はもう終わって、ケルベロスの時代よ。過去の亡霊にはご退場願おうかしら」
 巨大化させた縛霊手をガバッと振り下ろして赤いドレスに包まれた細腰を挟み込み、珍しく気合いが入った物腰で力を込めるのはソフィア。
「捕まえた。さあ、ひしゃげて潰れなさい」
「うぐぁああああッ!!?」
 ギリギリと妖怪コギト置いてけの胴体を締めつけ、押し潰し、遂には体の内外を破壊し尽くした。
「あ……う、あたしの……コギト……」
 妖怪コギト置いてけは、痛みで手放してしまったモザイクの球へ右手を伸ばして、そのまま息絶えた。
「貴方はコギトエルゴスムを手に入れてどうするつもりだったの……其れに……一体誰の想像から生まれたのかしら」
 消えゆく遺骸を前に、フレックが小さく尋ねるも、返事はない。
 気づくと、ケルベロス達はコンビニから程近い歩道の上に居た。
 フレックと紫御が先頭に立って、念の為に戦闘の痕跡を消すべく、道路をヒールしていく。
「ところで、ソフィアさんは戦闘中もずっと遠い目をしていましたが、何か思うところがあったのでしょうか?」
 心配そうに見上げて問いかける紫御。
「ええ、まぁ……ね。今夜はいろいろと見なかったことにしたい気分だし、ガッツリ飲もうかしら。皆もついてくる?」
 ソフィアは自分の肩をトントン叩きながら、皆の方へ振り返った。
「はい、お酒付き合いますよ。お疲れ様でしたソフィア様」
 件の一升瓶達を大切に抱えて、ルクシアスが笑顔で頷く。
「俺は次の任務があるから先に失礼するが、コンビニへ行くならあたりめ辺りを頼む」
 とは、去年成人して飲酒解禁となった蒼眞の言。
「あ、おやつは私もイカがいいのです☆」
 は~い、とミライが手を挙げた。
「お酒は一緒に飲めないけどおつまみなら用意したわよ」
 フレックが荷物を掲げて笑顔になった。中にはわさびを練り込んだ和風チーズ、パテドカンパーニュ、そしていりこの大袋が入っている。
 パテドカンパーニュとは、その名の通り豚肉や鶏のレバーを様々な香味野菜と一緒にスパイスで調味してワインへ漬け込んだ、いわゆる田舎風パテの事。
「……もしかしていりこも手作りなんじゃろうか」
 ガイバーンは、お洒落なおつまみ勢の中へ堂々と混じって燻し銀が如き存在感を放つ乾き物が、殊更気になるようだ。
 実際、いりこ——東日本で言うところの煮干しである——を自家製する事は、手間を惜しまなければ充分可能である。
「それじゃ、行きましょうか」
 ソフィアは、側へ寄ってきたヒガシバをひょいと抱え上げて、仲間達との酒盛りを楽しみに歩き出した。
 ちなみに、こっそり酒盛りへの参加を目論んでいた愛奈については、保護者として先に蒼眞と一緒にヘリオンへ乗せて帰した模様。
 夜道に浮かぶコンビニの光は、ケルベロス達を温かく迎え入れて、日常への回帰という安らぎを与えてくれた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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