●全て得し者全てを喪し
兵庫県芦屋。
大阪湾を見渡す事が出来る好立地であり、風光明媚な街並みが広がる地域。
そして六麓荘町の一角にあるのは、広大な敷地に立つ豪邸、白壁とフェンスの囲う屋敷の中には……ファー付のきらびやかな服装に身を包んだ、いわゆる青年実業家が住んでいた。
勿論彼にとってこの家は、己が成功の証であり……金を出せば何でも買える、と言わんばかりに調度品、インテリア、アンティークのものなどが沢山。
そして毎日、それら調度品を眺めては自己陶酔に浸るのが日課ともなっていた。
しかし……そんな彼の元に音も無く忍び寄るは……女。
ここに務めるメイドとかではなく、エキゾチックな服装に身を包んだ彼女。
……そして。
『ふふ……凄いわね』
讃美を向ける彼女の言葉に振り返った彼。
しかし、言葉を返すよりも先に……指を鳴らした彼女。
その脚元から、緑色の炎が巻き上がり、一瞬にして彼の身体はその炎へと包まれてしまう。
そしてその身を焼き尽くし、その炎の中に姿を現わすは、片膝を付き、金色の鎧の様なものに身を包み、黄金色に煌めく巨大な剣を持ち、顔立ちは先ほどの男と同じエインヘリアル。
「美しい装備ね。どの位になるかしら? ま、別にそんなのはどうでもいいんだけど。ともかく、また私が迎えに来る時までに、その武器を使いこなせる様にしておきなさい」
と言う指示を与えると、エインヘリアルは、こくり、と頷くのであった。
「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ、説明を始めるッス!!」
と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスへ取りあえず元気よく挨拶すると、早速。
「有力なシャイターンの暗躍をかぎ取ったんッスよ! 兵庫県は芦屋って所で、緑のカッパーっていうシャイターンが現れた様なんッス!」
「どうやらこの緑のカッパーが、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くす男性をその場でエインヘリアルに仕立て上げている様なんッスね。そのエインヘリアルは、芦屋の中の豪邸に住む青年実業家の男性ッス!」
「この男性は『金で買えない物は無い』と言わんばかりで、色んなものを金で買い集めてる様なんッスけど、それには人を騙して買い叩いたり、酷い方法もあった様なんッスね」
「そしてこのシャイターンによって、彼はエインヘリアル化させられたッス。どうやらグラビティ・チェインが枯渇して居て、周りの人達を殺す事でグラビティ・チェインを奪おうと暴れ始める様ッス」
「このままでは、この屋敷に住むメイドさんとか、周りの富裕層の方々も殺されてしまうッス。その前に、ケルベロスの皆さんにはエインヘリアルを退治為てきて欲しいんッスよ!」
と、そこまで言うと更にダンテは。
「このエインヘリアルッスけど、先ほども言った通り、周りの人達を騙したりしてのし上がった青年実業家の様ッスから、かなり性格はひん曲がっている、と言えるッス。己が力でここまでのし上がった、他の者は統べて自分の糧となる様な虫けら共だ、という具合ッスね」
「そんな性格ッスから、人を殺す事にも一切の躊躇は無い様ッス。他のエインヘリアルとかは居ないものの、その華美な黄金の鎧と、黄金の剣によって攻撃と防御が可能ッス。鎧はフルメタルアーマーの如く、かなり守備力が高いッスから、ダメージは通り辛くしぶとい相手、って事になりそうッス」
「又、屋敷の中にはメイドさん達が居る様ッスけど、このエインヘリアルはお構いなしッスから、出来れば屋敷から避難させて欲しいッス」
と、最後にダンテが。
「このエインヘリアル自体、性格には難ありすぎって所ッスけど、倒さない事には一般人にも大きな被害が出てしまうッス。被害を未然に防ぐためにも、ケルベロスの皆さんの力、貸して欲しいッス!!」
と、再度拳を振り上げて応援するのであった。
参加者 | |
---|---|
叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
メルナーゼ・カスプソーン(彷徨い揺蕩う空の夢魔・e02761) |
山内・源三郎(姜子牙・e24606) |
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658) |
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224) |
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881) |
カンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590) |
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568) |
●安らぎもなく
兵庫県芦屋に立ち並ぶは、高級住宅街。
風光明媚な町並みと、豪邸の取り合わせは高級感が漂い、争い事とは無縁そうな感じもする。
……が、そんな豪邸の中の一つ、一際美しい白壁と、フェンスに囲まれた屋敷。
その屋敷に棲まうは、とある青年実業家。
彼が出逢ってしまったのは、財力を持つ男性の下に現れるというシャイターン『緑のカッパー』。
「……エインヘリアルにされてしまったことには同情しますが、元々いい人とは言い難い様ですね」
ばっさりと吐き捨てるカンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590)に、ククク、と低く笑うはペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)。
「そうだな。所詮は金の亡者、と言えるだろうな。金に目が眩み、己が顕示欲を満たさんが如く、高級品を買い漁る……愚の骨頂だ」
欲しい物は、人を欺いてまでも手に入れる……ある意味、悪の随を尽くしている……と言えるだろう。
それに加えて、聞いて居る限りでは、装備も金ピカの鎧と、金ピカの武器で身を固めているとの事で。
「ふむ……全部黄金の装備って趣味悪すぎではないか? その装備を売ったりする事は出来たりしないのかの?」
と山内・源三郎(姜子牙・e24606)が顎に手を当てながら思慮するも、それに対して眠たげなメルナーゼ・カスプソーン(彷徨い揺蕩う空の夢魔・e02761)と、阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)が。
「そうですね……鎧は破壊しないと、ダメージが通らなさそうですし……武器は武器で、骨董品的な立ち位置で買い取ってくれるのはあるかもしれませんが……でも血がこびりついていては、それも叶わなさそうですね……」
「ま……彼もシャイターンの被害者である、と言えるかもしれない。でも、それを放置しておく事も出来ないわね。ここで、止めないと……これ以上、シャイターンの被害を広げる訳にはいかないわ」
静かながらも、拳を握りしめる櫻。
そして柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)、メルナーゼ、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が。
「まあ、いくら武器が合成だって意味はないの。結局は自分のパワーの有無なのよ」
「ええ……お仕事ですし、手早く片付けちゃうですか……」
「そうなのだ! 金ぴか鎧のエインヘリアルをちゃっちゃとやっつけるのだ!! で、お屋敷の中に居るメイドさん達には手出しさせないのだよ! 第一ご飯とか、食べさせてくれたりしていたのに、手出しするだなんて、もんどーむよーでメッ、なのだ!」
更に拳を強く振り上げる蓮。
……そんな仲間達の言葉に一度瞑目しつつ、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)が。
「そうね。彼がまだ持ってない物が一つあるわね。お金で買えないもの……勇者にふさわしい心とか、ね。それがわかる人とは思えないけど、どうして選ばれちゃったんだろう……」
「分かりません……が、本当、品がありませんね……その鎧も剣も……ま、何であっても手加減はしません」
と、強い憤りを含んだカンナの言葉に、ルチアナは頷いて。
「そうね。こうなっちゃったら、すぐにやっつけてあげるのが慈悲よね? 何にせよ、メイドさん含めて避難させないといけないし、急ぎましょう」
と、ルチアナの言葉に皆も頷き、そしてケルベロス達はフェンスを飛び越え、屋敷の中へと急ぐのであった。
●金の力
そして、屋敷に侵入したケルベロス達は、主人の部屋へ。
……当然招かれざる来客の侵入を知ったメイドさん達は。
『貴方達は、何者ですか?』
と、妨害する様に立ち塞がる。
が……そんなメイドさん達には、取りあえずルチアナとカンナが。
「ごめんなさい。でも、貴方のご主人様が常軌を逸しており、危険な状態なの! 詳しく説明している時間は無いわ」
「主人の部屋はどちらでしょうか? そして、メイドの皆さんは、そこから逆の方へと逃げる様にして下さい」
二人が真摯に告げた言葉。
隣人力と共に告げた言葉に嘘偽りは無く……メイドさん達は。
『え? ご、ご主人様、が……?』
少々動揺しているメイドさんに、頷く源三郎。
「うむ。信じられぬかもしれぬが、真実じゃよ。おぬしらには罪は無い。生きていて欲しい」
びしっ、と格好良く、ニヒルな雰囲気で声を掛けると……。
『え、あ……わ、分かりました!! ご、ご主人様のお部屋は二階の一番奥、海を見下ろせる部屋になります。必ず、ご主人様をお助け下さい!』
と決意する様に頷き、仲間のメイドさん達に連絡を取り、屋敷の様々な部分から、入口に向けて逃げていく。
そして、逃げるメイドさん達とは逆に、奥の主人の部屋に向けて駆けていくケルベロス。
……部屋の前に到着したその瞬間。
『ふ、ハハハハハァ!!!』
と、狂気の笑い声が聞こえてくる。
「さぁ、いくわよ、みんな!」
と宇佐子が皆を促し、ドアを蹴破る様にして、部屋の中へと突入。
部屋の中に、金色の鎧と金色の剣が眩しく瞬く。
……そして、どこか自信あり気なエインヘリアルのその風貌に対し、ばっさりと。
「なかなかにいい趣味をされてらっしゃいますね……こんな出会いでなければ、きっと尊敬できる素敵な人であったでしょうに……」
「そうね。今時、そんな金キラなんて、悪趣味なだけね」
「ああ。金ピカでまさに絵に描いた様な悪趣味な金持ちだな。金以外に取り柄の無いエインヘリアルなど、負ける気がせん。それに金じゃグラビティ・チェインは買えないようだな? ククク……そうかそうか、金ではなく、力で手に入れる事にしたか。逆にお高く付くぞ?」
メルナーゼ、ペル、櫻が断じていくと、それにエインヘリアルは剣を掲げ。
『何をぉ? お前達にこの価値など解る訳がない! 所詮貧乏人だろう?』
人を喰って掛かる様に挑発するエインヘリアル。
外光に煌めく金色の剣……そしてその光に更に煌めく鎧。
「ううん……やっぱ、金ぴか鎧ってギンギラギンで眩しいのだ……さり気なくないのだよ……」
と蓮が眩しそうに目を細め、櫻も回りを見渡すようにして。
「ただ集めただけで一貫性の無いコレクションね。所詮貴方、値札で選んで並べただけなんでしょう?」
『違うっ! 私が欲しいと思った素晴らしいコレクションだぞ! それも解らぬお前達は、此処から去れ!!」
と言いながら、巨剣を振り落として攻撃。
地面を抉り、その破片が飛び散る屋内……が、その攻撃を身軽に躱す蓮。
「仕方ないのだ。言っても解らなさそうだから、倒しちゃうのだ!」
と攻撃の隙をかいくぐり、近接しての呪怨斬月の一閃を叩き込む蓮。
そして彼に連携を取り、クラッシャーの源三郎、櫻二人がヴァルキュリアブラストと、凶太刀を次々と叩き込む。
その黄金の鎧は、中々防御力が高い様で、ちょっと効果があるかは解らないが……苦悶の表情を浮かべているので、全くのノーダメージ、という訳では無さそうである。
そしてクラッシャー陣の攻撃で少しでも傷を付けたところに、更にルチアナが、カリムの炎を秘めた如意棒を掲げ、真っ正面から達人の一撃で攻撃する。
……が、エインヘリアルは。
『ってぇな! このクソが!!』
怒り狂い、剣で弾く。
そして、メルナーゼがメタリックバーストで前衛陣に狙アップの魔法を使い、回復する一方でカンナはメルナーゼへウィッチオペレーションで共鳴効果を付与。
そして……ディフェンダーのペルが。
「そら、買ってみるがいい。買えなければ永遠に買い物が出来なくなるだけだからな……?」
とフードの下で不敵に笑い、デスサイズシュートを放ち、更に宇佐子がファナティックレインボウで怒りを自分に向けさせる。
そして、次の刻。
とは言えども、エインヘリアルの行動はほぼワンパターン……黄金のゾディアックソードを力一杯振り回し、立ち塞がるケルベロスを力尽くで叩き潰そうとするがのみ。
……そんなエインヘリアルの攻撃を。
「倒れるまでかばい続けるのよ! 倒れるときは前のめりって、どこかの偉い人も言ってたのよ!」
と、理論を振りかざしながら、惹きつけた攻撃をその身に受け止め続ける宇佐子。
喰らう事で体力は大幅に削られて行くのだが……メルナーゼが。
『生きては死ぬは常世の定め。悠久の輪廻に浮いては消える。泡沫の如く儚き影とその揺らぎ』『交わり歪み等しく正せ』
と詠唱し、『ハクチュウム』の魔法を発動、大きく体力を回復する。
ただ、それでも喰らったダメージには不足しており、咥えてカンナがルナティックヒールで追加回復……体力をほぼ全快に維持。
そして、ペルが攻撃を受ける一方、同列のペルは。
「我らも安くはない。鎧ごと砕け散れ」
と、『白く眩い雷光の災拳』で殴り、パラライズ効果を付与。
そして、ルチアナは。
「思念よ……意志を、貫け!」
と『サイコセンシズ』の捕縛効果の一撃を叩き込んで行く。
……段々と、多くのバッドステータスが積み重なり、表情が僅かに曇る。
が……そんなエインヘリアルに、更に。
『ほらほら、どーしたのだ? 鎧が重くて動けないのだ?』
と、笑いながら足元に怒號雷撃を叩きつけ、源三郎も。
「闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動、彼の者の前に驟雨の如く撃ち付けよ!」
と『外法幻禍陣』、櫻も。
「Look at me! Look at me! Look at me! Look at me! Look at me!」
『執着の魔眼』による石化効果付与。
その効果により、剣を振りかざしたところで動きが停止。
「足元、がら空きなのよ!」
獣撃拳を足元に叩き込むと、体勢を崩し、其の場に転倒するエインヘリアル。
巨躯を再び立ち上げるには、時間が掛かる。
「みんな、一気に行くのよ!!」
と宇佐子が狼煙を上げ、一気攻勢へ。
「わたしの格闘は合気道とか柔術に近いものよ。隙の大きな相手とは戦い易いかもね?」
とルチアナがハウリングフィストで攻撃し、源三郎のヴァルキュリアブラスト、櫻のグラビティブレイク。
その攻撃を集中させる事で……黄金の鎧に僅かな風穴が開き、その下の肌が露わに。
「ふっ。人だった頃の行いに報いが来たようだな。いやはや、小悪党相手は良い。本気でやっても咎められないからな」
とペルがニヤリと笑い、そこに再び白く眩い雷光の災拳。
そして蓮が。
「そろそろ限界の様なのだ? さあ、ドーンと行くのだよ!」
と喰霊殲神剣の一閃を叩き込むと……エインヘリアルは絶叫と共に、堕ちた。
●風の中に
そして、エインヘリアルを無事倒したケルベロス達。
……当然ながら、部屋の中は彼が暴れ、振り回した剣閃によって破壊された高級調度品の欠片が転がってしまっている。
「……中々酷い有様よね……でも、こういう古いアンティーク製品を直すのって、ちょっと勇気が要るわよね」
と、櫻が憂鬱そうに溜息を吐くと、源三郎はそれらを拾い集めながら。
「ふむ……確かにそうじゃな。エインヘリアルの武器、防具もボコボコじゃし、二束三文にしかならなさそうじゃ」
ふぅ、と溜息。
とは言え、荒れ放題の彼の部屋をそのまま放置しておいては……メイドさん達が片付けるのも大変だろう。
主を失い、存在意義が無かろうとも……取りあえず出来る限りの部分でヒールグラビティを使い、修復する。
そして一通りヒールをし終えた後に、ルチアナが。
「シャイターン流の歌と踊りが、慰めになるといいのだけど」
と、倒したエインヘリアルに向けて鎮魂歌を捧げる。
……そして、一通り片付けを終えると共に、メルナーゼや蓮は避難させていた、屋敷仕えのメイドさん達の所へと向かう。
「もう大丈夫なのだよ、メイドさん!」
何処か小動物の様に声を掛けると、安心した様で……嬉しそうな声を上げる。
しかし……主人が居なくなってしまったのでは、彼女達がここで働き続けるのは難しいだろう。
「大丈夫ですよ。これから先に逝くべきところの保険協会を、ご紹介致します」
と言うと共に、使用人達の今後の働く先の世話も見る。
……そして使用人の対処も終わり、建物を後にするケルベロス達。
「しかし……元凶となるシャイターンは健在……ですか」
とカンナが呟く通り……まだ、シャイターンは存在している訳で。
「そうね。どうにかして、尻尾を掴まないと……同じような人が、又現れかねないわね……」
……シャイターンの行為を止める為には、元凶を断たなければならない訳で。
その日まで、ケルベロス達は一つ一つ、対処していく他にはなかった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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