夜桜酔宴

作者:東間

●招かざる異邦人
 心地良い風の吹く夜だった。
 しかし道のど真ん中に巨躯が出現した時、その心地良さは霧散する。
 歩いていた人々は悲鳴を上げて逃げ出した。車やバイク、自転車に乗っていた人々も、現れた巨躯が何なのか認識した瞬間、全速力でその場を離れていく。
「タンマタンマ。行っちゃうとか無しでしょー? ガズ君かなしーんですけどー」
 遠ざかっていく人々を見送る声は残念そうだが、表情にあるのは愉悦だった。
 握りしめたままのゾディアックソードに力が込められ、光を放ち始める──が、すんっ、と鼻が鳴った瞬間、金の双眸はゆっくりと一点を見つめた。その先にあったのは、淡く輝く薄紅色の蓋。
「何だあれ。いや何でもいい。あっちだ、あっちから酒の匂いがする! それと大量のグラビティ・チェイン! ハハッ、俺を罰した奴らは間違いなく糞だがこいつぁ最高だ!!」
 どっちも俺が喰らい尽くしてやる──!
 獣のような宣言の後、ズシンズシンと派手な足音が響いた。

●夜桜酔宴
 コギトエルゴスム化から解き放たれた罪人エインヘリアルが事件を起こす。
 その事件とは勿論『殺戮』であり、罪人を解き放ったアスガルドには、地球の人々にもたらされる恐怖と絶望で、地球で活動しているエインヘリアルの定命化を遅らせる──という狙いがあるのかもしれない。
「だからといって、罪人を押し付けるのは勘弁してほしいものだが」
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は呟き、報せを持ってきたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)に目を向けた。
 頷いたへリオライダー曰く、罪人エインヘリアルが嬉々として向かった先では花見酒祭りが開催されており、それはもう大変な賑わいなのだという。
「何せ世界中から集められた名酒ばかりだからね。種類と量も半端ないんだ」
「それは興味深い話だな」
 そして世界中の名酒を味わえるのが、夜空を隠してしまうほどの桜が広がる公園──とくれば、大賑わいも当然というものだ。
 見上げれば夜桜の天井、遠くから見れば桜色の蓋。そんな場所な為、会場にいた人々はエインヘリアル出現に気付くのが遅れるらしいが──。
「桜に罪は無い。無論、酒もだ」
 ルースがそう言うと、ラシードがうんうんと同意を示した。
 現れるのは『ガズ』と名乗る1体のみ。装備しているゾディアックソードから放たれる斬撃と獅子座のオーラは重く、更には守護星座を描いて自身を癒しもする。
「出現地点は会場に通じる大通りのど真ん中。広さ、周囲の明るさ共に問題は無いから、思い切りやってくれ」
 会場と出現地点の間には約100メートルある為、ガズが現れてすぐ大量殺戮開始、とはならない。人々が避難出来るよう、その場で迎え撃つのが良いだろう。
 大通りで撃破出来たなら、花見酒祭りは再開される筈だ。
 溢れるほどの夜桜の下、集められた美酒に酔いしれる──それはきっと、良い夜になる。
 ルースは口元に笑みを刻んで、集まった仲間達に目を向けた。
「夜桜と酒と、命。全て、守らねばな」


参加者
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
泉宮・千里(孤月・e12987)
ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)
美津羽・光流(水妖・e29827)
月井・未明(彼誰時・e30287)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)
フェリル・アルヴァニスタ(ノブレスオブリージュ・e41228)

■リプレイ

●火蓋
 ズシンズシンと響いていた足音がリズムを崩し、止まった。
「グラビティチェインをツマミに飲む気か? 趣味の悪い奴だな……酒が不味くなる」
 届いた声。行く手を阻む9つの影。
 エインヘリアルの罪人・ガズは首を傾げてから、ニタァと嗤った。
「逃げねーってこたぁケルベロスか。あっちの前にアンタらから殺すってのも──」
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)の投射した一撃が言葉を遮り、凄まじい勢いで巨体を浸食する。
「ヒト科の流血は手術台の上だけで腹一杯なんだよ」
「ハシャぎたい気持ちはわからんでもないガ、おあずけダ。お前が飲むのは敗北の苦渋ってやつサ」
 直後、ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)の放った幻影竜の炎が周囲を赤く照らす。巨体を呑み込んだ炎の傍、螺旋の軌跡と共に手裏剣が舞った。
「んなデカい得物振り回されたら花が散ってまうやん」
 美津羽・光流(水妖・e29827)の繰り出した一撃に続いた泉宮・千里(孤月・e12987)の軌跡もまた、螺旋。
「野蛮な馬鹿騒ぎ起こす輩は、静めにゃなるまい」
 『月に叢雲、花に風』にあるような自然の定めなら未だしも、このガズのような悪意に荒ぶ大嵐など無粋も無粋。
 千里の奮った手裏剣はガズの体を切り裂きながら剣の刃も砕いていき、アスファルトを駆けたユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)が巨体に『迦楼羅炎掌』を叩き付ければ、地響きに似た音が木霊した。
「っ……あーもー、ちまちまとうるせー」
 瞬間、ガズの足下で獅子座が煌めき、光流は少しばかり目を丸くする。
「はあ獅子座かいな。奇遇やな俺もや」
 全然嬉しくない空気を漂わすその後ろ、鮮やかな橙目に映るのは巨体にもたらされた加護。翼猫の梅太郎が起こすそよ風が前衛を包む中、月井・未明(彼誰時・e30287)は神殺しのウイルスを放つ。
「祭の席で血の雨は無粋というものだろう。……おれは呑める歳ではないけれどな」
 そうなるまで、あと6年。いつか来る歳の前にと放ったウイルスは、癒し阻む力と共に染み込んでいき──その様を見ていたルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)が星辰の剣を手に突っ込んだ。
「砕かせてもらうぞ」
 星の重力纏う斬撃が獅子座の加護を砕いた瞬間、ガズの眉がぴくりと跳ねる。不快感が覗く笑みを浮かべ、1歩踏み出してきた。
「何だよもー、酒とグラビティ・チェインが待ってるってのに……おっとぉ!」
 慌てて角度を変えた星辰の剣にビシリと突き刺さったのは、おそらくは路傍の石だろう。飛んできた先を、自分をニヤニヤと見るガズの視線を、フェリル・アルヴァニスタ(ノブレスオブリージュ・e41228)は真っ直ぐ受け止めた。
「通さないよ。今日は優雅な桜祭りの祭典。破壊と殺戮の限りを尽くす罪人など御呼びでは無いのでね」
 幸い此処に人々はいない。
 だが、薄紅の蓋の下には──未だいるのだろう。

●宴の前に
「そっちの都合なんざ俺に関係ねーんですけどー」
 欠けていた刃が僅かに戻り、獅子のオーラが地面を滑るように駆けて後衛に襲いかかる。フェリルと光流は反射的に身を翻し、肌の一部を氷に覆われながらも、しっかりと立つ仲間と入れ替わるように、ルースは逆方向──ガズへと斬撃を放つ。呪詛を孕みながらもその軌跡は美しく、同じカタチ描く傷が巨体に刻まれれば、赤い瞳がじろりと見下ろしてきた。
「此方の都合は関係ない、か。奇遇だな。俺もだ」
 名酒集う夜を荒らす奴の都合など、知った事か。
 続いたのは、ボタボタ落ちた血の上を疾く駆け迫る体。繰り出された攻撃。見えていたそれが偽りだと気付いた瞬間ガズは巨体を反転させたが、反転させた先から刃が突き刺さる。
「ッ、糞が!」
「空気を読めヨ、アウェー君。お前は宴にゃ呼ばれてないゼ!」
 口を三日月のようにして離れたヴェルセアへ、ガズが声を上げ嗤った。
「言ったろ、都合なんざ関係ない。俺は行きたいと思った場所に行くし、殺りたいと思ったら殺る。誰が何と言おうとな!」
「……狂気と言う名の安酒に溺れる程度の輩に、この場は相応しいとは言えぬだろう。花ではなく己が命を散らすがいい、無粋な輩め」
 ルイは一切の礼を排し、体から黒の残滓を解き放つ。一気に広がった黒は巨体を丸呑みにし、そこへ光流の掌が重なって螺旋が爆ぜた。
「せやんなぁ。あんなんと酒の飲み比べで勝負……ってわけにはいかへんやろな。早めに片してまうか」
 最初の一手も、今も──その後も、ガズへ刻んだのはダメージだけではない。それを、攻撃を受けてきたガズは理解しているだろう。しかしニヤニヤ嗤いながら星辰の剣を構え直し──ちろり、と舌なめずり。
「早め、ねえ。なあ、お前らも酒をかっくらう前にちょっと摘んだりするだろ? 俺にとっては今がソレってやつ」
 禍を重ねられ、数で負けていても嗤い続ける巨体。ふ、と千里は気怠げに笑って──瞳の奥にあった鋭さを強くする。
「そんなに食らいてぇなら、たんまり食らわせてやるさ――浴びる程の酒ならぬ、攻撃を以てな。悪食にゃこれで十分だ」
 ひゅ、と放った暗器はガズの目前で消え──幻惑の焔が一気に咲いた。それはその色を騙る程に冷たい。
「ッ、あ、糞! 何だコイツ!!」
「悪ぃな、ヒールは頼むぜ」
「大丈夫だ。梅太郎、一緒にやるぞ」
 千里と未明は暴れるガズを放って言葉を交わす。
 薬液の雨と羽ばたきが生むそよ風が前衛を優しく包み込み、重ねられた加護と共に氷が溶けて消えると、フェリルは礼を伝える笑みを浮かべてすぐユリスと頷き合った。
 小さな体が繰り出した蹴りは電光石火の刃となって巨体を貫き、がくりと揺れた巨体に大口を開けた『黒』が迫る。大津波のように巨体を呑もうとした瞬間、ガズの方が僅かに早く動いた。
「やべーやべー、ガズ君まぁた喰われるとこだった」
「なら、これでも喰らうんだな」
 問答無用で喰えといわんばかりの空気と共に、ルースは再度殺神ウイルスを叩き込む。
 巨体が傾き──剣の切っ先がアスファルトに突き立てられ、ケルベロス達を見る目はマグマのようにぎらついていた。

●散る
「糞、糞が! 自由になったってのにコレか!!」
 ケルベロス!!
 憎悪を滾らせた声が響き渡り、蹴られたアスファルトが陥没する。重力を宿したからか、剣が一瞬陽炎のように揺らぎ──振り上げられてすぐ、フェリルの脳天目がけ落ちてきた。
「──!」
「あかん!」
 間に飛び込んだ光流は、激突する直前に刀身に走っていたひびが広がったのを見た。直後に全身を襲った衝撃は、想像より幾らか軽い。剣に刻まれたひびや穴が威力を削いだのだ。
 助かった。が、クラッシャーであるガズの攻撃は侮れない。頭の上で空間を真一文字に切り裂き、溢れだしたあかね色の光に包まれながら巨体を見据える。
(「侵攻ちゅうかこれ、エインヘリアル的には単なる処刑のアウトソーシングやんな」)
 そう考えると嘆息も出るというもの。
(「せめて戦士として相手をしたる」)
 その目に映ったのは『Sunsetfire』を奮うヴェルセアの姿。ジグザグ形状に変わった刃が突き立てられ引き抜かれる度、怒り狂ったガズの声が響く。それを一瞬だけユリスが止めた。次元の狭間から掴み取った水晶剣が舞った、その一瞬だけ。
 血が噴き出す。悲鳴が響く。そこへ。
「貴方にお渡しできるものはこれだけ」
 お気に召して頂けると嬉しいのですが。
 フェリルの言葉と共に、星辰の剣と『指輪』煌めく手が閃いた。触れた瞬間始まった攻撃は、そう簡単にガズを解放しない。
 幾度も切り刻まれた巨体をここで止め──護りたいものを、確実に護れるようにと、ルイも2振りの剣に魔力を宿らせ、幾度も奮う。鋭い斬撃は巨大な剣と激しい剣戟を繰り広げ、持てる力を込めたか、思い切り弾かれた。
「くそ……くそが……俺はただ、酒を飲んで、殺したかっただけ、だぞ……くそ……」
「素面で悪酔の如き言動たぁ、性質が悪いにも程がある。花見と酒宴に水差す罪は重いぜ、悪党」
 声は途切れ途切れだが、言っている内容は相変わらず。千里は手にした日本刀をくるりと回し、笑った。
「成敗、なんて柄じゃねぇが、今は佳い花と酒の為、さっさと処しちまおう」
「全くだ。酒の席で暴れるのは頂けないな。ましてや祭はハレの席だ、暴れて壊すのは無粋の極みというものだろう」
 未明の腕を、魔法の杖から姿を変えた小動物が伝い上る。
「勝利の美酒はテメェにゃ遣らぬ。失せな」
「おまえは、ここより先には行かせない」
 稲妻が奔り、魔力に満ちた小動物が駆ければ、巨体に穴が開いて。
「受け取れ」
 ルースの力が体幹を砕き、思考を折る。ガズが『どちら』を受け取ったかは──最期を迎えた当人にしかわからない。巨体は倒れ伏し、動かなくなる。それを数秒確認してから、ルースは後ろを見た。
「しかしながら純粋に酒を楽しむ祭りとは」
 主催者はよくわかっているようだ。
 遙か向こうに見えるのは──夜風に踊る薄紅色。

●宴
 ガズの骸は消え失せ、道路に残った戦いの痕もヒールグラビティで薄れ幻想へと変わった。
 千里の一報で再び幕を開けた名酒集う夜。笑顔と談笑がさざ波のように広がる中、フェリルは建ち並ぶ屋台を見て少し考えた後、未明とユリスに笑顔を向けた。
「奢りますよ、私の方が年上ですし」
「なんと、ご馳走していただけるのですか? ありがとうございます。それじゃあぼくはしゅわしゅわのやつがいいですね」
 しゅわーっと気持ちを入れ替えるのですとユリスが笑う横、どれがいいですかと訊かれ未明は考えた。確か、未成年の飲酒は背が伸びなくなると言われている。
「ガキどももちょっとくらいはいいだろウ? 俺のクニじゃ子どもも大人の飲み方を真似て酒を覚えるもんダ」
「学ぶ姿勢は大事でしょうが、未成年に勧めるのは頂けませんねヴェルセアさん。大人になってからの楽しみを奪うものでもないでしょう」
「――あァ、わかったわかった悪かっタ! お堅いなァ。若いうちに適度な楽しみ方を知っておくべきだと思うゼ?」
 けらけら笑う男と、困ったように微笑む男。2人の会話をBGMに、別の声が降った。
「確かガキにピッタリの酒があったろう」
「……甘酒ならご相伴に預かろう」
 身長差、約30cm。じろりと見てくる未明に対し、ルースは涼しい顔だ。彼女から貰った小遣いで体力満タン、紐の緩さはいつも以上の財布を片手に、目に付いた屋台へスタスタ向かう。
「1杯くれ」
「氷はどうなさいます?」
「要らない。そのまま寄越せ」
 受け取った1杯は、口を寄せればその香りだけで酔えそうな澄んだ日本酒。ぐいっと呷ったら次の銘柄を味わい、また次へ。制覇していく酒が美味ければ、記憶力がしっかりと刻むだろう。
 片っ端から楽しんでいくルースと同様にヴェルセアも口の端を上げた。
「へェ、こいつは酒の見本市カ? 俺は味にうるさいゼ? なにせ怪盗だからナ」
 が、酔っぱらいにはいい思い出無し。かつ、飲み方は心得ている。ここを蹂躙しようとしていたエインヘリアルとは違い、ヴェルセアの行く先々にいた屋台の主は、みな笑顔だった。
 夜はバーになる喫茶店の店長代理兼料理人であるルイも、そのままの風味を知るべく、氷抜きで1つずつ味わっていく。
「ふむ。さっきの銘柄は単体で味わうのに向いていましたね。その前のものはどの料理に合わせましょうか……」
 次の屋台で出会ったのは、料理や製菓に一工夫与えてくれそうな名酒。浮かんだものをメモした後、グラスの中を満たす酒越しに夜桜を見て微笑んだ。ほのかに色付く酒の中、満開の桜がゆらゆら踊る。
「先輩らもいけるクチやな、飲みっぷりが気持ち良ぇわ」
 後ろからの声に振り返れば、先程まで共に戦っていた仲間の姿。光流が見つけたのは深い琥珀色。笑顔で味わうその様にルイも笑み、光流の隣に視線をやる。
「先輩『ら』という事は……」
「俺は気儘に色々と楽しんでるだけだが?」
 千里はくつりと笑い、赤ワイン揺れるグラスに口をつけた。途端、芳醇な香りが広がり、唇が弧を描く。
「さて」
 人々に刻まれかけていた罪人への恐怖がどうなっているか。花を眺め、酒を口に含む表情を見れば、すぐにわかった。
「酒に溺れんのは御法度だが、花には何れ程溺れても良いってもんだ」
 さながら、頭上に広がる夜桜は春の水面。その光景がグラスを満たす赤に映れば。
「――こりゃ格別さな」
「ええ、本当に」
 酒単体でも良いものだが、こうして桜と共に味わうのはまた格別。
 ルイ達の言葉に光流はぼんやり頷く。この自分好みの酒はそこまで強過ぎるものではなない筈なのに、まるで酔ったよう。降ってきた花弁を手で受け、1枚の春へ唇に寄せ──笑う。
「……あかん」
「どうした?」
「酔い過ぎたみたいや。花でも酔うんやな。氷もらいに行ってくるわ」
 『春の中で見たあの人』で火照った顔と動悸。それから──好きの気持ち。これはきっと、氷でも冷めないだろうけれど。
 永遠に在りそうな夜桜。降りしきる花弁。フェリルが刻むシャッター音を耳に、未明にお酌されたユリスはふむふむと頷いた。
「そう言うマナーもあるのですね。そういう事を色々勉強して、大人になったらフェリルさんにするです」
「楽しみにしていますね」
「しかし、見事な桜だな。花がつまみというのも風情があるのではないか」
「そうですね。あと何枚か撮りましょう」
 綺麗な夜桜は今日の記念。微笑むフェリルと同じように、酒を味わう人々も笑い、語り合っている。目に映る光景は未明の表情を変えないが、少女の心は確かに弾んでいた。酒は憂いを掃う玉箒──賑やかしいのも頷ける佳い夜だ。
「ところで」
「なんダ、案外酒に弱いんじゃねぇかドクター?」
「酔ってねーしバーカバーカ。俺の尻と勝負とはいい度胸だ」
 ヴェルセアのヒップアタック! ルースはよろめいた!
 ルースの反撃! 煽られていたので攻撃力アップ! 酒の落とし前はきっちり回収!
「……大人組は仲良くしなさい」
 未明は見守る事にした。確か『酒を零すか1歩でも動いたら負け』という酒片手の手押し相撲もやっていた気がする。あの時は光流が勝負を囃し立て、零れた酒にルースが『何をしているんだ愚鈍な奴め』と怒っていたような。
 ほろ酔い大人組が繰り広げる勝負は居合わせた人々の目にも留まり、頑張れ兄ちゃんだの、勝った方に1杯奢る煙草を賭けるだのという声が飛び始める。
 ──と、ぼやけた色が視界に落ち、鼻の頭に感じたくすぐったさ。ふっ、と一息で飛ばしたルースの目に映ったのは、ひらりと舞う花弁1つと無限にも思える桜色。
「……花? ああ、見てる見てる。美しいなぁツマミにピッタリだなぁ」
 今宵の酒宴、そう簡単には終わらなそうだ。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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