オ答エシマス!

作者:麻香水娜

●予想もしない出来事
 午前3時――。
 寝静まる閑静な住宅街にも24時間営業のコンビニエンスストアの明かりは煌々と輝く。
 中では従業員が雑誌の棚で何かの作業をしているようだ。

 カタカタ……カタカタ……。

 入り口にあるゴミ箱の中から小さな物音がする。

 ギシギシ……バーン!!

 金属製のゴミ箱の内側から何かが破裂するような大きな物音が響いた。
 そして、壊れたゴミ箱からノートパソコンのような――それより2回りくらいは大きな、元は電子辞書であったダモクレスが地上数十cmをふよふよ浮いている。
『お答エシマス!!』
 機械的な音声を上げたダモクレスは、煌々と灯りのつくコンビニのドアをブチ破って侵入した。

●コンビニはゴミ箱ではない
「コンビニに家庭ゴミを持ち込むのはどうかと思いますが、更にビン・カンを入れるゴミ箱にそれ以外を入れるのはどうなのでしょう」
 眉間に皺を刻んだ祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が溜め息混じりに吐き出す。
「コンビニはゴミ箱じゃないのにね」
 ラッセル・フォリア(羊草・e17713)も苦笑しながら同意した。
「……まったくです」
 大きな溜め息を吐いた蒼梧が説明を始める。
 なんらかの原因で真っ二つに割れてしまった電子辞書がコンビニのゴミ箱に捨てられており、それがダモクレスになってしまう、と。
 捨てた本人も燃えるゴミではないという認識はあったのか、ビン・カンを入れるゴミ箱に捨てていたようだ。
「まず、最優先すべきなのは、このコンビニの中でお仕事をしている従業員男性の安全です」
 幸いにして客はいないようだが、従業員男性が作業をしている。ダモクレスが真っ先に狙うのが彼だ。
 更に、時間が時間であるが、客が来ないとも限らない。人払いの対策があった方が安全だろう。
 このダモクレスは、ガトリングガンを内蔵しており、文字の形をした弾丸や光線を発射して攻撃してくる。
「……ノートパソコンっぽくても辞書なんだ……」
「そういう事ですね。コミカルな攻撃をしてきますが、非常に動きが早いです。気を抜かぬようにお願いしますね」
 思わずラッセルの漏らした一言に蒼梧も苦笑を浮かべ、すぐに表情を引き締めた。
「このコンビニに捨てた方の責任もありますが、それで無関係なお仕事中の方、ひいては近隣でお休み中の方を虐殺させるわけにはまいりません。被害が出る前に撃破をお願い致します」


参加者
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)

■リプレイ

●お仕事中失礼します
 コンビニの自動ドアが開き、来客を告げる軽やかな音が響く。
「いらっしゃいませ」
 本棚の傍で作業中だった従業員が顔を上げると、来店した2名の客が自分の方に真っ直ぐ向かってくることに首を傾げた。
「こんな夜更けのお勤めご苦労様です」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)が明るく笑いかける。
「実はな──」
 恭介の後ろからダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)が隣人力を使いながら静かにこれから起こる事を説明した。
「被害を避ける為にも、店奥への移動していてもらえないだろうか」
「あなたの事も、お店の事も必ず守ってみせますので、お願いします」

「紙の辞書でも古本屋に売れるご時世なのに、電子辞書のポイ捨てとかモラル以前の問題だよねー」
 ラッセル・フォリア(羊草・e17713)がキープアウトテープを取り出しながら零す。
「まったくだ。ちゃんとゴミの分別とか守らねぇからこういう面倒な事になるんだ」
 同じくキープアウトテープを手にしたティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)もうんざりしたように同意した。
「ま、嘆いてても始まらねぇ。私は向こうから貼ってくるぜ」
「だね。じゃあオレはあっちから貼ってくるよ」
 パっと切り替えたティリルが指した方向に足を向けると、ラッセルも反対方向に小走りに向かう。
「……今回のダモクレスは電子辞書らしいですが、こんな時間に勉強したって身に付かないのです」
 先程まで欠伸を噛み殺していた機理原・真理(フォートレスガール・e08508)がインソムニアを使って意識を覚醒させた。
「普通は寝る時間だしね」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は同意して、やれやれと肩を竦める。
「それにしても、何でもダモクレスになるもんでござるなぁ」
 エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)がぼそりと漏らした瞬間、

 ギシギシ……バーン!!

 金属製のゴミ箱の内側から何かが破裂するような大きな物音が響き、ノートパソコンのような大きさになった電子辞書──ダモクレスが現れた。

●質問攻め
「さあ喧々囂々侃々諤々の肉体言語を交わそうじゃないか。……ちなみにこの語源はなんだったかな?」
 注意を惹く為に、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)がダモクレスに向けて声をかけてから店から離れるように少しずつ後ずさる。
『ケンケンゴウゴウ、大勢ノ人ガヤカマシク騒ギタテルサマ! カンカンガクガク、正シイト思ウコトヲ堂々ト主張スルサマ。盛ンニ議論スルサマ!』
 ダモクレスは文字を表示させながら、その画面から鐐に向けてエネルギー光線を発射した。
「く……そうだ、こっちにくるんだ」
 巨体でしっかり攻撃を受け止めながら、仲間達の位置を確認する。
「一気に攻めるですよ……!」
 鐐に注意を向けている今だと、ダモクレスの背後から真理が超加速突撃で一気に距離を詰め、仕込みナイフで斬りつけ、次の瞬間、ライドキャリバーのプライド・ワンが、炎を纏って側面から突撃した。
『!?』
 突然の連携攻撃にダモクレスが改めて周りを確認する。
『ケルベロス……』
 5人のケルベロスを確認し、警戒を高めた。
「些少ではあるが、援護させてもらうとしよう」
 鐐がその巨体から吼えるように力強い賛歌を歌い、自らの傷を癒しながら前衛を奮い立たせる。その足元にボクスドラゴンの明燦が駆け寄ると、属性を注入しながら傷を癒した。
「さて……」
 翔子は攻撃を受けた鐐の状態を確認して問題なさそうだと判断すると、光輝くオウガ粒子を放出して前衛の仲間達の超感覚を覚醒させる。そこへボクスドラゴンのシロがブレスを吐き出した。
『!!』
 しかし、警戒を高めていたダモクレスは右側へと高速移動してブレスを回避。
「ヘイ辞書! お前を消す方法を教えるでござるよ!」
 鐐の更に後ろからエドワードが誘導するように声をかけながらごぼうを振り回し、ごぼうに生る黄金の果実をばら撒いて、その光で後衛の仲間達を進化させる。
「ありがとね」
 エドワードに微笑みかけたファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)は、返礼とばかりにオウガ粒子を放出して中衛の超感覚を覚醒させた。
『ソンナモノナイ!!』
 ダモクレスは背面から大量にミサイルを後衛に向けて発射する。
「そうはさせないのです」
 真理がファランの前に立ちはだかり、鐐は両手を広げて大きな体に翔子を隠した。
「助かったよ」
「ありがとね」
 ファランと翔子が礼を口にする。
「怪我がなくて良かったです」
「無事で何よりだ」
 体のあちこちにミサイルを受け、小さな痺れがそこら中に走る真理と鐐は安心させるように頼もしい笑みを広げた。

●総攻撃
『!?!?』
 突如背後から月光斬と呪怨斬月を受けたダモクレスが体の向きを店の方へ向ける。
「最近の辞書って音声も出るんですか? 夜中にうるさいわぁ……」
「問おう。『死』の意味は何か」
 店の入り口から恭介とダンドロが避難を終えて、同時に攻撃したのだ。続いてテレビウムの安田さんが凶器を振りかざして突撃するが、これ以上攻撃を受けてたまるものかと、ダモクレスはギュイッと左側へ飛び退いた。
『死……生命ガ、ナクナル……』
 予想しなかった攻撃に体から小さな火花を散らしながらも、律儀に答える。
「捨てられし辞書、人ならば哀毀骨立するか? 廓然大公とはいかぬだろうな。はいそこ、簡潔に口語で意味を説明せよ」
 こちらへ向かって走ってくるラッセルとティリルの姿を入れた鐐が隙を作ろうと質問した。
『アイキコツリツ──、カクゼンタイコウ──」
 ダモクレスが鐐の出した四字熟語の意味を並べるも、『簡潔』とはいかず、僅かな隙が生まれる。
 今だ、とばかりに真理がチェーンソー斬りで傷口を広げながら叩き落とし、そこへプライド・ワンが激しくスピンしながらダモクレスを轢き潰した。
「はいはーい、物知りな君に質問です!」
 ラッセルの声が響いたかと思うと左側面にスターゲイザーが炸裂して重力の錘をつける。
「『ことわざ』と『慣用句』、詳しい説明をお願いしまーす!」
 軽やかに着地しながら笑顔で注意を向けさせた。
『コ、トワザ……教訓、マタハ風刺ノ意味ヲ含ンダ短イ言葉……カンヨウク、二語、以上ノ単語ガ結合……全体デ、アル特定ノ、意味……』
 ダモクレスは攻撃を受けて体勢を立て直しながらも律儀に質問に答える。その隙にと、ラッセルとは反対側から走りながら魂うつしを使うティリルも合流した。
「礼だ。受け取りな」
 翔子が前衛に雷の壁を構築して異常耐性を高めながら傷を癒し、明燦はプライド・ワンに属性インストールで傷を癒す。
 傷を癒されただけではなく体の痺れも取り除かれた鐐は猛突進して組み付き、シロが反対側から体当たりした。
「そろそろ当てにいくでござるよ!」
 エドワードはバスターライフルを肩に担ぎ上げると、フロストレーザーを放つ。
 するとファランは地面にケルベロスチェインを展開。前衛を守護する魔方陣を描いた。
『ケル、ベロス……邪魔、ユルサナイ……』
 ダモクレスは、組み付かれて自分の周りをうろうろする鐐に向けてエネルギー光線を発射する。
「……っ」
 鐐は、目論見どおり自分に攻撃してきた事で仲間の無事に小さく口元を緩めた。
「うちの安田さんのように文字の意味を教えられなくても、可愛さがあれば生き残れますよっ」
「プレゼントだ、受け取りなッ!」
 恭介の手から光る小鳥が現れダモクレスに向かう。同時にタイミングを合わせたティリルが空中に描いた大魔法陣から巨大な氷剣を召喚。光る小鳥を追うようにダモクレスに向かった。
 更にエドワードがワイヤーで拘束し、高圧電流を流し、
「断!」
 ダンドロがダモクレスの真上から一刀両断にする。
 4人の見事な連携攻撃により、縦に真っ二つになったダモクレスのあちこちから小さな爆発が起きた。ダンドロとエドワードはサッと後ろに大きく飛び退く。

 バーーーーン!!!!

「来世はアニメ辞典に生まれ変わるんでござるよーッ!」
 ド派手な音と共に砕け散るダモクレスに、エドワードが大きく手を振った。

●お騒がせしました
 ダモクレスが砕け散ると、ケルベロス達は周囲の損害を確認する。
「なるべく流れ弾がいかないようにしたつもりでも、やっぱ当たっちまうよなぁ」
 ティリルが溜め息混じりに店の壁にヒールをかけようと近付くと、
「いや、一応店員に修復してよいか聞くとしよう。出来るからといって何で勝手にやってよいわけではない」
 ダンドロが止めた。
「そうだね。幻想化しちまうし」
 ダンドロの言葉に翔子が頷いて、散らばったダモクレスの破片を集めだした。
 それに倣ってケルベロス達が掃除を始めると、ダンドロが安全になった事を告げるのと合わせて聞いてくると店内に入る。
「あ、ホウキとかチリトリ借りてくるのです。その方が早いです」
 真理も店内へと足を向けた。
「そういえば、電子辞書って何ゴミでしたっけ?」
 恭介が破片を拾いながら、ふいに口を開く。隣の安田さんも分からないのか、顔のテレビに砂嵐を表示させた。
「基本燃えないゴミでござるがリサイクルショップに持っていけば買い取ってもらえるでござるよ!」
 近くにいたエドワードが自信満々に答える。
「こんなバラバラになっちゃったらもう買い取ってもらえないよね……D君……」
「D君?」
 ラッセルの呟きに鐐が首を傾げた。
「あぁ、またかい? ダモクレスに名前つけんの」
 以前もダモクレスの事件の際に名前をつけていたのを思い出したファランが苦笑する。
「もうクセになっちゃって。ディクショナリーだからD君」
 ラッセルはへらっと笑った。

 少ししてダンドロと手に掃除道具を持った真理が店から出てきた。
「ヒールは是非お願いするとの事だ」
「散らばってる欠片はこの袋に入れるです」
 ダンドロが仲間達に声をかけると、真理が燃えないゴミの袋を広げる。
 傷付いてしまった壁や削れてしまった駐車場のアスファルトを手分けしてヒールを施すと、あっという間に──多少幻想化してしまったものの、元の姿に戻った。
 ラッセルとティリルは自分の貼ったキープアウトテープを外しにいき、拾い集められた破片は燃えないゴミの袋にひとまとめにされる。
「っと、これで終わりかね」
 翔子が一息吐きながら周囲を見渡した。
「だな。ったく、こんな夜中にドンパチさせやがって、近所迷惑もいーとこだぜ」
 テープを回収して戻ったティリルがうんざりしたように吐き出す。
「ほんとだよね。っと、折角だから何か買って行こうかな」
 同じくテープの回収が終わったラッセルも苦笑混じりに同意し、店内へ向かった。
「あ、この店にはクジあるでござるかな~」
 ふいにエドワードが何かを思い出したらしくラッセルの後を追うように店内へ向かう。
「私もビールとおつまみでも買ってこようかな」
「深夜に面倒をかけてしまったしな。わたしも詫びとして茶でも買っていくかの」
 鐐とダンドロも店内へ入ると、結局他のケルベロス達も買い物に向かった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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