城ヶ島強行調査~何かひとつでも

作者:あき缶

●ひしめくドラゴンの只中へと
 香久山・いかる(ウェアライダーのヘリオライダー・en0042)は、ヘリポートで難しい顔をしていた。
「鎌倉奪還戦の時から、ドラゴンは城ヶ島を拠点にしては、配下のオークやドラグナー、竜牙兵をこっちによこしてるわけやけど」
 多数のドラゴンが生息する拠点である為、城ヶ島は現在まで攻略する事ができなかったが、ケルベロス達の作戦提案により、遂に、強行調査が行われる事になった。と、いかるは告げる。
 それを聞いて、榊・凛那(神刀一閃・e00303)はぐっと拳を握りしめる。あの島を、いつかは攻めたいと思っていた。
 この危険過ぎる任務を受けると告げたケルベロス達に、詳細がヘリオライダーから伝えられる。
「城ヶ島を正面から攻略するんは危険過ぎるさかい、小規模の部隊を多方面から侵入させましょーっちゅうことになったんよ」
 一部隊だけでも島の内部を調査できれば、攻略のための作戦を考えることができるだろう。
 ドラゴンが多数生息する島の中にヘリオンで直接降下は自殺と同義である。したがって、ケルベロスは、三浦半島南部まで移動した後は、各自で作戦を立て、島へと潜入しなければならない。
「もし、敵に発見されたとしたら、多分相手はドラゴンやろうな。つまり、めっちゃ強い。たとえ勝てても、次のドラゴンと連戦や。無理はせずに、撤退すること。僕との大事なお約束やで」
 戦闘になれば、調査は諦めざるをえないだろう。
 仮に戦闘となった場合は、出来る限り陽動し、他の調査班に注意を向けないように振る舞うことが推奨される。
「……調査班全員でのチームワーク、やからな。陽動や戦闘も大事な任務やと思います。なんかひとつでも、成果があるって、僕は信じてるで」
 そう微笑むいかるは、ケルベロス達に信頼の眼差しを向けるのだった。


参加者
猿・平助(申忍・e00107)
榊・凛那(神刀一閃・e00303)
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
テオドール・クス(渡り風・e01835)
エレオノーラ・ウィンダム(剥がれ落ちし翼の欠片・e03503)
月白・灯(オラトリオのミュージックファイター・e13999)

■リプレイ

●竜の下をかいくぐり
 水中を行くケルベロス達は、上空が騒がしくなったことに気づいた。
 様子をうかがいたい気持ちはあれど、水面に顔を出せば気づかれてしまう。
 潜水を選んだケルベロスは水上を見上げるだけに留めた。
 彼らの目に映ったのは、自分たちよりも速く島へと全速力で向かっていた小型艇が、何故か自分たちとは逆方向にすれ違っていく光景だった。
 互いに顔を見合わせ、疑問符を交わす。
 ――まさかドラゴンに襲われ、撤退中か。
 潜水している彼らには、水上のドラゴンの群れの凄まじさはわからなかったが、一体でも狙い撃たれれば危険であることは、わかる。
 彼らの無念を想い、せめて無事で帰還して欲しいと祈りつつ、ケルベロス達は島へと急ぐ。
 水中のドラゴン等の姿が見えないのは、皆あの船のほうへと向かったからだろうか。ならば、一同はあの船の犠牲によって救われたということになるだろう。
 ケルベロスが目指す先は島の北側にある清水……水垂れである。
 ごつごつとした断崖がそびえる地域まで泳ぎ着き、水中バイクや潜水具を目立たぬ岩場の陰に隠した一行は、誰も欠けていないことを確認した。
「他人の身だしなみを整えるのも、メイドの勤め……っと!」
 榊・凛那(神刀一閃・e00303)が水滴が痕跡になっては困る、と皆の服を綺麗にする。
「まずは第一段階クリアだね」
 テオドール・クス(渡り風・e01835)がヘラと笑った。
「ここからさきはドラゴンの巣、なんだよね……。どんな強敵だろうと、デウスエクスのやることを見逃すわけには行かないからね」
 エレオノーラ・ウィンダム(剥がれ落ちし翼の欠片・e03503)は片方の羽根をもいだデウスエクスという存在に対して並々ならぬ思いがある。テオドールとは対照的に彼女の表情は硬い。彼女の隣で、真っ白なウィングキャット、フェンリルがブルブルと震えて水気を切っていた。
「うん、まさかこんなに早く敵地偵察ができるとは思ってなかったけど、やるからには成功させよう」
 ケルベロス達の緊張と決意、覚悟を肌で感じている、凛那の声は真剣だ。頑張ろうね、と凛那は仲間たちの顔を順繰りに見回す。
 凛那の視線を受け、猿・平助(申忍・e00107)は無表情で一度深く頷いてみせた。
 逆にダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)は、少女の真剣な表情におどけたような笑みを返す。
「良いねェ、こーいうの。スパイアクション映画? 的な気分だよなっ」
「そうね。ドラゴンに乗っ取られた島に何があるか、興味あるのよね。決められた役割はしっかりこなすわ」
 調査よりも戦闘のほうがコーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)としては嬉しいが、チームの和を乱す気もない。それに、この調査を足掛けに、さらなる戦闘に関われるほうが面白いだろう。コーデリアの隣でミミックは、かぶりつく獲物を探して、ガチガチと蓋を開け閉めしていた。血気盛んなのは主と同じらしい。
「では、見つからない様に細心の注意を払って行くぞ」
 泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)が慎重に周囲を見回す。
「危険な任務ですけど……」
 不安げな月白・灯(オラトリオのミュージックファイター・e13999)だが、壬蔭の今のところ危険はないという合図を見て、意を決してドラゴンの拠点へ潜入すべく、細い細い道を歩き出すのだった。

●竜の護るものは
 朽ち果てそうな道をケルベロスは進んでいた。足場の悪い断崖の次は藪の中と言っても過言ではない薄暗い山道。逆に言えば巨体のドラゴンでは進んで来れそうもない場所である。上空からも、ここまで森が茂っていれば何も見えないだろう。
 逆に言えば、こちら側も見通しは最悪だ。灯は早々に双眼鏡を使うことを諦めた。周囲は木々ばかりで、双眼鏡を使っても草木が詳しく見えるだけだ。
 それに特殊な隠密気流を半数以上がまとっている。見つかる可能性は低かった。
 また忍者の家系であり狩猟服を着ている平助には、山道などさほど苦労する場所ではない。
 彼を避けるように植物が勝手に倒れてくれるからだ。するすると何でもないように平助は進み、彼が作った道が元に戻る前に、ケルベロス達が続く。
「さすが、平助だな」
 一目置く友人の活躍に、テオドールは感嘆の声をあげた。
 慎重な足取りは、普通に歩けばすぐの距離も相当な時間をかけてしまう。
 ケルベロスが目指す先は白龍神社だが、まだまだ道は遠いようだ。
「……おかしいな」
 先程から壬蔭は、事前に連絡をとりあうように約束していたサキュバスの女性に、メールをアイズフォンで送っているのだが、どうにも返信がない。
 戦いのさなかで反応できないか、それとも……?
 不吉な予感がよぎるが、壬蔭はぐっと邪念を追い払う。今は自分も敵地のまっただ中、他人の心配ができる立場ではなかった。
 凛那は壬蔭に『向こうのチームの状況はどうなってた?』と尋ねかけ、彼の様子に大体の事情を悟ると、眉をひそめる。木々を縫う風にのって喧騒が聞こえてくる。どこかではもう接敵して、激戦となっているようだ。
 戦いの匂いを感じ、ミミックがオーラを荒ぶらせる。
「もうあっちは派手にやってるようね」
 コーデリアはそんなミミックを見下ろし、うずうずするのは私もよ、と心のなかで呟いた。
「今のところは、こちらに異常はないね」
 エレオノーラは油断なく四方八方に視線を配りながら、呟く。
「敵さんもいないが、手がかりもなし、ただのハイキングって感じだな」
 ダレンはそんな軽口を叩き、いつもの癖で煙草をまさぐるも……湿気っていて使えなかった。がっかりして煙草のケースから手を離したダレンは、こっそり自嘲の笑みをこぼす。
(「吸えたとしても、そんな場合じゃなかったね。こりゃ」)
「もうそろそろでしょうか……白龍神社は」
 灯が呟き、ダレンはスーパーGPSで自分の位置を表示している地図を取り出す。
「そうだな、あっちだ……?」
 とダレンが指差した先を見て、ケルベロス達は目を見開いた。
「……すごい」
 凛那が思わず呟く。
 平助が難しい表情を浮かべる。
「護衛が三体もかよ。随分仰々しいな」
 神社を囲むように、ドラゴンが三体鎮座していた。
「これじゃ、これ以上近づくわけにはいかないね」
 八人で三体もの相手は自殺行為だ。テオドールは肩をすくめた。
「っ、今こそこれを」
 灯が今までただのお荷物だった双眼鏡を取り出した。
 そして覗く先に見えたものに、灯は息を呑む。
 それは――巨大な時空の歪みであった。

●竜の通る道
 順繰りに双眼鏡を覗き込んだケルベロスは、物陰に隠れて、今見たものについて話し合う。
 神社にあった巨大な時空の歪みは、幾つかの儀式的な石碑に囲まれていた。
「……あれはゲート、か?」
 壬蔭が口火を切る。
「あれは魔空回廊ってやつね。ゲートとつながっている回廊。でもあれは、珍しいことに完全に固定されてる。しかもすごく大きい。ドラゴンだって楽々出入りできそうだった」
 ヴァルキュリアの事件に何度も関わったことのあるエレオノーラは、あの歪みをよく知っていた。
「あたしが知ってるのは、開いたらすぐ閉じる奴なのに」
 エレオノーラは何かとんでもないことが起こりそうな予感に身震いした。
 テオドールが彼女を気遣うように少し距離を縮める。
「固定したほうが、安定して多くのものが運べるってことか? ふざけんな。ひとの星で、好き勝手させて、たまるかってんだよ」
 テオドールの声には怒気が含まれていた。
「つまり、城ヶ島はドラゴンの重要な前線基地なんだね」
 凛那はそう断定した。輸送するための道ができているなら、補給も無尽蔵だ。ここはドラゴンにとって、ただの居留地ではないのだ。
「それってさ、つまり、逆に言うとだな、あの魔空回廊つかえば、敵陣に大軍で乗り込めるってコトじゃね?」
 一同の話を黙って聞いていたダレンが言うと、平助は仏頂面でリスクを指摘した。
「おそらく、あの石碑で魔空回廊を固定してるんだろう。こっちが大規模戦争を仕掛けた途端、奴らは石碑を破壊して魔空回廊を閉じるだろうよ」
「……でも、そう簡単にアレは、閉じたりつなげたりできないんじゃないかしら? もし、簡単にできるなら、ケルベロスがいっぱいこの島に来ているのに、あんな風に三体も護衛を置いて、繋げ続けているわけないじゃない。私ならすぐ閉めちゃうわ」
 思案していたコーデリアは、平助の意見に反論する。
「確かに。護衛を配置するより閉めた方が確実だな。できれば閉じたくない理由があるのだろう」
 コーデリアの見解に壬蔭は納得して頷くと、続けた。
「とにかく、情報は仕入れた」
「ええ。これは有益な情報ですよね。早く戻って皆さんに伝えましょう」
 灯が言う。
 一同も同じ意見だった。これ以上調査するよりは、この巨大な魔空回廊という重大な情報をいち早く持ち帰ることが重要だと、全員が考えていた。
 ケルベロスは素早く帰路につく。

●竜の最期を
 ケルベロスが撤退しようと水垂れへと急いでいると、城ヶ島公園方向からメキメキと枝を折る音が聞こえてきた。
「身を潜めろ」
 音の方を見やった壬蔭が鋭く声を放つ。
「見つかったか」
 平助が仏頂面の眉間に皺を寄せた。
「……覚悟は、決めておかないとね」
 ごくりと喉を鳴らし、エレオノーラが呟く。
「ただで済むとは思ってなかったけど……! 決めたとおりにやるよ!」
 魔人を降臨させながら、凛那は戦闘態勢に入る。
 次の瞬間、森の木々をなぎ倒し、煌めく黒がそびえ立つ。夜のような体躯に凍りついたような翼を持つドラゴン――それは『凍星』と呼ばれる竜だった。
 既にどこかで一戦終えていたらしく、ドラゴンの体にはそこかしこに傷がある。
「やるしかなさそうね」
 コーデリアはケルベロスチェインを周囲に巻く。ミミックもガチガチと歯を鳴らして飛び跳ねていた。好戦的なコーデリアとて今回の任務が何たるかは理解している。できれば撤退したい。が、凍星は目の前の敵を逃すつもりはないらしいので、戦うしか無いのだ。
「スパイ映画の世界から一気にファンタジー世界へようこそだぜ」
 そんなダレンの冗句を吹き飛ばさんと、ドラゴンはあぎとを大きく開くと、蒼い息を放つ。
 周囲を凍りつかせる猛烈な吹雪だ。
 平助が両腰に差していた日本刀の柄を同時に握って抜き放つ。そのまま刃は空間ごとドラゴンを切り裂いた。
 ドラゴンとの戦闘となれば陽動に切り替えるつもりだったが、今は派手に騒いで他の竜に感づかれるとコトだ。なぜなら今、平助は重要な情報を握っている。情報を持った忍は、敵にかかずらうわけにはいかないのだ。出来る限り戦闘は最小限に抑えたい。
 続いてテオドールがナイフを握って跳びかかり、ドラゴンの傷を切り広げる。
「そこ、通してもらうぜ」
 ダレンの日本刀が閃き、月弧を描いてドラゴンを斬る。
 壬蔭の稲妻のごとき蹴りは、ドラゴンに避けられた。
「届いて、みんなに」
 灯の魂を込めた歌が響く。灯の羽根が夕日を思わせる色に光り、暖かな力となってケルベロス達に張り付いた氷を溶かした。
 斬霊刀に雷を宿らせ、凛那が水平に刃を構えて突進する。
 ずぶりと差し込んだ究極の刀が、ドラゴンの肉をも断つ。
 ミミックが待ってましたとばかりにドラゴンに食らいつく。ミミックが飛びついた直ぐ側が急に爆ぜた。コーデリアのサイコフォースだ。
 エレオノーラの時空を凍らせる弾丸とフェンリルのリングが、ドラゴンの夜空のような鱗をかすめていく。
 ドラゴンは今度は尻尾を強烈に薙いだ。
 自分も痛烈な攻撃を受けたテオドールだが、いの一番に幼馴染を気遣う。
「大丈夫か!?」
「う、うん。あたしは大丈夫!」
 くらくらする頭を押さえ、エレオノーラはしっかり頷いてみせた。翼と化した地獄が彼女の不退転の決意を示すがごとく燃え盛る。
 フェンリルの羽ばたきと灯の緊急手術が、エレオノーラをつなぎ留めた。
 ミミックが黄金をばらまく。コーデリアがケルベロスチェインを再び地面へと巻いて、前衛達を支える。
「いーかげん、帰らせちゃくれません、かねえっ!」
 凍星という夜空をつんざく紫電一閃。
 ダレンの剣戟は、ドラゴンにとって痛恨の一撃であった。
 悲鳴をあげながらよろめくドラゴンの足に、駄目押しとばかりにテオドールがナイフを押し込んだ。
 ズ、ズゥン……と地響きを立て、黒き竜が動かなくなる。
 きっと死んだだろう。だが弔う時間も勝利を喜び合う時間もない。
「行こう!」
 エレオノーラが叫び、ケルベロス達は大急ぎで城ヶ島から撤退するのだった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 28/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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