●うららかな春の日
のどかな川沿いにある小さな村。
柔らかな陽射しが降り注ぐ午後2時。
無人の廃屋にも春の陽射しは降り注ぐ。
──カタカタ、カタカタ……。
庭の奥にあった物置から小さな物音が響いた。
──バーン!!
物置の戸が内側から吹っ飛び、壁を壊しながら飛び出してきたのは、除雪機のような何か。
個人宅にあるのなら、家庭用で1人で使えるような小型のものであろうが、2,3人で押すのではないかというくらい横に広がっている。
『ユキー! ナクナレー!』
機械的な音声を上げたかと思うと、本体についているシューターから大量の雪を吐き出した。
●季節外れのダモクレス
「随分暖かい日が多くなってまいりましたね。まだ雪の降る地域もありますが……」
祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が説明を始める。
とある廃屋で、壊れて処分もされずに物置に入ったままだった除雪機がダモクレス化すると。
「うわー! 除雪機のダモクレスって強そう!」
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)が思わず声を上げた。
「そうですね。家庭用の除雪機というのは、1人で扱える小型のものですが、大分横に大きくなっていますし、そのまま轢かれてしまいそうですね」
小さく苦笑しながら、予知で見たダモクレスの姿を思い起こす。
「まず、周辺の状況ですが──」
物置のある庭はそれなりに広く、戦闘を行うには充分な広さだ。周囲には畑が広がり、民家は少し離れているが、周囲に誰か通りかからないとも限らない。人払いの対策はあった方が安心だろう。
「肝心のダモクレスですが、元が家庭用の除雪機ではありますが、横に広がっています。農業で使うトラクターを横にしたような大きさでしょうか」
「大きいねえ! 本当に強そう!」
蒼梧の説明に想像を膨らませたフィアが目を丸くする。
「そうですね、バスターライフルを内蔵していますし、非常に攻撃力は高いです」
続いて、雪を砕き集める螺旋状の刃で斬りかかってきたり、シューターからバスタービームや雪を発射してくる、と続けた。
「せっかく暖かくなってきて、もう出番はないであろう除雪機。持ち主がいなくなって壊れていたから引き取り手がなかったのでしょうが、ダモクレスになってしまうのであれば放置できません。しっかり廃棄処分してきて下さい」
参加者 | |
---|---|
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775) |
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573) |
八崎・伶(放浪酒人・e06365) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996) |
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183) |
●ここから先は立ち入り禁止です
「春なのに雪か……季節が遅かったのではないかな」
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)が、ぼそりと呟く。
「だが、この時期に雪とは風流じゃないか? 桜と合わせて見られたりすりゃかなり粋なんだが」
軽く周囲を見渡す八崎・伶(放浪酒人・e06365)は、そんな情緒は持ち合わせちゃいないだろうが、と苦笑した。
「除雪機をやっつけるなら、雪がすごい降ってるのかもと期待しちゃったのです」
しゅんと犬耳を垂れさせたリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)が残念そうに呟く。
「そうねぇ……桜もすっかり見頃だし、そろそろ除雪機は要らないわよねぇ」
項垂れるリリウムに苦笑しながらアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)が軽く溜め息を吐いた。
「くぁ、もう春だと言うのに何という場違いなヤツ! おk、そんなKYなぽんこつロボはヒナタさんが華麗に壊してやるのオチね~」
赤いペンぐるみに包まれた右腕を掲げたヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)が意気込む。
「その前に……」
伶が地図を広げた。全員がその地図を覗き込む。
「くぁ、んじゃワ~タシは、あの道に貼るのオチね~」
ヒナタは、鼻歌混じりに斜め前方の路地へと歩き出した。
「では、自分はあちら側に行ってきます」
「はーい! わたしは向こうに貼ってきます!」
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が控えめに口を開いて左方向へ歩き出すと、リリウムは元気に手を挙げて右方向へ小走りに向かった。
「あ、畑の持ち主さんが畑に入っちゃうのも危ないので、私は念のため畑の入り口封鎖してくるのです」
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)はユウマの向かった方向にある畑の入り口へと向かう。
「向こうはユウマくんとヒマラヤンちゃんが行くなら、あたしはリリウムちゃんをお手伝いしましょう」
アミルがリリウムの後を追いかけた。
「私は周囲を見回ってくるね」
にこっと微笑んだフィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)は軽やかな足取りでその場を離れる。
「俺はヒナタの方に行くか」
地図をしまった伶はヒナタの後を追った。
●雪が舞い
それぞれがテープを貼りながらの見回りを終え、廃屋の入り口に戻る。
「んじゃ行くか」
全員が戻ってきたのを確認した隆治が口を開くと、揃って庭へと足を進めた。
物置が見える位置でそれぞれ建物や木の影に身を隠す。
バーン!!
物置から飛び出したダモクレスは周囲にいくつものグラビティ・チェインを察知し、
『ユキー! ナクナレー!』
ヒマラヤンに向かってシューターから勢いよく雪を発射した。
「しまったのです!」
覚悟を決めたその瞬間、
「下がってくださいっ」
ユウマが飛び出し、片手で軽々と操る大剣を体の前で盾のようにして雪を防ぐ。
「大丈夫ですか? 防御はお任せ下さい」
振り向いて小さく微笑んだ。
「はい! ありがとうなのです!」
先程までは少し気弱で頼りなさそうだったユウマの頼もしい顔に笑顔で応える。
「寒ぃ……ナクナレつって雪降らすの矛盾だろ!」
「本当に……本末転倒ではないかな」
伶が腕を回転させてドリルのようにしながらダモクレスの右側から思い切り殴りかかった。更に伶の動きに合わせた隆治が反対の左側から挟み撃ちをするように煌く飛び蹴りを炸裂させて重力の錘をつける。そして正面からはボクスドラゴンの焔がブレスを吐き、2人がつけた傷を広げた。
「あ、レディ~スア~ンドジェントルメ~~ン!」
いきなり戦場に巨大なステージが現れたかと思うとその上にヒナタと子ペンギンが何匹も乗っている。
「ようこそ赤ペンさんのステキなステ~ジへ! さ~存分に堪能していって頂戴のオチね~」
踊りながら歌うその歌声が衝撃波となりダモクレスを強く打ち貫いた。
そこへ、ふわりと飛び上がったウイングキャットのヴィー・エフトが尻尾のリングを飛ばしてシューターをへこませる。
『!!』
ダモクレスは立て続けの攻撃にぐらりとよろめき、今のうちだとテレビウムのぽんこつ一号がユウマの前にとてとてと移動し、応援動画を流して傷を回復させた。
「ありがとうございます」
傷と共に雪を受け止め凍り付いていた手を溶かしてもらえたユウマが小さく微笑むと、ぽんこつ一号はモニターに笑顔の顔文字を表示させて応える。
回復されるユウマの傷の状況を確認したヒマラヤンは、まだ大丈夫だろうと九尾扇を一振りして、自らに妖しく蠢く幻影を付与させた。
「お返しですよ……!」
ユウマは手にした大剣で瞬時に連撃を叩き込み、右側のタイヤを徹底的に破壊する。
「あれが除雪機……でも雪が降ってないのです……! ダモクレスゆるすまじー!」
初めて見る除雪機に瞳をキラキラ輝かせたリリウムは、同時に期待していた雪が全然降っていない事への八つ当たりのように、左側のタイヤにスターゲイザーで重力の錘をつけた。
「一人だけ雪合戦ずるいよー! まずは……先手必勝っ!」
「あなたの雪もなかなかの威力だけど、あたしの氷も、結構冷えてると思うのよ?」
ビシっと指を突きつけたフィアはヌンチャク型にした如意棒で回転しているオウガに強烈な一撃を叩き付ける。タイミングを合わせて背後に回りこんだアミルは、氷の様に澄みきった刃で背面を大きく一線を走らせた。その周辺が絶対零度で凍りつく。主人達が攻撃してダモクレスの手が止まってる間にと、ウイングキャットのチャロがふわりと飛び上がって、その羽ばたきでユウマの傷を塞ぎながら前衛の邪気を祓った。
●火花が散り
ダモクレスのあちこちからバチバチっと回路がショートしているような小さな火花が散る。
『凍ッタユキ! 砕ク!』
雪のない地面であるが、オーガを高速で回転させた。先程のヒナタの歌と踊りから意識を外せなくなっていたダモクレスが、猛スピードでヒナタに突進する。
「ヘ~イ、カモ~ンぽんこ~~つ」
謎のポーズを決めたヒナタの前にぽんこつ一号が飛び出し、短い両腕を広げてがっちりオーガを体で止めた。
「ぽんこつちゃんカッコイイのです!」
体を張って主人を守るぽんこつ一号に、キラキラと瞳を輝かせたヒマラヤンがリングから光の盾を具現化して傷を癒しながら防護させる。光の盾と同じように浮遊したヴィー・エフトは、後衛に向かって羽ばたいて邪気を祓った。
「そっちが雪投げてくるってんならな、こっちはこうだっ」
伶が二振りの刀を振るい、空間ごと斬り裂く奥義を放つ。その後を追うように焔が箱ごとタックルした。
「ワ~タシは全然元気のオチね~」
軽やかに飛び上がったヒナタは、美しい虹をまとう急降下蹴りで更にダモクレスの気を引く。更にぽんこつ一号は手にしたハリセンで殴りかかった。
「行きます!」
ユウマが声を上げて仲間達にタイミングを知らせてから走り出す。
「これでどうだっ」
「機械には雷かしら」
「止まってって言ってるの!」
ユウマが急所を蹴り抜くと、隆治が高々と跳び上がり、ルーンアックスで高熱になっているマフラーを叩き割った。更にアミルが剣に雷を纏わせて神速の突きで装甲を貫く。そこへ機体を駆け上がったフィアが、オウガメタルで硬化させた拳を振り下ろした。
「このえほんはとってもとっておきですよー!」
絵本を取り出したリリウムはその中から大きな雪だるまを召喚する。
『ユキ!!』
集中砲火を受けてそこら中がへこんだり斬られてボロボロのダモクレスが、雪だるまには本能的にオーガを高速回転させて砕いて防御を試みた。雪だるまは果敢に挑むも組み合わせが不利すぎる。
「ああっ! 雪だるまさんが除雪されてしまいましたー!!」
しかし、雪だるまの健闘は確実にダモクレスの動きを鈍らせていた。
『ユ、ユキ……溶カスー!!』
ダモクレスは体中から火花を激しく散らしながらも、ベコベコにされたシューターからヒナタに向かってバスタービームを発射する。
「くぁ! 効かぬ~~~!!」
ヒナタが両腕を交差させてビームを受け止めた。
「これから休みに入るって時にこんな目に合うとは、お前もついてねぇなあ」
ボロボロになっても尚も攻撃の手を休めないダモクレスに哀れみの視線を向けた伶は、すぐにキッと見据え、
「もう休めよ!」
「これで、終わりだ!」
伶が左側からドリルのようにした腕で思い切り穿ち、隆治が右側からがっちり拘束して至近距離から思い切り攻撃を叩き込む。
「もう除雪機の季節じゃないから、大人しく壊されちゃってね!」
更にフィアがグラビティを込めた指先で宙にハート型を描き、現れたハートを押し出すように敵へ向けて飛ばした。伶と隆治は即座に飛び退いた瞬間、ハートが機体に当たり──、
ドカーン!!
大きな音と共に破裂して大爆発した。
「……」
ケルベロス達は警戒を解かぬままダモクレスを包む爆煙をじっと見つめる。
次第に煙が風に流されていくと──そこに現れたのはトラクターのようなダモクレスではなく、ボロボロになった家庭用の小さな除雪機だった。
●訪れるのは春の陽気
「少なくとも今年はもう出番はないと思うので、ゆっくり眠ると良いのですよ」
元の形に戻った除雪機に向かって、ヒマラヤンが静かに語りかける。その隣ではヒナタが煮干を齧りながら手を合わせていた。
「えと、無事に終わってよかったですね……!」
しんみりし出した空気を払拭しようと、ユウマが仲間達に精一杯の笑顔を向ける。
「あぁ。さて、廃屋といえど、誰かが使うかもしれない」
頷いた隆治は、周囲に光輝くオウガ粒子を放出してヒールに取り掛かった。
それに倣うように各々がヒールをしたり飛び散った破片を拾い始める。
「こういう事件が起きるといつも思うですけど、使われなくなっちゃうのはなんだかかわいそうなのです」
リリウムが犬耳を垂れさせて小さく呟いた。
「そうだな」
焔が除雪機にヒールをかけて直しているのを見守っていた伶が頷く。
「お? 直ったか? 元の持ち主に連絡取れねぇかなぁ……」
「あ、祠崎さんなら調べられるんじゃないかな!」
伶が呟くと、フィアが提案した。
「雪は今日で見納めね」
ヒールや片付けがひと段落すると、アミルが穏やかに微笑む。
「うん! 悪い冬はやっつけたし、気持ちのいい春が来るといいねー」
フィアが満面の笑みで頷いた。
「なんだかお花見したくなっちゃった。ふふ、村を散策してもいいかしら」
「それは素敵なのです!」
穏やかに微笑むアミルの言葉にヒマラヤンが瞳を輝かせる。
「わたしもお花見したいです!」
「いいですね」
リリウムが元気に手を挙げてぴょんぴょん跳ねると、ユウマも控えめに微笑んだ。
「お、いいねぇ。絶好の散策日和だ」
伶が笑顔でぐーっと伸びをする。
「くぁ、ではお散歩するのオチね~」
口端からにぼしを見せるヒナタが小躍りしながら先頭を歩き出した。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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