ベットオン・リブ・オア・ダイ

作者:鹿崎シーカー

 夜闇を火花が切り裂いた。後ろに滑った卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が振るう巨大なジャンクアームを回転跳躍回避した影はコマめいて回りながら飛びかかる! とっさに掲げた錆だらけのガラクタ巨腕から金属音。右手五指に白い棒を挟んだ泰孝はバク転で下がっていく人影に、それを投げナイフめいて投げた。着地した影は腕を振り回して棒を全て打ち払う。苦笑いで嘆息する泰孝。
「勘弁しろよ、ったく……さっきので運、使い切ったか?」
 暗く入り組んだ裏通り。わずかに差し込む月の光が襲撃者の姿を映す。中肉中背の青年型ダモクレス。歩く姿やシルエットは人と変わらず、球体関節になった両腕の二の腕には赤錆びたブレードが着けられ、腕先に沿って伸びている。ズボン左足の一部、破けた穴から人工筋肉がのぞく。腰を落とし、握り固めたジャンクアームを前に出しつつ、泰孝はダモクレスに呼びかけた。
「悪いが、男に夜這いかけられる趣味はねえ。帰っちゃくれねえか」
 歩み寄ってくる機械は無言。両目が濁った赤い光を放ち、緩く広げた両手の刃が光る。笑顔をやや引きつらせた泰孝が猫背めいた姿勢でつぶやく。
「やるってか。……しょうがねえ」
 右手でズボンのポケットから硬貨を取り出し、親指で弾いた。視界端でくるくる回りながら飛ぶ銀貨を横目に、力を込めた両脚で地面を凹ます。
「寝る前の運動と洒落込むか。いっちょ、付き合ってもらうとするかね!」
 直後、両者は同時に地を蹴り互いに真っ向から突っ込んだ。


「定命化を確認するための……試験機?」
 難しい顔で資料をめくり、跳鹿・穫は首を傾げた。
 今回、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)がデウスエクスの襲撃を受ける事件が予知された。正体は不明なれど、どうやら彼と因縁を持つ青年型のダモクレスらしい。
 知っての通り、基本的なデウスエクスはケルベロス八人が束になってようやく渡り合えるほどの存在。孤立した状態で攻撃されればただでは済まず、しかも泰孝は深夜、人気のない裏路地で襲われている。さらに間の悪いことに、彼との音信は不通。皆には急いで現場へ向かい泰孝に加勢、及びダモクレスの撃破を依頼したい。
 今回出現したダモクレスに、特殊な武装・能力はない。しかし、両腕に装着したブレードを始め、全身に組み込まれた戦闘機構を駆使した近・中距離での戦いを得意としている。基本レプリカントができることは大方出来ると思って良いだろう。加えて、戦闘スタイルは先頭続行さえ可能であれば、多少のダメージをいとわない捨て身の戦法。ただのダモクレスと侮ると足元をすくわれるかもしれない。
 戦場は先述した通り人気のない商店街外れの路地で、辺りは背の低い建物が密集している。街灯は無く、深夜であるため非常に暗いため注意が必要だ。
「今から向かえば、本格的に戦う前に割り込めるかも。急いで助けに行ってあげて!」


参加者
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
荒井・龍司(伏竜遁甲・e19697)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
アイム・ペルフェ(偽りの桃色羊・e27519)
橘・榧(恋獄・e32358)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)

■リプレイ

 卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)のジャンクアームにスパイクまみれのサイドキックがヒット。後ろに吹っ飛んだ泰孝はたたらを踏みつつも着地し、左腕に目をやった。
「おいおい……勘弁してくれよ」
 廃材で組まれた左腕、その親指以外の四指は千切れかけ。腕部の鉄骨と鉄パイプの一部はへこみ、蜂の巣じみて穴だらけ。軽く握ると小指部分がボロリと落ちた。埋め込んだLEDライトの無事を確認した泰孝は笑顔を少し引きつらせながら、やや離れた位置に落ちたコインを見やる。
「ハハッ、大ピンチってやつかね、コイツはコインも裏目……」
 つぶやく彼の前で試験機がスタートを切った。低姿勢スプリントで肉迫するダモクレスを上からのライトが照らし出し、同時にガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)が試験機の目前に着地! 突っ込んでくる敵へ拳を繰り出した!
「せええええいッ!」
 パンチを紙一重で回避した試験機が彼女の鳩尾に左膝蹴りを叩き込む! 苦悶の声を零して吹き飛ぶガートルード。左膝に血濡れのニードルを生やした機体に虹色の光をまとった天音・迅(無銘の拳士・e11143)がダッシュパンチ! クロスガードしたダモクレスを押し止め、迅は泰孝に挑戦的な笑顔を向ける。
「よう、厄介な状況みてえだな? 助太刀するぜ。……みんなでな!」
 その瞬間、半透明のドラゴンヘッドが空中から降り注ぎダモクレス体内に突入! 拳を押し込んだ反動で下がる迅の前で試験機の全身が陽炎じみた光を噴いた。泰孝が振り返った先、ヘッドライトの光を調節しながら荒井・龍司(伏竜遁甲・e19697)はにこやかにのたまう。
「奇遇ですね卜部さん。どうしました? 財布の中身全部スったような顔ですよ?」
 同時、戦場全体に広がるピンク色の魔法陣。龍司の近くに現れたアイム・ペルフェ(偽りの桃色羊・e27519)は右腕を胸の下に、左手指を口元に据え、物欲しそうな表情で小首を傾げた。服装は胸元や肩も露わなツナギだ。
「いけませんね。不景気なお顔はあまり美味しそうではありません。いつもの、賭け事に挑むお顔を見せてください?」
「ヘッ。最近どうも負け続きでね……」
 泰孝は修復されたジャンクアームを握って開き、目前の地面に振り下ろす。衝撃とともに浮き上がるコイン。くるくると回る両表のそれをキャッチし足元に叩きつけた瞬間銀色の閃光が膨れ上がった! 響く金属同士が軋む音。銀光が爆散したそこには錆びた機械仕掛けの地竜! ノイズ混じりの咆哮を聞きながら、泰孝は凶悪な笑顔を作る。
「なんて言うと思ったか! チップのやり取りなんてのァ、サマ使ってでも勝ちゃあいいのさ! ……グッ!?」
 わずかにのけ反り、泰孝は首に巻いた赤い鎖に手を触れた。やや後ろに傾く彼の背後、鎖を握った橘・榧(恋獄・e32358)の顔をネックライトの光が下から照らす。
「参考になるわね、旦那様。それで、今日はいくらスッたのかしら?」
「……っておい。なんでストーカーまでいやがんだ」
 顔を強張らせる泰孝に迅はニヤニヤと笑い、アイムは楽しそうに微笑。
「イイヒトなんだろ?」
「良い人なんでしょう?」
「よかねえよ……」
 しかめ面の泰孝を余所に、身を沈めたダモクレスが再度地を蹴る! 急加速して接近してくる試験機に向き直った迅は双翼を勢いよく広げて白い羽を宙に散らした。空中で赤い氷に変わる羽吹雪の中、迅は片手を持ち上げる。
「ま、話は後でな。今はアレの始末が先だ」
「そうですね。ま、わざわざ相手の土俵に乗ってやる義理もないので……引き撃ちに徹させて頂きましょうか!」
 迅が指を鳴らして赤氷の羽根が弾丸めいて飛翔させ、龍司はラメ加工符を連続投擲! 展開された弾幕を試験機は高速ジグザグスプリントでかわして距離を詰め、突如高く跳躍! 試験機のいた場所に銀のビームが降り注ぎ爆発するのを見た泰孝はジャンクアームを夜空に掲げLEDライトで宙のダモクレスを照らし出した。
「逃がしゃしねえよ! やれッ!」
 大口を開いた機械竜に銀のビームをぶっぱなされた機兵は胸部を花弁めいて展開し、ビームで迎撃! 騎兵の光線は機竜のブレスを貫きそのまま竜の頭部と胴体を貫通、機械竜を爆散せしめ路地が火の海に変える。地上の炎熱を見据えるその横っ面に銀河色のビームが直撃! 真横に吹き飛び居並ぶ家屋の上に着地した試験機めがけ、銀河じみた一角獣に乗った葛城・柊夜(天道を巡る鳶・e09334)が前脚ひづめを振り下ろさせる。バックステップでストンプを回避したダモクレスは柊夜を見下ろす位置にまで跳躍。炎の如く霧散した騎馬から降り立つ柊夜が足裏に大量のスパイクを生やす機兵を見上げた。
「格上相手に油断はしない」
 試験機の背が圧縮空気を噴出し高高度からストンピングを繰り出した。対する柊夜は足を肩幅に開いた柔術の構え!
「まずは同格まで引きずり降ろす!」
 直後に柊夜がかき消えダモクレスの両足が誰もいない床を踏み砕く。機械兵の背後に回った柊夜の右手が後頭部をわしづかみにし、足払いをかけて振り回す。コマじみた回転を加えて床と水平に投擲! 家屋列の上を吹き飛ぶ試験機の先、闇から踏み出した篁・メノウ(紫天の華・e00903)は下段に据えた刀を手に飛来するダモクレスへ走る!
「メノウさん!」
 叫ぶ柊夜の声をよそにダモクレスは錐揉み回転して地に足をつけ左腕をメノウに向けた。手首から肘まで切れ込みが入り前腕部が展開、取り出された小型ロケットがジェット噴射して飛翔する。飛んでくる弾頭をにらんだメノウは加速! 間合いに入ったそれを斬り上げさらに疾走、ロケットの爆発を背後に斬り上げたままの刀で試験機の脳天を断ちに行く。
「受けてみろ! 篁流剣術、『偃月』ッ!」
 上段斬りをダモクレスの腕についたブレードがクロスガードして弾く! 散る火花と金属音の中、にらみ合った二者は高速剣戟の応酬を開始。ラッシュで放たれる二枚の刃を刀一本で防ぎながらメノウは試験機の腹を蹴り上げた。くの字に折れる機械の体! しかしダモクレスは左右に開いた下顎から大口径銃身を露出させ発砲、メノウの鎖骨付近を破壊する。
「ちっ……!」
 険しい表情のメノウは刀を逆の手に持ち替え刃にスミレ色の光を収束させた。わずかに浮いた足を地につけ踏みしめる試験機へ横薙ぎ一閃!
「篁流剣術、『月華』!」
 紫光の剣閃が虚空を刻む。ブレードで受け止めたダモクレスは反動で後退、その足首に巻きついた赤い鎖が機兵をバンジーめいて夜空に跳ね上げた! 鎖が伸びる先、縦回転する榧が引っ張られた試験機に直行していく。
「お遊びには満足したかしら? そろそろスクラップになる頃合いよ、ガラクタ……!」
 零距離まで引き寄せられたダモクレスに榧の回転かかと落としが命中! 弾丸じみた勢いで叩き落とした試験機を榧は再度鎖を引いて引き戻す。黒い帯をぐるぐる巻きにした彼女の右手首から漆黒の剣が伸びた瞬間、ダモクレスは自分を縛る鎖をつかみ取った。掌底がコンセントプラグめいた突起を押し出し電気を放出! 青白い稲光が鎖を伝って榧まで走り感電せしめた!
「ぐあっ……!」
 榧がのけ反り鎖を引っ張る手が緩む。鎖を引っ張り逆に彼女を引き寄せる試験機の右膝から足の甲までに入った切れ込みからチェーンソーが迫り出し、空中回し蹴りと共に榧の脇腹に突き刺さった。機械の右足が駆動音を上げ脇腹の肉を抉り取る!
「くああああああああッ!」
 悲鳴を上げる榧を捉えたままダモクレスはさらに回転を加え彼女を路地に叩き落とした。砕けるアスファルト。鎖を腕のブレードで断ち切った試験機は左膝にニードルを生やしてダイビング膝蹴りを放つ。仰向けの榧の胸を狙う一撃は、割り込んだ泰孝のジャンクアームを貫通! ガラクタの腕を貫き鼻先に突きつけられたトゲをにらんだ泰孝は腕をぶん回し試験機を打ち払う。跳ね飛ばされながらも着地したダモクレスの両手十指が左右に開き十門の銃口が出現! 始まるマシンガンじみた掃射を掲げたジャンクアームでしのぎつつ、泰孝は毒づいた。
「ったく、馬鹿野郎が」
 廃材の腕を振るい鉛弾を弾き飛ばす。鉄パイプや廃ギアの破片をまき散らしながらジャンクアームの拳を固めてダモクレスに特攻! 壊れたLEDが零す電気を拳に集めて殴りかかる!
「テメェがやられちゃオレが無事でも意味ねえだろうが!」
 突撃してくる泰孝へ試験機は胸部を展開して指銃掃射に加えてビームも小刻みに連射! それらを掲げたジャンクアームで防御しながら接近し、雷光のパンチを繰り出した。
「そらよッ!」
 巨腕の拳が家屋の壁を破壊する。直後ハッとして足元を見下ろす泰孝の懐にダモクレスが潜り込み、指銃と胸部のビームを零距離発射! 黒シャツの胴が爆発し吹き飛ばされた泰孝に追撃しにいくダモクレスが腕のブレードを振り上げた直後、その刃をガートルードの大剣が砕き折った。試験機はガートルードに向き直り素早くバックしながら指銃射撃! 弾丸の雨を大剣の腹で防ぐ彼女のガントレットの手が膨張し金属片を散らして破裂した。むき出しになった翡翠色の液状腕が剣めいた爪を伸ばす!
「出し惜しみは無しです! お前の好きなようにはさせないッ!」
 振り回された爪が嵐めいた斬撃に無数の裂傷を刻まれながらもダモクレスは背より圧縮空気を噴いてガートルードに突撃! 爪をかわして無事なブレードを構えたその右目にバタフライナイフが突き刺さる! 次のナイフ開いた龍司は斬撃を浴びせかけた。
「待ってましたよ! 緩急つけてかないとね!」
 斬撃を腕で防ぎつつ下がったダモクレスは下顎を開き大口径銃で射撃! 追随する龍司の腹を撃ち抜きスパイクブーツでサイドキックを打ちこんだ。胴を穴だらけにされ吹き飛んだ彼の首根っこをつかんだ柊夜は後ろのアイムへ投げてライトの光を試験機の顔面に当てる。
「アイムさん! 治療を!」
「お任せください? うふふふふふ……」
 アイムの足元に光の旋風が渦巻き爆発的に膨らんだ。吹き荒ぶ風の中、ライトの光量を最大にした迅は弧を描くように疾走! 彼の背後遥か背後に跳んだビームが家屋の壁を爆砕するのを見ながら柊夜は頬に垂れた血をぬぐう。
「目の良さが命取りだ……此方を追う分、狙いが雑になる。一気に叩きましょう!」
「ああ。さて、どう避けるかね」
「りょーかい。篁流剣術……」
 立ち止まった迅がその場で掌底のラッシュを繰り出し、思い切り踏み込んだメノウが地を蹴り試験機に肉迫! ダモクレスは片腕を立てて迅が放つ衝撃波を防御しメノウに視線を向けて指銃を掃射。回避しながら走るメノウが三人に分身し内二体が鉛弾を食らって霧散する。試験機は衝撃波の嵐を浴びつつ右足のチェーンソーを出してメノウに膝蹴りを打った。
「『幻月』!」
 刀の斜め斬りと膝蹴りが交錯し、互いに命中! ダモクレスの肩に刃が食い込み、メノウの胸をチェーンソーが滅茶苦茶に抉る。ガートルードが試験機に横合いからタックルを食らわせ跳ね飛ばした。たたらを踏んだダモクレスは視界に滑り込み光を浴びせつつ手を伸ばす柊夜とビームを撃ち合う。銀河色の光と胸部の熱線がすれ違い柊夜の胴と試験機の腰をそれぞれえぐり取った。柊夜がふらつくと共にライトが機械の赤い瞳から逸れた瞬間、機兵は下顎の銃で柊夜と迅のヘッドライトを狙撃破壊、そして銃口を露出した十指を掲げる。マシンアイがまたたいた直後、その額・脇腹、両膝に白棒が突き立ち、機体が前に引っ張られて飛んだ。右手に漆黒の刃を光らせた榧は紅い瞳に憤怒を燃やし、首と試験機の首と繋がった鎖を握る!
「よくも私の旦那様を……いい加減目障りよ。消えなさい!」
 榧とダモクレスがすれ違い虚空に黒い軌跡が描かれた。試験機の四肢と下顎が外れ、胸にX字の深い切り傷。すぐさま前後反転し、地面に転がるダモクレスの頭部を踏み抜いた榧を遠目に、投げナイフめいて構えた白棒を下ろし泰孝は重い溜め息を吐いた。
「やっぱ……何もよくねえな、あのストーカー。調子狂うぜ、全く……」



「はー……雀荘じゃ勝てねえ上にズタボロかよ。ひっでえ夜だ」
「ま、助かったしいいんじゃねえの? っつーか、負けてたのか」
 アイムの霧が立ち込める路地で、ぼやく泰孝に迅が笑いながら声をかける。泰孝が苦笑しつつ口を開きかけたその時、彼の腹に何かがぶつかった。見下ろすとそこには顔を真っ赤にした榧。黒シャツの腹にくっついた彼女はやがて両手を振り回しポカポカと殴り始めた。
「ずるい! ずるいずるいずるい! 普段ヒモの癖に! ピンチの時だけ格好つけて! 何よオレが無事でも意味ないって!」
「あーうるせえな」
 榧の額を押しのけながら、泰孝は呆れめいて苦笑する。無理矢理離された榧はしばらく不服そうに膨らませていた頬を引っ込め、息を吐いて改めて向き直る。
「さてと……お帰りなさい、旦那様。私の大切で……大好きな……唯一人旦那様……」
「ああ? ……ああ」
 泰孝が頬をかきつつ、気まずそうに明後日の方を向いた瞬間、榧は目を肉食獣めいて光らせた。すぐさま泰孝の首に赤鎖を巻いて引き倒しマウントポジション。血の気を失い表情を強張らせる泰孝に榧は満面の笑みを浮かべて宣告!
「はい捕まえました! 絶対逃がしませんからねっ!」
「ちょ、おまッ! 折角いい話で終わるトコだってのにお前ッ、空気読めッ! おいお前ら、見てないでこれなんとか……!」
 泰孝が視線を送った先、目が合った迅が速攻で視線を逸らして翼を広げる。ばさりと一度羽ばたくと、二人の方を見ずに言い放った。
「んじゃあ、オレはそろそろ行くぜ。みんなお疲れさん!」
 飛翔。羽根を散らして消えた迅を引きつった笑顔で見送った泰孝が視線をずらすと、柊夜と龍司がはだけようとするアイムを前後で押し止めている。ずり落ちかけたツナギを無理矢理引き上げつつ、柊夜が微苦笑。
「すみません、アイムさん止めるので精一杯で。……耐えてください」
「ここは夫婦水入らずという事で。馬に蹴られてもヤですしね! ほ、ほら! 漲ってないで行きましょうアイムさん! あー榧さんの愛は熱烈ダナー! 卜部さんも大変ダナー!」
「あぁっ待ってください……あの二人のやりとりすごくイイです! もっとこぼれる程……欲しいです……!」
 はだけた胸元を見ないようにしながら二人はアイムを引きずっていく。残されたガートルードとメノウは顔を見合わせ、やがて泰孝に向き直った。
「……まあ、頑張って」
「わ、私もこれで……失礼しますっ!」
 それだけ言って、二人は足早に去っていく。その背に泰孝は真っ青な顔でアームを伸ばして叫んだ。
「おい待てふざけんな! 置いてくなよ! おい! ちょっと待て、マジで、誰か、助けッ……ぐわぁぁぁぁぁあああッ!」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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